復讐者の世界周り Weltdrehung des Rächers 作:ダス・ライヒ
アドシアードから翌日。
朝日が照らし付ける中、傷も癒えたマリは、レインボーブリッチから学園島を眺めていた。落下防止用の柵に膝を置き、ずっと眺めたままである。そんな彼女に紙煙草を咥えながら向かってくる長身の色黒な男、ガイドルフが声を掛けてきた。
「よぉ。どうした、そんなに学園島を眺めて。学生になって青春を謳歌したくなったか?」
冗談交じりに声を掛けてくるガイドルフに、マリは一瞬振り向いたが、何も答えず、学園島に視線を戻した。
「最近なんか冷たいじゃないか?お礼は仇で返すタイプ女か?」
煙草を口から離して、ずっと学園島を眺めているマリに問うが、さっきと同じ通り無視したままだ。そんな彼女に溜め息をついて、懐から何らかの資料を取り出し、それをマリの近くに翳す。
「一番比較的人が少ないのは今日の夜中だ。何たって学園祭の後だからな。潜入するのは今日がチャンスだ」
無言で資料を受け取ったマリは、説明をするガイドルフの言葉に耳を傾けず、ただじっと読んでいる。
「明日は夜中でも学園にいる生徒が多いから、誰にも見られずの潜入には不向きだ。装備は大丈夫か?」
問うガイドルフに対し、マリは振り向いて、無言で頷く。
「そうか・・・では、健闘を祈るよ」
その合図を見て、ガイドルフはマリの元を立ち去っていった。資料を受け取った彼女は、それを肩から下げている赤い愛らしいバックに入れ込み、空を見上げた。
「これは一雨来そうね・・・」
太陽の光を灰色の雨雲が覆い隠す中、そう呟いてから自分の拠点である施設へ戻った。
あれから数時間後。
太陽は沈み、月の光が上がる夜中になったが、未だに雨は止まず、さらに酷くなっていた。民間軍事会社のビルに扮したワルキューレの基地のガレージから大型バイクを押している黒いポンチョを羽織ったマリが出て来た。一端バイクを置いて、開けたガレージを閉めると、バイクに戻って跨り、刺さっているキーを回し、エンジンを掛ける。
コンクリートに付けている足を離すと、両方のグリップを回してバイクを進めた。前輪を動かし、学園島へと向かう。タイヤが道路に溜まった水を弾く音を立てながら走る中、学園島へ続く連絡橋に止まる。バイクに乗ったまま懐から双眼鏡を取り出し、学園島を覗いた。
「やっぱり検問が・・・」
学園島への出入り口に、HK G3大口径自動小銃をそのまま小口径にした突撃銃HK33を持つ灰緑色のポンチョを身に着けた警備員が四人ほど見渡していた。組み立て式の見張り台もあり、中には五人目の警備員がサーチライトを辺りに当てている。
「流石に正面突破は無理ね・・・」
双眼鏡を仕舞い、バイクを人気のない場所にエンジンを止めて降り、海から学園島への潜入を試みる事にした。荷台にあるケースを取り、空いている手でポンチョを脱ぎ去った。雨が当たっているにも関わらず、脱ぎ捨てられたポンチョが空中高く舞い上がる中、マリの姿が露わとなる。
ボディラインが浮き出ている黒色のボディスーツを着用しており、右太腿には麻酔銃に改造した拳銃が入っているガンホルスター、左太腿は麻酔銃用の弾倉が入ったポーチを付けている。
左胸にスタンガンが付き、腰には装備品を入れる防水性ポーチがぶら下がっていた。へそから下は防水性の高いクリップ用ポーチを左右に三つずつ身に着けている。持ってきたケースの中身を開けると、中にあったのは大戦中のドイツ軍の主力小銃であるkar98kがあった。
照準器にはZF41と呼ばれる中距離用狙撃スコープであり、使用する弾丸は麻酔弾だ。銃口には専用の消音器が取り付けられ、足音も殆ど聞こえない事から隠密かつ非殺傷任務のための装備と分かる。
それらを手に取った後、長い髪を後ろに束ね、ケースに入っていた潜水用ゴーグルと超小型酸素ボンベを取り出し、ゴーグルを頭に付け、手のサイズまである酸素ボンベを手に持つ。
「さぁ、始めましょうか」
小型酸素ボンベを咥え、ゴーグルを頭に付けると、天候で少し荒れている海の中へと飛び込んだ。水飛沫を上げて汚れた東京湾へ入ると、そのまま学園島へ泳いで水中の中を進む。
