復讐者の世界周り Weltdrehung des Rächers   作:ダス・ライヒ

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前回のあらすじ 「ジェイソン、君に予告は荷が重すぎるよ」


裏方

「遅い!理子とヴァセレートの変態女はいつになったら来るのよ!」

 

 集合予定地とされる駅前で、ピンクのツインテールの小学生のような体型で愛らしい美少女である神崎・H・アリアがいつまで経っても来ない理子とマリに対して立腹だった。隣にいるマリより背丈が3㎝低い遠山キンジが、アリアを宥める。

 

「落ち着けよ、アリア。短気は損気と言うしな・・・」

 

 そう宥めていると、理子が二人に声を掛けてきた。

 

「キーくん、アリア~!ちょりーす!ゴメンゴメン、メイクで遅くなっちゃった!」

 

「理子?遅いじゃない。それに隣にいる人は誰なの?」

 

 気付いて理子の方へ振り返ると、隣に長い茶髪の童顔で長身な女性が居た。アリアの声に気付いたキンジは、理子の隣にいる女性に視線を向けた。

 

「カナ・・・!?」

 

 隣にいる女性を見たキンジはかなり動揺し、理子に何故この女性にしたのかを問う。

 

「理子・・・なんでよりにもよって!?」

 

「理子、ブラドに顔割れてるからさー。防犯カメラに映ってブラド帰ってきたら不味いでしょ?それに変装してるのお姉ちゃんだし」

 

 理子は隣に立つ女性はマリが変装した物とキンジに説明するが、彼は納得しない。

 

「だったら他の顔にしろ!なんで・・・なんでカナなんだ!?」

 

「カナちゃんは理子の良く知ってる一番、いや、お姉ちゃんが・・・どっちも一番かな?それに、キーくんにとってカナちゃんは大切な人だもんね。もしかして、怒っちゃった?」

 

 この答えに、キンジは折れたのか、駅の方へ向かおうとした。

 

「一々ガキのお遊びに腹を立てるほど俺もガキじゃない。行くぞ」

 

「ちょっと待ちなさいよ!カナって誰なの!?」

 

 不機嫌になったキンジにお構いなしアリアはカナと呼ばれた女性に対し問い詰めるも、キンジは無視して取り合わない。一行はそのまま階段を上がり、横浜郊外へ向かう電車に乗った。

 時間帯なのか、車内にいる乗客の数は少ない。キンジは出入り口に近い席に座り、カナと呼ばれる女性に変装したマリを避けようとしたが、理子が態とキンジと向かい側になる席に彼女を敢えて座らせる。さらに、答えを聞いて納得していないアリアはキンジの隣に座り、問い掛けてくる。

 

「ねぇ、カナって誰よ?」

 

 アリアからの質問に、キンジは黙り込み、変装したマリに目線を合わせないようにする。

 

「元カノなの?」

 

「違う!俺は一度も女と付き合ったこと・・・兎に角、余り聞かないでくれ」

 

 このキンジからの返答に、アリアは聞き出すことを諦めた。数十分かすると、一行が乗る電車は目的地である横浜郊外へ着いた。駅を出て暫く歩くと、目的地の紅鳴館が見えた。

 

「これが紅鳴館・・・」

 

「の。呪いの館って感じね・・・」

 

 鉄格子の外壁に囲まれた洋館を見て、キンジとアリアは思ったことを声に出す。中庭の大きさを見る限り、かなり大規模な洋館と見える。

 

「あそこに誰か居る」

 

「え、何処よ?」

 

 郊外に着いてから、一言も発していなかったマリが、屋敷の中庭を指差して口を開き、アリアが反応して中庭を見る。

 キンジと理子もそれに釣られて見てみると、眼鏡を掛けた丸刈りの身長163㎝程の貧相な顔をした男が、外壁を上がって屋敷の外へ出た。

 

「泥棒か・・・?」

 

 男の一連の行動を見ていたキンジはそう呟いた。だが、男は目の前から突然やって来た自動車に跳ねられそうになる。

 

「アッブネー」

 

