光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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投稿2日間も遅くなり誠に申し訳ありません。
理由は様々でありますが、時間が全くありませんでしたあの2日間、ですので今日何とか投稿することが出来ました。
改めて言います、誠に申し訳ありませんでした!


78話「本物」

廃墟となった屋上には炎が揺らいでいた。

激しく燃え盛る炎は、焔の闘志を象徴するかのように、唸り、激しく、バチバチと火種を撒き散らしその場を埋め尽くすかのような炎が、敵連合を襲ったのだ。

 

「やったか!?」

 

焔は僅かな期待の眼差しを向ける。

仮に倒せれなかったとしても、多少はダメージを与えたに違いない。

焔は攻撃を繰り出した際に若干違和感を感じたが、目の前の炎は敵を焼き尽くすかのように埋め尽くしている。

 

焔が何故ここ敵連合がいるのを知ったのか、視力もそうだが、一番の理由は鼻で嗅ぎつけに来たことだ。

薄っすらとした人影…ソイツらから禍々しい殺気の匂いが、鼻をつんざく程に匂っていた。

焔の鼻は普通の人とは違いかなり敏感で、野生的で肉食獣のような一面を備えていた。

それは幾多ものの戦場を、命懸けの戦いをして来たからなのか、死を掻い潜ってきたからなのか、焔の鼻は野生的に発達したのだ。

それも強さの一つなのか、そのお陰かいつ何処に強者が身を隠してるのか直ぐに解る。

それに普通の一般人からは特にこれといった匂いは感じない…だからこそ、誰一人とも寄せ付けない立入禁止となってる廃墟の屋上に、人がいるのも可笑しいし、何より焔の鼻は嘘をつかなければ誤魔化せない。

匂いの元を辿れば、相手が誰なのかも直ぐ解る。

 

紫や忌夢のように、相手の性格や考えてることは判らないが、強さだけは負けを引けない程に自信はある。

 

 

そんな焔の目の前に燃える炎は、次第と黒い靄に包まれていく。

その黒い靄は次第と大きくなり、焔の炎を吸うかのように、それこそブラックホールでも起きてるのかと疑ってしまうかのように、炎は吸われ、少しずつ消えていく。

 

「ふぅ、危ないところでしたよ…」

 

「おいおい、初対面どころか……不意打ちとかは反則だろうが……危うく火傷するところだったぜ…」

 

黒い靄を炎のように揺らがし、目を細めて安堵の息をつく黒霧。

漆月は無言で刀をクロスするよう盾を作り、死柄木の前に庇うよう立ち尽くしている。

死柄木は最大火力とも呼べる炎の火種が付いてないか、火傷を負ってないかと、体のあちこちを確認し、無事だと確認すると、突然訳もわからず攻撃してきた焔を、忌々しく睨みつける。

 

「ったく、今度は何なんだよクソ餓鬼がぁ!急に訳も分からず俺に攻撃して来やがってぇ!!」

 

「死柄木弔、大丈夫ですか?お怪我は…」

 

「別に何ともねえよ…!!」

 

奇襲に癇癪を起こし、首を荒く酷く掻き毟る死柄木に、黒霧は心配そうな視線を送り、嗜める。

対する漆月は「アイツは…」と小声を漏らす。

 

(ちっ、流石は蛇女に襲撃を仕掛けてくるだけのことはある連中だ……

 

あの黒い靄の男、私の攻撃を……アレが個性だとするとかなり厄介なものだぞ…)

 

黒霧。

ワープゲートを作り出す敵の出入り口。

彼は物や人間をワープさせるだけでなく、焔の炎をも黒い靄で覆い飛ばすことが出来るのだ。

幸い外にいる他の一般人やヒーロー、忍達はここの存在に気が付いてない。

 

しかしあの一瞬でよく瞬時に対応出来たものだなと、心の反面どこかで感心してしまう。

 

(何故我々がここにいる事を……それにしてもあの武器による攻撃、プロヒーローに匹敵する動き、もし少しでも対応が遅れていれば殺られていた……

 

この少女、一体何者だ…?もしや―――)

 

一方黒霧は焔を凝視しこの少女の正体が何なのか、薄々と勘付き始めた。

六爪の刀、炎を操る少女、気配を感じ取り此方へ襲い掛かってきた。

考えられるとすれば―――

 

「お前たちが、敵連合……まさかこんな所で逢えるとはな…!」

 

「はあ?誰だテメェ?いきなり俺に刃ぁ突き立てやがって……

アイツに続いてお前も…タダで済むかって話しだクソ餓鬼がぁぁ!!」

 

ヒーロー殺しを傘下に引き入れるどころか、刃向かわれ殺されかけ…ご機嫌斜めな時に運が悪いのやら、災難と呼ぶべきか、焔に見つかり、今日で二度殺されかけた。

不幸の連鎖が続く死柄木は、なぜ自分が刃向かわれなければならないのか、理解に苦しみながら、苛立ち首を掻き毟る。

掻き毟るせいか、首には爪によって傷ついた痕が残り、爪には血が付着する。

癇癪を酷く起こしてる死柄木に、これは意外だという視線を送る焔は、冷やかしとしてなのか、死柄木に声を投げかける。

 

「何だお前?敵連合のリーダーだと聞いて見てみれば…性格は幼稚な子供じゃないか。

 

やれやれ、リーダーと聞いてどんな輩かと思えば…口先だけの三下か…」

 

「―――ッ!!クソガキがあああぁ!!」

 

「落ち着きましょう死柄木弔!」

 

