復讐者の世界周り Weltdrehung des Rächers 作:ダス・ライヒ
あの戦いから二日後、マリは牢獄の中に居た。
場所はフォウドヴィッスから少し離れた距離にある刑務所。先の戦いで敗れたマリは厳重に拘束され、身動きが取れないほどであり、拘束着で完璧に手足が塞がれ、首だけしか動かせないほどだった。
虚ろな目付きで周囲を見渡していると、看守と共に鉄格子からリガンの姿が見えた。他にも何名かの部下が彼の後ろに構えていた。
痛々しい姿であり、左腕はルリに吹き飛ばされた時に骨折でもしたのか固定されている。
「どうだ。監獄に入れられ、人並みの扱いを受けぬ気分は?」
見下した表情で問うリガンに、マリは答えなかった。どうやら精神疾患らしき物を起こしたらしい。
「フッ、答えられるのも無理はないな。それと我がムガル人を堕落させおった女は先程処刑した。死体は見るか?」
小さく笑った後、マリにモルコッチを処刑したことを知らせたリガン。証拠を見せようと、魔法で壁にその映像を映し出す。
両腕を拘束されて跪いたモルコッチが、控えていた処刑人に斧で首を刎ねられた映像だ。それをマリは何の反応もせず、ただ見ているだけだった。
「我が身可愛さに何の同情も無しか・・・それに貴様の公開処刑が決まった、明日の正午だ。この地を追い出された者達は貴様の死を喜ぶことだろう。それまでに今までの悪行を反省し、この世に思い残す事がないようにな。安心しろ、お前の身内や部下共もその内送ってやる。地獄で待っていると良い」
ただ、旧友の死を見ていたマリに、ゴミを見るかのような目で告げたリガンは、その場から離れようとしたが、近場にいた薄色の髪を持つ目付きが危険な長身の男、ゴステロに言い寄られた。
「公開処刑!?そ、そんな良い体した女を殺すなんて勿体ねぇ!その女を俺達にお下げ下さいぃ!ヌワッ!!」
「黙れっ!この毛皮らしい獣めがっ!!この聖女は、公の場で殺すことによって、意味があるのだ!お前達のような獣や鬼が容易く触れて良い物では無いッ!!」
乗馬用鞭で叩かれ、吹き飛んだゴステロは、リガンを睨んだ。
「くぅ~、アマちゃんめ・・・!俺が生前仕えていた”あいつ”を思い出すぜ・・・!」
生前仕えていた上官を思い出しながら、ゴステロは列に戻った。
「兎に角、貴様の公開処刑は明日の正午だ。それまでに自分の行いを悔やめ。我々はこれで失礼する。所長、明日の正午まで食事と身の洗い以外誰も
「御意!殿下の言うとおり、食事係以外誰も奴には近づけません!私の部下共に徹底的に覚えさせておきます!!」
所長は敬礼して復唱した後、リガン達と共にこの場を去った。
列の中にいたバーバブエと呼ばれる男がマリを見る目が大変いやらしかったが、彼女は何の反応もしないままだ。その2時間後、マリの元へ食事が届いた。
トレイに並べられたのはパンにシチュー、飲み物は牛乳と簡素な食事であるが、刑務所ではこれが普通の食事だ。
食事係は二人で全員女性であり、リガンがマリに配慮でも行ったのだろうが、当の本人である彼女は能力を失った屈辱感とルリを失ったショックで精神疾患に近かった。
「はぁ・・・こんな赤ん坊みたいになった人になんでこんな拘束着でも着せてるのかしら?」
「知らないわよ。早く食べさせて帰りましょう」
生気のない目でずっと呆然としたままのマリに、女性看守達は開けたままの口にシチューの具が入ったスプーンを入れた。余り上手く飲み込めていないのか、口からルーが零れ、マリの口元が汚れる。
「あぁもう!どうして食べてくれないのかしら!!」