数十分間水の中を泳いで進めば、学園島の倉庫群の近くにある湾へ辿り着いた。目線の当たりまで上がって周囲を覗いてみると、ポンチョを羽織った警備員が銃を持って巡回している。
「ここは駄目・・・」
湾の近くを巡回する警備員を見て、マリはそう呟き、人気のない場所まで泳いで移動する。また上がる前に周囲を確認し、居ないと判断して湾を上がり、ゴーグルと酸素ボンベを外した。
肩に掛けてあるkar98kを周囲に構えて敵が居ないことを再度確認して、この当たりを安全と判断。ポーチからGPSを取り出し、画面に映し出された学園島の見取り図から自分の位置を確認する。
「丁度この辺りね・・・」
位置を確認した後、麻酔銃に改造したボルトアクション式小銃を背中に掛け、右太腿から第二次世界大戦下で英国の特殊作戦執行部に使用された始めから消音器付き自動拳銃であるISRB ウェルロッドを取り出す。
この消音拳銃も麻酔銃に改造されており、彼女が人を殺せる手段と言えば素手のみだ。向かおうとすると、左耳に付けた小型無線機から無線が入る。
『着きましたか?』
「着いたわよ」
それはノエルからの通信であり、直ぐさま到着を確認する問いを掛けてきたので、マリは即座に答えた。
『着きましたか・・・何度も言いますが良いですか?誰も殺さないでくださいよ。武偵や警備員と違う場合によっては・・・』
「分かってるって。それより武器が古くさいんだけど?」
どうやらノエルは何度もマリに言いつけているようで、彼女はウンザリしているようだ。次に彼女は持っている麻酔銃に改造されたウェルロッドとkar98kについて問う。
『それは・・・兵站部が渡してきた物ですので・・・』
「そう・・・じゃあ、頑張って能力見付けてくるわ」
『あぁ待ってください!』
「なに?」
無線を切ろうとしたマリに、ノエルは慌てて止めた。
『警備員の何人かに協力者を紛れ込ませています。帽子やヘルメットを被っていないのが証拠です。それと、組織に雇われた敵兵が何名か武装探偵に捕らわれているので、事故に見せかけて
「それなら人殺せる武器寄こしなさいよ」
先程の説明にツッコミを入れたマリに、ノエルは苦笑いしつつ続けた。
『警備員はワルキューレ所属ですが、差ほどがこの作戦のことを知らされておりません。しかも協力者も怪しまれないようにしているので、発見されれば撃たれます。敵兵を尋問するみたいに確認してください』
「分かった。じゃあ切るね」
『はい、お気を付けて』
無線を切ると、マリは懐から心臓を取り出し、鼓動の強さを確認した。
「小さいけど・・・近いわね」
そう言ってから心臓を仕舞い、麻酔銃を構え、目的地である東京武偵校へと向かった。警備員の足音に耳を傾けつつ進み、記録に新しい場所へ着いた。
二日ほど前に組織に雇われたごろつきや傭兵と戦闘した場所であるが、雨で戦闘の後が流されたのか、それとも警備部隊が後の無いように清掃したか、戦闘の後が一切なかった。
警備員が二人ほどごろつきと傭兵と銃撃戦を行った場所に現れる。マリは直ぐに身を隠して、物陰から形がどう見ても警備兵な警備員の様子を探る。二人の警備員は顔を合わせると、会話を始めた。
「よぅ」
「どうした?」
「ここの場所って、Sランクの小さい武偵と噂の金髪の女が、傭兵達と銃撃戦をやった所だな?」
「あぁそうだ。それがどうしたんだ?」
「実は俺、ここの片付けを担当しててな。余りにも面倒だったよ」
「それか。倉庫担当の奴らは大変だったそうだぞ」
「酷く損壊した死体が多かったって話だな・・・俺はここの担当で良かったよ」
「あぁ、俺も倉庫担当でなくて良かった」
二人は会話を終えると、元の位置へ戻る。十分な距離まで二人の姿が離れれば、直ぐにそこを通り過ぎる。
前に見える進路に邪魔な警備員を見付ければ、直ぐに頭を麻酔銃で撃ち、眠らせた。警備員が睡魔に襲われて倒れると、直ぐに人気のない場所へ隠す。
ライフルが試したくなったので、kar98kに切り替え、手頃な距離にいる警備員の頭に照準を定めた。止まったところを逃さず、引き金を引くと、圧し殺された銃声と共に麻酔弾が警備員の頭へ向かって発射された。頭に麻酔弾が刺さった警備員は倒れ、降りしきる雨の中を眠ることとなる。
