光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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大変長らくお待たせしました。
執筆中、忙しかったのとやることや考えること多すぎたり、執筆してたのが消えてたりと、自分が何をしたかったのかまで忘れてめっちゃテンパってました。
が、長年の小説投稿スキルにより、アイデアでカバー!
ではでは続きをどうぞ!


233話「悠久の狭間」

 

 

 

 

 

 

 

「なァ斑鳩、かぐらの捕獲についてお前どう思う?」

 

 賑やかに活気盛んな京都の商店街を見廻りながら、横目で語る葛城に、斑鳩は眉一つ動かす事なく淡々と言葉を告げる。

 

「別にどうも…上層部の命令として出た以上、従う他有りません。私たちは学生とはいえど忍としての一員。況してや来年は忍学生を卒業し、一人前の忍として社会に派遣される……綺麗事ばかりが世の中ではない以上、信じる他有りません」

 

 斑鳩の言葉は尤もだ。

 真面目さ故の性格なのだろう…これだけ大掛かりな忍務、更には最高上層部からの命令、達成すれば出世や忍のランクが上がるのは見え透いてはいるが、そんな我欲ではなくあくまで一人の忍として、その役目や責務を全うするのが当然という思考でいる。

 下された忍務であれば、応えなくてはならない。

 

「真面目でお堅いねェ斑鳩は…だけどよ、何か可笑しくねェか?幾らアタイらが忍だからッて、何も罪もねえ幼い子を捕獲しろッてのは…保護ならまだ分かるけどよ」

 

 いつものセクハラ親父の性格である葛城がいつになく真剣なのも、今回の件が只事ではないからだろう。葛城が基本的に真面目且つ勘が鋭くなるのは、いつだってそれ相応な修羅場が来る時だ。

 其れに…斑鳩の言葉通り、もし自分が忍務に背く、或いは失敗して仕舞えば両親を守る為の一人前の忍になる夢が潰えてしまう危険性だってある。だからこそ、今回ばかりは巫山戯てはいられない。

 然し、だからこそ疑問に湧くのもある…何故、罪も犯してない幼女を捕獲する義務があるのだろうと。

 其れこそ、美怜の言っていた「想像の遥か先を越える何かがある」のではないかと。奈楽という者が命懸けで守り育ててきた神の子と考えれば、其れ迄なのだが…其れにしては理由が曖昧な気もする。第一妖魔を殲滅してくれるのなら、保護だけで充分ではないかと。

 捕獲という物騒な件からして、何か裏があると葛城は踏んでいた。

 

「これ以上考えを纏めても仕方ないでしょう…私達が出しゃばっても、上の人間が聞くとは思えません。其れに…疑問に思わない人間は居ないでしょう…」

 

 斑鳩も心がない訳ではない、寧ろ良心的だ。

 疑問を抱くものの、かと言って私情で自分勝手に意を逆らッては良いものではないと考えている。

 其れは嘗て保須市でのヒーロー殺し…又の名を忍殺しステインによる逮捕後、飛鳥と雪泉、雄英生達が入院したあの場で、飯田天哉に放った言葉と、彼自身の私怨行動と積み重なる。

 だからこそ、考えても埒が開かないし、余計に心に迷いを生んでしまうだけ。そして生死を賭けた忍務に於いて迷い――それ即ち死を意味表す。

 

「兎にも角にも、私達は忍務を下された以上は…下手に考えてしまうより、確実に遂行することを…――」

 

「へェ…教育が成ッてンじゃん半蔵の忍学生さんよォ――」

 

「ッ!?斑鳩危ねえッ!!!」

 

 次の瞬間、斑鳩の横に横切る紅黒い影が遮ったかと思いきや、突然空間を引き裂く鉤爪が、斑鳩の腹を抉ろうと振るわれる。いち早く殺気に気付いた葛城は、斑鳩を突き飛ばすように身体を挺して庇う。

 生憎ギリギリな範囲で避けようにも掠れてしまい、肩から鮮血が流れていく。

 

「葛城さん!?」

 

「ッ――!避けた、か…ほォ。ヤワな鍛え方はしてないようだなァ…ン?」

 

