光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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229話「嘘月妄語」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やッぱり京都と言えば、神社参りも欠かせないわねェ…♪」

 

 京都最古の歴史を持つ下鴨神社に行き着いた春花は、周りの光景を嗜みながら束の間の休息で一息付いている。

 元々焔と同じペアで動きましょ、という話ではあったのだが焔の姿は何処にも見当たらない。

 …と言うのも、焔自身お腹の調子が悪いと言う事で、先に行っててくれとの事だった。昨日の食い過ぎなのか、偶然なのかは不明だが、どの道糺の森を抜ければ着くので、道に迷う心配はないだろう。

 

 此処の神社は縁結びや美人祈願としても有名で、女子旅の中でもかなり人気だと言うほどのパワースポットとしても有名で名が知れている。

 参拝する殆どが女性層が多いのも頷けるし、カップルを連れて…何て方々も少なくないが、今日は何かと物静か…。

 そう、人っ子一人居ないのだ。今日に限って静か過ぎる…というのも、何かと変な感じではあるが…。

 

(幾ら平日とはいえ…旅行者もいるのに、どうしてかしら…?)

 

 まるで最初っからそう仕込まれてるような、此処だけ神隠しにあったかのような、そんな疑惑の念がチラリと頭の中に過ぎる。京都で物騒な事件が起きてると、ニュースで放映され、旅行者が減ってるのではと推測したが、それにしては人がいないというのは余りにも可笑しすぎる。

 

「あっ…!春花さーん!」

 

 そんな不穏な空気が過ぎる中、憶測していた春花の耳から愛らしい活力ある声が響き聞こえた。

 声主の方向に振り向くと、其処には愛おしくも可愛らしい小動物を連想させる幼地味た雲雀が元気そうに手を振る姿と、春花を見かけたことに小さく舌打ちをしながらそっぽ向く、クールな雰囲気と共に長い白髪ツインテールを揺らす柳生の姿だ。

 恐らく二人だけのイチャラブ空間のデート最中に、自分を敵視?(又はライバル視)してる彼女と出くわした事により、雰囲気やプランがぶち壊された気分なのだろう。

 春花の身としても同じ事で、表情こそ大人の色気に近いような、余裕そうにも見えるが、内心としては柳生がいることで此方としても仲良くする事に対して妨害されてしまう為、出来ればいて欲しくないというのが本音だろう。

 

「チッ…何でよりによって春花と当たるのだ…」

 

「あら、雲雀ちゃんにオマケ付きの柳生ちゃんじゃない♪こんな所でまた再開するだなんて…奇遇ね♪」

 

「おい、邪魔者のお前は引っ込んでろ春花。俺は今、雲雀とのデートで忙しいんだ」

 

「柳生ちゃん!?目的がズレてるよ!?」

 

 柳生と春花は犬猿の仲だ。

 未来と柳生との関係性とは違い、愛する雲雀を独り占めしたい二人にとって、両者共に邪魔者に見えてしまうのだろう。そんな板挟みにされる雲雀は、度々に悩んだり、時には怒ったりするが、出来れば仲良くして欲しいと願っている。

 とは言え、半蔵学院での超秘伝忍法書争奪戦辺りから、衝突する機会が多いばかりか、二人が仲良くする場面など見たことがないのも確かである。

 二人とも、嘗ての事は水に流した…と言うよりも、戦の果てで共闘し、和解したようにもあるので、昔の私怨を持ち出してる訳ではないのだが…。

 

「此処は女子旅でも大人気のパワースポットだものね…二人がこうして仲良く参拝してる辺り、もっと仲良くなれますように、ッて言う感じにお参りにでも来てたのかしら?」

 

「それもあるけど…春花さん、雲雀達ね…今、奈楽ちゃんとかぐらちゃんを探してるんだけど…見てない?」

 

「昨日話してた内容のことね?見てないけど…それが、どうかしたの?」

 

「春花達には関係ないんじゃないか?」

 

「関係なくはないわよ…?美怜ちゃんも言ってたでしょ?かぐらちゃんの話が確かであれば、到底無視できる内容じゃないし…というか、今の発言を美怜ちゃんが聞いてたら物凄く不機嫌になるわよ?」