「お大事に」
そう呟いてボルトを引いて空の薬莢を排出し、ボルトを押して次弾を装填した。落ちた空薬莢は、取り敢えず排水口辺りに落とし、証拠を隠滅する。警戒しながら先へ進みつつ、東京武偵校への距離を縮める。
途中、複数の車の走行音が耳に入り、音がする方へ視線を向ければ、屋根付きのジープがこちらに向かってくるのが分かる。身を隠せる場所へ隠れると、ジープの後からトラックが数台ほど続いていた。車列が通り過ぎるのを確認してから飛び出し、背後をマリに晒しているポンチョを身に付け、頭には何も被っていない警備員に向かった。
「動くな」
自分に気付かず、背中を晒している警備員に向けて銃を向ける。急に声が聞こえたのか、警備員は驚いて持っていた
「あんた協力者?」
「・・・何のことだ?質問の意味が分からん・・・」
数秒間黙ってから答えた警備員は、マリが問う「協力者」では無かった。返答を聞いたマリは、左手に持ったスタンガンを警備員に当て、気絶させる。気絶した警備員を人気のない場所まで運び、無線機を頂戴すると、目的地へと進む。
何名かの警備員が居たが、どれもノエルが言っていた協力者の証拠である帽子やヘルメットを被ってない警備員は居らず、事情の知らない者達だけだった。隙を見計らってから移動し、邪魔な者に対しては急所に麻酔弾を食らわせるか、素手で気絶させながら目的地への距離を縮める。
「着いた・・・」
ようやくの所で東京武偵校まで辿り着くことに成功した。直ぐにノエルに報告の無線を入れる。
「もしもし?今、学校に着いたけど」
『到着しましたか・・・予想通りの時間帯です』
「うん。協力者に会うわ」
『そうしてください。何人か生徒が残っております。それと近年に日本政府が定めた特定秘密保護法案決定で、日本各地の武偵校もそれに従い、生徒達が機密情報漏洩防止の元、殺傷用の武器を大量に保管するようになりました。寮内にも武器庫が備えられ、校舎の中にも武器が保管されております。発見されれば機密保護の元、最悪貴方は射殺されるでしょう・・・くれぐれも発見されないようにお気を付けて・・・』
「分かったわ。絶対に見付からないように進むから・・・」
『見付からないことを祈っています・・・では、何かあればご連絡を・・・』
重要な説明を理解したマリは返事をした後、ノエルからの祈りの言葉を耳に入れ、無線を切った。塀から武偵校の中庭に潜入し、辺りに敵は居ないかダークビジョンで確認する。見える範囲で屋内には白く発光する何名かのシルエットが確認でき、地下には同じ色に光る鼠のシルエットが見える。
「(余りこの能力使ってないわね)」
ここ最近ダークビジョンを使っていないことを気にしながら、辺りを巡回する警備員を避けつつ校内へと入っていく。雨が降りしきる中、椅子に座って寛いでいる四人のシルエットを窓から覗き見する。
ダークビジョンを解いて確認してみると、武偵校の防弾制服を着た男子生徒四人であった。そんな彼等にモスバーグ M500散弾銃を持った警備員が帰るように注意しに来る。
「おい、学生はもう寮に帰る時間だぞ。早く帰らないか」
「あっ、もうそんな時間かよ・・・」
「とっとと帰れ。仕事の邪魔だ」
「帰ろうぜ」
四人の男子生徒は警備員の指示に従って寮へと帰った。警備員が立ち去るのを待ってから、屋内への潜入を開始した。音を立てないように入り、ダークビジョンをもう一度発動し、監視カメラと屋内にいる人間のシルエットの数を確認する。
「全部合わせて百個足らず・・・」
視界に映るカメラと人の数を確認しながら呟くと、近くにある監視カメラに映らないよう隠れて移動し、地下への行き方を知る協力者を探す。ノエルが言った帽子もヘルメットもしていない警備員を監視カメラや警備員の目を避けつつ探す中、ようやく目印にあった警備員を見付ける。
だが、五人の集団で行動しており、一人でも捕まえれば発見される危険性があった。仕方なく集団の後を気付かれないように尾行する。広い場所へ五人が到達すると、立ち止まり、互いに顔を合わせて会話を始めた。
