復讐者の世界周り Weltdrehung des Rächers   作:ダス・ライヒ

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転落の地へ

帝国暦349年。

 神聖百合帝国がある世界にて、森林地帯を進むソビエト赤軍の機甲部隊があった。

 だが、彼等は共産主義者では無いし、彼等の属する国は社会主義国家でもなく、この世界の住民ではない。

 複数の国家の集合体である連邦だ、国土はロシア並みの広大だが。そんな彼等が女性主義もとい、男性は奴隷兵士のような扱いされている世界にきたのは報復の為である。

 今、彼等が足を地に付けている場所は、神聖百合帝国の本土がある資源豊富で環境が整ったそれなりの面積を持つ大陸だ。

 大陸は南の方に位置し、大規模な戦争をする資源も揃い、人口も2億7000万人と多い。報復の理由は自分達の世界で市町村の破壊、住民の大量殺害、略奪等を含めた蛮行だ。

 無論、先に連邦が合衆国と共に神聖百合帝国を攻撃し、略奪や強姦等の蛮行を犯したのが原因であり、彼女等が連合軍の世界に報復の為に出たのは無理もないが。

 話を戻して、T-34/85中戦車、SU-85対戦車自走砲、SU-122突撃砲、IS-2の車列の横を進むソビエト赤軍の小火器を持つ歩兵部隊の中にムガル帝国の生き残り、同じような軍服を着たリガン・ゾア・ペン・ムガルが居た。

 何故、ここにいるのかは、祖国ムガル帝国を滅ぼした百合帝国への個人的な復讐である。手に抱えているのはSVT-40で、頭に被っている将校帽から後ろに括った紫色の髪が見えている。

 腰のガンホルスターに仕舞ってあるのはTT-33トカレフ、安全装置がないので訓練を受けていない兵士が持つことが危険とされる自動拳銃とされているが、あらゆる面で才能を持つリガンにとっては容易に扱える自動拳銃だ。

 他は腰に差してあるムガル帝国崩壊後から持っている剣だ。周りにいる兵士達から見えるリガンの姿は実にシュールだろう。他の兵士達は気にしてはいけないと判断し、雑談を交わし始めた。

 

「なぁ、俺達勝ったらこの世界にいる女を好き放題抱いても良いんだろう?」

 

「馬鹿かテメェは、この世界もとい百合帝国とか言う女とヤったら性病に感染しちまうんだぞ。やるとしたら連れてきた娼婦にしておけよ」

 

「ふざけんなよ。この世界の女はみんな美人だ!この戦争に勝てば、みんな俺達の性奴隷なんだぞ!嬉しくないのか?!」

 

「嬉しい訳ないだろう!あいつ等人間じゃないんだぞ!それにみんな性病を持ってるに違いないんだ!」

 

「お前、家族を殺されたことをまだ値に持ってやがるのか・・・良いよ、後で抱きたいとか言ってもハレームは渡さないからな!」

 

 IS-2の車体の上にいる二人の兵士は途中から口論となった。

 周囲を警戒しているのは殿を勤めるT-34/85の戦車長と先行している円形型の弾倉が特徴なPPsh41短機関銃を持ったヘルメットを被ったほんの数名の兵士達だけだ。

 そんな彼等を狙うのは公道の左右に広がる森林に身を潜める百合帝国軍の兵士達だ。

 かつては女性の身でありながら平均175~180㎝以上の長身の兵士達で溢れていたが、今では150㎝代に下回る程になり、装備は整ってる物の軍服がブカブカの者も居り、見るだけで百合帝国が疲弊していることが分かる。そればかりかパンツァーファウストと呼ばれる使い捨ての対戦車火器を持った顔付きが幼い少女まで居り、年端もいかない少女まで戦闘に参加していることがもう百合帝国の末期であることを示している。

 茂みに隠れた対戦車砲Pak40の砲手達は殿のT-34に砲身を向け、連続射撃に備えて頭に包帯を巻き、その上からヘルメットを被った女性兵士が75㎜徹甲弾を抱え、木の葉を付けたヘルメットを被った少女が三脚を付けたMG42を構え、弾詰まりが起きないようにベルト式弾帯をもう一人の少女が両手の上に置いており、もう一人は双眼鏡を覗く。軽駆逐戦車ヘッツァーは森に溶け込みやすいように周りの枝や葉っぱを使って上手くカモフラージュしていた。

