光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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今週のジャンプ滅茶苦茶面白かったです。
そこで一つ疑問に思ったのが窃盗の個性って、カグラにとっては大弱点じゃない?
窃盗ってかなり当たりの個性だぞコレ…そう考えると早く死穢八斎會編やりたいなぁ…
というかヴィラン好きな自分にとって、今週号は良かったです。
良い線出てたな…


74話「しろ成長!」

「脳無のDNA検査?」

 

「ああそうだ、その件でオールマイト、君を呼んだんだ」

 

雄英高校の仮眠室にて、ソファに腰掛けるオールマイトの目の前に、同じく白いソファに腰をかけ、真剣な眼差しで語る塚内刑事。

「重要な話がある」と連絡が来たので、今回その件について話を聞くため、彼を雄英へと招き許可を得たのだ。

 

「捜査協力を依頼してる訳でもないし、これは情報漏えいになるし、社外秘なんだが…どうしても君には伝えなくちゃと思ってね…

 

半蔵くんや君が言ってた、黒幕への手掛かりだ」

 

黒幕。

敵連合の本当のボスにして、裏社会で組織を、主犯者、死柄木弔を動かしてると見なしていい人物。

塚内がその話を持ち込むと、オールマイトの額から、脂汗が滴る。

 

「雄英高校襲撃の脳無のみならず、蛇女襲撃事件の際に漆月と呼ばれる彼女と共に犯行を実行した、二人の脳無…

 

個体や形は違うものの、共通点は脳が飛び出てるのと、言葉を喋らないだけ…」

 

蛇女襲撃事件については、塚内は忍の存在を知ってるため、当然あの事件は知っている。

あの二体の脳無はあの後、上層部に派遣された忍が拘束し、上層部を通して警察署へと連行したそうだ。

脳無と名乗られてる者は皆んな共通点が一緒なのか、何を問いても一切口を開かないのだ。

ここまで来ると、警察も忍も、恐怖しか感じられない。

 

「あれから色々と試して見たんだが、奴らは口がきけないんじゃない、何をしても無反応…文字通り思考停止状態。

 

まるで脳が無いのかと思わせてしまう程に不気味で気味が悪くてね、しかも三人とも同じ脳が飛び出てる人間なんてそうそう居ない、血の繋がりや関係があるに違いないと踏まえ、素性を調べる為DNA検査したところ…

 

雄英高校襲撃の人物、傷害・恐喝の前科持ち、まあ平たく言えば何処にでも居るチンピラだ。

 

だがそこで驚くべきものが発覚したんだ。

奴の身体には全く別人のDNAが少なくとも4つ以上混在してることが分かった」

 

「なっ…!?」

 

塚内は三つの写真を取り出し、テーブルに置きオールマイトに見せるよう渡す。

たらこ唇のこのパッとしない、弱そうなチンピラ…これが、あのオールマイトと渡り合えた脳無の状態なのだ。

そして残りの二枚の写真にも目を移す。

 

「緑脳無、奴の正体は『緑目 三眼』三年前、突然行方不明になった一般人のサラリーマン。彼にはDNAが5つ混在…そして赤脳無、『鼻息 炎射』此方も同じく三年前、工場で働いていたが、原因不明の事故で亡くなったとニュースで取り上げられた人物、だが今はどういう訳か、脳無として姿を現し生きており、DNA5つ…こうも体の構造が可笑しい人間なんてそうそういないだろう……

しかも雲雀くんの証言から、奴等三人とも心がない。それはきっと、思考停止状態によるものだろう」

 

「………おいおい、人間か?」

 

あの脳無と呼ばれる気味の悪い化け物の正体が、ただの一般人…そこらに歩いてそうな一般レベルの実力、到底オールマイトやヒーロー学生、忍学生と闘い渡り合える程の実力は持たないだろう…

 

塚内や医療関係者の話によると、全身薬物などでいじくり回されているそうだ

安っぽく簡潔に言えば、『複数の個性に見合う身体』にされた改造人間。

そしてそれがヒーロー・忍へと暴力を振るい、破壊活動と下される命令へと全力を尽くした思考停止の怪物、殺戮兵器の権化。

 