 

 あれ程真剣そうに物事を考える美怜の表情はそう見たことがない。いつもは無表情、時には揶揄う時に見せるヘラついた表情しか見せなかった彼女からして、それ程に重大性があると聞く。

 というか昨日の内容からして無視できるものでもなかった。

 

「うーん…確かにそうなんだけど……でもね、今日霧夜先生が帰ってきてから、上層部から忍務が下されて……」

 

「忍務…ですって?」

 

 聞いた内容によると、簡潔に砕けば…かぐらと奈楽を捕獲し且つ、敵対する忍商会を対処、並びに妖魔を討伐せよとの内容だった。

 忍商会と妖魔はまだ分かる。

 元々裏社会の闇に潜み、忍すら存在を悟らせずに生きてきた凄腕達…そんな連中相手が公で姿を現した以上、此方としても戦わずにはいられないだろう。

 もう一つ、妖魔に関しても目撃例こそないが京都に潜伏してるという情報が確かであれば、被害が出る前に見つけ出し、討伐するというのも納得が行く。

 然し、かぐらと奈楽の捕獲には流石に第三者である春花も怪訝そうに眉をひそめてしまう。

 謎が多いからだろうか?

 それとも忍商会と同じ理由があるのか?

 将又、狙われてる忍商会から遠ざけるためか?

 いや…第三目線はないだろう…もしそうなのであれば態々捕獲、とは言わずに保護する、という適切な表現の方が正しい。

 それをさも獲物を狙うかのように、捕獲と下す辺り、何かあるに違いない…。

 

「見てないのもそうだけど、よく考えればわたし達も容姿は見たことないわね…」

 

「えっとね…見た目はオレンジ色のフードに……」

 

「やはり自分達の身柄を狙うか」

 

 ふと解説するように雲雀が説明しようとする刹那、雑木林から姿を現わす奈楽と、その背中に抱きついてくっ付いてる幼い女の子供が姿を現わす。

 

「ッ…!!貴様は…!!」

 

「こ、この子達が噂の奈楽ちゃんとかぐらちゃん…?」

 

 早くも警戒態勢に入り、鋭い眼で睨みつける柳生に、意外そうにも目を丸くしながら二人を凝視する春花。

 奈楽は呆れた表情で春花を無視し、柳生と雲雀の二人にガン飛ばす。

 

「薄々と予想はしていたが…やはり貴様ら二人も上層部の命令に従う駒か。

 本当なら、そのまま姿を眩ませ逃げ果せたかったが…忍務が下された上に目撃例を他者に知れ渡られると此方としても困る…」

 

 そう言うと、奈楽は瞬時に柳生の間合いを詰め

 

(ッ…!?はやッ――)

 

 

 ドンッッ!!!

 

 

 と鈍い衝撃音と共に、柳生の腹は奈楽の足蹴りを喰らい、唾液を僅かに吐露しながら、押し出された空気を吐くと同時に、後方へと後ずさりする。

 

「柳生ちゃん!?」

 

「手始めに貴様らを消してやろう。只でさえ忍商会の存在も厄介だと言うのに、付け加えて貴様らにまで追われるのも面倒だ。

 余計な邪魔者や敵対者は、排除するに限る!!」

 

 どうやら此方の様子を観察していたのだろう。

 半蔵学院の面々も自分達がいずれ捕獲する事を悟っていたかのように、まるで最初っからそうなると知っていた素振りを見る辺り、どうやら自分達の想像以上に今回の忍務は非常に重大且つ謎が多過ぎる危険なものだと、直感で理解する。

 

「奈楽ちゃん、どうしていきなりその人を蹴っちゃうの?そんなの、だめだめだよ〜!」

 

「ハッ…!申し訳ありませんかぐら様…然しながら此奴らは我々の敵…かぐら様を捕獲しようとする輩です。危害が及ぶ前に自分の判断でした行動、どうかお許しを…」

 

 小さな子供の前に敬語になりながらも、謝罪をし膝に地をつける辺り、間違いなく美怜が話してた通り、重要そう…と言うよりも、話が本当であればかぐらと呼ばれるこの子は神様なのだ。当然の反応といえば当然だが、小さな子供の前に敬う奈楽の光景を見てしまえば、不思議と見慣れない光景につい躊躇ってしまう。

