光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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皆さんお久しぶりです!!一週間ぶりかな?投稿遅れて申し訳ありません!今まで忙しかったと言うのもありますが、投稿の気力が一時期無くしてしまったと言うところもあります(←オイw
だって体育祭物凄く長くて…そして夜は眠たくなる時間早くて寝落ちしてしまうし…
という作者のアレで投稿が遅れてしまい本当に申し訳ありません!本当は昨日投稿しようとしたのですが、寝落ちしてしまいました。本当なら遅れてもせめて、一週間に一回は投稿するのが自分の決まりなのですが…まあこれからもなるべく投稿早くできるように頑張ります!あ、あと久しぶりの投稿なので、もしかしたら誤字があるかもしれません。その場合は温かい目で、そして優しくハチミツのように甘く指摘してくれると嬉しいです。


42話「戦いの始まりと終わりと新たな始まり」

会場は、観客の歓声が途絶えることなく響いている。

舞台の上には、クラスの誰もが認める、最強と認めざるを得ない男、爆豪勝己。

それとは真逆…いつも天真爛漫で、余り争いを好まない優しい麗かなゆるふわ少女、麗日お茶子。

お茶子は爆豪の目をジッと見つめ、いつになく緊張している。それは観客の歓声…皆んなが観てるから、それとは違う。そう、自分の目の前に立っている屈強な男、言わばクラス1・2を争う最強の男だ。

その男、爆豪勝己は物静かな目で、お茶子をジッと見つめる。

 

「オイ、お前確か浮かす奴だろ丸顔。退くなら今だぞ?()()じゃ済まねえからな」

 

丸顔呼ばわりされたお茶子は思わず反応し、僅かに眉をひそめる。やる前から分かってることだけど、今になるとより一層伝わる、爆豪は完全にやる気だ。

 

 

 

「お茶子ちゃんの戦い、緊張で手汗がぁ〜…」

 

飛鳥は手をパーにして、乾かすようにブンブンと振る。お茶子の戦いに自分も緊張してるのだろう、だがお茶子の場合はもっと緊張してるハズだ。

 

「ところで緑谷くん、爆豪くんの対策とは何だい?」

 

飯田は突然、緑谷にそう聞いてきた。

 

「あ、うーんとね…別に大した事じゃないんだけど…ホラ、かっちゃんはとても強くて、近接戦だと隙がないんだ!それにかっちゃんの強さは汗、動けば動くほど汗をかき、爆破の威力も高まるんだ!そうなると物凄く厄介になる。だから麗日さんの個性でとにかく浮かしてしまえば主導権を握れる」

 

観客の歓声は止み、静寂な空気が、会場を包む。

 

「だから…」

 

 

『START!』

 

 

「速攻だ!!」

 

 

スタートと同時に緑谷がそう言うと、掛け声と同時にお茶子は全力で走り、間合いを詰める。

 

「悪いけど!退くなんて選択肢ウチにはないから!!」

 

事故でも触れられたら浮かされる。間合いは付けられたくないはず、だから爆豪の場合は回避じゃなく迎撃。そこは分かっている。問題なのはそこからどう対処するのかだ…

爆豪は右を大振りに殴りかかる。

 

(右!)

 

先を見据えて避けようとする。お茶子は前の戦闘訓練で、爆豪が右をよく使う癖を知った。だから右から来ることは予想出来た。

 

避けるならここ!

 

だが…

 

ボオオオォォォン!!

 

「!」

 

強烈な爆破の一撃、それがお茶子に炸裂する。

それを観た観客たちは悲痛の声を上げる。それはA組の人達もだろう…

 

(あかん!分かってても反応が出来ない…間に合わん!)

 

爆豪は近接戦が最も得意だ。相手が爆豪じゃない他の人なら、まだ触れれる可能性はあるが…爆豪の個性は威力が高い分攻撃も派手だ。そう簡単に触ることが出来ない。

 

「そうか…じゃあ死ね」

 

爆豪は二歩後ろに下がり、お茶子を『警戒』する。煙が出てるためお茶子がどう来るか分からないが、爆豪にとってそれは関係なかった…出てきたらブチのめす。それだけだと…

煙から黒い人影が見える。分かる、突撃する気だ…爆豪は攻撃する準備をする。しかしお茶子は地面を這うように爆豪に近づいて来る。

 

(煙が出て視野が悪いから、俺が分からないとでも思ったか?お前が近づいて来ることくらいわーってんだ。浅はかなんだよ…!)

 

「オラァ!!」

 

爆豪は思っきしねじ伏せるように爆撃する。しかし…それはただの上着だった…

 

「なっ…!」

 

爆豪は予想外なことに驚いた。上着だけで爆豪のところに近づいてきた。それが出来るのは…お茶子の個性だ。だが肝心のお茶子は何処だ?