「なぁ、お前等もあれか?」
「あぁ、侵入者の事だろ」
「余りその事は言うな。他の奴らに聞かれたら、俺達は消される」
丸刈りの警備員が注意すると、最初に口を開いた二人は謝って、まだ喋ってない他の二人に視線を向ける。
「お前もそうか?」
「あぁ。昨日、学園島を片付けてる最中、視察に来た将校が俺に」
「お前もか」
「俺もだ。一体どんな奴が・・・」
「さぁな、兎に角痛いことを我慢しなきゃいけない。巡回に戻るぞ」
話を終えた五人はそれぞれ担当の場所へと戻っていった。直ぐに手近にいる警備員を捕まえようと、足音を立てずに接近し、こちらに背を向けている警備員に近付き、は追い責めにする。
「あぁ・・・!だ、誰だ・・・!?あぁ・・・!」
警備員は顔を見ようとするが、マリは顔を見せないよう左手で首を絞める。頭に麻酔銃の銃口を近付け、尋問を開始する。
「吐け」
「あんた・・・例の・・・」
「良いから言いなさい」
「分かった・・・地下への”カード”は右ポケットへ入ってる・・・」
教えられた通りに右ポケットからカードを回収し、再び銃口を向ける。
「もう良いだろ?流石にばれる・・・早くやれ・・・!」
「うん、ありがとう」
警備員の頼みを聞き、壁に頭をぶつけて気絶させた。
「次は敵の捕虜を・・」
次に、もう一つの
そのまま屋内を移動しつつ、留置所の出入り口付近へ近付くと、出入り口のドアには監視カメラが一台に、七人の警備員が立っており、通ることが出来ない。さらには後ろからもう一人警備員が近付いてくる。直ぐに隠れる場所を探し、天上を見上げた。
「行きますか・・・」
そう呟いてから、左右にある壁を蹴って天井に張り付き、留置所付近へ向かうHK33を持つ警備員をやり過ごした。警備員は出入り口に集まっている七人と合流すると、足を止めて彼等の会話に混ざり始めた。
「よぉ、そんなに留置所の前に集まってどうした?」
「あぁ・・・それが・・・」
「誰にも言わないって約束できるか?」
ヘルメットを被った散弾銃を持ち、ボディアーマーを付けた警備員が先程やって来た警備員に問う。それを頷いてから承知し、ヘルメットの警備員の話に耳を傾けた。
「あぁ、誰にも話さないよ・・・」
「よし、実はな・・・」
誰にも聞こえないように小声で伝えた。その言葉を聞いた警備員は驚きの声を上げようとするが、他の警備員に止められる。
「おい、騒ぐな・・・!」
「聞かれたらマズイ・・・!」
「兎に角、そう言うことだ。絶対に言うなよ」
「分かった。お前等、ここに集まってたら他の警備員に怪しまれる。直ぐに元の位置に戻れ」
先程やって来た警備員が言えば、ヘルメットを被り、散弾銃を持った警備員を残して残りの六人は去っていった。二人の警備員が残され、煙草を取り出し、それを口にして煙を吸う中、マリは天上から離れて床に静かに降りる。門番のように佇む二人のボディアーマーの警備員の様子を探る。
「(あいつ等・・・)」
麻酔弾を撃とうにも、ボディアーマーをしているので当てることが出来ない。
それに外には留置所の周囲だけ何かを予想してか、
これを見付からずにかいくぐるのは、骨が折れそうだ。仕方なく目の前にいる二人の警備員をどうにかする事にする。何か使える物がないか周囲を探してみると、消化器が目に入った。
「これ使おう・・・」
消化器を手にとって、監視カメラに映らない位置で警備員の前に立つ。
「おい、誰だ?」
声を掛けて、モスバーグを持った警備員がマリに近付いてくる。その瞬間を見計らい、消化器の安全装置を外して警備員に向けて噴射した。
「うわっ!?」
「どうした!?」
噴射を食らって怯む警備員を見たもう一人は、様子を見に近付いてくる。腰のポケットから煙幕手榴弾を取り出し、安全栓を抜いてカメラの位置へ投げた。煙幕手榴弾を手榴弾と勘違いした警備員は離れようとする。
「ぐ、グレネード!」
煙が十分になったところで消化粉を浴びた警備員を壁にぶつけて気絶させ、瞬間移動で一気に離れた警備員に近付き、顔面にスタンガンを当てて気絶させた。直ぐに見付からない場所へ警備員を隠し、出入り口のドアを開けて留置所へ入った。ドアをゆっくりと閉め、ダークビジョンで人数と監視カメラの数を確認する。
