光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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わーたーしーがー!来た!やあ皆んなお久しぶり!オールマイトだよ!私は最近全然出番なくてね、ちょっと寂しいんだ……半蔵くんが代わりに出てるけど……
それにこの章では少年少女ならぬ、少女と少女の戦いだからね…あっ、そうだ。忍学生で皆んな誰推し?私はね、よう……やめようか?
アレ?こんな話をしてる間に半蔵くんから連絡が……え?今直ぐ準備して欲しいって?え?アレやるの?ちょっと不安だなぁ…うん!分かった!やってみせるさ!ではまた会おう!goodbye!!


53話「二つで一つ、一つで二つ」

薄暗いバー、いつもより殺風景が増すその部屋は、敵連合のアジトとして使われている。その部屋には死柄木弔ただ一人だった…

 

「……」

 

死柄木は何やら考え事をしているのか、バーカウンターの席に着いたまま、ずっと動かない。すると部屋の扉からノックが入った。入ってくるとその人物は出入り口(ワープゲート)の黒霧の姿だった。

 

「死柄木弔、本当に彼女を外に出しても良かったのでしょうか?」

 

「ああ……」

 

死柄木は低い声で反応する。

 

「彼女は抜忍です、多くのプロヒーローはさておき、数多くの忍が詮索している。もし万が一バレてしまった場合、彼女だけでない…我々も危ういのですよ?」

 

「確かにそうだな…」

 

現在忍の多くは漆月の消息どころか、敵連合が何処に存続してるのかでさえ不明なのだ。もし漆月が忍に見つかってしまった場合、情報漏洩か、または跡をつけられるかで敵連合の居場所がバレてしまう。その危険性があるからだ。

 

「だが、あのまま漆月を此処に居させるってか?抜忍とはいえ忍の力を持ってる…それを有意義に使わないでどうする……情報集めするんだよ。」

 

「それは失礼しました…」

 

黒霧は軽く頭を下げ、再びバーカウンターの裏側に入りコップや食器などを洗ったり、酒の手入れをし始める。

漆月は抜忍として生き、善忍悪忍の存在から逃げ、隠れ、始末されることなく生きて敵連合に入って来た。なら外に出たって彼女は問題ないはずだ。こうして彼女が生きてるのなら、今回だって問題はない、つまり分かりやすく言えば死柄木は漆月を信頼してるのだ。

 

先ほど死柄木が考えていたのは、忍とはなんなのか?だ、善忍と悪忍は相反する存在、いわばヒーローと敵の関係のようなものだ…お互い戦い合い殺しあう…

殺しあうのならこちら側に着いたってなんら問題ないはず…また、悪忍も敵も同じだ。身勝手に生きて、好きな時に好きなように力を使う。

暴れたい、奪いたい、殺したい、それが許されるのは悪だ。だから彼女の話を聞いたあの後、ずっと考えていたのだ…断られる必要もないはず、何故断ったのか…?

忍だって善忍悪忍問わず、任務の為なら手段を選ばず殺すではないか。

自分たち(ヴィラン)と忍とは一体何が違う?だから、それを知るために、漆月に外の情報を集めるようにと頼んだのだ。抜忍の彼女はもとい忍…なら、外の情報を集めるのには適応してる。この時、敵である自分たちではダメなのだと判断したからだ。だから彼女に頼る…それに

 

 

漆月も分からなかったから……

 

 

自分たちとは何が違うのかを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ落ち着いて」

 

場所は変わり、商店街にて飛鳥は漆月と遭遇した。飛鳥は険しい顔で彼女を睨みつけるも、漆月は飛鳥を見て薄く笑っている。

 

「この状況で……どう落ち着けっていうの!!?」

 

「ハハッ、まあそうだよね?」

 

飛鳥は自身から溢れでる恐怖を抑え込み、身を震わせながら、怒気を孕んだ声で彼女に吐き捨てるようそう言う。

そんな彼女に漆月は堂々と近づき、腕を肩に回す。

 