焔の煽りの言葉に、死柄木はまんまと引っ掛かったのか、それこそ本当に子どものように声を荒げて突っかかり、掌を広げて殺そうと飛び込もうとするものの、黒霧に制される。

焔は「チッ」と軽い舌打ちをする。

もしこのまま真っ直ぐ突っ込んで来れば、カウンターが決まると思ったのだが、それは冷静で適応な判断とヴィランの言葉に似合わない紳士な性格を兼ね合わせてる黒霧に止められる形となった。

 

「下がって黒霧、死柄木…!」

 

その途端、素早い動きで此方へ刀を持って振り掛かって来た漆月が、死柄木と黒霧の前に、焔の眼の前に現れた。

焔は漆月による攻撃が来たことに多少は驚いたものの、防げれない攻撃ではないので、六爪を盾にして守るように交差し己の身を守る。

ギギギと激しい火花を散らし、嫌な金属音が耳によく響く。

漆月は歯軋りたて、目を細め、刀に力を入れるかのよう体の体重を入れるように押す。

 

「ここは私が!」

 

「漆月!」

 

(!なるほど、コイツが漆月…噂に名高い抜忍か!)

 

焔は死柄木とは初対面であれば当然漆月とも初対面のため、一瞬彼女が誰なのか分からなかったが、黒霧の叫ぶ声で直ぐに理解した。

 

「いや、まて待て…ちょっと待て、このクソ生意気なガキ殺すのは俺だ、何者かは知らねえが、突然俺を襲って来たんだ……それなりの報復ってヤツもしとかねえとなぁ?」

 

「死柄木弔。落ち着いて…

彼女は恐らく…元・蛇女子学園の選抜メンバー筆頭、焔と呼ばれる紅蓮の少女かと…」

 

「はぁ!?コイツが… …抜忍となった身なんだな?間違いないんだな?」

 

「ええ、何故彼女がここ保須市にいるのかまでは不明ですが…漆月の言ってた人物と見なして間違いはないでしょう……

 

何よりあの女はまだ子供…子供なのにプロヒーローをも凌ぐ強さをヤツは持っている!それ程の強さなら他のヒーロー学校に在籍してるとも考えられますが……

 

しかし見てください、漆月のあの表情を…忍をより嫌悪する彼女の表情を一目見れば直ぐに見解出来る…間違いない!」

 

黒霧の推論に、死柄木は納得したのか先ほどの苛立ちを抑え、薄気味悪い笑みを零す。

確実にそうだと断言は出来ないが、それでも黒霧は彼女が抜忍だと直感で理解した。

 

「チィッ!」

 

焔は埒が明かないと判断したのか、刀を横に薙ぎ払うように漆月の刀を弾く。

焔は距離を取るよう数歩スキップして退がる。

こっちは焔一人、対して向こうは死柄木、黒霧、漆月の三人…

焔も向こうもお互い能力が判明してない、実力も底も知れない。

先ほどの火力の高い攻撃は黒霧によって防がれた、なら安易に攻撃は出来ない。

小難しいことは考えない焔だが、向こうが何をしでやらかすか解らない以上、下手に動けば殺されてしまう。

それは、身体能力の強さ云々関係ない、向こうは個性と呼ばれる超能力を持っている。

焔の鼻は敏感だ、だから死柄木の手には嫌という程の禍々しい殺気が敏感に鼻をつんざく程に、危険だということが伝わってくる。

あの手に触れれば、命の保証はない…それは今まで戦場を生き抜いて来た焔だからこそ、分かるものだった。

 

(さて…どうするか……

あの黒い靄男が厄介だな……私の攻撃を受けても尚立っている。

 

いや、アレは受けたのか?攻撃した際に手応えが無かった……実体部分ではないと言うことか?)

 

焔が怪訝そうに眉をひそめていると、漆月は「黒霧、ちょっと考えがある…」と小声で彼に呟き、それを聞いた黒霧は首を傾げて漆月の言葉に耳を傾ける。

 

「させん!!」

 

焔は走り出した。

向こうに考える隙を与えさせない。

戦場のど真ん中、作戦を伝えると言うことは、敵から命を狙われやすくなる意味も兼ねている。

敵が目の前にいるのを関わらずにだ…敵の前にして余所見はタブーだ。

 

「まだまだ甘いな!!」

 

焔は躊躇うことなく漆月と黒霧目掛けて刀を突き刺すよう刃先を向け、斬りかかる。

素早い動き、一瞬で間合いを詰める。

焔の刃が二人に襲いかかるその瞬間…

 

ブワァ…!と黒い粒子のような靄が、漆月の体から噴き出てくる。

黒霧のような黒い靄とは違い、黒紫色の靄は焔から攻撃を守るよう目の前に壁になるように作り出し、その炎は闇に飲み込まれる。

 

「なっ!?」

 

「舐めてると思ってたでしょ?」

 

その黒い靄はやがて周りの空気と同化するように消えていく。

その闇は黒霧のようにワープゲートで炎を飛ばしたものでなければ、常闇のダークシャドウともまた訳が違う。

その闇は触れれば、苦痛なんて生易しい言葉ではない程の、地獄のような激痛が、死の痛みが全身に巡るのだ。

しかし焔はそんなこと知るはずがなく、ただこの黒い闇は危険だと生物的本能がそう告げたので、退がった。

 

「クハハハ!良いぞ漆月!さっきの失敗を成功に活かせ!気に入らないものは全てぶっ壊せ!あとそうだな…脳無に他の奴らも、お仲間もみーんなぶっ殺させるか、ハハッ!」

 

後ろで死柄木は両手で顔を覆い、豪快に笑いながら、戦場をスポーツ観戦のように楽しんでいる。

死柄木弔にとって、生と死の狭間である戦場は、ただのゲームでしかない。

そんな焔は一瞬だけ死柄木へ視線を向ける。

あの残虐で、残酷で、無慈悲で、どこか幼い子供のような純粋な悪の笑顔は、流石の焔も少し引いてしまった。

それと同時に、雲雀の言葉もふと思い出す。

 

