復讐者の世界周り Weltdrehung des Rächers 作:ダス・ライヒ
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マリが闘技場にてバトルロワイヤルを行っている頃、レジプロ航空戦大会Aグループ第一回戦は、エメラルドグリーンの長髪の女性パイロットの勝利で終了していた。試合時間は僅か三十秒。余りの早い勝利に、参加したザシャ達は呆然とする。
「あ、あいつは・・・!」
ザシャ達は女パイロットの情報を得るべく、他の参加者達の声に耳を傾ける。
「あぁ、主要都市の航空大会にまで現れる”大会荒らしのニコラ”だ!」
「あいつ、噂じゃそこらのパイロットじゃ相手にならないからって、軍の航空隊にも手を出したらしいぜ。それに連邦軍の駐屯部隊に喧嘩吹っ掛けて、全機撃ち落としたらしい。とんでもない賞金首だぜ」
他の参加者達が口々に言っていると、柿崎がザシャに近付き、着陸したBF109Kから降りてくるその大会荒らしのニコラを見て、聞こえないよう告げ口する。
「幾ら選手が弱いからって、軍隊の基地まで襲うなんて。物凄くヤバイ女であることは確かですね・・・」
「う、うん・・・主脚の脆いメーサーシュミットで着陸をするなんて、凄い人だと思うよ?」
「そんなもんですかね・・・」
近付いてきた柿崎に、ザシャはそう答えた。
地に足を付けた大会荒らしのニコラの外見は腰まで届くエメラルドグリーンの長髪に雪のように白い肌、グレーの瞳を持ち、身長180㎝とかなりの長身である。手足も長く、体型は飛行服を着ていて分からないが、想像する限りでは、戦う女とは思えないほどのかなりの美貌を持つとされる。
試合を見に来た選手達に指差し、挑戦する者が居るかどうかを問う。
「今度こそ私に敵う者は居ないのか?!」
自分と対等の相手を求めるニコラに他の選手達は後退り、恐れ戦いた。そんな女エースにレイは堂々と名乗り出て、その挑戦を受ける。
「この私があんたを墜としてやるわ!」
前に出て来た少女を見て、ニコラは軽んじた目をしながら告げた。
「ほぅ、小娘が私の相手か。面白い、私が教義してやる」
「教義ですって!?子供扱いして!もう許さないんだから!!」
子供扱いされて怒りを露わにしたレイは、ニコラに掴み掛かろうとしたが、晃に止められた。係員が次の試合を始めると告げ、一同は控え室まで下がる。第二回戦の始まりと聞けば、あの美女のような顔付きの少年が用意された自分の機体の元へ走った。
そんな少年に、観客席から一際目立つ大人びた金髪の少女が声援を送る。
『アルト!絶対に優勝するのよ!!』
その声援に、少年は嫌な顔をしながら自分の機体である旧日本海軍の局地戦闘機「紫電」改に乗り込んだ。
並行して行われていたB~Dの一回戦が終了し、勝利したパイロット達が戻ってきた。その戻ってきた選手達の中にあの金髪の顔が綺麗に整った青年が居た。彼以外の出場選手が、三十秒で終わったAグループ第一回戦の事を他の出場選手達に聞く。
「おい、Aグループの第一試合の第一回戦が三十秒で終わったそうじゃねぇか。一体どういう事なんだ?」
「あそこに居る緑色の髪の女だ」
「あの女か・・・この大会もニコラの独壇場になっちまうな」
「ケッ、誰かあの女をどうにかしてくれねぇもんかなぁ」
軽蔑の目でニコラを見ながら勝ち抜いた選手達は、態と聞こえるように嫌味を漏らす。
暫くして各グループの第二回戦が終了し、二回戦を勝ち抜いた選手達が控え室へ入ってくる。その中には、先のアルトと呼ばれた少年の姿もあった。
数分後、第三回戦の知らせが入る。第三回戦には、Aグループの晃とBグループのレイが出場する。ザシャは二人に応援の声を届けた。
「二人とも頑張ってね」
「うん。あの女の人と戦うことになると、勝つ気がしないけど、出来るだけやってみるよ」
「その時は任せておきなさい。私があの女を墜としてやるわ!」
余りやる気のしない晃に、レイは自信満々でニコラを墜とす気でいた。ザシャはそんな二人を送り出し、第三回戦の終了まで待つ。ちなみに、晃が乗る機体は中島四式戦闘機「疾風」で、レイが乗る機体はスーパーマリンスピットファイアMk17だ。
