復讐者の世界周り Weltdrehung des Rächers 作:ダス・ライヒ
それと後半部・・・なんか自分でも書いてて諄い・・・
こちらが第一話になります。
*自分の脳内で後付が多かったので修正。ついでに句切りも他の作者さんのを真似てみた。
序章、崩れ去る事の訳
ムガル暦789年。
地球と似ても似付かない、魔法が存在する別世界にて、ムガル帝国と呼ばれる大帝国が存在した。
その大帝国の首都は海に繋がる湖を背にした帝国名と同じくムガル、首都の中心にある巨大な建造物はこの帝国の皇族が住まい、政務の中心地である。
この世界の地図に描かれた7つある大陸の一、中央にある大陸にある。領土は中央の大陸に収まらず、全大陸全て、世界がムガル帝国の物であった。
世界を手に入れる為に犠牲にした人数は計り知れず、夥しい量の血が流され、建国から681年で遂に世界を手に入れ、100年以上も戦も起きず、平和に繁栄してきた。
だが、その繁栄は、108年と8ヶ月27日をもって終了する。
異世界より近代兵器を持つ、敵の軍勢が攻めてきたのだ。
敵は我々の世界における第二次世界大戦でドイツ第三帝国の国防軍・武装親衛隊で使われた陸上・海上・航空兵器を所有しており、科学力と火力はムガル帝国より勝っていた。
異世界からの侵略者の名は神聖百合帝国。
百合が名前に入った通り、女性が指導者であり、女性だけの亜人メガミ人の大帝国である。
圧倒的な火力と優れた戦略や第二次大戦初期で用いられた電撃戦を駆使して、魔道兵器を中心とするムガル帝国の領土を次々と奪っていく。
緒戦にて数で勝っていたムガル帝国も、近代兵器と戦術を有する侵略者に為す術もなく倒されて行った。反撃を試みようとするムガル帝国であったが、悪戯に犠牲者を増やすだけで、領土も取り返せず、敵方から捕虜も捕れず、むしろ逆に領土を奪われるだけであった。
中央大陸以外の大陸にいたムガル帝国の軍勢は、神聖百合帝国の手によって中央に撤退するか全滅した。僅かな希望を抱いて、新兵器や新魔法を開発しようとしたが、時間を無駄にするだけであり、そうしている間に神聖百合帝国の航空機による定期爆撃で、重要な人物が次々と死んだ。
絶望感にさいなまれたムガル帝国は、反撃に出るのを止めて、新天地へ移住に集中し始める。
つまりこの世界を捨てて、異世界に逃げることである。
勝てる術など無くしたムガル帝国は、神聖百合帝国の進軍ルートに罠を張り巡らせ、残った戦力を温存し、帝都に集結させると言う、首都決戦に備え始めた。その間に新天地への移住先を確保することに成功し、残った領土に住む才能や能力に長けた者、有能な者達から先に新天地へと移住させた。
珍しく皇族や上流階級の者は真っ先に新天地への移住はしなかったが、ごく少数が向かっただけに過ぎない。
取り残されているのは、凡才や優れていない者ばかりであり、優秀な者だけを先に逃がすことに腹を立て、暴動までも起こしたが、時のムガル帝国の皇帝アドムズ・ア・ペン・ムガルは、慈悲の心を込めて軍に暴動の鎮圧を命じた。
それを繰り返すことによって、全ての優れて有能な者達の移住が完了し、後は自分達と残った守備戦力、平凡的な民と共に移住をするだけだった。
しかし、異世界の侵略者、ムガルまでに迫った神聖百合帝国陸軍のC軍集団計70万の兵力がムガル民の移住の時間を待つはずもなく、帝都への総攻撃を掛ける。
その攻撃前、天幕の軍集団本部にて、ドイツ国防軍陸軍の野戦服を着て、ストレートのズボンをはいて略帽を被った若い女性将校が一枚の報告書を片手に軍集団司令官が居る本部へと足を踏み入れた。
「閣下、宣伝中隊の戦地実況小隊が戦場を実況中継したいと申しておりますが・・・」
敬礼してから、報告書を顔に皺のある中年女性将官の目の前に置いてある机に置いた将校。肩章に付けられた階級の星の数からして、その将校は大佐クラスだろう。椅子に腰を下ろしている高級感溢れる軍服を着て、乗馬ズボンをはいた中年女性将官の肩章を見れば、部下の大佐から閣下と呼ばれるからして上級大将と分かる。
報告書を手に取って人通り目を通した上級大将は、ポケットから万年筆を取り出し、その書類にサインをする。