「脳の著しい機能低下は恐らくその負荷によるものだそうだが、まあ本題は身体の件よりもDNA…個性の複製持ちのことだ。

DNAを取り入れたって馴染み浸透する特性を持った者でない限り、個性の複数持ちなんて事にはならないし、個性婚じゃなければあり得ない話だ。

 

ワンフォーオールを持った君なら、弟子を持つ君なら、分かるだろ…?」

 

「まさか…そんな……嫌な予感はしていたが……存在するのか?」

 

塚内は飲んでた湯呑みを静かにテーブルの上に置く。

危機迫るこの緊迫とした空気、オールマイトがこれまでにない焦りと、不安、信じられないと言わんばかりのその表情は、今までに誰にも見せたことのない顔だった。

 

「ああ間違いない、個性を与える個性を持つ者…()()()が今も、生きている可能性は高いと断言していいだろう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「体育祭での力の使い方、あの正義バカのオールマイトは『教育』に関しちゃあど素人以下、()()に教わらなかったか?

 

体を自然に使いこなし、常に精神を怯むことなく力に変えて使いこなせと。

 

折角忍学生と一緒にいるって言ってんのに、お前は何を学んでたんだか…

 

見てらんねえから、俺が見てやるよ。さぁ着ろやコスチューム、ビシバシ指導して鍛えたる!」

 

 

パラパラと部屋中蹴られた壁に、グラントリノが蹴り出した足跡が残っており、僅かながらにヒビが入っている。

緑谷はグラントリノ、目の前のスピード爺さんに腰を抜かしそうになる。

 

(言い回し、惚け方、忍学生や半蔵を知ってる……そして何よりもこの尋常じゃないプロの気迫…間違いない!この人は…オールマイトの先生!)

 

グラントリノの底知れぬ実力に、プロが見せる圧倒的な凄みを持つ気迫に、半蔵を知ってることに、思わず体が硬直したものに近いものを感じ取った。

まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。

 

「お前がオールマイトの弟子ってんなら、それを名乗る資格があるかどうか…試して見たい!」

 

まあ勿論個性の調整についてそれも含めてだが、グラントリノは緑谷がどれほどワンフォーオールを扱えるのか、その肌身で感じたことがないのだ。

体育祭はテレビで見てたので、緑谷出久のことは当然知っている。

しかし、液晶越しで見るのと直接見るのとでは訳が違う。

 

オールマイトの弟子として相応しいか。

オールマイトオタクファンの彼にそれを言われたら、緑谷出久は黙っていられない。

 

「……宜しく…お願いします!」

 

緑谷出久、果たしてグラントリノに一泡吹かせることは出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜…一通りかなり歩き回ったけど……まだ一時間も経ってないよね?」

 

一方、忍学生の強化パトロール中の飛鳥はかれこれ45分も街を歩き回っている。

まだ45分しか経っていないだろと思うかもしれないが、これ実はかなりハードだったりする。

 

体を動かすということは、時間が経つのが早く感じるが、しかし体を動かせば全てがそう感じるとは限らない。

 

平凡で平和な、物騒の無い街。

どこを見ても何の変哲もない街。

敵もいなければ事件の騒ぎも起こらない街。

 

何にもない…と言ったら可笑しいだろうが、同じ景色をした街を歩いてるだけでは頭が働かないし、一人だと話す相手もいないので時間がより長く感じる。

こう言う時、柳生と雲雀の二人の仲が羨ましく思う。

…但し、同性愛を除いて。

 

どうしたものかと思い、飛鳥は周りを見渡す。

するとどうだろうか、少し遠く離れた場所に、微かに公園が見える。

まあ何も大した事じゃないのだが、飛鳥にとって寛ぐに丁度いい息抜きスポット。

 

(そうだ、あそこの公園で少し休憩しようかな…)

 

どう休憩を取るのかは自由だし、パトロールとは言ってもこの地味なことを一週間も続けなければならないのだ。

休憩を取るのも、食事を取るのも、就寝するのも個人の自由で構わないが、強化パトロールをサボったり、何処か息抜きにと活動しないのも、流石に監視が難しいためバレる要素はないが、真面目に取り組む人間と、そうでない人間では歴然と差が出る。

 

これも個人に任せるとのこと…まあこれは強化パトロールよりも強化サバイバルと言っても過言ではないだろう…

そう思う人間も少なからずいると思うが、それは違う。

強化パトロールには本当の意味がある。

 

