光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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12話「新たな平和の象徴」

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……少々、と言うよりも…かなり苦戦を強いられますね……」

 

 メラメラ、パチパチと焼ける空気と焚き付く音が耳朶を木霊する。熱された空気、放たれる煙は肺を埋め尽くし、人体に害を与える。況してやこれが妖魔の生成した炎なら尚の事危険だ。一体どのような効果を齎すのかも不明である。

 

「月光さんや閃光さんが上手く行けば良いのですが……」

 

 朦朧とする意識、傷口が焼けるような痛みに、何度も気絶しかけてしまう自分は、何とか踏ん張りを効かして標的を睨みつける。

 赤鬼怒は自分の弱点である角を狙われた事により大激怒を露わにしており、魚のような目玉を充血させており、歯軋りを立てている。嫌な音が連なり、精神的に嫌悪感を生じてしまう。

 

「ヴァあぁあ゙ぁ゙…!!ギチチ、んヴぉおオぉ゙!!」

 

 妖魔特有の鳴き声を発しながら、二本の大剣を振り翳すと同時に跳躍し、首元を刈り取ろうと動き出す。

 身体が痙攣し、思うように自由が効かず、意識が朦朧とし、視界が揺らぐ。

 不味い――あれから防戦一方ではあるが、これ以上は戦えない。

 

 撤退をしたくとも、燃え盛るリングがそれを許さず――空気を揺らし、狭まれた範囲内での戦闘…。場外へ逃げても焼け焦げて死ぬ、かといって防戦一方していれば場内で殺される…。嗚呼、鬼の遊戯による敗者の末路は命を以て死を選ぶ事なのか……。

 

 

「ッ…?」

 

 

 だが、赤鬼怒の刃先が彼女の身体を掠め取ることは叶わなかった。跳躍の途中、何かしらの異変を察した赤鬼怒は、意識を彼女から震源に気を取られる。

 ゴゴゴゴ…と、地鳴らしのような豪快音に、段々と此方へと迫り来る何か…。赤鬼怒は感じ取れても、ラファエルは感じ取れなかったらしい。だが途切れそうになる意識も、次の段階で覚醒する事になる。

 

 ボガアァアァーーーンッッ!!!

 

 豪快な破壊音と共に、破壊された壁から現れたのは、ナニカに振り回されてるであろう、巨躯な蒼い装甲に身を包んだ蒼牙鬼。凡ゆる装甲は剥がれ落ち、肉片が飛び散り、再生と破壊を繰り返している。目玉は潰され、鮫のように幾重も映えた鋸のような鋭利な歯は剥がれ落ち、大量出血を繰り返している。

 

「お待たせぇ!私が来たぁぁぁーーーっっ!!☆」

 

 掘り返され、破壊された壁から現れたのは、能天気でいつもお調子な、天真爛漫な声。いつも聞き慣れて、それでいて苛立ちを、時には可愛さを、安らぎを、様々な感情を抱かせてくれる声が耳を打つ。

 蒼牙鬼を軽々しく振り回し、鬼を棍棒にと言わんばかりに、蒼牙鬼で目の前の姿を確認できた赤鬼怒をブン殴るように、豪快に武器として殴りつける。

 赤鬼怒は避ける事叶わず、突然すぎる出来事に処理が追い付けず、殴られるまま物理法則に従って廊下の奥の方向へと吹き飛んでいった。

 

「お待たせ〜楓ちゃん!待った〜?」

 

 高貴で白を主張とした学生服は返り血を浴び、白と赤を連想とさせた姿で、背中を見せながら、顔を後ろへ振り向き安否を確認するのは…馬鹿にならないほどの実力を誇る幼馴染のミカエル ――彩楽園花が来てくれた。

 まるで某有名な英雄の真似をした登場を表して。

 

「うわっ!凄い傷だらけじゃん…!えっと、大丈夫?!ちょっといつもの感じでやって来たけど…てか、私のこと見える?」

 

「あ……ミカエル…さん…」

 