 

「う〜ん?そうなの?それなら良いのかな?コマはくるくる〜♪くるくる〜♪」

 

 こんな幼い子供の見た目をしてる上に、発言やら何やらと本当に小さな子供と変わらない辺り、本当にこの子がヒノカミとして祀られた日の神、神楽だとは思えないのだが…

 

「それなら此処は私が相手をしてあげるわ、雲雀と柳生ちゃんは増援を呼んでくれる?時期に焔ちゃんも来る頃だろうし!」

 

「で、でも……」

 

「ほぉ、雑魚一人増えたところで自分を止められると?貴様も同じ上層部の駒が、つまらん冗談を吐くものだ」

 

「冗談なんかじゃないわ。これでも私は抜忍の身…悪いけど、そう易々と倒される程、ヤワな鍛え方はしてないわ」

 

「なら貴様には尚更、自分達とは無縁だろう。其処を退け…いや、自分達に関わるな。粉々に砕け散るだけだ」

 

 両者共に引けをとらず、目線で繰り広げられる敵意が向けられ、緊迫とした空気が冷たく流れ込む。

 奈楽の言葉通り、本来なら部外者が口を挟むなど以ての外で、上層部の命令も下されず、況してや抜忍でありながら忍商会とは違い、奈楽やかぐらを目的としてない以上は、邪魔者であり、同時に何の因果関係もない。縁もない以上、首を突っ込むなというのは正論だ。だが…

 

「何を言ってるの、無関係じゃないでしょうに。奈楽ちゃんが雲雀や柳生ちゃんに危害を加えるのなら、私も無視できないって話よ」

 

 こんな風に、半蔵学院に危害を加えるのなら黙っていられない。

 仲間というよりも、友達だから。

 その意味合いもあれば、同時にかぐらや奈楽、この二人のことを放っておけないという意味も含め、春花は奈楽の前に立ち塞がる。

 

「そうか、なら手始めに貴様から粉々に――」

 

 

「――なるのはお前だ、奈楽」

 

 その刹那、低い男性の声と共に、奈楽の背中から無数に鋭い痛みが迸る。

 ドスドスドスッ…!!という肉を刺されるような音と共に、奈楽は目を丸くし、カハッ…!と口から血を吐き出す。

 

「奈楽ちゃん!?」

 

 一瞬の出来事、隙さえ与えない突然の光景に、隣にいたかぐらも血相を変えたように焦りだし

 

「えッ…?ちょ、何!?」

 

 困惑と理解の追いつかない出来事に言葉を漏らす春花の言葉は、皆の気持ちを代弁するのに十分過ぎるものだった。

 

「これ……は…」

 

「おいおい、拍子抜けだな…これくらいは避けてもらわな困る……だからこそだ、あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ…」

 

 声主の方に振り向けば、手で軽く砂利を弄ぶように上に投げ、掌で掴みながら、悠々と三人の方角で語りかける屈強な男が、赤いマフラーで口元を隠しながらそう呟いた。

 ベンチに腰掛け、優雅に寛いでるのとは裏腹に、今の今まで一切気配と共に姿を現さず、存在さえ認識出来なかったこの男に、只ならぬ恐怖に近い未知なるものを感じ取る。

 

「お前は……嘘月…妄語…!!」

 

 息を切らしながら、背中の痛みを堪え、睨みつけるものの、嘘月妄語は軽く鼻で笑う。

 

 嘘月妄語、懸賞金は2億8500万。

 忍商会という組織の中でno.2の実力を誇り、同時に佐門とは対等関係にまで登り、更には佐門からは信頼を寄せ付けてるのと同時に右腕として側近に置いている。

 事実、気配や感知に長けてる漆月でさえも感じ取れず、更には罪状がほぼ目立たないことから、懸賞金は低いものの、それでも本来であれば軽く10億超えとも噂されている。

 

(…今の、ひょっとしてだけど、唯の砂利を投げただけで、奈楽ちゃんに致命傷を…?)

