光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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ヒロアカは本誌でも盛り上がってますし、ここでも盛り上がっております。
そろそろ挿絵出さないと…


69話「人間じゃない」

「本当にここで良いのかしら…?」

 

「分かりません…しかし、先ほどの騒音はこちらから聞こえてきましたし、もしかしたら焔さんが戦ってるのかもしれませんわね…!」

 

ふと何気ない静かな廊下から聞こえる二人の女性の話し声。二人は息を切らしながらも出資者、伊佐奈の部屋へと向かっていく。

 

「両備ちゃんと両奈ちゃん、本当に任せて良かったのかしら?」

 

「他の忍学生を説得するのは任せなさいと言われました。私たちはそれを信じるまでです」

 

その二人とは、詠と春花のことだ。

両備と両奈と一緒に行動を共にしていたが、他の忍学生に見つかってしまったのだ。傷を受け、消耗をしてる彼女たちにとっては最悪な展開だったが、両備と両奈の二人が食い止めてくれたのだ。

その間に伊佐奈の元へ…と。

 

「でも急に静かになったわね……何が起きてるのかしら?」

 

「あっ、あれ!もしかしたら此処でしょうか?」

 

詠が指差すは一つの扉…自分たちが前にいた頃と内装は変わったいない…なら前に道元がいたあの部屋も、此処で間違っていないはずだ。

 

 

詠は「扉は開けるためにあるものです!」と大声を出し扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景は、旋風を失った悲しみで涙を流し、憤怒で紅蓮の炎に身を染める、紅蓮の焔。

そしてそんな焔に完全な殺意を芽生え、顔に横の一閃の傷が残る伊佐奈。

 

 

 

「伊佐奈、覚悟しろ…お前は紅蓮の炎で燃やしてやるよ」

 

「もう良いやコイツ…ガキ(バカ)とは話が合わねえ」

 

 

 

突然やってきた彼女たちからすれば、何が起きてるのか、何が起きたかサッパリ分からないこの殺伐とした空気。そんな二人の空間に、二人は思わず息を呑む。

 

部屋は間違ってなかった、伊佐奈がいる。それは良いとしよう…しかし何だろうこの殺意が漂う、気味の悪い静寂なこの空間は、嵐の前の静けさによるもの。

 

 

「詠、春花」

 

「ふぇっ?」

 

突然、焔は後ろを振り返ることなく、詠と春花に声をかける。

声をかけられた二人は素っ頓狂な声を上げ、目を見開いて、紅い焔を見つめる。

 

「旋風を…頼んだ」

 

「えっ?旋風って…」

 

と、此処で春花は部屋の隅に、旋風の遺体があることを知った。

直ぐに駆け寄り脈や息を確認し、旋風が息絶えたことを知る。

 

「でも焔ちゃん…この子「頼んだぞ」!?」

 

焔の異様なまでの、尋常じゃない怒りを燃やし、紅蓮の色に染まった髪を揺らがす。束ねてた白い紐が解かれ、ポニーテールだった髪は下ろされている。

紅きオーラは、触れただけで火傷しそうだ…まるで近づくものは誰であろうと焼き尽くすかのように思わせるその炎は、異常なまでに燃え上がっていた。

 

「詠、春花、下がってろ。私は、やらなければならないことがある」

 

「「焔ちゃん…」」

 

 

これまでにない、初めて見せる激情に、二人は言葉も出ない。

二人は、扉の前で立ち尽くし、一歩も動かなかった。

 

二人も本当は伊佐奈を許せないし、今直ぐにでも焔に加勢し戦いたい。しかし、今はそんな状況ではないと見ただけで直ぐにわかる。何よりあの焔が、時に厳しく、仲間想いの、頼りになるリーダーが、仲間には見せない怒りを露わにしてる今、自分たちが出ていい立場ではないと容易に感じ取れる。

 

 

「それは、お前を倒す事だ!!」

 

 

「やってみろよ!!雑魚がああぁぁ!!」

 

 

二人の怒声が響き、焔は炎月花を構え、伊佐奈は更に尻尾を巨大化させる。強靭な尻尾を焔に向けて襲いかかる。避けるスペースがないほどに巨大化させた尻尾、すると焔は炎月花を横に振るい、尻尾に斬りかかる。

紅いオーラを纏った炎月花と、凄まじい尻尾がぶつかり合う。

鍔迫り合いが起き、伊佐奈が一気に押すものの、焔は覇気を孕んだ声を腹の底から振り絞り、振り払う。

するとどうだろうか、あの強靭で強力な尻尾は見事に吹き飛ばされ、壁に埋もれる。

 

「!?」

 

尻尾を弾き返され、焔の力強い振りの威力ゆえ、体のバランスを崩してしまう。

焔は難なく、飛んでくるボールをバットで打ち返すような、そんな風に軽々しく、伊佐奈の尻尾を吹き飛ばしたのだ。

その力強さは、先ほどまでとは比にならない。

 

(コイツ…!尻尾を弾き返しただと?上級ヒーローやヴィランでもひとたまりもなく吹き飛ばし…この尻尾に勝った奴なんざ居ねえのに…!!)