 

『歪みを持った純粋な悪意ある人間でも、その人の大切なもの全てを壊そうとする人も、貴方たちは受け入れるんですか?』

 

 

―――成る程、そう言うことか…

 

 

焔は蛇女に転入してきた雲雀のあの言葉を脳裏に思い浮かべる。

今まで特にそんなこと気に掛けた事もなかったし、記憶にあったことにすら驚いてしまうが、死柄木の歪んだ悪意に寒気を感じ、ふと雲雀の言ってた言葉が直線の糸を紡ぐように、鮮明に思い出した。

 

 

(雲雀の言ってた言葉…誰のことを言ってるのか分からなかった…だから大して気にしていなかったが……

 

コイツなら、納得がいく…)

 

 

飛鳥はこんなヤツらと対峙してたのか…

そう考えれば、何故あの時蛇女に乗り込んできた時、彼女が強かったのか…何となく分かって来た気がする。

 

 

焔は冷や汗を垂らしながら、懐からクナイを取り出し死柄木に投げつける。鋭い数本のクナイが彼に襲いかかる。

しかし…

 

「させないよ」

 

刀を軽く振るい、ガキィン!とクナイを安易に弾く。

黒霧の反応は気付くのが遅くとも、漆月がいる以上効かないようだ。

そして当の漆月は黒い靄を体に纏い、黒霧も黒い霧を纏っている。

二人の黒い霧と靄は、歪んだ悪意を象徴させるものに見える。

 

「邪魔を…」

 

誰かを狙うと必ず他の誰かが邪魔に入る。

そもそも多対一の戦闘など、蛇女にいた頃しかやったことないし、抜忍になってからもそう言った訓練をする機会はなかったので、現状を打開できないのも無理はないかもしれない。

漆月が腰を低くし走り突っ込んでくる。黒い妖刀は雅緋の黒刀とは全く違うが、異質なその刀は、黒い脈動が流れてるかのように見えた。

焔はそれを尽かさず刀で受け止め、弾き、刀を振るう。

片手での攻撃でコレ、受け止めるのに少し精一杯の様子だ、だから焔はもう片方の腕を使って斬り掛かる。

 

「でりゃあっ!」

 

焔の斬撃が腹部を掠め、服に裂け目が現れ傷がくっきりと見える。

漆月は痛みを押し殺すような表情を 浮かべながらも、焔を睨みつける。

 

「次!――」

 

焔がもう一度刀を振るおうとしたその矢先だ。

焔は背後から黒い霧に埋め尽くされる。

 

「なっ!?」

 

「残念ですが、ステージチェンジです」

 

後ろから冷静で、何処か薄ら笑いを浮かべてるような悪意を表した声が、背後から血が引けるように聞こえた。

この黒い靄だの霧だのは、漆月による攻撃ではない、黒霧のワープゲートによって起こる現象…

焔は「しまった!」と焦りの表情に染まる。

 

「漆月が言ってました…ここでの争いはヒーローや忍は愚か、一般市民にすら気づかれる可能性が高いと……

私もその意見には大きく賛成だ、ましてや貴女方のような輩と相手にするのは少々手が焼ける…

 

ならば、ここではなく隙あらば違う場所に飛ばせと、漆月が私に言ったのですよ。ですから、この少しの隙を待っていた…!」

 

漆月の作戦はこれだ。

自分が囮になる、そうすれば焔は真正面から相手をしその間に僅かな隙が生じるはず、ならそのほんの少しの隙を黒霧が突く。

ワープゲート状態の黒霧ならば、最早無敵と呼んでも過言ではない、弱点は焔には知らされてないし、彼の個性がワープゲートなど、知るはずがないからだ。

ただ厄介な個性だと注意していたが、焔の浅はかな予想より、黒霧の実力の方が一枚上手であった。

 

「私は戦闘員としては不向き…ですから、貴女方のような相手をするには、私はサポートを務める役目が向いている。

 

良かったですよ、漆月のような素晴らしい戦力が、忍がこちらに来て下さって…貴女が我々側につかないのが実に残念だと、そう思います。

 

ですので願わくば…死んで下さい」

 

そして黒霧は漆月の体を包み込み、二人同時に別の場所へと飛ばそうとする。

焔は逃げ出そうと黒い靄を炎で焼き殺そうとするも、黒霧のワープゲートの中に入ってる状態では意味がなく、焔の抵抗は空間とともに虚しく消える。

焔は言葉を返すことも出来ず、漆月と黒霧の策にまんまとハマり、何処かへ消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けに来たよ…皆んな!」

 

風で赤いスカーフが揺らぎ、スカートからはパンツが見えるか見えないか…ギリギリのライン、動くたびに揺らぐ胸、真影…鋭い風を刀に纏わせ、ステインを攻撃した少女の名は、飛鳥。

先ほどの攻撃により、ステインは行動不能になっている飯田から離れざるを得ない形となった。

 

「あ、飛鳥さん!」

 

「飛鳥くん…?」

 

「あの娘は…?」

 

三人の言葉を浴び、緑谷たちに「テヘッ♪」と可愛らしい笑顔を見せる。

舌を出し、来ちゃった♪という女の子らしい可愛さに、普通の状況なら心をくすぐられるが、危機としたこの状況の中、彼女は救いのヒーローと言っても過言ではない。

因みに倒れてるヒーロー、ネイティヴさんは彼女が一体誰なのか知らないため、緑谷が来た時と同様に、首を傾げる事しか出来なかったが。

 

「チィッ!邪魔を…!」

 

(この女も…死柄木の写真に載ってた!)

