あの惨劇な一夜を明けたその頃、午後の2時――
昼間は太陽の日差しが強く、春の風が頬を伝い、満開した桜が風に触れ、散る。
春に吹く桜の風はいつ見ても美しく、春の季節だと大きな実感を持つ。大変悦ばしい事だろう、何時迄も暖かな季節に浸っていたい。
無造作に並べられてる桜の木は敷地の庭に埋もれており、生い茂った草原が広がっている。辺り一面、特に目立つ物は置かれておらず、ざっと50尺は下らない広さ…この敷地に住む人間は豊かな暮らしを送り嗜んでるだろう。
家も立派な…と言うより、5階建ての館が敷地内の中央に佇んでいる。
それこそ、何処ぞの財閥家かと疑わしく思えるその豪邸には数人のメイド、執事を従えており、当主とその家族、息子は暖かく何不自由なく豊かな暮らしを送っている。
その中で、息子を除いた当主の父親と、妻の母親、そして友人と思われしき数人の財閥家の当主達は、仲良く談笑を愉しんでいた。
「いやぁ〝あの子〟は偉いねぇ…礼儀正しく、頭脳も優秀…学園毎年一位なんですって?」
「是非とも、村雨にも会わせて頂きたい事ですな。ウチの家系は経営の道を歩んでおりましてね、最近は何かと気が荒くて困ってはおるが…」
「ですけど余り一眼に出たがらず、友好関係こそは皆無に近くとも私達の跡を継ぐ為、日々精進してねぇ…よく立派に育ったわ…」
「やはり奥さんの教育が立派な証拠なのですよ、ウチも将来家系の跡取りとして…」
内容は、当主の息子が経営の道を進み、父親の会社の跡を継ぐ事で大いに喜んでるそうだ。
50、60歳の大人達が、メイドの差し出した紅茶を啜りながら、愉快そうに話を聞き盛り上がっている様子が伺える。成績優秀、頭脳明晰を誇る息子が名門の大学を卒業した事で、友人を集めて自慢話をしたかったのだろう。
因みに噂の息子は、一秒でも早く跡を継ぐべく、時間を有意義に使い跡を継ぎたいとのことで、両親は大変感心している様だ。
出来の良い息子を持ち、浮かれていれば喜びもする。本来親と言う者は、息子の苦手分野や、出来の悪い事に話題を吹っかけるのだが、なんと欠点何一つ無い完璧超人だそうで、振るにも何も言えないのだ。だから美徳部分や褒める点を述べることしか無い、金持ちや勝ち組の人間とは常人の考えとは違い、異なっているのだ。
「ただ、最近は書物を集めて読むことが好みだそうで…見たことのない古くて分厚い本がいっぱい棚に並んでるのよ。息子とは少し考え難い趣味だけれども…まあ、人それぞれよね♪」
――別館。
三階建ての広い部屋は、息子のマイルームとして勉学に励み、よく分厚い書物を一日中読んだり、英文で描かれた古代文明を難なく解析し読破している事が日常茶飯事。
巨大な本棚は身長の約二倍、脚立を使わなければ届きそうにも無い棚には一冊分のスペースが空いており、今息子の天夜は〝日本の神、神楽〟を熱心に読み上げている。
窓からは本館が見え、此処ではいつ誰が来るのかきちんと見渡す事が可能なので、何かと都合が良かったり。
しかし今はカーテンを締めており、日光の明かりが届かず、部屋は薄緑のカーテンの影で薄暗くなっている。
壁に飾ってある時計の長針が12時を指し、短針が11時に到達すれば、鐘の音が鳴る。
ゴゥン――ゴゥン――!!