「うん!楓ちゃんのSOSメッセ見て飛んできちゃった☆最初は『うへぇ〜!楓ちゃんの鬼ィ…悪魔ぁ〜…』って思ったけど、流石に今回の忍務はちょっとキツかったかな?取り敢えず、意識はあるみたいだし…うわ、傷口が火傷の後で爛れてる…下手すれば気絶してもおかしくない重体じゃん…本当、頑張り屋さんなんだから」

 

 頬に手を遣り、撫でるように優しく労うミカエル。慈悲を込めた言葉と、窮地と救いのない現実に光を当て、手を差し伸べる天使の象徴。次期カグラ四天王――空白の席、龍を埋める新たなカグラにして、その強さ――陽花と引けを取らない最強の忍。

 

「ミカエル…さん…」

 

「ん?どうしたの?」

 

「此処では忍名を通してと…入学した頃から仰ってましたよね??」

 

 来てくれた安堵の笑顔が、段々と真っ黒な笑顔…圧へと変わっていく有様に思わず言葉が詰まってしまう彼女は、口をパクパクさせてしまう。

 

「まさか……月光さんと閃光さんに私の本名…仰っておりませんよね?いえ、貴女自身…本名を出す、なんて失態…ユースティア女学園の生徒として…忍を象徴となる模範の貴女が、そんなこと、するわけないですよね??」

 

「も、黙秘権を使いま〜っす……」

 

 時すでに遅し。

 思いっきり本名をぶちまけた彼女は視線を逸らして冷や汗を流す。幼馴染で力の差はあるとはいえど、楓を怒らせると末恐ろしい。彼女に何度か矢を放つ茶菓子を悉く口の中に入れられそうになったことがあった。これを聞いたらお菓子を食べれるなんてご褒美じゃん!となるだろう。だが毎食、然も腹がいっぱいな時でも甘い菓子を食べさせようとするからそれがトラウマなのだ。

 

「……とはいえ、助けに来てくださったことは素直に感謝いたします…その様子だと…」

 

「うん、月光ちゃんと倒れてた子も、囚われてた人達も助けたよ。ハッピーエンドになれたのは、楓ちゃんのお陰でもあるからさ」

 

 それでも助けに来てくれた親友には頭が上がらないのは事実であり、今回の件は帰ったら大目に見るとしよう。それに先程、ミカエルが振り回してた大妖魔を見た限り、倒れてた子はとは閃光のことで、あの姉妹はもう一匹現れた大妖魔を相手に踏ん張ってたのだろう。そう考えると本当に後輩に当たる中等部とはいえ、よく頑張った方だと心の中で褒め称える。

 

「ギギッ!にチちイ゙ぃ゙ィ゙…!!あ、アに者…っ!あニ者ァ゙ぁ゙……!!」

 

「お、オド…うトよ…っ!グキャぎゃ、オ、ノれェえぇ゙!!」

 

 そんな安楽とした二人の仲を引き裂くように、闇を主張とした空間の中、蒼牙鬼は何とか立ち上がり、赤鬼怒は吹き飛ばされた後、此方へ戻って来ては、ボロボロな蒼牙鬼と再開を果たす。

 赤と蒼の兄弟鬼が再開を果たし、手酷くダメージを負った弟の蒼牙鬼を見ては、ミカエルを睨むように圧を孕ませた視線を飛ばす。

 

「あはっ☆なになに〜?鬼さん同士兄弟で仲良しごっこ?仲間がやられて怒ってるんだ〜?あはは、なんだか面白いなぁ〜」

 

 激しい怒りを露わに、炎が昂りを示し、弟の蒼牙鬼も立ち上がっては此方に敵意を向ける。そんな二匹に臆することなく「たはは」と気楽に笑うミカエルは余裕がある。

 

「皮肉にも今の私達と似てるね。大切な親友を傷つけられた私と、仲間を傷つけられた赤鬼さんってところ?あんまり一緒くたにされるのは嫌だけどさ、こうしてボロボロな楓ちゃん見るとそう認識しちゃうんだよね〜☆」

 

「………」

 

 ケラケラ笑いながら、さも普通の女子高生のように面白おかしいと言わんばかりに話すミカエル。この女の強さ…実力と気配を肌身で感じた赤鬼怒は警戒を緩ませず、凝視する。

 