 

伊佐奈は焔の実力に、紅蓮の焔という覚醒した力に、戸惑いを隠せない。

 

「チッ!もう一回…潰れろ!!」

 

伊佐奈は忌々しく焔に舌打ちをし、勢いよく尻尾を振るう。今度は鋭利で頑丈な尾びれを武器にし焔に襲いかかる。

焔はこれもまた軽々しく、一振りで尻尾を難なく弾き飛ばす。

 

(な…んだと…?)

 

それから、なんども何度も尻尾で攻撃をするものの、焔は臆することなく、怒りに染まった表情を変えることなく、悠々と、ゆっくりと歩いて近づいてくる。

どのような攻撃を仕掛けても、攻撃が通用しない焔のその姿は、怒りどうこう以前に、軽い恐怖を抱いてしまう。

 

紅蓮の焔となった彼女は、動きに無駄がなく、力も速さも、全てに於いてより活発となった。

 

(どれだけ攻撃しても…アイツに通じない……!!

あのゴミを殺してから…急激に強くなりやがった……力も速さも…先程とは比べ物にならねえ位に……クソ!クソが!!そうだ、早く動きを止めないと…こっちがやられ──)

 

伊佐奈が大きく体の態勢を崩したその時だ。焔は一気に飛び上がり、伊佐奈の目の前で足を掲げる。

スカートの中から黒いパンツが見えるが、そんなの関係ないしどうでも良い。

 

そして掲げた足を、伊佐奈の顔めがけて思いっきり踏み潰す。

 

ガシャアアン!!という金属の音が鳴り響き、焔は先ほど踏まれたお返しと言わんばかりか、口角を吊り上げ、伊佐奈をジッと見つめ、不敵な笑みを浮かべる。

 

「さっきの仕返しだ。

なぁ伊佐奈、お前の言う雑魚に踏まれる気分はどうだ?」

 

「ッ!クソ雑魚がぁ!!調子に乗りやがっ…てぇ!」

 

雑魚と罵ってきた焔に踏まれ、不敵な笑み浮かべ、見下している焔に対し、伊佐奈のプライドも、逆鱗も、堪忍袋も…そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんだよアイツ?顔が化け物だぜ?』

 

『ヴィランだヴィランだ!!ギャハハ!』

 

()が気持ち悪い……近づかないでおこうぜ?』

 

 

 

 

 

 

消えることのないトラウマを──

 

 

「俺を見下すなガキィ!!!!!」

 

 

──傷つけた。

 

 

触れてはいけない過去に、今まで罵られ生きてきた人生を、思い出したくもないトラウマを、全て呼び覚した焔に、伊佐奈は大きく怒鳴り叫ぶ。

 

 

(クソが!!くそクソ!こんなガキに、俺が…!だが、動きさえ止めれば関係ねえ…こっちのものだ!)

 

キィィと念ずるように、伊佐奈はエコーロケーションを使おうと焔を見つめる。また動きを止める気だ。

 

「アレって…まさか!」

 

と、ここで旋風を抱えてる春花は、伊佐奈の動きに違和感を感じ取る。一見何も見えないが、耳を澄ませば微かに聞こえる。

キィィという耳の鼓膜を突き刺すような…心当たりがあるのか、春花は傀儡に命令する。

 

「焔ちゃんを押し倒して!」

 

すると、傀儡は頷きながら焔に猛進し、グローブ状になってる両手で直ぐに押し倒し、伊佐奈の超音波を食らうことなく避けることが出来、伊佐奈の超音波は空振りに終わる。

 

「こ、これは…春花の傀儡?!

