光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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223話「忍の支配者とは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当はあんまりボロけた工場で話すのも好きじゃなくてね…俺の庭である裏カジノの方がしっくり来るんだが、それだとかなり遠出になっちまう…」

 

 カツン、カツン…と足音を立てながら、真っ暗闇な廃工場に佐門は明かりを点け、視界が一気に色鮮やかに映り出す。

 使われてない工場には血痕やチェーンソーに使い古された椅子、物騒な品が殺伐と雑に放り出されている。

 

「鉄の匂いがするけれど…此処事故物件?」

 

「そう…大分使い古されてるからな。今じゃヤクザや裏社会の人間が拷問用にって事で使ってる。

 全盛期、オールマイトが居座りヒーローとしての職が輝いてから、裏社会の人間…所謂極道という天然記念物達が解体され始めてから此処を使ってた人間もいなくなっちまったが…道楽が見つけてくれたんだ。それに廃工というのもあってか、幽霊が出るなんて噂が流れてるのも良い効果だ…お陰で警察やヒーローを近寄らせない魔除け程度になってるのが救いもんだ」

 

 幽霊やら事故物件やら、怪奇現象があると知れば大体は手を上げてしまう。殺害事件などによるものならまだしも、解明できない未知なる幽霊やらと相手にするほどこの国は暇じゃないし、どの世代でもまともに取り合うものも居ないだろう。実際にデマではあるが、人を寄せ付けない嘘としては良い効果を発揮してくれるのは、闇に潜む人間からして都合が良いものだろう。

 

「そう…で?何処からどこまで話してくれるのかしら佐門ちゃんは。かぐらに奈楽ちゃんの件と言い、支配者の話と言い……私の前であんだけ大口叩いたんだから、まさか大それた計画はありませんでした、なんて事言わないでしょうねぇ?」

 

 本題に移ろうと吹っかける漆月は、腕を組みながら呆れたような表情で佐門に言葉を投げつける。

 挑発地味た台詞ながらも、無表情に…いや、冷え切った顔立ちで佐門は一つ呼吸をして口を開いた。

 

「…忍の象徴、陽花という女を知ってるか?」

 

 然し唐突にも、佐門の口から放たれたのは、血の繋がった彼女の実の姉。カグラの頂点として君臨した最強のカグラが名を挙げられた。

 

「嘗てこの国に存在し、たった一人でこの国を守り抜いたという。いや…守り抜いたのかはさておき、まだオールマイトが平和の象徴として名を馳せられてない時の話だ…。

 公には明かされてなかったが、ウチの第五支部長である僧絽門が陽花の手によってタナトスに収監された…裏じゃ割と有名だ。今の世代、知らない奴の殆どがガキくらいだろう、カグラになった奴は全員名を知ってる、亡き忍の英雄さ」

 

 今話してる相手が、その妹だという自覚も知識も本当に更々無いのだろう、喋り立てる佐門に漆月は無表情で其れを聞いている。

 

「そう、昔はな?この世界にも忍としての頂点…いや、支配者がいたんだよ。ある意味、陽花は支配者みたいなものだ。

 無敵、最強、唯一無二…そう言わざるを得ないほどに数々の逸話を残し、後々と語り継がれるアイツは、いつしか抜忍の殆どが恐れ戦き、中にはアイツと遭遇しただけで自首をするなんて奴もいたらしい。

 

 地獄だったよ、次々と組織や闇の住人が、太陽の光によって消滅されるその光景、死へと近付くカウントダウン……生まれた時から化け物なんて異名を持つアイツに、一体全体どう勝つのだろうと」

 

 支配者、なんて言われても可笑しくないだろう。

 別に陽花は他人を拘束したり、尊厳や自由を脅かしたい訳ではない。皆んなに認められ、支えられ、信頼し、縋れる存在が彼女だった。だがそれは見方によって支配者と呼ばれても可笑しくないだろう。

 世を脅かす数々の悪を監獄へと送り出し、人々からより信頼を受け、そして彼女の意思を尊重、或いは受け継ごうとし彼女のためにも戦おうとする姿は、何処かオール・フォー・ワンに似ている。

 弱者に慈悲を、強者には容赦を――そして、善も悪も彼女の強さを認めた。

 次第に彼女の後ろを追い、認め始め、敬い、尊敬な眼差しを向けられる……彼女の戦績と実力、忍の象徴に恥じぬ風格は、誰もが認める世界No.1の忍だ。彼女のお陰で抜忍による犯罪件数が減ったのは間違いないし、オールマイトの代わりとして本当に申し分なかった。

 中には日本に潜伏してたオール・フォー・ワンの手先まで相手にするほどに。

 

 太陽の如き戦に舞う姫君は、潤しく華やかに美しく、邪を寄せ付けない彼女は、輝かしい英雄そのものであった。

 

「だがそんな奴もこの世にはもういない…そして、神野区で姿を現しては裏を支配し、暗躍し続けた悪の象徴オール・フォー・ワン。俺の爺さんがよく話してた伝説の支配者…当時ガキの頃だった俺にはよくわからなかったし、単なる脅し話しに過ぎなかった…

