光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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はーい、どぉも〜。
まさか爆豪との喧嘩祭かと思いました?残念、特別編です〜!
えっ、なぜ開いたのかですって?
う〜ん…特に理由は大したことでは無いのですがね…お気に入りも増えたし、読者も愛読して下さるし、感想バシバシ送ってくれるでちょっとね。やりました。
まあ一番の理由はこのエピソード描きたい!今やらんと忘れそう!とのことからやり始めました。



特別編「巡り巡って誰かの為に」

 

 お金が有れば何でも手に入る。

 金という力は膨大な物、時に人を狂わせ、剰え人の命さえも左右する事になる、魅力的で恐ろしいものだ。

 人身売買や臓器売買を含め、金で人を買うことが出来る世の中は、歪にして気味が悪い。そう考えると、人生の多くが金によって支配されてると言われても過言では無いのだろう。

 しかし、金を憎めば、時に救われることだってある。お金があれば飢えを満たすことも、雨水を凌ぐ家を手に入れることも、欲しいものだって簡単に手に入る。医療で人の命だって救える。

 お金は使い方次第で、人を苦しめることも、救えることだって可能なのだ。

 そう考えると、お金という紙切れや小さな硬貨は、世の中に無くてはならない、生きる上で欠かせない物だと、認識させられる。

 

 

 そう――お父さんとお母さんが、自分の命を切り売りしてまで…私を残してくれたように…憎むことはあっても、否定することは出来ないのも事実である。

 

 

 これは〝詠〟という、私が蛇女の悪忍に入学する前の、忍名が付けられる前のお話…

 

 

 

 

 

 私が齢四歳の頃、初めて自分は周りの人間と一緒では無いという現実を知った。

 産まれた時から貧しく何も無く、お金に困り貧民街で育った私は、何も無いことが普通だと思っていた。

 とても家とは言い難いボロい住居は錆びた鉄の板で何とか作られ、電気も水道も通ってない家が普通だと思ってた。

 食事は1日に一回のみで、具のない味噌汁と漬けた野草を食すのが普通だと思ってた。

 ごみ収集所に行き、珍しいものが無いか探したり、食料を確保するには野草を摘み取ったりするのが普通だと思ってた。

 

 そんな自分の中にある普通という常識は、お金を持つ人間からすれば汚れた異端者に見えるだろう。

 其れもそのはず…持つ者と持たざる者の価値観は違う。

 私はお金を持つ人間を前に信じられなかったことも、衝撃を受けたこともあった。

 何故、人は自分達とは違いここまで恵まれ裕福な生活を送ることが出来るのかと…明日食う飯を調達しず、金という紙切れや硬貨で全て丸く収める大人達を前に、当時は軽い眩暈も起きた。

 別にキッカケは大したことはない。四歳になった自分は遠い場所にさえ出なければ問題ないのと、いつも仲良しでいてくれる幼馴染がいたから、余程のことがない限り心配はされなかった。

 貧民街…乞食谷戸とも呼べる貧しい街の外に出て、違う地区がどんな世界なのか見たいという好奇心が勝ってたので、友達と一緒に観に行っただけだ。

 隣町だったので大した距離もなければ、特にどうってことはない。少し恵まれてる位が予想つくハズだったのだが…予想の斜め上を行って受け入れ難い光景でもあった。

 それと同時に、恐怖心も抱いたりした。

 大きなビル、屋台、綺麗な服を着こなす自分達よりも身長が高い大人たち、他にも様々な物があったが、何も知らない自分からすれば全て異常に見えるのも致し方ない事だろう。

 

 

 そこで、ふと思ったのである。

 

 これが人間として普通の生活ならば…私たち貧民街に住まう人間は、どうなのか…と。

 

 異常か?

 穢れか?

 不潔か?

 

 何故、同じ国内に住む自分達だけが貧しく飢えに苦しまなければならないのだろう…と、幼少期の頃に悩んでた自分は、幼馴染にして唯一信頼ある友達と何度も話し合っていた。

 あの子はとても気が優しくて、どんな時も側にいてくれた。

 遊びやお出かけ、食事や就寝まで一緒だった。

 私のお父さんとお母さんは自分を育てるために、お金を稼ぐのに精一杯で不在が多かったから…だから、近所の隣の家に住まう私はあの子と両親によくお世話になって貰ってた。

 貧しくて、空腹に苦しんでも、決して不幸とは思わなかった。

 幼馴染である友達が、私と一緒にいてくれるから…ずっと一緒だったから…その友情がある限り、そして両親の愛情がある限り…どんなに貧しく厳しい環境に身を置かれても我慢できたし、不幸せとは思わなかった。

 

 