 鋭い痛みに表情を歪ませながら、歯を食いしばる葛城。紅い狼は長い口からニヤリと汚い笑みを浮かべながら、血に濡れた鉤爪を浴びるように煌めかせる。

 血の騒動に周りに居た人達はあっと言う間に悲鳴を上げて逃げ果せて行く。正直、人質等取られずに民間人に被害を出させない効果としては良いのだが、其れにしてはこんな人気のある場所で凶器を振るうのは、忍商会を除いてイカれている。

 

「テ、メェは一体…何モンだ…!!」

 

「オメェらの様な人間を、殺してェと願う奴もいるモンなんだなァ…本当、人の死ッてのはツクヅク…唐突だと思わねェか?」

 

 先程まで気配は感じなかった。

 突然と発出する狂気孕んだ殺意。

 敵意剥き出しの本物の害意。

 

 恐らく…上忍が相手する敵か抜忍……いや、忍の気配から察して間違いなく社会に仇名す抜忍だろう。然も顔の面識もなく向こうが半蔵学院の忍学生だと知ってる以上、何者かが刺客として差し向けたか、或いは情報を得て何かしらの衝動に駆られた抜忍か…台詞から察して前者のように見えるが。

 

「葛城さん、此処は民間人の避難を――私が御相手を…」

 

「馬鹿言え、アタイがいなきゃ殺られてたろ。避難させる程、相手は抜かりもねェ、オマケにそう易々と逃して貰えなさそうだ…」

 

「面白れェ!!元々、殺し屋として稼業積んでた俺の血が騒ぐゥ!!!オールマイト亡き今、俺らの時代が少しずつ現役復帰ッてトコかぁ!!!」

 

 抜忍――元殺し屋、抜忍元暗殺者のコードネーム、ハウンドドッグ。殺し屋として稼業を積む者の名前は、忍名と同じような意味と価値を現す。

 本名を隠し、忍としての名前を現す者……一方で、暗殺者として忍の力を培い裏の世界で名を捨て別名で呼ばれる者…忍名の様な古風な者もいれば、洋風的な名前まで幅広く利点が効く。

 紅き狼漢は、雄叫びを上げて鋭い鉤爪を晒し出しては、二人に牙を剥く――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、其れにしても金剛の奴も乗り気じゃないわいのう。折角カグラ四天王として再会したんじゃ…。互いに酒を交わし、彼奴の活躍を聞きたかったが……酒臭い老い耄れ爺いとつるむ気は無いなどと……超が付く程に大生意気なマナならまだしも、最近の女子は儂等に強く当たる年頃なのかわいのう?」

 

 京都の街中で豪快に酒瓶を飲み干しながら、独特な喋り方で愚痴を溢す老いた獣人は、酒を飲んでて饒舌なのか、独り言を呟いていた。

 白く毛並みの整えた剛毛に、老体とは思えない程に屈強で鍛え上げられた肉体、酒臭い雰囲気を漂わせながら、歩むモノを一切近付けさせない強者の圧。

 ホワイトタイガーを連想させる彼は、一言で言うなら『白虎』。

 

 

「然し、忍商会に続き…かぐらと護神の民……匂う、匂うわい。裏の匂いが…時間の香りがするわいのぅ……そしてこう言う裏には大抵、大物が絡んでる」

 

 カグラ四天王が一人、白虎。

 カグラ四天王の中でも龍を除き、忍としての経験も履歴も多く築いている、古参の忍でありながら、陽花から非常に信頼されている、陽花の想いを継ぎし者。

 唯の呑んだくれとは違い、適切に物事の整理や裏の勘繰りをしながら、相手の動きを探る。そうやって個の最強の実力と、勘繰りたるや彼の嗅ぎつけによる捜査網の幅広さによる起点を活かし、そうしてカグラとして上り詰め、武道を極めて四天王へと登り詰めた。

 

「其れに踏まえて、まさかのOATの組織までマークされておると聞く…アレらは儂等忍やヒーローとは違い、グレーゾーン。一般市民達も、軍人が彷徨いて徘徊しておれば、心配して夜も眠れんじゃろうて…」

 

 OAT――Order to Annihilation Terrorism〈 テロ組織の殲滅こそ秩序 〉国家直属の軍人であり、忍術や個性を持つモノ、分け隔てなく過酷な訓練と厳しい環境により、洗練された者達のことだ。ヒーローの様な人を殺さず、破壊を守り、人々に安心と信頼を寄せる存在。警察の様に個性使用の厳守を徹底し、法律や規則の下社会で正しく活動する存在。その何方とも当てはまらない、例外…特殊なケースに呑み起こる超常的で圧倒的な、国際絡みによる犯罪を殲滅する為に動き出す、謂わば個性や忍術の使用を国から許可を下された者達のコトを指す。