「以下にも殺してくれって数?」
外の厳重さとは違って警備とカメラの数が少なかったので、疑ってみたが、これに敢えて応えることにした。屋内と同様、カメラに映らないよう移動しつつ、端末に記されている管理室まで向かう。
警備員の目もあったが、麻酔銃で眠らせ、着々と距離を詰める。管理室へ辿り着くと、中に誰か居ないか腰のポーチからケーブルカメラを取り出し、様子を伺う。
「誰も居ない」
見回して誰も居ないことを確認して、ドアの鍵をピッキングでこじ開けた後、管理室の中へ入った。
中には誰も居らず、計器も付けっぱなしだった。机の上には説明書のような書類とワイヤー針タイプのスタンガンが置かれたままにされている。それを手にとって調べてみると、裏に文字が書かれていた。
「フィンランド語・・・」
文字を即座にフィンランド語と理解したマリは、書いてある文章を読み上げる。
「”熱を探知するゴーグルを使え”?」
書かれたとおりサーマルビジョンゴーグルをポーチから取り出し、右目に付けて書類の裏を見てみると、捕虜の排除の仕方が記されていた。
「“地下に誘導し、水に浸して電気を流して殺せ”か・・・」
ゴーグルを仕舞い、スタンガンを取ってから指示されたとおりにマリは動く。全ての牢の鍵を解放してから留置所へ向かい、牢屋の中で捕らわれている頭に袋を被った傭兵や不法外国人、柄の悪い男達を解放した。
「た、助かった・・・袋を取ってくれ」
助けられた傭兵らしき男がマリに袋を取るよう頼むが、声色を変えた彼女は拒否する。
「嫌よ。それから私の指示通り動きなさい」
「分かった。必ず助けてくれよ・・・!」
すがる気持ちで伝える傭兵に、マリは声で捕虜達を死に場所である地下へ誘導した。他の捕虜達も声に誘導され、地下へと降りていく。全員地下へ降りると、マリはバルブを開けて、地下に海水を入れ始める。
「おい、なんで海水を・・・?」
一人聞いてくる捕虜が居るが、無視して十分な量まで海水が部屋にはいると、バルブを閉めた。海水に浸からない階段まで来ると、手に入れたワイヤー針スタンガンを水面に向けて発射した。人体に針を突き刺し、人体に電流を流して相手を気絶させる為の物だが、このスタンガンの威力は凄まじく、電流を受けた捕虜達の悲鳴が聞こえてくる。
「うわっ!?」
余りの衝撃にスタンガンを手放して、海水に落としてしまう。管理室に戻って排水ボタンを押し、死体の確認に向かった。そこには見事なまで黒こげになった捕虜の死体が転がっていた。
「任務完了・・・」
こなさなければならない任務を終えたマリは、留置所を出ようとする。ダークビジョンで留置所の周囲を調べてみると、見回りも調べに来る警備員も来なかった。
「行ける」
屋内からの留置所の出入り口に向かい、端末で地下への入口を確かめる。位置を特定した後、速やかに地下への入り口に向かう。壁や天上に隠れつつ、警備員や監視カメラを避け、時には便利な瞬間移動を使い、目的地への場所へと進む。
数分後には、関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を置かれた階段へと辿り着いた。しかし、地下への入り口は二人の警備員が陣取って行けない。
「あいつ等、サボりかしら?」
一人はHK53を抱えながら壁にもたれ掛かり、もう一人はHK33を杖代わりにし、立ち話をしている。彼女は物陰に隠れて彼等の話を聞いてみることにした。
「お前、ハーフか?」
「いや、純粋な日本家系だ」
「俺も純粋だ」
「そう言えば、ここの警備員の連中、俺達も含めてみんな親のどちらかが日本人だな」
「あぁ、俺も気になってた所だ。理由は・・・ここが日本だからか?」
「さぁな、よく分からんことだ。それよりも何で地下は俺達でも立ち入り禁止なんだ?」
「分からねぇよ。”余所者の俺達”には見られたくない物でも隠してるんだろ」
「そんな気がするな。では、俺達が・・・」