 

それは…

 

(ここだ!!)

 

爆豪の真後ろ…!

 

 

『上着を浮かせて這わせてたのか!よー咄嗟に思いついたもんだな!まるで忍者だぜ!忍々!』

 

「オイ…」

 

マイクが解説してるなか、忍者というワードに相澤は思わず反応してしまう。

 

(ここで浮かしちゃえば…良い!)

 

お茶子と爆豪の距離が短くなり、あと少しで触れられる…爆豪は後ろを振り向こうとするが、お茶子の方が早い。攻撃を受けても良い、爆豪なら掌で爆破してくる。だから手に当たってしまえば…しかしその考えは爆豪によって完膚なきまでに叩き潰される。

 

「死ねえぇぇ!!」

 

爆豪はなんと、後ろに振り向くと同時に爆破の威力を高めた攻撃を食らわす。それも…()のみで…

地面は爆破の威力で、削られたように抉られている。まるで…爪で描いたように…

 

『しかし爆豪の攻撃がまたもや炸裂〜!てかなんか地面が抉られてるよう見えんだけど!?何した!?』

 

「なるほど…アイツどうやら大分()()したようだな…」

 

 

相澤は感心するように呟いた。A組の席では…

 

 

「なぁ…アレって……」

 

上鳴や障子、芦戸、緑谷、気絶から復活した八百万は冷や汗を垂らす。轟は目を細めて…特に飛鳥はかなり驚いたのか、キョトンとし、目を大きく開く。

 

 

「これって…………()ちゃんの……?」

 

 

飛鳥はそう呟いた。

 

 

 

「いっつつ…」

 

お茶子は地面に数回バウンドするよう、吹き飛ばされてしまった。お茶子の体には爆豪の爆破によって受けた傷が見受けられる。

 

「ケッ!…まあ使い方は大体こんな感じか……上手く使えば多様な技が出来そうだな……これもまあ、(アイツ)と戦って閃いたんだけどな…」

 

爆豪は指のみを爆破させ、一歩前に出る。汗が垂れ、指に集中するように…本当のことを言えば、爆豪は伊達に気に入らないから、ムカつくから蛇女に行って殴り込んだ訳ではない、爆豪は体育祭に向けて何か得られるものはないかと、自分を磨くために、経験を積むために蛇女に向かったのだ。そしてその結果、強さを得られたようだ。そう、焔の強さを…

指のみ爆破させ、抉るかの如く攻撃する。まるで、鉤爪…いいや、六爪のようだ…しかしその気になれば5本全部の指を爆破させ攻撃することも出来るだろう…闘う度にセンスの輝くヤツだ。

 

 

「言ったろ?()()じゃ済まねえって」

 

 

その目は折れない不滅な闘志を宿して…爆豪は倒れてるお茶子に構わず突っ込み攻めに行く。一方、そのお茶子は間髪入れず再突進し攻撃を試みる。

 

「スゲェな爆豪、蛇女んところに行ってもう強くなったのかよ…」

 

「やっぱ才能マンだ才能マン…やだやだ!」

 

男子は感心、あるいはため息をつくが…

 

「一方、麗日は……なんつーか、やけくそになってるな…」

 

「麗日にとって一番相性悪いのは爆豪だよな…反射神経も良い何でもできる才能マン…個性も派手だし、触れなきゃダメだっていうアレだとなぁ…」

 

お茶子に対して、勝てないんじゃないか?という諦めの声も上がっている。そんななかでも、お茶子は諦めず攻める。

 

「だああぁぁ!!」

 

「遅えよ!!」

 

しかし呆気なく爆破を喰らい吹き飛ばされる。これはほぼリンチされてると言っても過言ではないだろう…

 

「おらああぁぁ!!」

 

「しつけえ!!」

 

なのにも関わらず、お茶子は諦めない。そんなお茶子に爆豪は眉をひそめ、両手で爆破を食らわせる。

 

「お茶子ちゃん…」

 

「これは…」

 

蛙吹と斑鳩は冷や汗を垂らし、爆豪の攻撃を受けているお茶子を見て手を口に抑える。

 

「爆豪のヤツ…マジになってやがんな…」

 

葛城は爆豪の様子を見てそう言った。

 

「と、止めないと、とめないと!!いくら何でもあんまりだよ!お茶子ちゃんが死んじゃうよ!!」

 

雲雀に至っては大量の涙を流して号泣している。確かに痛々しいこの場面を見せられたら、雲雀の場合泣いてしまうのは無理もない。

 

「落ち着け雲雀…気持ちは分かるが…」

 