 もちろん48口径の75㎜対戦車砲は後続のT-34に向けられており、年端もいかぬ少女や新兵が持つパンツァーファウストやパンツァーシュレックは主に戦車に向けられている。MG42・MG08重機関銃等を始めとした機関銃は敵歩兵部隊に銃口を向けた。

 対戦車砲と同じく茂みに隠された2㎝Flak(フランク)38機関砲も機関銃と同じく敵歩兵部隊に照準を合わせている。彼女等の装備を見た所、普通の末期時のドイツ軍だが、持っている小火器や着ている軍服が違う者まで居た。

 木の葉などを巻いてカモフラージュした38式歩兵銃を持ち、それに合わせた軍服を着た兵士、木の枝に乗っている同じドイツ陸軍の戦闘服を着ていた兵士だが、持っている武器が弓矢な者まで居る。

鏃には爆弾らしい物が取り付けられている。

 もちろん、ただの構えている訳じゃなく、連邦軍の機甲部隊の進む道にSマイン等を仕掛けており、爆破範囲は前方を警戒しながら進む殿の複数の歩兵を十分に全て片付けられる程の威力だ。彼女等は殿の敵歩兵が引っ掛かったのと同時に攻撃を開始する。

 これが成功すれば間違いなく連邦軍の機甲部隊の損害は計り知れないだろう。

 だが、数の差で押し返される可能性があり、それを踏まえてパンターG型中戦車10両を中心とした戦車部隊がこちらに来る予定だ。

 そんな自分達を待ち受ける彼女等を思惑通り、短機関銃を持つ殿の兵士がSマインに引っ掛かった。

 

「Sマインだ!伏せろぉー!!」

 

 直ぐに伏せようとする引っ掛かった兵士であったが、数秒遅く、爆発した後に飛ばされた多数のボールをまともに食らって挽肉になった。近くに居た兵士達も飛ばされたボールを食らって死ぬか悶え苦しむ。

 

「うわぁぁぁぁ!?て、敵襲だ!迎撃しろ!ワッ!!」

 

 T-34のキューボラで、事の事情を見ていた戦車長は後続の部隊に敵の存在を知らせたが、Pak40の砲撃を受けて絶命する。

 

「て、偵察部隊と斥候は何をしていたのだ!?」

 

 安全と思われたルートに突如敵が出現した為、戦闘に近い場所で銃声を聞きつけて激怒する部隊指揮官。その場にいたリガンも手に持つ自動小銃で応戦を始める。

 爆弾矢で射抜かれた兵士は周りにいた兵士を巻き込んで爆死、機関砲の砲声も響き、身を隠す場所を探す兵士達の身体を次々と切り裂き、小火器の鎮圧射撃もあり、次々と地面に連邦軍の兵士達は倒れて行く。

 

「茂みに対戦車砲や機関砲が隠れて居るぞ!榴弾を装填し、各個撃破。うわぁ!!」

 

 車内に居た戦車長が言い終える前に、殿の後ろにいたT-34がヘッツァーの攻撃を受けて大破した。僅か数秒で撃破された2両のT-34/85に続くかのように次々とT-34やSU-85、SU-122が歩兵の対戦車火器で葬られていく。

 それでも応戦する連邦兵達であったが、適当に弾が飛んでくる方向に撃つだけで、敵兵の一人も殺せずに散っていった。砲弾を弾き返すIS-2の上にいる兵士はキューポラに取り付けられた車載搭載機銃であるDShk重機関銃のコッキングレバーを引き、連続して弾が飛んでくる方向に向けて引き金を引こうとしたが、やって来たモシン・ナガンM1891/30小銃を持つ兵士が止めに掛かる。

 

「止せ!挽肉にしたらやれない!!」

 

「うるせぇ、黙ってろ!この死姦好きが!!」

 