調べようとした二人の警備員の無線機が鳴り始めた。
「ちっ、こんな時に呼び出しか」
「俺も。ここに居たら怒られそうだ、持ち場に戻るか」
無線機を片手に、二人は地下の入り口から離れ、自分の持ち場に戻り始めた。この隙にマリは地下へと続くドアに近付き、尋問して手に入れたカードをドアの隣に着いている端末に立てにスライドした。ドアの鍵が開く音が鳴り、ドアノブを握って中へと入る。
地下へと続く階段が直ぐにマリの目に入った。
「到着っと・・・」
地下への入り口を見付けたことをノエルに報告するべく、受信を開始する。
「地下に到着」
『着きましたか。では、ご自分の能力をお探し下さい』
ノエルからの無線が切れると、マリは地下への階段を降り始めた。地下へ降りれば懐から心臓を取り出して、鼓動の強さを確認する。
「近い・・・でも・・・」
強さを確認し、ダークビジョンで周囲を見渡してみると、警備員は居なかったが、複数の監視カメラと赤外線センサーを見付ける。
「そう簡単にはいかないか・・・」
そう呟き、先を急いだ。最初にマリの目に入ったのは、横に四本の赤外線だ。
引っ掛かりやすいよう、足下にセンサーを引いているので、助走を付け、壁走りで突破する。カメラも何台かあったが、死角を見付け、そこを通って鼓動が強くなる方へ進む。進むにつれて鼓動は強くなり、やがて激しくなる。
「近い・・・」
大きなドアの前に立ち止まり、ダークビジョンを発動して再び確認すると、カメラやセンサーが一切なかった。
何かがおかしいと察するマリではあったが、チャンスを逃してしまうと思って、ドアを開けてしまう。周囲にウェルロッドを構え、辺りを警戒したが、誰も出なかったので、中央に置かれ、藤色に光る水晶玉が置かれていた。
直ぐにそれを手に取って、地面に向けて叩き付ける。水晶玉が割れた途端、中に詰まった藤色の煙がマリの身体を包み込み、身体の中へ入っていく。全て煙が入ると、身体が藤色に光り出した。
「戻った・・・!」
力が戻った事で嬉しそうな表情を浮かべ、さっそく力を試してみた。脳内で取り戻した能力を思い出し、足に闘気を溜め込む。闘気を右足に集中させると、炎が吹き出す。
「これ・・・足から炎を出す技・・・名前は・・・”
適当に取り戻した能力に名前を付けた。自分の能力も取り戻し、任務も終えたので、もう学園島には用はない。来た道を戻って、学園島から脱出することにする。
各所にあるカメラやレーザーを越えつつ、出入り口である階段を目指す。数分後には、階段へ辿り着くことに成功した。
「後は・・・」
そう呟いてから、階段を上がり、校舎内へ戻ってきた。ダークビジョンを発動し、周囲に誰も居ないか確認してから移動を開始しようとしたのだが、突如と無く警報が鳴り響く。
「(死体が見付かった!?)」
警報が響く廊下にて、マリは心の中でそう察した。天井にあるスピーカーから声が聞こえてくる。
『警報!留置所の地下にて、何者かに焼き殺された捕虜の死体が発見された。何者かが譲歩漏洩を防ぐために侵入し、殺害した模様。全隊員は侵入者をあぶり出せ』
繰り返される放送に混じって、廊下を慌ただしい足音が耳に入ってくる。どうやら捜索態勢に入ったようだ。見付かるのは時間の問題となったので、端末の地図に記されている脱出ポイントまで急ぐ。
窓から外に出て、直ぐさま近くの茂みに隠れ、自分を捜し回る警備員達の様子を探る。突撃銃や散弾銃を持つ警備員達だけではなく、頭には防弾バイザーなヘルメット、身体にはボディアーマーを身に着け、左手にライオットシールドを持ち、右手にオーストリアのロングマガジンモデルのグロック18自動拳銃を持つ重装備な警備員達も捜索に加わっている。
「あぁ、最悪・・・」
周囲に銃を持ちながら捜し回る警備員達を見て、マリは溜め息をついた。さらに雨の音に混じって、スイッチを入れっぱなしの盗んだ無線機から声が聞こえてきた。
『
『こちらHQ、要請を受理した。侵入者は見付け次第排除せよ。アウト』
このやり取りが終わったと同時に、学園島に取り付けられている拡声器から音声が流れる。