「許可します。敵超大国からの勝利は良い宣伝となり、これに乗じて我が軍の士気も上がることでしょう」
「で、ですが・・・守りきれる自身も・・・」
反対の異議を唱える大佐に、上級大将は手を翳して黙らせた。
「標準人の部隊に先を越される訳にはいきません。ましてや他の部隊に先を越されるわけにはいきません。それに我が軍集団の宣伝にもなります。では、これを宣伝中隊の実況部隊に届けてください」
上級大将は大佐に自分の考えを伝え終えた後、報告書を彼女に渡した。
ちなみに標準人とは、神聖百合帝国軍の人間の奴隷兵士、名義上は二級市民階級の事である。
「ハッ!では、失礼します」
報告書を渡された大佐はそれを受け取り、敬礼してから報告書を持って本部を出た。直ぐにそれを外で待機している完全装備の戦地実況小隊の小隊長らしき野戦服を着た若い女性に手渡した。
「大尉、軍集団指令が許可を出した。事きめ細かく我が軍集団の戦果を記録するのだ」
「あ、はい!大佐殿!一生懸命記録させていただきます!!エリーザちゃん、頑張って実況してね!」
階級からして大尉の将校が軍集団司令官サイン入りの報告書を大佐から受け取って敬礼した。
大尉は、同じ野戦服を着用し、破片避けの為にヘルメットを被っている20代前半の顔立ちが整って、ヘルメットから長い茶髪が飛び出している童顔の女性が振り返り、声を掛けた。それに反応して手を振る。
「は~い!エリーゼ・バーデン実況小隊第1分隊分隊長少尉、実況頑張ります!!」
大尉に向けて手を振り終えた後、敬礼して、同じ野戦服を着たスタッフクルーが乗るオベルブリッツトラックに乗り込み、エリーゼと呼ばれる将校は二本指を当てて投げキッスをした。
これを見ていた大佐は不快な顔をし、巻き煙草をポケットから取り出してそれを口にくわえ、火を付けて煙草を吸った。
どうやらエリーゼの長い茶髪が気に入らなかったらしい。それもそのはず、長い髪で戦場に出て、引っ張られるからだ。硬派な軍人である大佐は、戦場を舐めすぎていると思って、気に食わなかったのだ。
攻撃命令を待つ指揮車型を含めたⅡ号戦車F型、35t軽戦車、38t軽戦車を始めとした非力な戦車で編成された多数の部隊、Ⅲ号戦車J型とⅣ号戦車F型と長砲身型であるF2型で編成されたましな戦車部隊、Ⅲ号突撃砲しかない突撃砲部隊、Ⅰ号自走重歩兵砲一個中隊分に88㎜高射砲を搭載したSdKfz8を追加した自走砲部隊。
その後ろに構えるのはSdKfz223,250指揮車型や251兵員輸送型、迫撃砲搭載型、工兵仕様、で編成された機械化歩兵部隊もとい装甲擲弾兵部隊。
エリーゼ達の実況小隊のトラックは、SdKfz7やトラックで編成された歩兵部隊もとい擲弾兵部隊の後へ続く。
軍集団司令部からの攻撃命令が出ると、それぞれの戦闘車両で編成された大多数の機甲部隊もとい装甲部隊は、最後の攻撃目標であるムガル帝国の首都、ムガルへと突き進んだ。
それと同時に横三列に並べられた数十門の軽榴弾砲10.5㎝leFH18や重榴弾砲である15㎝sFH18、カノン砲の15㎝K39、一門の42㎝ガンマ臼砲による砲撃が始まった。
ムガルへ向けて前進する彼女等の頭上に急降下爆撃機のJu87Dや主力戦闘機のBf109F、双発戦闘機のBf110Dの編隊、その後ろには輸送機であるJu52が編隊を組んで、続いていた。空軍の空挺部隊もとい降下猟兵部隊による首都攻略作戦も行われていることに気付いた前線指揮官は、首都へ続く部隊に足を速めるよう急かした。
「速度増速!空軍よりも先に首都に乗り込め!!」
指揮車型のSdKfz250から、指揮官は受話器を持って全部隊に空軍よりも先にムガルへ入るよう指示を出した。
その頃、神聖百合帝国の軍勢が迫ってきていることを察したムガル帝国側は、直ぐ様迎撃の態勢を取っていた。
「急げぇー!迎撃準備を取るのだ!!異界からの侵略者を一人でも多く殺し、ムガルの聖地を守るのだ!!」
ローマ帝国に近い兜を被った指揮官らしき男が、周りにいる槍やボウガンを持った兵士達に近付いてくる着弾音に負けないような声量で告げる。中には銃らしき物を持った兵士も居た。
