光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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あり、めっちゃ久し振り過ぎて平和ボケしてました。
正直、投稿遅くなって本当に申し訳ない…モチベや仕事の忙しさもそうですが、趣味に時間を割いていたのでボチボチ執筆してたら結構かかりました。

4月18日より修正済。


225話「一旦、全部、絶望に、染めて」

 

 

 

 

 

 

 

 特急列車で京都から東京に着地した霧夜は、急かす想いを胸に留めながら、〇〇地区の〇〇〇会社と称した聳え立つ高層ビルへと速足で駆け走る。

 善忍東京本部の高層ビル…此処にはいつも苦い思いしかしてない為、常に何が起きるか、どの任務が下るのかはある程度腹を括らねばならないのが、胃に痛い。

 此処に訪れたのは以前、林間合宿襲撃後による雲雀が敵連合に拉致された後の責任者として出席した時以降だ。どうにかしてオールマイト引退に伝説の忍・半蔵の決死の行動によって起きた忍の存在による明るみ、更に一人でも実力の付いた忍を社会に派遣させる一心もあり、霧夜の処分は何とか免れたのだが、やはり正直言って良い思い出が一つ足りともないのは、致し方ないのかもしれない。

 

「国立半蔵学院忍学科、霧夜――ただ今戻りました」

 

 数十人もの上層部の人間が並ぶ中、広い居間の中心に正座で頭を下げる霧夜に、一同の上層部は口を開く。

 やはり高圧的な空気の中、ただ一人ポツリと取り残された自分の周りを囲む偉人達、いつでもこの状況には慣れないものだ。

 薄暗い部屋の中、幾本もの立てられた蝋燭の灯火が揺らぎ、上層部達を照らし出す。

 

「霧夜よ、態々呼び出してすまないな……京都での忍学生の学業に励んでいると言うのに」

 

「いえ、勿体無きお言葉…誠に有難うございます…」

 

 上層部の一人が口に出した労いの言葉に、感謝を述べる霧夜。

 実際、霧夜の事をどう思ってるかは知らないが、少なくとも心に思ってない言葉でも、言ってくれるだけ有難いと思えてしまう辺り、自分もまだ忍なのだと殊更意識させられる。

 

「呼び出したのは他でもない…知っての通り、京都ではかなり物騒な事件が起きている。

 突如として闇に潜んでた忍商会の明るみに、神楽と呼ばれる子供とそれを守護する奈楽…更には表沙汰にはされてないが、京都に妖魔が二体現れた。不測な事態に加え、世界各地で妖魔が現れてるのは知っておるな?」

 

 やはり、全てお見通し…か。

 そう心で吐露しながらも、上層部達に情報が伝わってることに、表面上では冷静さを装ってはいるが、驚いている。

 忍商会に関してはメディアでは何かしらの破壊行動を引き起こす敵か忍の何方か…など曖昧な結果を伝えてはいるが、裏では既に情報が取れてはいるし、邪淫乱闘も両舌部露も忍達から既にマークされている。

 但し、唯一霧夜がこの場で初めて耳にしたのは、妖魔が二体京都に現れたという事だ。

 

「はい…然し、妖魔が現れたとの報告は初耳でして…」

 

「ふむ…であればまだ被害が出ていないという事か……何方にせよ民間人に被害が出ず穏便に事を済ませれば重畳。

 忍として妖魔を見かければ見境なく処分して構わん。故に、京都では三度となく事件が相次いでる……霧夜よ、お主も始め、半蔵学院及び選抜補欠メンバー、計9人の忍に忍務を与える」

 

「なっ…!?」

 

 上層部の発言に、流石の霧夜も絶句する。

 今回の件、只でさえ忍商会の組織を止めることさえ上忍…外の世界で修羅場を潜り抜けた者達が向かうのが妥当。人員も割けており、忍の人材や人手不足なのは今のご時世仕方がない。

 オールマイトの脱退、半蔵の明るみにより、犯罪率が日々上昇してる今、忍の風評は勿論のこと、今まで以上に手厳しく忍務の日々が続いてるのも百の承知。

 然し、さりとて然しだ――敵連合との接触だけでなく、飛鳥達にまた危険な目に合わせろと言うのだろうか。

 抑も飛鳥は半蔵学院の選抜メンバー筆頭にして、同時に連合からも命を狙われてると聞く。

 仮免試験に合格したからと言って、大人の世界で対峙する敵を、態々相手にしろと言うのか。幾らなんでも無茶振りすぎる。例え忍だとしても学生の身……月閃や蛇女とは訳が違う。

 それだけに留まらず、今度は選抜補欠メンバーと来た。

 一年生の新顔達でありながらも、彼女達の実力は仮免試験に合格できる程の実力はあるものの、正直修羅場を潜り抜けたことさえない生徒達に、忍商会の相手が務まるとは考え難い。

 そして妖魔討伐による忍務…忍商会に加えて妖魔殲滅など、流石に今回ばかりは無茶な一線を超えている。

 其れを忍の社会に生きる上忍達ではなく、卒業もしてない忍学生相手にこれほど無茶な忍務を背負わせるのだろうか?