 

何とか体制を立て直すステインは、飛鳥を見て死柄木が持ってた写真のことを思い出す。

 

(そう言えばこの女の気…個性でなく、奇術らしき忍術…

 

まさかコイツも忍か!?)

 

ステインは幾多ものの忍を殺害して来た。

となれば当然、飛鳥を一目見ただけで彼女がヒーロー学生ではなく、忍だと直ぐに見解することが出来る。

タダでさえ彼は人を見る目はある。忍を相手にすれば次第に相手が誰なのか直ぐ見分けが付く。

先ほど皆に見せた笑顔から一変、ステインを一瞥する。

その目は闘う覚悟を決めた目…その目は闘志が滾っていることが安易に分かる。

 

「いい目だ…」

 

心に思った言葉をそのまま口に出す。

ステインの言葉が聞こえたのか、飛鳥は体を僅かに反応する。

 

「おい小娘……お前、忍だな…?」

 

「!」

 

「ハァ……なに、別に隠さなくても問題ない……俺は…ハァ……幾多ものの忍を殺害して来た身だ……ここに転がってる偽物どもと同じ末路へな………」

 

今頃ステインに忍への隠し事は通じない。

ならば、と飛鳥は体に入れてた緊張と筋肉を元に戻す。

 

偽物。

その言葉を聞いた飛鳥は、怪訝そうに眉間に皺を寄せる。

転がってる…飯田と緑谷、そこにいるヒーローたちのことを言ってるのだと理解した飛鳥は、三人に向けてた視線を、再度ステインへと元に戻す。

 

「偽物…?」

 

「ハァ……そうだ、俺はこの私欲に塗れた偽物どもを粛清する義務がある。薄汚れた偽善者をな……ハァ……

 

この緑谷…とかいう小僧は違うがな…」

 

偽物への言葉に首を傾げる飛鳥に、ステインは凶刃を手に取る。

緑谷は、ステインが本物の可能性を秘めたヒーローと解釈し、認め、彼は殺さなかった。

動けない程度にはしたものの、擦り傷の為、問題ない。

 

「偽物って…なに?皆んな、みんな色んな想いを抱えて…ヒーロー目指してるのに…偽物ってなに?」

 

飛鳥は若干、言葉に怒りを孕ませながら、ステインに問い詰める。

飛鳥はバカ正直なくらいお人好しだ。

仲間想いで、単純で、人一倍正義感が強くて、誰にも負けない根性があって…太陽のような優しさと笑顔を兼ね合わせてる、そんな彼女だからこそ、仲間を傷つけ、偽物だと罵り、大切な仲間達を殺そうとしたステインに、飛鳥は怒りを露わにし、厳しい声で彼に問うた。

 

「それだ小娘。ヒーローになるのに必要なのは、自己犠牲から成り果てる正義、揺るがない信念…強き心……

 

そこに己の欲望を満たそうとする者は愚か者、偽物でしかない……」

 

ヒーローとは見返りを求めない者であり、己の正義、誰もが認めるその信念を胸に抱き、他の命を救い、悪を倒す。

ヒーローとは偉業なことを成し遂げ、初めて得られる称号。

己が自慢げに、簡単に口に出すものではない。

どれだけ多くの人間から認められようと、褒め称えようと、ヒーローが偽物であれば意味がない。

 

そんなものヒーローとは呼ばない。

それがヒーローなら、否定する。

 

そこにほんの少しでも、偽物という言葉が当てはまれば、全てを否定する。

ステインは、絶対正義を求めるヴィランだ。

 

 

飛鳥は数秒瞬きし、ステインをジッと見つめる。

飛鳥はゆっくりと、首を横に振る。

その目は、憤る怒り…ではなく、哀しみだった。

彼女の目を見たステインは、意外にも少しだけ首を傾げた。

 

 

――なぜ、彼女は哀しい目で此方を見つめてる?

 

 

どのヒーローや忍からも、敵からも、ステインを見る目は怒りと殺意を蓄えた目付きだった。

だってステインがどれだけ正論を言おうが、所詮はヒーローや忍を殺してきた殺人鬼。

または再起不能にしたヒーローの悪夢…そんなステインに向けられるのは、当然許されることのない目、苛立ち、または彼に対抗する正義から来る目…

 

だから不思議でならない…

そんな殺人鬼に、飛鳥は真っ直ぐ此方を見つめ、哀しい表情を向けていることが、向けられた事など今までに無かった…

 

 

――彼女が初めてだ。

 

 

飛鳥は、哀しい目で此方を見つめている。

潤いのある目が、揺らいでいる。

 

「……許せないよ……」

 

「…ハァ?」

 

「そんな、そんな理由で……人を殺すなんて……私は……」

 

―――許せない。

そう彼女が口を開き言葉をかけようとした時だった。

 

「そうか…」

 

ステインが溜息混じりの声でそう小さく呟いた途端…彼は素早く一瞬にして飛鳥の間合いを詰め凶刃を振るって来た。

飛鳥はステインの俊敏な速さに、唐突な動きに、攻撃に、足元を掬われそうになるが、何とかギリギリ上手く対応できたのか、二つの刀をクロスしガードする。

 

「お前も偽物か!」

 

「ッ!?」

 

重々しく伝わる攻撃、のし掛かる凶刃。ギギギと刀と刀が擦れ合う時に生ずる嫌な音が、相変わらず背筋をゾクリと響かせる。

しかし、それよりも背筋が凍りつけられるものと言えば…

 

目の前に映る、ヒーロー殺しの残虐な殺意、イカれた執着、悪や偽善に対する対抗心、冷酷無慈悲な悪意…

間近で見るこのドス黒い殺意の感情ほど、背筋を凍らすものは早々ない。

 

ステインがなぜ彼女を偽物と見なすか?