どうやら魔力を込めた弾を発射し、魔法を使えない者でも扱える銃らしい。
そんな兵士達の顔は絶望感に染まっており、何時誰か逃げ出してもおかしくない程の状態だ。中にも女兵士まで居て、彼女等の顔付きも男の兵士達と同じく絶望感に染まっている。
攻めてくる女だらけの神聖百合帝国とはかなり異なる物である。
『鉄の鳥だぁー!』
見張り台に居た兵士が、神聖百合帝国の空軍の大編隊を発見し、叫んだ。
「迎撃態勢だ!異界の者共の鳥からムガルを守るのだ!!撃て撃て!!」
指揮官の怒号と共に魔力銃を持った兵士達が、空軍の大編隊に向けて構え、対空射撃を始めた。銃口から魔力弾が発射され、戦闘を飛ぶ殿のメーサーシュミットBf109に集中する。無論、殿のBf109は飛んできた魔力弾から避ける為にその場から離れる。
近付いていた着弾音がムガルにも届き始めたが、全体が防御魔法に守られており、榴弾が無力化されてしまった。それを見ていたのか、Ju87シューツカが何機かのBf109と共に接近し始める。
「鉄鳥が接近してきます!!」
「撃て!撃ち落とせぇー!」
部下の知らせに指揮官は怒号を上げるだけだった。その後、急降下してきたJu87の250㎏爆弾を落とされ、指揮官ごと吹き飛んだ。的の殲滅を確認したそのJu87は、そのまま次の標的に向かった。
やがて両翼に搭載されていた爆弾を全て落とし終えると、補給ともう一度爆撃すべく、後方にある基地に帰投する。何機かが魔力弾の餌食となり、撃ち落とされたが、攻略部隊にとってはそれほどの痛みではなかった。
やがて後ろから付いてきたJu52の編隊はムガルの中央に到達し、運んでいた空挺部隊の兵士達を地上へとばらまき始めた。機体から飛び出した兵士達もとい降下猟兵が背負うパラシュートが飛び出したと同時に開かれた。
その数は約八千で、まるで雪のように、空気抵抗を受けてゆっくりと地上へ落ちていく。
それと同時に地上から攻めてきた装甲部隊がムガルに到着、帝都を防衛するムガル軍の兵士達は恐怖のどん底に陥れられた。
一方、ムガルに入らなくても十分見える程の大きさを持つ皇族が住まい、政務の中心である立派な宮殿にも戦火の火が届いた。二個中隊ほどの降下猟兵がその宮殿へと降下したのだ。
皇太子らしい凛々しい顔立ちと短めの茶髪の髪を持つ若い男が自分の子であろう赤子を左手に抱え、魔法剣と呼ばれる剣を右手に持ち、自分に銃を向ける降下猟兵相手に奮闘していた。
「死ね!皇族の蛆虫めがっ!!」
ジャンプスモックを着た顔付きが整った顔立ちを持つ女性降下猟兵が、手に持つ降下猟兵モデルのkar98kを皇族の男に向けるが、剣から放たれた斬撃に切り裂かれ、絶命する。続々と同じジャンプスモックを着た同モデルの小銃やMP40短機関銃、軽機関銃MG34を持った降下猟兵が、男が向かうバルコニーからやって来るが、男の護衛を務める魔力銃を持った兵士達と交戦状態に入る。
槍や斧を持った兵士達も居たが、あっさりと殺されていく。
皇族の男は左手に抱えた幼すぎる我が子を自らを省みずに抱き抱え、我が子を銃弾から守る。念の為に男は防御魔法まで唱え、自分と赤子を守った。
他の兵士達はついてきた魔術者が唱えてくれるので安心したが、M24柄付手榴弾を投げ込まれ、魔術者諸共爆死する。
「うわぁぁぁぁぁ!俺の足がぁぁぁぁ!!」
辛うじて爆風から生き残った兵士も居たが、自分の足が爆風で引き千切られて繋がっていないのを見て、恐慌状態に陥っていた。連続した銃声と共に、小銃を持つ一人の降下猟兵に額を撃たれ、トドメを刺された。
それを見ていた男は我が子を強く抱きしめたが、状況は何も変わらない。直後、別の若い男の声が聞こえた。
「邪魔をするな!異界の侵略者共が!!」
声の後に男と部下達に銃撃を加えていた降下猟兵が持つ銃の銃声が途絶えた。
男が降下猟兵の方を向いてみると、全員が物言わぬ死体になっており、壁に血が飛び散っており、頭の無い死体まである。
腰まで届く紫色の髪を持つ美男子が剣に付着した血を振り払って、自分の兄である男に近付く。その美男子の正体に気付いた男は声を掛けた。