 

「刻一刻と猶予を争う事態なのだ……妖魔に関しては未だに詳細こそ不明であるが、何人かの忍が調査に当たってる。

 なに、お前達だけでなく他の忍達にも既に忍務は与えている…全員とも二つ返事で引き受けてくれたよ」

 

「然し…!幾らなんでもこればかりは…流石に無茶が過ぎるかと……それに、半蔵学院の忍学生の中には敵連合の接触、及び拉致された者もいます。穏便に済ますにしても…」

 

「分かっておる。

 それに情報によれば敵連合は現在、死穢八斎會との抗争後、姿を眩ませておると聞く。暫くは潜伏し、穏便に行動をしてるのではないかのぉ。現に、彼奴等もブレーンを無くした今、行動に制限がある。連合と商会の接触も現在見かけない…であれば、今こそ猛攻を叩き込み、制圧するのが一手。一網打尽じゃ」

 

 可笑しい…妙に引っかかる。

 一見、仰る事は分からなくもないのだが、それを機にした理由にはならない筈。

 何より本当に京都に上忍達が来るのだろうか?いや、時間が起きてから事は動き出すもの。ひょっとしたら今は京都には何十人ものの忍達が調査に回ってるのかもしれない。

 

「霧夜よ、これは命令じゃ。酷なのは百も承知…第一、忍が我々の命令で動くのは至極当然なり――それが例え半蔵を始め忍の存在が明るみになろうと、根本的な道理は変わる事なし。

 

 仮にだ…もし今回の件、手を抜けば大規模な被害が続出するだろう。どの道、生きる為にも忍務を受けなければなるまい」

 

「……つまり?」

 

「今回の件、妖魔や忍商会の件もそうだが…かぐらについて…可能な限り話をしよう。そうすれば、お主も納得するだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター…只今戻りました」

 

 忍商会との触発を後に、黒い靄を纏わせた彼女――黒紫粒子は冷血な静かな声で現状報告するかの様に現れた。

 現れた黒紫に低い唸り声を鳴らす憑黄泉のワイバーンを腕で制しながら、漆月は振り返りもせずに軽く相槌を打つ。

 

「どうだった?向こうの本拠地は何か知れた?」

 

「残念ながら特に…警備として幹部が二名配置しており商会のサポートアイテム、並びに忍商会全体の組織について…可能な限り最善は尽くしましたが…」

 

「あーあー…無敵の個性持ってるのに勿体なー…折角元軍人の上にポテンシャルもあッたから買ってあげたのにさァ…」

 

心底残念そうに聞こえるが、内心では割と分かり切っていた様で、特に期待をしていたとか、そういう訳ではないらしい。

精々何かしら得さえしていればラッキー程度、相手は腐っても今の世を生きてきた手慣れの強者達。自分ならまだしも、他の連合メンバーが相手では楽に勝てる保証はないだろう。

 

「…確かに、私は破壊や暗殺だけでなく、近接戦闘と隠密行動には非常に長けているのですが、その内の一人がサポートアイテムをかなり濫用しておりまして…苦渋な判断ですが、逃げの選択を選びました」

 

「あぁ、今ので納得した。アイツが居たのね、そりゃ分が悪いわ」

 

 漆月はどう言う訳か、裏社会に生きてる大体の忍や敵の素性を手に持っている。凡ゆる面に置いて隙が無く、予め情報を頭の中に入れてから相手を転がす戦略は、何処と無くオール・フォー・ワンに似ている…が、然し記憶が戻ってからの漆月にしてはヤケに知りすぎている気もする。

 

「そう言えばマスターは裏社会の人間の素性まで詳しいのですね。以前、私のことも前々から知っていたかの様な口振りでしたが…」

 