 理子が危うく轢かれそうになった男を見て呟くと、車から男の上司と思われる人相の悪い肥満体型な人物が出て来て、男に対して殴ってから怒鳴り付けた後、男を自分の車に乗せ、何処かへと去っていった。

 

「なんだったろうな・・・あれ・・・」

 

「さぁ・・・?」

 

 一部始終を見ていた一行は、その茶番のような出来事に呆然とした。気を取り直して、顔が相手に割れている理子とはここで別れ、潜入調査を行うキンジとアリア、変装したマリだけが紅鳴館へと向かう。

 門に近付き、開けて中に入ると、大量のコウモリが屋敷の方からこちらへ向けて飛び出してきた。

 

「キャッ!」

 

 飛んできたコウモリに驚いたアリアは悲鳴を上げる。コウモリが過ぎ去ると、屋敷の方へ向かう。出入り口の扉の前に立つと、マリは扉のドアノッカーを叩く。

 暫くすれば、屋敷の主らしき人物がドアを開けた。

 

「誰ですか・・・?」

 

 キンジとアリアは出て来た人物を見て、驚きを隠せなかった。マリは気にすることなく、理子が書いた台本通りにハウスキーパーの紹介人を演ずる。

 

「本日よりこちらで家事のお手伝いをさせて頂く人のご紹介に参りました」

 

「どうも、ありがとうございます。ハウスキーパーがまさか貴方達とは・・・」

 

 どうやらキンジとアリアの顔見知りらしい。早速その人物が屋敷の中へ入れてくれたので、一行は遠慮無く屋敷へ上がった。

 

「それにしても、小夜鳴(さよなき)先生はこんなご立派なお屋敷に住んでいたのですね。吃驚しました」

 

 応接室へ入り、アリアが向かい側のソファーに座る小夜鳴と呼ばれる若い教師に対し、丁寧な口調で告げる。

 

「いやぁ・・・住んでるって言うと少し語弊があるのです。私はここの研究施設を借りることが多少ありまして、いつの間にか管理人のような立場になってしまったのです」

 

 少し言葉を句切って、小夜鳴は笑みを浮かべて続ける。

 

「しかし、私は直ぐに研究に没頭する癖があるので、お手伝いさん(ハウスキーパー)が武偵なのが良いことかもしれませんね」

 

 その例えに変装しているマリは緩やかに笑みを浮かべ、会話に入り込む。

 

「私も驚いております。まさか偶然、同じ学校の先生と生徒でいらっしゃったなんて。ご主人が戻られればちょっとした話しになりますね」

 

「いやぁ、彼はとても遠くに居りまして。しばらく帰ってこないみたいです」

 

「ご主人様はお忙しいのですか?」

 

「それが・・・実はお恥ずかしながら詳しいことは知らないのです。私と彼は、とても親密なのですが、直接話した言葉はない物で」

 

「そうなのですか・・・」

 

 マリと小夜鳴は軽く話した後、マリは屋敷から去ろうとする。その前に、マリは小夜鳴に聞こえないほどの声量でアリアに告げる。

 

「あいつ、私を口説こうとしてた」

 

 そう告げた後、マリは別れの挨拶をしてから屋敷を出た。玄関を出て門を出ると、ポケットからスマートフォンを取り出し、理子に連絡する。

 

「OKよ、理子ちゃん。これから監視ポイントに向かうわ」

 

『良いよ。お姉ちゃんの演技凄かったわ・・・じゃあ、監視ポイントに着いたらメイク取って良いよ~』

 

「ありがとう。それじゃあ」

 

 連絡を切って、屋敷を見渡せるには絶好の位置にある無人のビルへと向かった。ビルの近くまで辿り着くと、柄の悪い男達がビルの前で(たむろ)していた。

 

「おぉう。お嬢ちゃん・・・綺麗だね・・・俺達と遊ばない?」

 

 リーダー格の男が品の悪い笑みを浮かべながらマリを誘おうとするが、今の彼女には彼等に付き合っている暇はないため、股間に強烈な蹴りを食らわす。

 

「おっ、玉ァ!!」

 