理由は簡単だ。

許せないという言葉…彼女の怒り…それらは、あの飯田というメガネを掛けた少年と同じものだと、そう判断したからだ。

当初見たときは、少しだけ微かにヒーローに似た正義を感じていたが、所詮は偽物でしかなかった。

 

許せない。

だから戦う…そんな理由ではダメだ。

本当に立ち向かうのならば、誰かを守る為に、弱きを救ける為に、闘わなければヒーローとは呼べない。

許せないから闘う…それはヒーローでも何でもないし、私怨で動く偽物…ステインの粛清対象でしかない。

 

「偽物は、全員粛清対象だ」

 

 

――全ては、正しき社会のために。

 

 

今度は刺々しい靴のスパイクで彼女の腹を蹴る。

彼女は苦痛に混じった顔を浮かべながらも、後方に退がり武器を構えるものの、ステインは余裕を与えさせないのか、次に肩に携帯してたサバイバル式のナイフを手際よく取り出し投げつける。

クナイの代わりのようだ、ピンポイントに向かって飛んでくる。

飛鳥はそれを刀で弾くもステインはそのほんの僅かな一瞬で、壁を蹴りジャンプし彼女の背後へ回る。

振り返ると同時にステインは長い武器を手に持ち彼女の首目掛けて凶刃を振るう。

飛鳥は運良く反射的にそれを上手く躱し、背筋が曲がった状態に陥り、体制が崩れそうになる。

髪が僅かに掠れ、斬られた髪がハラハラと何処かへ消えるよう風に身を任せて飛んで行く。

ステインはそこから腰にかけてたもう一つのナイフを取り出し飛鳥に斬りかかる。

流石にこの連続で素早く斬り来まれば、飛鳥も対応しきれず動揺してしまうのか、一瞬の動きが遅くなり隙を見せ、刃物による攻撃を食らってしまう羽目になった。

 

鋭い刃物による斬撃、飛鳥は激痛に襲われながらも、歯を食いしばりカウンターを決めようとする。

しかし、その前にステインは袖から携帯用の投げナイフを飛鳥に投げつけ、予想外の攻撃に躱すこと出来ず、肩に突き刺さり、ブレザーの服が血に染まり、滲み出る。

 

(つ、強い…!こんなにも早くて…手も足も出ないなんて……!)

 

「忍も偽物は粛清だぁ!!」

 

苦悶に満ちた表情を浮かべながらも、ステインの恐るべき実力に恐怖の心を抱く反面、心の中で彼の強さを認めた。

何故彼が、忍に対抗することが出来たのか、少しわかった気がする。

ステインは怒り狂った目付きで、イかれた執着心の目で、彼女を粛清するべく、排除する為に血に彩られた凶刃を、何度もなんども振るう。

 

「ち…がう!偽物なんかじゃ…ない!」

 

「まだ言うか小娘……!ハァ……忍はやはり、偽物しかいないようだな…!」

 

 

飛鳥は自分の身を守りながらも、ステインに訴えかけるが、彼は表情を微動だに変えることなく、血走った目で彼女を激しく睨む。

その憎しみに近い放たれる眼光は、見てるだけで思わず身震いしてしまうほど、狂気じみた何かを彼女は感じた。

 

「消えろ偽物…」

 

ステインの言葉が最後の合図となるかのように、思いきり刀に力を入れ、そのまま身体を斬り刻もうと身を乗り出す。

その時だった――

 

「私は!例え偽物だと罵られても!それでも私は…人を救けたい!守りたいんだ!()からでも良い!皆んなの笑顔を守りたいんだ!!」

 

「……なに…?」

 

命乞いなのか、又は死を前にした言葉なのか…飛鳥から放たれた言葉は、意外な物だった。

ヒーローや忍を殺す前に、彼らは死の恐怖を前にして、彼らの、彼女らの発する言葉はどれも正義感を胸に張っただけの、現状を逃げ出したいが為の言葉しか吐かなかった。

どれもこれも、とてもヒーローとは思えない偽善者が使う言葉、そこに揺るがない信念が存在しない…

飛鳥もその一人…そう見なしていた。

 

しかし、飛鳥はなんて言った?

 

人の笑顔を守りたい、他の人を助けたい、影からでもいいから…

 

影?どういう意味だ?

本当の偽善者なら、偽物なら、わざわざ影なんて言葉を使わなくても良いだろう…

なのに、何故コイツは…?

今まで殺して来た輩たちに、その言葉は一度も出なかった。

初めて聞くその言葉、どれだけ思考を巡らせても、思いつかない…不思議でしかならない…だからステインは問うた。

 

 

「何故…態々影から?」

 

 

ステインは訳わからずと、疑問を思った表情に染め、彼女に問う。

すると飛鳥は、不敵な笑みを浮かべてステインにこう言った。

 

 

 

「だって、本当の正義って見返りを求めないと思うから!」

 

 

 

「……は?」

 

ステインはここで初めて、疑問から衝撃を受けたような表情を立てた。

思わずそれが声に出る。

 

この女は、この忍学生は…私怨を優先させる唯の偽物でしかない…

さっき迄そう思っていた。

彼女から初めて聞くこの言葉、その場凌ぎの逃げる行為の言葉ではない、薄っぺらい口だけの言葉ではない…

ステインには分かる、この少女の言ってる言葉は、嘘偽りのない、本物の言葉だ。

今まで、幾多ものの人間の言葉を聞いたステインだからこそ、誰よりも理想を胸に想い抱き、光を求め、信念を抱き求めて来た彼だからこそ分かる…

 

この少女の言ってる言葉は、全て本物だ。

 

飛鳥の言葉は、ステインがヒーローとして、信念を掲げるに相応しいものだった。

 

 

「それにヒーローは表で誰かを救う、光のように眩しいじゃない?