『在校中の武装探偵に告ぐ。地下の特定情報保管所に何者かに侵入された形跡があった。捜査はまだ行われてはいないが、情報を持ち出された可能性がある。情報漏洩を防ぐため、殺傷武器を武装し、探索に参加せよ。侵入者を発見した場合は拘束せよ。最悪な場合は射殺も躊躇わない。全力で情報漏洩防止に努めよ』
地下に侵入した痕跡が発見され、情報を持ち出したと勘違いされたようだ。遠くから雨の落ちる音に混じって怒号が聞こえてくる。余り長居していると、脱出がより一層困難になりそうだ。
そう思ったマリは、速やかにその場からの移動を開始した。捜し回っている警備員達から隠れつつ、移動していると、無線機から敵のやりとりが聞こえる。
『HQ、こちら鷹の目2。眠っている隊員を発見、隊員は無線機を盗られた模様。アウト』
『こちらHQ、直ちに盗られた無線機の場所を探知する。アウト』
自分が持っている無線機で、居場所を特定される可能性があったため、慌てて無線機を何処かへ投げ捨てた。直ぐに異常なことが起きたことを確認した警備本部は、近くにいる何名かの隊員を差し向けてきた。
ライト付きのHK33を持った警備員達が、マリが隠れている場所へ迫ってくる。
体勢を低くして、直ぐにそこから離れる。脱出ポイントまで移動している最中、ノエルに連絡が来た。
『学園島が想定と同じく騒がしいですが・・・大丈夫ですか?』
「大丈夫よ、これも想定の内。後は見付からないように行けるか・・・」
『そうですか・・・ポイントにはボートがありますので。見付かった場合、ボートは離れます。その時は全力で脱出ポイントに向かい、海に飛び込んで4㎞泳いでください。そこでボートが回収します』
「分かった。じゃあ、見付からずに向かうわ」
マリは走りながらノエルからの連絡に答えた後、無線を切った。無線を切った後でも走り続けていたが、運悪くライオットシールドとボディアーマーの重装備な警備員と遭遇してしまった。
「わぁ!?」
警備員は驚いて、盾を構えながら無線機に手を伸ばそうとする。それをさせぬとマリは、先程取り戻した能力フォイアー・キックを相手に食らわせた。強力な蹴りが炎を纏ってさらに強力となり、容易に防弾盾を打ち破り、ボディアーマーまで到達した。
「グハッ!?」
蹴りをボディアーマー越しに受けた警備員は3m程吹き飛び、気絶する。もし、相手が透明のポリカーボネイトで出来た防弾盾と、強靱な繊維のケブラーやアラミド繊維を幾重にも織り込んであるボディアーマーで防いでいなかったら死んでいた所だろう。
フォイアー・キックを食らって気絶している警備員を放置して、マリは脱出ポイントへ急いだ。脱出ポイントまで半分を切った所で、目の前から出て来た黄色いレインコートを羽織った十代後半の少女に銃を突き付けられてしまう。
「動くな!」
フードから見える顔付きからして、歳は16と言った所だろうか、自分に突き付けている銃は良くメディアで目にするドラムマガジンが特徴的なM1928トンプソン短機関銃では無く、箱形弾倉の軍用モデルのM1A1トンプソンだ。
大きめな短機関銃を持つ両手は少し震えており、東京武偵校の学科の一つである
「う、動くな!う、撃つぞ!!」
「あら、銃を人に撃つのは初めて?」
近付いてくるマリに、女子生徒は少し怯えながら警告するが、逆に彼女は近付いてきて、「人を撃ったことがあるか?」と問い掛けてくる。引き金にはちゃんと指は掛けてあり、ちゃんとした構え方ではあるが、M1A1トンプソンは震えている状態だった。
間近までに近付いても強襲科所属ではない女子生徒は人を傷つくことを恐れて発砲することが出来ず、彼女に銃を触れさせてしまう。
「あ、あぁ・・・」
「ほら・・・やっぱり撃てないじゃない・・・」
震える女子生徒に顔を近付け、マリはそう告げた。本当のことを言われた女子生徒は銃を降ろしてしまい、膝をつき、悔しさの余り涙する。そんな女子生徒に対し、彼女は背中に麻酔銃を向け、引き金を引いた。
麻酔弾を背中に受けた女子生徒は睡魔に襲われ、銃を落としてからその場で眠ってしまった。
「おい、どうした!?」
