光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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昨日投稿したかったのですが、寝落ちしてしまいました。申し訳ありません。


63話「復讐、終末の日」

「「忍・転身!」」

 

詠と両備、二人はお互い忍転身を行い、光が彼女たちを包み込み、忍装束を身に纏う。詠の忍転身は変わりはないが、両備の忍転身は相変わらずと言ったところか、胸がデカくなる。彼女の秘伝忍法は、他の忍とは違ってある意味特殊な部類に入るだろう。ただ、また逆に言えば、胸さえなくなれば未来と同じ貧乳のままの忍転身…つまり、胸がデカくなるというだけでこれと言った効果がないのだ。両備からすれば自己満足である(ただし忍転身を解いた場合、胸がなくなる虚しさもある)が、他の者から見れば大したことはない、つまり、爆乳を持つ者にとって、胸とは飾りであり設定なのである。

 

「死ね!消えろ!」

 

両備の口の悪さはドSの性格で元々だが、今の両備はその類とは違い、レベルを超えている。怒りと復讐のせいか、口調は以前よりも荒ぶっている。

両備は引き金を引き、複数の銃声が鳴り、複数の銃弾が詠に襲いかかる。この一つの銃弾を詠は食らってしまい、肩から血が流れ出たのだ。もしこの銃弾を全て食らったらひとたまりも無いだろう……

 

「甘いですわ!」

 

しかし詠は銃弾ごときでやられる程ヤワでもないし、そう簡単に死なないし殺される訳がない。詠は大剣を盾にするかのように、防御態勢、ガードしながら且つ両備に接近する。大剣によって簡単に弾かれ、ガキィンと金属音が鳴っては火花散る。

スナイパーとは遠距離戦であり、近距離戦では向いていない…ましてや詠みたいに、攻撃と防御を両立するスタイルなら尚更だ。詠の武器は重々しく、凶器でもあるが、こうして自身を守る武器としても扱うことが出来る。その為、両備にとって詠とは相性が悪いのだ…

 

(詰みましたわね…直ぐに終わらせてあげましょう……!!)

 

詠の武器は、切島流で言う最強の剣にも盾にもなれる。と言った感じか、段々と両備との距離が縮まっていく。

 

 

「なんて思ってるんでしょ?」

 

「!?!」

 

 

しかし、それはあくまで相手が一般人、または下忍の狙撃手の話。両備にはまだ手がある。それは…

 

「秘伝忍法!」

 

秘伝忍法という必殺技の手を──

 

 

「【リコチェットプレリュード】!!」

 

 

詠と丁度同じくらいの前方の横一列に機雷を放ち、両備はニヤリと微笑むと射撃する。射撃をしたと同時に機雷が爆発する。その位置と、爆破の威力を考えれば当然わかると思うが、防御をしてた詠は当然避けれるはずがない。

 

(くっ…!これだと…この威力は恐らくは盾にしても耐えきれないはず……)

 

詠の額から脂汗が流れる。その嫌な予感は、予想を外れることなく的中した。

射撃と爆風という最悪なコンボが詠に襲いかかる。

ダメ元で大剣を盾にするも耐え凌ぐことが出来ず、爆破の威力に負けダメージを食らった。

 

「キャアアァ!!」

 

痛々しい声を上げながら、詠は態勢を崩してしまう。

両備の放った機雷は見た目より範囲が広い為、守るにしても予想出来ないので防ぐのは困難であり、ほぼ皆無に等しいだろう。

因みにリコチェットという意味は『跳弾』の意味であり、プレリュードは『前奏曲』という意味…つまり、リコチェットプレリュードとは『跳弾の前奏曲』という意味だ、正にその名に相応しい秘伝忍法である。

 

銃は剣より強し──正にこのこと。

 

 

詠は大剣を杖代わりにして立ち上がる。その姿は両備の秘伝忍法によるものの為か、衣装が爆破で汚れてしまった。多少焦げてる部分が見受けられる。

 

「あらあら、折角の高級そうな服が汚れちゃったわね?」

 