数十分後、試合終了のブザーが鳴り響き、トーナメント表に視線を向ける。晃とレイは第一試合を勝ち抜いたようだ。それを確認して安心すると、ザシャは次に始まる自分の出番である第四回戦に参加するため、Fw190D型の元へと向かう。
向かっている最中、レイが応援の言葉を送ってくる。
「絶対に勝ってね!お姉ちゃん!」
少女の言葉にザシャは無言で頷き、親指を上げて「OK」のジェスチャーで答えた。フォッケウルフFw190D型のコクピットに乗り込み、キャノピーを閉めると、エンジンを掛ける。
通常、当時のレシプロ戦闘機のエンジンを掛ける際、変速機にクラッチを差し込み、回して始動させる物だが、新しいエンジンに代行してレストアした所為か、それが必要なくなっている。早い話、中身が別物と言うことだ。
滑走路で十分な速度まで走ると、操縦桿を上へと向け、機体を飛び立たせる。十分な高度まで達すれば、主脚を仕舞い、戦闘空域へと向かった。
ザシャの相手は、予選シミュレーションを零式艦上戦闘機で勝利した融通が利きそうもない男だ。詳しく乗っている型は、五二甲型という20㎜二号機銃四型を搭載したタイプである。それに乗り込む男は無線で宣戦布告を行ってくる。
『ヒヨコみたいな奴目、俺の零戦で撃墜してくれるわ!』
旋回しながら宣戦布告を行う男に、ザシャは若干の呆れを感じつつ、戦闘開始の合図を待った。数秒後に合図である赤の信号弾が放たれ、自分の見える高さまで上がる。
開始と同時に男が乗る零戦が向かってきた。無線を掛けっぱなしにしているのか、男の独り言が無線機から聞こえてくる。
『一撃離脱戦法だッ!直ぐに終わらせてやる!!』
これから行う戦法が丸気声であったので、直ぐに対策が出来た。
機銃を撃ちながら接近してくる零戦に対し、ザシャは射線から避け、零戦の後ろを取り、斜め上から機銃を浴びせる。瞬く間に零式艦上戦闘機の後部に赤いペイント弾が命中、試合終了の合図である緑の信号弾が上がった。
『チクショォォォ!!』
自分が先にやられてしまったので、男は悔しさの余り叫んだ。その声はザシャの無線機にも届いており、余りの煩さに顔を歪めてしまう。
主脚を出して着陸態勢を取り、滑走路へ着陸する。機体が完全に止まったのを確認すると、キャノピーを開けて機体から飛び降り、後のことを整備員達に任せ、控え室へと向かった。
控え室に着けば、スポーツドリンクを買い、椅子にどっぷり腰を下ろしてそれを飲む。ある程度口を離さずに飲めば口から離し、手にぶら下げながら飛行帽を剥ぎ取り、長い金髪を解放させた。
「疲れた・・・」
天井を見ながら一言呟く。暫くすると、ザシャの顔見知り達が控え室に入ってきた。
「お疲れ様です、中尉殿。いや~、20㎜が付いた零戦をあっと言う間に撃墜するなんて、凄いですよ!もう勝てる気がしませんよ。フハハハ!」
入って来るなり、柿崎は口を開き、高笑いする。次に晃が棄権しようかと考える。
「もう勝てる気がしないな。棄権しようかな?」
「そんなことはないよ。勝負は時の運だから・・・多分、勝てると思うよ?」
無表情で弱気な発言をする晃に、ザシャがそう告げると、自信が湧いたレイが発言する。
「それじゃあ、私も勝てるって事でしょ?決勝戦で待ってるわ。それまで負けないでよね!」
「あっ、うん。負けないよ」
自分との対決を楽しみにするレイに対し、ザシャは無理に笑顔を作って約束した。
次の試合に備え、トーナメント表に目を向けると、次なる対戦相手が柿崎であることが分かった。
「えぇ!中尉殿と!?こいつは参った、中尉殿と当たるなんて」
「運がなかったね。まぁ、私のために頑張ってやられてなさいな」
「酷いなぁ。そんなんじゃ、彼氏の一人も出来ないっての」
「煩い!」
ザシャと当たって確実に負けると思った柿崎に、レイは茶化した言葉を掛けた。それから口論となるが、これに関しては特に注目することなど一切無い。
各グループの第二試合第一回戦が開始されるので、出番の選手は即座に滑走路へと走る。
十六人に減った選手達が八人に減ろうとしている。それぞれの搭乗機がエンジンを呻らし、空へと飛び立っていく中、試合開始の合図である赤の信号弾が放たれれば、第二試合の第一回戦が開始された。