古くとも時刻を知らせる鐘の音が鳴り響き、分厚い辞書に似た本を閉じれば、部屋の扉に目を遣る。
「そろそろ時間か…」
クールな青年は、分厚い書物をテーブルの上に置けば、扉の前に立ち尽くす。何の変哲もない木製の扉に、ドアノブは金色の塗料で塗られた、ごく普通の扉――
『Re__Code:132666』
青年が暗号とも呼べる言葉を発したと同時に扉を開ける。
目の前に広がる光景は、個室から出る廊下ではなく、別館に於ける屋敷内でもない――全く別の、異質を孕んだ空間が広がっていた。
真っ赤な色に染まった空間、中心に佇む円卓のテーブル、床は大理石で生成されており、空中に浮かぶ椅子、そして椅子に座りながら優雅に寛ぐ何人かの同胞が姿を見せる。
「やぁ、丁度良い時刻に来てくれたじゃないか
イザナギ――天竜衆にして嘗て、両姫を殺めた張本人である彼の真の名はクドラウム。『実力』という意味、価値を担い、役割を持つ憑黄泉だ。
憑黄泉神威に仕え、神楽滅殺を目論む残忍非道な妖魔は、天夜と呼ばれる人間の皮を被り、人間としての日常に溶け込んでいた。
「巫山戯ろ
カグツチ――天竜衆にして人間の容姿と美貌を兼ね備えた妖艶な女性は、とても妖魔や人成らざる者とは思えない。化け物だと知らなければ誰もが見惚れてしまうだろう。
腰まで届く美しい純白な長髪をたなびかせ、黒い西洋ドレスを羽織る、容姿端麗を備えた女性はご令嬢みたく、ご機嫌よく微笑んでいる。黒のドレスと白を主張とするイメージカラーは、相反する白と黒として彩られており、とても魅力的だ。
真名は『アルカディス』――『理想者』という価値、意味を担っている。
「まあまあ、落ち着いて下さいクドラウム。彼女も貴方の事情を察しての発言ですので――貴方にも貴方の世界観が有り、生活があり、事情がございます。何かしら此方の不手際で貴方に不利が生じてしまえば此方としても申し分ない…と言うテクストとして解釈してくれれば」
遺影に映る優しい人間の顔をした中高年の男性は『ジョナサン』――つまり、ヴァニタスコロニーとジョナサンは別の存在であり、然して二人揃って初めてミカヅチと呼ばれる。簡潔に言うなれば、本体と顔は別の存在であり、『虚無』と『語り手』により、初めて『傍観者』としての価値、役割を担当――。ジョナサンと呼ばれる遺影の肖像画は、絵画だというのに、まるで目の前の知人の様に顔や表情を動かし、とても気さくに優しい笑顔で語りかける。
「……ジョナサンに免じてそう言う事にしておこう…」
不服そうな顔を浮かべながら、人間の皮を破り捨て、姿を現すクドラウムは、苦虫を噛み潰したかのように苦渋な顔を浮かべながら席に着く。ジョナサンは天竜衆という組織内では仲裁役に立つことが多く、議題を交え重ねる中で言論の衝突や価値観の相違、会話の進行が進まないと言った感じの際にはこうして立ち回る事で物事を円滑に進める、語り手として重要な役割を担っている。
「……そいや『
「エリザベスは自身の領域にてやるべき事があると…教官は……」
「お待たせしました――少々遅れてしまい申し訳御座いません……クックック…」
大柄な巨漢がシルクハットを被り、機械的な頭部が印象的なククノチ。真名は『ジャッジ』――『審判者』という価値、意味を担う者。ジャッジが口を開きクドラウムに言葉を紡ぐ中、違う方角から空間ごと扉のように開かれ姿を現すのは……。
黒い社会人のスーツを羽織りながら、腰に太刀を滞納している。両頬の『手』によって顔を隠す様に形容し、親指で両眼を抉るように塞ぎ込んでいる。言葉で言い表すには惨たらしい其れは、まるで両目があると主張しんばかりだ。
不吉な笑い声を喉から鳴らしながら、アルカディスとジャッジの空いたスペースの空席にゆっくりと席を下す。
スサノオの真名は『
「遅かったじゃないか、矢張りビジネスとやらは大変なのかい?ボクは『領域』を読み解き、聖域化してばかりだからね…君達の人間社会に溶け込んで何かしら交渉やら知識を得る為の擬態やら、色々と興味深く感じてしまう性分なんだ」
「ええ、『道元』とのビジネス関係で少々時間を取られまして……アルカディス、貴方の頼んでた『怨楼血』の文献と顕現の技術を教授をしたまでですよ」