 あの子が突然消えることになる前までは――

 幼馴染の子はある日、別れの言葉も告げず、何の予兆もなく、忽然と姿を消したのだ。

 無論…私は焦りもした、軽く悲鳴を上げれば探したりもした。

 人攫いにあったのか、何処かへ出かけたのか、何かあったのか、次々と連鎖的に発想が広がり、不安と恐怖が繰り広げる妄想と供に止まらず、泣き叫んだりもした。

 どうして居なくなってしまったの、何で消えちゃったの、そんな答えに辿り着けない疑問を延々と自問自答してたりもした。

 唯一、考えられるキッカケが有るとすれば、其れは両親に関係があるのではないか、と…幼い自分は率直で理解した。

 一週間前、あの子の両親は事故に遭って死んでしまったのだ。

 何でも車に跳ねられたとか…大人の人達が口に出していて、幼馴染の子は断然否定していた。

 けれど、両親の死因に納得がいかず、現実を受け止めきれない彼女は心に自信が無くなり蓋をするようになった。

 安いゴミ袋で顔を覆い隠し、弱気な自分を隠してるようで仕方なかった。周りの子供からは「ゴミ袋」「貧乏人」「ダサい」なんて悪質な言葉を投げかけられても、私は絶対に笑わなかった。

 寧ろ…

 

「見てみて〜!村雲ちゃん!」

 

 私はゴミ収集所に集められてた〝もやし袋〟をテープでくっつけ、仮面のように多い被り、村雲(あの子)とお揃いになったりした。

 勿論、私も周りの子供からも罵倒を受けたりもした。けれど、私はそれが惨めだとは思わなかった。

 友達なら、守ってあげれば庇ったりも出来る。一緒に笑いあって泣きあって、バカにされたり笑われたりもする。

 私の中の友達とは、そう言う意識が確かに存在していたから。

 だからなのか、あの子は皆んなにバカにされても、私と一緒にいる時は震えなかったし、私の前だけ素顔を見せてくれたりもした。

 あの子と私は、唯一信頼しあえる、とっても大事な友達だったのだ。

 

 だからこそ…突拍子で消えてしまったのは、今でも受け入れ難いし、心残りもある。

 悪忍として、そして抜忍になってからも決して忘れたことが無い。

 私はあの子がいなくなり、小学校に入ってからよくバカにされてきた。

 未来さんほどの悪質な虐めは受けていないが、お金がないのと、貧乏人という理由だけで、友達も作れなかった。

「アイツ、遊園地に一回も行ったことが無いんだぜ」「あの子ってなんか、ゴミ臭いよね」「給食すら出ないんだって、可哀想だよな」「どんだけ貧乏人なんだよ」

 なんて、陰口は日常茶飯事のように言われ続けてたりもしたし、貧困という物がどれだけ今の現実を痛め付けてるのかが理解できる。

 お金がない、たったそれだけで人は生きる世界も立場も変わる。恵まれた子供ばかりで吐き気もしたし、時に苛立ちもした。

 

 それだけならまだ良かっただろう。小学校を入学して間もない頃、両親は私を置いて消えてしまったのだ。

 幼少期の頃からお父さんとお母さん仕事で不在が多かったが、村雲ちゃんの両親が消えてから、家族のプライベートや私の世話もあってか、仕事を離れて教養に専念するようになったのだ。

 友達が消えてしまった悲しみもあれば、家族とまた有意義に過ごせる事にほんのりとした幸せを感じるも、小学校に入学してからは絶望のどん底へ突き落とされた錯覚に見舞われた。

 

 どうして、お父さんとお母さんは消えてしまったの?

 私と一緒に暮らすのが、本当は嫌だったから?

 あの頃の幸せは、全部嘘だったの?

 

 自然と涙が溢れ、一晩中泣き噦ってたのは今でも覚えてる。その日以降、私は憎しみという感情を強く抱く事になった。

 親は私を捨てた、その事実が私の憎悪の導火線に火を点け、恨みをバネに独りで生きてきた。

 

 だが三日後に私は知らない大人に声をかけられ、児童養護施設である孤児院に連れていかれた。

 恵まれない子供、親に捨てられた者、虐待を受けた者、ひとり身になった者が呼び集められ、私は唐突な出来事に頭の整理がつかなかった。

 後々と聞いたのが、孤児院とは親のいない、又は何かしらの理由で教養を受けれなかった児童が集められる施設だそうで、私を引き取ってくれたそうだ。

 …正直私は孤児院が建てられたことも、入る身に覚えもなかったが、当初は知識も世渡りも浅かったので「そうなんだ」で物事を丸く収めていた。

 小さな子供や、怯えた子供、少しお調子者の子や、私と同い年の子もいたし、見たところ小さな子供の殆どが貧民街出身だという事に気付いたのだ。

 それなら確かに私もこの施設に入れられるのも不思議では無いし、何となく物事に納得する部分もあった。

 私が知ってる中では貧民街の近くにはこのような施設は無かったのだが…

 