例えば抜忍の処罰としてパトロールを強化したり、ヒーローが不在な状況で敵が暴れ出した時、忍学生は戦闘が許される。

抜忍の処罰…焔紅蓮隊の皆んなはきっと苦労するだろうな…

 

公共の場での戦闘は許可されていないが、強化パトロールの為ならば仕方なく、他の一般市民からは忍の存在が知れていない為、ヒーローと勘違いされることもあるので、この際何も問題無いとか…

確かに忍学生として振舞うよりも、ヒーローとして振る舞えば、自然と納得するだろう。

 

忍学生を知らないと言うことは、忍だと知らずにヒーローだと勘違いするからだ。

雄英高校だけでなく、多くのヒーロー学生がパトロールを行うので、忍学生もそれに紛れて行うのだ。

 

これもまた忍の潜入捜査、諜報活動として実践を問われ、経験を積むのに相応しいもの。

食料や水への確保は自分の力で何とかするのも、行動力、判断力を問われる。

一見地味のように見えるが、これもこれで辛いもの。

食料を摂れなくても水さえ確保すれば大抵生きることが出来る。

断食する信教者と同じだ。

 

また水もなく、食料調達も出来なければ、それはそれで忍耐力として修行となる。

水や食料だけでなく、このパトロール自体一週間を乗り越えるのも忍耐力の一つにもなる。

 

寝る場所は目立つところではいけないので、細心の注意を図り、目立たない場所で就寝を取ると良いだろう。それでも万が一、一般人が気づく場合もあるので、そこは気を隠し且つ、周囲への警戒を怠ることなく就寝…

これも忍の警戒心、気配の索敵としての修行にもなる。

 

強化パトロールは厳しい分、修行として経験を積み、得られる物が豊富だ。

どの修行もやる事が同じなので、少し味気ない感じだが、こう言う厳しい修行の方が忍として断然と向いているのではないか?とプラス思考として考えたりすることも出来る。特に飛鳥のような修行真面目バカなら尚更だろう。

 

 

何気ないごく普通の公園に着いた飛鳥は、腰掛けるベンチがあるかと探していた。

ジャングルジムや像の動物をモチーフにした滑り台。

小さな子供達がブランコを漕いで遊んでいる。

キャッキャと無邪気で幸せそうな笑顔は、見てるだけで心が晴れやかな気分になる。

そう言えば自分も小さい頃は公園でよく遊んでいた。

もっとも、飛鳥の場合は遊ぶことよりも苛めっ子をぶっ飛ばしていたけど。

そのことでじっちゃんが呆れていたことも未だによく覚えている。

 

そんな懐かしい頃を思い出しながら、腰掛けるベンチを探していると…

 

「ん?アレ…?あそこにいるのって…?」

 

飛鳥は目を凝らして、視線の先に映る人物を見つめる。

それは、青白いベンチに腰掛け、虚ろな目で空を見上げてる、斑鳩先輩だった。

 

(アレ?なんであそこに斑鳩先輩が?まあ、強化パトロール中だから、偶々会うのも有り得ない話じゃないけど……

 

って、何見てるんだろ?)

 

空には曇り一つない、蒼く爽やかな空色。

太陽の日差しが眩しく、直視できない光。

風一つ吹いてない公園。

 

何もないのに、斑鳩は何を見てるのだろうか?なんだかとても悲しい表情だ。

そう言えば、学炎祭が終わってから何やらソワソワしてた様子が見受けられてたが、アレと何か関係があったりするのだろうか?

 

考えても仕方がないと、飛鳥は斑鳩に近づき声を掛けてみる。

 

「斑鳩さぁーん!」

 

「えっ?」

 

飛鳥の言葉に、斑鳩は「ハッ!」と我に返ったようで、体をビクリと反応させる。

突然声を掛けられ驚いたのか、或いは考え事をしていたのか…いや、両者だろう。

斑鳩は飛鳥が近くにいたことすら気付かなかったようで、取り乱していた。

 

「も、申し訳ありません…考え事してて…つい…」

 

「ううん!全然大丈夫だよ、誰にだって考え事あるんだし謝らなくても良いんですよ?