「どうせ明日に処刑されるから現実逃避でもしてるんじゃないの」
「それもそうね」
雑談を交わしながら、食事係はマリの口元を拭いて、食事を続けさせる。飲み物を飲ませる際にはストローを口の中に入れ、牛乳を口に流し込んだ。
次にパンを手に取り、細かく千切って小さな端くれを空いたままの口に入れた。今度は口を動かしてパンを細かく砕き始めた為、食事係はパンを優先して食べさせた。
トレイに並んでいたパン、シチュー、牛乳が無くなると、食事係はトレイを下げ、マリの口元を塞ぐ布を付け、牢獄を出た。
食事を終えたマリは、何もすることなく、ただ呆然と前だけを見ている。話し相手も居らず、目の前に通り過ぎる者も居らず、ただ呆然と鉄格子越しに見える壁を見ているだけだ。
日が落ち始めても、かなり深い場所にあるこの牢獄には光は届かず、マリは外がどんな状況下知り得ない。無論、精神崩壊している今の彼女には、外のことなど興味はないが。
やがて外は暗くなり、夜になった。
暗くなっても見回りはこの牢獄の前を通らない。見回りはここを通らないように命令されており、聞こえるとすれば、見回りの足音のみだ。
カートのタイヤが転がる音と足音が聞こえ、夕食の時間が訪れた。昼食時と同じ女性であったが、人数が3人と多い。
今度は昼食を担当していたあの女性二人では無く、20後半から30前半と若い女性だ。30前半の女性看守の腰には、モデルは不明だが自動拳銃が入ったホルスターを吊している。
牢獄の出入り口を開け、カートを中へ入れ込み、マリの前まで持ってくる。一人がマリの口元を開け、カートの上を覆っていたシートを取る。カートの上に並んでいた料理は昼食の簡素な食事とは違い、少し豪華だった。
食欲を誘うようなメニューであったが、今のマリにはそんな食欲は無いに等しい。それに手が完全に塞がれており、自由に食べる事など出来はしない。
付き添いでついてきたロシアの突撃銃AKS-74uの銃紐を肩に掛けた看守の男がその食事を見て、酷く苛ついていた。
「チッ、明日は公開処刑だからって、何で飯は俺等より豪華なんだ!」
「ちょっとあんた、煩いわよ」
「分かってるよ!囚人の飯に、特にこの女の飯に手を付けたら鞭打ちの刑だからな。それにしてもむかつくぜ!どうして死刑囚にこんな贅沢な飯を」
「あんたの働きがなってないからだろ?」
「ハッ、給料分の仕事はちゃんとやってるんだ。これだけの飯を俺にも食わせて欲しいぜ」
看守と30代前半の女看守が雑談を交わしている間、若い二人の食事係はマリの口を開け、少し豪華な食事の中にある小さく刻んだ鶏肉を入れ込み、食べさせる。
雑談を交わしている看守と女看守の二人は、マリの食事をまるっきり若い二人に任せきりであるが、精神疾患気味のマリにとってはどうでも良いことだ。
ひたすら美味しい料理を口の中に入れていく食事係だが、マリは「旨い」の一言すら言わず、ただ入れられた料理を歯で細かく砕いて喉に入れ込む。
デザートも食べさせられ、最後にアップルジュースを飲まされると、マリにとって最後になるかもしれない夕食は終わった。
次の彼女の最後と言うべき食事は朝食であろう。先程雑談を交わしていた看守達はカートと二人の食事係と一緒に牢獄から去った。
それから二時間後。時計の針が八時を指した時、彼女にとっての最後と呼べる身体の洗浄が始まる。
「さぁ、お風呂の時間ね」
「凄いスタイルですけど・・・こんな綺麗な人を明日殺すのでありますか?」
「仕方ないでしょ。殿下のご命令だから」
やはり配慮されており、洗浄係も女性であった。監視も配慮され、狭い場所でも取り回しが効く自動小銃や散弾銃を持った女性兵士がマリを監視している。