「はぁ〜い児童の皆んなよく聞いて、今日はこの施設を建ててくれたお姉ちゃんがまた逢いに来たよ〜!」

 

 孤児院で私たちの面倒を見てくれるおばさんの一声に、子供たちは歓喜の声を上げ集まるように動いていく。

 施設を建ててくれた?ということは、私達恵まれない人間の味方なのだろうか?と、私はついつい好奇心に釣られて一人、片隅に座りながら黙々と聞くことにした。

 

「わぁ〜久し振りね皆んな!元気にしてたかな?」

 

 颯爽と現れた女性に、私は息を呑んだ。

 なんて…可愛らしくて、綺麗なのだろうか…と。

 薄い紅髪に、白肌はまるで太陽の光だ。大人の女性の魅力という物なのだろうか、容姿も整えており美形の言葉では足したり無いほど、その女性は完璧だった。

 

「あまざきお姉〜ちゃんだー!」

「ねーねー!おねーちゃん、あのねー!ネネね、あやとり出来たんだよ!」

「僕の個性見てよ!ファイヤー!」

「ぼ、僕の個性も見てみて…」

「ねーねー、お手玉やって!」

 

 男女問わず、嵐のような言葉に彼女は一切顔を歪めず、お淑やかに「はいはい、待っててね。順番は守らなくっちゃ、良い子にはお菓子あげるから待っててね?」と、まるで本物の妹と接してるようで、アレが姉というものなんだな…と何故か感心させられた。

 

「何よ……あの人…」

 

 でも、何だろう…釈然としなかった。

 何というか、心の靄が染み付いて、納得出来ないというか…恵まれた人間が私達を相手にしてる光景は中々に見ないので、何か裏があるんじゃないかと疑わしく考えていた。

 そんな私の憎悪に近い眼差しに勘付いた彼女は、私の顔を見るや不思議そうな様子だ。

 

「あれ?あの子はだぁれ?見ない顔だけど…」

 

 一人一人の子供も優しくあやす女性は、近くにいたおばさんに声をかける。

 何やらヒソヒソ話をしてるようで、何やら無性に苛立った。陰口や陰湿な言葉を聞いてるからなのか、何故かと不審に思ってしまう。

 そんな私に気を配ったのだろう、近づいて来て声をかけて貰った。

 

「こんにちは月夜ちゃん♪」

 

 天真爛漫な笑顔に、思わず頬を赤く染めてしまうも「…何?」と、小学生には似合わない反抗な声を張る。

 

「君、独りだから…寂しいのかなって思って、声をかけちゃった♪それに見ない顔だし…あっ、ここはこんにちは、じゃなくて初めまして…だったわね、うっかりうっかり♪」

 

 コツン…と、優しく自分の頭に拳骨を入れる仕草に、「何だ変な人…」と批判的な主観で彼女を見つめていた。

 

「どうしたの、独りじゃ淋しいよ?こっちに来て皆んなで遊ぼ?」

 

 だけど…何故か、心を許してしまいそうな…とても明るくて優しくて、綺麗な水のように透き通った言葉が、私の憎悪を浄化してくれるような、そんな神秘的な気分になってしまう。

 

「月夜ちゃんは何をして遊びたい?あっ、絵本読む?それともお腹空いた?けど今日の夜は凄く美味しいお菓子があるから楽しみにしてると良いわ♪あっ、じゃあおままごとでも遊ぶ?」

 

 聞けば聞くほど泣き叫びたくなるような、思わず…何故かと甘えたくなってしまいそうな綺麗な声に、抱きしめて縋りたいような衝動を抑え殺し、私は憎しみに染まった私で彼女の差し伸べる手を振り払う。

 

 

「もう放っておいてよ!!!!!」

 

 

 私の天に突く怒鳴り声に、部屋にいる子供たちは愚か、おばさんや彼女自身も面食らった様子で、私は部屋に走って逃げ込むように飛び出して行った。

 

「あ〜…ごめんね天咲ちゃん…あの子、実はね…まだ貴女のことを知らなくて…」

「月夜ちゃん…怖かった…おねーちゃんは怖かったー?」

 

 おばさんと音練ネネちゃんの声に、彼女は「ううん、大丈夫だよ?」と言葉を返す。

 

「でも…そうだね。放ってはおけないかな…何かあると思うし、それに…()()()()()()()()()もん……」

 

 何よりも、あの憎悪に染まった眼を、私は沢山見て来たから…

 忍や敵、妖魔…数々の存在を私は幾度となく見て来たから、相手の悪意や敵意は、手足のように肌で感じ探り取れる。

 

「私からも注意深くするように気をつけ…」

「あー良いんです!私も、何も知らずにズケズケと…入り込んじゃったかなって――」ヴーッ!ヴーッ!