 

春花!何をする!私の戦いの邪魔を──」

 

「雑魚おぉ…!!」

 

最初焔は急に傀儡に押し倒されたことに驚きつつも、これが春花の傀儡だと知り叫ぶものの、伊佐奈は「クソ雑魚が!」と更に忌々しい目で睨みつける。

春花は「ごめんね焔ちゃん」と大人びた感じで反応を取る。

 

「焔ちゃんの戦いを邪魔した…っていうのなら謝るわ。でも焔ちゃん、あのままだったらやられてたわ」

 

「…どういう意味だ?」

 

「エコーロケーション、超音波。それが伊佐奈、彼の最も得意とする能力よ」

 

「!?」

 

エコーロケーション。本来海中で暮らすイルカやクジラなどが使っている超音波だ。

仲間と通信したり、獲物をマヒさせるといった手段で用意られてる能力だ。

 

「詳しいな…紅蓮隊の……春花…だっけか?確か大病院の娘だったか……」

 

「ええ、一応動物とかには詳しいから…偶々本で読んだことがあるのよ……でもまさか、忍の世界でこの知識が役に立つとは思わなかったけどね。

それ以前に忍である貴方が使うのは意外だったわ」

 

個性によるものならば話は別なのだが、こう言った超音波の忍術は聞いたことないため、春花も多少は驚いてる。

伊佐奈のことを完全に知ってるわけではないため、これが本当に忍術によるものなのか定かではないが…

と、ここで詠が一足先に前に出る。

 

「ですから忍として、貴方は余りにも酷すぎます」

 

「……あ?」

 

詠の厳しい言葉に、伊佐奈は眉間にシワを寄せ付ける。先ほど焔を睨んでいたが、今度は詠へと視線を変えた。

 

「忍がなぜこの世に存在するか…本当にわかってるのですか!?少なくとも此処は、蛇女は、貴方の為にあるのではありません…

 

行き場のない人間が、辛い思いを、苦しい思いも、嫌な思いも…全て背負って此処にやってきてるんです!!

 

貴方にとって、此処の忍は全て手段でしかない…そうでしょう!?

使えない忍は全て切り捨てる?殺す?そんなの間違ってますわ!これだから金持ちは嫌いなのです!!

 

貴方が出資者であろうとも、貴方が幾ら偉くても、上層部から信頼されてる人間でも!!

私は!私たちは貴方を()()とは思えませんわ!!」

 

──ピキッ!

 

 

『人間』じゃない…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──やめろ

 

 

 

『おいコイツ、あの財閥家の…アレが息子か?人間じゃねえよな…』

 

『ええ、気持ち悪いわ……あの顔、何なのかしらね?人間とは思えないわね』

 

『近づかないでおこうぜ?いくら個性の影響だからって、近づくと何されるかわかったもんじゃねえや』

 

『ああ、そうだよな…とてもじゃないが…

 

 

 

 

 

 

 

 

人間とは思えねえし』

 

 

 

──何にも知らねえくせに…

 

罵られ、妨げられ、拒まれ、見下されて、それがどれだけ辛いことが…

 

 

何にも知らねえガキが…!

 

 

何にも知らねえくせに…!!

 

 

「知ったような口を利くなあああぁぁぁ!!!!」

 

 

思い出したくもない。

周りの人間からのけもの扱いされ、見下され、生きてきた。

そんな生涯忘れることのない、心の傷を再び掘り起こした詠に、伊佐奈は大きな怒声で叫び、巨大な尻尾を詠に向ける。

 

「はああぁぁぁ!!」

 

ガシャアアン!!

 

伊佐奈が詠を尻尾で殺そうとしたその途端、焔は炎月花を振るい、伊佐奈の顔に斬撃を入れる。

とは言ったものの、伊佐奈が着けてる水族館をモチーフにした無愛想なヘルメット…マスクにだが。

マスクに攻撃したため、傷は与えることはできなかったが、それでも吹き飛ばすことは出来た。

 

マスクは嫌な音を立て、先ほどの攻撃で原型を保てず、鉄が溶けたように黒い一閃が入っており、そこから臭い匂いが僅かながらに漂う。

そして伊佐奈の顔を半分隠してたマスクが見事に取れる。

 

「春花、さっきは感謝する。詠、お前の気持ちもわかる。だが春花、詠、お前たちはもう下がってろ。これ以上ここにいると被害が更に広が──」

 

「ああ!ダメだ!」

 

「!?」

 

吹き飛ばされた伊佐奈は、ゆっくりと立ち上がり、此方に背を向けている。突然喋り出した伊佐奈に、焔たちや、黙って見てた雅緋でさえも振り向く。

 