 だが現実は小説より奇なり――実在してたんだよ。そりゃそうだ、アイツがいたから俺たちの組織はショボかったんだ。アイツに全部、支配者としての席を取られたままだったんだ」

 

「で?先生がタルタロスに送られた今、オールマイトが平和の象徴として死んで、陽花もいない今…表も裏も支配者がいないって話?まさか、アンタがオーバーホールちゃんと同じような思惑をしてるだなんてねぇ?」

 

 早い話、支配者という席が空白の中、一体誰が支配者になるのか。所謂覇権争いの事だろう。勿論、忍としての支配者になるのなら、陽花と同等かそれ以上の功績や戦績、そしてカリスマ性が必要になってくるだろう。

 別に珍しい話でもない。

 裏ではこういう支配者による争いは後を絶えない上に、その中でもオール・フォー・ワンを始めた伝説の忍や支配者たちを知る者にとって、敵連合は邪魔でしかない。

 

「察しが良いな…話す手間が省けて助かったよ。だが、今の世の中、No.1として座を与えられたエンデヴァーを始め、忍とヒーローが手を組み着々と社会の秩序を保ち守ろうと抗っている。

 その点、支配者になるには裏も表も全てを超越しなければならない。

 分かるか?忍側とかヒーロー側とか、そんな分け隔てる壁さえも、もう悠長には言ってられないんだよ。今まで通りの支配者じゃダメだ、上に立つにはそれを超える程の偉業を成し遂げなければ、支配者にはなれないんだ」

 

 世に蔓延り、個性の名の下に犯罪に手を染める敵

 忍社会に不適合で、切り捨てられた忍

 

 どちら側も、支配者として君臨しなければならない。

 陽花とオールマイト、オール・フォー・ワンと言ったような状況じゃダメなのだ。

 支配者は、常に一人でなければならない。

 

「…アンタの精神論は分かったわ。大方正論ね…陽花もオール・フォー・ワンも超える程の支配者でなければいけないって訳ね。あの二人が出来なかったことを、自分がやろうと…私と同じ考えをしてたの超意外。

 

 私もね、実を言えば先生なんて踏み台でしかないのよ」

 

 其れはつまり、自分を育ててくれたオール・フォー・ワンも、自分が支配者になるための単なる踏み台としか思ってないということ。

 だって、そうだろう?

 結局先生はオールマイトに敗北し、更には自分に後継を選んだ…そして、自分は如何なる者も踏み台にし、高らかな支配者として見下ろす人間であることを先生なら分かってる筈。

 それに…そうでもしなきゃ支配者にも絶望の象徴にもなれやしない。

 

「オールマイトだろうと、オール・フォー・ワンだろうと、陽花だろうと、其々の偉人も歴史の人物に過ぎない…

 まっ、人間の価値や歴史なんて死んで初めて残るものだからねぇ。

 支配者には縋れる人間が必要で、行き場のない人間を寄せ付け自分を支持する者がいてこそ、初めて覇者としての価値が見出せるもの」

 

「ああ、それに今の世の中…奴らが手を組むのも俺にとっては好都合だ。圧倒的な存在に押し潰される側は死を待つのみ…

 支配者となるには、その決定打を決めるに忍とヒーローの殲滅…二つの秩序を同時に破壊できるんだ。そう、今が絶好のチャンスなんだ…忍だのヒーローだのと綺麗事のように平然と語れる世の中だ。そういう意味では、手を組ませ同時にヒーローと忍社会を壊すキッカケを作ってくれたオール・フォー・ワンを始め、敵連合には大きく感謝してる。

 成る程、偶に見る連合に憧れる抜忍がいるのも理解できるよ」

 

 敵連合は退ける度に戦力を増やし、社会に打撃を与えているのは言うまでもなく、彼らの存在が大きいものだろう。

 USJ襲撃から彼らの存在が示され、蛇女襲撃により忍に対する宣戦布告、ヒーロー殺し、又の名を忍殺しステインによるシンパシー、そして林間合宿による雄英と忍学生による信頼の打破、そして神野区でのオール・フォー・ワンの実在とオールマイト引退…現在では死穢八斎會の掌突絡みに、漆月による忍商会との冷戦…次はどのような結果が生じるか。

 

「御託はいいわ、どうせ感謝なんてしてないでしょうに。アンタからは憎悪と恨み、敵意の匂いがプンプンするのよね。

 

 そんで?現在混乱としてる時期、支配者になるには丁度良い頃合いを見計らってその波に乗るって意図は分かったけど……何を根拠にしてその自信があるのかしらねぇ?支配者になるだなんて、馬鹿のひとつ覚えみたいに…」

 

「その鍵が神楽にあるんだ」

 

「神楽が…?へぇ、なんで?」

 