 携帯の着信音に気がついた私は、端末を耳に当て、着信相手のリカバリーガールの話に耳を通す。

 

「えっ?!桃ちゃんの意識が戻った!?良かったぁぁ〜…あの子、妖魔の巣で生き残れた子供だもんね…良かったよ……隣にいた傷だらけの子は?

 ダメ…だったの…そっか……うん、わかった、直ぐそっちに行きます。はい、有難う御座います」

 

 私は直ぐに電話を切ると、手早く荷物を持って搬送病院先に出発する準備を整える。

 

「ゴメンね皆んな、お姉ちゃん急用が出ちゃって…いつもより早いけどお姉ちゃん行くね?」

 

 え〜!まだ遊びたい!なんて反対や駄々をこねる子供の言葉に苦笑する私は、おばさんになんとか説得させて貰うことにして、足早と病院に駆けつけに行く。

 

 

 あの女性が孤児院から離れて一ヶ月後、月夜()は、何気なく何時ものように学校から帰ったある日、私は孤児院のおばさんから大事な話があると言われ、ワンツーマンの状態でおばさんの部屋に入れて貰った。

 何だろう?ここに呼ばれたのは、あのお姉さんに反抗的な態度を取って叱られて以降、一度も呼ばれた覚えはないし、問題行動は犯してないはずだ。

 

 しかし次に発する言葉に私は世界が一変するような、衝撃の事実が吐き付けられた。

 

 

「えっ?お父さんとお母さんは…私のためにお金を?」

 

 

 なんと、信じられない事に私の両親はお金を残す為に他界したのだ。

 私を残して失踪したのではない…私の為に、命を切り売りしてまでお金を稼ぎ、将来のためにお金を残してやりくりをしていたのだ。

 最初は信じられなかった…けど、何処か気がかりな部分も有ったのも事実…

 何故、何の性懲りもなく孤児院は私を迎えたのだろうか?何故、私以外の子があの女性に親しみを込めて姉と呼んでたのか、何となく理解した。

 

 

 私の両親は切り売りしたお金で、孤児院に預けて貰ったのだ。それもかなりの大金らしく、将来と言うよりも、高校に進むまでの莫大なお金が用意されてたらしく、私は軽く失神しそうになった。

 まだ小学生の私が、親の死因が私のためにの切り売りなんて、普通の人間は受け入れますか?いいえ、無理でしょう…特に、両親を愛し、そして憎んだ私なら尚更です。

 もう一つ気がかりだったのが、何故…今になって話したのか…だ。

 最初は話せば傷付けるかもしれないという憂慮だった、天咲光芭というお姉さんに反抗的な態度を取り、きちんと向き合い話さねばならないと決心したらしい。

 

 その全ての事実を聞かされた私は、泣いた。ただ泣いた、ひたすら泣いた。

 現実の理不尽に打ちのめされ、大好きで私の為を思って残してくれた両親の愛情を、私は憎しみで燃やし、恨みで踏み躙り、行きてきたのだから…私は歪んでる。

 

「両親に…せめて、謝りたい……」

 

 御免なさい。

 大好きな二人を恨んでゴメンなさい。

 憎み嫌って、ごめんなさい。

 

 全部、間違ってた…

 でも、遅かった…

 何もかも遅かったのだ全て…

 

 お金は不自由のない魅力的な存在だと、憎み嫌い、贅沢と金持ちは敵だと認識していた。

 金があれば何でも手に入る。

 食料も、道具も、命さえも…でも、お金で買えない物だって確かに存在する。

 

 それは、消えてしまった命。

 死んでしまった命は二度と元に戻らない、蘇生なんて漫画な展開など起こりえない。散った命は回帰しない。

 

 私は…ただただ後悔と挫折に心を折らし、部屋の片隅で自分の弱さを隠すように座り込む。

 私は…なんでこんなに情けないのだろうか…生きてることに恥を思う…

 なんて自虐的な言葉で現実逃避をしていると、又してもあの人がやって来た。

 

 

 確か、天咲光芭というお姉さんだ。

 今度は何十個もの大きなダンボールを一人で抱え込み、見かけによらず力自慢で強いお姉さんなんだな、という印象も受けた。

「何が入ってるの〜?」と中身を急かし開けるや否やで、沢山のお菓子が積み込まれていた。

 見たことのない菓子類に目を輝かせる子供達、普段の私なら、好奇心に釣られて覗きに行くのだろうが、生憎今はそんな気分じゃない。

 私は独りになりたい気分だったので、外へ出て私のお気に入りの場所でズッと座り込んだまま外の景色を眺めていた。

 空は漆黒の色に染まっており、点々とした綺麗な星が輝かしく、貧民街でありながらいつ見ても美しい光景だ。

 

