光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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ヒーロー殺しステインの声が意外すぎて驚きました。
来週は爆豪と轟が戦うけど、多分試合が終わってなのかな?或いは体育祭丸々終わるのか?


77話「混沌」

夕焼色に染まった空色。

保須市の繁華街には黒い煙が複数巻き起こっている。

爆発、テロリスト、突然降りかかってきた理不尽な出来事、その唐突たる出来事が、保須市により凄まじい混沌を巻き起こしていた。

 

「キャぁぁぁぁぁ!誰かあ!ヒーロー救けて!」

 

「何だよこの化け物!逃げろ!殺される!来るな…来るなああぁぁ!!」

 

一般人たちは一心不乱に逃げる。

私服姿で買い物袋を落とし、それに気付かず必死に逃げる女性。

仕事帰りなのか、メガネを掛けたサラリーマンは悲鳴をあげながら鞄を持ちながら、女性と同じく逃げる一般社会人の男性…

 

 

「コロス…!アア…ア!」

 

 

それを追い、襲う脳無。

唾液をダラりと垂れ流し、屈強な体で、下半身ジーパンを履いてる脳無は、ブツブツと小さな声で呟きながら、奇妙な姿をしたこの脳無は一般人を襲っていた。

邪魔な建物や電柱、自動販売機、車、標識、それらを拳で殴り壊し、持ち上げてはあらゆる方向へとぶん投げ被害を拡大させている。

両肩には結晶か何やらか、硬い純白なクリスタルが突き出ていた。

そのクリスタルは白く輝き、その奇妙な容姿とは似合わず、美しく見惚れてしまう。

 

口から妖しい色をした紫色の破壊光線を出し、ファンタジーに出てきそうなモンスターを連想させてしまう。

 

破壊光線が繰り出されると、灼熱の獄炎のように燃え盛り、被害がより悪化し増幅する。

死柄木弔から下された命令…それは暴れること。

ただひたすら暴れば良い、つまり…何も考えず、ただこの平和に彩られた社会を、繁華街として賑わってた保須市の街を、目茶苦茶にすれば良い。

 

この脳無は死柄木弔が保須市に放った脳無の一体で、他の三体とは違った特殊タイプに入っていた。

それこそ上位級脳無に相応しい程の実力を備えている。

 

グラントリノが相手にした脳無は容姿に似合わないガードタイプ。

上顎が無いパワーファイターな脳無はパワータイプ。

巨大な翼を持つ飛行型の脳無はスピードタイプ。

そしてこの脳無は、パワー、スピード、ガード、それらを兼ね合わせたバランスタイプ。

 

それぞれ各個体は体の構造が違えば、様々なタイプとして使われている。

あの三体は中位級(ミドルレンジ)ならば、この脳無は出来立ての上位級(ハイレベル)脳無。

 

ヒーローがいないのは、偶々違う場所で猛威を振るう他の脳無と相手をしているから。

だからこの脳無は誰にも邪魔されずに暴れている。

人気の少ない場所でこそ、暴れやすいというもの。

それは脳無の意思でなければ、本能でもない…良からぬ最悪の…奇遇だ。

 

ヒーローがいない、脳無は暴れる。

つまり、この敵を止められる者はこの場に誰一人として居ないのだ。

 

「ゴロォス!コロスゥアアァァァアア!!」

 

因みにこの脳無は確かに上位級として出来たばかりだが、言葉や精神への安定がつかないのか、奇声とも呼べる奇妙な声、言葉を発声していた。

獣に近い獰猛な雄叫び、耳をつんざく大きな叫び声、脳無は暴れる。

破壊の為に拳を振るい、殺す為に使われる、物言わぬ改人・脳無は元人間。

 

そして脳無はふと視線を違う方向へ向ける。

そこには逃げ遅れた一般人が必死に背中を向けて逃げている。

脳無はその逃げている人間目掛けて、低く腰を据え、跳躍するよう猛獣のように飛びかかる。

 

これでコイツも死―――

 

 

「秘伝忍法!【魁】!」

 

 

何処か聞き慣れた女性の声。

しかし思考能力を持たない脳無は当然これが誰の声なのか分からなかった…そう、()()だけは。

声の主に振り向くとそこには、誰もいなかった。

だが恐れるなかれ、場所はそこじゃない。

 