 ヒーローは資格取得による免許証が無ければ、ヒーロー活動が不可能な上に、活動の下で初めて個性の許可を貰えることが可能であり、私怨による殺害は断じて許さられる者でも、裁くことも不可能だ。ヒーロー殺しにより兄を傷付けられ、保須市を選んだ飯田天也が良い例えだろう。だがOATは国が許可した上に、個々人の行動は全て国の意思によるモノとして、命令を実行する為ならばある程度の犠牲は厭わないと判断された組織。嘗てはD - スクアッドという犯罪軍事組織と戦争を繰り広げていたとも言われている。故にこの組織が動き出す事は滅多に無い。

 

(あの桃が第三部隊を務め、忍養成機関最高上層部の姫彪、そしてOAT第一部隊兼最高管理者、赤熊…特にあの鬼上官は、暴徒そのもの…過激過ぎる余り、彼奴が登場するだけで、被災は免れないと聞くわいのう…)

 

 ならば何故これ程の大組織が神野やオール・フォー・ワン戦でも動かなかったのか…これには理由がある。

 オールマイトが登場する為、市民達の不安を煽らせる行動はしておしくないという意見と、もう一つはとある地域が妖魔活動の活性化により、対処していたという話。その原因が元忍を名乗る者、妖魔を研究する女性、正体不明の輩が二人、危険分子が居たとのこと。その際には銀嶺と呼ばれる女性も付いていたらしい。

 

「個性も忍術も分け隔てなく、暴力により秩序を齎すか…。暴力から生まれた平等、これも超常社会が生み出した異物、なのかのう……」

 

 だが介入するとは言っていなかった。

 となれば、儂等は早急にかぐらと奈楽の捕獲、そして忍商会の殲滅に、妖魔を倒すことを先決しなくてはのう。

 

 

 

 

 

 

 

「柳生ちゃん…大丈夫?怪我、痛まない?またあの時みたいに無茶しちゃダメだよ?」

 

「気にするな…それより、雲雀の方こそ……俺たち三人が相手をしても敵わなかった相手だ……他にもあんなのが何人も居ると考えると、非常に状況は最悪だ…」

 

 お互い肩を支えながら避難する雲雀と柳生は、ボロボロになりながらも何とか大事に至らず、病院を探し回っている。

 奈楽とかぐらを折角発見できたとしても、嘘月から守る為に戦ったとはいえ、結局は逃げられたという形に変わりはない。

 自分達の行動は間違ってなかったにしろ、悔いはないにしろ、振り出しに戻ってしまったことは何とも歯痒い気持ちだろう。

 特に邪見心傷には完全に目の敵にされている。京都に居るのが絶対である以上、下手に遭遇すれば 戦闘は避けられない。

 

「……雲雀達、ついこの間までは、京都での旅行だったんだよね……」

 

 それなのに、と…言葉の続きが上手く出てこなかった。

 今まで何度も窮地に立たされてきた。

 蛇女子学園、USJ、学炎祭、林間合宿、神野、其々の修羅場や未知なる遭遇は、必ず自身の成長と共に心身を鍛え、更なる一流の忍になる為の精進なのだと。

 だが現実は…実際にはそのつもりで居ただけで、私達はまた肝心な時に役に立てない。

 焔ちゃんに後を任せて、誰かに頼っては、逃げて、仕舞いには負けてしまうばかり。……いや、何よりも…

 

 

 

『華眼がありゃ、使えれば、こんな努力を積み上げてきた強者だって一瞬で無力化出来る』

 

 

 

 華眼さえ使えれば、こんな窮地を脱する事が出来るのに、と思てしまう自分がいる。

 今までは鍛錬や実技訓練で実力を磨いてきた。寧ろ華眼なんて無ければ、こんな毎日が辛い想いをしなくても済むだろうと思ったし、嫌な現実ばかり見なくても済むと思っていた。

 敵連合に拉致されずに済んだだろうし、華眼があるだけで本当に自分と向き合ってくれてるのだろうかと不安が脳裏を過ぎる事だって…。

 

 

 

