第壱話-帰還
……歪みを抜けると、俺には馴染み深い、そして碧愛達には初めての世界、魔界に立っていた。
「ん……」
「ああ、すまん」
俺は起きた影葉を降ろして辺りを見回した。
……どうやらここは森のようだ。ティアやエルが住んでいたのも森だったが、ここは…瘴気が満ちていてとても悪魔だろうと住める場所じゃない。
しかし……どうして葉が1枚もないんだ?
そう、何故かは分からないが木々の枝に生えているべき葉が1枚もないのだ。地面にも落ちていない……
そんな事を考えていると、後ろの方で影葉が喚いていた。
「どーして私まで連れて来たのよ!?嫌だって言ったのに!」
俺は正直に、
「お前が必要だったからだ」
と答えた。すると影葉は、
「へあっ!?」
と謎の奇声を上げて顔を背けた。一瞬だけ見えたから分かるがどうやら顔が赤い。
「おい、どうした。顔が赤く見えたが熱でもあるのか?それなら少し休も…」
「バカァ!!」
……ん?待てよ、何故俺が罵られなければいけない?
ふと碧愛達の方を向くと、こちらも俺を睨み付けていた。
「今のはラティスが悪いよ……」
碧愛の言葉にティアとエル、暁までもが頷く。
何故だ…?訳が分からん…
そう思いながら歩いていると町が一つ見えてきた。
かなりの大きさだな…あの町はまさか……いや、きっと俺の思い過ごしだろう。
そう思い俺は、
「今日はあの町で宿を取ろう」
と皆に言った。皆はまだ俺を怒りか何かの目で睨んでいたが、黙って付いて来てくれた。
町の入り口は巨大な石造りの門で、脇には門番が二人いた。
「本当に入れるの?」
碧愛が心配そうに聞いてきたが俺は、
「大丈夫だ」
と伝えた。碧愛が安心してくれたのかどうかは分からないが、とりあえず前に進もう。
門番達の前まで着くと当然の事ながら道を阻まれた。二人ともかなり体格が良い、優秀な門番なのだろう。門番達は、
「ここから先へは身分を証明出来る者しか入る事を許されていない」
と何ともマニュアル通りの事を二人同時に言われた。俺は、
「では、下民出身のこの俺では中に入る事が出来ないのかな?」
と聞いてみた。すると門番達は笑って、
「ぐはははは!当たり前だろう………って、貴方は…いえ、貴方様は…ラティス様!?」
と青ざめながら聞いてきた。
俺がそうだと告げると門番達は、
「し、しかし貴方様は魔王ルシファー様からお亡くなりになられたとの通達が…」
やはりか。自分を脅かす者は早急に始末し、その者を哀れむ様な風を装う。昔ながらの方法だな。
「そうか、それでも俺は本物なのでな。どうしても信じられないと言うのならば、試してみるか?」
俺は全身から魔力を放出した。精々十分の一程度の量なのだが、それでも門番達を震え上がらせるには十分だったらしい。
「い、いえ、その様な事は決して…ど、どうぞお通り下さい!」
と言った。
「そうか、すまないな、仕事の邪魔をしてしまって。これからもその力でこの町を守り続けてくれ」
そう俺が告げると、門番達から
「はい!」
という返事が返ってきた。
そして俺達は町の中に入っていった。その時俺はある違和感を感じていた。
そしてこの数十秒後、皆にメチャクチャに殴られる事になろうとは想像もしていなかった…
周りを見渡すとやたらと露出が多い服を着た連中ばかりだった。サキュバスやインキュバスが主だと言えば分かると思うが、ここはどうやら夜の町の様だ。
ここで俺は皆に殴られる事になった…俺が悪い訳ではないのだが…
しかし、この町に入った時に感じたあの違和感が気になる………。
そうか、思い出した。ここは俺と同じ、後継者候補の奴(貴族達)が支配している町だ。
しかし、悪魔には知恵がある奴はかなり少ない。ましてや夜の町を支配するなど…全員に会いたくないが最初からあいつと当たる事になるとは…運が良いのか悪いのかが分からんな…
マゴトが頭が良い事は前に話したと思うが、奴の次に候補者の中で頭が回るのは『アリトン』しかいない。
アリトンは日系人のような風貌で体格も中肉中背だ。とにかく目立たない。そのため、こちらから奴を探し出すのは至難の業だ。
しかし、奴はいとも簡単に探している相手を見つけてしまう。相手が目立つ奴ならば偶然と思うだろうが、奴は目立たない奴でもすぐに見つけ出してしまう。
これは奴の生まれ持った能力、〈心を読む能力〉のおかげだ。この他に奴は水の魔法が使える。奴が本気を出せばこの町を丸ごと沈める事も容易いだろう。
出来る事ならば奴に会わず、この町を去りたいものだ…。
そう思っていると背後から
「やぁ!」
と声を掛けられた。振り向くとそこには、日系で、中肉中背の男が立っていた。
やはり来たか…すると碧愛が、
「ラティス、知り合い?」
と聞いてきた。
「ああ、俺と同じ後継者候補の一人…アリトン。俺の…敵だ」
碧愛達に紹介を終えるとアリトンは、
「どうぞよろしく」
と笑顔を浮かべながら言った。アリトンはこちらを向くと、
「ラティスも久しぶりだね~、まさか生きてるとは思わなかったよ~……へー、そうやってこっちに帰って来たのか……そういえば、マゴトの腕を切ったのも君だって聞いたよ?」
と言った。俺は、
「ああ、だから何だと言うんだ?まさかあいつの代わりに戦うとでも言うつもりか?」
と聞いてみた。するとアリトンは笑い出して、
「あははははは!あの腕はあいつが君を侮った結果だ。別にどうでも良い。恨みは自分で晴らしたいだろうしね~」
と答えた。しかし次の瞬間、
「でも……君とは戦うつもりだよ?僕がこの魔界の頂点に立つために……でも僕は何よりも君の生き方が出会った時から気に食わないんだ……」
と鋭い殺気を放ちながら言った。すぐにアリトンは再び笑いを浮かべて、
「三日後に、君達が着いたあの森で待っているよ……」
そう言い残し、アリトンは人波に紛れて消えた。
「ラティス…大丈夫…?」
と碧愛が聞いてきた。皆も心配そうな顔をして、こちらを見つめてくる。俺は、
「ああ、だが念のために、あいつと戦う時は俺一人で行く。皆は町に残っていてくれ」
と伝えた。皆が頷くと碧愛が一言、
「気を付けてね」
と言った。俺は、
「ああ」
と答えた。
だが、本心は不安で仕方がない。戻って来たばかりで久しぶりに全力を出す俺と、こちらで戦う事もあっただろうアリトン。
頭脳では敵わない上に心を読まれる……もしかしたら死ぬ事になるかもしれない…
俺はアリトンとの戦いに備えて、町から離れ、久しぶりに全力で魔法を使う練習を始めた……
如何だったでしょうか?久しぶりに投稿したために不安が大きいです。楽しんで頂ける事を願います。
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