 そう止めに掛かった兵士に告げた重機関銃に座る兵士は、引き金を引いて無闇に撃ち始めた。木々が折れる音が鳴り響き、同時に肉の避ける音が微かに聞こえる。

 二人が居るIS-2は飛んでくる徹甲弾を弾きながら、砲身をヘッツァーが居る方向に向け、122㎜戦車砲を唸らせた。

 リモコン式MG42を撃ちまくるヘッツァーは122㎜弾を正面に諸に食らって大破。攻撃を受けた正面は恐ろしく拉げ、車内にいた乗員らしき腕や足が見えている。

 一方、左右の森林から銃撃を受けるリガンは破壊された戦車や突撃砲、駆逐戦車に身を隠し、敵の位置を確認していた。

 

「このような手を使う程戦力が衰退がしてきたか、百合帝国め。だが、貴様等には滅亡有るのみ!」

 

 言い終えた後、素早く遮蔽物から身を乗り出して、枝の上からkar98kを撃っていた女性兵士に目掛けて撃った。

 弾丸は二発とも胴体に命中し、枝の上にいた女性兵士は地面に落ちて絶命した。

 次に火炎瓶が複数、林や茂みから投げ込まれたが、リガンはそれを素早く察知し、味方に知らせることもなく、直ぐに銃弾を避けながらこの場を離れた。火炎瓶を諸に受けた味方の兵士達は前身に火が燃え移り、もがき苦しみながら暴れ回る。

 

「うわぁぁぁぁぁ!熱い、熱い!」

 

「誰か水を!水を掛けてくれ!!」

 

「あぁぁぁぁ!助けて、助けて!!」

 

 惨劇を見ていたリガンであったが、銃弾を避けるのに必死で助けてやることも出来なかった。

 後ろからMP40を撃ちながら出て来た敵兵に気付いたリガンは素早く銃口を向け、頭を狙い撃つ。一瞬でこの世と別れを告げた敵兵は短機関銃を撃ちながら倒れた。

 待ち伏せていた敵は連邦軍が退いていくのを見て、さらに戦力を削ぐ為に茂みから出て来て追撃を行う。これ以上、この場にいては数の差で圧されると判断したリガンは退いていく味方の後を追った。

 

「直ぐにこの場から退避しろ!味方の砲撃が始まる!!」

 

 PPs43を持った将校が、味方の砲撃が来ることを退いていく兵士達に告げた後、敵の狙撃兵に頭を撃たれて死んだ。

 

「後ろの奴、早く出ろ!グワァ!!」

 

 これ以上の損害は出さないように戦車部隊も下がり始めたが、百合帝国の対戦車猟兵がそれを逃すはずもなく、次々と撃破されていく。

 

「うわぁぁぁ!茂みから敵兵が出て来たぞ!!」

 

 下がり始める歩兵部隊は左右の茂みからから出て来た敵兵士に側面を突かれ、次々と公道に倒れた。

 

「ぬっ、挟まれたか!」

 

 リガンも乱戦に巻き込まれ、襲ってくる敵兵や手負いの敵兵相手に腰に差した剣で斬り捨てる。

 

「えーい!そこを退け!敗残兵共が!!」

 

 ガンホルスターに仕舞った拳銃も抜いて、進路上に邪魔になる敵兵を撃ち殺していくリガンだが、そんな彼の目の前に、ステン・ガンに似た短機関銃MP3008を持った少女が立ち塞がる。

 

「小娘、命を欲しくは道を空けろ!!」

 

 目の前で短機関銃を向ける少女に告げるリガン。その少女は紛れもない美少女だが、今の彼にとっては邪魔なだけの存在だ。

 

「母さんを殺した奴はみんな死ね!!あれ?」

 

 聞く耳持たない少女はリガンに向けて短機関銃を撃とうとしたが、どうやら弾切れであったらしく、引き金を何度も引いていた。その隙にリガンは少女を茂みに向けて蹴り飛ばした。

 

「命あったと感謝しろ!」

 

 茂みに飛ばされた少女に告げながら、安全圏に向けて走るリガンであったが、時は既に遅く。もう砲撃が始まった後だった。

 

「まだ俺達が」

 