「うん、だから別に怒ってもいいよ。アンタにとってはその青鬼は大切な存在なんでしょ?じゃなきゃ妖魔がそんな風に怒らないもんね。まっ、感情とかそんなの知ったこっちゃないけどさ……だから分かるよ。分かるからさ…」

 

 するとミカエルは思いっきり拳を振り撒き、風圧を起こして揺らめく炎を消し去る。あの地獄の業火を触れることなく、唯の拳圧だけで…そして――

 

 

「親友を傷つけられた私の怒りも、理解してくれるんでしょう?」

 

 

 とめどない殺意と憎悪、憤慨の感情を最大限に気配と共に飛ばし威嚇する。目のハイライトは消え、怒りを露わにした感情で、二匹を睨む。

 危険を察知した赤鬼怒は巨大な燃え盛る双剣を振り翳し、蒼牙鬼は身体を丸め、巨躯と鉄壁の装甲を生かした鉄球と化し、駆け回る。

 赤鬼怒が蒼牙鬼を地獄の業火に燃える大剣で、野球ボールのように打ち飛ばす。力量と物理法則により、碧丸の蒼牙鬼は威力と速度が上昇し、燃え盛る身体を駆使してミカエルに集中する。

 

「ふーん、今度は野球ごっこかな?」

 

 攻めに来る迫圧な蒼碧の羅刹弾丸を、忍武器=『kirie-Ēlysion』で弾き返す。桃色と黄金色を彩る槍と斧の機能を備えた重火武器を軽々しく振り回し、蒼牙鬼の装甲を跡形もなく剥がし壊しては、内面の筋肉を貫通し、ブシュウゥッ――!!と血飛沫を飛ばし、無惨に薙ぎ倒される。醜い妖魔の悲痛の産声が響く。

 

 弾き返されても尚、再生を繰り返す蒼牙鬼滅は下手すればliving dead――蘇る不死者だ。肉体が再生するからこそ、容赦なく赤鬼怒は此方へ飛んでくる蒼牙鬼に再び剣戟で打ち返す。会話のキャッチボールならぬ、物理法則に従った殺伐なバットでボールを打ち返す構図と成っているのは、これ如何に何ともシュールな絵面だろうか。

 

「遊んでる訳じゃないんだけど」

 

 これ以上は埒が明かないと判断したミカエルは少し体の軸をズラし、角度を変えてKyrie-Ēlysion の槍刃が破壊と再生を繰り返す蒼牙鬼を、違う方角へと吹き飛ばす。

 

(やっぱり再生が凄まじい……私、バカだけどこう言うバトルのジャンルにだけは聡いんだよね。アレほどの実力でこれなら死んでる――そうじゃないってことは…)

 

「ミカエル…さん…!角を狙って下さい…!!それがきっと…奴等を倒す為の条件かと…!!」

 

「えっ?ツノ…?」

 

 楓の意識を無理矢理奮い立たせ、絞るような声で叫ぶ楓――ラファエルの叫び声に、ミカエルはハッと我に返り小首を傾げる。

 蒼牙鬼の角は此処へ一直線に殴り壊していく際に何回か折れたものの、結果として死ぬことはなかった…

 

「…あーね、なるほど。うん、大体分かった。取り敢えずやれる事だけ思いっきしやってみよ。試せるもんはどんどんやってこ――」

 

 道理に納得したミカエルは静かな瞳を敵に送る。壁に埋め込まれながらも、瓦礫を退かしながらのっしのっしと此方へ歩み寄る蒼牙鬼。消えることのない燃え盛る大剣を勇ましく肩に担ぎながら、嘲笑とも呼べる邪悪な笑みを溢す兄に当たる赤鬼怒――片方だけでなく、両方の角を折ることで、条件が満たされる可能性は高いと推測される。現状、化物には化け物で対抗するように――『demon brother festival』と『ミカエル』という、規格外の化け物同士でぶつかり合うことで、渡り合い対抗を可能にしている。

 後ろには倒れ伏しながら、意識を保ち友の背中を見届け、歯を食いしばる楓。目前には悪鬼を連想させた凶悪な赤鬼怒と蒼牙鬼の二匹――嗚呼、普通なら絶体絶命の状況なのだろう。