 

 この目で最後まで確認できなかったが、嘘月妄語と呼ばれる男のに手には砂利しか残されておらず、遠距離で奈楽にダメージの損傷を与えた辺り、春花の推測は間違いではないのだが……砂利を投げただけで人が傷付くのは、見たことがない。

 

「奈楽ちゃん!奈楽ちゃん!!」

 

「諦めろかぐら、ソイツはウチのメンバーに追われ、疲弊し体力も万全じゃない…俺の目的はお前だ。さぁ…付いてきて貰おうか」

 

 悠々と歩み寄りながら、見下ろすように語る嘘月に、かぐらは涙目になりながら首を横に振る。

 

「どうしてこんな酷いことするの!?奈楽ちゃんは守ってくれてるんだよ?だめだめだよ!!」

 

「そうだな、確かに可哀想なものだ。お前を守る為に世界の全てから敵に回されようと、誰も守ってくれない…。

 だから、俺が来たからには安心しろ、かぐら…お前が付いて来れば、奈楽は特別に見逃し、身の安全を保障する」

 

「…ほんとう?」

 

「嗚呼、本当だとも。それを拒んでたのは寧ろソイツだ。本来なら、惨殺され遺体すら残さぬよう処理されるべき事をしでかしたソイツは、畳の上で死ぬことすら稀なのだ」

 

 なんだろう、何故かこいつの言葉には何故か説得力があり、名前とは裏腹に嘘を吐いてるようには思えない。

 圧倒的な強者のオーラと共に、同時にかぐらに見せる眼差しは、何処か優しい…。他の忍商会のメンバーとは圧倒的に違う素質が感じ取れる。

 

 かぐらは幼いからか、子供だからなのか、疑う余地もなくその手を取ろうとする瞬間。

 

「悪いけど…流石に騙されないわよ…」

 

 それを、春花が制する。

 柳生と雲雀が信じ込まれるように呆然としたのも束の間、ハッと我に帰る。

 それはかぐらも同じだろう、嘘月はチッ…と舌打ちをしながら、同時に鋭い目線を向ける。

 

「人が穏便に事を成そうとしてるのを、横槍入れて邪魔するか…成る程、オマケに柳生に雲雀という半蔵学院の者達まで…余計な邪魔しやがって…」

 

「穏便?奈楽ちゃんを真っ先に危害を加えておいて、何処に穏便さがあるのかしら?」

 

 確かに、なんて思えてしまう程に、春花の意見はごもっともだ。

 邪見心傷の時も穏便に事を進ませようとしていたが、結局奈楽を傷付けようとしていたし、嘘月猛虎がやってるのも、彼と同じ事だ。

 

「……丁度良い、お前…春花だな?お前も探していたとこだ」

 

「えッ…?」

 

 意外すぎる妄語の発言に目を丸くし、疑問が芽生える前に、鈍い衝撃が腹部に突き刺される。

 

「ガッ…!?」

 

「泥を塗られた事に対し、ケジメを付けさせて貰おうと…な」

 

 奈楽と同じく蹴りを入れ、軽く吹き飛ばされる春花に、妄語は凛とした振る舞いで、地面に擦りつけられ、打ち倒される春花を見下ろす。

 

「春花さん!?」

 

「おいお前!かぐらが目的じゃないのか!?」

 

「ウチは面子が命なんだ。お前らの話は聞いている…邪見心傷が世話になったそうだな?」

 

 やはり情報共有はされていたか、と内心舌打ちをしながら、柳生は苦虫を噛み潰したような苦渋な表情を浮かべる。

 

「…お前ら、蛇女との抗争で超秘伝忍法書を奪われたそうだな?然も寄りによって、殺し合いを重ねた相手と悠長に対話、仲良しごっこなど、半蔵学院の忍学生は地に堕ちたみたいだな。全く以って情けない…」

 

「なに…?」

 

「凛は妖魔との抗争に敗れ、蛇女に救われ教師となる上に、雲雀…お前は其処の女に利用され、超秘伝忍法書を奪われた挙句に蛇女に諜報活動として転校、更には敵連合に拉致される始末……そしてお前達を担当する忍教師の霧夜と来たら、何たる無能ッぷりだ。余り、泥を塗るような行為はするな」