そこで柳生が落ち着かせるように雲雀の両肩に手を置く。

 

「柳生ちゃん!止めないと…!これじゃあ、お茶子ちゃんが可哀想だよ!だから早く止めに行かないと…」

 

「大丈夫だ、その必要はない…それに心配しなくても大丈夫だ……」

 

「柳生ちゃん!!お友達が死んじゃうんだよ!?」

 

「流石に死にはしない…大袈裟過ぎるぞ…でも、そこがまた可愛いな雲雀は…」

 

柳生は雲雀を落ち着かせるが、雲雀は治らない。むしろここから飛び降りて舞台に行こうとしてるくらいだ。

 

「ふえぇ…何となく予想はついてたけど…まさか爆豪くんがここまで…」

 

「アイツ…まさかソッチ系か…!!」

 

飛鳥は耳郎と同じく手で顔を覆い、峰田は腕を組んで爆豪に引いてる。

 

「まだまだぁ!!」

 

休むことなく突撃を続けるお茶子。しかしこれは、観てるだけで痛々しい印象しか伝わってこない。それを観てる観客たちはA組の生徒たちだけでなく、爆豪とお茶子の戦いが始まる前の歓喜の顔はなくなっており、目を細め、痛々しい目線で観ている。

 

「あの変わり身が通じなくて、ヤケ起こしてるな…」

 

「一体何の勝算があって突っ込んできてんだ?」

 

「オイ…流石にやり過ぎだろコレ…」

 

「審判も…止めなくて良いのかよ?大分クソだぞ…」

 

「それな…」

 

ザワザワと嫌な雰囲気になり、観客たちの不満な声が飛び交う。

 

「馬鹿だねアイツ」

 

クスッと笑うB組の物間は、お茶子を観てから声を飛び交う観客たちに視線を向ける。

 

どれくらい時間が経ってるのか?開始してからまだ五分しか切っていないが、これを観てると時間を忘れてしまい、長く感じる。そう、それが現在この状況がずっと続いてるのだ。お茶子の息遣いは荒く、弱々しい目で爆豪を睨み、突進するものの、爆豪は攻撃を止めない。爆豪も流石に疲れてきたのか、腕で汗を拭う。

こんな状況がずっと続き、我慢の限界が来たのか、一人のヒーローが席に立ち上がる。

 

「オイお前良い加減にしろよ!!それでもヒーロー志望か!そんだけ実力差があるなら早く場外にでも放り出せよ!!」

 

突然なるブーイング。怒号の叫びが会場に響き渡る。一人のヒーローに釣られて、他のヒーローたちもブーイングし始める。

 

「俺らにこんなもん見せんな!!ふざけてんのか!」

 

「女の子痛ぶって遊んで楽しんでんじゃねーぞ!!」

 

「そーだそーだ!」

 

「審判も審判で止めろや!!」

 

ブーイングの嵐が巻き起こる。会場全体はいつの間にか激怒のブーイングで溢れている。親指を下に向けて爆豪に言い放っている。

 

『会場全体のブーイング…!しかし正直に言って俺も…』

 

ドカッ!

 

その時、相澤が肘でマイクの頬をつき払い、マイクを奪う。

 

『ちょいちょいちょーい!?何スーん…』

 

『オイ今誰だ?遊んでるっつった奴、ふざけてんのかって言った奴。プロか?何年目だ?』

 

相澤の静かな怒りを含んだ低い声が響き渡り、会場のブーイング嵐は一瞬で止み、実況している相澤を見つめる。

 

『シラフで言ってんならもう観る意味ねえから帰れ。これはただの見せ物じゃねえんだよ、いっそお前らヒーロー辞めて転職サイトでも観てろ。それが分からないお前らにヒーロー名乗る資格はない』

 

相澤の厳しい言葉に、一部は眉をひそめたりする者もいれば、キョトンと呆然とするものがいたり、納得したりする者もいる。

 

『ここまで上がって来た相手の力を認めてるから、警戒してんだろ。本気で勝とうとしてるから、必死に強くなって、負けられなくて、手加減も油断も出来ねえんだろうが…』

 

そういうと、相澤は手に持ってたマイクを元の場所に置いた。相澤の言葉の後には、会場の観客たちは静まり、一度もブーイングをする者も、反論する者も居なかった。むしろ罪悪感と心の痛みに表情を曇らせる者が見受けられる。

 

爆豪は鋭い目つきでお茶子を睨みつける。

 

(いや、まだだ…まだこいつ…)

 

その先にある、お茶子はよろめきながらも、立ち上がり、汗を拭い爆豪を睨みつける。初めて見るお茶子の本気。その威圧に爆豪はほんのすこしだけ、僅かに震える。何より爆豪に負けず劣らずの、諦めない、折れない、真っ直ぐとした威圧感溢れるその目を見て…爆豪は分かった。