「このアマぁ!やる気か!?」

 

 変な叫び声を上げ、男は激痛の余り失神した。頭がやられたのを見て、仲間の男達はマリを取り囲もうとする。全員を一々相手にするのが面倒臭くなったのか、彼女は瞬間移動を使って叩きのめす。

 

「この化け物ぉ!これでも食らいやがれぇ!!」

 

 とっておきの秘密兵器という訳か、柄の悪い男はロシアの回転式拳銃ナガンM1895を取り出し、マリを撃とうとしたが、彼女は瞬間移動を使わずとも早かったので、顎に一撃食らわし、ノックダウンさせる。

 

「ヒィィィ!ば、化け物だッ!!逃げろぉぉぉぉ!!」

 

 まだ息のある男が叫ぶと、気絶している他の仲間達を抱えてビルから蜘蛛の子を散らすかのように逃げ去る。他に倒れている男達は、マリが直接運んで別の場所に捨てた。

 ビルへ入り、監視ポイントとされる階まで向かい、ドアを開けて入り、予め置かれていた桶の前に立ち、メイクを落とす。素の顔に戻ると、同じく用意されている衣服に着替え、長い髪を束ね、双眼鏡を持ち、屋敷の監視に入る。机の上に携帯式小型無線機が置かれているので、それを手に取り、理子に着いたことを報告する。

 

「CQ、CQ。こちらガーゴイル。監視位置に着いた。どうぞ」

 

『CQって・・・まぁ、良いわ。お姉ちゃん、屋敷はどんな感じ?』

 

「入った時と同じく異常なし。ここから詳しく調べてみる」

 

『そうしてくれると助かる。じゃあ、後は頼める?』

 

「もちろん」

 

『ありがとう。じゃあ、切るね』

 

 理子からの無線が切れると、マリは無線機を机の上に置き、珈琲を飲みながら監視を続けた。監視を続けてから数時間後、日は夕暮れとなり、辺りは暗くなりつつあった。

 

「問題無さそうね・・・」

 

 双眼鏡でメイドや執事に扮し、せっせっと家事を行うアリアやキンジを見る限り、「問題ない」と判断したマリは窓から離れ、監視ポイントにされている部屋を調べ始める。

 置かれているロッカーを開けてみると、全長113.8㎝の狙撃銃と専用の弾倉が入っていた。狙撃銃はフランスのボルトアクション式のMAS36小銃のベースに開発されたFR F1狙撃銃だ。弾薬が入った箱も幾つかロッカーに収められている。

 マリは狙撃銃を手にとって構えてみると、中々の手の収まりようだったので、屋敷が見渡せる窓の側へ置いておく。夕日が落ちて夜になると、マリは身体の汗を流すべく、用意されていた桶とバスタオル、ボディタオル、シャンプーと着替えを持って、近くの銭湯へと向かった。銭湯へ入った時、周りの客はマリに目線を集中させた。

 

「おぉ・・・凄い美人だ・・・」

 

 彼女が格好の目線の対象になるのは仕方のないことだが、マリは気にせず女湯に入る。卿の疲れと汚れを落とせば、再び監視ポイントへ戻り、監視を続行する。暫し監視を続けていると、月の光を遮るように雨雲が立ち籠め、地上に雷を落とす。

 雷に慣れているマリにとっては、ただの騒音にしか過ぎないが、屋敷に潜入調査活動中の小さな武偵に取っては恐い物である。暫くすれば、雨雲は去り、元の月の明かりが戻ってきた。それからは時間が時間なのか、屋敷の明かりが消えた。

 マリは監視部屋の出入り口がちゃんと閉じているか確認し、眠くなるまで監視を続ける。

 数時間後、睡魔に襲われたので、合図を確認してから、用意された寝袋へ入り、就寝した。そして朝に起きれば、外へ出て軽く運動し、朝食を食べてから監視を続ける。

 こうして、キンジやアリアとは違ってのマリに取っては退屈な監視の日々が過ぎ去っていく。少し変わっていることと言えば、小夜鳴の食事がえらく偏っているという事だ。

 