 一人の兵士が空から飛んでくる砲弾を見て、叫ぼうとした瞬間、彼の上に砲弾が落ちて着弾した。それと同時に次々と砲声が鳴り響き、その場にいた敵味方問わず吹き飛ばしていく。

 

「おのれ、味方という存在もありながら!」

 

 味方諸共砲撃に晒す指揮官に悪態を付き、リガンは重い装備を外して砲撃が凌げる場所を探し回る。悲鳴が響き渡る中、砲撃を凌げそうな洞穴を見付け、直ぐさまそこに向かうが、一人分しか入れない上に先客まで居た。先客は味方の兵士であり、階級もリガンより下だが、今は自分の命を優先し、リガンに向けてDP28を向けて撃ってきた。

 

「ここは先に俺が見付けたんだ!お前はおとなしく死んでろぉー!!」

 

 もちろんリガンは早く動けるようにSVT-40を捨ててしまった為、今撃てるのはトカレフしか無い。

 だが、生憎トカレフも全て撃ちきってしまい、弾倉も捨ててしまった。どれを使うか答えは一つ。愛用の剣で相手を始末することである。

 

「な、なんだこりゃあ!?銃弾が防がれて・・・」

 

 銃弾を魔力で造ったバリアで防ぎつつ、錯乱した兵士に接近し、彼の頭を飛ばした。

 凌げる場所を確保した彼はそこへ身を隠して砲撃をやり過ごそうとしたが、砲弾の雨の中で、一人の少女が呆然としながらこちらへ向かってくる。いつ砲弾を食らうか分からない状況で、少女はゆっくりと歩きながらこちらへ向かってくるのだ。

 リガンはもう少女は助からないと判断し、顔を背けた。近くで砲弾が着弾し、リガンが隠れていた洞穴が吹き飛び、リガンは吹き飛ばされた。

 彼が地面に叩き付けられるのと同時に砲撃が止み、泣き叫ぶ兵士達の声が耳に入ってきた。自分の身体が何処も吹き飛ばされていないと確認した後、立ち上がって周囲を見渡した。

 砲撃が終わった後に景色は一変し、荒れ地となっていた。無惨の死体で溢れ、焼けた肉の臭いがし、黒煙が舞い上がる。そんな光景に呆然としていたリガンの足下を何者かに掴まれた。

 掴まれた右足に感覚を覚えたリガンは右足に注目すると、無くした下半身から骨や内臓が見えた少女が自分を見ていた。

 

「お母さん・・・お母さん・・・」

 

 幻覚を見ているらしく、リガンのことを自分の母だと思っている。この少女も十分に美少女であり、きっと母親も美人であったであろう。

 そんな事を考えたリガンは右足から少女の手を退けた後、味方の陣地へ戻る。

 

「待って・・・お母さん・・・」

 

 這いずりながらリガンの後を追う少女。リガンは無視するが、少女はしつこく追ってくる。やがて少女は大量出血で息絶えた。

 彼は振り向くことなくそのまま進んだが、一人の敵兵の死体に差し掛かった辺りで、M39卵型手榴弾の安全ピンを抜いたまま握られている事に気付いた。

 

「ハッ!仕舞った・・・!」

 

 手榴弾は爆発し、リガンは遠くまで吹き飛ばされた。

 

 場所は変わって、何処かの寝室。高級ベットでリガンが勢いよく目覚めた。

 

「ハッ!!はぁはぁ・・・あの時の夢か・・・」

 

 良くない思い出を夢で見ていたらしく、眉間を掴みながら思い出した。落ち着いた後、鏡の前に立って、目の前に映る自分の姿を見ながら思い出す。

 

「(ムガルから脱出して35年余り・・・そしてあの戦闘から9年か・・・ようやく我々が故郷の地へ戻れることが可能となった・・・)」

 

 数秒間見てから窓に向かい、カーテンを開いて目の前に広がる光景を見る。

 

「(向こうでは100年以上が経ち、ムガルのことなどとうに忘れている頃だろう・・・だが、ムガルから脱出した我々は決して忘れん!忘れているなら我々が思い出させてやればいい、ムガル人としても誇りを・・・!)」

