光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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僕のヒーローアカデミア14巻、ヒロアカすまっしゅ3巻発売おめでとうございます。
本当にヒーローアカデミアには感謝の言葉しかありません。
自分は本誌派ですが、今でも来週のジャンプの続きが気になりしょうがありません。
自分が小説投稿続けられてるのも、ヒロアカあってこそです。興味を注がれ、やる気を起こさせる…待ち受ける展開にハラハラ感を与えられ、それを小説のバネとして書く、まあ当然早く本誌まで書きたいですが、今の物語も大切ですので、二重に味わって投稿していきます。
これからも頑張るぞ!


73話「グラントリノ」

職場体験。

スカウト目的で体育祭を観にやって来た全国のプロヒーロー達から指名され、生徒達は行きたい事務所へ行き、軽いヒーロー活動を行う。

一年から始まる職場体験は、経験を積むことと、ヒーロー活動を知るということだ。

二、三年生から職場体験が本格的と化し、より良い経験を積んで、即戦力として判断される。

将来ヒーローになるための道、これは絶対に通らなければならない道のりなのだ。

それを一週間、ヒーロー事務所で研修するのだ。

 

 

今年の1年A組の指名は、轟と爆豪の二人に注目を浴びた。

本来ならもっとバラけてるのだが、二人の個性や実力に余程興味を持ったのだろう(但し爆豪の場合は性格上悪い為一部爆豪から轟へと注目を偏ったこともある)。

 

なにせ轟はあの良かれ悪かれNo.2ヒーロー、エンデヴァーの息子だ。

肩書きだけでも轟は有名なので、実力を兼ねた上で、あの指名数は納得がいく。

 

 

「よしお前ら、コスチュームは持参したな。本来公共の場や許可なしじゃ着用厳禁の身だ、うっかり落としたり忘れたりするなよ」

 

駅のホームは人が絶えることなく混んでいる。

やれ定期を更新するものもいれば、チャージしてる人も見受けられ、また待ち合わせてる人もいれば、ショッピングに寄る物もいる、人と人がすれ違う中、雄英の生徒達と半蔵の忍学生たちは相澤の前で集団になり、担任の連絡を聞いている。

 

「因みに、忍学生のお前たちは知っての通り、お前達は職場体験…という訳にはいかないため、残念ながら一緒に同行することは出来ない」

 

「ざまぁ!!!」

 

相澤の説明に、黙って聞いてた爆豪が突然、上から目線で鼻で笑い、大声で高笑いする。

飛鳥たちも流石に爆豪のこの反応には驚いた。

爆豪は忍学生同士が血で血を争う、体育祭に似た学炎祭で問題を起こし(月閃の部下に手を出したり、襲って来た蛇女と戦ったり)、学炎祭を観に行けず、自宅謹慎をかけられ、よって反省文5枚書かされたのだ。

きっと飛鳥たちがこれからもっと強くなってくることに対抗心を持ち、職場体験で学ぶことが出来ない彼女たちに、心の底から安堵の息とともに笑っているのだろう。

しかし、相澤の説明はこれで終わりではない。爆豪を無視して話し出す。

 

「ただし、お前たちは多分担任教師、霧夜先生から聞いてはいると思うが、『()()()()()()()』がある、お前たちはそこに専念しろ」

 

「強化パトロールってなにー?」

 

「強化パトロール。忍学生は基本、街中をパトロールしてることが多々ある。と言っても広範囲及ばず、軽い程度で済ますがな…

だが強化パトロールは普通のとは訳が違う。一週間徹底的にパトロールを行うんだ、範囲制限なし、食料も自分たちで確保、仲間とともに行動するのも自由、一週間が経つまでパトロールを終えてはいけない」

 

「待って、寝るところは?」

 

「んなもん自分たちで確保しろ」

 

「野宿かよ!!」

 

相澤の言葉に切島は思わず驚愕の声を上げる。

強化パトロール。

平たく言えば、忍に代々伝わる禁断の修行と謳われた這緊虞、締魔破悪と同じくらいに厳しい任務だ。

そのパトロールは、強化パトロールなんて生易しいものでは済まないレベル。

一週間、食料や水、寝る場所は自分で確保しなくてはならない。

食料を買う料金がなければ木ノ実や水で我慢するしかない、それが嫌ならひたすら断食するしかない、水も買うお金が無ければ公園にある貯水場を使うしかない。

 