拘束着を外され、美しい裸体が露わになったマリに兵士達は銃を向けたが、彼女は何の抵抗もせず、ただ死人のような目で見ているだけである。
このマリの状態に兵士達や係の者達は警戒したが、当の本人は脱獄するやる気も無い。身体を洗う者は水を使って石鹸を泡立て、マリの身体を洗い始めた。
ずっと銃を構えている兵士は溜息をつき、隣の者と会話を始める。
「はぁ・・・早く帰って寝たい・・・」
「まだ時間はあるし・・・こんな仕事も明日で終わりだから」
「それもそうね。さぁ、明日は疫病神が公開処刑を受ける日だ」
目の前の兵士達の会話すら耳に入らないマリは、ただずっと洗われ続けるだけであった。数十分が経過すると、マリの身体を洗い終えた係が、水の入った桶を彼女に掛け、泡を落す。次に腰まで届いた長い金髪に取り掛かり、汚れを落としていく。
三分もすれば泡は全て洗い流され、さらに綺麗になったマリの裸体と金髪が見えた。何名かがその美しいスタイルに目を奪われるが、新しい拘束着を着させられ、再び厳重に拘束される。
係が歯ブラシに歯磨き粉を付けると、それをマリの歯に当て擦り、歯磨きが始まる。虱潰しに三分間やり続けた結果、歯も綺麗に白く光った状態になった。
なんで死刑囚の身なりを整えるのかを何名かが疑問に思ったが、長く生きたいと思ってしまい、考えるのを止めて忠実に任務を実行した。身なりを綺麗に洗い終える頃には時計は九時を指し、ここでの収容所なら自由時間が訪れる。
だが、マリには全身を厳重に拘束されており、自由など無かった。やることとすれば、ずっと前を見てるだけか、寝ることだろう。
マリは後者を選び、この現実から逃れるために眠りに就いた。
明日は公の場で処刑台に立ち、殺されるだろう。今の内にマリは夢を見て、幸せな気分を味わうことにした。
刑務所の牢獄から、奇妙な光景が広がる薄明るい巨大な空間に変わった。幾つもの細切れた街の建造物らしき物が浮いており、誰しもが驚く光景だ。
そんな世界に刑務所で眠っている筈のマリが居た。眠りに就いた時、自分が本来居たはず刑務所ではなく、いつの間にかこの奇妙な世界に居ることに驚き、目に生気が宿った。
「何処よ・・・ここは・・・!?」
周囲を見渡し、そこが自分の居るはずのない場所であることに驚いてマリは声を上げる。
「拘束着・・・あれ・・・自由に動ける・・・?」
牢獄で自分を拘束していた拘束着が無くなっている事に気付いたマリは、同時に素っ裸であることに気付き、近場にあった衣服を見付け、それを身に付けた。
その服装は以下にもマリを男装の麗人と見せるような物であり、腰にはサーベルがベルトに差し込んであったが、だが、彼女は服の近くにあったアメリカの軍用大口径自動拳銃コルトM1911A1を手に取って安全装置を外し、それを両手に握りながら浮いている足場に沿って進んだ。
この空間は十分に明るく、影もあったが、それでも見通しは良い。道中、何かに身構える男性を見付けたが、微動しないほど動かないマネキンのような物だった。
「なにこれ・・・」
一度触れてみたが、鋼のように堅く、その場から動かなせない。
放っておいて先へ進むと、基地らしき床の上に統合連邦の兵士達がそれぞれ手に持つ銃を構え、科学者や作業員が逃げている場所に着く。
「一体何から・・・?」
近くにいる一人の兵士が銃を構えている先を見ると、マリにとって驚くべき物があった。