 

こいつ、まだ死んでない。

 

どんなにボロボロになっても、勝つことを諦めず、真っ直ぐ向かってくるお茶子のその姿は、自分を積み重ね、自分と同じ何かを感じとった。その姿は

 

正しく、ヒーロー

 

「そろそろ…かな…」

 

お茶子は爆豪に聞こえない、小さな声で呟く。

 

「ありがとう…爆豪くん……油断してくれなくて…!」

 

「あ…!?」

 

大量の汗を流した爆豪は、何のことか分からず首をかしげる。お茶子は、両手で指先を触れて…

 

 

「爆豪の距離ならともかく、客席にいながら、『気付かず』ブーイングしてた惨めなプロは恥ずかしいねぇ…」

 

B組の物間は、ブーイングしてた観客たちを見つめ、小馬鹿にする。そして指を上に向ける。

 

「低姿勢での突進で爆豪の打点を下に集中させ続けることに、()()()()()()()

 

空には、爆豪が爆破攻撃をお茶子に食らわした際に飛び散った、舞台…コンクリートの破片が浮いている。

 

「絶え間ない突進と爆煙で視野を狭め、敵に悟らせなかった」

 

物間が丁寧に解説してくれたことで、B組の皆は納得した。

 

 

「す、凄い!あれって全部…?」

 

 

雲雀は泣く涙が止まり、上を見て驚いている。

 

「だから言っただろ、心配しなくてもいいと……」

 

「柳生ちゃん、もしかして最初っから分かってたの…?」

 

「ああ…まあな」

 

雲雀の問いかけに、柳生は当たり前だったように、クールに答える。

 

「麗日のヤツ、ああなることを分かってて、最初っからアレが目当てだったようだな……並みの作戦ではアイツの前では無理だ…だから捨て身の覚悟でこの作戦を選んだ…と言ったところだな…」

 

お茶子の覚悟に感心する柳生は何度も頷く。

 

そして…

 

「勝ああアアァつ!!」

 

今まで蓄えてた武器が、流星群の如く降り注ぐ。

 

「す、凄いや…!お茶子ちゃん、自分でこんな策を…!!」

 

飛鳥はお茶子の策に驚きを見せる。

 

『流星群!?まじかよ!でもこれならやれるんじゃねーか!?』

 

「今更かい…気付けよ…」

 

マイクはマイクを握りしめ、流星群に驚き、相澤は横目で睨む。

 

 

これだけの量、迎撃にしろ回避しようと、必ず隙が出来る、その為にはこの策は持ってこいだ。

その瞬間に距離を詰める。

 

(勝って……私も…デクくんみたいに!!)

 

 

なるんだ。

 

 

 

 

 

ボガアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァンン!!!

 

 

 

 

 

しかし…

 

どんなに頑張ろうと、捨て身の策を講じても、爆豪という圧倒的な壁が、強さが、全てを無にするように……

お茶子の流星群を跡形もなく消しとばした。片手を使った超巨大爆撃で…

 

巨大な爆発が起こり、お茶子の流星群を相殺したことにより、観客たちだけでなく、当然お茶子も表情を曇らせる。いや、お茶子の場合は、目の前の絶望を見るような顔で…

 

「そん……な…………一撃て………………」

 

言葉を失った。彼のあまりにも強すぎるその強さに……その姿に……

 

「お前、デクの野郎とつるんでるからな…何か企みがあるかと思ったが……思った通りだ……」

 

爆豪は物静かに語り、掌を見つめる。

 

「危ねえな……」

 

『爆豪勝己の会心の一撃!!麗日の秘策を堂々と…正面突破〜〜!!!』

 

観客たちは爆豪のあまりにもの強さに歓喜に近い声を上げる。

 

 

今の自分にできる最大限が…全く通じなかった…!

 

お茶子は悔やみ、立つ気力すら無くし、大きな絶望に体を震わす。

 

お茶子の場合、兎なら、爆豪の場合は獅子…いいや、もはや恐竜だ。

 

恐れることのない彼は、どんどん強さの高み上り詰め、相手に恐怖を与える。彼の言葉にピッタリだ。

そんな凶暴な彼は、お茶子を見ると不敵な笑みで微笑んだ。

 

「良いぜお前…こっから、本番だ()()!!」

 

出てくる汗が滴り落ち、走り攻めに来る。

 

自分の秘策が、努力が、思いが、全て目の前で爆豪によって打ち砕かれても、弱々しく震えながら、立ち上がり、立ち向かう。お茶子はそれでも…

 

(それでも!!)