「ここだ」

 

先ほどの声の場所とは反対、自分の真後ろ、背後から声が聞こえた。

振り向こうとするも、声の主の攻撃が早かったのか、三つの刀が背中に線を描くよう斬り刻まれる。

 

「ッ!?」

 

紅い一閃が三つ背中を描き、背中から僅かながらに血が噴き出す。

脳無は何をされたか、何が起きたか理解することが出来ず、後ろ振りを振り向くと同時に腕を振るう。

ブゥン!と豪快な音を立てる。

野球選手が本気でバットの素振りをする際に発生する音、それと同じように空振りに終わる。

 

いない。

 

先ほどまでそこにいたと思われるハズが、誰一人としていなかった。

 

「遅い!」

 

そして今度は右から。

又も振り返ると、今度はその姿をハッキリと見ることが、確認することができた。

その姿は、皇帝…とも思わせる装束を見に纏い、黒いポニーテールの髪を揺らがせ、褐色の肌が美しく、魅力を注がれ、紅蓮を連想させる程に、熱く逞しい目つきをした少女。

 

ザシュッ!

 

そこから又もの斬撃。

脳無は傷を受けたにも関わらず、表情を変えず、悲痛の声もあげることなく両拳を強く握り、振るう。

だがその途端。

 

――彼女は消えた。

 

瞬間移動。

タネも仕掛けも無ければトリックでもない。

そう、彼女は目の前で消えたのだ、瞬間移動のように…そう思えてしまうのも無理ないし、判断してしまうのも無理はない…

 

だが、これは瞬間移動ではなく、彼女の素早い動きだ。

そう、彼女は斬撃…斬った後瞬時に素早い動きで死角から脳無の体を無数に斬り刻む。

 

「オッ…!ぁぁ…ア!」

 

これぞ秘伝忍法、魁。

素早い動きと六刀流を上手く使いこなし、駆使した秘伝忍法。

脳無は彼女の秘伝忍法に対応出来なければ、当然手も足も出ずダメージを負ってしまう。

 

「今だ!()()()!」

 

彼女の口から放たれた、何処か聞き覚えのある名前。

その名前に反応したのか、二つの影から声が聞こえる。

 

「秘伝忍法【ニヴルヘイム】!」

 

「秘伝忍法【ヴァルキューレ】!」

 

脳無の左目に映るその光景は、鉄球やら刃物やら、爆弾やらが無数に襲いかかり、紫色に光る弾丸も、ビッグウェーブに乗るかのように弾丸に紛れて襲ってくる。

二つの秘伝忍法が合わさり、弾丸の嵐が脳無目掛けて襲いかかる。

避けることは出来ない、範囲が狭まっている。

いや、そもそも思考能力など持たない脳無に、避けるなんて発想は無く、筋肉が滾り力瘤がボコッと音を立てて、襲いかかる無数の銃弾を一掃するかのように殴りかかる。

鉄球やら閃光弾やらは、脳無の拳により跡形もなく相殺した。

あの秘伝忍法を素の力で相殺できる脳無は誇っていいと思う。

秘伝忍法を拳で、素手で相殺するなど、可能なら大道寺以外あり得ないからだ。

 

しかし、それはあくまで目の前の…拳に放たれた方向だけの話であって、他にはまだ弾が残っていた。

大分減ってしまったが、ダメージを与えるには充分だ。

二つの秘伝忍法による弾丸は脳無に襲いかかる。

 

怪しい光を放つ呪いの弾丸は当たれば、弾丸は破裂しその衝撃でダメージを与え、並みの鉄球とは訳が違う硬度を誇る鉄球の弾、ナイフや包丁を連想させる、形のデザインが独特な刃物は脳無の体を掠め、傷痕が残り、体に所々突き刺さる。

爆弾は当たれば文字通り爆破し爆破の炎が脳無を包み込む。

 

「やりましたわ()さん!」

 

「どーよ!詠お姉ちゃんと私の連携プレイ、思い知ったか!」

 

詠はガッツポーズを取り、未来は二人の連携攻撃に猫のように微笑みを見せ、頬を薄赤色に染めていた。

 

察しの通り、彼女たちは焔紅蓮隊。

焔、詠、未来がこの脳無と対峙したのだ。何故、焔紅蓮隊が此処にいるか?