「わぁ〜!お星様綺麗だね〜!」

 

 ふと後ろから声をかけられ、私はビクッ!と反応する。

 声の主は天咲光芭さん、お上品な笑顔に彼女は「隣、座るね?」と私の承諾を受けず、座り込む。

 跡を追っていた?いや、それにしては気配も無かったし、足音すら聞こえなかった。

 

「何の…様ですか?」

 

 私は両親の本当の死を目の当たりにした苦悩を隠すように、ぶっきら棒な口調で言ってみた。

 

「ん?いやぁ、月夜ちゃん今日も元気ないな〜って。ここは君のお気に入りなのかな?ふふ、何かあったんじゃないかなって心配して」

 

「別に…何とも無いですよ?」

 

「そんな事ないよ、何ともない人間が元気も無く外に出るなんて滅多にないよ?子どもは正直だからね〜、見ただけで解っちゃうんだな〜それが!」

 

 彼女の言葉は、やはり私の心を落ち着かせてくれる様で、まるで声そのものが孤独たる私の心を撫でてくれれような錯覚に陥る。

 不思議な気分だ…両親や村雲ちゃん以外に、こうして優しく積極的に接してくれるのは、彼女で初めてだ。

 

「……どうせ話しても、理解なんてしてくれませんよ……只でさえ、貧しく何もない人間と…裕福で育った貴女が…私のことなんて…」

 

「………」

 

 私の弱音に、お姉さんは何も言わない。

 ただ真面目に、何も言わずにジッと耳を傾ける。

 

「私はお金が無くても…両親と一緒にいれるなら…それで良かった……どれだけ貧しくても、お金が無い惨めな人間でも…お父さんとお母さんの愛情があれば、辛いことも貧しさによる苦しみも…耐え忍ぶことが出来た……」

 

 でも、私の大好きなお父さんとお母さんは…死んじゃった。

 

「信じてた両親を…恨んで生きてきたのです……私を置いて捨てたんじゃ無いかって…そんな事なかったのに……私はお父さんとお母さんの苦しみを理解せず…自分の命を削り切り捨ててまで……私のために残してくれて……それを今日知って…何をどうすれば良いのかもう…解らなくて……」

 

 いつのまにか私は弱音を吐き続け、止まる事を知らなかった。

 気付けば自然と口は動き、私の愚痴も本音も、全て彼女の前で漏れていた。

 

「命の切り売り……そっか、だから月夜ちゃんだけ私は知らなかったんだね…」

 

「何の…ことですか?」

 

「君の両親も…()()()()()()()()()()()()……命の切り売りなんて…あの闇組織が頻繁的に行われてるから…可能性は大きいな……」

 

 忍性戒は最近、オール・フォー・ワンと名乗る悪の象徴と供に問題事件を起こしてる極悪な組織だ。

 人身売買や臓器売買など日常茶飯事に行われ、況してや殺し屋から人攫いによる被害も絶え間ないと聞く。

 因みに第五支部、第四支部と思われるアジトは陽花が自力で探り当て、二つのグループを潰したと言う。

 個性を持つ人間は大方、オール・フォー・ワンが買い占め個性を奪いまくってると聞くし…

 

「ううん、何でもないよ月夜ちゃん」

 

 初めて、でもほんの僅かな…刹那に等しい言葉だが、このお姉さんから尋常じゃない怒気を見た気がする。

 

「だって、皆んな私が()()()()()なのに、君だけは見覚えなかったから…忘れたって線も考え難いし…新人さんかな?って思ってね、気になってたんだ〜」

 

「え?た、救けた?貴女、何を言ってるんですか?」

 

「えっ?何って…あの子たちは皆んな私が貧困と災害、虐待に人攫いの被害まで遭ったのを私が救けた子達だよ?」

 

 その言葉に私は鳥肌が立った。

 別に悪い意味では無いのだが、本当にそんな人がこの世に居たことに驚きを隠せなかった。そう言えば、この孤児院を建ててくれたのも、彼女のお陰だと聞くし…

 

「もしかして聞かされてなかった?てっきりもう噂で知ってるものかと…」

 

 そんな聖人君子がいたのか。

 逆に彼女はなぜ、そこまでして赤の他人である私たちを…?意味が、理解出来なかった。

 

「そんな…ことして…何の価値になるんです?赤の他人を助けても、何の意味もないのに…貴女には貴女のやるべきことがあるんじゃない…ですか?」

 

 私の見てきた恵まれた人間は自分のことで精一杯だ。

 況してや、孤児院に聞いた話だとお金を寄付してくれてるんだとか、その金額は3000万円、とても得するような行為だとは思えなかった。

 