出場選手用観覧席にむかい、ザシャはそれぞれのグループで行われている一対一の空戦を行く末を見た。
試合は十数分以上も続く物もあれば、僅か秒単位で終わる物もある。
全八戦が終了すれば、試合を終えた機体は滑走路へと戻り、勝利者だけが控え室へと戻る。
次なる試合に備えるべく、ザシャは滑走路へと向かう。自分のFw190D型のコクピットへ乗り込み、エンジンを作動させると、滑走路から飛び立ち、試合空域へと機体を飛ばした。
相手は同じ組織と大隊に属する一応ながらの戦友の柿崎だ。搭乗機体は大日本帝国陸軍の一式戦闘機「隼」一型乙。
「柿崎君のは名前からして日本軍機か・・・」
ザシャは柿崎が乗る戦闘機が、先程の対戦相手の乗っていた零戦と同じ日本軍機であることに呟く。隼は大戦初期に大きく戦果を上げた戦闘機であり、それに搭乗するパイロットはあのような性格でありながらも、優秀な若いパイロット達が撃墜数を競い合う競合部隊に所属していることから、かなりの実力を持っている。
油断せぬようにと自分に言い聞かせ、試合開始の合図である赤の信号弾が上がるのを確認すると、柿崎が乗る隼に向かった。
「格闘戦なら得意だ!相手が中尉殿でも負けるかよ!やったるで!」
ザシャのフォッケウルフを見るなり、柿崎は得意の格闘戦に持ち込もうと、後ろを取ろうとした。機銃を浴びせて前に逃げるように誘導しようとするが、彼女はその手には乗らなかった。
横に機体を向けて照準から避け、相手に照準を絞らせないようにジグザグに動く。
「この、このっ!」
照準に敵機が合わさった瞬間に引き金を引くが、一発も当たることはない。
ジグザグに動き、相手の弾丸を避けつつ、操縦桿を引いて上空へと上がる。急降下攻撃で仕留めようというのだ。
「上か!?」
直ぐに操縦桿を引いて上へと行こうとしたが、時既に遅く。照準に柿崎の隼が捉えられれば、引き金が引かれ、ペイント弾が銃口から発射された。
機体に赤いペイント弾が当てられ、撃墜扱いとなり、試合終了の合図である緑の信号弾が上がった。
柿崎に勝利したザシャは一息つき、機体と共に地上へと戻った。
「やっぱり勝てる訳がないか・・・まぁ、あの人は天才だからな」
先行して滑走路へ着陸するザシャ機を見て柿崎は二言呟き、その後へ続いた。
滑走路に着陸すれば、柿崎の元に係員が来て、彼を敗退者用の部屋へと案内する。勝利したザシャは、控え室へと足を進める。
次なる対戦相手を確認すべく、トーナメント表を確認する。
「あの”女の人”が乗る紫電改か・・・」
彼女はアルトのことを女性と間違えている。容姿がとても女性のようであることで仕方がないのだが。
アルトが乗る紫電改は13㎜機銃を四丁追加搭載した三一型だ。局地戦闘機「紫電」の欠点を改良した高性能機である。
ザシャが乗るFw190D型とは訳が違う。それに乗るアルトと言う少年は慣れている相手に二回戦も勝ち抜いていることからかなりの実力の持ち主だ。相手が高性能機に乗っているとすれば、勝率は五分五分と言うところだろう。
少しの休憩の後、彼女は滑走路へと向かい、自分の機体に乗り込む。キャノピーを閉めると、丁度隣にアルトが乗る紫電改があった。
視線を紫電改のコクピットに向けると、ゴーグルを付けるアルトの姿が見える。互いの機体がエンジンを呻らせれば、視線を前に戻し、機体を滑走路へ向け、十分な速度まで達すると、機体を空へ飛ばさせた。
「レシプロ機をあれだけ使える奴が二人もいるなんてな・・・しかもそれが相手とは・・・最悪だぜ」
紫電改のコクピット内で、アルトはレシプロ機に慣れているザシャ相手に緊張する。二回戦も勝ち抜いたのは、相手が舐めていたからであり、その油断に付け込んで勝利しただけだ。慎重敵に挑むザシャが相手では勝てる気がしない。
試合空域へ行き、試合開始の合図を待っていると、アルトにとって聞き慣れた言葉がキャノピー越しから聞こえた。
『あたしの歌を聴け!』
「えっ、なに?」
この声はザシャにも聞こえていたらしく、緊張感が途切れてしまう。