『良い?雲雀――貴女は何れカグラの棟梁となり、皆を率いる忍となるのよ。私達家族の…いいえ、鶺鴒様の血に、その眼に恥じぬ忍となりなさい。だから貴女は、雲雀なのよ』

 

 

 

 華眼を手にする事で日々努力を積み重ねてきた兄と姉達は報われず、母からの期待の眼差しに毎日が押し潰されそうになり、何よりも御先祖様から引き継いだ華眼の力を一刻も早く身につけてなければと、心がぐちゃぐちゃになりそうな焦燥と不安が、埋め尽くされていく。

 だから…鎌倉や嘘月のような、強敵に出逢う度に思う――もし雲雀が一人前で、実力のある、華のように美しく、個々を一瞬で無力化できる華眼を扱えたのなら、友達を守ることができるのだろうか。

 その友達は、簡単に人の心を操ることが可能な雲雀の本心を、知ってくれるのだろうか?友達だと、仲間だと、信じてくれるのだろうか??

 

 

 そんな不安が過ぎる時――

 

 

 

『……其れが、お前の臨みか?』

 

 

 

 

 ――え?

 

 

 静寂な心の水面に、一つの波が立つ。

 時が止まったかの様な空間――一瞬、空間が凍てついたかのように思えるその現象。

 まるで空間そのものが、違う別の空間へと閉じ込められたかの様な。

 隣に歩いていた筈の柳生ちゃんはいない。

 

 まるで迷い家に閉じ込められたかのような、摩訶不思議な空間。

 

 

「な、何これ?雲雀が、華眼のことを考えていたら……」

 

 

 一秒という時間さえ感じさせないその刹那は、余りにも唐突過ぎた。

 何の拍子や弾みで、この様な結果を招いたのかは不明だ…然し、何故だろうか…今の雲雀からは、何処となく心の不安も、一縷の希望にすがるかのように歩を進めれば、白き純粋無垢な羽が落ちていた。

 薄暗い冥界を連想させるこの世界が絶望だらけだと考えれば、この羽は僅かな希望が残された、パンドラの世界と考えると言い得て妙ではあるが、心が惹かれるその羽根は、何故か触れなければいけない気がした。その羽に手を伸ばし、柔らかな羽毛に触れると再び声が聞こえた。

 

 

『少女よ、質問に答えよ――』

 

 

 すると――薄暗い漆黒の空間から、光の柱が差し込む。

 白い羽毛が飛び散り、まるで桜散る吹雪の様に、神々しいその光と純白の羽毛は、視る者の心を優しく癒し、時に圧倒的なる光景に、これ以上歩むことが出来なくなる。

 

 

『悠久の時を越え、鶺鴒の子孫である貴様に問おう。お前は、何を成す為に其処に立つ』

 

 

 姿は全く見えない…。神々しい其れは、まるで神様のようだった。純白と青を連想させる貴族風味のタクシードに衣装を包み、天照の如く輝く白き神鳥は、ジッと此方を見つめていた。

 

「ひ、雲雀は……」

 

 正体不明の相手からの問いかけに、喉奥から声が上手く振り絞れない。威厳ある者の声は重圧と同時に、優しさを感じさせ、恐怖を感じさせない。

 

『……華眼が有れば願いは叶えれるか?華眼が無ければ幸せに生きていたか…?……お前は、鶺鴒と同じ道を歩むか』

 

「ど、どうして鶺鴒様の…雲雀の、ご先祖様のコトを……?」

 

『………少女よ、問いに応えよ。貴様は何を望む――』

 

 どうやら、質問を質問で返してしまったみたいだ。

 とは言え、此方の意見は聞く耳持たず、答えてはくれやしなかった。何やら明確なる強い意志を感じるソレは、一才の視線を逸らすコトなく、見据えていた。

 

「わ、分かんないよ…!!だって、華眼があれば雲雀は柳生ちゃんや春花さんを傷付けずに守れたかもしれない………華眼が無ければ、お母さんや、忍の為に頑張ってきたお兄ちゃんやお姉ちゃん達の努力も報われたかもしれないのに……」

 

『……少女の願いは、他者によって振り回されるその程度のモノと定義して良いのだな?』

 

 え?