 

それで、何考えてたんですか?」

 

こういう話になると、質問してしまうのは必然的だろうお約束。

飛鳥の質問に斑鳩は体をまたピクッと、小動物のように僅かに反応する。

その表情は又しても先ほどと同じく、虚ろな目、悲しい表情…

一体彼女の身に何があったのだろうか…?

しかし、これは斑鳩自身の身による問題ではない。

 

「いえ…少し……飯田さんのことを…」

 

その言葉を聞いた飛鳥も、凍りつくように表情を曇らせる。

飛鳥の脳裏に浮かぶは、苦痛を押し殺しながらも、無理に笑顔を作り立てる飯田。

新聞の記事に載ってたインゲニウム再起不能という記事。

ヒーロー殺しステインという悍ましく、恐怖の存在でしかない殺人鬼。

 

斑鳩が何故こんなにも苦しそうな表情をしているのか、みなまで言わなくても直感的に、瞬時に理解した。

頭の回転がうまく回らない飛鳥でも、飯田、彼の名前を口にしただけで点が線になるように結び付く。

 

「飯田さんの兄は…天晴さんは……私にとっての、最高のヒーローなんです……

私の些細な悩みを全力で、真剣に聞いて、前向きに話しかけてくれる…そんなあの兄が、私は大好きなんです……

 

あの人のお陰で、私は村雨お兄様に向き合うようになり、お兄様も私に振り向いてくれた…血こそ繋がってないものの、それでも家族としての関係を、築かせてくれた、誇りあるヒーローなんです……それを…」

 

 

斑鳩には村雨という兄がいるのを飛鳥は知っている。

実際に会ったことはないし、一度も見たことはないが、それでも斑鳩が家族について悩んでることは、飛鳥も薄々と分かっていた。

血の繋がってない人間、よそ者、才能のある人間、飛燕の後継者。

 

たったそれだけで兄から否定され続け、家族の本当の意味が分からなくなってしまった…そんなある時、体育祭で飯田の兄と会い、変わることができた。

初めて、兄と向き合おうと決心がついた。

斑鳩にとって、天晴は最高のヒーローなのだ。

 

――それを、ヒーロー殺しは彼を再起不能にしてしまったのだ。

 

どういう理由かは知らないが、何故態々彼を狙ったのか、その動機も知らないが、天晴、インゲニウムを傷つけたことに変わりはない。

斑鳩の心に大きな傷を付けたのも事実であれば、衝撃のあまり、ろくにパトロールすら行えない程に落ち込んでいる。

 

「……」

 

飛鳥は黙然と斑鳩を見つめていた。

どう声を掛けてあげれば良いのか分からない…

普通の慰めの言葉を彼女に掛けても意味がない、ただのまやかしの言葉に過ぎない。

また、人によって慰めても返って怒ってくるだろう…

 

自分だって同じだ。

もしこれが斑鳩の立場ならと思うと、胸が痛む。

きっと並普通の言葉では意味がない、仮にもしそれで救われたとすれば、それはそこまでの悩みという訳になる。

 

「こういう時…緑谷くんなら………どうするんだろう…?」

 

ふと自然に声が漏れ、口に出してしまう飛鳥。

幸い斑鳩はショックの余りで聞こえていなかったは良いものの、飛鳥自身も声に出したことすら気がつかない。

ただ、もし彼ならどう行動をするのだろう?と想像しただけであって、決して口に出したつもりは毛頭ない。

 

しかし、何故彼のことを考えてしまうのだろうか?そんな疑問さえ分からず、ただただ虚しく、時間が過ぎ去っていく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが9代目継承者の実力たあなぁ…

腕が固い、意識がチグハグしている。分析と予測は悪くはなかった…だが、まだまだと言ったところか…

 

お前はワンフォーオールを特別に考え過ぎている。それが、憧れや責任感から来るものなのか…足枷となってる。

 

だからこうなる」

 

場所は戻り、緑谷出久は成す術もなく、手も足も出ず、目にも留まらぬ速度で緑谷を翻弄し、個性の一撃すら与えることができず、今こうして身体の上に乗り、顔を掴んで緑谷を床に伏せさせてる男、古豪グラントリノ。

部屋中は何と、アレだけ壁が蹴られたのに、汚れやヒビやらが何一つ付いてなく、

 

「ッ!絶対捕まえたと思ってたのに!」

 