「自称2代目のあの娘に頼んだからね〜…普段、いえ。本当なら裏社会の人間の名前なんて明かされないけど、それさえも簡単にインターネットや情報収集力で集まれちゃうんだから、本当に今の世の中は便利だわ〜」

 

 成る程、つまり協力者がいたのか。そう心の中で納得する様相槌を打つ黒紫は、同時に2代目と名乗る人物に不思議な感覚を味わう。

 だとしても、一人一人の素性などは戸籍記録や出産、個性リスト等念入りに調べなければ解らないモノだと思うのだが。其れさえも可能にしてしまうとすれば、ハッカーか政府の人間なのか。

 まだまだ彼女の事に関しては解らない事だらけで、決して掌の内を見せようとはしない。それが例え敵であっても、仲間であっても。

今にして思えば、敵連合のメンバーと離れてから漆月は仲間に自分の気持ちや本音を言うことも少なくなってきた。其れが単に信頼してるからか、はたまた本当は仲間とさえ思わず駒なのか否か、彼女がどんな気持ちなのかさえも不明のままである。

 

「それに、面白い奴も商会に紛れ込んでたみたいだし…これは高みの見物よねェ…。

所で、ミストルティンはどう?」

 

「えぇ、手筈通りに動いています。然し宜しかったのでしょうか?折角妹に逢えたというのに、彼女にあんなことをさせて…」

 

「は?何?私のやってる事が愚策だって言うの?」

 

「いえ!そんなつもりは毛頭ないですよ……ただ、本当に上手くいくのかと…」

 

 ミストルティンに伝えた仕事の内容としては、ある種として敵連合に大きな貢献を担い、または同時に危険なリスクが付くモノだ。正直、うッかりして失敗する…と言うよりも、向こうの厳重なセキュリティを突破できるのかという疑問が湧き上がる。

 

「安心なさい。あの娘達はね、元々私を模して造られたようなモノ。クローンッて訳じゃないけど、脳無の原理と同じ仕組み。」

 

「脳無…えぇ、詳細は聞きました。私は療養中でしたが、USJ襲撃からして存在が認知された改人脳無。

元々異形系の敵という浅はかな認知でニュースに流れていたモノでしたが…今となっては」

 

「複数存在する謎の敵。敵連合の切り札と言われてるけど…ふふ、真なる切り札とは複数存在するモノ。この子達も充分な切り札とも言えるわ。それに、脳無はもっと前から存在してるわ。ただ先生と黒霧のお陰で隠されていただけ」

 

 脳無とは、個性を複数与えられた改人として名前が知れ渡ってはいるが、詳しい詳細は不明だ。況してや脳を露出させながらも心も意志もない化け物。そんな改人が処刑執行人達と一緒というのだから、もっと何か…隠された秘密があるのだろう。

 一方で漆月の言ってた切り札である憑黄泉は脳無と同じく複数存在しており、生態系含めて謎多く、故に複数の能力を所持してるという。

 

「然し漆月を模して造られた…という事実は俄に信じ難いモノですね。彼の方からは不快感しか湧き上がらなかッたですが…」

 

「元々忍を殺す為だけに改造された子達だもん。そして忍を徹底的に殺すためには妖魔をも凌駕する程の肉体を、少しの善意も寄せ付けない様な精神を、そうして彼女達はマスターピースになれた訳」

 

 超常黎明期。陽花を失くしてからの日本は深刻な程にオール・フォー・ワンの魔の手は染まり、より根深く支配を広げていった。

然し先生には忍の手駒が存在しなかった様に、全ての忍はオール・フォー・ワンの敵だった。

それもそう。何せ抜忍だろうと弱味を付け込もうと、大体の忍は人間を辞めている。弱味を握られても、圧倒的な実力を見せ付けようと、自身の配下に当たる敵を注ぎ込もうと、結局は消化不良戦。

単に駒としての戦力は減り、時間は潰え、自分の計画を狂わせるだけの厄介なモノ。例えるなら自爆装置を抱えた見返りを持たない人間が特攻してくる様なもの。

 

もし、そんな忍を専門に殺せる様な使い用のある道具があれば?忍を仲間に出来ないのであれば作るのはどうだろうか?

製造には脳無を通して知り合いのドクターがいる。

忍の死体やサンプルを提供し、より素晴らしい傀儡はできないだろうか?