 

諦めない。

 

 

ドサッ…

 

 

 

しかし……

 

 

「……あ?」

 

 

諦めない気持ちはあっても…

 

「ハッ……はぁ……んっ!くぅっ!!んの……体……言うこと……聞かん……!」

 

我慢の限界はあった…

 

糸のように切れ倒れたお茶子に、爆豪は思わず眉をひそめる。

 

 

「許容重量…!」

 

緑谷は瞬時に理解して呟いた。体力面でも、個性の上限も、とっくに超えて……

 

「……」

 

審判のミッドナイトがとうとう動き出し、お茶子の安否を確認する。お茶子は全身ボロボロになっても、掠れた目で爆豪を睨みつける。

動きたくとも、体力の限界を迎えた末路がこれだ。そんなお茶子は、地面を這うように動き、僅かな声を振り絞った。

 

「父ちゃん………!」

 

動かない、ボロボロな傷を負ったお茶子に、審判は手を挙げる。

 

「……麗日お茶子選手、行動不能。よって、勝者は、爆豪勝己」

 

 

 

 

これが、勝負。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「麗日さん…」

 

次は緑谷が出番のため、控え室に向かっている。ヒーローになるために、色んな努力をして、捨て身の覚悟でぶつかった。その結果、敗北した。そんなお茶子に緑谷は思わず声を出したのだ。

 

お茶子は気絶してしまい、ハンソーロボは担架でお茶子をリカバリーガールの元へと運んでいった。

一方爆豪はなんの表情も変えずに背を向け、会場から姿を消す。

 

『麗日…うん、本当によく頑張ったよ君は……うん、うん……爆豪…一回戦突破…二回戦進出………』

 

「うんうんばっかだな…やるならちゃんとやれよ…」

 

『ツー訳で次回は第二回戦の前に気絶から回復した切島選手と鉄哲選手の戦い(腕相撲)が始まるぜ!!小休憩挟んでからまたやるからな!!』

 

「私情スゲェな……どんだけ切り替え早いんだよ…」

 

マイクの相変わらずと言った性格に、相澤は深いため息をついた。

 

 

会場を去った爆豪は、皆のいる観客席に戻る途中で、控え室に行こうとしてる緑谷と出会した。

 

「あ?」

 

「あ、かっちゃん…!」

 

一瞬の静寂としたギグシャグな空気が、二人を包む。

 

「あ……え、えと…その……」

 

「んだテメェ何の用だ殺すぞ死ねカス!!!」

 

「死ねカス!?」

 

突然降りかかってくる暴言に、緑谷は思わず体を震わせ、ぎこちなく返事をする。

 

「え、えっと…次僕の番だからさ…準備!準備するために…ね?だから…そ、それじゃあ!」

 

緑谷は爆豪から逃げるように控え室に向かう。今の雰囲気では正直言って居づらい…それにいつになく爆豪は緑谷に対しては厳しい対応だ。幼馴染だからというのもあるが…

 

「オイ、クソデク」

 

ふと爆豪が緑谷を呼び止め、歩む足を止めた。冷や汗を垂らし、何されるか分からず恐るおそる爆豪に振り向く。しかし爆豪の顔はとても冷え切った顔で、いつもガミガミと怒ってる爆豪の顔ではない。いつになく冷静の…

 

「お前だろ、麗日の野郎に知恵入れたの。あの捨て身の策、俺への対策かなんかだろ?なぁ…舐めたことしやがって……」

 

爆豪は鋭い目つきで睨みつけ、そう言うと、緑谷の表情は先ほどの曇った表情ではなく、いつもの真面目な顔になる。

 

「ううん、違うよ」

 

「…あ?」

 

緑谷は首を横に振り否定すると、爆豪は思わず声を上げる。

 

「確かに僕はかっちゃんへの対策はしてた、けど麗日さんにかっちゃんの対策は一切教えてないよ。アレは全部彼女自身が作った策だ。もし、かっちゃんが麗日さんに対して厄介だって思ったのなら、それは麗日さんが、かっちゃんを翻弄したんだよ」

 

緑谷は「それじゃあ!」と言うと、今度こそ爆豪に背中を向け、控え室の方へと去って行った。

 

「………!」

 

歯を食いしばり、ほんの僅かに少しだけ悔しい表情を見せる爆豪は、観客の応援席へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席では…

 

「おーつかれ悪人面の爆豪!ブーイング凄かったなー」

 

「まあ、客たちから見れば女の子に暴力振るってるって思われるし、仕方ないわ」

 

「まあ、中々良かったんじゃないか…?」

 

「お疲れ様でした〜!」

 

爆豪に声をかける生徒たち、そんな爆豪は当然のことだが…

 