 

 ムガルの目の前に広がる光景は、近未来的デザインの兵器群が並べられた倉庫であった。かつて魔法が主流だった国家とは思えないほど近代化しており、浮遊する戦闘車両まであり、V-22オスプレイのローターがジェットエンジンに変わった輸送機まである。

 暫しリガンがその光景を見ていると、通信機のアラームが鳴った。通信機の近くまで足を運び、スイッチを押して出る。

 

「何事だ?」

 

『ハッ、リガン様。皇帝陛下がお呼びになっております!”時は満ちた”と』

 

「遂にこの時が来たか!直ぐ支度をする。それまで父上に待つよう伝えろ」

 

『ハッ!』

 

 自分の父であるリガンは”時は満ちた”と言う言葉を聞いて、遂に祖国に舞い戻ることを察し、身支度を始めた。

 ムガル帝国の皇太子の衣装を身に纏った彼は部屋を出て、父であるアドムズが居る場所へと向かった。道中、近未来的装備の兵士達がリガンの姿を見た瞬間、直立不動状態となり、敬礼する。

 

『ムガル帝国万歳!!』

 

 リガンもその敬礼に対し、笑顔で返した後、母国ムガルへ舞い戻ることを伝えた。

 

「喜べ我が将兵達よ、遂に我が祖国ムガルへ帰ることが出来るぞ!」

 

「ホントですか!?遂にこの時が・・・!息子や娘に本来住む場所を見せることが出来ます!」

 

「やったー!遂に帰れるぞー!!」

 

「ムガル帝国バンザーイ!!」

 

 近代化した装備の兵士達の歓喜に包まれる通路、リガンは自分達が本来住んでいる土地へ帰れる事を喜ぶ兵士達を見て、微笑みながら、父の元へ急いだ。歓喜に包まれる通路を出ると、道を空けるかのように左右に居る全身が隠れるまである黒い衣を纏った大勢の集団がリガンを見るなり跪き始めた。

 

「我々を冥府から生地へ帰した頂いたことを感謝いたします!」

 

「このご恩、一生忘れません!貴方様と皇帝陛下、ムガル帝国のこの命を捧げます!」

 

 次々と感謝の言葉を告げる黒い衣を纏った集団であったが、リガンは無視してアドムズが居る玉座の間へ足を運んだ。リガンの姿が無くなった後、一人が地面に向けて唾を吐き、悪態付いた。

 

「チッ、こんなに媚び入れてるのに無視かよ」

 

「馬鹿野郎、首を飛ばされるぞ!」

 

 ちなみに一度死んだ者達であり、生前に悪事を働いた者達である。中には死よりも恐ろしい罪を犯したにも関わらず、未だ反省もしていない者まで居り、それがリガンの気に食わない原因であるだろう。

 

『総員気を付けぇ!敬礼!!』

 

 玉座に続く通路にはいると、並んでいた様々な国の兵士達がリガンを見た瞬間、直立不動状態となり、敬礼した。敬礼で返した後、玉座の間の巨大なドアを開け、中に入った。

 玉座の間には側近らしき人物が数十名程揃っており、以下にも四天王と思える4人がリガンから見た左側に並んでおり、右側には10人の白い衣を纏った者達が並んでいる。玉座に座るアドムズの前まで足を運んだ後、膝を付いて頭を下げた。

 

「リガン・ゾア・ペン・ムガル第2皇太子!父君である皇帝陛下のご命令により参上いたしました!して、お呼びした用件は・・・?」

 

「面を上げい、我が後継者リガンよ・・・用件は大方察しが付くだろう・・・?」

 

「”時が満ちた”ですね?」

 

「左様、遂に我が祖国、ムガルの地へ帰る時が来たのだ・・・!サベーヌからの情報によると、我が帝国を滅ぼした者までそこにおる・・・!」

 

「なんと・・・奴目が・・・!しかし、私は些か不安です・・・」

 

「不安?何が不安なのだ、リガンよ?」

 

 リガンは俯いた後、先程の黒い衣の集団の事を話した。

 