「リガン!お前、どうしてここに?!」
「兄上、よくぞご無事で!防衛戦が次々と突破されております!ここは私に任せて早くゲートへ!!」
「そうか・・・では、サベーヌを頼む」
声を掛けられたリガンと呼ばれる美男子は兄である男に近付き、早くゲートと言う脱出経路らしき所へ向かうように言った。
だが、男は赤子をリガンに渡し、元来た道を戻ろうとしていた。リガンは直ぐに兄である男の肩を掴んで止めた。
「兄上!何をなさるお積もりです?!あそこはもう的の砲撃を受け・・・」
「まだ妻が残って居るんだ。護衛を100人余り残しているが、もう持たんだろう。私が行かなければ・・・!」
「なれば私も一緒に!」
そのリガンの言った言葉を聞いた男は、ついていこうとする弟の腕を振り払った。
「お前にサベーヌを頼むと言っただろう?お前は我が子と共にゲートへ向かい、私と妻が来るのを待っておけ。一時間して、来なかったら先に行くのだ。分かったな?」
男はリガンに告げたが、それでもリガンは部下を指で呼んで、サベーヌを連れて行かせ、自分もついていこうとした。
「部下にサベーヌを連れて行かせます。兄上と私なら、連中が何人いようと・・・!」
リガンが言い終える前に、兄である男に肩を掴まれた。
「馬鹿者!お前でないと駄目なのだ!!お前が来た方向から敵兵が来たとするとそこも敵中の支配下、我らが皇族でないと赤子を傷一つ付けずにゲートまで向かうことまで不可能だ!これはお前にしか出来ないことなんだ・・・分かるな?これが兄の頼みとして行くのだ・・・!」
肩を掴まれながら、強く告げられたリガンは、直ぐにサベーヌを抱いて、ゲートがある場所まで向かおうとしたが、配下の兵の叫び声が二人の耳に入った。
「鉄の獣だぁー!!」
叫び声を上げた兵士が指を差した先には、60口径の長砲身を持つⅢ号戦車と機関砲をこちらに向けたⅡ号戦車が、複数の歩兵と共に居た。それに気付いた男はリガンを守る為に蹴飛ばし、妻が居る方向に向かった。
リガンがサベーヌが起きないように受け身を取った後、Ⅲ号の60口径の砲声が唸りを上げ、何名かが発射された榴弾によって吹き飛ばされた。土煙が上がり、次にⅡ号戦車の55口径20㎜の機関砲と敵歩兵が持つ小火器が火を噴き、立ち上がろうとしていた兵士達を挽肉に変える。
響き渡る銃声の中で、男は弟に聞こえるような声量で伝える。
「良いか!一時間だ!一時間で戻らなければ行け!!妻を連れて行く時、別の場所から向かう!良いな?!」
「承知しました兄上!兄上の奥方共、必ずや生きて戻ってくることを願います!!」
リガンも銃声に負けないほどの声を上げて返した後、ゲートがある場所まで向かった。不思議と幾多もの危機があったのにも関わらず、赤子であるサベーヌは一切起き無かったという。この時までにムガルの戦況は、圧倒的に防衛側のムガル帝国側の不利であった。
攻め側の百合帝国陸軍並び空軍は少なからずの損害を出しながら、建物や陣地の一つ一つずつ制圧しつつ前進中である。さらに海軍の一個艦隊が沿岸に到着したことや他の部隊の援軍まで到着し、百合帝国陸軍と空軍の制圧速度は飛躍的に向上した。
滅びつつあるムガル帝国の皇帝、アドムズ・ア・ペン・ムガルは湖に現れて、ここに艦砲射撃を行う百合帝国海軍の艦隊を眺めていた。
「もうこの帝国は駄目だな・・・」
首都に溢れる崩れ去る建造物と、今居る自分の住まいで政務を行ってきた巨大な宮殿が攻撃を受けて、ボロボロになっていく様を見ながら呟く。現皇帝、アドムズの後ろには別世界へ繋がる巨大な円形型のゲートがあった。アドムズの妻らしき老婆が彼に声を掛ける。
「貴方・・・兵がここも危険と言っております・・・それと、あの子達は大丈夫かしら?」
「心配するな、リギーナ。私の息子達だ。時間以内に戻ってくるだろう・・・」
「そうでよければ良いのですが・・・嫌な予感がします」
リギーナと呼ばれたアドムズの妻は、自分が腹を痛めて生んだアバンとリガンの事も心配で不安になっていた。あることを思い出したアドムズは、先にゲートへ向かおうとしたリギーナを呼び止めた。