空中を浮遊する武装親衛隊の将校用の制服を着て制帽を被ったルリが、小悪魔のような笑みを浮かべ、自身の能力を発揮して数名の兵士や科学者、作業員を凄まじい方法で殺害していた。
ルリの足下の床には血で赤黒く染まっており、何名かの死体が転がっている。模型のように動かないのが幸いだが、これが現物なら、凄まじい惨事だろう。
能力を発揮して殺戮を楽しむルリの姿を見たマリは、直ぐさまルリに近付き、足下に触れたが、先程の身構えていた男性と同じく鋼のように堅く、動かせない。
仕方なくここから去ろうと、次の場所への道に行こうとした途端、入り口に長い白髪を持つ紅色のジャケットを身に付け、袴のようなズボンを履いた赤目の男が左手に大剣を持ち、ルリを睨み付けていたが、マリは無視して先へ向かう。マリは後にこの男がルリと共に行動するとは夢にも思わなかった。
「何かしら・・・あれ・・・」
気になってしょうがないマリであったが、兎に角先へ進んだ。暫し歩いて、終着点らしき所へ着いたマリは周囲を見渡し、何処も進む場所がないと分かると、何処か腰掛けられる場所へ座り、現実での自分が目覚めるのを待つ事にした。
「綺麗・・・」
目の前に広がる光景にマリは感化され、乙女らしい笑顔で眺めて呟いた。だが、そんな彼女に二日目の驚くべき事が起こる。
突如何もない場所から病気とも思えるほどの青白い肌をした青年男性が現れたのだ。マリは警戒して、今持っている拳銃を向けようとしたが、いつの間にか消えており、腰に差し込んであったはずのサーベルも消えていた。
「やぁ、マリ」
「あ、あんた・・・誰よ!?」
突然現れた19世紀のヨーロッパの男性服に身を包んだ青年に名を問うマリであるが、目の前の青年は腕組みをしながら落ち着いた表情で口を開く。
「かなり驚いているようだな、用があってお前を虚無の世界へ引き入れることにした」
「一体何がどうなってるのよ?」
「そう焦るな。二日前、いや、三日前。お前は古の帝国の襲撃を受け、リガンを打ち倒した後、能力者殺しの攻撃を受け、ほぼ全ての能力を失い、愛する者まで失ったたな?」
「そ、それがどうかしたのよ・・・!?」
今まで自分の身に起きた事を正確に当てた青年にマリは驚き、鳥肌を立った。
「そんなお前を私は救うことにした。自己紹介が送れたな、私はアウトサイダー。神と悪魔が入り混じった存在とでも言っておこう。失った能力の代わりになる物をお前に渡すことにする。この世界より一段上の次元にうずまく力だ。これがその証拠の印だ」
マリの左手の甲が燃え始め、謎の印が甲に刻まれた。
「では、ついてこい」
アウトサイダーは姿を消し、何処かへ去った。
謎の存在であるアウトサイダーを追うべく、マリは彼が与えた能力を早速使うことにした。目の前に行きたい場所へ行こうとした瞬間、いつの間にかその場所へ来ていた。
「こ、これは瞬間移動・・・?」
少し戸惑うマリであったが、失った能力に似たような物があった為、取り戻すまでに重視することにする。
先に進むと、飛び越えられない程の間の向こうに足場があった。早速この能力を駆使して、次の足場まで一気に移動した。
「結構便利ね。前とは違うけど」
瞬間移動を多用しながら進み、宝箱の前まで来ると、アウトサイダーが姿を現した。
「それはお前がかつて持っていた瞬間移動と同じ能力だ。他の者達はブリンクやトランスバーサルと呼んでいるが・・・お前はどう呼ぶのだ?」
「そんなの・・・知らないわよ。それより他の者達ってどういう事?」
「質問を質問で返すとな、お前の他にもここへ来た者が居る。では、本題に戻すぞ。これをお前に授けることにしよう」
彼の右手から心臓らしき物が現れ、それをマリの左手に瞬時に移動させた。