「このままじゃ…ダメだ……ああ、ダメだ、ダメだ…!」

 

伊佐奈はボロボロのマスクを手に持ち、体が小刻みに震えている。

このマスクはもう使えない──

そう見解した伊佐奈は、被ってたマスクをまるでゴミのように、部屋の隅に放り投げる。

 

「平和の象徴だ……オールマイトなんだよ……そして……アイツら無能の下等生物供が……両親が……この世界の全てが……

 

 

 

 

 

 

俺の人生を狂わせた」

 

そして、後ろに、彼女たちに振り向く。

 

 

 

「「「「!?!」」」」

 

 

 

四人は、伊佐奈のその隠された顔を見て衝撃を受けた。言葉すら出なかった…

焔は驚きはするものの、多少引いてるだけ。春花も冷静さは保ってるが、内心は驚いている。

詠は手で口を覆い、「何ですの…?これ…?」と、この世のものとは思えないものを見るかのような目で見つめる。

 

(アレが……伊佐奈の……初めて見せる……隠された()()()()()()…!!)

 

あの選抜メンバー筆頭の雅緋ですら、その顔を見せたなかった。

伊佐奈に隠された真実の顔が…彼女たちの目に映っていた。

 

「小娘共が…一丁前に講釈垂れやがって……

 

アイツらのせいで、俺は…惨めな人生を送ってきた……

 

オールマイト…あの平和の象徴と謳われた化け物のせいで……組織は滅んだ。

 

 

この世界が悪い、この世界が人生を変えたんだ!

 

金髪野郎…詠…とやらか?人間じゃねえだと?何にも知らねえくせに…人間とは思えないなんて…

そんな…そんな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酷いこと、言うんじゃねえよ」

 

 

伊佐奈に隠されたもう一つの顔は、黒い化け物の顔だった。

クジラのような顔に、頭には水を噴出する器官、突起物が生えており、伊佐奈の健全な顔の反面、黒い顔は目がギョロリと目一杯開かれ、野生の獣…いや、海獣と思わせる異形な目をしていた。

 

「それが…お前の…隠された……顔なのか…」

 

「やめろ…やめろ!!俺を、そんなゴミを見るような目で見るんじゃねえ!!」

 

伊佐奈はこの顔を彼女たちに見られ、引かれたことに興奮してるのか、酷くえらく荒れている。

こんな伊佐奈を見るのも初めてだ、四人は彼の様子に戸惑いを隠せない。

 

「ハァ……ハァ………醜い…惨めだ、哀れだ、化け物だ、そう思っただろ?俺はそれが嫌だったから、それを隠すために…俺はあのマスクをつけてたのさ……裏サポートデザイナーに頼んだ物だがな……自分の正体を隠すのにちょうど良かったよ。

 

4歳…俺が個性を発現する前までは…何もかも手に入れてたんだ。地位も、金も、全て!!

 

忍だってその気になれば幾らでも買えるほどの…俺は有名な財閥家の息子だった…!!」

 

その目からは、何かに対する憎みし、悲しみ忿怒、悪意、数々の負の感情がその目に放たれる。

 

「だがある日突然、俺のこの個性が発覚したその時、皆は俺を化け物と呼び始めた。この個性のせいでな…!!

 

世にも珍しい部類だと医者から言われた……無個性や個性婚とは違い…個性障害というな…」

 

本来個性の役割は、人それぞれによるものだが、伊佐奈の場合は他の人間とは違っていた。

雄英生の蛙吹梅雨のような個性、カエルといったカエルらしい人間や、No.11ヒーロー、ギャングオルカのような、完全なる動物異形型といった人間離れした個性を持つ者。

またドラグーンヒーロー、リューキュウのように発動する変身系の個性を持つ者だっている。

 

しかし、伊佐奈の個性は他の者とは違った、特殊な部類。

個性の影響のせいか、顔の半分がクジラのような化け物となっており、人々は伊佐奈を化け物と呼んでいた。

 

個性障害。形や姿が安定せず、顔の半分が化け物となり、人間の姿とは半分かけ離れ、二度と元に戻らない個性の障害発達。

 

つまり、人間らしい動物型でもなければ、完全に人間から離れた動物型でもない、第三の個性を持つ者。

 

それが伊佐奈だ。

 

 

「想像できるか?生まれて望んでもない個性を手に入れて、何も知らねえ他の奴らから罵られ、化け物扱いされ、両親から見捨てられ、ゴミみてぇな場所で生き続け、見下ろされてきた人生…俺はそれを10年以上も味わった………