「だから、落ち着こう?焦ったって何も得はしないよ?それに…別に今回は争いに来たんじゃない、殺しに来たわけでもない、安心してよ……ただ、話をしたいだけだからさ」

 

漆月は飛鳥の耳の近くで囁いた。まるで死そのものが纏わり付き、殺す機会を伺っているようだ。彼女はああは言ってるが、そう簡単に信用できるハズがない。

 

「……もし、私が貴方を殺すって言ったら?」

 

「あっはは!そう言うと思った!でもさ、()()()()?」

 

「ッ!?」

 

漆月はニヤリとそう言い、飛鳥は軽く身震いした。そして漆月は何も言わず飛鳥の腕に巻いてある包帯をめくった。するとそこには薬で塗られている傷痕だった…

 

「ここだけじゃ…ないでしょ?」

 

「…ッ」

 

既に見切られていた。自分がボロボロだと言うのを…

 

「ホラね、身体がボッロボロ。手負いの状態で貴方は私を殺せるのかな?私がその気になれば、貴方はどうなるか…分かるよね?」

 

「……もしそんなことしたら、皆んなが駆けつけてくるよ……」

 

「だよね、でも私が貴方を殺して逃げるってことも出来るよね?またはその間に、ここにいる関係のない一般人だって殺すことが出来るんだよ?」

 

最悪だ。まさかこんな事になるなんて…目の前に倒さなければいけない忍がいるのに、倒す事どころか、戦うことすら許されないなんて…飛鳥は思わず唇を噛みしめる。

 

「忍狼煙に、携帯での連絡と言ったもののやり取りは禁止、無駄な騒ぎも起こさないで、貴方と話がしたいだけだからさ……」

 

「わかった。……本当に話すだけなら……」

 

「ふふっ、飛鳥って物分かり良いね」

 

漆月は可愛らしい声で微笑んだ。それに比べ、飛鳥は悔し混じりの顔で下を向く。

悔しい。皆を殺そうとし、傷つけた張本人が近くに、目の前に、傍にいるのに、戦うことすら許されないことが、自分の弱さが、とにかく悔しくて悔しくて仕方がない。

でも、向こうの言ってることが本当なら、此処は大人しくしておいた方がいい…仮に命懸けで戦うにしても今は状況が悪すぎる。ここは彼女の要望に答えるしかない…それで今この場が収まることが出来れば、無駄に体力を使わずに済み、被害を出すことなく解決出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛鳥さん、どこ行ったんだろうね?」

 

「散歩とは行ってたがな…」

 

緑谷と轟はお互い二人で話し合っていた。雪泉たちについて、そして学炎祭が終わった後のことも…学炎祭は雄英とは関係ないため、この先職場体験が待ち構えている。彼女たちの学炎祭も大事だが、こちら側にとっては職場体験も大切だ。

職場体験とは、体育祭で観に来てくれた全国のプロヒーローが雄英生を指名するのだ。本当は2・3年からが本格的なのだが、今回きた指名は将来性に近い興味に近い。また、卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてのはよくある話。大人は勝手でいけないが仕方ない。そこもまた彼女たち忍学生とは似ている。

 

「学炎祭も心配だけど…職場体験…そろそろ迫ってきてるもんね…」

「ああ、まあな……緑谷は一票もなかったんだろ?」

 

「う、うん……」

 

轟の言葉に緑谷は肩を落とす。

 

「まあ、そう落ち込むな。お前はスゲェヤツだって、理解してる奴が居るんだからさ…」

 

「えっ?轟くん、今なんて…?」

 

「悪い…なんでもねえ」

 

言葉を流すような轟に、緑谷は首を傾げた。一方皆んなはみんなで帰る支度をして居る。

 

「いやぁしかし今日は学炎祭、アレだったけど凄かったな!あとタダ飯感謝します!」

 

「ねー!感謝かんしゃです!」

 