「そうだリギーナ、キニフィムはどうした?説得はできたのか?」
ちなみにキニフィムとは、アドムズとリギーナの娘の名前である。二人の表情から伺う限り、娘のキニフィムに何かあることは間違いないが。
「あの子は取り残された民の為に残ると言いました。これ以上の説得は無意味でしょう」
「そうか・・・あの子は我々よりもこの国を愛していたな。また舞い戻ってくると言ったのに、融通の利かない子だ」
「えぇ、皇族の者が全て逃げるわけには行きませんからね。民と共に勝利者から耐え難い屈辱を味わうことになりましょう」
「本当に残念だ・・・ここに舞い戻ったら、私達は謝らなければいかんな・・・」
娘のキニフィムが居るとされる方向に視線を向けた二人は、哀れむ気持ちで見ていた。そこへ赤子のサベーヌを片手で抱いたリガンが来る。
「父上ぇー!母上ぇー!」
息を切らしながら、リガンは父と母であるアドムズとリギーナの元へ来た。彼の服装は全身血塗れであり、左手に抱えた赤子を包む白い布が赤く染まっており、ここまでかなりの数の敵と遭遇し、死闘を演じてきたことが分かる。
外傷は運が良いのか頬に付いた掠り傷一つだけで、赤子のサベーヌには敵の返り血だけが付いているだけだ。
「おぉ、リガンよ・・・無事に戻ってきたか。それに何故お前が我が孫であるサベーヌを抱いて居るのだ?」
「アバンは一体どうしているの?」
「はい、訳をお話しします」
リガンはサベーヌを近くにいた直属の兵士に預け、理由を話した。
「グラージを迎えに行ったのか・・・だが、もうあそこは敵中の中だぞ。ここから見ても敵の戦車と呼ばれる兵器と敵兵が殺到しているのが見える・・・」
「おぉ・・・キニフィムに続いてアバンまで・・・!」
理由を聞いたアドムズは、アバンは妻諸共助からないと判断し、リギーナは自分の息子が助からないことが分かり、同時に二人の子を亡くすことにショックを受け、その場で泣き崩れた。この場に姉が居らず、母が姉の名前を言いながら悲しんでいることに疑問に思ったリガンはアドムズに訳を問う。
「姉上が・・・訳をお話ください。父上」
「あぁ、お前も知っているだろう・・・キニフィムはこの場に残ることにし、残された民と共にムガルの崩壊を見届けるつもりだ」
答えを聞いたリガンはショックを受け、声を荒げながら父を責めた。
「な、なんと愚かな・・・!姉上も分かっているはずだ!皇族や王族の女がどれだけの辱めを受けることを!何故、無理にでも連れて行こうとはしなかったのですか?!」
「あの子はとても優しいのよ・・・敵にも慈悲を掛ける・・・そしてアバンも・・・!」
泣きながらも答えた母に、リガンは沈黙した。まだ兄と姉が助かるかと思い付き、リガンは槍を持って、二人を助けに行こうとしたが、父であるアドムズに左腕を掴まれ、止められる。
「止せ、リガン!アバンもキニフィムももう助からん!二人がいる場所はもう既に敵中にある!!お前まで死ぬつもりか?!」
「お放しを父上!まだ二人は助かるのです!!私ならあの様な雑兵共、いくら居ようと・・・!」
リガンが言い終える前に、直属の護衛部隊の幹部らしき男に腹を思いっきり殴られ、気絶しそうになっていた。
「き、貴様ぁ・・・!何故、私を・・・?!」
「お許しください、リガン様。この行為は父と母が貴方まで失わせない為の物なのです・・・」
その男の言葉を聞き終えたリガンは気絶し、直属の兵士達にゲートまで連れて行かれた。
「ムガル皇帝、どうか私に斬首を!貴方の息子様を殴ってしまい・・・」
「止せ、ドゥーフ。今のは助かった。まだ未熟なリガンに対して必要な処置だ。これ以上私と妻は息子と娘を失いたくはない」
「ハハッ、有り難き幸せ!」
膝を床に付け、首をアドムズの前に差し出すドゥーフと呼ばれる護衛の男にアドムズは礼を言った。それに対し、ドゥーフも頭を下げて、自分を処罰しない主君に感謝する。
そのアドムズは悲しむリギーナに手を差し伸べ、立たせた後、ゲートに視線を向けた。
「さて、行くか。また舞い戻る準備をしなければな・・・!」
「えぇ・・・死んでいった兵と民達、この世界に取り残された民の為にも・・・!」