両備は何時ものようなSっ気のある嫌味ったらしいセリフを詠に放つものの、詠は顔色一つ変えない。確かに見た目からしてみれば忍装束を身に纏った詠のこの衣装は、気品溢れるお嬢様と思われても仕方ないだろう…一切汚れのない清廉潔白なその姿は、とても魅力があり、美しいとも言えよう。

 

しかし両備は知らない。詠が貧民街育ちであり、お金など一切ないということを…それを知らずに両備は嫌味を言ったのである。

 

「まあ、死ぬからどっちにしろ意味ないけど!」

 

両備は再び銃弾を撃つ。銃弾の嵐が詠に襲いかかるも詠は先ほどと同じく防御の体制に入る。正直防御態勢に入れば両備の思惑通りになってしまう。もし両備に近づいたとしよう、そうすればまた先ほどと同じように秘伝忍法を食らってしまう。

秘伝忍法とはゲームで言うような必殺技のようでもあるが、MPみたいに精神力の消費もある。そのため相手の方が先に秘伝忍法を使えなくなれば勝機はあるものの、果たして本当にそれが出来るであろうか?

もし、その前に自分の体力が尽きてしまえば?両備とは一年差が違うとは言え立派な選抜メンバー、ましてや伊佐奈の厳しい訓練についてきただけあり強くなっている。弾ギレを待つにしても無駄だろう…両備の弾は実弾、と言えば違うだろうが、忍術によるもの……未来の呪いの弾丸と同じ、そのため弾ギレというものはないのだ。流石は選抜メンバーに入るだけの実力は備わっており、伊佐奈が認めた忍学生なだけはある。

 

(やられっぱなしではいけませんね……ならばこちらも反撃と行きましょう…!)

 

大剣を地面に突き刺す。両備は何をするのだろうと疑問を持ち、撃つのをやめた。何か仕掛けてくる気だ…両備は警戒心を緩むことなく武器を構える。

そして詠は突き刺した大剣の前に素早く移動し

 

「秘伝忍法!【ニヴルヘイム】!!」

 

両腕からボウガンやら大砲やらを発射させる。先ほどの銃弾の嵐に負けない詠のこの秘伝忍法もまた、両備と同じく遠距離戦として大きく優れている。

鉄球やら刃物やらが飛び、両備は負けじと銃弾を撃つも、攻撃を受けてしまう形になる。

 

「ッッああ!!クッ…そぉ!!」

 

両備は傷だらけになりながらも、攻撃を防ぐのがダメなら回避の選択肢を選ぶ。なんとか避けるもその結果…

 

「いいえ、させません」

 

詠は最後に爆弾をを放り投げ、その爆弾が爆破し両備は防ぐことも避けることも叶わず爆弾ももろに食らうことになってしまった。

 

「ガァッは!? こんの…!!」

 

両備も詠と同じようにボロボロになり、忍装束に刃物によって傷つけられたキレ目やら爆発の汚れやらが見受けられる。そのため多少ダメージは効いてるようだ。

 

「さぁ、お覚悟!」

 

詠は両備が今、攻撃してない時を隙と捉え判断し、走り出し、剣を振るう。勿論殺す気はない。詠にとって、殺す気のない戦いは初めてであり、相手が蛇女の伊佐奈以外誰であろうと殺したくなかった。

何故なら、詠はこの秘立蛇女子学園という自分を育ててくれた母校と、伊佐奈によって支配されてる忍学生、そして復讐によって暴走し、全てが狂ってしまった両備を救けるために、詠は今ここで戦ってるのだ。

忍からすれば、『甘い』『忍としてなってない』『忍になる資格はない』『滑稽だな』と罵声を浴びられるだろう……しかし、詠にとってそんなのどうでも良かった。何故なら───

 

「秘伝忍法!」

 

「!?」

 

と、ここで剣を振るわれる前に、両備は秘伝忍法を使う。

 

「【8つのメヌエット】!!」

 

自身の周囲に6つの機雷が落下し、爆発。自身には爆発が巻き込むことなく、相手にのみダメージを与えれるという物理法則もへったくれもないうえに、自分だけダメージを食らわないという、不条理極まりない秘伝忍法を詠は食らってしまった。

 

「ッ!」

 