その疑問は――

 

「コロアァァス!!ホムア!ホムアァ!」

 

土煙が吹き飛ばされ、黒い影が姿をあらわす。

爆破で火傷を負い、未来の弾丸で多少の怪我が見受けられ、焔が与えた斬撃は形となってくっきりと傷痕が見える。

 

「チッ…詠や未来たちから話は聞いたが…タフだな…脳無とやらは…」

 

三人の攻撃を受けても尚、獰猛たる獣の呻き声を上げる脳無に、若干悍ましさを肌身で感じながらも、厄介な相手だと知り舌打ちをする。

 

焔は脳無を初めて見れば、初対面でもある。脳無については未来から話を聞いただけ。

初対面だが、コイツが脳無だと直感で理解した。

最初焔もこの化け物を見て悍ましさと、見た目のグロテスクに軽い吐き気がしそうになったが、相手が敵連合と関係があると知れば、直ぐに姿勢を取り戻し、刀を手に取った。

 

「まあ、想定内って感じですわね」

 

「初めてコイツ見た時思ったんだけど…やっぱり、怪人なんだ……」

 

詠と未来は蛇女で脳無との戦闘は実戦済み。

初めこそ、理解し得ることのない化け物だと認識していたが、後々と調べて分かったのだ。

コイツは敵連合が作り出した化け物であり、何かしらにより改人にされてしまったのだと…

実際そんなに詳しく知ってるわけではない。

ただ怪人というのは、漆月がこの脳無と呼ばれる化け物を怪人と呼んでいた。

そして複数の脳無が存在することから、恐らく敵連合により作られた化け物だと、物事が結びつき、理解したのだ。

 

だから、流石にこれまでは分からない…

コイツは元人間であることを…そして、複数のDNAを無理やり混在され、複数の個性に見合う体にさせられたことを…

 

コイツの元の人間が、とんでもない人物だということを…

 

 

「確か脳無は言葉が通じないんだっけ?心もなければ感情もない……

春花の言ってた、人形とやらだな…」

 

人形。

言われてみれば確かにそうかもしれない。

その言葉は間違っていない、何故なら彼ら脳無は、ヒーローと忍を葬り、平和、正義の破壊の為に造られた殺戮兵器、なのだから…

 

「ホムア!ホムアァァ!」

 

脳無は焔に寄生を上げながら突っ走る。

脳無は「ホムア」と言ってるが、恐らく焔の名前を連呼してるのだろう…

焔は不敵な笑みを浮かべ、刀を振ろうとしたその時…

 

「ほいよっ!」

 

ザシュ!

 

「!」

 

突如上から降ってきた人物の声に、焔は上を見上げる。

建物の屋上から降ってきたその人物は、両手でナイフを握り、脳無目掛けてその凶刃を脳に突き刺す。

 

「ガァッ!」

 

脳から血が吹き出る。

急所なのか、はたまたナイフによる痛みなのか…

何方かは分からないが、脳無にダメージを与えることに成功したらしい。

 

「日影!」

 

「まっ、こんなもんやろ…焔さんの命令通り、春花さんは今街中の人や逃げ遅れた人救けて避難誘導しとるらしいで」

 

「そうか…それは良かった」

 

焔はホッと一息、安堵の息を吐き胸をなでおろす。

昔の蛇女に居た自分なら、そんなこと絶対なかった、しなかった。

一般人のことなど知ったことでは無い、寧ろ超秘伝忍法を使い、無数の忍校を潰し、一般人も皆殺しにする。

それが焔だった。

だが、今は違う…飛鳥たちや雄英生に感化されたのか、善意を持つようになった。

昔の焔からは考えられないが、今の焔は以前よりも、蛇女での伊佐奈の時よりも、逞しく、善意を持っていた。

彼女は素直では無いのか、「そんなことない!」と否定するものの、端からみれば誰もがそう思うだろう。

 

「コロス!コロス!」

 

脳無は頭部…脳から血を垂らしながらも、まだ吠え続けている。

脳をナイフで刺しても彼は歪んだ表情一つ変えずに拳を振るう。

流石にここまで来るとホラーゲームに似た何かを感じる。

バイ◯ハザードにでも出てきそうだ…

 

「しつこいのう…まっ、蛇女ん時もそうだったしな…んじゃほな行くで」

 

「ああ、そうだ……な―――」

 

日影の言葉に焔が頷いたその途端、声が途切れた。

脳無による攻撃ではない、焔の瞳に映った何かによって、体の動きを停止した。

他の三人は気にすることなく攻撃を続けている。

 

その場に、焔だけは、ある一点を見つめたまま黙って見て居た。

目を凝らし、その一点をよく見てみる…

脳無の後ろの背景…無数の建物が並び立つ景色…そして、廃墟の建物の屋上に…人影が三つ…

 

アレは…?