「うるっせえんだよ!!黙れ雑魚ども!!」

 

「おーおー、よく吠えるな本当に、これもう慣れてっけどな」

 

「慣れんなアホ面!!」

 

「…」

 

爆豪の騒ぐ声に、上鳴は苦笑しながらそう言うが、アホ面呼ばわりされたことにまたもや落ち込む。これは慣れてません。

爆豪は席に座ろうとすると…

 

「ふっふっふ、爆豪くん…!」

 

「あ?」

 

何故か雲雀が爆豪の席に座っていて、何か悪戯でも企んでるかのような顔で微笑んでいる。そのことに気づいた爆豪は数秒ガン見してから怒鳴り散らかす。

 

「テメェ何勝手に人の席座ってんだ!!ぶっ殺すぞクソガキ!!」

 

「雲雀はいつまでもお子様じゃないから、爆豪くんの暴言ではもう泣かないよ!」

 

爆豪の暴言に、なんの表情も変えず答える雲雀。昔は号泣してたのに…

 

「あーそうか立派に成長したなぁ、わざわざそれ言いに来たのか?気が済んだろ?だったら退けや!!」

 

「嫌だね!雲雀はいつも怒ってる爆豪くんにちょっと仕返しするもんね!勿論お茶子ちゃんの仇でもあるけど!」

 

「あぁ?」

 

すると爆豪の鞄の中からペットボトルを取り出した。どうやらジュースのようで、ジンジャエールと書いてある。

 

「おっ、爆豪ジュース持って来てんのか?珍しい〜!」

 

「私はてっきりお茶か渋いものか何かかと…」

 

「何感心してんだテメェら!あと俺のカバン勝手に荒らすんじゃねえ!!!てか何で俺のヤツ取るんだよ!!返せゴラァ!」

 

瀬呂と八百万が感心してる側で、爆豪は雲雀に激怒する。そんな爆豪に雲雀はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ふっふ〜!雲雀が今から何するか、わかる?」

 

「無駄なクイズに付き合う気はねえ、だから返せ!」

 

雲雀に弄ばれる爆豪、見たことない。と皆一同はそう思った。

すると雲雀はペットボトルのキャップを開けた。

 

「今からね、雲雀は一気飲みってやつをやるんだ!!」

 

「二度は言わねえ…じゃないと後悔するぞ…」

 

爆豪はちょいとツッコミを入れて、雲雀にそう言うが、雲雀は…

 

 

「いっただっきま〜〜〜す!!」

 

 

満面な笑みでそう言った…

 

(し、仕返しってこれのことか…なんかますます子供みたいで可愛いな…)

 

と、皆はそう思ったのであった。

雲雀はゴクゴクと飲みながら爆豪の反応を楽しみにする。が、爆豪の反応は…

 

「バカ!!……あーあ、どうなっても知らねえぞ俺は…」

 

(ふぇ?)

 

爆豪の以外な反応…いや、呆れた反応に、そしてその言葉を聞き雲雀は眉をひそめる。そして悲劇が起きた…

 

 

「………!!!??〜〜〜〜〜!!!!!?」

 

途端、雲雀はジンジャエールのジュースを直ぐに口から離して、ペットボトルを爆豪に押し付ける。それも涙目で

 

「げほげほ!!ナニコレ…辛い!!」

 

「「「「え?」」」」

 

辛いと言う言葉に皆はキョトンとした顔で見つめる。

 

「何これ辛いよ辛いよ!!舌が焼けるように痛い〜〜!!うええぇぇぇぇ〜〜ん!!柳生ちゃあぁぁ〜ん!!」

 

「ああ…雲雀!大丈夫か…?おい貴様ぁ!雲雀に何をした!?」

 

「見てたのに分かんねえのか?何にもしてねーよボケ!自業自得だ馬鹿!!」

 

雲雀は物凄い号泣で柳生にワンワン泣きながら抱きしめ、ほんの一瞬幸せを感じた柳生は、直ぐに切り替え爆豪にブチ切れオーラを放つ。が、爆豪な何の表情も変えない且つ、爆豪は臆するどころか、柳生に負けないくらいのブチ切れオーラを放つ。因みに雲雀が飲んだのは、爆豪のお気に入り激辛ジンジャエールだ。

 

「クッ…!……もしオレがこの大会に出れたら真っ先にお前をブチのめしてやろうと思ったのに…」

 

「や、柳生、落ち着け…な?な?しっかし爆豪もあれだよな、か弱い相手によーそんな真似が出来るな!」

 

怒りのあまり火山が噴火しそうになる柳生に、瀬呂が止めに入る。

そんな感じで騒いでる中、爆豪は静かに、誰も聞こえない声でこう呟いた。

 