詠は又しても爆発をくらい、吹き飛ばされ、振り出しに戻ってしまった。距離が再び深まったことで、両備は銃弾を乱射させる。それを詠は盾にして防御する。

 

「ほらほら!さっきとまた同じじゃない!?そんなんで私を殺せるかしら?」

 

「クッ…!」

 

銃声と共に聞こえる両備の声。何をしても両備の範囲領域には触れられない、触れたとしても追い払われてしまう。まさに、両備にとって詠とは相性が良かったそうだ。

この勝負、完全に両備が上だ、勝利が決まったと言っても過言ではない。それは両備だけでなく、他のだれもがこの状況を見ればそう思うだろう。

詰んでしまったとも言えようこの状況、そんななかでも…

 

(……待てよ…?おかしい……何か可笑しい……なんで?アイツは私に絶対近づけない……それなのに……なんでよ…?)

 

詠は……

 

(目が……死んでない…!?)

 

 

諦めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ここからどうしましょうか…)

 

詠は呼吸を整えながら、両備を倒す策を考えている。恐らく小細工は通用しない…相手は相当な手練れ、詠も蛇女にいた頃よりも強くなっているし、抜忍になっても修行は怠らなかった。

 

(秘伝忍法もダメ…盾にして攻撃を防ぐも向こうは秘伝忍法を使ってくる……)

 

普通の銃弾ならまだしも、両備の銃弾は訳が違う。

詠は咄嗟に後ろを見る。春花と両奈が戦っている。その時、偶然なのか、両奈に手を焼いて冷や汗を垂らす春花も、咄嗟に此方に視線を向ける。詠は唾を飲み込む。

 

(こうなったら……)

 

緊張、不安、恐怖、それらの感情をなくすように詠は目を瞑り、一呼吸する。

そしてキッ!と目を見開き、彼女は両備を見つめ、足を動かす。

 

「───は?」

 

両備は詠の行動に目を大きく見開き、思わず衝撃を受けた表情で、疑問を抱いた

 

 

詠の取る行動とは一体──?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、両奈と春花の戦いでは…

 

(この子…思ったよりも厄介ね……!)

 

華麗な身のこなしに、二丁拳銃を用いて近接距離で乱射する両奈。その動きは一切隙や油断がない、完全に上忍の域を超えていた。苦悩する春花の表情とは違い、両奈の表情は『ご主人様』を愛する顔でもなく、ドMのような変態で物欲しがりな顔立ちでもなかった……

 

「貴方には悪いけど……死んでもらうから…!」

 

彼女も両備と同じく復讐に身も心も奪われた少女、復讐への執着。

その表情は険しく、憤る顔立ち、鋭い目つき、そんな両奈は誰も見たことがない、初めて浮かべる表情だった。

 

両奈と両備にとって、復讐こそ全てだった。復讐を糧に生きてきた。それを否定されるのは何よりも辛い……その苦しさに身も心も暴走してしまった彼女たちは…

 

 

ヴィランそのもの。

 

 

両奈の二丁拳銃は近距離戦でしか使えないため、遠距離攻撃は不可能なのだ。だが、近距離戦だけでもその威力は絶対だ。

 

「何があったか知らないけど…今の貴方、とても危険な香りがするわ…」

 

春花は冷や汗を垂らしながら両奈に言う、両奈は何も答えずただただ標的を仕留めるのみ。

春花は傀儡を盾にし両奈の攻撃も防ぐも、威力が高いがためか、多少防ぎきれない攻撃もあり、ダメージを食らってしまう。かと言って此方もやられてばかりではない、傀儡を使って攻撃をするも華麗な身のこなし、軽々と避けられてしまう。傀儡の攻撃は主にシンプルで、ボクサーのようなグローブをした拳で相手を殴ること。

威力を例えるのなら、プロボクサーの拳と同じくらいだ。またパンチの威力を溜めればコンクリートの柱など粉砕することなど訳がない。

他にも、パンチャーなだけでなく火炎放射器や、チェーンソー、電撃など、多彩な技を用いる。ある意味殺戮兵器や凶器と言っても過言ではない。

しかし、両奈には攻撃は効かない。余程の攻撃が、耐えきれない衝撃を浴びせば話は別なのだが、両奈のショック吸収の許容がどれ程なのかは、あの両備でさえも知らないのだ。

 