正体は一回戦にアルトに声援を送った金髪の少女だ。隣にラジオカセットレコーダーを置き、再生ボタンを押す。
周りがざわつく中、大人びた少女は聞こえてくる音楽にリズムを合わせ、マイクを握り、歌い始めた。その歌は無線からも聞こえてくる。
「なに、この歌・・・!?」
無線機から聞こえてくる歌に、ザシャはやや困惑し、アルトは頭を抱えていた。係員達が歌う彼女の元へ向かう中、試合開始の合図である赤の信号弾は上げられる。
「こんな状態でも試合開始かよ!」
「へっ?えぇ!?」
ザシャの混乱状態を解けないまま試合は開始され、二機の単発式レシプロ戦闘機は戦闘行動を開始した。機銃を撃ちながら互いに接近するが、両者共の弾は一発も当たらない。互いに通り過ぎ、次の攻撃へと移ろうとする。
「クソッ、ビビって照準が合わない!」
そう言いながら、アルトは紫電改をザシャのフォッケウルフへ向けようとした。
だが、アルトよりも先にザシャが攻撃を仕掛けてくる。
「うわっ!こいつ、空の飛び方を知ってやがる!!」
攻撃を避けつつ、ザシャが”空の飛び方”を知っていることを言う。彼女もアルトがかなりの腕前を持つ事が分かった。
「あの女の人・・・出来る・・・!」
相変わらずアルトのことを女性と勘違いしているが、そのエメラルドグリーンの瞳は戦闘に集中している物だ。ザシャの攻撃でアルトは逃げ回ることしか出来ないでいる。
反撃を試みようとするアルトだが、ザシャは容赦なしに機銃を浴びせ、反撃させないようにする。
「(残弾考えなきゃ)」
しかし、機銃を撃ち続けていれば、いずれ弾が切れてしまう。その事を頭に入れていたザシャはトリガーから指を離し、確実に撃破できるまで撃たないように心懸けた。
「機銃を撃ってこない?確実に撃ち落とそうとしているからか」
相手の考えが分かったアルトは、操縦桿を動かしながら、反撃の隙を見つけ出そうとする。
「(相手はロイ・フォッカー、いや、シミュレーターで戦ったエーリッヒ・ハルトマンやイサム・ダイソン以上だ!隙を見せれば一瞬でやれそうだ。どうにかして格闘戦に持ち込まないと!)」
そうアルトが考えていると、ザシャは照準器に彼の紫電改を捉えた。
「これで・・・!」
自分の勝利に持ち込もうとトリガーを引くザシャであったが、アルトは変則的な機動を取りながら回避する。
「バルキリーなら確実に勝てるだがな!」
操縦桿を動かしながらアルトはバルキリーなら勝てると言うが、ザシャもバルキリー、可変戦闘機に乗っており、才能の差が出てしまうだろう。彼は相手もバルキリー乗りであることに気付かず、機体を回転させて反撃に移った。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
照準器にザシャのFw190D型を捉えれば、叫びながらトリガーを引き、機銃を撃ち続ける。並のパイロットなら当たっている所だが、ザシャの操縦技術は常人を卓越しており、最初の一発目が目の前で逸れたのを見て、全弾回避することが出来た。これに驚いたアルトは撃ちながら声を上げる。
「化け物かよ・・・!?」
彼がトリガーから指を離した後には、ザシャは紫電改の後ろに付き、照準をあらぬ方向に合わせ、方向に合わせ、機銃の引き金を引いた。不思議にも、発射されたペイント弾はアルトが逃げた先に飛んでいき、吸い込まれるように命中し、胴体を赤く染めた。
この攻撃方法はアフリカの星と呼ばれたドイツ空軍のエースパイロット、ハンス・ヨアヒム・マルセイユが行った「見切り」と「先読み」の敵の行く先を予想し、そこに機銃を撃ち込む。所謂「未来予測射撃」と言う奴だ。
彼女はマルセイユが相手の仮想戦闘シミュレーターを経験しており、何度も撃墜された経験がある。
「なっ!?」
当てられたことに気付いたアルトは驚きの声を上げ、ザシャのFw190D型へ視線を向ける。
どうやら、当てられたことが信じられなかったようだ。試合終了の合図が上がる頃には、丁度歌が終わった頃だった。
双方はナビゲートに従い、着陸態勢を取って滑走路へと戻っていく。滑走路へと着陸すると、コクピットから降りて控え室へと向かうが、アルトに声を掛けられる。