 

「そんな事ないよ。赤の他人でも、誰かの為に人を助けることは決して無価値じゃないよ!誰かの力になることは、巡り巡って自分の為になるんだから、私は誰かを助ける行為が無意味だとは思えないかな

 

 

 明るく、元気よく活発に彼女はそう断言した。

 そんな笑顔に似せた彼女の微笑みは、女神のように美しく、息が詰まった。

 

「君は凄い子だなぁ…こんなに小さくて、可愛い子が大人のことにしっかりしてるなんて。もしかしたら君の方が、お姉ちゃんに向いてるのかもね♪」

 

 よしよし、と優しく頭を撫でてくれる。

 そんな彼女の手には温もりが篭っていた。

 なんて、暖かいんだろう…優しくて、憎しみの感情が溶けていくような、お日様の光に照らされ包まれてるような優しい感触に、思わず目頭が熱くなる。

 

「お父さんとお母さんが残してくれた命…ちゃんと大事にしなくちゃね。辛かったね、苦しかったね…でも、よく耐え忍んだね。君は強い子だ、でももう安心して良いんだよ。

 人は孤独にならない為に、誰かが背中を押してくれるから、支えてくれるから…もう、これ以上苦しまなくても良い、悲しまなくても良い、貴女が両親を思う心さえ忘れていなければ、貴女の心の中にお父さんもお母さんも、生き続けることが出来るんだから」

 

 生き続ける…

 そんなこと、考えもしなかった。

 私が両親への愛情と想いを忘れぬ限り、両親は消えない、死なない、何時迄も生き続けることが出来る。

 当時の自分は、いや…だからこそ解らなかったのだろう。

 

 

 貴女を思う両親の情が、糸として結び繋きで命を救うことは、荒くれた現代社会ではヒーローでも忍でもない限り、殆ど有り得ない光景なのだから。

 

 

「う、ふえぇ…え…」

 

 私は嗚咽を漏らし、自然と大粒の涙が零れ落ちた。

 嬉しさと、孤独の開放感、悲しみと憎しみが浄化され、私は彼女の…天咲光芭さんの行いを、偽善とは見れなかった。

 

「うわああああぁあぁぁぁーーーーーー!!!」

 

「よく頑張ったね…君は優しくて強い子だ、凄い子だ…泣きたい時には泣けば良い。愛する誰かを失って泣くことは、自然の成り行き…きっと涙が枯れた頃には君はもっと強くなってるよ」

 

 まるで妹をあやすかのような居心地は、自分が本物の妹になったようだ。

 抱きしめて、我武者羅に泣き続け、彼女に目一杯甘えた。

 

「でもね月夜ちゃん。この世界は必ず、独りでは生きていけない。人は孤独を好む物もいるけど、孤独では生きていけないの。だからね、お姉ちゃんからのアドバイス――仲間を探すの。

 貴女の為に命を張れる、預けれる、貴女を大切に思ってくれる仲間を、探し当てるの――其れはきっと、貴女の背中を押して、支えとなり強くしてくれる。どんなに辛くても苦しくても、決して一人じゃなくなる」

 

 1足す1が2になる答えは数学の定理だ。

 だが、世の中単純な物事では成り立たない…数字が違うこともある。

 1足す1は、2ではない。仲間の数だけ強くなれるのだ。

 

「仲間…」

 

「なんて、月夜ちゃんの場合は…友達かな?」

 

 彼女はニパーッとした爛漫な笑顔でいつまでも私の頭を撫でてくれる。

 

「どうしたら、私もお姉さんみたいになれるの?」

 

「えっ!?あ〜…それは……言えない、私が忍だって事はバレちゃダメなんだ……カグラ…は?ううん、其れもダメだよね?どーすれば良いんだろう私嘘つくの凄く苦手なのに……忍の子供なら言えなくもないけど…悩むなぁ…俊典くんが居てくれたら助かるんだけどなぁ……」

 

 私の純粋な疑問と眼差しに、急に冷や汗を流しテンパる動作をしだした彼女は、ぎこちない言葉で何やら独り言を呟いている。

 私は小首を傾げながら、お姉さんの瞳を真っ直ぐ見続ける。

 

「…もし、運が良ければ、きっと私みたいになれるかな?でも、それは危険な諸刃の剣の道のりでもあるし、時に挫折し呆気なく散ってしまう命でもあるし…」

 

「?」

 

「ま、まあ兎に角!月夜ちゃんは本当に自分の進みたい道を見つけたら、その道へ進むと良いんじゃないかな!?ホラ、時が経つにつれて人の心は変わったりもするから、今すぐに決めつけなくても良いんじゃ…ない?」

 

 何とも拭いきれない言葉だろうか…

 それとも、人には言えない事情があるのだろうか?