「なら…これはどう!?」

 

春花は懐から、怪しい色をした液体が入ってる試験管を何本か出し、両奈に放り投げる。春花の家は知っての通り、医院長である父は名のある大病院に務めてた為、その影響か春花も多少薬のことは理解している。

独自に開発するべく、元いた蛇女では研究施設なんかで独自に薬の研究をしていたくらいだ(ただし、人を困らせる薬も作ることもある)。

そのため、春花は薬を武器として扱うことも出来、トリッキーな戦法を使用する。

薬品に入ってるのはそれぞれ種類が異なるため、どの効果を発揮するのかは不明。そのため予測不可能…と言った攻撃にほぼ近いものだった。

8つの試験管が両奈に放り込まれるものの、両奈は二丁拳銃で反撃…しずに、そのまま避けていく。

両奈のこの判断は正しい。見たことのない攻撃や、相手の力がわからない内は、相手の攻撃をしっかりと見ておくべき、そのため無理に反撃、または攻撃で相殺するのではなく、相手の攻撃をみる。といった行動が一番正しい。ドMの両奈にしては余り考えられないが、これでも彼女は忍…当然といっても良いだろう。

 

(随分と慣れてるわね……久しぶりだわ…こんなに苦戦するなんて……今まで抜忍としての生活を送ってたからかしら?蛇女襲撃事件以来ね…)

 

春花は次にどう行動し、どう両奈に攻撃し、どう対応すれば良いか、頭を使って考えている。本来春花の戦法はトリッキーな戦法だけでなく、半分はマッドサイエンティスト、『春花様のお仕置き』なのだが……

お仕置きといえば、両奈には色んな意味で効くだろう。しかし今の両奈は前までとは違う、そのため苦戦するのも無理はないだろう。

 

「そこまでして、何を怨んでるのかしら?」

 

「ッ──!」

 

ピタッ、とここでほんの僅かに動きが止まった両奈。思わず声を出した春花も、両奈の動きがほんの一瞬止まることなど思ってもいなかったのか、少し驚くものの、傀儡は両奈に殴りかかる。

 

「ッ!!」

 

バチィンと殴られた音が豪快に響く。春花も何となくわかったような表情を浮かべ、両奈の心を察する。

完全に両奈の心がわかった訳でもないが、両奈の心は復讐と、何よりも暴走していることが分かった。

それでも、春花にとってこれが十分なるチャンスとなった。

 

「そこまでして、貴方は一体何に囚われてるのかしら?」

 

「……」

 

両奈も流石に二度も同じ手をくらうほどバカではない。両奈は無言のまま、二丁拳銃の右側で乱射し、左側は拳銃そのもので殴るように襲いかかる。

 

「こうなったら…秘伝忍法!【DEATH×KISS】!!」

 

傀儡で両奈の攻撃を全て防ぎ、からの両奈の体を掴む。掴まれた両奈は驚き少し焦りの表情を浮かべ、脱出しようも既に遅し、春花の秘伝忍法による投げキッスを飛ばしたハートマークが襲いかかり、両奈は避けることかなわず、傀儡と共に攻撃を浴びてしまう。

 

「くっっ──ううぅぅん!!」

 

両奈は表情を赤らめ、喜ぶのを必死に押さえ込みながらも、歓喜の声を上げずに我慢する。両奈は今の攻撃が最高に聞いたらしいのか、Mの性格が目覚めようとするも、両奈は復讐心で無理やり抑えつける。

 

傀儡は春花の秘伝忍法をくらい、ボロボロきなりながらもご主人様のためと言わんばかりにムクリと起き上がり浮遊する。

 

「貴方は確かに強いわ、油断もなければ隙もない……でもね、どれだけ貴方がつよかろうと、私を倒せる算段や実力があっても、貴方はまだまだね…」

 

「……うる…さい」

 

両奈は汚れた頬を拭いながら、春花を睨みつける。しかし、春花の今言ってる言葉は、半分は両奈を誘ってるが、もう半分は違った……

 

「本当よ…?だって、貴方動きに無駄なんてないし、油断も隙もないのに…

 