 此処から神楽の名が出る事に、多少なりとも興味が湧いた。

 神楽とは、妖魔を滅せし日ノ神であり、謎も未知な部分も計り知れない程に大きな存在。

 社会とは無縁な神楽が鍵となるのは一体…

 

「神楽とは、妖魔を滅する事を主に活動し、一定の成長を遂げ覚醒の後に、奴は大規模な妖魔と道連れに転生の玉の形を迎える。

 奴が千年以上昔から存在し、度々神楽としての記録が残るのも、奴が自滅してでも不滅なのはその証拠…

 

 そう、妖魔の天敵にして嘗て憑黄泉神威と大きな戦争を繰り広げた日の神だ。

 それで、だ――俺が目に付けたのはアイツの…転生の玉の事だ」

 

「転生の玉…?それって確か奈楽ちゃんを始めた護神の民が祭り上げてて、誰かが側に居なきゃ本来の実力を出せないって代物よね?まだ未開な情報が多数あるって話で、あんまり注目されてないけど…」

 

「護神の民が守り続けてるのは、神楽の復活の為だけじゃない…尤も奴らが警戒しなければならないのは、神楽がその状態になってる時の事なんだ。

 アイツは殺されてしまっても、転生の玉に戻るだけだからな。そんな奴を滅することが出来るのが、その転生の玉にあるんだ」

 

 転生の玉となった状態は、人間でいう謂わば胎児の状態…当然、何も分かるはずもなく、況してや手や足が動かせない。

 だからこそ、護神の民は手足が動かない神楽を守護するためにも、全てにおいて守り抜かなければならないのだ。

 そうして選ばれるのが、神楽の側近として転生の玉を守る護衛役…それが奈楽の番になったというわけだ。

 

 

 

「転生の玉を利用すれば、神楽と同等の力を手にすることが出来る――忍社会やヒーロー社会を大きく覆し、秩序をも破壊できる程の力を手にする事が出来るんだ」

 

 

 ゆっくりと、佐門は掌を広げながら、全てを支配するようにギュッと掌を握りしめる。

 

「転生の玉には、莫大なる力が存在する。人間がそれを利用すれば、無個性の人間から弱個性の人間でさえも簡単に全国を支配する権利を与えられる程に、驚異的な代物だ。

 そして俺はティオ・ディアボリクスが遺した数少ない貴重な研究材料の資料からその情報を知った――つまり、俺にしかその情報は知らない」

 

 遠回しに言えば、転生の玉を利用する方法や過程は佐門にしか分からず、そしてその方法も今動き出した佐門なら知ってるのだろう。

 その準備は整えてあり、今が絶好なるチャンスだからこそ、多少な危険も顧みないのだろう。

 また、漆月に打ち解けるのは、流しても問題がないという絶対なる自信があるからだ。

 

「……随分とご丁寧に教えてくれるようだけど、もうちょっと具体的に教えてくれるかしら?一体全体、どうやって神楽ちゃんの転生の玉を利用して、支配者になるのか…その過程内を教えてよ」

 

「教えるかよ、それを知ったら本末転倒だろうが……馬鹿な誘い言葉に乗るか。

 因みにティオ・ディアボリクスの資料は無いぞ。俺の頭にしかインプットされてないし、その資料は燃やして捨てた」

 

「へぇー…アンタも勿体無いことするわね。今じゃティオ・ディアボリクスの文献や研究資料なんて闇市だと低価格じゃ2000万、場合によっては億は下らないのに…残念だわ…

 大好きだったのに…ティオ・ディアボリクスが遺した研究資料や情報を、私が徹底的に再現して再び世に混沌を期たしてあげようと考えたのに…♡」

 

 変態かお前は、なんてつい言葉が出てしまうほどにこの女は異常。控えめに言ってイカれ狂ってる。

 涎を垂らしながら悪事を妄想する彼女に、佐門は少しだけ引く。

 

「京都のお土産に文献くらいは持って帰ってあげようとしたのにねぇ…

 まあでも、確かに神楽の転生の玉は不明点が多い分、そこに着眼するのは中々やるじゃないの♪小物だと思ってたのに、ちょっと見直したわ♡」

 

「そうかよ……一方で、お前はどうなんだ?」

 

「ん?」

 

 今まで傍観者として感心していた漆月に、佐門は訴えるように質問を投げる。

 

「お前も見た感じ…オール・フォー・ワンの後継者として支配者になるべく華を咲かせようとしてるみたいだが…お前にはその計画はあるのか?