 

こんな大惨事に一般人があんな場所で、危険な廃墟の屋上で、何してるのだろうか?

普通に考えて、彼処に人などいるわけがない…

焔は鼻を使って、匂いを嗅ぐ。

 

「どしたん?焔さん…!」

 

ゴリラのように近い何かを思わせる脳無の派手な拳の攻撃をかわしながら、日影はここで漸く焔の様子に気がつく。

戦闘に関しては真面目で、余所見は死を表す、と口で言ってたあの焔が、余所見をしていることに日影は疑問を抱き彼女に問う。

焔は「悪い日影…コイツ頼んだぞ…」と一言言うと、焔はキッ!と目に力を入れるように、目を見開き、怒りと嬉しさを混ぜた笑顔を見せる。

 

「……見つけた!!」

 

焔が探してた、敵連合を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見渡せばどこも彼処も一般人が逃げている。それも当然、警察が避難誘導を出し、一般人たちは暴れ回る敵から逃げ、身を守るため避難しているからだ。

嵐のように、それこそ朝の満員電車のように狭く苦しい人混みが殺到する。

 

「ううむぐぐ…苦……しい…!」

 

飛鳥は現場に向かうべく、この道を選んで向かおうとした。

この道は現場に近いため、直ぐに現場に駆けつけることが出来るから…だからこの最短ルートを選んだ。

 

それが間違いだった。

そう、避難誘導を受けた人が多すぎるのだ。それも狭苦しく、押し寄せて来る人に自分の豊満な胸が当たり、苦しい顔を浮かべる。

自分たちとは真逆に向かってるので、当然こういう形のパターンになるのも無理ないが、正直言ってこれは厳しい…

 

これでは気配を消すなんて無意味…

飛鳥はこのルートを選んでしまったことに後悔し、自分の浅はかさについ恨んでしまう。

どうしてこういう肝心な時にドジをしてしまうのだろうか…それこそ不思議でならない…

だがそれは、彼女の真面目たる故に、正義感から来るもの…

急がなきゃ、救けなきゃ、心から湧き上がる想いが彼女を動かしてるのだから、考えるより先に体で行動する彼女は、考える猶予がなくつい行動に出てしまったのだろう。

 

だからこうなった。

 

「さっきの事件と言い…緑谷くんからの連絡と言い…どうなってるのコレ…」

 

 

向かう途中、緑谷出久から連絡が入ったのだ。

路地裏に来て欲しい…と。

何かあるのだろうか?と疑問に思い浮かんだのだが、何となく嫌な予感がして来たのだ。

 

 

 

緑谷出久はこの地域の隣の研修先…そこで職場体験で経験を積んでるハズ…

だがどういう訳か、彼はここ保須市に来ており連絡をして来た…

意味もなく彼が連絡をするとは思わない…では一体何なのだろうか?

 

そんな不安と焦りと疑問を胸に抱きながら、漸く人混みから脱することに成功した飛鳥は「ふぅ…やっと出れた…」と軽いため息をつく。

これだけで何となく疲れた感じだ。

飛鳥はもう一度携帯を開きLINEを見る。

『江向通り4-2-10の細道』とだけ、一括送信で送られている。

彼女はここの保須市には余り詳しく知らないので、悩み迷って居たが、地図を見て直ぐに分かった。

 

(こう言う地域を把握しておくのも…忍として必要だね…)

 

飛鳥は心の中で呟きながら、確信した。

しかし、確かに緑谷のことも気になるが…先ほどのテロリストが起きたかのような爆発…あの元凶が気になる所だ。

 

 

あの爆発は一体――

 

 

そう考えてるうちに、騒がしい事件の元凶となっている広間に出る。

江向通りに行くにはここの道を通らなければいけないのだ。

 

そして飛鳥の目の前に映る光景は――

 

 

「――は?」

 

 

目をまん丸に見開き、思考が停止し頭の中が真っ白になり、目の前の光景に理解が追いつけなかった。

その異常な光景に、軽く戦慄してしまう程に…あり得ない光景が広がって居た。

 

 

黒い煙が巻き起こり、バスや車が薙ぎ倒されている現場。

巨大で強靭な体を持つ脳無。

巨大な両翼を持つ飛行型の脳無が飛び回り、ヒーローを足で掴み、高いところへ飛び、地面へと思いっきり強打させている。

 

 

―――なにこれ?