 

 だが、忘れてはならない――

 

「よしっ!それだけ分かればジューブン!thank you ラファちゃん!やれるだけの事はやってみる。何たって私は――」

 

 

 新たな平和の象徴となるべく存在だから――

 

 

 平和の象徴『オールマイト』――その意味は本物の英雄、紛う事なき最強のヒーロー。存在するだけで平和を齎し、約束し、凡ゆる強敵を拳で嬲り倒して来たアメリカンヒーロー。

 それとは対なり、誰もが知る平和の象徴とは違うもう一つの、約束された神々の女神。

 ミカエルとは、神に似た者――その名に込められた概念は、約束された救い。救いもまた平和を齎し、存在だけで象徴的な強さを示すのなら、それはオールマイトに引けを取らない、立派な平和の象徴なのだ。

 

 平和の象徴とは、必ずしも一人という訳ではない。だがそれは極めて限りなく少ないだろう。

 少女もまた、この世界を担うに相応しく、それでいて小さくとも、陽花に引けを取らない才能溢れる、屈強なる忍であると。ただ彼女は忍と呼ぶには相応しくない――平和の為に祈り、平和の為に捧げ、平和を愛して、平和を望み、平和を願う――女神の象徴なのだ。

 

 赤鬼怒と蒼牙鬼が行動を起こす前にミカエルは武器を手に持ち素早く動き出す。決してオールマイトや陽花のような俊敏さはない。パワーがそこそこ優秀で、古い時代に脚光を浴び、忍の世界に名を馳せた伝説の忍・半蔵とも肩にはならない、雄英や他の忍達より秀でてる。

 赤鬼怒が前衛に立ち、大剣を振り翳す。一つは首元、もう一つは下から上へと斜めに斬り上げる斬撃。

 それを阻止しようとするも、蒼牙鬼が赤鬼怒よりも高く跳躍し、頭部目掛けて拳を打ち込む。

 

「グギャアァ゙あアぁ゙ア゙ーーーーッッ゙ッ゙!!!」

 

 渾身の一撃。

 どちらかと言うと武器を巧みに扱い、防御面に関して優秀な弟分に当たる蒼牙鬼なので、武術を駆使した拳術はない蒼牙鬼――だが大妖魔の拳の一撃など、一般人が喰らえばひとたまりもないだろう。

 

「――ふーん…で?それだけ?」

 

「――――」

 

 頭部を真上から殴ったにも関わらず、ミカエルは何とも表情を変わらせない。いや、痛みはある。痛覚遮断されてる訳でも、ダメージを無効化にする訳でもない、表情を変えずに普通の笑みを浮かべている。

 逆に蒼牙鬼の拳は亀裂を生じさせ、装甲が剥がれる――ミカエルは外見によらず、防御面が比較的に高い。

 銃弾や刃物でも彼女を殺そう者なら、上位者クラスでなければまともに通じないだろうと言わんばかりに、下手すれば凶悪ささえ感じてしまう程に。

 

「まずコイツの角取るね」

 

 そして何ともなさそうに斬撃を諸に喰らい、炎を浴びせられたにも関わらず、逆に大剣は刃こぼれを起こし、ビシビシと亀裂が生じては、形が崩れ行こうとしていく。

 

「ギッ――!?」

 

 信じられないモノでも遭遇したかと言わんばかりに、壊れた武器を二度見しては、呆気なくツノをもぎ取るかのように、強引にもぎ取る。根本が硬質化されており、角を取るには中々骨が折れるだろう、並のカグラでも相当な技術と力量が必要とされる赤鬼怒のツノを、まるで「ちょっと貸して〜☆」というノリと言わんばかりに剥ぎ取れば、もぎ取られたツノからは出血が流れ、赤鬼怒は語言化不可能な苦痛に悶絶する鳴き声で発狂する。

 

「うるさいなぁ――」

 

 それを躊躇いなく、赤鬼怒の腕を掴んでは、着地しようとする蒼牙鬼へとハンマーの堅く叩きつける。壁へとぶちまけられた二匹の哀れな兄弟は、手酷く、荒々しく、壁へと撃ち込まれては白目を剥いてしまう。