 その言葉は、余りにも予想外で、誰もどの口でも言われなかった言葉だ。

 

『願いとは、個人の欲望と意思、信念…其れ故に生まれる奇跡…。其れを背負い羽ばたく雲雀は、何の為に空を飛び、何を求める。お前の人生は、全部他人の意見で左右される矮小な夢か――自身が望む安全も、平穏も、貴様の願いであるか。其れも良いだろう…だが、忘れるな。悲惨な現実や、過酷な現状が、誤ちの道ではないコトを――お前自身の明確な願いが、巡り巡って訪れるコトを』

 

 

「…!!」

 

 

 簡単に言えば、雲雀の願いは誰かの言葉によって左右されるモノではない。

 夢も希望も、信念も願いも、誰かに言われたからではなく、自分自身で決めるコトだと。

 鎌倉に殺されそうになり、嘘月によって見事に思い知らされたコトも、其れが必ずしも間違ってる訳ではなく、寧ろ自分自身の願いを叶える為の、過酷な道のりに過ぎないのだと。

 楽な道、遠回りな道のりが、安全や平穏こそが全てではない…逃げてばかりでは、何の打開策にもならないのだと。

 

 何も知らない相手なのに、まるで雲雀の全てを知っているようで、そして雲雀も何故か、不思議と初めてなのに、何処か懐かしく視てしまってる自分に、驚きが隠せない。

 

「……雲雀は、華眼が欲しいよ…。でも、それは凄く怖いコトで…周りからどんな風に観られるか、心の底から通じ合って信頼してくれるのか…仲間だと思ってくれてるのか、不安でいっぱいにもなる…。家族の期待に応えたい、でも雲雀にはそんなの気難し過ぎるッて、鶺鴒様みたいな人物になんかなれるのかって……。

 でも、雲雀の本音……雲雀の願いは……華眼を手にしても、友達でいられる自分に、自分を信じて戦ってくれる友達や仲間の皆んなの為に、胸を張れる自分になりたい…!華眼がどうとか関係なく、雲雀の友達でいてくれる皆んなを守る為に、華眼を扱えるようになりたい!!」

 

 雲雀の願い――ソレは、信じる大切な仲間を守る為に、闘いたい。そして華眼とは関係のない、心を通じ合える忍になりたい。

 

『…其れが、願いか?華眼という心理を弄び、人の心の内を暴き、意のままに操れる能力を持ちながら、他者への信頼…か。況してや、相手が望んでないにも関わらず、華眼で誰かを守るなどと、随分と傲慢な願いだ』

 

 

 雲雀はジッと、覚悟を見据えた瞳で追い返す。

 自分の心の内に秘めた本音は、飛鳥ちゃんや緑谷君たち、家族や、大親友である柳生ちゃんにまで話したことがないのに…まるで、何百年も昔から旧知の知り合いのように語り合う二人の関係は、900年前の光景を浮かび上がらせる。

 

 

 

 

『見事だ――其れで良い。若き忍よ…お前の願いも、華眼も、誰が何と言おうとお前自身のモノだ。自分の願いに傲慢であれ』

 

 

 

 すると――強くも優しい風が空間を追い出すかのように吹き溢れ、光の羽毛と共に、凡ゆる歴史の情景や、多くの人々が照らし出される。100年前、200年前、300年前…刹那の夢に迷い込んだ雲雀を、現実へと送り返すように、脳裏には荒ゆる光り輝く光景が目に焼きついていく。

 

 

『ねぇ、◯◯◯◯!◯◯が貴方の生贄になる為に産まれたのなら、親友である私が守らなくちゃ!その為には、隣の町に行って、私達の集落を襲う悪い人たちをやっつけにいこ!!』

 

『凄い…私の願い通りだ!◯◯◯◯の力なら、この国を簡単に覆す程の力だって………。――ッ!……こんな代償…どうってコトないよ…友達を救うのなら、貴方の呪いなんて、痛くも痒くもないよ……』

 

『ねぇ、どうして…?どうして私は、友達を助ける為に、親友の◯◯をアイツらから守る為に戦ったのに…どうして、あの子は死ななきゃいけなかったの…?ねぇ!どうして!?どうしてどうしてどうして!?どうしてよぉ!!なんで……願いが叶ったのに…なんで、皆んな、私の居ないところで、死んじゃうの……私はただ……』

 

『ねぇ◯◯◯◯…私の願いは、私の意思は、間違ってたのかなぁ……』

 

 

 