「なに・・・これ?」
アウトサイダーから渡された心臓らしき道具は、機械と心臓が組み合わせた奇妙な外見だった。
「お前の能力を探すための道具だ。前の所有者はルーンやボーンチャームと呼ばれる能力強化を探すために使っていた。それを使ってお前の各地に散らばった能力を探すと良い」
心臓を眺めるマリを見ながらアウトサイダーは続けた。
「おぉ、そうだ・・・この世界にあるお前の能力を探してみると良い。この世界にもお前の能力が飛ばされていたらしくな、確か・・・あの塔の先にあったはずだ。早速使ってみると良いだろう」
言いたいことを言い終えたアウトサイダーはまた姿を消した。マリはアウトサイダーの言うとおり塔に向かう。
塔は横に倒れて浮かんでおり、十分に足場の意味を為している。直ぐに塔を渡り、心臓の鼓動を頼りに進んでいくと、心臓の少し鼓動が強くなった。
「向こうに・・・」
一歩一歩近付く度に心臓の鼓動が強くなっていく。やがて心臓の鼓動が激しくなり、反応の元となる水晶玉が見付かる。
「これね・・・?」
水晶玉を手にとって、それを見回した。
「どうやってこれを・・・?」
徐に調べ回していると、手を滑らして水晶玉を落としてしまった。割れた水晶玉から中にあった藤色の煙が吹き出し、マリの身体を包み、身体の中に入ると、突然自分の身体が藤色に光った。
「ど、どうなって・・・!これは・・・!?」
光る自分の身体を見ながら驚くマリに、再びアウトサイダーが姿を現す。
「ふむ、どうやら不老を取り戻したらしいな。これなら誰かに殺されるか、自分で命を絶つか、病に罹るからない限り死にはしないな」
「へっ・・・嘘・・・?」
「本当のことだ。その調子で全ての能力と愛すべきルリを取り戻すと良い。ん?もうお前の目覚めの時のようだ・・・最後に伝えておくが、お前に執着する男が近い内に、いや、直ぐに現れることだろう。それではまたいずれ何処かで会うことにしよう。いつでもお前を見守っているぞ」
いつでも見守っていると言われたマリはまた鳥肌を立たせ、アウトサイダーに対して警戒心を持ったが、突然目の前が真っ暗になり、意識を失った。
「うぅ・・・あぁ・・・夢・・・?」
刑務所の牢獄の中で目を覚ましたマリは、拘束着の感覚を直接肌で感じ、現実に帰ってきたことを実感する。
「変な夢・・・?」
少し混乱気味のマリであったが、係の者が着た瞬間、今までの振る舞いをした。マリにとって最後の洗面が終わった後、カートに乗った最後の食事になるかもしれない朝食が目に映った。
「(本当にあれが夢だとすると・・・?)」
朝食を口の中へ入れて、食べさせながらマリは昨日の夢の事を考えていた。そして最後の食事を終えると、係の者に歯を磨かされた。歯磨きの後の髪の手入れが終わると、複数の兵士と看守が姿を現す。
「歯磨きと手入れは済んだか?では、死刑囚を待合室まで移動させる」
牢獄の戸が開けられ、マリは4名の男に抱えられながら、カートの上に載せられた。三日ぶりに浴びる朝日にマリは目を閉じる。
「どうだ、三日ぶりの太陽は?まぁ、これがお前の最後だがな」
カートを押す兵士に言われ、少し腹が立ったマリであるが、今は全身を拘束されてなんの抵抗も出来ない。数十分後、待合室に到着し、そこでひたすらマリは公開処刑されるのを監視付きで待つことになった。
監視している兵士は額が汗ばんでおり、「マリが拘束を解いて自分を殺すのではないか」と言う思考に捕らわれているようだ。証拠に身体ががたがたと震え、足下に水溜まりが広がっている。