「あんた、凄いパイロットだな。俺なんて足下にも及ばない・・・」
「えっ、男!?」
声を掛けられたザシャは振り返り、別の意味で驚きの声を上げた。当の声を掛けた本人であるアルトはこれに激怒する。
「俺は女じゃない!男だ!」
「てっきり、女の人だと・・・ご、ごめんなさい!」
「なんでこういつも間違われるか・・・さっきのが台無しじゃねぇか・・・!」
必死に謝罪するザシャに、アルトはいつも女と間違われることに頭を抱えた。
そんな彼と別れ、控え室へと戻ると、次の対戦相手である金髪の男性が待ち構えていたのか、ザシャが入って来るなり声を掛けてきた。
「先程の君の動き、試合中から眺めさせて貰った。まさかあのアルト君を倒すとはな」
「はっ?」
見知らぬ男に声を掛けられた為か、ザシャは反応に困る。
男は気にせず続け、自己紹介を始めた。
「失礼した、私はグラハム・エーカー。全ての世界を救うため、死の世界から神に呼び起こされ、蘇らされた哀れなパイロットだ」
「蘇った・・・?」
「以下にも。ここに来た理由はとある女性を訪ねる為に来たが。この大会に出場していると予想し、私情を挟みつつ出場した物の、アテが外れたようだ」
グラハム・エーカーと名乗る男はザシャを見て、何かしらの期待を抱き、ニヤリと笑みを浮かべた。何を考えているか分からない男に対し、彼女は一歩引き下がる。
「そんなに警戒しなくても、私は君を口説く為に待っていたわけではないさ。次の試合、よろしく頼む」
手を差し伸べ、握手を求めるグラハムであったが、ザシャは手を出さなかった。
「ん?おっと、これは失礼。少し女性との付き合いがない物でね。いつものように接してしまった。すまない」
謝罪するグラハムに、ザシャは終始警戒したままだった。
「先程の試合で疲れているところだろう。次の試合まで休むと良い」
「あっ、ありがとうございます・・・」
何一つ答えないザシャに、グラハムはスポーツドリンクを投げ、それを彼女は受け取り、礼を言った。
「それでは、私は機体で待っている」
グラハムが控え室から立ち去ると、ザシャはドリンクを口に含み、トーナメント表に目を通した。
「晃君が、負けてる・・・!?」
あれ程の操縦技量を持つ晃が負けたことに驚きを隠せない。彼を倒したニコラの次の相手はレイだ。彼女の実力は見ていないが、予選を突破した程なので、かなりの技量を持っているだろう。
そんなレイを心配しつつ、ザシャは自分の対戦相手を見た。
「あの人だ・・・」
先程自分の顔を見に来たグラハム・エーカーであった。三回戦を終えても、あれ程の余裕を持っている事から、かなりの強敵だろう。ドリンクを口に含みつつ、次の試合開始まで休息を取った。
暫く時間が経つと、ザシャの姿は空を飛ぶFw190D型のコクピットの中にあった。
空戦空域へ向かっている最中、グラハムの声が無線機から聞こえてくる。
『試合の前に聞きたいことがある。我々ZEUSに入る気はないか?』
この無線機からの問いに、ザシャは少しばかり無言になったが、暫しして断りの返答を出した。
「入りません。私はワルキューレの競合師団の所属です。寝返る気はありません」
『フッ、予想通りの返答だ。元より君を陣営に入れるつもりはない。どんなパイロットなのか戦いたくなった』
「それが理由ですか。好戦的な性格ですね」
『全くその通りだとも、私は戦うことしか能がない男だ。現に私は君と戦えることに最大の喜びを得ている!さぁ、始めようか!』
彼がそう言えば、試合開始の合図である緑の信号弾が上がるのが見えた。開始直前からグラハムのP-51Dムスタング戦闘機が自分の元へ向かってきた。
一気に射程距離まで接近すれば、六門もの12.7㎜重機関銃が火を噴いた。
ザシャはこれを回避し、一撃離脱戦法を取って通り過ぎるグラハムのP-51を追う。未来予測射撃で当てようと試みるが、相手は不規則に動いて軌道が読めず、照準が定まらなかった。
「この動き、ベテランパイロットの比じゃない・・・!」
グラハムの動きを見たザシャは、予想していた歴戦のパイロットとは異なる強さを持つパイロットと判断した。機銃を何発か疎らに撃って動きを牽制すれば、上から急襲を図ろうと、その隙に機体を上昇させたが、相手はそれを読んでいたのか、無茶に操縦桿を上に引いて機体を上昇させた。
