ではスタート。
神、アダムは俺の方を静かに見据えながら、玉座から立ち、話を始めた。
「数多くいる天使の中で、ルシファー程神に近く、そして、愛された天使はいないだろう。彼は全ての天使の頂点だった。
今のミカエルすらも、当時の彼の前では霞んでしまう程の偉大な存在だった……」
アダムは一旦
「しかし、そんな彼の頭にある考えがよぎった。
勿論、そんな事を持った彼を、先代は認めなかった。そんな傲慢で、自らを造りし神を崇めぬ不遜さを決して許しはしなかった。
これがルシファーの
だが、この時、先代はまだ彼を裁かなかった。彼にはまだ、やり直す機会を与えるべきだとお思いになったらしい」
再度アダムは話を止める。この方はどうやら、俺に優しさ……いや、目を見ると、これから言う事によって俺を傷付けるような、悲しい目をしていた。
そして、アダムは再び話を始める。
「それと同時期に、先代は私を
そしてルシファーは、そんな私達を守護し、時には知恵を貸して助ける事を命じた。
彼はそれが決まる前までは、自らを取り繕い、私とイヴを様々な面で支えてくれた。
しかし彼は、その自尊心の高さから、私達に
自分よりも、全てにおいて、遥かに劣っている者の下で、永遠に仕え続けなければならないのだから。
彼はこの命令を認める事が出来ず、神に反抗した。これが、ルシファーの人間嫌いの理由となった出来事なのだ。
これが、二つ目の罪。
この罪を犯した頃には、彼は自ら信用を限りなく貶めていて、当時の栄光のほとんどを失った。
しかし、まだ先代は、彼が思い直して、人間達に仕えてくれるという希望を持っていた……」
この話に疑問を感じたので、俺は質問をしてみる。
「奴の罪は他にもあるのですか? 過去の文献は、私も読んだ事はありますが、その二つしか載っていなかったはずなのですが……?」
俺が言い終わると、アダムは数秒の間、俺から目を逸らす。再びこちらに向き直ると、逆に俺へ質問をした。
「ラティス、君に家族はいるか?」
こんな時に何故、俺の家族の話になるんだ? 早く弱点となる情報がないか、一刻も早く聞き、碧愛を救わなければならないというのに……
そして、俺に家族がいるのは当たり前だろう。いなければ俺は、生まれていないはずなのだから。
「父と母がいます。しかし、それが一体、ルシファーの罪とどういった関係が……」
俺がこう答えると、アダムはさらに質問を続ける。
「父と母の名前は? 顔を覚えてはいないか?」
こんな事を聞いて、一体なんの意味がある! 俺は彼の質問に疑問を通り越して、怒りを抱き始めていた。
「いい加減にして下さい! 俺の家族の事が、何故あいつに関係しているのですか!?」
息を切らせながら彼の方を見ると、彼の眼が全てを圧迫するような強い気迫を放っていた。
その俺を殺さんばかりの気迫から嘘ではない事が分かったため、俺は父と母の事を思い出そうと、記憶を探っていく。しかし……
「あれ……?」
何も思い出せなかった。確かに俺には家族がいたはずなのに。まるで何も、初めからなかったもののように。
「何故……父も、母も、いたはずなのに……どうして、どうして何も分からないんだ!? まさか……」
俺は冷静さを失っていながらも、一つの結論に辿り着いた。絶対信じたくない、最悪の結論が。しかし、アダムはその答えを静かに告げた。
「そう――君には初めから、親などいない。
君は、その剣、デュランダルの元々の持ち主、人間、ローランの血液をベースに造られた魔力の集合体……ルシファーの欲望によって造られた、彼の被造物。
生命を造る。神にしか出来ぬ所業をルシファーはやってのけた。最後の罪は、君の存在なのだ」
――恐れていた答えが真実味を帯びる。しかし、俺はそれを認めようとはしなかった。一度認めてしまえば、それは自分が生命の理から外れていると、認める事になるから。
「嘘だ!!! 俺は、悪魔として生まれて……」
俺はその僅かな希望に、必死にしがみつこうとする。しかし、アダムの言葉は、そんな俺の希望を
「どんなに力のある悪魔や天使、例え神だろうと、全ての魔法は扱う事は出来ない。魔力そのものでもない限りは。
さらに厳しい事を言うようだが、君の身体が悪魔に近いのは、魔界で生まれ育ったという、ただそれだけの理由なのだ。
そして、そのデュランダル――聖剣は持つだけで悪魔の身体を、その激しい力で焼き付くそうとする。