 

「な、何なの貴方!?さっきから感じ悪いよ!?雲雀達のこと、なにも知らないのに…!!」

 

「だったらテメェも俺の苦労が分かるのか?」

 

「ッ…?」

 

 雲雀の反論も、威圧を含めた妄語の発言に黙り込んでしまう。

 邪見から聞いたのだろう、嫌な過去を掘り返すように、嘘月妄語は言葉を叩き込む。

 

「それと…幾ら仕掛けてきたのが邪見心傷とはいえ、俺の可愛い弟分を傷付けたんだ。それなりに、代償は払って貰うぞ」

 

 刹那、妄語は一瞬にして柳生の間合いを詰め、春花と同じく腹部に蹴りを入れようとするも

 

「食らうか!!」

 

 瞬時に脚力に力を入れ、跳躍し蹴りを避ける。柳生が愛用してる番傘で封じても良かったが、この男はどう見ても只ならぬ実力を誇っている…ガードが破られ、奈楽の二の轍を踏み蹴り飛ばされるオチになるだけだ。

 

「それ!」

 

 柳生は番傘に仕込んであった刀の切れ端部分を取り、煌めく刃を差し向ける。

 

「甘えよ」

 

 それを素手で鷲掴み、柳生の行動を一瞬にして制するように動きを止める。幾ら相手が強いとはいえ、素手で仕込み刀など持てば血が流れるだろうに…だが、流れない。

 

「なっ……」

 

「柳生ちゃん!!このーッ!秘伝忍法【忍兎でブーン!】」

 

 右から柳生の増援として、雷を纏った忍兎を召喚し、筋斗雲に乗りながら一直線に突進して来る。

 柳生一人相手に動きを封じられてる今が好機だと判断したのだろう。だが、それは間違いだった。

 

「だから甘えよ」

 

 雲雀の秘伝忍法に動じず、妄語は力を入れ柳生の番傘を掴み振り回せば、柳生諸共、雲雀の前に盾にするように眼前に突き出す。

 

「わわっ!?!」

 

「しまッ…!」

 

 そしてこの至近距離でブレーキなどできるはずも無く、雲雀は止まらず柳生へと突っ込み、柳生自身も諸に雲雀の秘伝忍法を生身で食らってしまう。

 

「ガハッ…!!」

 

「や、柳生ちゃん!!ごめんね!?ごめんなさい…!!」

 

「…0点」

 

 衝突し、地面へと転がるように倒れる柳生に、涙声になりながら彼女へ駆けつけ謝罪する雲雀。そんな二人を呆れた声で妄語は点数でも、まるでテストの実技みたく呟いた。

 

「連携がダメとは言ってないが、それでも強さを極めた者に対し、その流れる連携を簡単に崩される危惧がある。お前達、協力し合い連携する姿勢は嫌いじゃないが…仲間に頼りすぎだ。

 秘伝忍法も使い時がある、動きを封じられた際はどうすればいい?お前達は、常に修行に対し作業的な流れでこなしてないか?

 周りを見ろ、愚直に突っ込むな、無駄に醜態を晒すな。

 

 弱過ぎる…そりゃ落ちぶれる訳だ」

 

 本当に、心底情けなさそうに呟きながら呆れる妄語に、反論さえできない二人。これでも妄語は本気どころか序盤の肩慣らしですらない。

 盤上を見渡し、どう流れる事が適切で妥当か、どう対処すれば良いか、凡ゆる情報処理と整理を一瞬で頭の中で纏め、最短で最善な行動を取っている。

 

「それならこれはどうかしら!!」

 

 背後から、蹴り飛ばした筈の春花が復帰し、此方へと攻撃を仕掛けている。死角となってるため、声でしか聞こえないが、直感で理解できる。

 

「ムッ」

 

 然し振り向けば、それは春花ではなく、彼女が愛用してる傀儡だ。最新型の傀儡は機械型となっており、鉄製のグローブで妄語を殴りこむ。

 

 スパァン!と強烈な一撃がめり込まれるも、妄語は片手でそれを制する。柳生といい春花の傀儡といい、素手で簡単に封じ込む辺り、実力は大道寺と同等かそれ以上のレジェンド枠だろう。