 お前達の情報は裏では色々流れてるし、魔門からの融通で顧客の情報は貰ってる…

 

 蛇女の襲撃を始め、世にお前が連合と繋がってると示唆されてから、お前達の組織は徹底的に稼働し始めた…

 忍殺しステインに、鎌倉、蒼志、龍姫、闇、黒佐波、どれも良い駒にしては黒佐波を落としてるみたいだが…そして以前の憑黄泉による蛇女の襲撃…事件性ばかりでは確かに国家テロに引けを取らない上に、ここまで忍と敵の結束力を見るに他を抜いてるのは一目瞭然…

 だが、結果としてお前は何がしたい?忍や敵の仲間を集め、戦力を増し、古代より伝わる憑黄泉という妖魔がいながらも、お前は何を企んでる?生半端な破壊がお前の目的じゃないのは俺でも分かる」

 

 結論からして、漆月が何を考え何を目的としてるのか、全く検討が付かない。

 予期せぬ出来事からアクシデントとして時間を発生させるのは上手いものの、それがどの様な悪影響が及ぼすにしても、支配者としての道のりは程遠い…。

 戦力拡大にしては理由としては弱いし、国が潰れる世のカグラは甘くはないし、トップヒーローだって上手く対抗できている。

 況してや憑黄泉という凶悪な妖魔を従えてるのであれば、利用方法は沢山あるハズだ。

 

「恐らく、今までは死柄木弔という子供大人がリーダーとして振る舞い指揮してたのだろう?

 まだ死柄木弔ならば、成長する悪意としても驚異な上に望みはある…で?お前はどうなんだ?

 お前自身が何かしら世を動かす事ができたか?

 お前一人で何か仲間の為や組織としても貢献することは出来たか?それが支配者としての道のりを歩めたか?

 

 お前という個の存在が、世に何を知らしめた?

 ただ悪戯に生半端でステインに忍の存在を唆し、仲間集めの役割でしか生かせなかったお前が今更何をやれる?

 

 

 お前に一体どのような価値があり、何を成せるんだ?」

 

 それは、明からさまな挑発に近い…いや、彼女自身の存在理由と価値を否定するような罵倒な質問。

 戦力拡大としての役目を担っても、現状として敵連合に入りたい輩は案外少ないものだ。

 タルタロスでオール・フォー・ワンが言ってた通り、混沌に乗じて自分が何かをやれると考え動く者、オールマイトという平和の象徴が無くなった事で、抑圧された敵による破壊衝動の活性化、更に抜忍と敵による結束力、仲間になりたい犯罪者がいたとしてもチンピラや下忍以下の雑魚程度――上手くいかないのが世の現状というものだ。

 

「…つまり、佐門ちゃんは私が支配者としての器が何処にもない上に、相応しくないってことかしらん?」

 

「理解してくれて助かる、まあそう言うことだ。

 ただ俺とてお前のような得体の知れない奴を放っておくのも、寝首を狩られる可能性だってある。

 厄介なだけで無視できない、支障に来す危険性がある以上、お前を野放しにしたくなくてな――今此処でお前を殺す」

 

 瞬間、袖の中からトランプのカードを掌元に移し、数枚地面に投げつける。

 地面にトランプを放てば、其々のカードから光が放ち、軈てカードから得体の知れない何かの影が蠢いていく。

 姿を現せば、鼠と狐の混合な獣顔に、体は白布に覆われており、白布からは楽団でよく見られる法螺吹きラッパを銃口として差しむける。

 

 

「死ね――」

 

 

 プーッ!!と甲高い音が鳴り響けば、目に見えない空弾が、漆月の腹部を狙う。

 然し彼女は動じる事もなく――

 

「前――」

 

 冷静で表情を一つ変えず、挑発を受けても怒りを露わにせず、何処と無く嘲笑とする顔を見せながら彼女がそう呟くと、何処からとも無く黒紫色の影が彼女の前に立ち塞がる。

 

「ッ!?」

 

 パァン!と肉体が弾け飛べば、腹部に穴が空き、青黒い体液と血肉を撒き散らすのは、何故か妖魔である憑黄泉だった。腹部に穴が開けられたのにも関わらず、絶命せず口から血液を嘔吐する憑黄泉の生命力は相も変わらず凄まじく、彼女を…漆月を守るべく肉壁となって佐門から身を守ったのだ。

 一体全体何処から現れ、何処に待機しており、いつから漆月の側に居たのだろうか?

 

 

「そして不意打ち狙いで私の頭をヘッドショットと…遠距離戦法による銃戦は銃中悪口ちゃんかしらん?」

 

 

 そして予知してたかのように、彼女が僅かに頭をずらすよう体の軸を中心に回れば、銃口の発砲音が鳴り響く。

 二、三発、火薬特有の硝煙な匂いが微かに臭うものの、彼女に当たる事なく見事に全弾外れてしまう。

 気配は消していた…にも関わらず、まるで先読みされたかのように、其処に撃たれるのが解っていたと言わんばかりに。

 

(アレが、憑黄泉…!!敵連合と何かしら関係性があると忍ニュースでは騒がれていたが…やはり此処にも…!!)