「何処がか弱えんだよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けてしまった!」

 

気絶し負けた後、リカバリーガールの治療を受け無事回復したお茶子は、満面な笑みを浮かべた。そんな麗かな彼女は、負けた後悔して落ち込んでるのかと思っていたが…予想が外れた緑谷は呆然と立ち尽くしていた。

 

「麗日さん…怪我は大丈夫…?」

 

「うん!まだすりキズとかは残ってるけど、全然!!」

 

確かによく見てみると、ほんの少しのすりキズがあちこち見受けられる。体力面もあるせいか、全回復は出来なかったそうだ。完璧に治癒できた訳ではない為、バンソウコやシップなどが貼られている。

 

「いやあ!強いね爆豪くんは!こう、直に戦ってみるとこ〜…!手も足も出なかった!あ〜も〜〜!!悔しい悔しいよ!!しかも新技みたいなの使ってきて、驚いたよ!」

 

お茶子の顔はとても悔しそうに見える。いつも元気で無邪気な彼女…

だが緑谷はもう既に分かっていた、本当は彼女は無理をしていることを…無理して必死になって…心配をかけないようにと…

 

「どしたの?緑谷くん?」

 

「あっ!え、え〜っと……本当に大丈夫かな〜って、体力や傷のこともそうだけど…色々と心配で…」

 

「私は大丈夫だよ!ありがとね!」

 

ニカッと眩しい笑顔を見せるお茶子。普通のところ今なら、緑谷は顔を赤面にして慌てふためくだろうが、しかし現状そんなアクションを取る気分ではない。

 

「それにさ、私なんかよりもデクくんの方がずっと凄いよ…先見据えてて、なんか誰よりも頑張ってるみたいで…私だって、負けたからって負けられへんよ…」

 

「そ、そんな…!僕なんか……」

 

お茶子は悲しげな顔でそう言うが、緑谷は慌てて否定する。

そんな時、ここでマイクの実況の声が上がる。切島と鉄哲の決着が着いたらしい。結果、勝利したのは切島鋭児郎。鉄哲も惜しかったが、切島がなんとかギリギリ勝ったそうだ。

その為これで二回戦進出者が出揃ったため、第二回戦が始まる。二回戦最初の始まりは、緑谷VS轟の対決だ。

 

「次は…僕だな……あっ、麗日さん、それじゃあ僕…」

 

「うん!ゴメンね私のせいでデクくん全然準備が…!」

 

そろそろ準備しなければならない緑谷は、じゃあとお茶子に手を向け、お茶子は頭を下げて謝ってる。

 

 

「それじゃあ、後は頑張ってね緑谷くん!優勝…出来ると良いね!」

 

「………!うん!」

 

 

お茶子がそう言うと、緑谷は頷いて出て行った。何気ない普通の会話のやり取り…お茶子の『優勝できると良いね!』と言う言葉は、緑谷にとっては、『私の分まで頑張ってね』と言う意味ではないのか?と思ったのだ。一回戦が始まる前に、尾白が緑谷に託してくれたように、お茶子も緑谷に託した。そう考えられると、緑谷はますます負けられない気持ちが強くなる。

 

 

 

 

 

 

 

お茶子は緑谷が去ったことを確認し、少し時間が経つと直ぐに携帯を取り出した。

 

「……父ちゃんゴメンね、さっき急に電話切っちゃって」

 

『いやあそっちこそ、忙しい時にスマンなぁ…』

 

話し相手は男性で、少し豪快な声が聞こえた。その声の主は麗日の父親だ。

 

『それにしても、テレビ母ちゃんと一緒に見とったぞ!惜しかったなアレーーーー!!お茶子お前あんなん出来て、よー立派になったなぁ!負けちゃったけど、でも凄かったぞーーー!!!よお頑張ったな!』

 

「ううん、惜しくないし凄くないし…出来て当たり前なんだよ、ウチの学校は……最後あれ焦りすぎて彼処からの打開策とか何もない状態だった…その為結果は当然、完敗」

 

先ほどの元気な彼女とは違って、とても暗く落ち込んでいる。

 

『そうなんか?よう難しいことは分からんけど…別に負けたからって道閉じるわけやないんやろ?来年もあってまだチャンスはあるんとちゃうんか?』

 

「勝ち進めばそんだけ…一戦だけでスカウトするかどうか分からへん…それに来年って言ってるけど、年に一度の体育祭、チャンスは合計後二回……!こんなんじゃウチ…ヒーローになんか……」

 

段々と弱々しい声になっていく。

 

『……なーにを急いどんのやお茶子』

 

「だって…だって……!早く私…父ちゃん達………!!」

 