 私はお姉さんが去って行ってからも決して曲げず、自分が不幸せでないことを実感できた。

 それから月に一回は必ず彼女と逢うことができた。

 時にもやしの話でざっと1時間費やした事もあったし、遊戯も付き合ってくれた、宿題で解らないことはサッと解けた。

 本当に、お母さんのようでお姉ちゃんのような存在だった。

 

 

 けど、年月が経ち驚愕な事実が明かされた。

 天咲光芭は、不幸な事故で死んでしまったのだ。

 児童でここまで育ててくれた子供達は勿論、私も何度も泣き叫んだりもした。

 そもそも、あんなに逞しくて立派だったお姉さんが、不幸な事故に遭うなんて話も受け入れられなかった。

 きっと、誰かに殺されたんじゃないかと言う予想も頭に過ったりもした。

 

 それから暫くして児童施設は、資金も無くなり底がつき、鳳凰財閥によって解体し撤去された。

 元々、不法地帯に児童施設などは以ての外と言われ、多くの子供達が反対するも聞く耳持たず、お姉さんが作ってくれた施設は廃墟されたのだ。私はそんなお金持ちの財閥を恨んだ。

 あの人が残してくれた私たちの思い出の施設は、金持ちに呆気なく壊され、あろうことか鳳凰財閥は「恵まれない海外の子供達に資金を…」などと、国内の私たちを無視して救わなかった。

 高級ホテルで食事を嗜み愉快そうに、高らかに宣言する大人の隣に、私と歳が似てる子も見かけた。

 

 其れが、鳳凰財閥の娘だと理解するのに時間はかからなかった。

 

 

「私は……」

 

 

 マスコミが喝采する真中、目の前がクラクラする現実を奥歯で噛み締め、拳を力強く握り締める。

 

「天咲さん…貴女は言いましたね……人は巡り巡って、自分のためになるって、私は…」

 

 こんな貧民街で汚れた私に愛情を注いでくれた貴女の力になりたい。だからせめて、貴女の好意や思い出を踏みにじったお金持ちを葬り去ることは…

 

 

 ――私は、貴女の為に役立ちたい。

 

 

 この命、せめて…貴女の為に使えるのなら…本望だ。

 こうして私は、アテもなくどうするか悩んでた頃…丁度、大人に声をかけられた。

 

「良い眼だ…おい、お前」

 

 憎悪と憤怒に瞳を燃やしてた私に声をかけてくれたのは、40過ぎたおじさんに、漆黒の色に塗りつぶされてるトカゲの二人組みが私に寄り添って来た。

 

「おいおい良いのかよ、こんな訳の解らんヤツを連れてってよぉ〜…?」

 

「気にするな〝塗影〟――蛇女は善悪問わず寛容だ。例え一般人だろうと忍として教養すれば価値は見出せるだろう」

 

「チッ、ホントは金に困らない為の勧誘なんだろう〝道元〟よぉ〜。俺っチは蛇女研究所の施設を建てる為に土地の様子を見に来ただけだってぇのによぉ〜…」

 

 見知らぬ二人組みは何やら話し合ってる様子で、私からは何の内容なのか当時は理解できなかった。

 詳しいことは本拠地の蛇女に連れて行かれ、詳細を聞かされた。

 私は何も抵抗せず、首を縦に頷き蛇女に入学することを承諾した。

 蛇女の奨学金は、あの人が私にそうしてくれたように、施設こそはないものの、市役所のポストに寄付金30万円を仕入れ、恵まれない子供たちに私が振る舞ったお手製のもやし料理をパックに詰めて配給したりもした。

 

 そしてお嬢様と出会って、蛇女と半蔵の戦いが繰り広げられ、敵連合の漆月が攻めに来て…

 蛇女は崩壊、追っ手や私たちの後釜が刺客として送られ、伊奈佐と死闘を広げて…今思えば、この一年は本当に衝撃深いことばかりが多発している。

 

 

 私は、生涯忘れられないだろう。

 天咲さん、私…詠は――仲間と供に今を生きていますよ。

 私の側には、かけがえのない仲間が、私の背中を守り、押して、支えてくれます。

 

 皆んなの頼りになる我らがリーダー、焔ちゃん

 感情が無いと自称する、とても優しい日影さん

 時にドジをしたり、子供らしくて可愛い一面を持つ、妹のような未来さん

 誰よりもしっかりとしていているお淑やかな春花さん

 

 私を含め、焔紅蓮隊は個性的なメンバーが多くいますが、其れでも皆様と過ごす毎日はとても有意義で、辛い時も貧しさに飢える時も、ずっと一緒です。

 

 

 私は、この世に産まれて不幸せとは思わない。

 今は、凄く幸せなのですよ――私は、貴女に救われたから。

 

