光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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裏ストーリーはどーせこのメインの作品に関わらないんだろうウヒャヒャ、本編楽しみー!と思ってるそこのお方、大間違いですぞ。
まあ読むも読まないも個人の自由ですが、読んでいたら本編の謎も解けたりするかもね。


4話「絶望があれば、救いもある」

 

 

 

 

 

 

 昼の拷問を終えた勇希は、精神的なダメージと疲労を残したまま、トボトボとフラつく足取りで牢屋へ戻っていく。

 女子達全員が、卑猥と羞恥による屈辱な拷問を終えると、今度は夕方の部として男子達が拷問を受ける番に回る。

 夕方の男子達が拷問を受け終わった後は、夕食を取り、就寝へと移り、今日という一日が終わる。コレだけ聞くとあっという間かもしれないが、私達には自由は無いし、ここの大人達からすれば奴隷は利用できる人形なので、用が済んだら放ったらかしなのだ。

 

「………」

 

 精神的な疲労とダメージが蓄積したまま、覚束ない足取りで牢屋へ戻ると、守が壁際で何かをしていながら待っていてくれた。

 

「あっ、勇希お帰り…!」

 

 帰ってきた事に気がついた守は、私に笑顔で「お帰り」と言ってくれる。青色で少しギザギザな髪型をした少年の明るい笑顔は、辛くて苦しい想いをした私の心を癒して、助けてくれる。

 

「うん、ただいま守」

 

 だから、守の笑顔に応えて私も精一杯の明るい笑顔を浮かばせた。例え作り笑いでも、せめて今だけは…と、無茶をする。

 

「今日の拷問…また一層酷かったみたいだな…大丈夫?何か変なこと、されなかった?」

 

「うん、大丈夫…今日も舐められただけだから、問題ないよ」

 

 そもそも全身を舐められること自体が変なことなのだが、それ以上の事はされてないので、取り敢えず問題ないとだけは言っておく。

 

「無茶するようなことが続いたり、嫌だったら代わりに俺が行くからさッ、だから一人で抱え込むなよ?」

 

「本当に大丈夫よ。それに比べて守の方が……ゴメンね、私が代わりに行ってあげられなくて…私も、守の代わりになってあげたいのに…」

 

「いや、俺からすれば勇希が傷付く姿は見たくも無ければ想像だってしたくないし…俺はこう見えて頑丈だからさ!あー、虐めで受けた精神的な丈夫さが、こんな所で役立つなんてなッ、ハハッ!」

 

「守、そんなこと言わないで!!」

 

 守にとって気遣いの言葉を言ったつもりが、余計に勇希の心を抉るような結果となった。

 

「貴方は道具じゃないの!小学校の時からそうだったけど…私は今でも充分、守に救われてるの…だから、これ以上無理をしてまで自分を傷つけないで…少しは、私も貴方の支えになりたいの…」

 

 勇希は涙目で、息を切らしながら捲し立てる。守本人も、目を開き面食らった顔立ちだ。

 

 そう、アレは小学校の頃…友達もいなくて、周りの人間と深く関わりの持たない私は、親が親だったのでいつも皆んなの輪から外れて一人で過ごしてきた。

 他人と話すのは精々最低限必要な事だけで、深い交えは無かった。

 そんな独りぼっちの私には当然、声をかけてくれる人間はいなかったし、異物を見るような視線が凡ゆる方向から突き刺すように向けられていた。

 そんな自分はクラスで浮かれてたのか、虐めが始まった。

 最初は軽い程度だった。

 席に戻ろうとすると、女子から足を使って転ばせたり、男子達からのちょっかいは無視してれば耐えられてたし…

 だけど日々を重ねる毎に、その虐めは次々と悪質なモノに染まり、私の心を蝕むように暗闇に包まれていった。

 トイレの最中に上からバケツの入った水が流されたのは序の口で、男子達から囲まれては暴力を受けてたし、女子からは態と給食を床に落とされたり…(給食の残りは無かった)。

 教師からは「お前に問題があるんじゃないか?」と、返答や問題に困ったものは解決する気は無いし、全部私自身に振り回す。

 