『………お茶子はもぉ急がんでも大丈夫やで。だってそんなんなるくらい優しいお茶子は、絶対良いヒーローんなるって分かっとるもん、俺も母ちゃんも。だから、父ちゃん達の気い使わんでも、お茶子はお茶子で、自分の道を突き進めば良いんやで』

 

父の優しい言葉に、声に、お茶子の目から大量の涙が溢れた。

負けて悔しくて、父の言葉が嬉しくて、二重の意味でお茶子はその場で静かに、泣き止むまで泣いた。

 

 

 

彼女の泣いてる声が聞こえる。去ったように見せかけ、実際控え室の扉の近くで会話を聞いていた。

お茶子の泣く声に、緑谷は切ない気持ちで会場に向かう。

 

(悔しくないわけないのに…助けになればなんて、言って…何もしてあげられない それどころか…また背中を……)

 

強い思念を持ち、向かっていくその時だった…

 

 

「おお、いたいた」

 

「!?」

 

曲がり角から現れたのはなんと、轟の父親、エンデヴァーだ。相変わらずその立派に燃える髭に、メラメラとあらゆるものを焼き尽くそうとする炎は威圧感がある。やはり身近で見ると、オールマイト同様画風が違う。

そんな彼が、轟の父親が、No.2ヒーローが、緑谷を探してたようだ。

 

「エンデヴァー…なんでこんな所に……」

 

轟から話を聞いた後だと、誰だって気まずくなる。しかしそれは仕方のないこと、DVとも呼べる父親に気まずくなるのは当然だ。しかも忍の訓練を息子に受けさせるなどと、正気の沙汰ではない。

そんなエンデヴァーは緑谷に人差し指を向ける。

 

「君の活躍見せてもらった。素晴らしく、中々どして、派手な個性だね。指を弾くだけであれほどの風圧感…!そうだな…パワーで言えばオールマイトに匹敵する個性(力)だ」

 

「!」

 

個性のことを当てられた緑谷は、冷や汗を流しては目をそらし、早歩きでエンデヴァーの横を通り過ぎる。

 

「な、何を言いたいんですか…!?僕はもう……行かないと……!」

 

知ってる?ばれた?いやそんなはずは無い。だって轟くんも知らないのに、バレる筈がない。言ったのはせめてかっちゃんだけだ。アレは自分からバラしちゃったからどうしようもないけど……でもそれ以外は誰にもバレてないはず…取り敢えずこの人だけには悟られちゃ…

 

「ウチの焦凍には、オールマイトを超える義務がある」

 

「え?」

 

何を言いだすかと思えば、突然轟の話をし始めたエンデヴァーは、静かに話し、ゆらりと炎を揺るがせながらそっと後ろの緑谷に視線を移す。

 

「君との試合は、テストベッドとしてとても有益なものとなる…くれぐれもみっともない試合はしないでくれたまえ」

 

聞くだけで闇が深い。何より轟が父親を否定する気持ちが段々伝わってきた。理由は当の本人から聞いてはいるが、まさかここまで自分の息子をただのオールマイトを超えさせる為の道具としてしか見てなくて、自らの欲求を得るためにここまでするとは…

 

「言いたいのはそれだけだ…直前に失礼した」

 

エンデヴァーはそう言うと、立ち去るように緑谷に背中を向けて、観客席に戻ろうとする。その時だった…

 

「…………僕は、()()()()()()じゃありません」

 

「…??」

 

緑谷の突然の言葉に、意味が理解できず再び緑谷に振り向く。

 

「何を言っているんだ?そんなものは当たりま…「当たり前ですよね…じゃあ」」

 

エンデヴァーの言葉は遮り、緑谷は話を続ける。

 

 

 

 

「轟くんも、あなたじゃない!!」

 

 

 

 

 

そう言うと、緑谷は会場へと向かって行った。そんな緑谷の後ろ姿に、表情を曇らせるエンデヴァーは、目を細める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

「来たな」

 

舞台の上に立つのは、緑谷出久と轟焦凍。絶えることのない観客の歓声、会場は轟のことでますます声を上げる。だが、どれだけ会場が騒がしくなろうとも、舞台の上に立つ二人の空気は静寂に包まれている。冷え切った空気に、緊張がほとばしる。何より緑谷の目の前に立っているのは、クラス最強の1・2を争うのだから。

 

『今回の体育祭 両者トップクラスの成績!!まさしく両雄並び立ち今!『緑谷』対『轟』!!』

 

そして…

 

 

『START!!』

 

 

両者の戦いが今、始まった。




個人的にはお茶子の話は感動しました。いや、轟かな…轟の過去の話はジーンときましたね。お茶子はその2なのかもしれません
そして爆豪、お前もうスゲェよ、うん。

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