 

 

「絶・秘伝忍法――『コスモ・ヴィクトリー』」

 

 そしてもう一つ、彼女がカグラたる強さの秘訣は――忍術が別次元的な強さを誇るから。

 突如、対象の赤鬼怒と蒼牙鬼、そしてミカエル呑みが空間に取り残される。

 

『ッ…??』

 

 二匹は壁へと埋め込まれながら、まるで物体も空間も別の彼方へと移動されたかのように、暗闇が広がる。

 だがそれは決して光のない暗黒の空間ではなく、白くて小さな点が無数に散らばっている。

 その正体は星――つまりこの暗闇の空間は…

 

 ミカエルは目を瞑り、小さな口で何かを呟けば、両手で祈りを捧げる――すると周囲からは眩しくとも直視し難い聖なる光が広がっていく。

 コスモ――宇宙。そして宇宙規模に広がる空間から起こる裁きの光は勝利へと輝く意味を込め、断罪すべき悪鬼に聖なる光と裁きを下さん。

 

 

 瞬間――絶え間ない大爆発が、理不尽さと共に存在ごと搔き消すかのような眩い宇宙の光と共に飲み込まれて行く。

 

 

 

 気付いた時には現実世界…いや、そもそも自分達が錯覚していたのか、そういう比喩的な現象を目の当たりにされたのか、不明な点は多く存在するが、それを知ったところで蒼牙鬼と赤鬼怒にはどうでも良い話で、身体は既に崩壊され、肉体がバラバラに破損された二匹は、とてもグロテスクでグチャグチャに、形容し難い惨たらしい容姿へと変貌を遂げてしまった――。

 それでもブクブクと血の泡が吹き出し、ゴポゴポと不気味で不愉快な音を立てながら肉を再生…どうやら身体を悉く木っ端微塵にしても肉体を弾け飛ばしても、死ぬことはないらしい。living dead――そう呼ぶにも等しいほどに、死ぬことさえ許されない赤鬼と蒼鬼の哀れな末路。

 

「身体はグチャグチャにしても再生はするのね…だけどそれならもう抵抗なんて出来ないでしょ」

 

 ミカエルは戦闘を交えて気付いた事があった。

 肉体の破損、損失、それは必ず自己再生を働かせていく。然しそれは一定の速度であり乱れる事は一切ない。つまり肉体が、原型が保てない程に破損させ、破裂させれば再生している間は攻撃は不可能であり、神経が通っていなければ四肢が破損された中、千切れた腕や足は機能を失う。

 赤鬼怒も再生されていることから、間違いなく兄弟とも呼べる二匹の角を折っている必要がある。

 ならば一旦赤鬼怒の角を取り、その後に蒼牙鬼の角を折れば、仮に非常事態が起きたとしても難なく対処できるし、天変地異さえ起きない限りは失態なんてしない。

 

「じゃあ終わりだね――まさかこの程度だなんて、次はもうちょっと頑張ってね〜☆」

 

 天真爛漫な笑顔を浮かべ、嘲り笑うように掌をひらひらと動かしながら、次の瞬間――ブツリッ、ブツン! 二本のツノが根本ごとくり抜かれれば、多量出血の血飛沫が飛び散る。

 

 刹那――廊下にはただならぬ怒号と悲痛な叫び声が喚き、鼓膜が揺らぐほどの大音量が鳴り轟く。

 そして赤鬼怒と蒼牙鬼は苦悶と悲痛の表情を浮かばせながら、身体はジリジリと灰燼と化し、焼き焦がれ塵となり、消滅の末路を辿っていく。

『お互いが完成された作品』と成り果て、立証されていた『demon brotherfestival(蒼牙鬼と赤鬼怒)』は、両方が死して初めて存在の立証が不可能となり、この世から魂ごと消えてしまう。

 元々都市伝説という抽象的だった謎と恐怖の概念が込められた大妖魔。つまり無価値な存在、御伽話(オリジナル)を『テクストとして解釈し、概念を込める』事により模倣技術(ミメシス)によって顕現に至った存在なのだ。

 