 

 私にとって他人とは――敵に等しい存在だった。

 

 

 でも、そんな私にいつも構ってくれたのが、守だから…

 どんなに突き放しても、放っておいてよとぶっきら棒な口調で吐き捨てても、頑固で優しくて、私のことを気にかけてくれた。

 

 

「勇希…」

 

「覚えてる?私が小学校で虐めを受けてた時…靴箱の中にシューズが無かった時のこと、私だけ給食が無かったとき、男子達に暴力を受けてた時……全部、守が助けてくれたの…私は、一時も忘れたことなんて無いもの……」

 

 シューズが無かった時は、自分のように必死になって探してくれて、見つけた時は手渡してくれた。

 給食の時は私に半分よそってくれた。

 男子達の暴力から庇ってくれた。

 

 当初はどうしてこんなつまらない自分にここまで積極的に接してくるのか、不思議でしょうがなかった。

 況してや、自分と関わるだけ他の人間から悪質な虐めの被害に遭うだけなのに…

 でも、守は諦めなかった。

 

 

『僕も一人だから…それに、いつも一人の君が、とても寂しそうに見えたから…』

 

 

 ――だから、もし良ければ…僕と友達になってくれるかな?

 

 

 その言葉を聞いて、一人になってた自分が馬鹿馬鹿しく思えて……守となら、友達になれるのかな?初めての友達として、心を開いて良いのかな…なんて。

 今まで殻に閉じこもって、他人と避けてきた自分を、守が手を差し伸べてくれたから――自分も変わろうと思えた。

 そういう意味では、心を救ってくれた守は私にとってのヒーローで、憧れに近い部類のモノがある。

 

 優しくて、明るくて、時に何処か抜けてて、でも…いつも私の傍に居てくれて……

 

「この世界は常に少数の人間や異端者が拒絶を受け、排除しようとする世の中なのに、守は私の味方でいてくれたんだもん…

 そんな大切な親友が、アイツ等に酷い仕打ちを受けてるのを見て、私、耐えられないの……だからお願い、せめて…私の時だけは、辛いことや苦しいこと、弱音を吐いたりして?」

 

「…ごめん、俺…自分一人で精一杯で、せめて親友の勇希だけでも守ろうとしてて……余計に、勇希に重い荷背負わせてて…それに、気付かなくて…」

 

「ううん、良いの。私もその、守がいつも助けてくれるの嬉しいから…

 ただ、人間誰だって無茶を通せば限界を迎える…そして限界を迎えて身体が壊れたら、アイツらはきっと…」

 

 今度は守を廃棄処分と見なして殺処分されるだろう。

 もしそんな事があったら自分はそれこそ耐えきれない…再びどんよりとした重い暗闇と絶望に支配され、生きる希望(意思)が消えるだろう。

 

「あー…それも、そうだけど…でも、ここ数年でこの調子でも全く問題ないしさッ、本当に大丈夫だから…な?」

 

 そして問題がこれ。

 守は至って普通の人間で、特にどうという訳でも無いのに何故、こんな拷問を何年間か受けても身体が壊れないのか…

 拷問の内容は単純且つ残酷、鋸や槍、鋏、鈍器などで身体を甚振らせ血を流させると言ったどんな世代によるか分からない激痛を伴う拷問だ。

 治療も大したことはなく、包帯巻いたり、酷い場合は軽い手当で終わる。

 

「だからこそ、不安なのよ…」

 

 こんな事が何年も続いてるから、いつか身体が壊れやしないかと不安が高まり募って仕方がないのだ。

 何よりも、守はこう言った自己犠牲の精神が強い方だし、無茶をして振舞ってるのではという疑いも持ってしまう。

 

 

「おい、何してる」

 

 ふと、牢屋の檻越しから大人の冷徹な声が響いた。

 振り返ると従業員が鍵を開けて牢の扉を開け、親指をクイッと合図を送る。

 

「結城守、出ろ――今日一日最後の拷問だ。他の奴らも準備してる。後はお前だけだ」

 