「あいつ。毎日軽く炙った串焼き肉しか食べないわね・・・」

 

 毎日、朝昼晩も串焼き肉しか口にしていない。他に口に含むとしたら、晩食の際のワインだけである。屋敷の明かりが消え、キンジとアリアがベッドへ入る時間帯となると、マリは片耳にイアフォンを入れ、理子の声に耳を傾けた。

 

『それでは、潜入捜査(スリップ)の報告会と行きましょう!』

 

『理子・・・お前・・・テンション高いな・・・』

 

 キンジはこの時間帯にも関わらず、テンションが高い理子に呆れた言葉を口にする。だが、理子はお構いなしに続ける。

 

『キーくん、そこは気にしない、気にしな~い。じゃあ、アリアんからどうぞ』

 

『アンタ、良くこの夜中に元気でいられるわね・・・始めるわ。理子、キンジ、ヴァセレート。不味いわ。掃除の時に調べたんだけど、地下金庫のセキュリティーが以前より強化されてるの。物理的な鍵に咥えて、磁気キー、指紋キー、声紋キー。網膜キー、室内には赤外線の他、感圧床もあるわ』

 

「まるで計画に気付かれているみたいね・・・」

 

 アリアからの地下金庫のセキュリティー強化の報告を聞いたマリは、自分の考えた予想を口にした。

 

『う~ん、お姉ちゃんの言うとおりバレてたら不味いな~それじゃあ、プランC21で行くかぁ』

 

『プランC21?なんだそれは?』

 

 報告を受けた理子が言った「プランC21」にキンジは問う。

 

『キーくん、アリア、お姉ちゃん。何も心配いらないよ?どんなに厳重に隠そうと、理子の物は理子の物!絶対お持ち帰りィー!!』

 

『本当にテンション高いな、お前。夜型か?』

 

 またもキンジから呆れた言葉と共に問われるが、理子は流した。

 

『まぁ、そんな事は置いといて。超古典的な方向だけど、誘き出し(ルアー・アウト)で行こう。先生と仲良くなれた方が先生を地下から連れ出して、その隙にもう片方が十字架(ロザリオ)をゲットするの。それで、今先生に一番気に入られてるのは誰かなー?』

 

 キンジは分かっていたのか、アリアを指名した。

 

『アリアじゃねーの?お前、バラの名前にアリアってつけられて喜んでたろう?』

 

『なっ!?喜んでなんかいないわよ!』

 

 これから痴話喧嘩になると察したマリは、理子に告げた。

 

「これは、これは。痴話げんかの予感がするねー理子ちゃん」

 

『『違う!』わよ!』

 

 大きな声で否定した為か、マリはイアフォンを耳から離す。

 

「ちょっと、大きな声で言わないでよ・・・」

 

 これに少し機嫌を損ねたのか、何か二人が驚くような物を探した。丁度、探している時に、マリの耳に女の喘ぎ声が聞こえてきた。

 どうやら、男女のカップルがこのビルに忍び寄り、誰にも見られないからと言って、性行為(セックス)をしているらしい。良く耳を澄ませば、先程のカップルと同じ考えを持つカップルも行為に及んでいる。

 

「これは使える・・・」

 

 ニヤリとこれから悪戯をする子供のような笑みを浮かべたマリは、平然を装って会議に戻る。

 

『取り敢えず、先生を誘い出すのはアリアで、十字架を取り戻すのはキーくんで。理子とお姉ちゃんはアリアのサポートに入るね~』

 

『了解した』

 

『けど、時間が問題よ。小夜鳴が休憩時間から見て、誘い出すのは十分が精々だわ』

 

 時間の短さに、理子は少し悩む。

 

『十分かぁーまぁ、その時間を引き延ばす方法は理子が考えておくよ。じゃ、明日の夜中の二時にね!』

 

 理子が切った後に、キンジとアリアも切ろうとするが、マリがこれから行うことをする為に、それを止めた。

 

「あっ、待って!聞かせたい物があるの・・・」

 