そう言った発想と、ドクターの知的好奇心によって造られたのが、人ならざる、人の形をしたバケモノだという訳だ。

 

「そして私の中に眠る憑黄泉を鍵として、姉妹の様に造られたッてわけ」

 

 幼い頃に憑黄泉を召喚させる特訓を受けていた漆月は、無駄に産み出された憑黄泉をサンプルに研究が行われ、憑黄泉による四姉妹の人体実験を行われた。

…とは言っても、末妹の子はよく覚えてない。私の中では三姉妹しか居なくて、もう一人は存在しなかったと思うけど…。

ミストルティンから聞いた話だと、灯台という処刑少女なのだが、全く記憶にないのだ。

こればかりは記憶障害とか、オール・フォー・ワンの個性による『記憶操作』という『記憶食い』と『種』や『電流』を組み合わせた個性とは全くの別物。

本当の記憶がない、ということは…恐らく私はその頃は……

 

「……まあ、その話は追々と話すわ。話すにしても、憑黄泉の生態とか色々話さなきゃならなくなるし…。かなり面倒な事になる」

 

 憑黄泉の生態系はある程度把握してるとはいえ、それを無知な人間に話しても脳で全て一から十まで理解できるのかと言われれば難しいだろう。

更に憑黄泉という存在自体が禁忌にして、忍以外が知れ渡ってはならない情報だ。無闇矢鱈に公開するのは危険だ。

此れは善忍とか悪忍とかどうこうの話じゃ無い。命を狙われてるから問題ないと言う意味でもない。

いつ何処で誰が聞いてるか分からない以上、下手に口を滑らせてしまうのは愚策。

佐門に対してはあれだけ話はしたが、処刑執行人となれば少々話は別となる。余程の事がない限りは大丈夫だろうが、ドクターに対する情報への行き先にもなってしまうからだ。

 

「所でマスターは何を調べていたのですか?半蔵と焔紅蓮隊…でしょうか?私は面識が無いため、如何程の実力が備わってるかは不明ですが」

 

「あぁちょっとね、気になるニュースとか色々…。ああ、そうそう!それにさっき弔から連絡が来たわ。八斎會との交渉が済んだから、今一度集合して話がしたいッてさ。アンタはまだ合わせるのには実が熟してないから…その間別の仕事を頼もうかしらね」

 

漆月は端末の電源を入れて、連絡用のチャットを見返しながら答える。死柄木が死穢八斎會若頭、治崎との交渉を終え、皆の安全確認も兼ねて報告事項があるとの事。

大方、弔の考えなら一時的に此方の戦略を貸し出した後は、八斎會を利用して欺き、漁夫の利計画でも始めようとしてるのかなと予想がつく。

弔は誰の言いなりにもならない。

先生でさえも、今は離れて独り立ちしようとしてるこの頃に、誰かの傘下に成るなどはあり得ない。そんな弔がもし、交渉成立として八斎會に与するというのなら、何か裏がある。

裏があるからこそ、心の底から折れて身も心も献上するとは考えられない。ちょっと考えれば解ることだ。

 

「別の仕事…ですか?」

 

「そう。ちょッと厄介だけど…音声テープで届けるわ」

 

あの漆月が態々録音した音声テープで届けてまで語る程なのだから、何かしら重要な任務なのだろう。

事実、この任務が壊れゆく常識へと変貌し、漆月がより悪の象徴へと輝く前身に、飛鳥を徹底的に精神的に追い込ませ、独り立ちさせる羽目になるとは思わず、それは遠い様で近い様な未来。

 

「了解です。私はマスターに救われた身ですから、と言っても…あの場には荼毘とスピナーがいましたし、ある意味彼らも命の恩人でしょうか…?」

 

「そう思っても良いけど、特に荼毘は気にしないんじゃ無い?アイツ、どういう訳か女が嫌いらしいから」

 

 あの時、犯罪者隔離施設の病棟による廃墟と変わらない、生と死を彷徨う植物状態の自分を助けてくれた。

 その経緯や理由がどうであれ、救われた命…その為にも漆月に、新たな主人に尽くそうと誓った。

それに聞いた話によると自分のいた軍隊組織は壊滅したらしい。組織の仲間や手下は全員死刑…時たまにタルタロスに送られたとも聞く。それも残りの情報や犯罪による隠蔽された事件…多すぎる犯罪リストを洗う為に生かされた捕虜の様なモノだろう。

何方にしろ、連合以外に居場所が無くなった自分としては、生かされてる以上、まだ自分を必要としてくれてるのなら好都合だ。

それにしても荼毘が女嫌いというのは何気に初耳だ。人によッて特定の人種を嫌う者がいるのは分かるものの、ならば漆月と一緒に同行してたのは何故だろうか?