 

「はぁっ!」

 

 そこで更に死角となってる部分で春花が液体の入った試験管を放り投げる。

 何本か入った試験管を片手で数個掴み取り、それを相手へ放り投げ返す。薬品の匂いが鼻腔をつんざくものの、御構い無しに春花への対処を怠らない。

 そして投げ返された試験管を避けつつ、春花はお返しにと蹴りを入れ、妄語は残ったもう一つの片手で彼女の飛び蹴りを封じ込む。

 

「貴方…中々強いのね…!!」

 

「中々?ほぉ、お前にしちゃ随分と自信があるようだが…」

 

「流石に私一人じゃ勝ち目はないみたいだけど…!それでも、時間稼ぎにはなるでしょう!」

 

 そして傀儡がもう片方の拳を、妄語の頭部目掛けて振りかざす、が…それを意図もたやすく簡単に避けられてしまう。

 続けて二撃、三撃と打ち込むも、それさえ宙に舞う紙切れのように簡単に捌かれてしまう。

 頭部では避けられてしまうと悟った傀儡は、今度は妄語の腹部に強烈な拳の一撃を入れる。

 スパァン!と脳内に響く強烈な一撃が入る。これは間違いなく喰らった…何より、鳩尾部分だ。

 両手が塞がれた状態で、避けられるはずがない。

 

「成る程な、体術を得意とし、アクロバティックな動きが可能なお前にしちゃ上出来だ」

 

 だが可笑しなことに、嘘月は苦悶の表情どころか、痛覚が働いてないと言わんばかり、表情を一変せずに春花を見つめているばかりだ。

 焦りもない、緊張感もなく、平静を装う変化のない表情には、余裕がある。

 

「だが、なんて事はないな」

 

 すると掴んでた足を軽く捻るように動かせば、春花の態勢も簡単に崩してしまう。

 バランスが崩され、そして横腹に軽い蹴りを入れれば、苦悶な表情で地面に擦るように吹き飛ばされてしまう。

 

「かっはッ…!?」

 

「こんな物か、伊佐奈を倒したとかいう連中の実力は。その程度か、半蔵を仕掛けた割にはこの体たらく…所詮唯の思い上がりの雑兵程度……つまらん。心底、つまらん」

 

 咳き込みながらも噛みつくような鋭い視線を向ける春花に、嘘月の表情は眉ひとつ一切の変化を見せない。

 冷徹、という文字に等しい程の冷たい眼圧を飛ばす嘘月は、ジリジリとゆっくり歩み寄り、追い詰めようとする。

 腹部を良く見れば、半開きになったシャツ…春花の蹴った溝部分は硬い土でコーティングされていた。

 まるで春花が蹴りを入れた部分のみ、的確に把握したかのように、攻撃を防いだと言わんばかりに。

 

「随分と……ごほっ!げほッ…!恨まれてる…みたいね、わたし達……」

 

「………」

 

「伊佐奈を倒された事…それに対しての怨嗟かしら…。だとしたら、貴方達にとっても、私達は敵と見なされてる…そう、判断してもいいかしら」

 

「これ以上、テメェらに掛ける言葉はねェ」

 

 そう言うと、嘘月は背中に携帯し備わっていた鉄棒を引き抜く。

 

「忍商会サポートアイテム―――『土竜槍』」

 

 柄のスイッチを押すと、棒状だった武器は、先端部分から鋭利な純白の刃が、鉤爪のようにして現れる。

 汚れや錆一つない武器は、正に武人が鍛えあげ、重宝されたものだと一目見て見解できる。

 

「春花さん!だめええぇぇぇ!!」

 

「テメェらもだ。元々コイツらは蛇女…故に、敵対する存在だろうが。こんな奴ら相手に、何呑気に駄弁ってやがる!!」

 