()()』はあるもの」

 

「!?!」

 

春花自身の本音。春花だってほぼ大人に近い年齢、年の差なのか、又は元蛇女の生徒だからか、春花は両奈に迷いがあるのが見えていた。

 

迷い、両奈のソレは、本当に雅緋を殺しても良いのか?それで間違っていないのか?という、心の底から湧き上がる疑問から生まれたものだった。鈴音に真実を知らされ、復讐の道を否定された両奈は、妹と同じように身も心も裂けるほどに残酷なことであるが、だからこそそれと同時に、雅緋を殺してしまって良いものなのか?と言う疑問も生じたのだ。それは自然なことであり、何らおかしくは無い。

 

「貴方に……」

 

それはとても辛いことで、自分がどうすれば良いのかわからなければ…

 

「貴方に何が分かるのよ!!??」

 

当然悩み、苦しみ、狂ってしまう。それは、復讐という道だけでなく、人生誰もがぶつかる壁。

 

こんなに怒った両奈など初めてみたであろう、それもそのはず。心優しい両奈は人前で怒ったことなど無いのだから…

春花は憤る両奈の言葉を黙って聞いたまま、言葉を返さなかった。

彼女が最後に覚えてる記憶は、三人姉妹で喧嘩をした時以来だろう…

両奈は頭にその記憶が遮りながらも、涙を流し、春花に遅い掛かる。どうやらもうこれで決めるらしい…

 

(きっと、あの子の考えなら、一気に決着をつける感じね…となると、考えられるとすれば……秘伝忍法を使ってくるはず…)

 

春花の考えはほぼ正解といっても良いだろう。しかし両奈がどのような秘伝忍法を使用するのか分からない状況では、避けるにしても近づかれたらどの道意味がない…こっちも秘伝忍法を使うにしても手の内を知られている。二度は効かない…

 

春花は何か手はないかと、辺りを見渡す。耳を澄ませば後ろの銃声音、爆発音…そういえば後ろでは詠ちゃんが闘ってるんだった。と気づき、後ろを振り向く。そこには、偶然と言えるべきことなのか、咄嗟に此方に視線を向けてる詠が、ボロボロになって立っていた。

 

(詠ちゃん?)

 

春花は思わず声に出すのを堪え、心の中で呟く。詠が対峙してるは両備。遠距離攻撃が最も得意とし優れている嘆きの貧乳スナイパーだ。どうやら向こうも手練れで詠はかなり手を焼いている。と春花は思いつつ、向こうの両備に視線を向ける。

 

(そういえば、あの両備って子とこの子、姉妹なんだっけ…目と、こう…言動とか復讐心で分かるわね…)

 

両備と両奈は似た者同士な所もあれば、反対な所もあるので、姉妹として当然なのかもしれない。

 

詠も春花から両奈に視線を移す。そしてそこからか詠は決意を決めた目で、合図を送るように春花に軽く頷く。

 

(詠ちゃん…?──まさか…!)

 

春花は直ぐに見解し、此方も理解したと判断しこくりと頷く。そして二人はお互い両備と両奈と対峙する。さて、詠のとる行動とは一体?詠は一体何が目的なのだろうか?また春花も同じく、一体何を分かったというのだろうか…?

 

 

「さあ、来なさい!相手にしてあげるわ!」

 

「言われなくても…両奈は貴方を殺す!!!」

 

 

両奈はローラースケートで滑るかのように滑走し、春花に襲いかかる。両奈の手には勿論、愛用の二丁拳銃を構えているが、対して春花は何もない。自慢の薬もなければ、愛用…いいや、下僕として愛でている傀儡さえも出ていない。だから両奈は疑問に思えて仕方がない…

 

春花が一体どんなことを仕掛けてくるのかを──

 

 

 

秘伝忍法?先ほどの攻撃なら見切れる。一回食らったダメージは確かに効いたものの、避けれない攻撃じゃなかった。

 

避ける?それは無意味だと春花も分かってるはず。だってこの勝負は何方かが勝たなければいけないのだから。春花と詠の二人の元々、本当の目的は伊佐奈ただ一人。その為には送り込まれた選抜メンバーと闘い勝たなければならない。また、勝たなければ伊佐奈の元へはいけない。だから、避け続ければ、そのまま時間が長引くだけであって、蛇女側(こっち)の増援が来るだろう。

 

反撃のチャンスか…?その考えに至った両奈だが、確信性が曖昧だった。

反撃のチャンスとは思えないこの目つき、何よりも何故武器を所持していない?傀儡を上手く利用して反撃をすることだって出来るはず。また、相手に反撃と悟らせない為とはいえ、余りにも不自然で無防備すぎる。

 

 

では一体何を仕掛けてくる?