「…ッ、申し訳、ございませんでした…今、行きます」

 

 組織の人間には絶対に歯向かってはいけないのが、この監獄で生きる為のルールだ。口調も相手に敬意と感謝、口を慎むことを忘れず、道具として生きる様に調教を受けている。

 

「守…無理は、しないでね…」

 

 部屋から出て行こうとする守の背中に、優しく言葉を投げる勇希。この言葉が、いつも守の言葉を癒してくれる。

 

「有難う、勇希…」

 

 だから、精一杯の笑顔を作って、勇希の心を覆う闇を、明るく照らす。不安で押しつぶされない様に。

 

 

 

 

 

 

 夕方の拷問はいつにも増して騒めきが酷い。

 朝の拷問で、癒えていない傷が残っているので、その傷口に鑢で擦られるような、そんな感覚に身を焦がしながら今日も最期の拷問を耐え抜いて行く。

 

「よし、次はこれで行こう」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁああがぁあ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁーーーーッッ!?!!」

 

 身体全身に電流を流され、痺れる痛みが体に悲鳴を上げさせる。バチバチとした不快な音が、脳内にこびり付くように、強い刺激が送られる。

 守は歯を食いしばりながら、この電流の拷問を耐え続け、苦痛にもがき苦しむ。

 

「これ終わったら次は金属バットで50回な、その分悲鳴を上げ続けて終わりゃあ今日の拷問は終わらせてやる」

 

 従業員はさぞ愉快そうに拷問を楽しみながら、電流を次第に強くしていく。

 これは血を流すだけでなく、悲鳴を上げさせることが主体となっている為、チェーンソーで肉を削ると言ったジェイソン地味た物騒な荒事はしないが、こんなサンドバックにされる行いは既に暴力沙汰以前にリンチだろう。

 けど、もし勇希が自分と同じことをされてると考えると、ここに彼女がいなくて良かったと僅かながらの安心は出来る。

 

「しっかしお前も気持ち悪いよなぁ、あんなつまらねえガキの為に一丁前に正義感を張ってよ。ここじゃあお前ら人間じゃねえんだぜ?下手な動きをしてない以上、俺らもとやかく言うつもりはねえが…」

 

「………」

 

「チッ、まただんまりか…まあ、良いだろう」

 

 ここの組織下に支配されてる自分たちは謂わば消耗品の道具として見立てられている。

 そんな従業員の手足である消耗品の自分達が、上の許可なく発言するのは禁じられている。なので、この言葉を聞いて少しでも反論さえすれば暴力を受けたり、最悪拷問が長引く可能性だってある。

 ザックリ言えば、こういうタチの悪い大人は自分達のような頑丈な子供を虐めて痛ぶるのが趣味なんだ。

 人間というのは、この組織下の人間だけでなく幾らでもいる。それが悪意だろうと形や意思が何であろうと…特に理不尽なのが、何の理由も事柄も無く、ただ痛め付けたかったというのが一番だ。そんな人間の思考は理解に到達出来ない。

 そう言った意味では、人間や大人というのは末恐ろし生き物である。

 

(はや……く、この拷問…終わらないかな…精神よりも物理的に一番苦しい…)

 

 女子の精神的な拷問とは違い、血の匂いが充満する拷問は、物理的な痛覚が伴い、毎日が地獄のような生活を送る羽目になっている。

 幾ら男子が強いとはいえど、自分はまだ子供…満足な治療も受けれず、道具のように役目を終えれば牢屋に入れられるような後始末。

 痛みは我慢できるとは言え、それはあくまで一時的なもの。これを毎日のような酷い拷問を受けては勇希の言う通り体が壊れるのは時間の問題だ。

 

 脱獄――それがこの凄惨な宴から抜け出す希望となるのだろうか、その希望は叶うことが出来るのか。

 真相など、未来の自分達など、誰にも解るハズが無い──

 

 

 

 

 

 

 

 

 街並から外れた誰も使われてない廃工場。

 外の空気は乾燥しており、夜はいつになく静かで、不気味だ。況してやこんなボロ臭い工場の前に突っ立っているのだから。

 