因みにこの修行は飛鳥たち半蔵学院だけでなく、月閃の雪泉たちも同じ修行を励むのだ。

 

そんな修行があること知らず、爆豪は「クソが!!」と思いっきり舌打ちをしてキレ気味なセリフを暴露した。

 

「くれぐれも失礼のないようにな、説明は以上!じゃあ行け」

 

相澤の解散の言葉に生徒たちは一気に群がる。

やれ何処に行くだの自分はこっち行くだの、無駄な声が飛び交う。

 

「ではオレは雲雀と行く…

 

雲雀、くれぐれも無駄使いしないように慎重に――」

 

「柳生ちゃん!お菓子何買う?あっ、ここの近くのケーキ屋さんとっても有名なんだよ!行こうよ柳生ちゃん!」

 

「……雲雀、話聞いてたか?」

 

言ったそばから…と柳生は雲雀の穏やかすぎる超天然な性格に呆れてため息をつく。

まあそこが可愛いところなんだが…

柳生は雲雀を120%愛してるので、雲雀が何をやっても甘えて許してしまうのだ。

 

「上鳴、アンタどこ行くの?」

 

「ん?そーだなぁ、俺の個性電気だしさ、何か学べねえかな〜って思って『エレクトロック』事務所に行く!」

 

上鳴電気の個性『帯電』は確かに強力な個性だが、デメリットが存在する。

無差別放電は敵味方関係なく攻撃してしまうためチーム戦では彼とは相性が悪いし、個性を使いすぎて許容オーバーすると頭がショートして「ウェイ」しか言わないアホになる。

前にUSJ襲撃の敵に人質に取られて嫌な思いをしてるのだ。

軽いトラウマでも引き起こすくらいの。

 

指名があったと言うのも一つの理由に当てはまるが、実際は同じ電気系の個性ならもしかしたら上手く使えるのではないかという意味も兼ねて彼はその事務所に行く。

耳郎は「へぇ〜」と少し意外そうに感心する。

 

「まっ、頑張ってよね。ジャミングウェ…『チャージズマ』!」

 

「おい耳郎!ワザとだろ、今の絶対にワザとだろ!!」

 

プププと笑いを込み上げ視線を逸らす耳郎に、上鳴は半分キレ気味に突っ込みをブチかます。

遠くで会話を見てた飛鳥は「チャージズマ?」と小首を傾げる。

 

「あ、そっか!飛鳥さんたち学炎祭に専念してたから知らないんだ!ヒーローネーム!」

 

「ヒーローネーム?」

 

近くに居た緑谷の発言に飛鳥はまたも小首を傾げる。

 

ヒーローネームとは、名付けることでその人のイメージが固まる、「名は体を表す」というものだ。

ヒーローネームを決めてたのは、丁度一週間前のこと…その場にいないため知らないのも無理はないし、寧ろ知らないのが当然だろう。

 

因みに天哉と焦凍はまだ決めておらず、爆豪はネーミングセンスが悪いのか、それともヒーローらしかぬ名前だったのか、却下された。

 

「そうなんだぁ、良いなぁ…私も参加したかったなぁ」

 

「ねーねー!前から思ってたんだけどさ飛鳥ちゃん。飛鳥ちゃんの名前も忍名であって、本名じゃないんだよね?」

 

緑谷と飛鳥の会話にお茶子も身を乗り出し会話に参加する。

飛鳥は「うん、まあ…」と生きハキハキととしないような声で反応する。

 

飛鳥だけでなく、柳生や雲雀も本名は隠しており、忍名を通して今も生きている。

忍にとって本名を晒すということは、忍の存在を晒すと同様。

本名はあるものの、身内の人にしか明かしてはならないのだ。

彼女たちの名前は気になるが、これも忍の運命ならば、仕方がない。無理な詮索はいけない。

 

「ま、まあヒーローネームは良いとして…緑谷くん指名なかったんでしょ?何処行くの?」

 

「ああえっとそれが!一人指名が入ってたんだよ!『グラントリノ』っていう凄腕のヒーローらしいんだけど、そこ行くんだ!」

 