皆んなはやれ美味かっただの、やれ感謝だのと言いながら半蔵に頭を下げて帰って行く。しかし全員というわけでもなく、帰らなかったのは、二人で話し合っている緑谷と轟、携帯のスマホゲームで遊んでる爆豪だけだった。他の半蔵学院の四人は飛鳥待ちのため此処にいる。

 

「しかし飛鳥本当に遅いな〜?何してやがんだ?」

 

「もしかして道に迷ったりして?」

 

「それはあり得るな、飛鳥は根は真面目だが何処か抜けてるからな」

 

葛城と雲雀の言葉に柳生はこくりと頷き納得する。飛鳥は根は良い子であり、明るく真っ直ぐな性格なのだが、何処か抜けているのだ。この前なんかは商店街で財布を取られたくらいなのだから。まあ街中で秘伝忍法書を落とした雲雀よりかはマシなのだが…

 

「まあ、その内戻ってくるだろ…」

 

柳生はそう言い残ってるガリを口に運んだ。彼女たちは知らない、飛鳥が漆月と遭遇しているのを……そして、その後に起こることも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん!これ美味しい!」

 

漆月は飛鳥と一緒にベンチに座り、ビニール袋に入ってあるみたらし団子を一口食べ、頬をピンク色に染め幸せそうに食べている。それと比べて飛鳥は落ち着きがないのか、この状況にうまく飲み込めないのか、自分は何て反応を取れば良いのか分からないまま、動くことなくただ無言で座っている。

そんな飛鳥を気にしず、漆月はりんご飴に齧り付く。

 

「あっ、これも美味い…りんご飴あんま食べたことないから食べてみたけど…これいける」

 

片手にみたらし団子、もう片方にりんご飴を持ちながら嬉しそうに食べているその姿は、自分たちを襲った抜忍ということを忘れさせられる。

漆月は話があると言いながらも、取り敢えずは色んな店に回り、色んなものを買い占めていた。と言ってもほぼ食うものだけど…

 

「そ、それで…話って何?」

 

一向に話す気配がない彼女に、飛鳥は言葉をかける。

 

「ん?あ〜ごめんゴメン、美味しいから夢中になってて食べてたよ、忘れてた」

 

漆月は悪そびれることなく笑顔で謝り、食べ終わったみたらし団子をゴミに捨てる。

 

「話ってのはさ、まあ本当は一つだけだったんだけど、二つできちゃったよ」

 

「え?」

 

「まず聞くね?その傷どうしたの?」

 

漆月は袋から箱に入っているアツアツのたこ焼き取り出しながら、横目で飛鳥の傷付いてる腕を見やる。

 

「こ、これは学炎祭で…」

 

「学炎祭?学炎祭ってあの?」

 

どうやら漆月も知っていたようだ。漆月は目を丸くし意外そうな目でマジマジと見つめる。

 

「へぇ〜、相手は?もしかして悪忍?」

 

「ううん、善忍…月閃っていう所の……」

 

「月閃…ああ!死塾月閃女学館か!まさかあそこからかぁ……」

 

漆月は面白い物を見るような目でニヤニヤと口の端を上げ、食い物を口に運ぶ。

 

(アレ?でも死塾月閃女学館って、確か善忍だったよね?しかも学校を潰し合う立場…てっきり悪忍かと思ってたけど……)

 

善忍にとっての敵は悪忍。また悪忍にとっての敵は善忍。相反する二つの存在がぶつかり合ってるのかと思えば、善忍と善忍同士の戦いと来たものだ。

善忍同士の戦いなんて聞いたことないし、仮にあったとしても、なんの理由か、何が目的か思いつかない。

 

「何でそうなったのさ?善忍同士で戦うなんて、どう考えても可笑しいし、動機が分からないんだけど…?」

 

「そ、それは…」

 

飛鳥は話した。月閃が最初に仕掛けて来たことを、月閃は悪を憎み、悪の存在を許さない絶対なる正義を貫き通す忍学生であることを、そして…悪が存在しない理想の世界を作るためだと…流石に黒影のことは言わなかったが。

 