 

光があるのなら忍だって存在する……私は忍だから…影で人を支えたいんだ……

笑顔も、命も、心も、大切なものも何もかも……だから、影から人を救けたい。

 

誰にも気づかれることなく、影で人を支える…それって、己を見返らないもので、忍らしいじゃない?」

 

「――ッ!」

 

飛鳥の正義感から来る紛れもない本物の言葉、今まで耳にしたこともない、自分がソレを追い求め、ヒーローの理想として成り立とうとした揺るがない正義と信念。

ステインは彼女の言葉を聞いただけで、軽く身震いを起こす。

それは、恐怖ではなく…歓喜から来るもの。

 

 

―――これだ。

 

 

ステインがずっと、探し求めてたもの。

 

「それに、私が許せないのはねステイン。貴方が敵として怒ってるんじゃなくて、人として怒ってるんだよ?

 

だって、私は…悪忍だけじゃなくて……ヴィランにも変わって欲しいって思うから……

ヴィランだって元は、一人の人間でしょ?貴方は少なくとも、私が見たヴィランとは違う……貴方はヒーローについて熱心に語ってる……それって、貴方が誰よりもヒーローを夢見て、ヒーローになろうとしたから…じゃないのかな?」

 

ヴィランにも。

ステインはその言葉を聞き耳を疑う。

許せないのは、敵としてでなく人として…?聞こうではないか、例え彼女が口に出す言葉が、どんな言葉であろうとも、聞く義務がある。

彼女のようなバカ正直な性格は、嫌いじゃない…寧ろ、好む性格だ。

憧れの部類として…

 

「ヴィランだからこそ怒るんだよステイン、ヴィランだからって理由で、怒らない理由にはならない…だってヴィランは人として見てもらえてないでしょ?

だからこそ、怒らなくちゃ…本当にその人を変えたいのなら、その人のことを想うのなら……

そんな、ヴィランだからって理由だけで誰にも見て貰えないなんて悲しいもん…

それじゃ人は変われない…いつまで経ってもその人は救われない……

それって、凄く悲しいことじゃない?

 

私はね、焔ちゃんって言う悪忍と、最強の友達なんだ。

その子は悪忍で、多分貴方が聞いたら許せないだろうって言うと思うけど、正直最初は焔ちゃんの事苦手だった…

 

カッコよくて、強くても、焔ちゃんの性格は好きにはなれなかった…

忍の道に反するような行動や、どうしてそこまでして強さに拘るのか…理由も見つけられなかった…

でもね、死ノ美を交わして分かったんだ。

善忍も悪忍も関係ないって、元は忍だもの、善と悪の心が二つに分かれただけ…変わらないのは、忍を目指すこと…

 

そして焔ちゃんと会うのは必然だったんだって思ったんだ。

そんな悪忍の焔ちゃんが、正義について考えるようになって、触れるようになった。

 

雪泉ちゃんって人もね、最初は好きになれなかった…

 

貴方と同じ、惰弱な正義は必要ないとか、悪は絶対に許せない…関わりを持つことすらおこがましい…

仲間たちもバカにされて、許されないことも多々あった。

でも、学炎祭を通して闘って、変わることが出来た…きっと雅緋ちゃんもそうなんだと思う…

 

だから、人と戦えば変わることが出来るんだって…分かったんだ。

なら私はねステイン、貴方と戦うよ、貴方にも変わって欲しいから!私は絶対に負けない…忍の道を極めるまでは!」

 

「ハァ…!」

 

ステインは、緑谷の時と同じく溢れんばかりの笑みを浮かべる。

 

―――素晴らしい。

間違いない、コイツは正真正銘、()()だ。

自分が必死に追い求め、探してた忍だ。

英雄を、正義を背負うに値する価値のある忍だ。

今まで見てきた忍供は皆偽物にして愚か者…私利私欲、金、名誉…それらを糧として生きることしかできない社会のガン…

ステインはそれしか見てこなかった…忍に本物を見たことがない、だからステインは、忍は必要無い存在だと解釈していた。

それでも、本物の忍を探し追い求める事までは捨てることが出来なかった。

ヒーローと忍が同じなのであれば、忍にも本物は必ず存在する…

今まで探してきても見つからなかった…影に光など存在しない…

 

 

しかし、本物は其処に居た。

 

 

今、自分の目の前に、本物が立っている。

ステインは先ほどの怒りを一変、満面な笑みを浮かべ、嬉しさのあまり舌を出してしまう。

彼女の一つ一つの言葉に、感化された。

 

 

ヴィランにも変わって欲しいから、正義感から来るものだからこそ、怒るんだ。

私怨ではなく、心を救うために…

変わるという事は、自分も同じことをしている。

偽物から本物の社会へと変えたい…全ては正しき社会の為を思ってるからこそ、ステインは刃を振るう。

 

悪忍も善忍も関係ない…

元はただの忍…考えもしなかった、忍の知識が浅いからという理由もあるが、飛鳥のその発想は思いつかなかった。

偽物を粛清して来た彼では、到底たどり着けない発想…だがそれが良い、敵である自分が、教える側から、教わる側になるとは…

 

人と戦えば変わる、だから、ステインをも変える。

まさか、こんな単直で単純で単細胞で、人一倍正義感の強い小娘から、ステインをも変えると、宣言されるとは夢にも思っていなかった。

戦えば変わる。

それはつまり、これ以上の言葉は不要、命を懸けて闘うのに、言葉は野暮というもの…

変えたいからこそ闘う。

 

つまり、勝って救ける。

 

飛鳥はそういう子なんだろう。

 

―――良い。

 

ステインが探し求め、理想を描いた忍がそのまんま映されたかのような存在。

いままで忍を見て来た中で、光を見なかった。

忍の社会には光が存在しない…太陽が必要だ。

しかし、もういるではないか…目の前に眩しいくらい輝かしい本物の忍が、飛鳥が太陽だ。

 

その眩しさは、目では直視できないほど、とても心地よく、眩しく、輝かしく、平和の象徴と張り合える程、強い正義を彼女は持っていた。

 

素晴らしい、最高じゃないか。

これを至福と呼ばずして人はなんと呼ぶ?