「国益、家族、愛する者の為に戦った者達はマシといえますが、奴らはどうも信用がなりません・・・幾ら奪還に戦力が足りないとは言え、生前に腹が煮え繰り返そうな事をしでかした連中を加えるなど、作戦に支障が来すのでは・・・?」

 

「ご安心なされ、リガン様。奴らは我々に逆らえなどしませぬ。そのような真似をしでかした場合、即刻冥府に返す事にしております」

 

「そう言うことだ、生き返らせた張本人が言っておる。お前はムガルを奪還した後のことを考えるのだ」

 

 リガンの答えを聞いて、並んでいた側近の一人、アガムストが口を開き、それを聞いたアドムズが締めた。

 

「ハッ、仰せのままに・・・では、私目は戦の準備をしてまいります」

 

「うむ、歴史に名を残す程の大勝利を期待しておるぞ」

 

「必ずや期待に沿えて!この場にいる将軍と四天王に十人格、私について参れ。参謀本部にて祖国奪還の軍議を始める!」

 

 一礼してからリガンは立ち上がった後、武人らしき幹部や側近、四天王と十人格と呼ばれる集団を引き連れて玉座の間を出た。

 

『では皇帝陛下、我々も軍議に参加しますので。失礼します』

 

 武人の集団はアドムズに一礼した後、玉座の間を出て行った。巨大なドアが閉ざされた後、アドムズがアガムストに声を掛けた。

 

「アガムストよ。次はどれくらい生き返るのだ?」

 

「一万程です。仮に奪還作戦で多くを失ってもまた補充できるでしょう」

 

「そうか・・・現地の協力者も含めると、再びムガル帝国を再建することも可能だな」

 

「ムガル帝国ですか・・・見てみたい物ですね・・・どれだけ巨大な物かと・・・」

 

 側近の中で、一人の男が声を掛けた。

 

「ン、何か不安でもあるのか?バーバブエよ」

 

 バーバブエと呼ばれた男は両手を握りながら、媚びるようにアドムズに告げた。

 

「いえ、不安などございません。私目は20年ほど前に入ってきたばかりですので、資料で見る限りかなり繁栄しているとか・・・生で見るとどんな感じか楽しみになりまして」

 

「それは栄光に満ちあふれた帝国であったぞ、バーバブエよ。それとその表情を見る限り他にも用件がありそうだが・・・?」

 

 アドムズに見破られたバーバブエは、下品な笑みを浮かべながら用件を告げた。

 

「はい・・・あなた方の帝国を滅ぼした神聖百合帝国の元女帝、マリを私目の妻に招き入れようと思いまして」

 

「貴様!他にも妻が居るにも関わらず、我が帝国を滅ぼした敵方の女帝を貴様の性奴隷に入れるだと!?ふざけるな!この余所者目!!」

 

 幹部の中にいた紫色の衣を纏った年輩の男が、バーバブエの告げた用件を聞いて声を荒げた。

 

「ジエン、静かにせよ。で、妻に入れてなにをするのだ?」

 

「えぇ、彼女は絶世の美女であり、性的な魅力もあります・・・殺すなど勿体ない・・・生かして我々が受けた屈辱を払わせた方が良いかと・・・」

 

 下品な笑みを浮かべながら告げるバーバブエに対し、アドムズは冷めたのか、その用件を却下した。

 

「何とも下品な考え方だ・・・その用件は却下する。聖女マリは罪を犯してないのにも関わらず屈辱を受けている。それも幼い時に無理矢理犯されたそうではないか・・・聖女マリの処置は即死を前提とした公開処刑と処す。リガンもそれをやるであろう。それに彼女は我が娘の墓を作ってくれた。感謝も含めて、一瞬で殺してやろうではないか」

 

「流石は皇帝陛下、敵方の王家の女性に情けを掛けることもありますな!」

 

 ジエンと呼ばれた年配の男が称えた後、一部の側近達から拍手が起こる。自分の用件を却下されたバーバブエは不機嫌そうに幹部の列へと戻っていった。

 拍手が鳴り終わった後、幹部の一人がアドムズに近付き、有ることを知らせる。

 

「”能力者殺し”が準備を整えたと言っております」

 