「へぇ……やっぱり…そんな奴らが居るんだね……まっ、流石と言ったところかな?」

 

漆月は面白くないのか、つまらんと言った顔で黙々と袋に入ってる食べ物を完食してきてる。袋の中の食べ物は彼女の胃袋に吸い込まれていくかのようになくなってきてる。

 

(これは、充分いい情報じゃないかな…?学炎祭は何方が負ければ廃校決定、オマケに忍の資格を失う訳だし)

 

当分半蔵学院はこちら側を詮索出来ないどころか、学校の存亡がかかって居るため、もし半蔵側が負ければ忍の資格取得は不可能、そして忍として生きることが出来ない。こんないい話は滅多にない。

しかし…仮にそうなったとしても、本当に安心できるだろうか?

飛鳥からの話を聞いたところ、月閃は悪を許さない、と言っていた。それは当然自分たちの存在もその言葉に当てはまるのは当たり前だ。となると、彼女たちはいつか自分たちと戦う障壁になるのではないか?それならそれはそれでとても厄介だ…

 

「ふぅん、分かったよ。まっ、善忍っていう時点でたかが知れてるけどね…どうせ善忍なんて、身勝手で正しいことしか目にないから……」

 

漆月の言葉に飛鳥は少し漆月に視線を戻す、彼女の表情は激しい怒りを露わにしてないが、何処か不満に思ったのだろう、割り箸を片手でへし折る。

 

「まぁ、それはそれで良いんだけどさ……私もう一つ聞きたいことあるんだよね」

 

「何…?」

 

「あのさ、忍ってなに?」

 

 

は?

 

 

彼女は突然飛鳥にそう聞いた。当然、飛鳥の頭は思考が追いつけず、頭の中が真っ白になりなにを言ってるのか分からなかった。忍ってなに?と聞かれても、忍は忍だ。と言い返すしかない…そもそも彼女は抜忍だ、つまり彼女は元・忍 なのだ。忍の事なんて分かってるに決まっている。

なのに、彼女は何て言った?

 

忍ってなに?

 

まず反応に困る。でも、彼女の質問は、私の思ってることとは違うと思うんだ。それは、彼女の次の言葉により飛鳥の思ってたものとは違うとハッキリ分かった。

 

「善忍と悪忍は相反する存在、そりゃあそうだよね、善と悪は反対で、やる事も違えば生き方も違う……日向者と日陰者はお互い戦う存在…私はそう思っていた」

 

思っていた?その答えは間違えではない。任務になれば時に争うこともあれば、じっちゃんが言ってたように、善と悪が関わるグレーな重要人物がいることもある。

 

「私が蛇女に襲撃したのは、あの五人を引き入れることだった……だって、元はアンタらを殺すためだったし、正直私は蛇女も潰そうとしたし…でも死柄木がどうせ悪ならこっちに入っても問題ないだろって言ってた。私は考えた、悪忍と善忍が相反するだけでなく、ヒーローと敵だって相反する…つまり、正義と悪の戦いは避けられない運命なんだって……だから死柄木の言葉にも賛成出来たし、私はそれを承知して二体の脳無と一緒に襲撃を仕掛けた。同じ同類なら分かってくれると思ってた、なのに……おかしいよね?何で彼女たちは断ったの?ヒーローと善忍は同じなのに、ヴィランと悪忍はなにが違うの?変わらないじゃん?悪忍なんて所詮ヴィランと同類……なにが違うの?それも善忍と悪忍が手を組んだり…そんなことはあり得ないのに……だから聞いてるの、忍ってなに?って。忍は善忍と悪忍と戦う運命の筈なのにさ、私は訳分からなくなっちゃったんだよ……だから、教えて?飛鳥、善忍と悪忍と手を組み共闘した貴方なら、貴方達なら分かるでしょ?ねぇ、飛鳥」

 

善と悪について語り出す漆月、彼女の一つ一つの言葉には何処か重みを感じる。それも当然、飛鳥は漆月の言ってることを理解したから。漆月の忍ってなに?というその言葉の意味が分かった。いや、漆月の言葉に共感に近い物を感じた。