 

 

なんで、嘘でしょ?は?なんで?何で?

なんで、脳無がいるの?

 

上顎がない脳無は、ヒーローを掴んでは、此方に攻撃してくるヒーロー目掛けて思いっきり投げ飛ばし、倒れてるバスを軽々しく持ち上げ、ヒーローたちにぶん投げる。

攻撃してもビクともしず、攻撃された脳無はそのヒーローに狙いを定めると、腕掴んでは骨を粉砕し、軽々しく持ち上げ振り回し、地面に叩きつける。

そのヒーロー『ザ・フライ』は頭部の頭蓋骨が軋み、嫌な音を立て、強打したせいか頭蓋骨が崩壊し、脳震盪を起こしてしまった。

そして目を覚ますことなく、口から血ヘドを吐き、音もなく倒れた。

 

 

飛行型の脳無、これは厄介だ。

飛び回ってるせいで狙いが定まらず、攻撃を与えることすら困難故に、ヒーローは掴まれまた高いとこから地面へと強打させ、ヒーローの顔面が真っ赤な血に染まる。

顔面打撲、鼻の骨折、目の損傷、そのヒーローは意識がないにも関わらず、心の持たない、思考能力を持たない脳無は「そんなの関係ない」と言った顔で、気絶してるヒーローを人形のように葬り、それが終わればまた新しいヒーローをとっ捕まえての作業の繰り返し。

 

 

飛鳥は思考能力が動きだし、回復したのか、脳無を怪訝そうな目で見つめる。

 

「何で…脳無が此処にいるの?嘘でしょ……?ヒーロー学校に忍学校にも続いて…こんな所まで暴れるなんて……」

 

しかも此処は街中、次々と応援に駆けつけてくるヒーローたちも加勢し、次々と脳無に攻撃するも、焼け石に水。

脳無からして弱攻撃らしいのか、一向に効く気配がなければ、倒れる気配もない。

 

「クソ!飯田くんは何をしてるんだ!本当にもう!」

 

声の主に飛鳥は視線やる。

ノーマルーヒーローのマニュアルだ、知らないけど。

彼は顰めた面で脳無を睨みながら飯田の名前を口にした。

恐らく飯田も此処にいるのは間違いない…

 

しかし、あの真面目な飯田が事件をすっぽかして何処かへ行くなどまず有り得ない話だ。

彼は超が付くほど真面目な性格だ、いや…仮に真面目でなくとも事件を置いてどこかへ行くのは明らかにおかし過ぎる。

 

 

飛鳥はこの事件を目の当たりにして、一瞬で頭の中に関連ワードが出てくる。

 

 

緑谷出久、保須市、脳無、敵連合、

飯田、兄のインゲニウム、再起不能、ヒーロー殺し……路地裏…

 

 

―――まさか!!!

 

 

物事を考えるのが余り得意ではない飛鳥でさえ分かってしまうこの事件…

脳無の襲撃、保須市にて緑谷のメッセージ一括送信…

 

これはもしや、ヒ―――

 

「ちょっと君!危ないから!警察の指示に従って避難して!!良い!?」

 

「はっ、はぅ…! す、すみません…!!」

 

飛鳥は思わず小動物のように可愛らしい声を上げ、反応する。

その場で謝りつつ後退しその場を後にするも、心に掛かった靄は振り払うことなく、飛鳥の心に疑問の煽りが掛けられる。

 

 

―――街で脳無が暴れてて、ヒーローの口から飯田くんの名前が出てきて、ここに飯田くんがいない…

緑谷くんの一括送信、飯田くん不在……つまり、飯田くんと緑谷くんは何かしらの事件に巻き込まれたんじゃ?