「そうか・・・これで聖女マリを公の処刑台へ立たせることが出来るな。では、直ぐにリガンと共に出陣せよと命ぜよ」

 

「ハッ、仰せのままに!」

 

「ムガルを奪還できて、憎きマリ目を同時に葬れるとは、一石二鳥ですな!」

 

「そのままあの女目の一族を根絶やしにしてしまいましょう!」

 

 報告に来た幹部が出て行った後、他の側近や幹部達は歓喜していた。

 

「まだ喜ぶのは早いぞ、皆の者よ。事はムガルを奪還した後にしておけ」

 

『ハッ、皇帝陛下の仰せの通りに!!』

 

 アドムズが手を叩いて幹部や側近達を黙らせて、告げた後、彼等は直立不動状態となって、主君の命に従った。バーバブエは用件が受け入れられずに不満になっていたが、ここでその態度を見せれば殺されるかと思い、一応従っておくことにした。

 

 場所は変わって、かつてムガル帝国が存在していた世界の北東に位置する大帝国インペリウム。

 美しい自然に囲まれた大きな屋敷の二階の寝室にて、一人の金髪碧眼の長身美女が、キングベットの上で一糸纏わぬ姿で目覚めた。彼女の隣には鮮やかな栗色の髪を持つ少女が、金髪美女の胸に顔を押し付け、寝息を立てながら寝ている。

 その少女の容姿は人形のようで、顔立ちも整っていて誰もが見取れそうな容姿であったが、体付きは未発達であった。

 それに比べて金髪美女は性的魅力に優れ、妖艶で胸の大きさも美少女よりも遙かに上だ。顔立ちも隣に寝ている美少女並に整っており、男が見たら確実に声を掛ける事だろう。

 

「フフ・・・可愛い・・・」

 

 目の前で眠る少女の頭を撫でながら、上着を羽織った。

 ほぼ自分の肌をさらけ出しているが、この屋敷にいる者は全て女性である為、彼女には関係ない。ドアを三回程ノックする音が聞こえ、彼女はドアの方へ視線を向ける。

 

「誰?」

 

 彼女が声を掛けると、若いメイドがドアを開けて顔を覗かせた。しかし、二人の一糸纏わぬ姿を見て赤面する。

 

「何のよう?」

 

「ヴァセレート様、手紙が届いております。外で届出の者が待っております。それとカポディストリアス様と共にお着替えを・・・着替えがなければ持ってきますので・・・」

 

 メイドは幾ら同姓とはいえ、ヴァセレートと呼ばれる絶世の美女の余りの大胆さに目をやりようがない。

 

「じゃ、持ってきて。ルリちゃんを起こしたら受け取るから」

 

「はい。では、直ぐに準備して参ります」

 

 彼女の答えにメイドはドアを閉めて、着替えを取りに行った。

 その場に残された彼女は、ベットの近くにある机の上に置かれた煙草を取り、一本取って口に咥えた。寝ているルリが煙たがらないように窓を開け、煙草に火を付けた。

 彼女の名前はマリ・ヴァセレート、かつてはマリ・シュタール・ヴァセレート・カイザーと名乗り、神聖百合帝国を創設し、自ら皇帝として君臨。人間の一つの姓を世界から消すと言う大罪を犯し、生存圏拡大と報復の為に別世界侵攻を行い、自分が数百年も掛けて育んできた大帝国は滅びた。

 現在は自分の産んだ末っ子の国に愛するルリと共に隠居生活を送っている。

 これから始まる物語は、彼女にとっての復讐劇の始まりである。

 

「転落の一歩手前か・・・それじゃあお嬢さん、全て失った後にお会いしましょう」

 

 屋敷を囲む柵に凭れ掛かっている男が葉巻を咥え、窓から見えるマリを見ながら告げた。

 当然ながら彼女にはこの男の声は聞こえていない。葉巻を口から離して煙を吐いた後、何処かへ去っていった。




二話目を投稿・・・この男の正体は後々分かります。

知っているお方は葉巻とガン黒の情報士官と言えば、分かるはず・・・でも、あのストーカーとは違うよ。
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