 演技で必死に止めれば、小悪魔のような笑みを浮かべ、マリは一番近い場所で行為をしているカップルの場所へイアフォンを近付けた。

 

『ば、馬鹿!なんて物聞かせてるの!?』

 

『お前、正気か!?』

 

 恥ずかしくなったのか、二人から正気を問う質問が飛び交ったが、マリは笑ってから答えた。

 

「ハッハッハッ、二人とも高校生にしちゃあ初心ね。それと私は正気よ、これは本の冗談。良いオカズになったでしょ?」

 

『なってない!』

 

 その声と共に二人は連絡を切った。一人では無く複数のカップルだけとなったマリは、行為に夢中な男女の喘ぎ声が聞こえる中、寝床へ着いた。

 

 

 

 それから二日後、空が雨雲に覆われ、雨が降りそうな天気になる中、大泥棒大作戦が開始された。作戦は古典的な誘い出し、アリアが対象者である小夜鳴を庭園で引き付け、キンジが地下金庫の本物の十字架を盗り、偽物とすり替えるという作戦だ。

 キンジの装備は、潜入スキルの高いマリが深夜に屋敷へ忍び込んで用意した。理子とマリは、潜入調査を行う二人のサポートへ回る。

 もしもキンジが出来なかった場合、時間帯を深夜にして、マリが地下金庫へ侵入し、十字架を盗る。だが、何か策があるのか、理子が指名でキンジにこの作戦の要を任せたのだ。

 監視ポイントにされている無人のビルの丁度屋敷が見渡せる一室には、マリだけではなく理子も居る。遊戯室からコツコツ掘った穴を通じ、地下金庫へと出たキンジからの無線報告が来た。

 

『こちらキンジ、モグラはコウモリになった』

 

「OK、キーくん。”レール作戦”始めるよ」

 

「こちらガーゴイル、アリアを視認」

 

 マリは庭園にアリアと小夜鳴と一緒にいることを確認し、キンジに報告する。庭園では、アリアが小夜鳴と一緒に薔薇を観賞し、双眼鏡に付いてあるレーザーマイクから拾われた内容からして、薔薇に関する話のようだった。暫くすると、空から雨が降ってくる。

 

「降ってきた」

 

 雨が降ってきたことをマリが言えば、理子は直ぐにアリアに傘を持ってくるよう指示を出す。

 

「アリア、傘!出来るだけ時間稼いで!」

 

『分かってるわよ』

 

 双眼鏡で確認してみると、アリアが小夜鳴を残して傘を取りに行く姿が見える。物の数秒でアリアは傘を小夜鳴へと届けた。二人とも傘を差し、小夜鳴は屋敷へ戻ろうとするが、アリアはそれを止める。

 

『では、中へ戻りましょう』

 

『待って。このまま続けてくれますか?私・・・雨が好きですから・・・』

 

 このアリアが放った出任せに小夜鳴は少し笑った後、屋敷へ戻るのを止める。

 

『ハハハ、神崎さん。貴方は変わっていますね。雨と言えば水、水は素敵だと思いませんか?』

 

『水が素敵・・・?』

 

『はい、人体の60%以上は水ですし、動物植物問わず、水がその差ほどの要素となっていますからね』

 

 小夜鳴は一度口を閉じると、庭園の薔薇に触れ、口を開ける。

 

『例えばこの薔薇。貴方の名前から取って”アリア”と名付けましたね?この薔薇は他の種から優秀な遺伝子だけを取り、劣悪な物を排除して、品種改良された薔薇なのです』

 

 薔薇を手にしながらさらに小夜鳴は、活き活きとした表情を浮かべ、アリアに遺伝子の講義を始める。時間稼ぎには適切的な”講義”ではあったが、マリにとってはやや癪に障るような内容であった為、双眼鏡から手を離し、近くに立て掛けてあるFR F1狙撃銃に視線を向け、手を伸ばそうとするも、理子に止められる。

 

「駄目・・・武偵として、目の前で人を殺すことは、お姉ちゃんでも許さない。あいつが言うことは気にしちゃ駄目だよ」

 