「それだよ、お前は意識が固すぎるんだ。体育祭での騎馬戦や本戦での利用本…立ち回り方も、どう行動を取るべきかも、自分でも理解できてるハズなのに、お前は個性が使えてない」

 

グラントリノは身体を退け、掴んでた手を離すと、緑谷から離れる。

そして先ほど持ってた杖を再び手に持ち、杖を床に突き、体を支える。

アレだけ動き回ってて、本当にどんな体をしてるのだろうかこの老人。

 

「早く力をつけなきゃ、という焦りを持つのも分かるし否定しない…

時間も敵もお前を待ってくれないのも事実だ。

 

だがな、それはお前に限った話じゃねえ、ヒーローの誰もが通り、痛感する道のりだ」

 

ワンフォーオールの個性を引き継ぎ持った緑谷だけじゃない、憧れや、なりたいヒーローを志し、時に焦りの色を見せる学生は彼だけじゃない。

彼の知らない色んな研修先で己を磨き、実績を残し、着々とヒーローへと近付いて来ている。

 

「じゃあ、僕はどうすれば…?」

 

行く道分からず、答えに悩み、迷い、緑谷は老人に問う。

 

「んなもんお前、自分で考えろ」

 

「俺ぁ飯買いに行く」と、ちょっとコンビニ行こうかみたいな軽いノリで緑谷に背を向ける。

 

答えを教えるのは誰にだって簡単なことだ。

だがそれでは意味がない、答えを教えたとして、自身で考える力を身につけれない。

身につくことが出来ない。

だからこそ、教えるのではなく、自身で考えさせるのだ。

至らぬ点を、死ぬ気で探せ。

教育とは、そういうものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数十分後、公園を後にした飛鳥は、特にこれと言った考えはなく、トボトボと何の目的も無く歩いていた。

斑鳩のこと、飯田のこと、それが心配なのか、斑鳩と同じく余り元気がなかった。

 

(斑鳩さんに、何て言えば良いのか、分からなかった…)

 

落ち込んでた彼女に、自分は何をどうすれば良かったのか、どう声を掛ければ良いのか分からず、何も言えぬまま彼女は「そろそろパトロールに戻りましょうか」と言い、飛鳥が声をかける間も無く去って行ったのだ。

あの時、声を掛けれなかった自分が今になって憎く思える。

どうして、あの時自分は何も言えなかったのだろう…と、今になって後悔する。

 

本当は大丈夫な訳無いのに、同じチームであって、仲間なのに…

なのに、落ち込んでる仲間にすら励ますことが出来ないなんて…

 

それが原因なのか、飛鳥は元気がないのだ。

だが、ここでまた一つ、疑問に思うこと…

 

「緑谷くんは、あの場だったらなんて声を掛けて、どうしてたんだろ?」

 

彼に対する疑問を浮かべ、数秒も経たず彼女は「アレ?」と小首をこてんと傾げる。

今度はハッキリと己の心から沸き起こる疑問に気づく。

 

(どうして、緑谷くんならって考えてたんだろ?

 

ヤケに意識しちゃうんだけど…いやまさか…

 

ううん!ないないない!流石にない!)

 

飛鳥はつい思わず赤面してしまい、首を横に振るう。

緑谷くんならと考え、意識し始めてる飛鳥は、もしかしたらこれが恋なのでは?と一瞬疑問に思ったのだが、それを頭を横に振って、その考えを一瞬で否定する。

なぜこれが恋なのでは?と、あの飛鳥が分かったのかと言うと、まあ色々とあるのだが、最近そう言った漫画をちょくちょくと読んでいるので、もしかしたらと思ったのだが、飛鳥に限ってそれはない。

 

(私は一流の忍になるんだ!今はそんなこと考えてる暇はないもん…!