『凄い…華眼を持つ私に、最強の大妖魔である貴方が味方なら百人力だね!憑黄泉神威を倒して、皆んなを纏めたらさ…また、端月に出逢って、鴇とまた再会しようと思ってるんだ!』

 

『鴇は…私のこと、ずっと恨んでるのかな…仲直り、したかったなぁ……。私、あの時どうすれば良かったんだろう……私のこの選択肢は、間違ってなかったのかな…』

 

『約束して……もし、私の子孫が…私と同じように華眼で困っていたら、問いてあげて……もう、私は…憑黄泉神威との闘いで…長くは生きられない…から……』

 

『ああ……せめて最後にもう一度…鴇と端月の三人で…一緒に、会いたかった…なぁ……ねぇ、◯◯◯◯…もし、鴇に会ったら、貴方が生きていたら……あの子のコトを…助けて…くれる?』

 

『ねぇ、◯◯◯◯…大好きだよ……』

 

 

 

 

『忘れるな若き大妖魔よ――大妖魔とは、願いを叶える奇跡の存在…。妖魔が恐れるのは死ではない…誇りを失うコトだ。真なる大妖魔は、人々の願いから産まれる、奇跡の存在だ。其れを忘れてしまえば、今の妖魔達が産まれてしまうのは必然…。だからこそ、誇りを持て。契約者の願いに傲慢であれ』

 

 

「ね、ねぇ!待って…!貴方の名前は――!?貴方は一体……!」

 

 

 

 手を伸ばし、叫ぶように名前を問う。然し光輝く人型の神鳥は、まるで吹雪の如く眩い光が飛び散り霧散すれば、吹き溢れる歴史の情景と共に、悠久の間から消えて行った。

 

 

 

 

 

 

「そうだな…まあ、今はそんな悠長なコトを言ってられないがな…。其れに斑鳩や葛城の方も心配だ…上手く忍商会と出会さなければ良いが…」

 

 時は一瞬にして現実に戻り、肩を担ぎながら病院へと足を運ぼうとする柳生。見慣れた京都の街並みは変わらず、現時点では先程とは何も変わらない光景。

 

「なあ、雲雀…聞いてるか?雲雀?…ひば――」

 

 一方的に話してしまってるばかりで、会話のキャッチボールが返って来なかった事を不審に思った柳生は、確かめるように雲雀に問いかける。彼女の反応が無かったので、顔を見つめると。

 

「…あ、え――?」

 

 泣いていた。

 大量の涙の粒を頬に垂らしながら、さっきまで暗い雰囲気の様だったのに、瞳に希望を灯らせた雲雀の瞳は、潤っており、涙を流していた。

 

「お、おい雲雀!大丈夫か!?やっぱり何処か痛むのか?!頭、ぶつかって凄く痛かっただろ?す、直ぐに手当てして、病院で診て貰えれば大丈夫だからな?!だから…」

 

 すると、柳生が何かを語る間もなく、身体に重みが生じる。

 一人分の身体が、まるで此方に負荷がのしかかる様に、雲雀は柳生に抱きついていた。

 

「ひ、ひひひひ雲雀!?!ど、どどどうしたんだいきなり抱きついて…!?そ、それは確かに嬉しいが……幾らなんでも…」

 

 当然、何が何やら突然過ぎる行動に、頭の処理が追い付かずに混乱状態に陥ってしまった柳生は、赤面状態になりながら頭から湯気が出ている。普段は臆病で甘えてくる雲雀を宥めたり、可愛げにする柳生も、今回ばかりは雲雀成分が足りていなかったのか、シリアスな暗い雰囲気が続いていたからか、嬉しさが勝り目がぐるぐる状態だ。

 

「柳生…ちゃん……!柳生ちゃん……!雲雀は…雲雀は……」

 

 あの時の情景を思い出す。

 とある少女が、親友を守る為に、自分の命を投げ合ってまで犠牲にして、願いを叶える為に力を欲した少女が移した行動は、自分の眼に映らない所で、守るべき親友が殺されていたという情景。

 其れは自分の住んでいた集落は焼かれ、家族も、友達も、知り合いも、全員惨殺され、願いを叶える為に行動した結果、最悪な結果へと転がってしまった。その光景を目にしていた時、そのたった一人の少女は、雲雀に似ていたのだ。その子は華眼もなければ、小さくてひ弱で、忍ですらない子だ。一方でその親友は柳生ちゃんに似ていた。巫女の姿で、白い髪は下ろされており、凛とした清楚さに冷静な物腰の雰囲気は、まるで写鏡のように雲雀と柳生の関係性を示唆されていたものだった。

 

 そんな仲の良い慎ましい二人の関係が引き裂かれる時、全てを失った少女は、まるで雲雀に問いかける様に、悲痛の叫びで訴えていた。

 

 なぜ?どうして?