 

「おい、何外してんだ阿保――!!お前の腕はスナイプと同等なのだろう!?」

 

 内心焦りつつ虚空に怒号を飛ばす佐門に、闇深い天井の上から降りてくる銃中は、申し訳なさそうにしながら黒帽子のハットを抑え銃を彼女に向けたまま警戒態勢を解かないでいる。

 スナイプ――雄英高校の三男教師にして、スナイパー系統による銃撃戦で引けを取らないと言われている。

 

「申し訳ありませんマスター…!!気配は完全に絶っていたのですが…」

 

「当てられなきゃ無意味だろうが……と、言いたいが、撃つ前から分かっていた素振りを見るに………コイツ…」

 

 どうやら一人で蛇女を潰したと言うのは嘘偽りないようだ。

 …いや、正確には敵連合の支給物体、オール・フォー・ワンがパトロンとして支援してた脳無二体もいたお陰なのだろう。

 学生とは言えど、忍学校を単騎、少数人数で潰せるのは学炎祭を使わない限り早々いない。

 居たとしても亜門くらいだろう。

 

「あっはは♪分かってるって!佐門ちゃんが鼻っから私を信じてないのも、私と手を組まないのも、最初っから私を殺そうとしてたのも。

 悪口ちゃんの他に数名…両舌部露ちゃん、白水瞋恚ちゃんが此処にいるのも…♡」

 

 言い当てられた事に、僅かに冷や汗が流れ出る佐門は、内心舌打ちしながらもドラム缶から水がポタリポタリと流れては、見る見ると形を作るように小さい体が現れ、漸く姿を見せる白水瞋恚。

 壁が溶け始めると途端に、巨大な舌が押し寄せては壁を破壊し、瓦礫を舐めしゃぶり、舌で巻けば口に放り込む両舌部露。

 隠れても無駄だと察したのだろう、佐門の他にも三人の幹部が表に出る。

 

「おいぃぃぃいいぃぃ!!!気配は完全に絶ってたぞ!?!思っクソバレてんじゃねえかぁ!!?あぁん!?なんでもってこんな小娘如きによぉ!!!」

 

 目を大きく見開きながらキイィィィ!!と発狂する白水は、充血した目で眼圧を飛ばす。

 銃中だけでなく、白水に両舌まで彼女に知られてたのなると、何かしらの忍術によるものなのではないかと考え込んでしまう。

 

「ば、ばれたぁ…??お、おでたち、気配…かんぜーんに、けせ、け、けせりゅぅ〜…のに、ィ、どうちてぇ…??」

 

「麻薬取引売買成績トップ1の『下口陰呑』ちゃんに教えてあげましょうか?それが私の体質。

 私が幼い頃から今に至るまでに体験した過去の影響のお陰か、アンタ達のように気配が絶ってても、自然と気付いちゃうのよ。これが本能というのかしら」

 

「答えになってねえ…つまり、忍術によるどうこうの話じゃねえって事か…オマケにウチの面子も丸分かりと…情報は保護されてるし、全員とも名前を捨てた身なんだが」

 

「御名答!ふふ…何なら目を瞑ってでも、攻撃なんて避けられる今じゃ私に傷をつけることなんて、大人数でも一苦労するんじゃない?

 其処は私の情報収集力の賜物ってやつよ!」

 

 両舌部露――本名、下口陰呑は現代に置いて麻薬売買を始めた闇市場を締めており、忍商会の中では群を抜いている。それでも他国や嘗ての名を馳せた連中に比べれば中の上程度の存在なのだが…。

 それでも裏社会に生きる住人の素性を調べるというのは相当骨が折れるだろう。

 それを何の表情も口振りも変わる事なく、平然と言うのだから、彼女の実力は折紙付きで本物で間違いないはずだ。

 

「だったらこれはどうだ…?秘伝忍法――『式神召喚 二刃』」

 

 刹那――掌をコンクリートの地面に叩きつけ、発光すれば否や、巨大な龍を模倣した大蛇が二匹、何重にも生える鋭い針状の牙を並ばせ、眼球のない頭を猪突猛進の如く勢いを増して漆月へと狙いを定める。

 彼女は一呼吸した後、目を瞑り、トーン…と地面を軽く蹴れば宙に舞う。二匹の蛇龍は大きく口を開き地面に食らい付き、空ぶってしまう。

 本来ならば獲物を食い殺すほどの追尾性能があるのだが、タイミングが絶妙だったのか、運悪く地面に食らい付いたまま、地面を破壊し喰い殺し損ねたようだ。

 

「馬鹿め、飛んで火に入る夏の虫愚か…飛んで的になる秋の蝿…という訳か……狙いは良好…!