「見張りの従業員も大したことなかったな」

 

 手をパンパンと払う少女は、下等生物を見下ろすよう、蔑んだ視線を送る。

 灰色の学生服に黒いスニーカー、尻まで垂れ下がった銀髪の少女は、目の下に隈がある。中学生にしては中々な美少女だ。

 

「これは…恐らくこの工場内の鍵でしょうか?」

 

 同じく、見張りの人間の懐から盗み取った鍵を見つめる少女もこの女性と同期だろう。

 表情は穏やかで、常に妖艶な笑みを絶やさないその姿は、他の人を虜にしてしまいそうだ。それ程に華麗で妖美な美少女なのだと、見れば納得するだろう。

 

「素晴らしいですよ『月光』さん――次世代の希望に相応しい教育をなされてる様で…中等部にも関わらず、貴女達二人は目を張る成長性が御座います。カグラ四天王のマナさんや、貴女達を救い出した不雪帰さんには感謝しか御座いません」

 

「ラ、ラファエル様!そんな…わ、私なんて…えへへ…♡」

 

 月光を褒め称えるのは『ラファエル』と呼ばれる忍名を持つ、ユースティア女学園の聖従。善忍として、半蔵学院や死塾月閃女学館とは違う方向性の女学園。

 三年前から創立された学園であり、元々は違う自治区の学園に身を置いて居たらしい。それでも人数による規模はかなりの少数だ。

 淡い金髪に、聖堂を連想させる純白で高級生地を生かした制服…弓を用いて戦う姿は、正に光の天使だ。

 彼女達中等部所属の身を置いてある二人としては、身の上な立場だけでなく、何から何まで尊敬の念を抱いている。特に月光は大変彼女に気に入られており、将来ユースティア女学園の入学を偉く推薦している。

 

「して、ラファエル様…如何いたしましょうか?」

 

「取り敢えず工場内はフェイント…地下がゴミど…ごほん、忍商会の巣窟となってる筈です。木を隠すには森…見慣れた建物こそ、人を隠すのに適しやすく、それでいて隠れ蓑として偽装を徹底にすれば、調査に足が付きません。小さい工場に人が収監されてる訳がない。そ空間やペースを操る忍術や個性を持つ人間がいるなら話は別ですが…

 蟻のような巣穴になっているのであれば、少々骨は折れますが、手当たり次第探る他ありません。どの道、囚人の皆様を救うのが今回私達に与えられた緊急任務ですから」

 

(…今、ゴミって言ったな)

 

 カグラ四天王のマナにも引けを取らない腹黒さを、閃光は一瞬だけ垣間見ながら、ユースティアのお嬢様は指揮を取る。ラファエルは基本的に後方支援、指揮を主に活動する者――秘忍の称号を与えられてはいるものの、実力としてはカグラと並べても可笑しくないほどに、屈指の実力を秘めている。争いごとが好みでない温厚な彼女からして、善忍と悪忍同士のいざこざや、戦争には余り良い思いがないのだろう。

 

「作戦はどうする?」

 

「先ず扉を開けて、閃光さんが強行突破で目の前の敵を倒して下さい。肉弾戦は得意でしょうし、早く仕掛ければ貴女の独壇場。遠距離は月光さん、妖魔の相手は全て私にお任せ下さい。貴女達が不帰雪さんの弟子であり、妖魔を認知してるとはいえ、国家の犯罪組織に売買を行う邪悪な外道達…得体の知れないクz…失礼。何が起きるか未確定な以上、指揮者の私が責任を負いますから。貴女達が思う存分、自分達の本領を発揮してくれると、連携も取りやすくて効率が良いですから…」

 

「………」

 

 ダメだ、この人所々本音が漏れている。

 いや、正論ではあるのだが…なんかこう、優雅で血の争いなど知らなさそうな世間知らずのお嬢様が、口の汚い言葉を吐こうとするのは、余計に差があってこう…閃光としても引いてしまうし、月光も少しだけ冷や汗をかいている。

 