 

「命の恩人といえばもう一つ…あの時は言い忘れてたけど……アンタが意識不明で入院してた重罪犯が集う長期療養型刑務所病院――『邪空想病院』。とある大病院の院長が医療ミスでアンタを植物状態のまま犯罪者病棟隔離施設へと追い込ませたんだけど、アレね…間違いじゃないんだけどねェ…追記で言っちゃえば大分変わるのよ」

 

「…と、言いますと?」

 

「アンタを野放しにしたくない…プラスαに加えて、医療ミスによって資金が発生される事から、あの病院は正に棺として充分な役目を全うしていたわ」

 

医療ミスによって資金が発生される?と言う点に大きく困惑の芽が生まれる。まだ金を利用して失敗を消し世間に公表しないと言う点は大きく理解できる。

だが敢えて失敗した事により金が増えると言う点は大きく意味が分からなかった。例えるなら、まるで誰かが失敗を望み、それに大金を注ぐかのように…。

 

「だけど其れは必ずしも裏話があってェ…実は大病院の院長には協力者…強いて言うなら友人関係を結ぶ医者がいたのよ。其れも院長……で、その院長がアンタの医療ミスに大きく興味を持って、口封じとして敢えて金を握らせてたの。半分…黒柴粒子そのものが重要だったのかしらね。それも、身体が動かない仮死状態のアンタを」

 

「……何を、言ってるのですか?」

 

「早い話私たち連合のドクターが、アンタを狙ってたわけ。彼処の大病院も元々、ドクターが買い取ったものだし」

 

良からぬ新事実が、心臓に突き刺すように露わとなる。

連合のブレーンとして円滑に物事を進め、裏の支配者として名を馳せたオール・フォー・ワンの右腕にして、先生の治療と共に脳無の製造に携わる重要人物、ドクター。

未だに死柄木弔と漆月を始め、音信不通故に連絡手段もなく、全てが殆ど謎に包まれてる人物。

そのドクターが黒柴を狙っていた、という身近な事柄に表面上は上手く冷静さを保てているが、動揺は隠せない。

 

「何故…私を?」

 

「上手くは言えないけど、先生もドクターも脳無を作るのには丸太となる被検体が必要で、その為にも犯罪者の素体はうってつけなのよ。そして国際テロリストとして有名なアンタが不慮な事故で植物状態になってました…と、聞けば死体好きなドクターも喜んでアンタを欲しがるワケ。まっ、小さい頃に私はドクターから脳無を借りてテストをしてたこともあったから、その際に詳細を知ったんだけどね」

 

成る程…だから邪空想病院の居場所を漆月は知っていたのか、と内心納得するも、一歩間違えれば自分自身も利用されてるか、或いは先生の手によって改人に成り果ててたと考えると何とも難しい話だろうか。

 

「…マスターは、幼少期から先生やドクターとはお付き合いが長く?もし話しても良いのなら、マスターの幼少期の頃の話など是非ともお聞かせを…」

 

ドクターという人物に多少の嫌悪感が湧き上がるが、場合によっては考えさせられるものもある。

もしその脳無とやらのサンプルが、元々漆月の為にとあれば、理由はどうでアレ救われた身としては多少なりともマシな理由になる。…とはいえ、正当化にはならないし正直な所良い理由にはならないが。気持ち的な問題だ。

そんな黒柴に「私の幼少期ィ…?」と問われ小首を傾げながら、暫し沈黙が続いた後…。

 

「………私はね、幼い頃から疫病神だと罵られ、生きる事を許されず毎日迫害を受けてたわ」

 

 だからこそ、悍ましい過去を口から出すというのは、通常の人間であれば相当な覚悟と勇気が必要だろう。

 況してや、記憶になかった彼女からしてあの頃の自分は、反吐が出そうなほどに悍しく、抹消されたいものだったから。

 彼女の真剣な表情とこれまでにない口振りに、黒柴の視線は固まる。これは…仲間にさえ明かしたことのない情報だ。

 

「とある超有名な門家に生まれてね、最初の頃は良かったわ。そう…最初の…今となっては吐き気のする下らない日常……親代わりとなった姉が毎日私を守り育ててくれた」

 

 だけど、姉が死んでから独り身となった妹は、忽然と裏切るように、上層部の人間が雇った忍達が総出で刃を剥き出した。

 