「おお!本当かい!?それは助かるよ!――いやはや、流石は頼りになる同期だよ。もし『怨楼血』が受肉した時、どう呼称するべきだろう…ボクが代表として解釈するべき特権だからね。この恩はまた何かしらの形で返すよ。それにジョナサン――君にも無理を言って悪かったね。『demon brother festival』をボクとクドラウムの頼みで態々使わせてしまって」
「いえいえ、貴方達のテクストを形として代行したまでの事ですよ。それに聖域に紐付けた、
歓喜に満ち溢れたアルカディスは、乙女のように頬を紅潮と染まらせる。他の人成らざる異形を主張した天竜衆とは違い、この通り人間味がある。彼女が実は人間であり、或いは魔女でしたなんて嘘を吐いても真実として通じるくらいだ。
「ええ、全く以って問題ないかと――何せアレは道元程度では扱える代物ではありませんから。とはいえ、本来ならばアルカディスが聖域と共にミメシスによる顕現…そしてパスを繋げるべきなのですが…数多の企業との接点を多く持つ私が起点作りに適してるのはご存知の筈。あくまで私は頼まれた事を実現したまでですよ。何せかなりの値が張っておりましてね……クックック――」
「………」
道元だけでなく名のある財閥企業、上層部、より多くのコミュニケーションや企業との連携取引、そう言った部分で裏で暗躍しながら、独自に研究と分析、ツールを広めている教官はクドラウムと同じく人間社会に溶け込む事に特化した社会人と呼んでも良い。
クドラウムの隣に居座り、沈黙を通してるのは、爬虫類と鳥類を混ぜ合わせた不可思議な天竜衆。
ジャッジは円卓のテーブルの上に置かれてある紅茶に口をつけて飲みながら、口を開く。
「まあ良い…それでは彼女を除き、全員ともこうして揃ったのだ…会議と行こうではないか……確か、緊急収集を招いたのは尤も他でもない、ジョナサン…だったな?」
「はい、この様にアルカディスに聖域を張って貰い、皆様方にこうして時間を割いてまで集まって頂き深く謝罪を申し上げます。これより私が出す議題、つまり今回起きた事件について――結論から申し上げますと『パンドラ』が観測されました」
『!?』
その言葉に一同は驚嘆の表情を浮かばせ、暫し沈黙する。
「観測…?それは現象により起こりうる知覚的概念なのか?物理的に顕現された神魔ではないと言う事か――?となれば…それを示唆するのは神の器がこの世に存在したという意味を現していると?」
すると此処で声を上げたのはヤギハヤ。真名は『アルテスタ』――『芸術者』という価値、意味を担う者。タクシードで清楚な高級品の服を着こなしながらも、顔は二つ存在する。骸の竜…それが双葉のように分かれている悍ましい恐怖と、芸術と神秘を連想させる美徳、相反し相容れない属性を兼ね備えた不気味な両面宿儺の天竜衆。
左の顔は鬼や竜、悪魔を連想させた口、右の顔は真ん中に眼玉が開かれており、ジョナサンを凝視する。
「はい、元々アルカディスとクドラウムによるテクストの指示を受け、形を成すために『demon brother festival』を稼働させました。領域の確保、我々が手にするべき『崇高』、そして『バステト』の確保――嗚呼、先に申し上げますとバステトは発見されませんでした。という残念なご報告だけ…。その際に巻き込まれた一人の少女に、神の魂が宿っておりました」
「それがパンドラか……
「……よりによって災厄の箱か――アレは危険過ぎる。古代の神官が遺した遺産が、『無明の神』を通じて顕現された禁忌……――ん?だが待て、それが発見されたとあらばこの世界は終焉に導くであろう程に、厄災が振りまかれる筈…今回観測されたのは神秘なのか?それとも恐怖…?」
此処でアルカディスが横に眼を遣りながら「やれやれ…」と溜息を零しながら視線を送る。
全身が漆色に染まり一才の光を感じさせないダークな天竜衆。唯一、瞳とも呼べる両目は白い為、彼にも瞳があることは確認できる。彼の名はオハバリ。真名は『プルート』――『管理者』の価値、意味を担う者。
背中には一太刀の邪悪で禍々しい剣を滞納させており、純白な瞳――白眼である。三本のアホ毛とも呼べるトサカが主張しており、全てが謎に包まれてる、これもまた不可解な天竜衆だ。
「恐怖でした。然しそれはたった一人の少年により、恐怖を手にした彼女は元の姿に戻ったのです。通常では絶対という法則と呼べるに等しくあり得ない現象を――」
「ほぉ……」