 本来妖魔とは、忍の血が一定量溜まり、穢れとなって膿として出現した化け物の事であり、それは古来から伝承された妖魔としての在り方――皆が知っている妖魔としての存在だと。

 だが月光と邂逅したミカヅチは最早超次元的な解釈と共に、忍や人間では到底辿り着けない超常や科学と呼ぶことさえ不確定な、超知識により妖魔を把握し、赤鬼怒と蒼牙鬼を召喚させた。

『領域』と『崇高』、『バステト』…それは今はまだ誰も知る由もない、人間では理解にすら辿り着けない未知なのだから。

 

「ふぅ〜…いたた、流石に殴られるのは痛かったなぁ…斬られるのも痛かったし、熱かったし……って、それより――大丈夫!?かえ…ゴホン、ラファちゃん!!」

 

 服装は焼き焦げた後と刃物で切り裂かれた衣類、返り血を浴びた事により制服は完全にボロボロに汚れてはいるが、身体の方は特別目立つような怪我は見受けられない。耐久力はあっても痛覚や熱を感じるのは変わらないらしい。いや、そうでもなければ何も感じない状態が続くのだから、当然と言えば当然であり、人間を辞めた訳でもない。

 倒れ伏せているラファエルを介抱するように駆け寄り、上体を起こし、肩に担ぐ。

 

「ぐっ…!ええ…私はこの位……」

 

「いやいやぁ、気分を無視してまで此処へ来て本当良かったよ〜……もし怠いなんて気持ちで此処に来なかったら限りなくバッドエンディング迎えてたもんね〜…うぅ!楓ちゃんは本当によく頑張ったんだね!えらいえらい!学園に戻ったらお茶会しよ〜ね☆」

 

「……本名、出てますよ。それに、怪我人相手に状況を確認せずいきなり担ぐのは愚策です…。骨折してる人間、または内臓系や神経、骨が弄るしくダメージを受けてる場合も想定し、重傷者に対して適切なケアをしろと……学園で習いましたよね…?」

 

「あ、あはは……えっと、軽口叩ける暇があるから軽傷ってことで、捉えても良いかなぁ〜…なんて……。てことでギリセーフで良くない?」

 

「良くないです……ただ、その……

 

 

 

 ――有難う、御座います……貴女が来てくれたお陰で、全てが救われましたから……」

 

 全てが終わり、廃墟と成り果てたこの状況下――それでも軽口を叩き合い、談笑でも嗜むかの様に笑い合う親友の二人。その笑顔は光よりも輝かしく有り、ボロボロな身体を担ぎながら、帰路へと足を踏み入れる。

 

 

 こうして多少の犠牲者が続出したものの、結果として囚われてた多くの囚人達は救われた。

 涙を流す者、

 血を流す者、

 諦めなかった者、

 多彩な者達が、救われなかった人達による救済――ユースティア女学園の生徒二名、死塾月閃女学館中等部二名、重傷者二名、内二名軽傷。囚人達は女学園により一時期、救護班により匿う形と成り果てた。

 

 こうして、この物語――『demon brother festival』という不吉な悪夢を打ち破り、裏舞台に待ち受けていた残酷な現実は幕を閉じた。

 








・解説
『demon brother festival』鬼さん祭り=蒼牙鬼、赤鬼怒。
ミカヅチ=ヴァニタスコロニー&ジョナサンが顕現させた大妖魔。

・パス=現実と異界を紡ぐ道を示す言葉。原作『真紅編』で道元が巨大妖魔を召喚させた際に使用した『血界の盟約』である。パスを拓く事により顕現させる事が可能。
パスを結合すれば何処でも顕現することが可能という口振からして、蒼牙鬼や赤鬼怒は何処でも顕現される?