 

これまでにない屈辱と、湧き上がる怒りの殺意…俺はそれを抱きながらずっと生きてきたのさ…」

 

超人社会。

普通の個性があるのは当たり前。特殊な部類に入る人間は、例えヒーローだろうと敵であろうと、世間はその人間に興味を持つ。

 

だが伊佐奈だけは違った。例外だった。

多くの人間は彼を否定し、生まれ持った力だけで、彼は何もしてないのに、個性のせいで全ての人生が狂ってしまったのだった。

 

 

 

「だから俺は、俺を見下して来た屑共が許せなかった…

そして俺はあの10年間、自分の個性について向き合い、研究し、把握して来た。自分の個性をどう上手く使えるか、自分の個性の特徴、様々なものを知り、俺はようやく力で全てを支配することが出来た。

他の(ヴィラン)共も俺の存在を知り、俺は一時期、(ヴィラン)組織を作り出し、そのボスとしてありとあらゆる悪事を働いて来たさ……俺を見下して来た奴らへの復讐としてな…

 

だがソレでもまた違った!!今度はあの平和の象徴に、あのオールマイトとかいう化け物に!全て滅ぼされたんだ!!俺の組織も、計画も、金も、部下も!すべて全て!全部奴に壊された!!!

 

俺は命からがら、逃げることが出来た……他の部下共は今頃どうしてるから分からねえし、全員捕まったのかもしれんが……今までの努力が、全て水の泡になったんだ……」

 

伊佐奈のこれまでに至った経緯、そして自分がヴィランだったという存在。

伊佐奈の過去、正体を知ったその場の四人は、言葉を失う。

 

残酷な人間で、許されない伊佐奈だが、自分たちと同じように、辛い思いをして生きて来た、同じ境遇者を前に、少し戸惑ったからだ。

 

──焔を除いて。

焔はややきつめな口調で伊佐奈に問う。

 

「それでお前はこんな事をするようになったのか?聞いて呆れるな…所詮ただの自己満足の為だろ…

それで忍を巻き込む関係性が見えないんだが?」

 

「それで俺は(ヴィラン)をやめて、忍の出資者として生きる事を決意した」

 

「!?」

 

伊佐奈は懐からひとつの注射器を取り出した。その注射器を自分の首に向け、シュコン!と中にある液体を注入する。

伊佐奈の行動に四人は目を見開く。

 

「うぐっ!!かっ…!」

 

伊佐奈は突然悲痛な表情に顔を歪ませ、その途端、手に持ってた注射器を落とす。

 

「おいお前!何をし──」

 

「ハァ…!!ハァ…ハァ……!そして俺は…伊佐奈という忍名で通し、マスクも付け、俺は完全に忍の社会に溶け込むことが出来た……ハァ……そこから俺は忍についてありとあらゆる知識を身につけ、妖魔という存在に大きく興味を持ったのさ…!…ガッ…うっ…くぁ……!はぁ……はぁ…

そこからだ、俺が蛇女を狙ったのは。

 

敵連合の襲撃、道元の行方不明…その事件を利用し俺は……蛇女を根城として支配することが出来た…!」

 

伊佐奈の額や首筋には、血管が浮かび上がり、いつもより呼吸が乱れ、息が上がっている。

恐らく注射器で何かを打ったからだろうか、冷静さが欠け、いつもより様子が可笑しくなる。

 

「その注射器って一体…… っ!貴方まさか…!!」

 

春花はその注射器が一体何なのか、理解したらしく、いつも穏やかでお姉さんのような顔色は無くなり、血相を変えた。

 

「貴方…その薬が何なのか分かって打ってるの!?それは──」

 

「流石だな春花ぁ。ハァ…ハァ……これは裏アイテム…違法薬物の『()()()()』と呼ばれる、無理やり個性を活性化させる薬だ……」

 

 

トリガー。

違法薬物、闇市場として流通し、裏アイテムとしてヴィランから扱われてるドラッグのような薬物。

個性を『活性化(ブースト)』させる反面、その代償として自分の理性を弱らせる品物。因みに打った際に舌が黒くなるのが特徴らしい。

本来こう言った個性を上昇させる物は、個性弱体化を救出するものとして、扱われてる一種の救助アイテムでもあるのだが、最近は闇市場など無断で許可なく流通している。

最近突然(ヴィラン)が活性化すると言った、突破性(ヴィラン)の原因はトリガーに当たると、近頃よくニュースで噂になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、遊びはもう終わりだ…!!」