これを、自分は偽物と呼んでいたのか?バカバカしい、先ほどの自分をつい恨みたくなるほどだ。

 

「ハハ…クハハ……ハハハハハ!!!小娘!」

 

ステインは突如笑い出した。

飛鳥は彼の笑い声に思わず体を反応する。

 

「良い!お前は良い!素晴らしい…お前が、お前のような忍がこの世に存在してるとは!お前は素晴らしい忍だ…ハァ……

 

訂正をする。お前は偽物じゃない、本物だ。お前は本物の忍だ……忍が存在する理由を、存在しても良い理由を、俺はお前から学ぶことが出来た……ハァ……お前のような忍を、ずっと待っていた。待ち焦がれていた……お前のような本物の忍は、この社会に必要だ……」

 

ステインは、先ほど自分が偽物と彼女に言葉を投げかけ認識したことを謝罪し、訂正した。

彼女のような真面目で正義感の強い、単純な忍を目の前にすると、皆んなはなんと言うだろうか?

 

焔はこう言ってた。

『半蔵の名を背負う資格のない甘ちゃんだ』

 

雪泉はこう言ってた。

『聞くに耐えない綺麗事ですね、惰弱な正義で何という滑稽な事か』

 

雅緋はこう言ってた。

『弱さを友情ごっこで誤魔化すな、お前らの忍ごっこなど聞き飽きた』

 

皆んな、彼女を認めなかった。

否定し、罵り、向き合おうとすらしなかった。

 

だが、ステインだけは違った。

彼女を目の前にし、初めて認めて貰えた。

滑稽、愚か者、甘ちゃん、綺麗事、忍の恥、失格、伝説の忍の名の面汚し。

周りからそう罵られても、飛鳥は自分の信念を何一つ曲げず、正義の為に刃を振るった。

ステインは、そんな彼女こそがヒーローをも超えるような素晴らしい忍だと、身をもって肌身で感じた。

 

 

この殺人鬼と呼ばれるヒーロー殺しをも変えようとする飛鳥のその正義は、忍を超える存在と言っても過言ではない。

ステインの犯行は、世間一般として許されることのない重罪だ。

彼の行動の所為で、どれだけ多くの人が血を流し、犠牲となって来ただろうか…

彼は赦される筈のない存在、そんな存在を、飛鳥は変えようとしている。

ヴィランだから、そんな理由で心が変われるかもしれないヴィランを見捨てる訳にはいかない、少しでもその人が変わって欲しい、飛鳥のその優しさは、全てを包み込み照らす太陽。

他の忍共など論外、ゴミ。偽物が生きてることさえ烏滸がましい、そう思えてしまう程、飛鳥と他の忍の差は余りにも酷く差が空いていた。

 

その太陽は、悪をも蝕む善。

 

悪は善を蝕む存在だ。

偽物もそうだ、偽物は本物を蝕み、偽物と化す。

腐ったミカンのように、病人が人に病を移すように、その感染は恐ろしく、急速に広がっていく。

 

飛鳥はその逆だ。

きっとこの先、感染していくだろう…

飛鳥によって、偽物に感化された悪は、善へと変わり、己の誤ちを、罪を償うだろう…

 

 

ステインは彼女を、『()()()()』と名付けた。

 

 

コイツなら、もしかしたら…俺のやり方ではなくとも、もしかしたら…ひょっとしたら……この偽物に塗れた社会を、本物へと変えてくれるんじゃないか?

 

そんな幻想とも呼べる曖昧な気さえ感じた。

 

 

「訂正とか、本物とか、そう言った基準とか色々と分かんないことだらけだけど…これだけは言える…

 

…絶対に負けない!!から!行くよっ!」

 

飛鳥はステインに怯むことなく刀を握り、走り出す。

離れた距離を追い詰めるように、ステインとの距離は短くなって行く。

しかし、当の本人は動いていない…ただ、ずっと気味の悪い笑みを浮かべ、飛鳥を見つめていた。

不安を思い抱きながら、彼女は走るのをやめない、止まらない。

その時、ステインがようやく動き出す。ゆっくりと、体ではなく、顔と腕を動かし…()()()()()()()()()()()()

 

 

ガクッ…。

 

「―――え?」

 

飛鳥は音もなく、俯きになるように倒れ込んだ。

バランスが悪かったのか、偶々転けたのか…そんな生易しい現象ではない。

 

体に力が入らなくなったのだ。

 

どれだけ体に力を入れようと、どれだけ必死に足掻きもがいても、決して微動だにしない。

体に麻痺が掛かった感覚だ、動くことが許されないように、身動きの一つもトレやしない。

飛鳥はさっき自分が斬られ、血を舐められたことを思い出す。

 

―――血を舐めた途端に体が動かなかなくなって……まさか!