どうやら訓練を終えてから日の浅い新兵だろう。
「(何時間持つかしら?)」
マリは震えが全く止まらない新兵を見ながら、いつまで持つか待つことにした。彼女に見られた新兵はより一層震えが止まらなくなり、いつ気絶してもおかしくない状況に陥ってしまったが。
一時間経つと、新兵は床に倒れた。それを見ていたマリは、少し笑ったが、代わりの者が直ぐに来た。
今度は歴戦の下士官が来る。全身を拘束されて決して外せないと思っている顔付きだ。
マリにとっての死ぬまでの唯一の楽しみはここで潰え、彼女はじっと死刑台まで上がる時間まで待つことになった。妄想でもして時間を潰すことにした。
まずは拘束着を外せたとして、一体どうやって逃げるかを考えるあの下士官をまだ覚えている格闘術で倒し、武器を奪う。
だが、裸で逃げ回るなど以ての外である。必ず何処かで衣服を調達しなければいけない。
着替えている間に敵が待ってくれるのか?そう頭に過ぎってしまい、別の考えにする。
拘束着を外し、監視の下士官を殺害し、武器を奪う。第一の考え方と同じであるが、違う点はある。夢の世界で手に入れたブリンクと呼ばれる瞬間移動の能力を使うことだ。
しかし、「本当に使えるのか?」と言う疑問が過ぎってしまい、断念してしまった。
またマリは考えを変える。
第三の考えは、信憑性のない夢の中でアウトサイダーが言っていた自分に執着する男の存在が自分を助けると言う発想だ。その男が監視している監視を無力化し、当時に衣服を用意しており、共に脱出する。
本当にその男が来るかの問題であり、全く不確かでない事実である為、考えることを止めた。
「(どう考えたって、そんな都合の良いこと起きないじゃないの・・・楽しいこと考えよ)」
マリは、脱出するより、懐かしくルリとの思い出を振り返ることにした。数々の思い出がマリの脳内を過ぎる。
「(そうだ・・・あの
ルリのことを思い出したマリは、自然と目元に涙を浮かべた。監視していた下士官も「遂に末期か」と心の中で呟いた。
マリが妄想に浸っている途中で、それを邪魔するような事が起きた。
「失礼する。死刑囚のマリはその、拘束されている女か?」
「あぁ、そうですが・・・何用で?処刑の時間が迫ってるのですが・・・」
バーバブエが複数の護衛と共にこの部屋に押し入り、監視役の下士官に質問していた。
「殿下の御命令だ、その女を私に預けよ」
「殿下の御命令?その命令は私に届く手はずになっておられ筈なのですが・・・」
「喧しい、貴様はごちゃごちゃ言わず、私の命に従え!貴様の首なんぞ私の手でいつでも刎ねれるのだぞ!!」
「は、はっ!直ちにお引き渡しします!」
下士官は敬礼した後、マリを立たせてバーバブエの護衛に引き渡した。
「(え・・・どういう事・・・?なんでこんな馬鹿みたいなのに引き渡すの?)」
突然、命令に忠実なはずの下士官が、自分を性欲の対象としてみるバーバブエに引き渡した為、マリは全く理解出来ずにいた。バーバブエの護衛達に引き渡されたマリはそのまま何処かへ連れて行かれた。
「何よもう・・・」
歓声が聞こえる処刑場とは違う方向へと向かっている為、マリは不安の言葉を口に出した。
マリにとっては久し振りに味わう恐怖だ。数十分もすると、目的の場所へ着いた。
そこは手錠が高い位置に三個ずつ設置してあり、それが壁に三つずつ設置された部屋だ。三つの壁と出入り口の二つを合わせると、合計で十一個になる。直ぐにマリはこの部屋に来させられた理由が分かった。
「(レイプされる・・・!)」