『マスターの前ででしゃばり過ぎたクズ以下のゴミ虫が、死んで詫びろ』」

 

 銃を口に当てながら、罵詈雑言の汚らわしい言葉を吐き捨てれば、銃の引き金を引くと、化け物のような銃弾が悲鳴と悪意を浴び、彼女を標準にして狙い定める。

 

「っ〜♪」

 

 目をカッと開けば、手を禍々しい鱗と装甲、獣や竜に似せた鋭利な鉤爪へと染め上げ、悪意ある生きた銃弾を爪に食い付かせ鷲掴んだまま、他の銃弾へと投げ飛ばし相殺させる。

 無様に消し炭にされた銃弾に続き、今度は両舌部露の巨大な長舌と、白水瞋恚の体から放たれた茨城な水を飛ばす。

 

「ウチの商売舐めんじゃねえぞおおぉぉぉ!!!!こんのクソ女がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 唸りを上げた粘つく酸性の強い長舌と、3500°も熱された超沸騰熱水に加えた鋭い斬れ味を持った水圧な茨城水、その二つの凶器な忍術が彼女の命を潰さんと言わんばかりに狙うも、それすら虚無と化すように

 

「アンタらさぁ……流石に三下過ぎるでしょ、セリフとか色々と…」

 

 空中で体の軸を捻り、上手く誘導した攻撃を避け、水圧も長舌も彼女に当たることなど決してない。

 擦り傷も、飛び散る水の一滴さえも肌に触れることなく、彼女は優雅に地面へと着地する。

 

 

「言っとくけど…先に手を出したのはアンタ達だからね――」

 

 

 そして指をパチン!と鳴らせば、彼女の背後にある壁は悉く破壊音と共に衝撃波が空気へと流れるように伝わり、土煙が巻き起こる。

 視界を邪魔する土煙さえも薙ぎ払い、彼女の増援に駆けつけたのは、五体の憑黄泉。

 一体目は鳥類特徴の赤い体毛に鴉の黒羽、背中に七支刀を滞納している憑黄泉。

 二体目は迷彩服にマシンガンを構え、ヘルメットを被ってる為素顔は不明の憑黄泉。

 三体目は鎧のように金属製でカバーされている、サイボーグ型の憑黄泉。右腕には重火器キャノン砲、左腕はメタルクローになっており、尻尾はチェーンソーとなっている。頭部はメタルコーティングされている。

 四体目は巨躯な身体に、拳と大砲が混合した重砲拳、獣と竜が混合した顔、煮えたぎる熱の脈が鼓動を打つ憑黄泉。

 五体目は大きな翼を広げ、脚部が大きく特化したワイバーン型の憑黄泉。

 どれもこれも一癖も二癖もある、異常な程の威圧感を放つ憑黄泉達ばかりだ。五体の憑黄泉は、彼女の護衛となる様に側に近寄り、佐門達に敵意の目を輝かせながら、迎撃体制に入っている。

 

「憑黄泉が五体も…!?蛇女の時に一匹出たという…」

 

「肉壁となったソイツも含めて六体……脳無の様に制限ストック付きという訳でもないのか?そうポンポン出せるものじゃあないだろうこの化け物共は…」

 

 然も、全員とも漆月に懐柔…順従していやがる。

 抑もの話、憑黄泉とは非常に危険であり、忍の天敵にして、本来なら人間や忍、妖魔にさえも懐かないとさえ言われており、況してや敵連合が憑黄泉を使役してるという事実さえ異常なのだ。

 洗脳や催眠は効かず、華眼を始めた瞳術さえも無効、ほぼ不可能なのにも関わらず、それを六体同時に彼女の言葉や意思一つで動き出すというのは、余りにも荒唐無稽と言わざるを得ない馬鹿げた現実話。

 だが然し、これが現実――目の前のリアルこそ絶望なのだ。

 

「あはっ…☆びっくらこいちゃった?そりゃそうよねぇ…古代より生きた月黄泉の遣い…大昔から恐れられた妖魔が実在しちゃってるもんねぇ…!!

 言っとくけど、この子達はアンタら幹部級じゃ大人数になってやっと一匹仕留めれるかどうかのレベルよん♪そんなモンスターが五体、流石に計算もできないバカだって絶望の一言で言っちゃえるほどに分かるわよね?」

 

 勝てない。

 殺せない。

 無理だ。

 

 頭の中で一瞬にして諦念の言葉が延々としか出てこない。

 そして負けると解る馬に金を賭ける博打が存在しない様に、佐門も流石に引き止めを感じ始めている。

 

「さぁて、どうする?言っとくけど憑黄泉を倒した所で私がいれば無意味だし、此処で大人しくアンタらが無様にケツ振って逃げるのなら、見逃してぇ…あ・げ・る♡

 ほら、どう?私は優しいでしょう?支配者気取りの可愛い子供な佐門ちゃんを、支配者にもなれない器も欠けらもないなんて小馬鹿にされた漆月ちゃんが敢えて見逃してあげてる、だなんてさ☆」

 

 それは要するに、お前らは眼中にも無くなったから、殺す意味も理由も何となく無いから、怖いなら帰っていいよという舐め腐った道理。

 だが…邪魔になる可能性と目的の支障になるばかりと、先に障害物を消そうと招いた思惑が、返って脅威を呼んでしまった。

 確かに、もう昔の漆月としての面影は何処にもなく、今じゃ顔立ちも風格も違う。

 たった一人、悠々と立ちながら決して未知なる敵に怯える様子もなく堂々とする彼女の気迫と余裕な振る舞いに、そんな彼女の危険に駆けつけ、彼女の為に戦い彼女の為に身を削り、漆月の言葉に服従する憑黄泉達の姿は、正に女王と兵士だ。