君がその剣を扱えている事こそ、ローランの血を受け継いでいる証。君が悪魔ではない証だ」
彼の言葉は、少しずつ、しかし着実に俺の心を追い詰めていく。自分がルシファーによって造られた、何者でもない者だと言う事を、徐々に頭だけが理解していく。
「そんな……」
しかし、アダムの話は終わらない。出来るものなら、この場で叫んで、いっその事、発狂してしまった方が楽に思えた。
「そして、君は失敗作だった……本来、悪魔や精霊、妖怪等はコアがあり、人間や天使には心臓がある。これを同時に持つ者は本来、いるはずがない。
いるとすればそれは、神以外の者が造った、神ですら不可能な、永遠を生きる者。それは最早生命ではない。
すぐに
結果、ルシファーは君を捨て、別の者を造った。自分の血をベースとし、君と同じ体質を持ちながら、君には出来ない自らを魔力に変換する事も出来る者を。
それはまさに化け物だ。ルシファーに次ぐ脅威そのもの、そしてその者は、我々の知らぬ内に、ルシファーの望み通りに育っていた。
それを事前に見抜けなかったのは、私も同じだから、先代の事を悪口は言えない。
この三つの罪によって、ルシファーは天使の象徴たる輪、そして羽根をもがれ、永久に溶ける事のない
これがルシファーと君に関する、私が知り得る全ての事。
まぁ、後に彼は、べリアルの助けを借りて氷地獄から解放され、今の地位を築いて、私を殺そうと準備を進めているのだ」
――後半の話は全く覚えていない。
俺は必死に、自分の記憶にあったはずの、家族の温もりを探した。それにすがりつかなければ自分を保てそうになかったから。
しかし、
そして、その微かな温もりすらも、やがて霧のように薄くなって――消えた。
「あ、ああああああ……うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺はアダムに背を向け、走り出す。真っ白な壁や床を見る事をせずに、ただ真実から逃れたい一心で走り続けた。
目指す所は、どこまでも、どこまでも。誰もいない所まで行きたかった。何故そんな気持ちなのか、その理由を考えられる程、俺の思考はまとまってはいなかった。
「ラティス!? どこへ行くのですか!?」
後ろから、べリアルの声が追ってくる。
「今は、今だけは頼むから……お願いだから、一人にしてくれよ!!!」
べリアルの声を振り切って、俺は逃げ続けた。自分の過去が恐ろしく、甘い記憶に一刻も早く逃げたかった。
このまま逃げ続ければ、真実から目を背け続ければ、また、あの幸せな
それから長い間、走り続けて辿り着いたのは、誰もいない、果てしなく広がる、夜の草原だった。
俺はその場に倒れ込んで、空を見上げる。雲一つない空には星々が、自らを誇り、主張するように光り輝いていた。
また、その一つ一つが重なり合って、幻想的な景色を作り出している。主張も調和も出来るのは、生命の美点だと俺は思う。
だが、あの星々を、この世界の生ける全ての者と例えるならば、俺の居場所はどこにもない。俺は本来、生まれてきてはいけなかった命なのだから。
「どうして俺ばっかりが……俺の感じたあの温もりが、全て幻だなんて……そんなの……あんまりだろ……何で俺なんだよ!!! 他の誰かでも良かったはずなのに! どうして俺だったんだ……」
地面に拳を打ち付けている俺の頬を、大粒の涙が伝っていく。誰もいない所で、
流れてくる涙を拭く事もなく、俺は空を眺めながら、泣き叫んだ。どうして自分だったのか、それを答えてくれるはずもない、空に問い掛け続けた。
やがて泣き疲れたのか、俺の意識が薄れていく。しかし、この時、俺を眠りに引き込んでいるのは、ルシファーが俺の身体に入れた、奴の闇だった。
それに気付いた時には既に遅かった。最早抵抗する意志も、その自由もなく、俺の意識は、深い深い闇の中に引きずり込まれていった。
そして、俺の身体も、魔法で作った義足の傷口から闇が
やがてそれは大きな殻となり、世界と俺を完全に切り離した。内側から自分を包む深い闇を見つめた瞬間、俺の意識は完全に途絶えた……
はい、これがラティスの出生です。如何でしょうか、賛否両論あるかも知れませんが、私はこういう感じにしました。
期間を散々開けてこのザマです、申し訳ありません。
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