次に、クリップを排出する時の音が特徴的な半自動小銃M1ガーランドを持った男子生徒が、膝をついた女子生徒を見付けたのか、マリにとっては間が悪い時に調べに来た。さらには、ウェンチェスター社の自動小銃M1カービンを持ったもう一人男子生徒まで来る。二人はマリの姿を見るなり、銃を撃つ前に叫ぼうとした。
報告される前に、即座にボルトを引いて空薬莢を排出し、二人の頭部に向けて麻酔弾を放った。M1ガーランドを持つ男子生徒は頭に麻酔弾を食らって倒れ込む。次のM1カービンを持つ男子生徒は、慣れない手付きで今持っている銃を撃とうとするも、引き金を引く前に頭を撃たれて夢の世界へ行ってしまった。
叫ぼうとした二人が仰向けになって倒れる中、彼女は目的地まで急いだ。身を隠せる場所に立ち寄り、そこで息を整え、周囲の状況を探る。
「なんか武器だけ第二次世界大戦の米軍」
現代的な自動小銃や突撃銃を持つ警備員達に混じって、学生には重いUS M1918A2軽機関銃や工具に箱形弾倉を付けた感じのGM M3A1グリーズガンを持った在校中の武偵校の生徒達が探索をしていた。
先程の女子生徒や男子生徒が持っていたM1A1トンプソンにM1ガーランド、M1カービンなどを持っている生徒達が慌ただしく捜し回っているのを見て、マリは「武器だけが第二次世界大戦下の米軍」と呟く。
実際に、M1919A4軽機関銃やこの学園では物騒な物に値するM1A1バズーカまであればだが。
何故、学生達に与えられたのは第二次世界大戦中に米軍とその他連合国、戦後は払い下げ先の自衛隊に使われていた小火器を使っている理由は、恐らく自衛隊からの払い下げか、アメリカの集軍から埃を被っていた物を安く買いあさったか、新しく所有する工場で生産した物だろう。
そんな事を呟きつつ、彼女は人目を避けつつ目的地まで急ぐ。隠れて敵をやり過ごすか、邪魔な奴を麻酔弾で眠らせるのを繰り返す中、ようやく脱出ポイントの海岸沿いに辿り着くことに成功した。
「やっと着いた・・・」
一息ついて、ボートがある事を確認する。
「あれ、人が・・・」
見付けたのは良いが、黒いゴムボートには誰も乗ってはいなかった。変だと思って舵を調べたところ、何か装置みたいな物が取り付けられている。理由を問うためにノエルに無線連絡する。
「ねぇ、ボートに人が居ない上に、舵に変なの付いてるけど?」
『それは自動操縦装置です。赤いのを押してください。そうすればボートは出ます』
言われたとおり、ボートに乗り込んで、装置の赤いボタンを押した。
すると、ボートのエンジンが勝手に掛かり、舵まで勝手に動き出す。
「成る程・・・これが・・」
『はい。これで貴方は自動的に帰れます。任務と能力回収は完了したようですね。では、食事を用意して待ってます』
ノエルはそれを告げた後、連絡を切った。揺れるボートの上で、マリは小さくなっていく学園島を、ここまで聞こえてくる警報を聞きながら、ただ眺めているだけだった。
カズ「えっ、俺の出る幕じゃない?何を言うんだマリ、これは俺と・・・おぉ!?あ、あべし!!」
えぇ、メタルギアソリッド グラウンドゼロズのあのキューバにあるアメリカの
ちなみに"ブラック・サイト"と言うと、アメリカ国外でテロ犯を拷問するための秘密軍事施設であり、施設の所在国は"秘密"となっております。
そして、グラウンドゼロズの舞台にされているあの米軍基地、実は存在しているのです・・・
その名はグァンタナモ米軍基地・・・国内法でも国際法でもない軍法のみが適用される治外法権区域であり、基地周辺が地雷原で固められている事からマスメディアにも実体が見えない海外基地とされています。
調べた時は驚きました・・・なんたってアメリカの犬猿の仲である真逆の社会主義国家なキューバに米軍基地があるのだから・・・
マジでそこを舞台にするとは・・・小島監督、半端無いっすよ!
それと、学園島の警備を担っている武装した警備員達の設定は、民間軍事警備会社に扮したワルキューレの警備兵部隊です。
人員は緋アリの世界の出身者で親のどちらかが日本人で編成されています。
会社の名前は、SAKIMORI。防人をローマ字にしただけです。はい(PAM!