「で、ですが!こうしてラファエル様が私達の忍務に協力してくれるのは、心強いですし…カグラに近い、正義を象徴とする貴女様の実力を、側で観て…」

 

「月光さん…私は貴女に期待を抱いておりますからね♪」

 

 そう言いながら満面な笑みを浮かばせ、肩に手を置く。

 彼女は先ほど上述した様に、自身が信頼に於ける相手には、この上ない異常な愛情を差し向けることがある。月光は裁縫、世話焼きが上手な上に、細かい作業や事業をこなしてくれる。何より礼儀や礼節も合間っており、作法や口調、そして月閃の名門である優秀なエリートである彼女が大変気に入ったのだろう。

 特に目上の人間が、優秀な人間や努力家、愛嬌のある人間を可愛がるという一面は社会でもよくあることだが、ラファエルはそれとは違った恋愛にも等しい重い何かがある。今の言葉だけで何故か空気が重くなる。

 閃光に対しては然程愛情表現は向けられてはいないものの、優秀な一人の忍学生であると評価を買っている。

 

「今回の忍務が終われば、是非とも御姉妹一緒にユースティア女学園にいらっしゃり、お茶会を開きましょう。そして今後忍高等学校の進路について、何処へ行けば良いかを徹底的に考え改め…」

 

「あ、あはは…えっと、有難うございます?」

 

 苦笑を浮かべる月光の心境的には、複雑な気分だろう。

 月閃の名門として生まれた彼女にとって、進路としては月閃入学は間違い無いのだろうが、高貴なお嬢様であるラファエルから異常と呼ぶに等しい愛情を向けられ、進路について対談される。

 もし父上様や母上様に反対され、それを話そう者なら彼女も全武力と権力を持って対抗するだろう。彼女は本当にそういう人間だ。

 嘗て彼女と提携を結んでた企業が、秘密裏で裏切り計画を立てていたことを探り、会社諸共軍事力を駆使してまで崩壊に及ばせるほど、彼女は実力行使を平気で厭わない執行官なのである。

 

「然し幾ら上官としての役割を担う貴女様がいるとはいえ、囚人達を無傷で地上に救い出す…というのは、ヒーローに近いやり方だな…。

 フム、任務に従う以上やらざるを得ないとは言え、いざこうして考えると中々にハードルが高いが…」

 

「あら?あの閃光が弱音を吐くなんて珍しいわね♪」

 

「ち、違う!そもそも、囚人達の安全を確保したままこの組織を潰すというのが難しいと言ったまでだ!!」

 

 

 

「では…気を改めて参りましょうか…」

 

「鬼が出るか、蛇が出るか…」

 

 組織の人間か、妖魔か――大凡の情報は雪不帰が雇った上忍達が動いて調べてくれたので、大体は調べが付いてるし、妖魔の売買行動も尋常ではないと聞く。

 潰す機会が出るまではと、組織の情報取得に専念していたが、ようやく此処までの段階に到達したのだ。

 

「どうか、迷える子羊達に救いの神があらんことを…――」

 

 一陣の風が吹き、綺麗な長髪がたなびく。三人は暗闇の廃工場へと足を踏み入れる。

 この先は、生死が問われる命を賭けた闘いだ。安全は保証されないのは、覚悟の上だ。

 これでこそ、忍の生業――

 

 

 

 

 

 

 拷問を終え、全身に殴打を受けた痕が残る少年――結城守は疲弊が蓄積しており歩くことだけで精一杯の様子だ。

 これで今日の拷問は終わり、次は夕食に移る。

 空腹が止まず、朝食を終えてから昼の分は自分達にはなかったので、夕食となると有り難い。

 食事も碌なモノが取れないし、満足の行く栄養すら取れないが、それでも空腹を満たすことだけが、食事の取り柄となっているので、食べないよりかは不味いのを我慢した方がまだマシだ。

 

「ただ、いま……」

 

 ヨロヨロで戻ってきた守に、勇希は息を詰まらせ必死になって駆けつけに来る。

 

「守!!」

 