察したマリは、暴れ出して拘束を解こうとしたが、外れるはずもなくバーバブエの護衛達に抑えられ、目の前の手錠まで連れて行かれた。
拘束着を外され、裸にされたマリは手錠を掛けられようとしていたが、バーバブエが彼女の左手にアウトサイダーから与えられた印が刻まれていることに気付く。
「なっ、この女、入れ墨をしておるぞ!」
左手を掴んだバーバブエは、マリに印が付いていることに腹を立てた。どうやら左手に印が付いているのは何か”気不味い”証らしい。
「おのれ!この女、傷物ではないか!!」
酷く腹を立てたバーバブエにマリは逃げる隙を見付けた。印があると言うことは、昨日のあの虚無の世界は単なる夢では無かったことだ。
バーバブエの股間を蹴って、ブリンクを使い、左ポケットにナイフを差し込んだジャケットを着た兵士までマリは移動した。
「グワァ・・・」
「き、消えた!?」
周囲にいた兵士達はマリの姿が消えたことに動揺を覚える。物の数秒後、ジャケットの兵士の前に全裸の金髪碧眼の美女が現れた。
「さよなら・・・」
妖艶な笑みで、ジャケット兵士からナイフを奪い取り、苑へ意志の喉を切り裂いた。切り口から大量の血が噴出し、マリを血で赤く染めた。
死まで後数秒を切った兵士から、AKs-74uを奪い、速攻で安全装置を解除し、引き金を引いて部屋にいた全員に向けてフルオートで発砲した。
「居た!がぁっ!!」
「うわぁぁぁぁ!」
「うぉぉぉぉ!」
その場にいた兵士達は全員マリが放った銃弾に断末魔を上げながら倒れた。バーバブエは肩に銃弾を食らっただけで済んだが、彼の護衛を務める兵士達は当たり所が悪かったのか、全員絶命している。
生きている護衛が居ないことに恐怖したバーバブエは、目の前にいるマリに命乞いを始めた。
「うわぁぁぁ!た、頼む!殺さないでくれ!!」
マリが拘束着を脱いだ後で浮かべていた顔は、情けないほどになって泣きじゃくっており、股間の辺りに目を向ければ失禁している始末だ。
そんな自分にとって殺意の対象である男を、ゴミを見る目で睨み付けながらライフルを向けたが、銃口の短い突撃銃は弾切れであった。代わりに死んでる兵士から自動拳銃を取り、それを震えているバーバブエに向ける。
「や、止めてくれ!死にたくない!」
「着る物がある部屋に案内して」
「あぁぁぁ!止めろ!頼むから命だけは!!」
銃を向けられている所為か、バーバブエは酷く怯えて泣き叫び、全くマリの話など聞いていなかった。これに苛ついたマリは、自動拳銃のクリップでバーバブエを殴り付けた。
「案内しろよ、おっさん」
「ヒェェェェ!!殺さないで!殺さないで!」
逆効果だったのか、バーバブエはさらに泣き喚き、マリの怒りは頂点に達し、贅肉に包まれた男の腹を思いっ切り蹴り付けた。
「だ~か~ら~話聞けよ、おっさん!!」
「は、はい・・・た、直ちにご案内します・・・」
贅肉だらけの腹を蹴られた痛みからか、バーバブエはマリの命令に従い、彼女を衣服のある部屋まで案内する。裸で豊満の体付きの金髪碧眼美女に後ろから拳銃を突き付けながら歩けさせられると言う何ともシュールな光景が映っている。
背中に銃を突き付けられているバーバブエは、救いの神である衛兵が来るのを待っていたが、一向に来ない。
「(クソ・・・早く来んか、のろまな衛兵共め!)」
彼自身は銃声に気付いた衛兵達が早く来るのを期待してたが、全く来なかった為、苛ついていた。
目的の部屋まで着いてしまい、彼女はバーバブエに拳銃を向けながら着る物を探し始めた。これにバーバブエは、マリが着替えている最中に強姦しようと考え、そのチャンスが来るのを待った。