 

緑谷くんのこと意識するのは、私にとってそれ程、強くて…人一倍努力してて…それで…)

 

飛鳥が意識をしているのは、緑谷が他の人とは違う何かを持ってる事、自分と何処か似たようなものを感じ、興味を持ち魅かれてるのだ。

彼は確かに人一倍努力家で、ヒーローになる為ならどんな訓練でも真っ当に受け、正義感が強く、ヒーローに憧れている。

彼を遠くで見てるとなんだか応援してあげるような気分になってしまう。

 

(緑谷くんが頑張ろうとしてるからこそ、私も頑張れる…

 

まるで自分を見てるように思えて、つい自然と強くなろうって向上心を持つことが…出来るんだ)

 

同じ性格を持つ人間など錚々いないだろう、彼の優しさまで彼女と負けずそっくりだ。

 

「でも、なんだろ…このモヤモヤ感は…?」

 

恋なんてことはありえない、違うのに、全然そんなのじゃないのに…

それでも、心に靄が掛かったようなこの曖昧とした、口に表現を出すことが難しいこの感情。

飛鳥は知らない、今まで感じたことない、この感情を…

日影みたいだが、これは至って真面目で真剣。

無理もなかろう、飛鳥は今まで忍になる為にずっと鍛錬を重ねていのだ。

そう言った高校生が送る日常的な、甘酸っぱい日々など、飛鳥は知らない。

でも、半蔵学院だけでなく雄英高校に入って変わった、変わることが出来た。

 

(なんか、変な感じ…)

 

落ち込んだり、悩んだり…初日で色々考え悩まされる飛鳥は、「う〜ん…」と小さな唸り声をあげながら、パトロールを続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

壊れた電子レンジを睨めっこしている緑谷は、ブツブツと相変わらず気味が悪いと引いてしまう位に小声で何かを呟いていた。

 

無論。個性の使い方――

 

グラントリノは言っていた。

分析と予測は悪くはない、それはきっと考える力があるから、それは当たり前だ。

分析と予測は、これから先やって行く上で必要となって行く。

だが今回その必要性は問いつけられてない。

問題なのは個性の使い方が間違ってると言う点だ。

自分でも理解している、間違った所も探している。

何も不自然ではないはずだ…

ある一つの疑問を除いて。

 

「固いって何だ?ワンフォーオールを使おうとした腕、触って固いって言ってた…

 

固いってことは、多分力んでるからか?いやそんなもの当たり前だろ…だってイメージが強くて固いの……アレ?」

 

緑谷はここで何か思い当たったのか、電子レンジから、背負ってるリュックの中を探り、荷物を漁ってノートを取り出す。

 

「固いってことは…イメージを固定しちゃってるから…

憧れ、オールマイトへのイメージが固執してたから、分からなかったけど…

 

固いから腕が壊れるなら…今度は…

 

柔軟な発想で…考えれば!」

 

そしてヒーローノートをペラペラと勢いよく開き、ある情報をまとめた人物の情報と、立ち回り方、戦闘スタイルに目を通す。

 

「個性は体の一部みたいなもの…どうしてこんなこと、早く気付けられなかったんだろ…いや、きっと近すぎてて、当たり前のように見てたから分からなかったんだ…」

 

爆豪勝己。

彼のような柔軟な発想力、立ち回り方、対応力、体育祭一位の実力を持つ折り紙付き。

彼の行動を一番身近で幼い頃の昔から、彼を見てたから、真っ先に彼のことを思い出した。

 

「そうだよ!もっとフラットにワンフォーオールを考える!

 

そうすればきっと、調整も夢じゃない…!

よし!そうなったら先ずは――」

 

 

俊典。

玄関の扉越しで、たい焼き袋を手に持つグラントリノは咳払いして立ち止まっている。

 

(体育祭を見てて、奴の思考が柔軟なのは直ぐに分かった…

ただ問題なのは個性の扱い…それだけがどうしても慣れてなかったが…

 

どうやら見つけ出すのにそこまで時間が掛からなかったようだ……俺の見込みでは数時間か数日は掛かるかと思っどったが、たった数十分で…)

 

オールマイトからは聞いている。

彼の思考力や発想力は、並の人間を超えている。

幼い頃、個性がなかった彼はひたすらヒーローに憧れを抱いて、ノートに纏めていた。

その影響のためか、彼は思想力に長けていたのだ。

 

(これは、中々いい奴見つけたじゃないか――

 

八木俊典。オールマイト――)

 

グラントリノは、緑谷の予想せぬ急成長に、心が嬉しくなり、微笑んだ。




2日間に一回の投稿とフラットに考えると、より効率的に小説投稿が進められる!なんて、そんな風に思いました。
いえ、2日間に一回投稿にしようと考えています。出来ればですがね。

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