グラントリノ。

聞いたことのない名前だ…いやそもそも飛鳥はヒーローについてはほぼ無知識だ。

興味がない…という訳ではないが、今まで忍の修行に励んでいた為、一般人よりかは知識が半歩劣るくらいだ。

いや、緑谷自身もグラントリノの名前を聞いたことはないので、もしかしたらかなり名前が知れ渡っていないヒーローなのかもしれない…

そう思っていたが、彼が凄腕と言う位なのだから、期待しても良いのだろう。

 

「そっか…」

 

緑谷くんも成長してる。

体育祭で成長し、自分は学炎祭を通して成長した。

今度は職場体験となると、自分たちは強化パトロール…

日々を通じて思ったのだが、彼らが成長すれば、自分たちも成長し、自分たちが成長すれば彼らも成長する…互いに互いを成長しあってるように思えるこの感覚は、何だか嬉しいもので、向上心を煽られるようでやる気が出てくる。

 

「よし!私も強化パトロール頑張る!皆んなも頑張ろう!」

 

「おおお!飛鳥ちゃん元気出てきたね!学炎祭終わってなんか、結構明るい感じだね?負けちゃったけど大丈夫なんだよね?」

 

「うん♪雪泉ちゃん達とはもう和解したし、学校も燃やされてないから何の問題もないよ」

 

「良かったぁ〜…ゴメンね?あの日行けなくて…なんか急に父ちゃんから連絡あって、一緒に飯食うか!って連絡あってさ…ウチ実家離れてるし…家族と一緒に過ごすチャンスないから…」

 

「ううん、気にすることないよ!あの日応援しにきてくれただけで嬉しいし…

 

あっ…」

 

飛鳥とお茶子が学炎祭について話し合っていると、緑谷の後ろに飯田が背を向けて歩いていた。

職場体験のためか、駅に乗って移動するのだろう…

後ろに飯田がこちらの会話に入ろうともせず、そのまま無言で行こうとする彼に三人は声をかける。

 

「飯田くん…」

 

緑谷達だけでなく、飛鳥も知っている。

あの悲惨な事件を――

 

 

インゲニウム再起不能。

――悪夢再び、ヒーロー殺し、現る

自分たちが追ってる漆月とは違うもう一人の凶悪な全国指名手配犯、ヒーロー殺しステイン。

現在も逃走中、漆月と関係性を持つと疑われている神出鬼没の殺人鬼。

過去17名ものヒーローを殺害し、23名ものヒーローを再起不能に陥れ、忍殺害数は10を超える。

忍からは別名、忍殺しステイン、と呼ばれている。

 

 

事件にあった日は学炎祭当日だ。

月閃と半蔵の勝負に決着が付いたその時に、母から連絡が入り、ヒーロー殺しの仕業だと知ったのだ。

 

今でも忘れない、あの傷だらけの悲惨な兄の姿を、憧れの兄の、あんな残酷な姿を、飯田が忘れる訳がない。

 

「……飯田くん、本当にどうしようもなくなったら、言ってね?僕たちホラ、友達だろ?」

 

緑谷の言葉に続くように、お茶子は心配そうに飯田を見つめながらも首を縦に振り、飛鳥も何か自分も伝えなければと、気後れした曖昧な態度で口ごもる。

だが目だけ見れば分かる…「無茶しないでね?」という優しさを含めた瞳。

 

 

 

 

飯田は三人の声に、ふと頭の中に飯田とその兄の姿が遮る。

それは先日のこと――

 

 

 

 

 

『天哉…昨日本当は言おうかと迷ってたけどさ……けど、言うな…

 

俺、足の感覚が全くねえんだ…』

 

『そんなの嘘だ!足の感覚が……じゃあ!』

 

『ヒーロー…インゲニウムは多分、ここでおしまいだ……お前が憧れてたのに…悪いな…』

 

『ダメだ!兄さんが悪いんじゃない!!兄さんは最高のヒーローなんだ!これからもっと多くの人を導くんだ兄さんは!!』

 

静まる病院に飯田の悲痛の声が、病室により大きく響く。

ベッドの上で、血液製剤で血液を投与しているチューブが体に繋がっており、頭やら後遺症が残った足に包帯を巻いている。

その姿は、当日とは何も変わらず、痛々しいものだった。

 