「(さぁ・・・早く着替えろ。その瞬間、お前をシャブリ尽くしてやる・・・!)」
以前、マリが自分に視線を向けていた為、下品な顔付きは抑えたが、心の中は抑えられなかった。物の数秒後、マリの視線が自分から外れる。
「(今だ!!)」
これをチャンスと見た、バーバブエは一気にマリに飛び掛かったが、マリは当に気付いており、襲ってきた男の額に銃口を突き付け、引き金に指を掛けた。
「あんたが襲ってくること、最初から分かってたから」
「よ、止せぇぇぇぇ!!」
銃口を額に突き付けられたバーバブエは叫んだが、マリが引き金を引いた途端、その叫びは事切れた。バーバブエを撃ち殺したマリは、動きやすい服を見付けた後、身体に付いた血を白いシャツで拭き、動きやすい服である枯色の戦闘服を着る。
「まぁ、これでピッタリか・・・」
自分の着ている戦闘服を見ながらマリは先程の部屋に行って武器を回収、そのまま出入り口がある場所へと向かった。
「ここが出入り口ね・・・歓声が聞こえるけど・・・ここでの戦闘は気付いてないようね?」
出入り口の向こうから歓声が聞こえてくる為、マリはここで戦闘は気付いてないと察した。
だが、その当ては外れ、出入り口から数人の声が聞こえてくる。
「おい、何か聞こえなかったか?」
「銃声だな・・・暴発か?もうすぐ処刑の時間だってのに」
「どちらにせよ調べる必要はありそうだ」
声からして三人と分かったマリはAKs-74の安全装置を外し、こちらに来る敵に輪生体制を取った。
今の彼女は不死身ではない、銃弾を何発も食らえば死んでしまう。不死身でないことは、もう既に力とルリを失った時に分かり切っている。そして、マリにとっての復讐への道が一歩と前進した。
これから幾度と無く試練が訪れる事だろう。それでもマリは進む、かつての栄光と幸せを取り戻すために。
中断メッセージ
ビッテンフェルトの部屋
ビッテンフェルト「ほぅ、これが俺のコーナーか・・・随分とこの作品の作者も粋なことをするな」
ディルクセン「ハッ、作者も銀河英雄伝説を出したいそうですが、本編にてルールに違反する描画が多いそうで・・・」
ビッテンフェルト「当然だ、同性愛者の主人公が出る時点で参戦は不可能に近いからな。ゴールデンバウム王朝時代に同性愛者の皇帝が居たが・・・あれは引っ掛からんのか?」
グレーブナー「はぁ・・・小官はそれには・・・」
ビッテンフェルト「ふむ、そうか。で、一体俺は何をするれば良いんだ?ただお前達と喋ってるだけで良いのか?」
ディルクセン「いえ、確か・・・」
ハルバーシュタット「この場に来た者、ゲストとただ会話するコーナーだそうです」
ビッテンフェルト「で、その肝心なゲストは何処に居るんだ?」
ディルクセン「・・・」
ハルバーシュタット「・・・」
クレーブナー「・・・」
オイゲン「・・・」
ビッテンフェルト「まさか・・・居ないのか・・・?」
ディルクセン「そ、そうなります・・・」
ビッテンフェルト「次からゲストは来るのか?作者」
オイゲン「カンペでは、来るはずだと、申しております」
ビッテンフェルト「フッ、そうか・・・では、話でも変えるか。最後のマリが敵を待ち構えるが、あれは猪突猛進あるべきだろ?」
ディルクセン「その通りでしょう!閣下。突撃して敵陣から抜け出すべきです!」
オイゲン「(不死身じゃないんだし・・・無理だと思うけどな・・・)」
ビッテンフェルト「それもそうだ、猪突猛進あるのみ!マリ、これを見てたら、直ぐに突っ込め。分かったな?」
※ネタバレですが、ビッテンフェルトの言うとおりにマリは猪突猛進しません。