 力を手に入れて、敵を倒したのに。

 悪い奴らを倒したのに。

 友達を救う為に、契約をしたのに。

 安寧の為に、不安を取り除いたのに。

 

 そして、雲雀の胸倉を掴んでその少女は言ったのだ。

 

 

『もっと、友達の側にいて…一緒に守りたかった……』

 

 

 その後その少女は、大妖魔の力を手にした代償の呪いとして、五感全てを失い、無の人生を永遠の時のように過ごしながら、孤独に死んでしまっていた。大好きな家族も、愛する親友も、知り合いに弔うことなく、無惨に死んでいったのだ。

 もし彼女の願いが力による暴力と制圧、絶対なる安寧と平穏を望むのではなく、雲雀の様な真なる願いであれば、何度も考え抜き、後悔のない願いを選んでいたのなら、きっと救われてたのかもしれないと。どんな結果になっても、変わっていたのかもしれないと。

 

 

 きっと、アレは警告だったのだろう。

 自分の願いが必ずしも正解だとは限らない。

 華眼があれば全てが解決することはない。

 華眼が無くても平穏や安寧は必ず訪れるとは限らない。

 

 願いとは、誰かに言われたからやるのではなく、自分の意思で、自分の心の底から信じ念じられたモノ、こうありたいと思う願い、その奇跡を起こす為に自分がどう動けば良いのか。

 

 雲雀はきっと、それさえも考えられてなかった。

 恐らく、これは鶺鴒の血筋が受け継いだ華眼に起こり得る超常的な現象なのだろう。今までこんな事起きなかったので、動揺こそしたものの…なぜか、先程迄見たそれは他人事では無く、当事者の様に感じられたのだ。

 

 

「……うん、大丈夫…大丈夫だ…よしっ!うん!ごめんね柳生ちゃん。心配かけちゃったね…今までも…。

 頑張ろう柳生ちゃん!どんな敵が来ても、雲雀は皆んなを守りたい!その為の雲雀の願いは、いつか…きっと、華眼と向き合って、柳生ちゃんや皆んなを守る為に、闘いたい!!」

 

 

 靄ついた何かが払拭され、蒼天の如く輝いた笑顔は、涙を拭い、太陽に負けないほどの輝かしい笑みを含んでいた。

 其れを見た柳生は、目を見開き硬直する。まるで衝撃を目の当たりにした様に、信じられなかったからだ。

 

 たったあの僅かな一秒にも満たない一瞬で、雲雀が別人の様に変わったからだ。

 そして、何故だか妙に、雲雀の後ろに微かな気配もした。

 其れは、穢れを知らない純白な神鳥が、彼女を見守る様に重なったからだ。

 

「だから、先ずは身体を治して、そこからかぐらちゃんや奈楽ちゃんを

 探していこ!」

 

 変わらない。

 これはきっとご先祖様の強い意志や、引き継いだ能力の残火による影響なのだろう。

 真偽は不明だが、何方にせよやる事は変わらない。

 自分が望んだ以上、全力でその願いを叶える為に、尽力致すまでだ。

 

 

 

 

 そして京都のとある店の屋根の上で、そんな雲雀の健気さに微笑んでる、彼女と似たもう一人の少女は、クスッと安堵の笑みを浮かべていた。

 屋根の上に誰かがいるとなれば当然、目立つだろうし注目を浴びれば、店主の人が怒鳴るだろう。

 だが、誰も彼もその少女は見えていない。

 

『私の子孫は上手くやってるみたいだね!あの子ならきっと、鴇を救えるのかもしれない……そして、あの子の為に勇気付けて有難う――エーデル』

 

 

 御先祖様はそう言うと、空高く見上げては、身体が薄らと透けていくのを感じた。

 

 

 

 







まさか雲雀パートに入っちゃうとは自分でも思っていなかった。
とりあえず過去話見返しながら投稿したのですが、もし何か投稿の際に矛盾や指摘等あればお願いします。

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