「だけどね、そっからよ。『天竜衆とオール・フォー・ワン』がお姉ちゃんを殺してから、事態は一変。私の事を知ってる上層部は邪魔だと思ったのでしょうね。女子供とか関係なく私に罵声を浴びせ、殺意を向け、挙句に始末しようとした。不思議なもんよねぇ…あれだけお姉ちゃんを酷使してたのにも関わらず、いざ都合が悪くなれば守り育ててた姉の想いを踏み躙るように蹂躙し、妹を殺そうとするのだから。

怖いわよねぇ…お姉ちゃんは何でも言うこと聞いた。辛いもの、現実の目の当たりに出来ないもの、それでも姉は…ある相棒と共に苦楽を切り抜いた。そして、認められた。全てを純粋な力で――だけど、そんなものはその場凌ぎにしかならない。私と言う個人は別…最初っから、私と言う異分子を省きたくて仕方がなかった……だから、姉は殺されること自体が必然的な状況へと追い込まれた。

 

 これが、あくまで序盤のお話…♡」

 

「何故、マスターは自分の姉が殺されたと言うのに、そんなに嬉しそうなのでしょう?」

 

 苛立ちと同時に、不思議そうに首を傾げる黒柴。漆月は腕を組みながら「さぁ?何ででしょうね?」とスッとぼける様に言葉を濁す。

 普通、家族を失えば怨嗟か復讐心に燃え上がるのだが…彼女からしてそんなものは、些細なものでしかないのだろう。

 

「毎日が地獄だったわ…今思えば、あの頃の自分が何度も死を経験したから今があるのかしら。

 裸足で逃げ、小石を投げられ、悲惨な暴力や仕打ちを受け、爪も剥がれ、土や木、残飯を食いながら途方に暮れ、絶望的な毎日の中、貧民街を彷徨ってた私に手を差し伸べてくれた人が居たわ」

 

 

『誰も君を救けてくれなかったね、天咲魅影くん。可哀想に、生きてるだけで世の中の嫌われ者となり、誰も彼も君を受け入れてくれる者は誰一人とて居なかった』

 

 何の危害も、害意も感じない男は、手を差し伸べる。

 

 

『善忍が救けてくれるから、悪忍は善よりも寛容だから!

 

 でも、君だけは誰も救けてくれなかったね。君だけは誰も受け入れてくれなかったね?

 何故、誰も君に手を差し伸べてくれないんだろう?

 

 安心しなさい、何も悪くない』

 

 そして、手を頭の上に置き撫でると、男はそっと優しく抱きしめてくれた。

 背中に手を当て、優しく、我が子のように撫でて落ち着かせようとする。

 先程までの仕打ちとは打って変わって、地獄のような生活の中、初めて救けてくれた。

 初めて、手を差し伸べてくれた。

 

 

 それが死柄木にとって、そして私にとっての先生

 

 嬉しさの余り、頭の中が真っ白になって、訳わかんなくなって、でも最後は思いっきり泣いた。

 涙が止まらなかったし、優しさの有り難みが本当に解ったよ。

 

 

「健康の有り難みなど、病気にならねば解らない。人は失くして初めてその有り難みに気付き、感謝する。

 だけど…私にとって先生は姉の仇……恨むのが筋なのでしょうけど。ふふ…今となっては別に復讐とか、私怨とかどうでも良い。あるのは、先生を踏みにじりたかったのに、それを台無しにされたという憤怒に、本当の意味で涙を流したわ」

 

 だから、あの時…先生を奪ったアイツらは許さないと――感謝の恩を返すために、全てを奪い支配しようとしたのに、それを台無しにした平和とやら、希望とやらに、心底腹が立った。

 

「だから、『コイツ』は私を選んでくれたんじゃないかって最近になって思うのよね。私と言う個の存在が、どう言う形で在れど産まれた瞬間から歪みを持ってるんだって。

 私も、弔も、先生も、そして…佐門ちゃんも、陽花も――」

 

 そもそも、歪んでなければこうはならない。

 イカれてなければ社会に追い出されてなどいない。

 環境が、人が、感情が、心が、全てを狂わせるのなら、最初っから歪んでいた自分は紛れもなく狂ってるのだろう。

 

 だからこそ、面白くて楽しい。

 

「…自身を育てた姉を、救いの手によッて殺されたと言うのに……マスター、貴方様は何処までも歪んでるのですね」

 

「黒柴粒子。世の中にはね、そんな常識さえ通用しない輩なんてごまんといるのよ。アンタ達が思ってる以上に、世の中さえも酷く歪んでるわ…いえ、平和という概念があるからこそ、必ずしも異分子というものは存在するの。