 春花を串刺しにしようと、土竜槍を掲げる嘘月に、危機を肌身で感じた雲雀は叫びながら嘘月妄語へとぐるぐるパンチで突っ込んでくる。

 端から見ればふざけた格好なのだが、雲雀なりには真剣でいて、その威力はトラックや巨大な岩を吹き飛ばす程の効果を発揮する。

 だが嘘月妄語は腐っても忍商会第三支部を纏め上げる副将。油断も隙もないのは確かであり、尖った鋭利な鉤爪状の槍とは反対に、柄の部分で雲雀の腹部を薙ぎ払う。

 

「ガハッ…!!?」

 

「雲雀いぃぃ!!」

 

「お前も眠れ」

 

 すると今度は懐から火縄銃の形をした武具を取り出し、ガチャリ、と引き金を引けば、柳生目掛けて標準を定める。

 

「忍商会サポートアイテム『種花島』」

 

 自分が狙いだと分かれば、一先ず防御に回る柳生は、番傘を広げ守備に徹底する。

 この男、邪見心傷よりも遥か上の実力者だ。直感で伝わるほどにヒシヒシと強さが実感できる。

 ダァンダァン!と耳をつんざき鼓膜を揺らす銃声が二発。硝煙の香りを漂わせながら発砲されれば、柳生の番傘を簡単に貫き、穴を開ける。

 

「何っ!?」

 

「防御貫通型、及び人体を貫くよう品種改良したサポートアイテム。ウチの組織はお前らの忍具やドーピング剤を始めたサポートアイテムの開発に成功している。

 まッ…元々、紅蓮隊のような抜忍を始めた闇に潜む者たちに売買する為の商売だからな」

 

 未来のような特級火力性の弾丸のようなものだろう。然も弾丸はどれも土…土遁の術に長けた忍と見て間違いない。

 

「遁術忍法――『御弾邪苦死』!!」

 

 そして、今度は土遁の術を使って連射型のように叩き込む。砂利だけで奈楽に大きなダメージを与えたのだ。それがもし土の破片…いや、銃のような弾丸性を持つ土を向けられれば?

 間違いなく生身であれば無傷では済まないだろう。どうにも、この男は常識とはかけ離れた戦いとポテンシャルを発揮させる。

 

「秘伝忍法――『六道冥界』!!」

 

 だが、柳生に気を取られてる内に、背後から復帰した奈楽が嘘月目掛けて鉄球を蹴り飛ばし、勢いと衝動を駆けた巨大な球が、嘘月を襲う。

 

「ッ…!!」

 

 偶々だろうか、奇跡的にも柳生に発砲し手を休めれなかった嘘月は、回避する間もなく奈楽の秘伝忍法に直撃する。

 全身に伝わる衝撃に、表情は変わらないが僅かにダメージが入ったのだろう…目を瞑り吹き飛ばされる。

 

「ふっ…!!」

 

 が、体制を立て直すように、吹き飛ばされながらもバク転を駆使して体制を元に戻し、遁術忍法――『御弾邪苦死』で奈楽の追撃を許さぬように反撃をかます。

 土の弾丸による銃撃も、奈楽の秘伝忍法により後欠片もなく粉々に粉砕される。

 

「これで死ね!!」

 

「遁術忍法――『太巻無双』」

 

 奈楽の最期の決めとなる、強烈な蹴りと共に駆り出される鉄球と、嘘月妄語の巨大な土の太巻が、衝突し、火花と共にお互い相殺される。

 奈楽の蹴りを持ってしても、固められた屈強な土は粉々に出来ず、太巻をオマージュにするのは何処か引っかかる。

 

「はぁ…はぁ……」

 

「おいどうした奈楽。散々足掻いて俺に攻撃した結果、随分と息が上がってるじゃねえか、大丈夫か?」

 

「…ッ!こんなもの、クソ喰らえだ!!」

 

 敢えて煽るように心配風に言葉を投げる妄語に、奈楽はより鋭い目付きで吠えるように言葉を投げ返す。

 背中に走る激痛と、服越しだから分からないだろうが、血は流れており、砂利が身体の中に入り、ばい菌がこびり付く。

 

「なら終わりに…」

 

「秘伝忍法――『Hardvibration』!!」

 