『俺だって嫌だよ……やっと、ヒーローになれて……皆んなに支えられて、やっとヒーロー…なれたのに……なのに、俺は…俺……ヒーロー、やれなくなっちまった……

 

だからさ、もし……お前が良いなら……インゲニウム。この名前を、受け取ってくんねえか…?』

 

兄から託された名前を、今はまだ背負えない。

そう、()()まだ…

 

 

 

 

 

 

飯田は唾を飲み込み、嫌な気持ちを無理やり押し殺し、彼ら三人の方に振り向く。

 

 

ただこの時――

 

 

「ああ…」

 

 

もっと強く言葉を掛けるべきだった――

 

 

この日のことを、やがて後悔することになる。

 

そして知らない……今自分たちがこれから、どのような展開が待ち受けてるのかなど…

最悪の未来が待ち構えてることなど、僕たちヒーローや、忍たちにも、何も分からなかったんだ。

 

だからこそ、もっと早く気付くべきだったんだ……()()の行動を、目的を、そして……黒幕の、悪意の正体を。

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

薄暗い部屋、殺風景とした不穏な空気、壁のポスターにはオールマイトの破れた張り紙、ボロボロに剥がれ傷ついてる壁、この異様な空間、そこには…

 

「なるほどなぁ……『漆月』、お前が最近行方を眩ませていたので、どうしたのかと思っていれば、此処で身を隠してたのか……ハァ、そしてコイツらがお前の仲間で、雄英襲撃犯にして、俺と同じく忍を殺害する同志…

 

『敵連合』その一団に俺も加われと…」

 

 

ヒーロー殺し、ステイン。

 

 

「ああ、頼むよ。悪党の大先輩…」

 

 

バーの椅子に腰がけ優雅に話す、悪の司令塔、死柄木弔。

 

 

「忍を殺してる手練れのプロは、知ってる中では貴方しかいないからね、ステイン。お願いよ、ここ、とっても居心地良いんだよ?」

 

バーのカウンターとは真反対、壁に持たれかけ、水色の長い髪を垂れ下ろしてる漆月、そして無言でただヒーロー殺しを見つめてる男、ワープゲートという希少な個性を持つ黒霧。

ステインは周りを見渡した後、死柄木を睨み付けるといった近い視線を向け、暫くして口を開く。

 

「先に聞いておこう…目的はなんだ?」

 

「取り敢えずはオールマイトをぶっ殺したい。

後は俺に楯突く忍とかも殺したい。

 

漆月が言ってたんだけど、月閃とかいうクソ生意気な忍学生は、俺らを狙ってるそうだ。邪魔になるのは面倒だし、コイツらも追加で殺したい。

まあブッチャけ言えば、気に入らないものは全部壊したいな…

 

こういうクソ餓鬼とかもさ、全部!」

 

死柄木は写真を手に持ちステインに見せる。

その写真に映っていたのは…

 

緑谷出久。

飛鳥。

 

この二人だった。

死柄木は漆月の報告を受け、死塾月閃女学館の存在を知り、悪を滅ぼす正義が自分たちに楯突いてくると知り、死柄木はニューチューブで半蔵と月閃、二人の情報を頭に入れ、しっかりとマークしていたのだ。

 

 

「なぁ?気に入らないよなこのクソ餓鬼ども、コイツらさえいなけりゃ今頃オールマイトはぶっ殺すことが出来たんだ…

ああ、早く殺したいなぁ!アイツらの絶望の顔をこの目で見てみいなぁ…!

 

ヒーローと忍を幾多もなく殺してきた先輩もそう思うだろ?な?気に入らないものは何でもぶっ壊そうぜ、お互いに」

 

掌マスクで顔は見えないが、マスク越しのその顔に浮かぶ表情は、確かに笑っていた。

薄気味悪い歪んだ笑顔、一体どうしたらそんな顔を出すことが出来るのかと疑問を抱いてしまう位に、死柄木のその笑みは、気味が悪く、残酷な笑顔を浮かんでいた。

 

 

なれよ。

 

さあ、早く…

 

――死柄木の歪んだ想い。

 

俺の部下になれよ、あのガキどもを殺せ、無残な悲鳴を、命乞いする様を、俺に見せてくれ。

 

頼むよ、お前の力なら忍を根絶やしにすることだって夢じゃない。

 

さあ、早く――

 

 

「興味持った俺が浅はかだった」

 

 

は?