そう決心した二人は、その場にいた護衛と側近達と共にゲートへと足を運んだ。
主君と皇后が居なくなったムガルは崩壊寸前であった。
銃声・砲弾の着弾音・怒号が飛び交う瓦礫に埋もれた帝都にて、カメラを持った野戦服の女性とエリーゼがマイクを持ちながら、戦地実況を行っていた。
「もうムガル帝国は崩壊寸前です!我が軍の擲弾兵が敵の雑兵達を次々と打ち倒しております!!」
右手にマイクを持ちながらカメラに向けて熱く語るエリーゼ。彼女が左手で向ける方向には、ドイツ国防軍陸軍の印象的な野戦服と鉄兜を被った5人の兵士が居り、右手や左手に持った小銃や短機関銃で敵兵を抑え込んでいた。
Ⅳ号戦車F2型が丁度現れ、75㎜の長砲身を敵兵が居るとされる場所に砲口向ける。撃とうと思った瞬間、キューポラから戦車長が出て来て、撮影班とエリーゼに向けて下がるように叫ぶ。
「そこの宣伝部隊!その場から離れなさい!!」
「え、直ぐに離れろ?ちょ、引っ張んないで!!」
突如現れたMP40を持った将校に襟を掴まれ、エリーゼはⅣ号から力尽くで遠ざけられた。
数秒後、Ⅳ号の43口径の砲身の長い75㎜砲が唸った。耳が潰れる程の砲声で、近場にいた兵士達が耳を抑えて口を開ける。その砲声はエリーゼ達にも聞こえ、彼女の顔は驚きの声を上げた。
「す、凄い・・・!」
カメラを持った兵士は砲撃の様子をちゃんと映していた。
「戦車が来たら離れること!!」
「あ、はい・・・以後、気を付けます・・・」
将校から注意を受けたエリーゼは呆気な返事を返した後、別の戦闘区へ向かった。やがてムガル帝国の抵抗が消えていき、銃声や爆破音も徐々に消えて行く。
暫し休憩していた実況小隊に、小銃を持った兵士が報告に来る。
「あのデカイ宮殿がもうすぐ陥落寸前!」
「えぇ!?直ぐに行かないと!早くして!!」
その報告を聞いた水筒の中身を飲んでいたエリーゼは休憩していた撮影班を急かし、皇帝無き宮殿に向かった。実況小隊は宮殿に向かう戦闘車両を中心とした車列に加わり、直ぐに乗れるようなⅢ号突撃砲の上へ強引に乗り込んだ。
無論、車長が怒鳴ったが、エリーゼがいつの間にか手に入れたまだ満タンの酒瓶を渡し、宮殿まで乗せて貰うことにした。
数分後、撮影班とエリーゼは宮殿に到着。神聖百合帝国の国旗を持った数十名が多数の兵士達と共に宮殿の中へ入っていく。
「あっ、我が神聖百合帝国の国旗を持った擲弾兵が宮殿内に入いります!私達もこの輝かしい瞬間を目に焼き付けましょう!!」
それを見たエリーゼはカメラに向かって熱く語った後、彼女等についていくことにした。宮殿に入る前に、出て来た将校に止められた。
「ちょ、カメラ止めて!」
「え、何でです?」
抜けた質問をするエリーゼに対し、将校は宮殿の方に指を差して答えた。
「映せない死体が大量にあるから!そうでなければ通せない」
もちろんエリーゼ達はその条件に従い、急いで国旗を持った兵士達の後を追った。宮殿内に入ると、室内が血で染まり、死体から飛び散った内臓が辺りに散乱し、首や四方が飛んだ死体が転がっており、誰か誰だか分からない程の損傷の激しい死体まである。
そのおぞましい光景を見たエリーゼは血で真っ赤に染まった質の良い床に向けて嘔吐した。
「こりゃあ、映せない訳だべ」
カメラを担いでいた女性兵士は周りに広がるおぞましい光景を見ながら呟いた。階段は死体から流れ出た血で滑りやすくなっており、階段を上がろうとする旗の搬送者が転ぶほどであった。
階段を上がる度に、先行して空挺降下した空軍の降下猟兵や後から突入した陸軍兵士の死体が増えていく。
「うぅ・・・怖いよ・・・お母さん・・・!」
エリーゼが大量にある無惨な死体を見て震えている中、もうすぐ屋上に差し掛かる前に、階段が瓦礫で塞がれ、海軍歩兵・降下猟兵・擲弾兵が必死で瓦礫を退けようとしていたが、手間が掛かると判断した旗を搬送する兵士達は別の道を探し始めた。撮影班もそれに続く。
道中、妻と共に息絶えたアバンの死体を見つけたエリーゼだが、栄光なる瞬間を優先し、その場に止まらず旗を持った兵士の後へ続いた。数分後、旗の搬送者が屋上へ到着し、全体に見える場所へと旗を掲げた。この場には映せないような死体が無いので、カメラで撮影を始めた。