 土竜槍を手に持ち、奈楽に投げつけようとした刹那、蹴り飛ばした筈の春花も態勢を整え、傀儡を操り突進する。

 スキーボートのように乗りながら、傀儡は嘘月に向かって縦横無尽に殴り掛かる。

 咄嗟に俊敏に避けながらも、前進性能に長けた秘伝忍法により、当たらずともせめて注意を引きつけることには成功した。

 それでも槍を駆使する嘘月に、傀儡を刺す前に春花の蹴りによって弾かれ

 

「秘伝忍法――『薙ぎ払う足』!!」

 

 柳生の秘伝忍法による召喚獣によって現れた巨大烏賊の氷の足に、嘘月も再び『無双太巻』で、柳生の足に対抗。

 巨大な太巻が、烏賊の足を乱打し、烏賊もまた嘘月を薙ぎ払おうと全ての足を駆使して対抗。

 

「秘伝忍法――『忍兎でブーン』!!」

 

 そして春花と柳生により全力で対抗している嘘月は、両腕とも塞がれており、残るは雲雀の秘伝忍法によって嘘月目掛けて突撃すれば、ダメージを繰り出せる。

 

「……成る程、同じチームでの連携はさておき、今の流れを駆使して三人で対抗…か」

 

 まだ柳生と雲雀なら、先の戦を交えて理解はできる…が、嘗ての敵でありながら、交わる機会も少ない上に、連携による訓練などされてない春花と柳生…または雲雀との組み合わせによる対抗は、偶然にしては上出来であるだろう。

 いや、四対一だ。自分が敵である以上、嘘月妄語を倒さなければ、という意志と目的が一致していれば、昨日の敵も何とやら、だ。

 

「行け!雲雀!!」

 

「余所見してる暇があるかしら!」

 

 巨大烏賊と傀儡の止まない暴虐の拳、二つの秘伝忍法を太巻による乱打で対抗してる今、後方に下がった所で、巨大烏賊の範囲と春花の前進性能を生かした忍術では、意味がない…。つまり、回避は不可能。

 

「吹き飛べええぇぇーーー!!」

 

 雲雀が叫びながら忍兎で突進するも、嘘月は自身が窮地に陥ってる中でも動じず

 

「遁術忍法――『頭土蛙』!!」

 

 雲雀目掛けて、両腕を防いでる中、対抗手段を残してる嘘月は、出し惜しみせずに雲雀に頭突きをかます。

 鈍い衝撃音と共に、雲雀の額に打たれた嘘月の頭突きは凄まじく、これまでにない激痛が頭を襲う。

 

「ッッッ…!?!!」

 

 声にならない悶絶とした駆け巡る激しい痛みに襲われ、額には血が滲み出る。

 頭蓋骨にひびが入ったかのような其れは、自然と目が潤い涙が止まらない。

 

「雲雀いぃぃ!」

 

「お前たちが休む暇もなく攻撃を繰り出した結果がそれか…下らねえ。これならまだ弟分達でも自然と勝てるだろうに、俺が過保護すぎたか?」

 

 首を軽く跳ねるように傾げながら、溜息を吐く嘘月は、そのまま強烈な二撃を傀儡と巨大烏賊に叩き込む。

 

「くっ…!?不味いわ…!このままだと流石に…」

 

「クソ…!雲雀をあんな目に遭わせただけでも許さないというのにコイツ…!!」

 

 攻撃を与える余地も隙間もない。

 その上まだ本気を出してないだけでなく、奈楽が与えた攻撃も全くと言っていい程にダメージが残ってない。

 歯軋りをしながら、己の打ちのめされてる現状に思わず血が滲み出そうになる。

 

「これで四人まとめて殺せば上々か。全く、かぐらを捕まえるのに手こずらせやがって…」

 

 呆れたと同時に、手を煩わせる四人に心底腹が立ちながら、槍を構えようとした瞬間――

 

「秘伝忍法――『魁』!!」

 

 灼熱の炎を纏った爪撃が、嘘月の背中を抉り斬る。

 颯爽と現れ、不意を突き、遅れてやってきたのは、我が紅蓮隊の棟梁、焔だった。

 

 

 

 




凄い戦い方の表現が難しかった…なんかこう、オーバーホール戦ならまだしも、中々語彙力が…
蛇女の憑黄泉戦って相当上手かったんだなと自画自賛してしまう。
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