 成る程、支配者としての片鱗は、確かにあるようだ。

 

「これでもまだ産まれたばかりな下位級だけど…このボルケーノくんは中位級だから、佐門ちゃんと十悪業会のメンバー全員でも相当手が焼けるんじゃ無い?」

 

「ヴォロロロロ…ヴルル…」

 

 ぺたりと、まるで抱きつくように漆月はボルケーノと呼ばれる憑黄泉の腕に密着する。

 ボルケーノくんは口からフシューっと、蒸発して熱された煙を吐き出す。灼熱の様な霧が霧散しながらも、もう片方の重砲拳を彼女に傾けば、漆月は軽く足を蹴り、重砲拳の上に乗っかって座る。

 

「テんメェ…何者だぁ??憑黄泉といやぁ都市伝説でしか噂にされてねぇ危険な妖魔だろうが!!そんな化け物がどうやってテメェなんかに従ったっていうんだぁ!?あぁん!?」

 

「やめとけ瞋恚…今は部が悪過ぎる…此方もカードも戦力としての差も歴然……真っ向から挑んでも勝ち目はゼロに等しい…」

 

「ち、ちかも…てのひら、ばれてりゅ……おでたち、まだ…あいつのこと、しらなさちぎ…ぎちひひ、ひぎぃ…」

 

 憤慨する白水瞋恚に、手で制しながら佐門は撤退を考える。

 悔しいが、これが現実…そして彼女の言う通り、自分も含めて十悪業会の面子でも流石にこれは割に合わない。

 それに今の今まで、これだけ殺意と忍術を扱い殺しに掛かってるのにも関わらず、彼女は一切反撃はして来なかった。

 初期プロファイルによれば、彼女は体術はそこそこで、二刀を扱い意味不明な黒い霧を発生させたと聞いたが…誤情報を捕まされたのかと疑問に思う程に、以前の情報が役に立たなかった。

 オマケに彼女は本気を出してない、憑黄泉一匹ずつによる潜在能力と戦闘力も未知数、彼女まで戦闘に加われば勝ち目はゼロ、更に敵連合のメンバーが加入でもしたら?

 想像するだけで気が遠くなるほどに、現状勝機は間違いなくゼロだ。

 

 

「さて、ご挨拶はこれくらいにして…まだ私を監視してるのが二人だけど、アンタらじゃないみたい。ふふっ…♪

 嗚呼、そうそう…神楽の転生の玉を教えてくれて有難う♪そいやアンタも私のこと聞きたいことあったんだっけ?この子達のこと」

 

 ふと漆月は京都の夜の街で、佐門と再会した際に憑黄泉について色々聞きたいことがあると話してた記憶を思い出す。

 別に教えても良いけど、どちらかと言えば教えずに隠していると言うのも好きなのだが、それでは芸が無い…なので。

 

 

「あのね、憑黄泉を産んでるのは私なんだ――♪」

 

 

 だから、どうせならもっと驚く様な阿保面が見たくて、爆弾発言を言ってしまう。

 

「……は?」

 

 それは余りにも突拍子で、

 非現実的で、

 意味が分からなくて、

 

 脳が理解を追いつかず、いや寧ろ拒んでるのかと言わんばかりに、佐門だけでなくこの場の全員が目を丸くして黙り込む。

 

「ワイバーンくんは今日の朝に産まれたよ、クラッシュくんとDー76くんは黒柴が来て3日後かな…?ボルケーノくんは二週間前、八咫烏くんは4日前…うん!全員私の可愛い我が子達だ♡

 

 そんな可愛い子供達は、マザーの言うことを聞くのは当然の儀じゃね?」

 

「……嘘だろ?」

 

「あっはは!バカじゃ無い?事実よ!

 だってそうでしょ?じゃあさ、憑黄泉が現れたのはいつからよ?そして憑黄泉が敵連合との繋がりが示唆されたのは?

 確かに蛇女に起きた…けど、それを可能に出来るのは、時系列的に考えて、『神野区の後、記憶を取り戻した私が憑黄泉を産んで蛇女に襲撃を出した』って言えば、流石に説得力があるんじゃない?」

 

 そして、記憶を取り戻した彼女こそ――

 

 

 

「私は天咲魅影――陽花、天咲光芭の妹だよ」

 

 

 

 憑黄泉神威を宿す、最高最悪な、産まれた事そのものが罪だと投げられた、悲劇で絶望に彩られた少女なのだから。

 

「………お前、もしかして…上層部に狙われてた子供って…!!!」

 

「嘘月妄語…十悪業会のメンバーの筆頭だっけ?あの人が元善忍なのに、アンタら側についたのも、私情で私を殺せなかったからだっけ?