 

 私はそんな平和や希望、世の中の幸せや光に当てられない化け物なの。アタシだけじゃないわ…ふふ、今もまだまだ沢山いるわよ?忍の社会という型に外れたならず者なんて…♪私はね、そんな生きてる事でさえも許されない人間が大好きなのよ」

 

 其れは自分と同じ類の者を見て同情できるからか、

 それとも同胞として、仲間として迎えやすいからか、

 イカれた者同士で話が通じるからか、

 過去に先生が支配していたように、支配するのが容易いからか、

 

 否――彼女にとってそんなものはどうでも良い。

 本当はそう言う人間が側にいるだけで、コイツも私も楽しく喜ぶからだ。

 だから私は色んな人間の悪意が大好きで、幸せを壊そうとする輩、私欲を満たそうとする者、今を変えようとする人、人間という皮を被った化け物も、私は万遍なく受け入れる。

 

 

「じゃあ今どうするべきか?私達がするべき事は?

 平和の象徴や忍の象徴が不在の中、今をのし上がろうとする抗争が生まれ、平和という概念が憎しみや争いを産む要因となる。それを絶望の種としましょう…現段階では絶望の種により犯罪も抜忍も急激に増えている……少しずつ、平和が壊され絶望に汚染されていく。それでも、絶望という状況下を抗おうとする者が生まれるのは必然。

 

 

 じゃあ、一旦全部絶望に染め上げましょう――一人残らず、何もかも全て」

 

 

 今この瞬間に生きとし生きる全ての生命に対する宣戦布告。

 全てを根絶やしにせんと言わんばかりの語らい。

 子供の絵空を見上げるような童心に帰るような。

 無茶無理無謀な、でもって反逆者には欠かせない心。

 

 背景に描かれるのは、京都で今も楽しく旅館を満喫する半蔵学院のメンバー達。

 同じく嘗ては超秘伝忍法書の争奪戦に、伊佐奈を潰した紅蓮隊。

 女学館の寮内で、平和な学園生活を送る月閃女学館の生徒たち。

 苦楽を共に過ごし、悪の誇りを掲げんと修行に明け暮れる蛇女子学園。

 先程撤退しながらも、金閣寺に戻り作戦を練るべく幹部を集め会議を開く佐門達忍商会のメンバー。

 雄英で楽しく、夢を追い続け、日々努力をして過ごす金の卵達。

 脱出不可能なタナトスで、生という実感を捨て完全拘束と監視を繰り広げられ、拷問や死刑等が行われる罪人達。その中には黒佐波は身体全身を特殊な繊維の布と金属、目隠しを受け、四肢を固定され自由を奪われてる始末。

 同じく特殊拘置所で赤外線のセンサーに数々の設備で監視を続けられながらも、今か今かと不敵な笑みで何かを待つオール・フォー・ワン。

 そして…憑黄泉に殺されかけた紫を『助けた』と思わしき純白な印象を持つ妖魔が、何処かへと向かっている。

 死んだと思わしき両備と両奈の姉にして、そんな彼女を救い出した名もなき登場人物、杏奈と両姫。

 全てを飲み込む真っ暗闇な夜空の上で光る満月にて、円卓会議を始めている天竜衆。

 同じく最高上層部にして若手、深い蒼色の長髪をたなびかせた姫彪と、その隣を歩む黒いボロ布のコートを羽織る謎の人影。

 日本に帰国するべく飛行機で小説を嗜む女性は、現最強のカグラにして、エンデヴァーと同じくno.1の名を継ぐ新たな忍の象徴の卵。

 街中で今も談笑を楽しむ学生達や、商談に赴くスーツのサラリーマン、女性同士が笑顔で話し合う日常の光景。

 

「後はもう一人のリーダーが全部壊してくれる。だから、全部壊して、全部絶望に染め上げる。

 全てが干からびた荒野から、生い茂る天国の様な花畑になるように、アンタにも約束してあげる。

 

 望む物も、夢も、希望という名の絶望も、全て手に入る。生涯、忘れられない想い出になると思うよ」

 

 戯言?上等だ。

 

「そう、私達は抜忍も敵も命を賭けてでも、戯言を実践する存在よ」

 

 飛鳥達を始めた忍達が、命懸けで忍の道を極めるのなら

 漆月達を始めた忍達が、命懸けで己の私欲を極めるのだと

 振り返ってみよう…今まで漆月と関わり、時に敵対した者達はどうだった?