「甘い!」
無理に上昇させて身体に負担が掛かってしまったが、グラハムはそれを超えるほどのG(高速で動くと感じる圧力)を感じているので、どうと言うことはない。上から強襲を掛けようとするザシャ機に向けて機銃を撃った。
「嘘!?」
真下から来る敵に驚いた彼女は、直ぐに飛んでくる数発ほどの銃弾を回避する。後ろに付かれてしまい、生殺与奪の権利をグラハムに取られてしまう。
「これで生殺与奪の権利は私の物になった。しかしこれは競技であり、”実戦”ではないがな」
背中を見せるザシャのFw190D型に対し、グラハムは照準を敵機に合わせ、トリガーを引いた。四門からの銃口から銃弾が放たれ、ザシャ機に向けて放たれるが、彼女は横に回避してそれを避ける。
中々当たらないが、彼女は後ろから飛んでくる機銃を避け続けるしかないので、追い詰めていることだけは確かである。
これを退場選手用の観戦室のモニターから見ていた敗れた者達は、あのザシャが追い詰められていることに驚いていた。
「ど、どういう事だよ!あの天才女傑パイロットの中尉殿が変な奴に追い詰められてるぞ!」
第一声を放ったのは、ザシャに二回戦で敗れた柿崎であった。自分が手も足も出なかったザシャをこれ程までに追い詰めている者が居たことに驚きを隠せないでいた。
モニターに映るザシャとグラハムの戦いでは、次の策に出ようとするザシャ機を封じるグラハム機が流れている。後ろを取られている彼女は、機銃の照準に捕らわれないよう不規則に動いているだけだ。
「あのパイロット、尋常じゃないね」
「その通りだ。あいつは普通じゃない」
晃がそう口にすれば、彼と同じZEUSの一員であるアルトがそれに同意する。
「前に模擬戦をしたとき、あいつに手も足も出なかった・・・あいつは空を物にしている・・・!」
「な、何を言うとるんだお前は・・・!?」
あるとの言った意味を、イマイチ理解できないザシャに一回戦で負けた男が言うと、モニターの映像では、彼女がようやく反撃に移る様子が映し出されていた。
ブレイクと呼ばれる急旋回でグラハムの後ろを取り、機銃を浴びせようとした。
「そうはさせんよ!」
後ろから来る攻撃を回避しようと、グラハムはフラップを下ろし、通常ではあり得ない回避行動を取った。それはエンジンカットと呼ばれる飛行中にエンジンを停止すると言う自殺同然の物だ。特にレシプロ機でやれば、気圧や風速で冷え切ったエンジンは、余程運が良い限り再始動しない。
通常のレシプロ機でやれば、エンジンが再始動しなければ何処かに激突して確実に御陀仏だが、この未来の科学力で外面だけは似せられている競技用レシプロ戦闘機なら、直ぐにエンジンが再始動できる。
プロペラが動かなくなり、空を飛んでいる物体と化したP-51ムスタングがぶつかってくるのが見え、これに驚いたザシャはトリガーを引くのを止め、操縦桿を横に引いて回避する。
「えっ!?きゃぁぁぁ!」
悲鳴を上げながらも、間一髪回避することに成功したザシャであったが、エンジンを再始動したグラハムのP-51に後ろを取られてしまう。
「後ろに!?」
キャノピー越しから復帰したP-51を見たザシャは操縦桿を必死に動かし、敵機の機銃攻撃を回避した。操縦桿を動かす彼女の額には汗が浸り、息も荒くなる。グラハムの予想もつかない行動の連続に体力を消耗させ、疲労感も増している。
それに今までにない相手をしているところもあって、グラハムに対しての恐怖も感じ始めた。その証拠に操縦桿を握る手も震え、機体が水平飛行を保てず、ゆらゆらと揺れていた。
このザシャの有様を見ていたグラハムは、無線機で相手の機体にコンタクトを取り、落ち着くように告げる。
『落ち着け。パニックに陥れば、死ぬぞ』
「なんです・・・?私が落ち着こうとする間に撃つつもりですか?」
『生憎だが、私はそのような姑息な手を嫌う主義でな。パニックに陥った相手を実戦以外に墜とすつもりはない。それにこれは競技だ、死ぬ確率は格段に低い』
グラハムの言葉に、ザシャは落ち着きを取り戻した。