 

「いい目だ小娘…いや、飛鳥と呼ぶべきか……本物の名前はきちんと胸に刻んでおく……

 

真意を試した。

今回の目的は別にお前を倒すことじゃない…

偽物を粛清する立場であって、本物は別だ……殺してはいけない……

 

だから、お前は殺さない。

お前はもっと強く生きるべきだ、忍の社会でお前は、必要不可欠な人間だ。

 

だから、俺はお前を殺さない…お前なら、未来ある忍たちを……」

 

ステインは凶器と呼べる武器を手に持ち、飛鳥の近くにいながらも、倒れてる彼女を見つめた後、視線を再び飯田に戻す。

そこには、傷により血が滲み出ており、個性による効果のためか、体が動かず俯せのまま倒れ伏せている飯田の姿。

 

「飯田…くん!」

 

「うぅ…!」

 

一歩ずつ、少しずつ近づいて来てるステインに、恐怖と絶望しか残されていない飯田。

飛鳥は飯田が狙われてることに気付き、声をかける。

――逃げて。

そう言いたいものだが、もしそれが出来れば苦労はしない…このステインの個性はなんだ?

飛鳥の血を舐めたその途端、動かなくなった。

つまり、個性発動は血の摂取による条件。

しかし、それがどれ程長く続くのか…また摂取量はどれ程なのか、不明な点が多く存在する…考えれば考える程より謎が深まった。

 

ステインは長い刀を再び飯田の首元に当てる。

そしてその刀の刃が、僅かに首の皮膚を少し斬り込み、血が滲みでる。

肩、腕から流れ出る血を見れば分かる…これですらもう重傷だ。

ステインは、再起不能にするのではなく、今度こそ殺す気だ。

兄の代わりに、コイツを殺すと言わんばかりに…ステインはインゲニウムを名乗る少年を、血に染める。

飯田の表情は段々と悲しみの表情に染まっていく。

 

「くそッ!くそッ!!……クソォ…!」

 

「飯田くん!そんな…まだ体が…!」

 

「ダメ!飯田くん…!」

 

飯田の悲痛と痛苦に、苦楚の表情を見せる飯田は、必死に体に言葉を投げかけ動かそうとするも、動けず…

緑谷と飛鳥は、涙目になって飯田に必死に声を掛ける。

 

――それでもステインは止まらない。

 

「どうだ偽物よ…本物のアイツらは、お前を救ける為にここへやって来たも、お前の所為で奴等は不幸の身となってしまう……ハァ………

 

お前は弱すぎる、そこらにいる虫ケラと同等だお前は……」

 

「煩い!!俺は……お前を()()んだ!お前の所為で…兄が!苦しみ!お前の所為で友が苦しんだんだ…!僕は絶対にお前を、お前だけを絶対に許せない!だから殺し―――」

 

「まず()()()ら救けろよ――」

 

「!?」

 

飯田が初めて見せるこれまでにない暴走の殺意を抱き、復讐に染まった彼。

対するステインは、何も臆することなく、親指を緑谷と飛鳥の方向に向ける。

 

「本物のヒーローとしてなら、兄の想いを引き継ぎたいなら…復讐に矢先を囚われるのではなく、私怨を押し殺してでも、アイツら救けてやれよ。

 

殺す、じゃなくて、救ける、が先に言葉に出るはずだ……

 

だからお前は『偽物』なんだよ弱者が…

 

それを、俺の所為にするんじゃねえよ、復讐に囚われ、お前の愚行が、あの二人を巻き込んだ……それを、他人のせいにするな愚か者、例えそれが敵であっても、他人のせいにするなよ偽物」

 

「…ッ」

 

ステインの意外にも、余りにも真面目で真正面な正論に、飯田は心を挫き、絶句する。

確かに、何も言えない…

こんなこと言われれば、もう何も言い返す言葉も見当たらない……

悔しくて、飯田は目から溢れんばかりの大量の涙を流す。

 

 

「――死ね」

 

 

彼がそう呟いた時…刀が再び振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思っていた。

その途端、強烈なる炎と風の二つの属性の攻撃が、ステインを襲いかかる。

 

「――ッ!」

 

だがステインは反射的にそれを上手く躱した。

奇襲とも呼べるその攻撃を、ステインは難なく躱した。

 

「この街は、余り慣れてませんもので…探すのに手間取りましたが…気配で何とか此処まで来ることができました…」

 

「――またか?ハァ……次から次へと、今日はよく邪魔が入るな…」

 

風と炎による幻想的な光景を目の前に、ステインは深い溜め息を吐きながら、その個性を使った二人を、目を細めて睨みつける。

視界が悪いので、上手く見えないが、しかし人影は確かに二つ存在する。

 

「緑谷…こういうのはもっと、ちゃんとした連絡した方がいい…戸惑っちまった…」

 

「この声…」

 

聞き慣れた二人の声に、飯田とステイン以外の二人は歓喜な笑顔に染まる。

対するステインは、その人影に舌打ちをする。

 

 

「遅くなりました」

「遅くなっちまった」

 

月の正義に舞い忍、飛鳥の最強の友達にして、正義の同類。

白い浴衣の衣装に身を包んだ雪泉。

コスチュームが改変されたのか、左側を覆ってた氷のコスチュームは完全になくなり、そして…今まで否定してた力を、何の躊躇いもなく駆使する、轟焦凍。

 

 

かつて、お互い反対同士で、何かに悩まされた二人は、友を、命を救う為に、やって来た。




ステインさん!貴方の推しは誰ですか!?

ステイン「愚問を……ハァ、本物の忍、飛鳥だぁ…!」

飛鳥「えぇ…」(困惑)

ステインのオールマイト殺されたいヤンデレは半端ない。それはそうと、時間と文字数がアレで、焔紅蓮隊がなぜ保須市へやって来たか、理由かけませんでした、感想書いたのに…申し訳ありません。
まあ、理由は然程高くないので大丈夫ですかね、
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