 

そう考えると、飯田くんから関係性が出る事件は……ヒーロー殺し、ステインでしかない。

 

 

「もし、緑谷くんと飯田くんが…ヒーロー殺しと鉢合わせしたら……

 

二人の命が危ない…!!」

 

これはあくまで彼女の推論だ。

100%そうだと断言は出来ない…だがそれしか考えられない。

きっと頭の回転が早い人や賢い人もこの考えに答えが行き着くであろう。

 

飛鳥は二人の命の危険に身を感じ取り、心臓の鼓動が、秒針を超える速度で脈打っていた。

高鳴る心臓音、呼吸の乱れ、止まらない冷や汗や手汗…

遠くから感じる歪な信念と殺意…間違いない、この殺意はヒーロー殺しによるものだ。

 

 

走る彼女の姿は、風を連想させるかのように疾風の如く駆け走り、友を救うために彼女は、ただ一心不乱に、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上から見渡す景色は、さぞやいい眺めであり実に愉快である。

数多くの人々の悲鳴が惨たらしく聞こえ、市民を守るヒーローも、忍も全員、成すすべなく脳無に見事葬られている。

市民を守るヒーローも忍も、所詮奴らは人間、無理やり改造を施された改人・脳無とは訳が違えば、普通のヒーローや忍如きが脳無に勝てる訳ないのだ。

 

「ハハハ!良いね脳無!派手で強いし、個性の複数持ちは訳が違う……ヒーローの悲鳴も、市民の命乞いも、こうして聞くと気持ち良いもんだなぁ……

 

なあ?お前もそう思うだろ漆月」

 

人々の苦しみを、悲鳴を、命乞いを、泣き声、喚き声、絶叫、金切声を、それらを嘲笑する歪んだ悪意を持つ死柄木は、ただ一人、人々の悲境を女神の光に当てられてるかのように、華々しい顔立ちで聞いていた。

 

漆月もゆっくりと死柄木に近づき、人々を見下ろす。

彼女はクスッと薄ら笑いを浮かべる。

 

「そうだね死柄木、ザマァみろって感じだよね。

自分だけ普通に暮らすことが出来て、私たちはそれが許されない…こんな景色拝められるのも、死柄木のお陰だね。

あっ、この場合脳無に感謝すれば良いの?」

 

死柄木は保須市に出発する前、一度先生と話して脳無を手配するよう嘆願し求めていた。

先生と呼ばれる人物の話によると、雄英襲撃時、蛇女襲撃時ほど強力な脳無は存在しないが、動作認証確認済みが7体も存在し他は調整中とのこと。

 

死柄木は寄越せと命じた。

理由は簡単、気に入らないものは全部ブッ壊したいからだ。

ヒーロー殺しが気に入らない、だからヤツの信念も、理想も、人生も、全てが気に食わない…

だから壊すんだ。

踏み潰すんだ、ブッ壊したいんだ。

 

先生は「やれやれ」と言った反応で死柄木の視線を見つめる。

元よりこうなったのは、先生が死柄木に唆し、そうさせたからだ。

よって、先生から送られたのは7体の内4体という訳なのだ。

 

 

「それはそうと、ずっと気になっていたのですが漆月、貴女とステインとは一体どのように知り合ったのでしょうか?」

 

自身一人で健気に楽しんでる死柄木は放っておき、黒霧は漆月に質問する。

漆月は振り返り「ん〜」と何か思い出せそうなのか、考えている。

 

「偶々さ、アタシが路地裏に足を踏み入れてたら、ステインが忍を殺してたんだよね。

 

当時ステインは忍の存在を知らなかったし、忍を殺害した理由はきっとヒーローかヴィランの何方か勘違いしてたっぽいね。

 

でも、私にはそんなの関係ない。

なんか、嬉しかった、ステインが忍を殺してたの。

 

彼に僅かな希望を抱いて、声をかけて…そこからね、ステインとは知り合いになったんだよ。

その代わり殺されそうになっちゃったけどさ」

 

何という偶然…いや、ステインのことならあり得ると黒霧は納得して頷く。

偶然、ステインが相手だと何たる悍ましいことであろう事か…

 

「ハハ!けどな、そんな悪党の大先輩も、夜が明ければ世間はアイツの事なんざ忘れてるぜ?」

 