なぜなら飛鳥も同じことを考えたからだ…忍とは何なのか、善忍と悪忍とは一体何なのか…その考えを作るきっかけは『焔』にあった。

焔と死の美を交わしたことで、飛鳥にとって、焔は最強の友達であり、最強のライバルでもある。そして分かったんだ…

 

「確かに…貴方の言う通り、善忍と悪忍は相反する存在、命懸けの戦いがあれば、当然誰かが死ぬことだってあるし、それは忍の定めとして避けられない……貴方の言ってることは、()()は正しいよ?」

 

「……()()?」

 

その半分という言葉に、漆月は眉をひそめる。

 

「焔ちゃんたちは確かに悪忍だよ?でも、貴方たちみたいに、理由もなしに、何でもかんでも殺したりはしなかった。焔ちゃんはある事情を抱えて悪忍になって、蛇女に入ったんだ……」

 

焔は中学の頃、小路という先生に恋心を抱いていた。善忍の家系だった為か、いつも厳しくて、友達が出来なければ遊ぶことだってなかった。だから人の接し方も分からないし、人見知りがある方だった…でも、小路という先生は彼女をいつも気に掛け、優しく接してくれた。だから焔はそんな先生に恋を抱いた。そして告白した、自分の家系が忍であることを……

そして小路が実は悪忍であり、焔を抹殺するために先生として装い、騙し、殺そうとしたことを……

そして焔は怒りと殺意に心が飲み込まれ、半殺しにした……

そのあと、両親から家を追い出され、貧民街などに住み着くようになり、そして一年後、蛇女子学園に入学した。

他にも詠、日影、未来、春花の四人もそれぞれ色々な事情を抱え、行き場のない彼女たちは蛇女子学園に入学した……そう、それぞれ色んな事情や思いがあって焔たちは悪忍になったのだ。

 

「そして焔ちゃんが戦うのは……生きたいから……焔ちゃんはいつも言ってた…『生きる証が欲しい』『生きても良いという実感が欲しい』って……焔ちゃんは、ううん…焔ちゃんたちは、貴方達みたいに何でもかんでも人を傷つけて、殺すわけじゃないんだ……何の理由もなく人を殺す貴方達とは違って…!

 

だから、焔ちゃん達は、貴方達じゃない…悪忍にだってそれぞれ色んな事情を抱えた忍がいるんだ、悪忍は、(ヴィラン)じゃない……同類じゃない!!!」

 

 

飛鳥は声を張り、強い眼差しを飛鳥に向ける。飛鳥がそう言うと、漆月はジッと飛鳥を見続け、やがて歪んだ笑みを浮かび上げる。

 

 

 

「………ふ、ふふ……ふふふ………」

 

 

 

「?何が…おかしいの…?」

 

「そう言うこと…か」

 

漆月は飛鳥の言葉に納得したらしい。そのためか、何やら悍ましい不吉な薄ら笑いを浮かべる。

 

「善忍と悪忍……相反する存在…なるほどね、意味が分かったよ。そうか、そう言うことだったんだ…

 

忍は、二つで一つだ…」

 

「え…」

 

漆月はそう言った。二つで一つ…一体どう言う意味なんだろう?と…その言葉も直ぐに分かる。

 

「そうだよね…善忍と悪忍…人の心は善と悪、どちらも存在する……忍は、二つに別れたんだ。善忍と悪忍へと…」

 

漆月が思ったのは、善忍と悪忍は何なのか?それは善と悪、一つの心が二つに別れたものだと理解したのだ。確かに雪泉たち善忍は、正義の心そのもので、そこに悪の心は微塵もない。また焔たちは悪に拘っていた。そこに正義の心などはないし、善を嫌悪していた。つまり、忍とは、心が二つに別れた存在なのではないかと思った。

 

 

だからこの答えに導いた。

 

 