 

 

戦いでこんな風に考えたことなど、両奈は今まで無かっただろう。それが、いいことの場合ならの話であって……

 

両奈と春花の距離はほぼ身近に迫っていた。両奈は警戒心を緩むことなく、秘伝忍法を使おうとする。

 

「秘伝に──」

 

「今!!」

 

「!?!」

 

 

勝負の行方は──?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両備と詠の戦いに場面は移り変わる。激しい銃声音が響き渡り、再び嵐のような弾丸が詠に迫って来てる。それを盾のように防御しながら両備へ近づき、先ほどのように秘伝忍法で蹴散らしてやろうとする悪意溢れるSッ気の両備が高笑いしてる姿──

 

 

 

──では無かった。

 

 

「ッざけんな!ざけんな!ふざけんな!!巫山戯んな!!ふざけるなあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

両備はこれまでにない程に激怒していた。いや、怒りなんて文字ですら言い表せないその憤る顔立ちは、先ほどの両奈のアレとは超えていた。勝ち誇った余裕の表情など今の彼女の顔から一切感じ取れない。

もし怒りパラメーターがあったとしよう、両備の怒りパラメーターの数値が出るのは、ERRORという文字が出てくるであろう。

しかし、何故両備はそこまでして激怒してるのか?勿論相手は詠だということが分かる。では、詠は一体どの行動を、どの策を、両備相手にどう対応するのだろうか?

自分が導き出した、両備を倒す策、それは──

 

 

「何で……なんでよ!?頭イかれてるんじゃないの!?どうして…?どうして…

 

 

 

()()()()()()()()()()()()のよ!?!」

 

 

 

──何もしない。

 

詠は大剣を手に持ち、防御の構えを取ることなく、平然と、明るい笑顔でまっすぐ、両備に近づいて来る。その行為は誰もが見たら自殺行為だと言うだろう。相手は銃、近くには盾やら何やらを使って近くしか方法はない。だが、詠の行動は余りにもイレギュラーなものだった。そのため両備への衝撃は大きく、混乱し、何がしたいか分からず、両備はひたすら乱射しまくるのであった。

だが、その銃弾が詠には一つたりとも当たらない。髪やら頬やらが掠り、掠った僅かな髪はそのままふわりと落ちていき、頬はまるで刃物やらで斬ったかのように血が垂れ流れる。ギリギリだが、それ以外何処にも当たっていない。

 

「当たれ…当たれ…当たれあたれ当たれ!!!くそッ!クソッ!クソッ!!」

 

両備自身戸惑いを隠せない。詠を狙って撃っている。しかし外れる、自分自身外してるつもりなど毛頭ない。だが、結果は目の前の詠を見ての通り、掠りこそはしてるものの、銃弾が詠に当たることはない。

両備の狙撃はかなり優秀であり、蛇女子学園一位の成績を取るほどの優秀なスナイパー。目の前の詠など撃ち抜くは当然。

 

なのに両備は詠に攻撃を当てれない。

 

 

(やはり、正解でしたわね)

 

 

そのことに両備は腹が立っている。当たるはずなのに、当たる距離なのに当たらない。何故?殺すんだ、私はコイツを殺すんだ。姉を思い出すコイツを絶対に殺すんだ。そう決めたんだ。

 

自分勝手だと言われてもいい、思われてもいい、どれだけ皆から何を言われようと、自分の決めた道を曲げることはできない。抜忍を始末し、雅緋を殺す。

なのに、何でだ……なんで…

 