死柄木は手に持ってた双眼鏡を外し、腕を広げて嗤笑し侮蔑を示す。

死柄木は精神年齢が低いためなのか、幼稚的万能の子ども大人なのか、他の誰よりも根に持つタイプだ。

 

「さてと……今はどうなってるんだ?」

 

死柄木は再び双眼鏡で街の様子を調べようと、脳無を探し様子を観る。

この街を観察…と言った方が良いのかもしれないが、この際意味は同じなのでどうでもいいだろう。

死柄木は嫌がらせをするような薄気味悪い笑顔を満々にして様子を眺めていると―――

 

「――やっと見つけたぞ…!」

 

「あ?」

 

不意に、死角から突然声を投げかけられた死柄木弔。

いや、死柄木だけでなく、その場にいる黒霧や漆月にも、その声はハッキリと聞こえた。

振り返るとそこには、六爪と化し刀を手に持つ焔が、死柄木目掛けて斬りかかろうとしていた。

炎を纏ったその刀で――

 

(速い!?)

 

「ッ!?黒霧!ゲート――」

 

突如目の前に降り掛かる死柄木たちの理不尽。

彼は反射的に黒霧の名を呼び、黒霧は黒い靄を瞬時に増幅する。

 

焔の刀による炎の斬撃により、その場は炎に埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘だろ…そんな…そんな…!

身体が動かない…!!

 

殺気立つ薄暗い路地裏。

そこにいる人物は飯田とネイティヴと名乗るヒーローは勿論、そして緑谷も現場にいた。

刀を手にも待つヒーロー殺しステインは、緑谷を殺す事なく飯田に近づき、俯せに倒れてる飯田を足で力強く踏み、刀を首に当てる。

 

「お前が何故こうなってるのか……教えてやろうか?

 

お前は弱い、偽物だからだ……兄の復讐に身を焦がすなど、ヒーローが……論外だ……

 

だがこの緑谷とか言う小僧は話は別だ……こいつは、良い……紛れも無い本物だ………お前とは訳が違うんだよ」

 

「ッ……!」

 

ステインは舌をレロリと気味悪く舌なめずりし、凶刃を振るおうとする。

 

「おい!やめろよ!!畜生!おいって!」

 

緑谷はそれを止めようと必死にもがき抗い、声を荒げる。

緑谷は目の前の光景に息を呑み、冷や汗を垂らす。

 

身体が動かない。

緑谷も飯田と同じく俯せ状態に倒れているのだ。

斬られても痛くはなかった…どのような個性かは未だ不明だが、動きを止める個性だそうで、斬られた直後、血を舐められ動けなくなってしまったのだ。

 

(畜生!!なんでだよ!目の前で苦しんでる友達を…助けることが出来ないのか僕は!!)

 

目の前の友が傷つき血を流している。

救けに来たのに、救けることすら許されないなんて…

誰よりもヒーローを憧れた緑谷出久にとってこれ程悲痛なものはない。

 

緑谷は己の弱さと、目の前の光景をただ見つめることしかできない自分に、歯をくいしばる。

 

 

「じゃあな、正しき社会への供物」

 

 

刀がギラリと路地裏に差し込む光に反射し白く光る。

その凶刃たる刀には、血がベットリと染み付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秘伝忍法!【二刀繚斬】!!」

 

疾風の如く、風をきる音と共に路地裏へとやってくる緑色のオーラを纏い放つ少女は、突然此処に現れ、二つの刃を振るう。

その斬撃は、ステインに襲いかかり、ヒーロー殺しはその斬撃を反射的に避けるも斬撃の勢いのあまり、躱し且つ刀で己の身を守った。

斬撃の威力に、飯田の元から離れてしまうステイン。

 

「ッ!―――今度は、誰だ――!!」

 

舌打ちをするステインは、忌々しい目線でその少女を見る。

その少女は、ふと笑みを零す。

それはステインにでなく、倒れてる飯田と緑谷に向けての、優しさの笑顔。

 

「もう大丈夫だよ、私が来たから!」

 

――飛鳥さん!!

 

光あるところに、影があり。

影があるところに、光がある。

ヒーローは光、忍は影。

 

(飛鳥)は、(緑谷たち)のまえに現れた。




飛鳥の秘伝忍法の二刀繚斬、繚の漢字が多すぎてどっちが正しかったか記憶曖昧でド忘れしちゃってたww

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