 ギュッ!と、強く抱きしめる勇希。

 正直、拷問を受けた後なので、ダメージが消えてないからこう強く抱き締められると、傷口が痛むので声を漏らしそうになるが、そこは何とか堪えた。

 

「守……大丈夫…?牢屋にまで凄い悲鳴が聞こえてきたから…

 辛かったよね、痛かったよね……守…守…!」

 

 勇希は声を震わせながら、彼女は少年の背中を優しく摩るように撫でる。目に涙を溜めて、彼を宥める。

 疲弊で弱り切ってた守も、彼女の涙を見てしまうと、放っておけず頭に手を置く。

 

「大丈夫…勇希、俺は…問題ないよ、生きてるから…」

 

 そんな彼女を優しく抱いて、落ち着かせる。

 こんな非力で無力な自分に、ここまで心配されるなんて…昔一人ッ子で、周りから拒まれてた自分では考えられないモノだった。

 他人から心配されるなんて、今まで無かったから…だから、ここまで必死に大切に思ってくれるのは、この世界でたった一人――彼女だけだから。

 

「それに…優良に治して貰えば、問題ないし…」

 

「貴方は道具じゃないの…操り人形じゃないんだから……そんな考えで自分を犠牲にするのは、やめて……」

 

 彼女の正論にぐぅの音も言えなくなった守は、反論に困ってしまう。

 自分の為に涙を流してまで心配してくれるのは嬉しいし、その反面彼女を泣かせたくない気持ちも山々なのだが…

 だが他に言葉が見つからない以上、何と返せば良いのか…彼女は頭が良いし、冷静な分析や観察を得意とする彼女を説得するのは無理がある。

 頭の良さで言えば自分よりも彼女の方が何倍も上なので、成績では天と地の差が開く程だ。

 

「じゃあ、どうするって言うのさ…他にどうしようもないだろ?だったらこうすしか…」

 

「だから私が代わって拷問を受けるって言ってるの…じゃないと本当に…」

 

 結局またこう言う振り出しに戻ってしまう。

 互いに大事に想う分、ややこしさを生んでしまうのは咎められないし、状況が状況だ。親友である以上、心配し合うのは当然だろう。

 

「とりあえず、飯…食いに行こ?話はその後でも良いしさ…」

 

「う、うん…そうね……そうしましょう…」

 

 まだ拭えぬ気持ちもあるが、今は夕食を終わらせよう。

 流れた涙を拭き、気持ちを切り替えようとした矢先に――

 

「んっ…?」

 

 守が何かを感じ取ったのか、眉をひそめる。

 

「どうしたの、守?」

 

「なんか…様子が変だ」

 

 何が?とまでは言わずとも、自然と格子状の牢から外の様子を覗き込む。

 外は一段と騒がしく、揉め事を起こしてるそうだ。

 ここの所は全く無かったのに…一体どこの誰が誰と揉み合ってるのか…と考えたのだが、何やら従業員の大人たちの悲鳴が監獄に響き渡っている。

 

 

「強え…あのガキども!!人間かよ…ぐふぅ!」

 

 弱々しい大人の声が、まるで撃沈したかのように途切れた。

 守と勇希の二人は互いに顔を見合わせ、目を丸くする。

 

「これで全員か…弱いな、幹部辺りがいると思っていたのだが…いや、確か幹部は陽花様が締め上げてタナトスに連行したと聞いたが…幹部の補充まではしていなかったのだな」

 

「こうして見ると、この組織は注意不足な上に警戒心は怠ってますね。私だったら副筆頭は付けておくけど…」

 

 聞きなれない二人の声が次第に大きく聞こえ、先程まで暗く重い空気に打ちのめされてた二人の心に、希望の光が灯る。

 あの大人たちが倒れゆく…と、言うことは?

 

 

 ガチャリ、と鍵を開ける音が鳴り、ギギギィと不快な音が扉と供に響くも耳障りなどお構いなく、二人は身を寄せながら、扉が開かれた光の先を見る。

 

 

「二人とも、もう大丈夫ですよ――♪」

 

 

 それは、月の光に照らされるであろう女神の微笑み。

 






裏ストーリー、修正有。

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