焦り、動揺し、感情昂り、怒りで自我を保てなくなり、復讐で身を奪われ暴走する。だからこそ、両備は詠に攻撃が当たることはないし、当てられないのだ。

両備は冷静さを完全に欠けている。それは、真実を知った時から既に無くなっていたのだ。つまり、戦う前から冷静さという文字は彼女には一切なかったのだ。

だからこそ、冷静さがなくなった彼女は、冷静な判断と応用力、行動や判断が出来ないのだ。

頭の中で色んなことがあってごちゃ混ぜになってる彼女が、銃をひたすら乱射させ、それに対し詠が何の防御を構えることなく、ただゆっくりと通学路を歩くかのように思わされるその行動にこそ、両備は詠に銃弾一つも浴びせられないのだ。

 

それこそ、詠の行動は柔軟で優れていた。

 

 

何よりも、両備が先ほど言ったように、詠はお姉ちゃんに似ている。

 

 

そして距離が縮み、詠と両備との距離はそう遠くなく、至近距離、近くにいた。もうあと一歩踏み出せば、両備のほぼ目の前にいると言っても過言ではないだろう。両備の息遣いはとても荒く、鋭い眼光で睨みつけている。詠はそこでピタりと立ち止まる。

そのことに又しても両備は目を大きく開く。だがそれも瞬時に理解した。自分の隙を作らせるためだ──

いや…違う。

 

(コイツ!!今度は、こいつは何をする気なんだ!?!今度は一体何を…)

 

もはや考えられる力など残っちゃいない。詠の先ほどの行動がぶっ飛んでる余り、両備は詠の行動が読めなくなってしまった。

人の思考は混乱してしまうと、状況が追いつけなく、また自分がどう対処を取ればいいのか判断が鈍くなる。その現象こそ、今の両備と同じだ。

 

(まさか…そこから…!?)

 

秘伝忍法──相手を油断させ至近距離で、秘伝忍法を使用する。そう予想した。そうなれば敗北は確定、復讐をする前に殺されてしまうだろう…それだけは何があっても避けなければならない。

両備は距離を保つために後退するが遅し。ただ…

 

「春花さん!!」

 

両備の思考は少し外れていた。

 

 

詠がそう叫ぶと同時に春花の「分かってるわ!」というら声が瞬く間に響き渡った。「え?」と一体今何が起きてるのか分からない両備は、思わず声を漏らす。

 

「え?」

 

上から声がしたので顔を見上げると──

 

「は?」

 

春花と戦ってたはずの両奈が、無防備に空から降ってきた。いや、投げ飛ばされたと言った方が正しいのかもしれない。二人は目を見開き、口をポカンと開け、拍子抜けな表情を浮かばせる。

そして二人は身体を動かすことなく、両備は投げ飛ばされた両奈にぶつかり、無防備だと思っていた春花に秘伝忍法を使おうとしたら、傀儡の罠にまんまとかかり、捕まれ思いっきりぶん投げられ、動かない両備にぶつかる。

 

二人はお互い頭にぶつかり、鈍い痛みが二人を襲う。「イタタ…」と小声を漏らしながら相手を見る。が…詠が何処にも見受けられない。

 

「アイツは…何処に…?」

 

見渡すものの、それらしい影は見当たらない。詠の姿が見えないのだ。

 

一体何処へ…?

 

 

「ここですわ!」

 

声の方向に振り向くと、そこには右からでもなく、左からでもなく、後ろでもない…

 

 

 

 

 

 

 

真上だったのだ。

 

 

 

それも、大剣を振りかざしてる詠の姿──

 

両備と両奈の二人は詠の存在に気づくも遅し…

 

 

 

 

 

「絶・秘伝忍法!【ラグナロク】!!」

 

 

詠は剣を更に巨大化させ、大回転しながら、真上で剣と共に襲い掛かってくる奥の手とも言える必殺技。大剣が大地に唸りを上げ、轟かせ、両備と両奈は避ける術なく、詠の絶・秘伝忍法をもろにくらった。

 

因みにラグナロクとは神々の運命という意味であり、欧米神話の世界における終末の日のことである。




秘伝忍法って、ネタやオリジナルなものもありますが、大抵ネタが使われてますよね。
秘伝忍法に意味があると、何処かしか個性に似てる部分があるなぁって何と無く思います。

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