 

――途端、ステインは殺意の目線を死柄木に向け、冷たい声で言い放った。

 

 

「漆月が共に行動する者共に、もしかしたらと少し興味を持っていたのだが……どうやら()()()らしいな……ハァ、

 

お前は…俺が最も嫌悪する人種だ」

 

「はあ?」

 

ステインの予想外な発言に思わず声を荒げ、表情を曇らせる死柄木。

ヒーロー殺し。その名の通り、信念のないヒーローたちを無残に殺し、または再起不能を幾多もなく繰り返してきた極悪人。

ニュースなどで、ヒーローへの危害が絶え間無く取り上げられてるのも揺るぎない事実だ。

だが、ステインにとって一つ例外なものがあった。ヒーローや忍とは違う…もう一つの、殺害対象。

 

それは――

 

「子どもの癇癪に付き合えと?ハ…ハァ……

 

信念なき殺意に、何の意義がある」

 

 

――徒らに力を振りまく犯罪者。

 

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってよステイン!話が違――」

 

「お前は黙ってろ漆月、動いたら首を落とす」

 

「ッ!?」

 

――これは

 

予想外な出来事に、死柄木や漆月だけでなく、黒霧も動揺を隠せない。

黒霧は一度カウンターバーに設置してあるパソコン型のモニターに視線を移し、また再度死柄木弔ステインを見つめる。

 

――破壊衝動のみの死柄木弔に更なる成長を促す為に、そして忍に対抗する戦力として招いた人物…しかしこれは――

 

招き入れたどころか、これは予想外なハプニング、ステインは腰にかけてた鋭利なナイフを二本取り出す。

まるで半蔵学院の飛鳥が刀を取り抜く時のような、そんな感覚に近かった。

 

ステインが死柄木を最も嫌悪する人種なら、逆もまた然り…

 

死柄木弔もまた、ステインを最も嫌悪する人種である。

 

 

 

「先生!止めなくても良いのですか!?」

 

『これで良い!』

 

黒霧はこれ以上はと、死柄木の身の危険を感じ取り、モニター越しにいる先生と呼ばれる人に声を掛けるが、返って来た返事は意外なものだった。

 

『忍学生も着々と成長している。今度は君らが大きく成長する番だ。

 

答えを教えるだけでは意味がない、至らぬ点を自身に考えさせ、成長を促す。「教育」とはそういうものだ』

 

音声のみで正体は分からないものの、モニター越しにいるその人物は間違いなく、半蔵の言ってた黒幕で間違いないだろう。

 

 

先生と呼ばれるその者は、死柄木とヒーロー殺しの争いを、止めることなく、我が子のように、生徒のように、暖かい目で見守っていた。

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

どことなく聳え立つビルや建物がかず多く見受けられる街。

雄英から電車で45分掛かけてやっとついた研修先が…

 

「こ、こで…あってる……よね?」

 

とてもではないが、研修先かどうかと疑ってしまう程に、ボロボロな廃墟となった建物。物静かなせいか、不気味さが増し、もう何年も使われてない住宅地の建物だった。

研修先にやって来たのは、緑谷出久。体育祭で指名が無かったかと思いきや、オールマイトが直接やって来ては指名が入ったとの報告を受けたのだ。

 

グラントリノ。

ヒーローオタクの緑谷ですら知らない名前だ。

動画サイトやSNS、グーグルやヤフーニュースでも検索してみたが、グラントリノの検索結果が出て来なければ、動画すら上げられていない。

 

オールマイトの師匠だと聞いてみたものの、これといった動画は上がっておらず、謎に包まれた存在だ。

そんな人がどこに住んでるのかと思って来てみたらコレ。

頂いた住所は勿論あってるし、再確認もした。

 

(いや、でもあのオールマイトが震えてたほどだし…もしかしたら、名前は無くとも実は案外強すぎだりして?)