「(そうだ、死ぬことはないんだ・・・)」
平常心を取り戻して吹っ切れたザシャは急旋回を行い、グラハムの視界から逃れた。
「フッ、その息だ!」
動きが良くなったザシャのフォッケウルフを見て、グラハムは期待に胸を躍らせた。
直ぐにザシャ機の追跡を始め、視界に捉えれば、照準器に収めようと接近する。だが、ザシャは下に逃れ、照準から外れる。それを執念深く追い回す。
「(あの人はエースを超える人だ。このまま普通にやり合ってたら、確実にやられちゃう。それに疲れてきたし・・・どうやって早く倒そうか・・・)」
追ってくるグラハムのムスタングを見ながら、ザシャはグラハムを早期に倒す方法を考えていた。また脳をフル回転させ、あらゆる策を摸作していると、空軍士官学校の競技を思い出した。
それは急減速のやり方であった。フラップを下げて急減速し、敵機の後ろに付く戦法だ。
先程のグラハムのやったエンジンを停止し、敵機を驚かせ、敵機の後ろに付けば、そのまた掛かる可能性の低いエンジンを始動させる危険極まりないやり方とは比較的安全な方法だ。
「よし!」
下がる方向に敵機が居ないことを確認したザシャは、直ぐにそれを実行した。高揚力装置を操作し、多くのプロペラ推進の飛行機で採用されている後緑フラップを下げ、急減速を行った。
「中々やるな!」
フラップが下がるのを見逃さなかったグラハムは、後ろに付いたザシャのFw190D型を見て笑みを浮かべる。敵が機銃から回避出来るに距離を取る前に、ザシャは直ぐに引き金を引いた。
「しまった!?」
機銃が必ず命中する10mから離れようとした瞬間、視界にペイント弾が飛んでくるのが見えた。既に回避不可能であり、弾はグラハムのP-51に吸い込まれるように命中し、胴体を赤く染め上げる。
「不覚を取られたか・・・私もまだまだだな」
潔く負けを認めたグラハムは、試合終了の合図である緑の信号弾が上がるのを確認した。
ザシャもそれを確認すると、グラハム機と共に滑走路へと戻っていく。
滑走路へ着陸し、コクピットから降りた彼女の体力は既に限界であった。係員に抱えられて控え室へと戻る途中、グラハムに声を掛けられる。
「味わったこともない感覚を味合わせてくれて感謝する。少女よ」
「(少女じゃないよ・・・)」
そうグラハムはザシャに感謝すると、敗退選手専用の待機室へと去った。
未だに尚、自分を少女と思っているグラハムに悪態をつくと、ザシャは係員に抱えられながら控え室へと戻った。
「あっ、レイちゃんが・・・」
抱えられながら長椅子へ座らされたザシャは、レイがニコラに負けていることを知り、驚きの声を小さく上げた。やはり大会荒らしの渾名は伊達ではなかったようだ。
次なる試合に備えて長椅子で横になろうとすると、次に自分と戦うニコラが声を掛けてきた。
「これが私の次なる対戦相手か?小柄な上に短足のヒヨコではないか」
慎重の割には腰の位置は高いので、消して短足ではないのだが、短足扱いされたザシャは堪忍袋が切れたのか、起き上がって悪態を悪態で言い返した。
「た、短足じゃありません!貴女が棒みたいに長すぎるだけです!!」
「フン、チビにしては中々我慢強い性格だな。以前、ワルキューレの勢力圏内に入り、お前と同じようなパイロットを挑発して勝負を申し込んだが。結果は口だけは達者な奴だったさ。まぁ、お前もそう言うタイプだろうがな」
どうやら傭兵としても回ってきたらしく、ワルキューレとも交戦経験がある様だ。
ザシャを蔑みながら続けた後、ドリンクを彼女へ向けて投げ付け、ニコラは言葉を掛けてから控え室を後にした。
「では、精々私に抗う為に体力を回復させておけ」
ドリンクを受け取ったザシャは、ニコラが居なくなると、再び横になり、体力回復に励んだ。
数分後、ザシャの体力はある程度回復。頭もスッキリして、回転が良くなっている。
控え室から出たザシャは自分の機体に乗り込み、滑走路から大空に舞った。
先にニコラは出ていたのか、無線機から彼女の声が聞こえてくる。
『ほぅ、棄権せずわざわざ私にやられに来たか。よかろう、四十秒で蹴りをつけてやる』