 

 鎌倉は嫌いなモノを壊したいが為に、たった一人で忍学校を壊滅に追い込ませ、抜忍という道を選びながらも己の私欲を選んだ。

 蒼志はとある人物に認められたくて、振り返って見て貰う為に、忍の道に反してでも、蛇女としての誇りを捨てでも己の目標を選んだ。

 龍姫は家族のしがらみや雁字搦めに抑圧された社会、忍の掟を破り、抜忍という修羅の道を選んででも自由を謳歌する道を選んだ。

 闇は不明だが、一部の話によると彼女の家系は禁忌として忌み嫌われ、呪いの代償として愛もなくこの世に産まれてきてしまった…死柄木弔の破壊の衝動と思想に魅入られ、彼女も破滅の道を選んだ。

 黒佐波は目先の欲望に忠実で、血と破壊と闘争の為に自ら忍の道を破り、己の欲望の為に私欲を選んだ。

 

 それは敵とどう違うのか?

 犯罪者であることに何の躊躇いがあるか?

 己の欲望に、夢に、私欲に、全て忠実に実行する者は愚かだろうか?

 

 愚かだからこそ、素晴らしいのではないか。

 

 

「そして全てを支配して頂点に立つことで、漸く始まるのよ」

 

 

 オール・フォー・ワンも同じだ。

 伝説の支配者となって漸く、オールマイトと渡り合っていた…いや、先生からしても支配者のトップに立つ事自体、ほんの過程部分に過ぎなかった。

 問題なのは、支配者になってこれからどうするのか。

 殆どは絶望の因子や種をばら撒き、超常黎明期を超えた混沌な世の中に陥れるのも一つ…漆月は更にその先を考えている。

 

 

「もう一つの世の中を作ってやりましょう。私達が、支配されてきた者達が、抑圧に縛られ、自由も権利も失われた私たちが、絶望の中で笑って暮らせる世の中に♡」

 

 

 彼女の邪悪な笑みに、どこか禍々しい死神の様な、黒い悪竜の顔が浮かび上がる。それが彼女に今も取り憑いてる神魔なのだろうか…彼女の笑顔と憑黄泉神威の顔が重なった。

 

 

 見惚れる様に、御伽噺を聞かされた小さな子供のように、黒紫は放心としていた。

 此処まで、いや…これほど今の世の中を壊したがり、それこそまるで小さな子供が授業参観で夢を語らうような、荒唐無稽にして実に愚直…でも、何故だろう。

 心の底からこの女ならやれそうだなと信じてしまっている自分がいる。

 彼女の言葉は悪意や絶望、憎悪を募らせる者の心を、許すように落ち着かせる。

 

 ひょっとしたら…なんて根拠がなくても考えてしまう。

 

 嗚呼…成る程。彼女にとって支配者だの血筋だのさえも、あら可笑しいと一笑いするほどにどうでも良くて、本当の本当に人の絶望を愛し、世の中の秩序も、人々の下らない幸せも、全部壊して、漆月の色に染め上げていくんだ。

 

 

 

「それが…それこそが私…漆月の、いいえ……『原罪の魔女』なのだから」

 

 

 

 




漸く修正終わりました…
追記、今思えば黒柴がいた廃病院は目を覚さない犯罪者や重症を患う患者等が施設によって監視と共に治療を受けています。
そんな中思ったのが「あれ?これドクターにとって最高のサンプル品の宝庫じゃない?」と言う事で絡めてみました。
理由として、ハイエンド脳無の素体は戦闘向きの敵が殆どのベースになってるからとのこと。アバラちゃんやウーマンちゃん、ロボット君などが良い例えですね。因みに修正後で言うのも何ですが、邪空想病院等設定を作ったときはマジでドクターとの繋がりは意識してませんでした。
黒柴の医療ミスは春花のお父さんが起こし、そしてドクターはその医療ミスをした黒柴を引き取る様に口止め料も兼ねてお金を支払い、そして医療ミスはドクターによって貰った資金で帳消しに。
つまり、簡単に言えば春花のお父さんってドクターとの友人関係にしてある種脳無製造の片棒を担いでたわけですね。
これ春花様知ったら多分、胸糞悪すぎてキレる案件。
まあ大病院でお互い名を知れていたら知人関係になるのは可笑しくないですからね。

???「??そういえば、旋風という女の忍。ありゃあ良い素体じゃのう!どれ、あの遺体を回収して脳無に変えようか!どんな個体にしてやろうかのぉ〜…♪ぐふふ♪」

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