 

それでも前向きに思考を働かせる緑谷は、流石と言ったところだろうか、鼻息を荒くし、思いっきり扉を開ける。

ギギギ…と不気味な音が、物静かで暗い部屋に鳴り響く。

外はまだ明るいのに中は思ったよりも暗いので、余計不気味さが際立つ。

 

「す、すみませんあの〜…雄英高校からやって来ました〜…

緑谷出久です、どうぞ宜しくお願いしま〜…」

 

ベチャ…

 

「?」

 

中に入り数歩、中を歩くと床から何やらベチャっと、液体のような嫌なものを踏んだ感覚が伝わり、思わず一歩足を退げる。

 

何だろう?と眉間にしわを寄せ、前をよくみてみると…

 

「っっ!?わあああああぁぁぁぁぁぁあああ!?!」

 

目の前には信じられないことに、いるのだ。

死体が。

それも老人。

 

老人がそのまま俯きになって倒れており、床は赤い液体がべったりと広がるように付着し、飛び散っている。

恐らくこれはこの死体の老人による血液と考えて良いだろう…

 

死体の近くには肉片?らしき不確定な形をした異形な物体が出ている。

これはもしかしたら死体の内臓?だが然程匂いはしない…死体による腐臭などといったものは感じられない…部屋はそれほど寒くはない…

 

更に何かしらの破片が散らばっている。これは凶器によるものなのか、恐らくだが凶器か何かで老人を殺害し、破片が散らばったと推測して間違いないだろう。

 

「け、け、けけ、警察!!あっ、ヒーローもか!てかここって研修先の事務所だよな!?アレがもしかしたらグラントリノ…?死んでるじゃん!!」

 

緑谷は目の前の光景に突っ込みを入れつつも携帯を取り出し、慌てて連絡しようとする。

 

 

「生きとるわ!!」

 

「ッ!?」

 

 

その矢先に、目の前に倒れてたはずの老人が顔を上げる。

緑谷は突然死体の老人が起き上がり、背筋をゾッと凍らせ思わず手に持ってたスマホを落としてしまう。

 

「いやぁ、イタタ…飯食おうとソーセージにケチャップぶっ掛けて食べようとしたのになぁ…こけて皿割って終いにゃソーセージ台無し!ついとらんなぁ今日は…」

 

死体?の老人は杖を手に持ち、緑谷に歩み寄る。

 

「う、うわわ…も、もしかして…ゾン…ビ?」

 

「あ?誰だお前?蕎麦屋の店員さん?」

 

「緑谷です!!てか蕎麦屋の店員って何!?」

 

「なに!?ピザだと?!俺ぁそんなもん頼んだ覚えないわ!」

 

「違いますって!緑谷です!」

 

「ああ!?なんて!?」

 

「緑谷です!!」

 

「え?俊典?」

 

「緑谷出久!!」

 

「誰だ君は?」

 

――やべぇ、ダメだ。

 

見た所傷はないものの、恐らく何かしらの間違いだとこの姿を見て直ぐに理解したものの、この老人のボケが余りにも異常なため、本当の意味でドン引きしてしまう緑谷。

 

因みにあの赤い液体はケチャップで、肉片はソーセージ、破片は皿、つまり殺人現場でもなんでもない、一般的なただの事故だった。

 

しかしそんなこと考える暇もなく、緑谷はこの老人がグラントリノなのかと疑わしく思えてきた。

 

(こ、この人がオールマイトが言ってた…先生?確か雄英の教師を一年だけやってたって聞いてたし、どんな人かと思ってたけど、人違いだよな?

相当なお年とは聞いてたけど幾らなんでもこれは…酷すぎる…)

 

老人ホームにでも連れてった方が良いのでは?と心の片隅で思う緑谷。

老人はかなり身長が低いため、思わず子供かよと思ってしまう。

因みに身長は小学生の平均と変わらないくらいだ。

 

「おいお前!」

 

「っ!?」

 

突然、老人の覇気ある声に緑谷はビクッと軽く体を反応し瞬時に体が固まる。

グラントリノはその場に座り込み、緑谷を見つめてると…

 

「誰だ君は?」

 

やはりこの反応。

緑谷は考えることも、突っ込むことも辞めて、老人に背中を見せる。

 

「す、すみません…ちょっと電話してきますね…」

 

(もう会話なんて出来ないな……

 

取りあえずこのことを早くオールマイトに連絡しないと…教わるものも、教われないし……と言うか、本当にここ、合ってな――)

 

「――早く撃ってきなさいよワンフォーオール!」

 

 

え?