ジョナサンの言葉に一同は食い付くように聞き取る。
「神の器が恐怖を手にすれば死ぬまで永遠に戻らない筈だが…?つまり法則を巻き戻す者、それすら打ち破る異端者が存在したと言うことか?」
「何者ですかソイツ――我々が手に入れた神秘と恐怖…崇高までは至りませんが、それでも多くを手にした我々の存在や価値さえも観測されない未知なる存在なのです?領域に辿り着いた者を無効化にする…と解釈しても可笑しくない現象を引き起こした少年の名は?」
沈黙を貫いてた鳥類と爬虫類を混合させた天竜衆――『
カカビコ=真名をアヴァリス――『欲望者』を冠する者であり、ワダツミ=真名をリチュアルズ――『儀式者』を冠する者である。
「少年の名を結城守――然して神秘も恐怖も観測されない、無価値に等しいものだと解釈しておりましたが……神魔の恐怖を駆使していた少女を、何の超常現象も所有しておらず…駆使する事なく元に戻したと考え、私は彼を不可能を可能にし、奇跡を引き起こす、正しい選択肢へと自ら導く『投げられた賽』――つまりは、『
個性も忍術も所有せず、覚醒にすら至らない…つまり、無価値である存在と認識。其れはこの世で言う無個性、覚醒にも至らず、超秘伝忍法書さえ所有してない、何の価値もない無意味を冠する存在。それが結城守だった――然しそれは誰もが予想だにしない奇跡を引き起こした。その奇跡を紐解き考察するに至り、奇跡と呼ばれる根源は……。
「……それが真実だとしたら、恐らく浄化者か?穢れを取り除き、神秘と恐怖も観測されない…空白の崇高を手にしていると?」
「変換された価値…または神魔の器となっている者か……それとも我々の知識すら及ばない『失われた神』と呼ばれる類か?それも代償無しで…?或いは『バステトと同じ
「……ふむ、分かりました。取り敢えずその者は我々が見守りましょう。もしその話が本当ならば『パンドラの抑止力』ともなり、寧ろ我々の探究を邪魔される事なく進められます。聞いている分には、我々に不利などころか混沌を塞ぐ…所謂『鍵』とも捉えれます。危険分子でないと観測はされますが…同時に未知が多い分、我々と同じ不可解な存在である事に変わりは御座いません――ならば見守るべきかと」
クドラウムとジャッジが怪訝そうに眉を顰め、議論を重ねる中、教官は指を組みながら一つの結論を出す。
パンドラの箱が開かれたなら、開く前に鍵を閉めれば良い。絶望が外へ振り撒くのなら、全部の厄災が振りまかれる前に箱を閉じて鍵を締めれば良い。つまり、少年はパンドラの鍵となるのだ。ならば下手に動いて刺激を与えるより、分析、理解を深める為に見守ることを先決するのが英断とも呼べるだろう。
「正に『お互いが完成された作品』――で御座いますね」
「じゃあよ教官、俺はパンドラの器を殺さなくて良いってことか?」
「ええ、リチュアルズの儀式を通じて器と神を引き剥がし、封印の役目を与えるつもりでしたが……我々もまた神に対して非常に興味深い研究対象の一種でも御座います。無理に焦らずともこれから議題を交えて解決策を編み出していけば良いでしょう――我々はまだその予測不能な変数である『教導者』、神の器に関しても未知が多過ぎる。先ずは観測を通じて知っていくことから始めましょう。その存在について確認出来たのも『ジョナサン』のお陰でも有ります」
「寧ろ儂も興味深いわい……畏敬と神聖――人智を以てしても理解されない、崇高された存在こそ神を模るモノ…神の怒り、絶望、穢れ、負を象徴とした恐怖を打ち消す少年…それも何の対価も犠牲も無しに……人に戻す不可思議な存在。我々と同じ領域の、不可解な者であるのなら、奴の存在がどう世界の解き明かされない謎を解明するのじゃろうな?」
教官に珍しく同意するリチュアルズは、何やら結城守という不可解な存在を大きく気に入ってるようだ。
人間は神を理解できず、神もまた理解を示されない不可解な存在――崇高であると確信している。だが神は人間を理解できるのか?否――理解する必要はないのだろう。何故ならどう足掻こうと神とは崇拝され、信仰されるべき存在で有り、人間が神の前で取る行動などたかが知れている。だが、神でさえ理解不可能な人間を何と呼称するのだろう?それもまた神であるのだろうか?結城守と呼ばれる予測不能な変数は、神にどのような影響を与えるのか?