 

 

 

 

 街の商店街。

 紅蓮隊は全員とも今日のバイトは休みだったものの、金銭が余り財布に残ってない為、特に有意義な1日を過ごせるとは言い難いものだった。

 しかし、今だけは少しだけ違う。

 このほんの一時の瞬間だけは…

 

「詠!おばちゃんから貰ったくじ引き券を無駄にするなよ!」

「詠さんならいけるでー、がんばれー」

「詠お姉ちゃん!狙うは一等賞よ!」

「詠ちゃんならいけるわ、自分の運を信じるのよ!」

 

 くじ引き。

 なんて事はない。偶々屋台で肉まんを頼んだおばちゃんからくじ引き券を貰っただけのこと。

 少し離れた場所にくじ引きがやってたので、運試しとして挑戦してみたのだ。

 景品は残念賞がトイレットペーパー

 一等賞が旅行券

 二等賞が綺麗な壺

 三等賞が電子レンジ

 四等賞が紫色の熊のぬいぐるみ

 五等賞が菓子類の袋詰

 

「神様仏様…もしいるのなら…仲間たちに一時の恵みを…私は恵まれなくても良いんです……せめて、仲間たちだけでも、裕福たる幸せを……」

 

 己を顧みず、誰が幸せの為に、くじを引く。

 強く握りしめたくじ引きのレバーを勢いよく回し、小さな球が転がり始める。

 

 出た色は…

 

 

「おめでとうございまーす!金の一等賞が出ました!!」

 

 くじ引きを開催してる運営者の声に、五人は大歓喜の声を張り上げ肩を組み合う。

 全員が輪となるように、抱きしめあいながら喜び合った。

 

「でかしたぞ詠ぃ〜!」

「ほな流石やな詠さん」

「やったぁ〜!詠お姉ちゃん凄いよ一等賞なんて!」

「やっぱり、詠ちゃんの強運には敵わないわね♪」

 

 一人一人の眩しい笑顔が、私の視界に映り、自然と涙が溜まる。

 私もなぜだか幸せな幸福感に満たされ、思わず鼻水も出そうになる。

 

「見てみてー、旅行先は京都だって!私小学校の修学旅行以来行ってないもん!」

「油取り紙に、八つ橋に映画村…旅行としては正にうってつけね♪」

「そんなええんか京都、鹿に乗ったりするところなんか?」

「いや…鹿には乗れないぞ日影…もしや京都行ったことが無いのか?」

「詠さんも行ったことないで…ん?どないしたん?」

 

 四人の飛び交う声に耳が入らない私は、ふとあることを思い出す。

 京都は勿論私も行ったことがない。少しは行ってみたい…という気もなれたのだが、お金が無くて修学旅行なんてろくに行く機会は無かった。

 けれど…

 

 

 

 ――誰かの為にすることは、巡り巡って自分のためになるんだから

 

 

 あの人が私に言ってくれた言葉を、ふと思い出したのである。

 私の努力や、仲間を想う力は、自分のためにもなる。

 今だけでなく…今までの戦いも、そうだった。

 

「こんな所でも…私を励ましてくれるんですね…天咲さんは……」

 

 側にいなくても、背中を押してくれる。

 何故だか自然と胸が暖かくなる心地がして、喜ばしい。

 

「おーい、詠お姉ちゃんどうしたのー?」

 

「えっ、ああ…何でもありませんわ!さっ、皆様の邪魔にならないように行きましょう?」

 

「だな、抜忍狩も厳しくなったと聞いたし…私たちもズラかるぞ」

 

 焔紅蓮隊は、今日も気高く前向きに、忍の道へと精進して行く。

 私たちの忍の道に、終わりはない。

 カグラになるまで、私たちは絶対に死ねない。

 

 これが、私…詠のもう一つ隠された原点。

 私は貧しくても、仲間と供に忍の道を舞い殉じます!

 

 

 




詠ちゃん本当に詠ちゃん。
出来れば詠ちゃんの誕生日に上げてれば良かったのですが…
シノマスでもカード出現、更にシノビリフレの登場、人気投票もそこそこ上位に食い込むもやしお嬢様でございます。
如何なさいましたかな?焔紅蓮隊を久し振りに出すことが出来て嬉しいです。
因みに詠と未来の掛け合いも、未来が詠をお姉ちゃん呼ばわりするのも、詠が前に妹が欲しくって!と言ってたのも、天咲ちゃんの影響を受けています。本当に長女力が凄い。あの詠ちゃんをあそこまで心開きした彼女は凄い。

今後覚えてておいて欲しいのが、紅蓮隊、京都、巡り会い、塗影、そして壺(←オイ馬鹿野郎要らねえよw)です。
以上!
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