無線機から彼女の声が聞こえなくなると、試合開始の合図の信号弾が上がった。
相手は自分と同じドイツ機であり、Fw190採用後もドイツ空軍で主役を担っていた戦闘機だ。性能は劣るが、それでも数々のエースを生んだ戦闘機なので侮れない。
物の数秒でニコラが乗るメーサーシュミットBf109Kが、横から向かってきた。こちらに向かってくるなり、機銃を浴びせに来る。持ち前の反射神経で速度を上げて回避し、次なる一撃離脱を取ろうとする敵機に警戒する。
『あの攻撃を避けるとは、中々面白い奴だな。これは避けられるかな?』
何処から来るか分からない無線機からニコラの声が聞こえる中、ザシャは次なる攻撃に備えた。無線機が終わってから数秒後に、彼女のBf109が真上から姿を現し、急降下攻撃を仕掛けてきた。操縦桿を横に倒して機銃を回避する。
通り過ぎれば、敵機は次なる攻撃を間髪入れずに入れる。今度は真下から急上昇攻撃を仕掛けてきた。
ニコラは流石に避けきれないと思っていたが、ザシャはこれを避けたのだ。
「馬鹿な!?」
四十秒立っても墜とせないザシャに、ニコラは焦りを見せ始めていた。いままでのパイロットなら墜とせてはいたが、最終戦まで上がってきたザシャには通じなかった。
相手が動揺しきっているのを見逃さなかったザシャは、それを見逃さず、動揺しているニコラに追跡を掛けた。
今まで攻めのまま勝利していたニコラであったが、後ろを取られてしまう。
「何処の馬の骨か分からぬ女に・・・!」
後ろから来る機銃を避けながら、ザシャへ向けて毒を吐くと、次なる反撃に移ろうと急旋回を取ろうとした。だが、彼女は食いついて離さない。
「私が追い詰められているだと!?そんな筈は・・・!」
追い掛けてくるザシャのFw190D型を見ながら、ニコラは更に焦りを積もらせた。
地にいる敗退者達は、手も足も出なかったニコラが新参者のザシャに追い詰められているのを知って、モニターに集まってくる。
「おーい、あの大会荒らしのニコラが小柄の嬢ちゃんに追い詰められるぞぉー!!」
敗退選手の一人が言えば、他の選手達も集まってきた。その中には柿崎の姿もある。
「さっすが中尉殿だ!あんな軍人崩れの女なんか目じゃないぜ!!」
ニコラを追い詰めるザシャ機の姿をモニターから見て、柿崎は大いに喜ぶ。
準決勝戦でニコラに負けたレイも、その様子を喜んでいた。
「やっちゃって!お姉ちゃん!」
「あの女を叩き落とせ!」
「俺達の恨みを晴らしてくれ!!」
他にも負けた選手達が、ザシャには聞こえていない声援を送り始める。
「(そんな筈が・・・そんな筈がある物か・・・!)」
ザシャに追い詰められ、ニコラは冷静さを失い始めていた。大会連続優勝の皆勤賞が、名も知らぬ自分より背が低い女に打ち破られ、自分のプライドがズタズタにされるのが目に見えているのだろう。
次なる反撃に出ようとしても、後ろから追ってくる
形勢逆転を狙い、フラップを下げて相手の後ろに付こうとしたが、ザシャも同様にフラップを下げ、現状を維持してくる。
「もはやこれまでか」と脳内に浮かべたニコラだったが、勝負に水を差すような事態が発生した。
「な、なんだ!?」
「ミサイル!?」
突如両者の目の前からミサイルが飛んできたのだ。流れ弾であったらしく、自機には命中しなかったが、これは流石に試合中止であろう。直ぐにザシャはニコラのBf109kから離れ、地上へ帰った。
離れていくザシャのFw190D型を見て、ニコラは怒りを感じた。
「これで私が安心したと思ったか・・・!」
怒りの声を上げると、ニコラも機体を地上へと帰らせた。
ザシャちゃん大活躍回。色々と納めすぎて、長くなっちまったZE!
取り敢えず、この大会で一番強いのはグラハム・エーカーです。はい。
それとタンク博士のフォッケウルフFw190は変態機動を取れます。
攻撃機・戦闘爆撃機タイプのであるF型も取れるそうで、護衛が必要ないらしいです。
本当はジョニー・ライデン、ムウ、フォッカー、イサムも出そうかと思ったけど、ライデンは兎も角、フォッカー少佐とイサムはチート過ぎたので没になりました。
そうなったら、フォッカーとイサムの勝負になっちまうじゃねぇか・・・