善忍も悪忍も、関係ない。善忍も悪忍も、忍だ。善忍と悪忍、二つの存在があってこその忍だから。

 

 

当たり前のことだ、当たり前のことだからこそ忘れていた。そんなことを…

 

 

「だから、忍は殺しあうんだよね…善だの悪だのという理由で、上層部の命令だからって言って結局は殺しあう……想いがあるから?私たちと違う?この世に忍は必要?影から支える?本当に………

 

 

 

 

………バッカみたい!!!」

 

彼女は怒りと憎しみと言った負に近い死のオーラを解き放ち、飛鳥は漆月の感情に恐怖を覚えた。抜忍・漆月の恐ろしさを…

 

「だから、分かっちゃった……私が憎むべき相手は、善忍でも悪忍でもない…

 

忍の存在なんだってこと…」

 

「あな……た……!!」

 

 

憎むべき相手、倒すべき相手、それは善忍でも悪忍でもない、忍。つまり、何方かでなく、両方ということ…善忍と悪忍の二つの存在は、自分たちの敵であると。善と悪という心が別れただけで、忍の業が変わることがない…運命も、戦いも、ただ善と悪が違うだけで、あとは何にも変わらない。

変わらなからこそ、彼女は忍を憎み、恨み、殺そうとする。

 

「だってそうでしょ?善忍も悪忍も関係ない、元はただの忍…なら、忍なら私たちの敵となる。ううん、私たちの敵だ。抜忍である私もね…」

 

抜忍は善忍と悪忍の二つの存在に追われる身…つまるところ、敵がヒーローに追われるようなものだ…

彼女の顔は、いつもより歪みが増していた。そんな彼女の目には、憎しみと、怒りと、恨み、苦しみ、悲しみ、あらゆるものの負が混ざり篭っていた。

 

 

そして、漆月の脳裏に浮かぶのは…

自分がボロボロになりながらも、()()()()を大事に持ち抱えている姿、そして…

 

 

 

『出て行け!』『気色悪いのよこの子!』『あっちいけー!』『呪われた子供だ!近くな!』『消えろ!失せろ!』『お前みたいな人間なんか死んじゃえ!!』

 

 

「善忍と悪忍なんて結局そうだ!!受け入れてくれない!ずっと前からそうだった!!そこに、私は入っていなかった!!」

 

数々の罵声が降り注ぎ、石ころやら道具や物などを投げられ、嫌われ、拒まれ、行く道なくただただ苦しみながら、辛い思いを抱えながら、生きてきたあの時のことを、彼女の脳裏には鮮明に蘇るように浮かんでいた。その過去が、どの意味を表すのか、まだ分からない。

 

「よくわかったよ飛鳥…ありがとね…貴方と会えて、そして話せてよかったよ」

 

彼女は腰掛けてたベンチから立ち上がると、飛鳥に背を向け立ち去ろうとする。

 

「ま、待って!!」

 

飛鳥の言葉に漆月は振り向きこそはしないが、立ち止まる。

 

「……貴方は、善忍も悪忍も関係ない、忍だから。その答えには私も納得がいく…でも教えて?貴方はどうして……

 

忍を否定するの?」

 

飛鳥の言葉に、漆月は振り向くとこう言った。

 

「……一つだけ教えてあげる。それはね…貴方たちが私を否定したから」

 

「え?」

 

「……じゃあね」

 

彼女はそう言うと、二度と振り向くことなく、振り返ることなく、そのまま姿を消し去って行った……

 

「貴方は…どうして、どうしてそこまで……(私たち)を……」

 

それから、次の言葉は出なかった。聞きたいこともあれば、言いたいことだって山ほどある。でも何でだろう…敵なのに、何でこんなに悲しい気持ちになるんだろう…まるで心に穴が空いたような痛々しい気分だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

漆月は満足した結果を得られたためなのか、ニコニコしながら歩いてる。

 