 

伊佐奈の体がみるみると変わっていく。体色が黒水色になり、コートだけでなく、体全身が巨大化していく。

頭は長く伸び、突起物は少しずつ頭の真ん中へと移行し、巨大なあまり、今いる部屋が壊れ、天井がなくなるどころか、天守閣の屋上までもが壊された。

 

「これは…!」

 

「あれが…伊佐奈の…本当の姿……」

 

「で、デカイ……デカ過ぎますわ……というよりこれって本当に……」

 

「貴方…まさか……」

 

四人は、悠々と山が聳え立っているかのような圧倒的なデカさと存在感を目の前にし、息を呑み、冷や汗を垂らす。

紅蓮の焔をも対等に、いやそれ以上の力を手に入れた伊佐奈のその姿は、陸上に上がった巨大な鯨そのものだった。

息遣いは荒く、禍々しい目は焔たちを見下ろし、屈強な筋肉に血管が浮かび上がっている。

 

「覚悟しろ小娘ども…今の俺は伊佐奈じゃねえ…キュレーターだ!!」

 

「キュレーター…やっぱり!」

 

「春花、知ってるのか…?」

 

「ええ…未来のパソコンを借りて、昔のネットサイトやニュースの記事とかよく見てたわ…そこで前に一度目を通したことがあるの…

 

ヴィランの巨大組織壊滅。『5()()』のヴィランが逃走……

その内の一人が…貴方というわけね…その組織の名前はワイルドヴィランズ。そしてそのリーダーこそが、クジラの姿をした彼よ…」

 

「!」

 

クジラの姿をした彼なら、ニュースや新聞の記事といったものに目がつけられるし、見た目も派手で印象的なため、一度彼を見たら忘れないだろう。

だから伊佐奈は人間の姿を保ち、マスクをつけ、世の中の光から逃げてきたのだ。

 

そして逃走中のヴィランが現在、こうして目の前にいる。

ヴィランなのに忍として社会に溶け込むことが出来たのも、きっと彼が素性を隠していたからだろう。

蛇女や悪忍育成機関は、相手の事情や個人情報などを探るのは禁止とされている。

 

そのため伊佐奈がヴィランであることも分からなかった。

 

 

「詠…とやらか?俺のこと、人間じゃねえって言ったよなぁ…?ああ!?

 

違う!俺は人間だ!!お前らは俺の道具だ!俺は、人間なんだ!!!」

 

伊佐奈は詠を睨みつけると、巨大なクジラの雄叫びを上げ、頭がメキメキと硬化していき、彼女目掛けて頭を振り下ろす。

 

「なっ!しまっ──」

 

彼の思わぬ行動に、詠は避けようとするも、伊佐奈は先ほどの尻尾といい、図体似合わず素早い動きで襲いかかる。

 

巨大な隕石のような鯨の頭が、頭突きが、迫ってくる。

 

「詠ちゃん!!」

 

春花はなんとか距離を置いたものの、詠が避けきれないことを知り、駆けつけるも遅し、もう間に合わない。

 

(ど、どうすれば…!私は…!)

 

「詠!危ない!!」

 

「えっ?」

 

途端、詠は誰かに身体を押された。

いや、誰…だなんてこの状況では言わなくても理解できる。

詠はその人物に視線を移す…その人物は言うまでもない、瞳の奥に映るその姿は…

紅蓮の色に染まり、仲間を、詠を助け出した、焔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドオオオオオオォォォン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして伊佐奈の…いや、キュレーターの隕石と呼ぶに相応しい頭突きを、焔は詠を庇って食らってしまい、巨大な地響き音と共に地面がクレーターのように凹み、天守閣そのものが、地震でも起きたのかと疑問を抱いてしまう位に、激しく揺れた。

 

 

 

 

「焔さん!!!」

 

 

その光景を見た詠は、涙目になりながらも、震える声を振り絞り、焔の、彼女の名前を大きな声で呼び叫んだ。

 

しかし、彼女から反応が無ければ、声が聞こえることもなく、詠の叫び声だけが響き渡り、静寂な空気が辺りを包み込んだ。




トリガーはヴィジランテの漫画に出てきた闇アイテムの一つでございます。
これと僕のヒーローアカデミアは関連しているので、ここでも出しました。魔門から貰ったのは、このトリガーと呼ばれる薬品のことでした。
それはそうと、ヴィジランテでは、ナックル先生は面白くて割と好きなキャラです(笑)。

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