「格好良く映ってる?」
旗を掲げる年若い女性兵士がエリーゼに聞くと、彼女は笑顔で答えた。
「もちろん映ってるよ!」
カメラに目線を向けた後、勝利した事を大々的に伝えた。
「ご覧ください!我が軍の勝利です!!また我が軍は強大な敵を打ち負かしたのです!!我が軍に敵無しです!!」
唾が飛ぶほど熱く語ったエリーゼは興奮冷めず、マイクを捨てて屋上で戦勝を祝う陸・海・空の兵士達の元へ向かった。
MKb42と呼ばれるStg44の前身である突撃銃を持つ兵士が空へ向けて連発で撃った後、その銃声を聞いた他の兵士達が、それぞれ手に持つ小火器を空へ向けて撃ち始めた。この光景を見ていたムガルに居たムガル帝国の兵士達は、耐え難い敗北感を味わった。
もちろん、その帝国民達が受けた屈辱は最大であり、特に皇太子妃であるキニフィムが受けた物は最大である。
こうしてムガル歴789年を持ってムガル帝国は滅亡した。
皇帝と皇后、まだ戦力は残っているが、この世界には存在しない為、滅亡したことになっている。ムガル暦から新暦元年と暦名は変更され、神聖百合帝国による占領政策が始まった。
かつて巨大帝国の栄えた帝都ムガルにあった美術品と金品財宝は全て軍に取り上げられ、技術力や魔術力も吸収された。取り上げる物が無くなったかつての大帝国の地は、管理しやすくする為に五つの国家に分断された。
その際にムガル帝国を象徴する建造物は破壊尽くされ、帝都ムガルにあった損傷が激しかった宮殿も解体され、占領軍の本部として新しい城が建てられた。この城が後程、フォールド王国の象徴となった。
そしてさらに時は経ち、新暦26年。
ムガル帝国を打ち倒した神聖百合帝国は勢いに乗って、陸・海・空・親衛・予備軍合わせての総兵力2500万の内、前回の950万人よりもさらに多い2000万人と言う大兵力を投入し、自分達の世界を蹂躙した同技術レベルの侵略者の世界へと侵攻したが、地形や環境の悪さで進撃速度が低下し、半分の距離まで行ったところで逆に追い詰められた。
長引く戦争で戦力の喪失を徴兵で埋めることが徐々に出来なくなってきた。侵攻から17年経った日に撤退戦へと変更し、徐々に自分達の世界と繋ぐゲートがある拠点へと後退していった。
侵攻から21年目に圧されに圧されて侵略者の世界から軍は完全撤退。ゲートは時限式爆弾で爆破処分、これで戦力を立て直して、再び侵攻を行おうとした。
総兵力2500万は1800万までに減少、帝国全軍参謀本部は宇宙から攻めてくると予想し、宇宙軍を設立して、軌道上に全艦隊を展開させるも、全くの効果無し。
総統クレメンティーネ・フォン・ブランシュバイクは、かつてムガル帝国のあった地を侵攻すると予想し、自身の私兵と同様の精鋭揃いの親衛軍と正規軍陸軍のA軍集団、海軍の第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊、空軍の第1航空艦隊、第3航空艦隊、総勢200万の兵力と共に向かった。
しかし、予想は大いに外れて合衆国・連邦を始めとした侵略者達の連合軍は再び百合帝国のある世界に物量に物を言わせて再侵攻。この時の為に、壊滅した陸軍・海軍・空軍の部隊で編成した国民擲弾兵師団や空軍野戦師団、やけくそ気味の部隊を次々と迎撃に向かわせる物の、連合軍は化学兵器などを使用して、次々と突破していく。
それでも残った正規軍や戦力地域から徴兵した者や志願した義勇兵を中心とした親衛軍、戦力補強に編成した部隊は粘り強い抵抗を続け、5年ほど持ちこたえる事に成功するが、頼みの綱であるクレメンティーネの軍勢が居る世界にて大規模な反乱が連合軍の本土の大陸侵攻と同時に起こり、援軍すら出せない状況に陥った。
各地でまだ長期戦闘が行える大規模な部隊は存在していたが、連合軍の圧倒的な兵力に分断され、完全に本土は孤立した。
本土にあった兵力は本土侵攻してきた連合軍の兵力850万に劣る700万であり、装備は整っている物の、兵士の身長が180㎝代から女性と同じ150㎝代に低下し、兵質は最低になっていった。