「善忍と悪忍は何ら変わらない……そうだ、そうだよね…善も悪も、人間としての心の一部、感情が違うというだけで、後は何も変わらないんだよ…殺しあうことだってね……」

私たちの敵は忍にあった…光と影、陽と陰、何方も大切で、どちらも唯一欠かせない存在だ。だからこそ、忍は光と影で出来ていて、世の中の為にあるのだと…

しかし、世の中の為にあるとはいえ、使えないものは忍の世界から消されてしまう。例えそれが正義だろうと悪だろうと、忍の業から、運命から、定めから逃れることは出来ない。

上層部の命令に動き、お互い殺し合い、社会として役立ち使われる。それはそれで良いと言う考え方を持つ忍もいれば、違う者だっている…

 

こんなの理不尽すぎる。

 

 

「忍を殺す。善忍と悪忍の二つの存在は、私たちの敵だ」

 

そして、漆月は携帯を取り出し連絡したその数分後、黒い靄へと消えていった……

 

 

 

 

 

「………」

 

飛鳥はベンチから立ち上がり、下の地面に顔を向けながら、寂しくトボトボと歩いていた。漆月の数々の言葉、善忍と悪忍は変わらないことを知り、敵と忍は違うと知った漆月、そして最後の言葉…彼女の身に一体何があったのだろう?ふと頭の中で思い浮かぶ。

 

「何が…あったんだろう……」

 

しかしどれだけ考えても答えは見つからなかった。頭の中がモヤモヤする…このままじゃ、折角じっちゃんが私のためにと教えてくれたのに、これじゃあ…

 

 

その時だった。五つの忍の気配を感知したのは…

 

「これって…!?」

 

胸騒ぎがした飛鳥は、商店街の広間に駆けつけた。最初は月閃だと思っていたが、それは直ぐに違うのだと理解した。新しい忍の気配、一体誰なのだろう…

 

 

数分後、広間に駆けつけた飛鳥、見てみるとそこには半蔵学院四人と、知らない忍学生が五人いた。

しかも、この五人の制服は何処かで見たことがある…

飛鳥が来たことを知った半蔵学院の皆んなと、向こうの五人の忍学生は、彼女に視線を向ける。

 

「飛鳥さん、今までどこに行ってたのですが、遅いです」

 

「ああ、飛鳥がいない間にまた忍学生が来たぜ…」

 

斑鳩と葛城はやる気満々なようだ…そんな二人と飛鳥に、五人の忍のうち一人、リーダーらしき者とも呼ばれる忍学生が前に出て鼻で笑う。

 

「ふん。やっと集まったか……これが半蔵学院、()()()()はこんな小娘共に負けたのか…」

 

「貴方たち、誰?!」

 

「ああ、自己紹介が遅れたな…揃ったし丁度いいか…私は蛇女子学園三年、『雅緋』!今日、ここに来たのは他でもない…半蔵学院に学炎祭を申し込む!!」

 

新たな蛇女子学園は、半蔵学院に学炎祭を仕掛けて来た。




漆月の回スゲェ悩んで言葉が見つかんなかった……まあ、一応言っておきます。漆月が学んだことは、善忍も悪忍も何も変わらなかったと言うことですね、だから焔たちが此方側に着こうとはしなかった、その意味が分かった。きっと漆月は死柄木に言うでしょうね、私たちの敵は善忍と悪忍、つまり忍という存在だ。ということを…善忍と悪忍は変わらないからこそ、ヴィランの存在とは違うのだと…ようやくハッキリと分かったんですよね。だからこそ、自分たちが新たに戦う敵が分かった漆月は、これから強くなることでしょう…
まあハッキリ言えば、この回は漆月は歪んだ答えを見つけ、成長したという感じですかね。おっと、決して死柄木のアレを連想したとかそういうのじゃないんですよ?似てますけど、展開は似てますけど、実際漆月は飛鳥とはまだ会ってませんでしたし、これから敵連合と忍がどう激突するのか…とか、忍はなんなのか?について語りたかったんですよね。分かりにくくてすいませんした、なんかホリーみたいww
P.S 眠いっすわぁ〜…

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