・ミメシスによる顕現=ミメシスとは模倣、複製というコピーの意味。ミメシスによって造られた妖魔は、血や感情の根源を模倣して作られた存在である。これは本編で美怜が語っていた妖魔の生成の話と極似しており、善忍と悪忍が争う事により生まれた妖魔との話と関わっている。感情や血による精製をミメシスと呼び、忍達の血や感情によって妖魔が生まれる現象はミメシスであると証明付けている。蒼牙鬼や赤鬼怒が模倣によって顕現されたという事は、血や感情によって複製されたモノに過ぎないと捉えれる。
蒼牙鬼や赤鬼怒が『荒々しい』、『殺伐』、『兄弟』、『供物』…と読み取れる記号から、怒りと殺意の感情によって模倣されたと解釈される。つまり、感情や血を模倣技術により顕現された存在であること。

・『demonbrother festival』
ミカヅチが付けた異名――その意味は鬼さん祭り。お兄さん祭りという都市伝説の怪談が元ネタとなった妖魔達。上述したミメシスによる顕現と照らし合わせ、赤鬼と青鬼という日本昔話に登場する妖怪がお兄さん祭りという意味を持って感情や血を根源として生まれた存在であるとすれば、模倣とは血や感情を根源とし、容姿はそう言った『概念』『価値観』『原本』イメージとも呼べる知的概念を前提に、模倣・複製された存在とも呼べるのではないか?という考察が上がる。
だからミカヅチは分析、理解、構造と意味深な言葉を発していた。そしてそれはミカヅチだけでなく、天竜衆全員がそうなのであると。

一人が考えた鬼の容姿と、他者が考えた鬼の容姿、イメージやイラストが違えば、明確なる正解というのは存在しないが、『鬼である』というジャンルは統一されている。これは以前出したカーミラ論に当て嵌まる。そういう有耶無耶とされる概念を、血や感情によって形造られるのではないか。そして価値観として導き出した鬼こそ、ああして姿を現してるのではないか?だからミカヅチは『答えは自分だけの特権』と呼んでいたのだろう。そしてその言葉を大事そうにしてることから、妖魔を顕現させるのには自分の答えが必要不可欠であり、大切であると意味している。
他にも怨楼血に関しても大きく上記に当て嵌まり、アニメの怨楼血とゲーム版の怨楼血のイラストや容姿が違うのは『価値観』『概念』『原本』を紐解く解説者、つまり顕現させた者により姿形が変わるのではないかとも言える。そう考えると上述した説明に全てが納得が行く。


今回の蒼牙鬼や赤鬼怒について。
ミカヅチが顕現させたdemonbrother festivalについての意味。なぜミカヅチが都市伝説、お兄さん祭りと名前を込めたのか、そして解説し分析するに至った答え、その点について。
まず蒼牙鬼と赤鬼怒――この二匹は兄弟鬼であり、赤い鬼は怒りの感情を根源とした大妖魔。蒼牙鬼は殺意という感情を根本とした大妖魔。何故この二匹は常に一緒にいるのか?
お兄さん祭り、鬼さん祭りの隠語=お兄さんとは同時に弟や妹、下の者達が存在する事が裏付けてるとミカヅチは解釈。
赤鬼怒が兄、蒼牙鬼は弟、だからこの二匹は兄弟という設定を持ちながら祭り=虐殺を行ったのではないか。つまりお兄さん=鬼さんは一人ではない。裏付ければ一人では存在が不可能な作品であるのなら、二匹で一つの作品となれば良いと解釈しテクストとして加えた。
そうして完成されたのが『demonbrother festival』でははいかと。
もし違う天竜衆が解説していたのなら、また違った意味での大妖魔が生まれていたのかもしれない。それが赤鬼怒と蒼牙鬼と呼ばれる大妖魔なのか、それとは違ったイラスト…別個体なのか、はたまた全く違う大妖魔なのか。
だからこそ天竜衆は大妖魔…自分で顕現させた大妖魔を作品と称し、メルヘンと呼んでいたのではないか。



妖魔と呼ばれる存在は謎が多いからこそ深い訳で、天竜衆は自分達の存在を含め、遍く謎を解明していく者達であり、世界の真理を分析、研究することにより目的を達せようとする者達である。

語るとこれだけでは収まらない程にかなり長くなるので、もし質問があれば遠慮なく。
まだまだ解明されてない部分は、いずれまた出てくるであろう天竜衆達による回で――



ミカエル戦 蒼牙鬼&赤鬼怒
蒼牙鬼「終わった……」
赤鬼怒「無理ゲーだ…」
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