「分かったわ・・・」

 

 理子からの説得に応じたマリは狙撃銃を戻し、双眼鏡に視線を戻して監視を続行する。席に戻った理子を見たマリは、無線機のマイクの前に何かの機械を持っている事に気付いた。彼女は無線を操作して、キンジだけに語り掛ける。

 どうやら口前に持ってきたのは変声機であるらしく、理子の声色がアリアの声色へと変わった。声色をアリアへ変えた理子が語り掛けた内容は、絶対にアリアが言いそうもない事だ。言い終えると、先の言葉に反応して変わったキンジから見事な推理が返って来た。

 それからキンジから十字架を偽物へすり替えたという報告が入る。

 

「アリア、ご苦労様。キーくんが十字架をすり替え終わった。もう大丈夫だよ」

 

『ふぅ・・・終わったのね。小夜鳴を屋敷へ戻すわ』

 

 報告を聞いたアリアのホッとした言葉が混じった報告と共に伝え、庭園を覗くと、アリアが小夜鳴と共に屋敷へ戻るのが見えた。それから理子が殆どの装備を回収してから先に帰り、マリはキンジとアリアが時間一杯になるまで働き続けてから紅鳴館を出るまで待った。

 

「よし、任務達成(ミッションコンプリート)

 

 紅鳴館から出て来たキンジとアリアを見て、作戦は成功したと判断すると、マリは一人で呟いて、監視ポイントであるこの部屋から証拠を一つ残さず消し、脇のホルスターを隠すように、夏用の上着を羽織ってから部屋を出た。

 ビルを出て、この世界のワルキューレの拠点である場所がある方向へと帰ろうとすると、ポケットに入れていたスマートフォンが震動し始める。スマホを取り出し、連絡相手を確認してみると、不登録者のようだ。

 

「はい?」

 

 徐に出て、相手を確認しようと出てみると、連絡してきた相手の声は、ここ最近会っていないガイドルフ・マッカサーだった。

 

『理由は話している時間はない。直ぐに耳をかっぽじって良く聞くんだ。今、組織の十人格の候補者があんたを狙ってそっちへ来ている!今のアンタじゃ候補者に勝てるわけがない、全力で拠点に逃げ込むんだ!』

 

「はっ?私を狙って十人格の候補者が?それに勝てるわけが無いって?あんな、ここ最近声を聞かないと思ったらわざわざそれを伝えに連絡したわけ?変な連中に私が負けるわけ無いでしょ。返り討ちにしてやるわ」

 

 ガイドルフは冷静になってマリに伝えるが、逆にそれが彼女を煽ってしまう。

 

『止せ。絶対に勝てない。奴は能力者だ、瞬間移動と足に炎を纏って蹴るような物を取り戻した程度のアンタじゃ絶対に敵いって無い』

 

「煩い!今の私は・・・」

 

 マリが返す言葉を放とうとした瞬間、下腹部に穴が開いたような激痛を感じた。感じた下腹部を見てみると、左側に槍が自分の腹を貫いていた。

 

「何よ・・・これ・・・!?」

 

 気付かずに自分の腹を貫いている槍に触れようとした途端、後ろから引き抜かれ、激しい激痛を感じながら、槍で自分の腹を貫いた正体を見た。

 そこには屋敷にいた小夜鳴と、見覚えのない背丈が198㎝の屈強な体格を持つ金髪のオールバックな髪型な男が立っていた。

 

『どうした!?返答しろ!おい!!』

 

 手から落ちたスマホから、切られていないのか、ガイドルフの声がまだ聞こえてきたが、槍の持ち主である屈強の男がそのスマホを踏み潰す。腹部から血を流しつつ、マリは薄れ行く意識の中、スマホを踏み潰した男に問う。

 

「あんた・・・何者・・・?」

 

「お前のようなカスに名乗る名だの無い」

 

 男からこの返答に殺意が出たが、今はどうすることも出来ず、マリの意識は遠のいた。




マリ、死亡確認!

まだ死んでないです、はい。

今回の中断メッセージは、時間の問題とネタの問題で無し。
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