神である永久女帝、マリに全軍参謀総長や最高司令部総長、親衛隊長官は効果的な対策法を神にすがる気持ちで問うが、彼女には軍事に対して才があった物の、出した案の効果は全く無く、悪戯に領土を減らすだけであった。
そればかりかマリは形勢逆転を狙い、本土に残っていた全ての精鋭を連合軍の世界へ再侵攻を命じ、帝都を守る精鋭部隊だけを全て、再侵攻の為に注ぎ込んだ。敵の主力がこちらに向いている間に精鋭のみで編成された陸・海・空軍合わせて3個軍と自身の娘が両方とも指揮する親衛軍2個軍集団が敵の本土を全て落とす作戦だ。
もちろん、侵攻軍が敵の首都を落とすまで残った部隊で、敵の猛攻から耐えきれなければならない。
例え敵中の中にいる彼女等がやり遂げたとしても、首都ウンディーネは陥落してる頃だ。
侵攻軍が失敗した場合、神聖百合帝国は滅亡である。誰もが成功しないか、連合国全ての首都を潰して成功しても帝国は崩壊と模索したが、これが結果的に成功するとは誰も思わなかった。
この時、本国が危機にあったことと、マリが成功の兆しもない作戦を知った不在のクレメンティーネは、神聖百合帝国滅亡と判断し、ワルキューレとマリの許可を取らず接触。百合帝国の領土を全て明け渡す事・最高司令官の地位・連合軍に侵攻されている本土を女性のみで編成された部隊で開放することを条件に、自身に従う者達と共にワルキューレの軍門に下った。
国を売った売国奴として扱われる筈だが、クレメンティーネは本国にいるマリと全ての友軍を助けることができると判断した。
地獄となった首都防衛戦が行われた直後に百合帝国の侵攻軍は再度連合軍の世界へと侵攻開始。連合軍はほぼ全ての戦力を百合帝国の世界へ送り込んだことが徒となり、守備隊は次々と壊滅していき、侵攻軍は一気に各連合国の首都へ攻め入り、首都攻撃を開始する。
一方、ウンディーネに攻撃を開始した連合軍であったが、百合帝国側は帝都に住まう市民までも兵士として投入、戦闘は激しさを増し、帝都は敵味方の死体で溢れた。一ヶ月間の戦闘で敵味方合わせて約69万人相当が死に、ウンディーネはもはや陥落寸前だった。
だが、ウンディーネにはマリは居らず、自身に従う者達と共に大陸の聖域に立て籠もり、自ら作り出した不老不死の少女ルリこの世界へ呼び出し、自国が滅亡の危機にも関わらず愛し合っていた。
地獄の首都防衛戦は、死傷者数700万人になったと同時に首都防衛を指揮していた陸軍元帥の降伏声明でウンディーネは陥落。
だが、連合軍は勝利の美酒を味わうこともなく、連合軍を遙かに上回る物量を持つワルキューレが介入し、疲弊しきった連合軍は次々と壊滅していった。
その37分後に侵攻軍が、少ない損害で作戦を達成させた。見事マリは形勢逆転を成し遂げたが、神聖百合帝国の主立った者達は殆ど死んでおり、国の再建はもう不可能であり、ワルキューレに全ての領土を明け渡した。
新たな侵略者と判断した百合帝国の敗残兵達は、圧倒的な物量を持つワルキューレ相手に徹底抗戦の構えを見せていたが、ワルキューレに保護されたマリが全軍武装解除命令を発令。主君の命に従い、殆どの部隊がワルキューレの武装解除に応じたが、一部が応じず、世界から脱出し、軍の保管庫から盗んだ転移装置を持って、栄光なる日々に戻るべく、各異世界へ散っていった。
かつて百合帝国が存在していた世界はワルキューレの一大拠点となり、連合国の世界はマリの二人の娘が合衆国と連邦のゲーム感覚で冷戦を行われ、ムガル帝国が存在した世界はムガル帝国の手に戻る事は無く、マリの一番下の娘マリアーゼと唯一の息子グレゴール・フォン・マキシルダーが建国したインペリウム帝国とクールラント連邦の二つの国家が存在するだけだった。
ちなみに、マリはルリと愛人、自身に従う忠実な部下達と共にマリアーゼのインペリウムに隠居している。
だが、かつてムガル帝国が栄えた世界に、さらに進歩を遂げたムガル帝国が舞い戻ることとは、その世界に住む者達は誰も思わなかった。
良く見たら、ルビが一つもねぇな・・・
これからの展開に、主人公の軍事の才能が無いと駄目だな・・・