 何ともまぁ運命、因縁めいたものが渦巻いちゃってるわよね」

 

 嘗て、まだ忍商会として活躍する前のメンバーは、善忍悪忍としてそれぞれ社会に奉仕してただろう。

 勿論、天咲魅影を殺せという司令は、全国から既に受け始めていたのだ。だから…各々のメンバーや他それぞれの忍は、全員彼女を殺さなければならなかった、殺す様に命じられた、殺そうとしていた。

 

 死んだと思われていた最悪な少女、それが今生きており、目の前に現れている。

 本名も、憑黄泉も、召喚できるのは憑黄泉神威を宿す少女しか他ならない。

 全て辻褄が合うし、説得力もある――だからこそ、今目の前にいる彼女は、計画性も支配者としての器もない邪魔な生娘から、世界をも脅かす過去最悪な神魔の遣い手、絶望の象徴に成り代わったのだ。

 

「教えてくれって言ったから教えたのに、鳩が豆鉄砲食らった様な顔しちゃってさぁ、受けるなぁオイ!!

 何そんなにビビってんだよ!それでもチ○ポ付いてんのか!!あぁ!?ってすみません…またリビドーが……鬱だ…死のう…」

 

「…神魔を持つ者の、個性か…!!」

 

 そして漆月の多重人格…間違いない、コイツは本物だ。

 成りすましだとか、そういうチャチなもんじゃない…間違い無く、嘘偽りなく、漆月は天咲魅影だ。

 リビドーと呼ばれるのは、どう言った状況下も不明な時に、欲望が昂り、衝動が起きる、いわば性格的な個性のこと。

 然しこのリビドーと呼ばれる現象が発生するのは、神魔が宿してる証であることを指す。

 見抜き方は、その人柄の個性とは全く相容れない、無関係な個性が判明した場合により、神魔が宿っているのである。

 例えば、美怜の様に知的好奇心と研究意欲に熱心なのが彼女の性格なのに、お菓子が大好きという個性が出てるのは、リビドーの他ならないのだ。そしてそのリビドーは欲求を満たさねば情緒不安定となり、精神が苛まれ、内に眠る神魔を制御出来ず、暴走する危険性が高くなる。

 つまり、簡潔に言えばリビドーとは、神魔の個性の話だ。

 

「私は多重人格…そしてこの人格とは、喜怒哀楽の表情を性格に出したもの、そして其れ等は全て悪意から始まる!!

 私はね、人間の悪意を吸って、その悪意による感情を内に秘め、人格が顔に出ちゃうのよ。

 ちょっと話が変わるけど、臓器移植を受けた人間が夢を見たり、好みや人格が変わったりする都市伝説があるけれど、あれに似たもんよね」

 

 憑黄泉神威は多重人格であり、常に口調が不安定だ。

 喜びの悪意、怒りの悪意、哀しみの悪意、楽しい悪意、様々な感情を持った、沢山の人間の悪意から吸い取ったその影響が、人格に影響を及ぼし、結果として多種多様な喋り方になるのだ。

 

「そして、憑黄泉はそんな悪意が大好きだ…だから、この子達はそれを満たすために悪意を食い、人間を殺し、悲鳴を上げ、残酷な絶望を愛するんだ…

 

 はてさて、これで私もアンタもお互い秘蔵にしたいカードを出し切ったんだし、撤退するなら見送ってあげるよん♪

 それに私のことを言ったとしても誰一人として信用しないだろうしさ♡」

 

 悪意を爛々にした笑顔を見せる漆月に、益々苛立ちと嫌悪感が漂ってしまう。

 

「てめぇ……!!」

 

「ふふ、食い殺す様な瞳で睨むだなんて、相当怨まれちゃった…まっ、昔からそういう環境で育って生きてきたから、今更どう向けられようが構わないけどねぇ。

 

 私は高見の見物でもしてるわ、今アンタらを殺したら面白くないでしょ?

 だって、支配者となるなら、女王は、強者はいつだって、生かすも殺すも全て自由なんだもの♡」

 

 嘗て先生が言っていた。

 支配者となるのなら、生かすも殺すも掌の上で利用し転がせばいい…好きなように生かし、好きなように殺し、そうして自分好みに作り変えて行けばいい。

 

「戻るぞ……今の話が本当なら、もう邪魔だとか言ってられる状況じゃねえ…仕切り直しだ、何かこう…策を練らないと…」

 

「あっ、最後に一つ良い?

 

 

 佐門ちゃんって、思ったより全然大したことのない〝小物〟なのねぇ…雑魚キャラじゃん」

 

 ブチッ…!!

 ふと、何かが切れた音がした。

 黙っておいて、不本意とは言え大人しく尻尾を巻いて逃げたふりをして、計画を見直し立てていこうとしたばかりに、彼女のさり気無い煽りが、佐門の青筋を切れたてる。

 

「てめぇ……殺される覚悟は出来てるんだろうな??」

 

「殺せたら、今こんな風に尻尾巻いて逃げてるなんて発想ないわよね?」

 

 忍商会と敵連合は、たった今…今日を以ってして完全なる敵対関係となり、半蔵学院と焔紅蓮隊に引き続き、忍商会と敵連合の戦争の火蓋が静かに切り落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

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