だからこそ、興味深い。
「良かったじゃないかプルート、厄介な神を相手にせずに…と言うよりも、君が亡くなってしまえば異界の門を管理、世界のバランスを保つための管轄者がいなくなっては最高の成果を生み出すことは不可能だからね。とはいえ、ボクもその少年について興味を抱いたのは事実だ――そもそも、少年と神の器とはどのような接点があったのか…因果関係や感情の根源とも関わりがあるのかもしれないね。何より言ってしまえばジョナサンの言う様々なテクストが窺える。これをどう答えとして導くのか、どのような表現をすれば良いのか……」
「……バステト皇女、古代の神官、『ノアの方舟』、予測不能な変数である『教導者』、『偉大なる母君』、『太古の福者』、『廃墟のマジシャン』、『megidoraon』、『礼拝を冠する氷の聖杯』、こうして傍観的になると解決するべき議題が多くあるな…」
「ええ、世の中には我々が知り得ないモノ、現象……新たに発見される謎、この世界は興味が尽きることなく湧き起こる…それもまた実に興味深い事です」
「『礼拝を冠する氷の聖杯』は私に任せたまえ――それにもう少しでアレが受肉する…素晴らしい芸術作品が顕現されるのだ。嗚呼、是非ともその時は貴下達に小さな成功を祝って貰いたい……」
「各々の感想は良しとして…これで緊急の議題は解決したと見做して問題ないね?それなら解散と行こうじゃないか――」
「ええ、その前にアルカディス――少々お時間宜しいでしょうか?少し気になる点が…」
「ふむ?教官が珍しい……怨楼血の件かい?」
「いえ、それとは別の……――」
「ん……」
疲れ切った体が鈍く重い。
瞼を開けると見知らぬ白い天井が広がり、内心困惑する。最初に心の中で思った言葉は…
(此処は、何処なの?)
昨夜から一夜明け、疲労が溜まり、眠り果ててしまった少女――絶恵勇希は、ソッと目を擦る。
腕には点滴が繋がっており、栄養補給され、体力を回復させている。となると此処は病院だろうか?もう何年間も太陽の光が届かない薄暗く寒い牢獄で地獄のような毎日を送られていたので、治療を受けているという知るだけで特別な感情が心に温もりを与える。
「…ッ!そうだ、守!!」
点滴に繋がり、包帯を巻かれた少女は、自分の身に置かれてる状況よりも友人の守を先に心配する。
何処だろうと部屋を見渡しながら、守を探すも姿は見えない。それどころか部屋には一人の女性が彼女の声に気付き振り向いた。
「おや、お目覚めのようですね」
勇希の声に反応した女性は、冷たくとも緩やかで優しい言葉をかける。容姿を見て少女は息を詰まらせた。
美白とも呼べる雪のような肌、瞳は炭の様な漆色、白と黒を一層強くさせた衣装、春の季節だと言うのに黒の扇子を胸に当てる女性を一言で表すのなら、仙姿玉質がお似合いだろう。
スタイルや身嗜みは人攫いに会う前から余り気に掛けた事は無いが、この女性を見て自分も見習いたいと思ってしまったのは、必然的だろう。
「ここは…?貴女は……誰?守…は?」
「突然、見知らぬ場所へ連れては混乱するのも致し方ないでしょうが、落ち着きなさい。御安心を…守さんは無事です。
私は雪不帰、此処は病院ですよ」
病院――となれば、この点滴も治療を施してるのも頷ける。起きるまで看病してくれたのだろうか?だとすると、悪い大人では無いことは明らかだろう。
「よく、生きて外へ出てこれましたね――」
生き残った小さな希望、勇希と言う少女に差し向ける瞳は、とても心地良い、心の底から安心する優しい眼だった。
貴方達全員宇宙猫である。
それはそれとしてアルカディス…カグツチの容姿はお察しの方も居ます。はい、Re ゼロのエキドナです。あんな可愛らしくて魔女という洋服やファンタジーな様相した彼女。めっちゃ好みです。