 

 

今なんて…?

 

 

老人からして、あり得ない言葉が背中に投げかけられた。

 

ワンフォーオール?

確かにこの老人がグラントリノで間違いなければ、当然知ってても可笑しくはないだろう…

オールマイトの師。

それはつまり、ワンフォーオールを育てた教育者でもある。

しかし会って間も無く、この圧倒的なボケをかます老人。

 

こんな老人から、ワンフォーオールの言葉を口に出したのだ。

 

となると、間違いない…

 

()()()()()()()()()知っておきたい!」

 

この人はグラントリノで間違いないだろう。

 

 

グラントリノ。

先代の盟友であり、勿論ワンフォーオールの件もご存知。

昔雄英高校を一年間教師として務め、オールマイトを強くしたと言う師匠。

実力も折り紙付き、何せあの平和の象徴オールマイトが、身震いし震え上がり、トラウマを持つ程の凄腕ヒーローだ。

今はかなり年を老いた老人だが、今でも充分強いとオールマイトが断言する程のヒーロー。

 

もしかしたら…本当に?いや、この流れだと、また「誰だ君は?」というボケをかますに――

 

「どうだ?最近の忍学生は?生き生きとしてるか?学炎祭とかやからしたそうじゃないか、若い奴は元気で何よりだなぁ」

 

「!?」

 

ボケかますどころか、忍学生のことも…

学炎祭を知ってるとなると、半蔵学院に死塾月閃女学館のことも知ってる…

 

緑谷はそんな只者でない老人、グラントリノを見つめる。

唾を飲み、息を潜め、ゆっくりと老人に語りかける。

 

「あ、あの…ワンフォーオールの調整はまだで…てんで扱えなくて……体育祭でも何回か無茶してリカバリーガールに叱られたりして、だからえっと…その…」

 

「ん?あ?誰だ君は?」

 

「うわああああ!!」

 

やっぱりそう来たか!!結局予想を裏切らなかった!

緑谷は思わず髪をくしゃくしゃに搔きむしり、お惚けグラントリノに悲鳴をあげる。

ここまでくると何故か憎めない。逆にこれが彼の個性じゃない?と疑いを持つほどにだ。

 

「……あ、あの!!僕時間がないんです!」

 

「!」

 

とうとう我慢の限界が来たのか、緑谷は怒気を孕んだ声で、グラントリノに叫び出す。

流石に急に怒鳴られるとは予想してなかったのか、反応する。

 

「早く力を扱えるようにならなきゃいけないんです!

オールマイトには…もう時間が残されてない…いつ引退してしまうかも分からない…今は、そんな深刻な状況なんです…

 

だから、お爺さんに付き合ってる暇は…ないんですごめんなさい…」

 

少しキツめに言い放った緑谷は踵を返し、荷物を持ったまま出て行こうと歩んでいく。

こんな無駄なコントしてたって時間の無駄だ、帰ってどうなるか分からないが、取り敢えず研修先の、グラントリノと呼ばれる爺さんがこんなボケてるのなら、研修も何もクソもない、そう判断した緑谷が、扉を開け出て行こうとしたその瞬間。

 

「だったらよ…」

 

 

 

――――

 

 

 

1秒も満たすことなく、超猛烈なスピードで部屋中を飛び回り、そして瞬きした瞬間、あの老人が目の前に現れた。

 

「!?」

 

目で追いつけないその凄まじい異常なスピードは、彼に対する緑谷の常識を、全て覆した。

 

「――尚更、撃って来いや受精卵小僧が」

 

不敵な笑みを浮かべる謎の老人グラントリノ。

この凄まじい威圧感に、緑谷は痺れる感覚を肌身で感じた。

 

 

職場体験、初日―――




自分で書いてて言うのもなんですが、グラントリノメッチャ書きやすくて面白いですww
原作でも読んでて大爆笑した懐かしい頃を思い出します。もう六巻突入かぁ、と思う反面、アニメのヒロアカが楽しみです。
グラントリノ一話分、ほんの少しだけ出てましたが、声似合いすぎですよね、流石です。

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