真実回顧録   作:クルトン

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導入です。


第一話

夏も真っ盛りとなったある日のこと。

小さな探偵事務所で一人の男がよく片付けられた机の上で頭を抱えていた。

「……仕事が来ない」

ここは相川探偵事務所。町の中央に位置する大図書館以外にめぼしいものがない神鳴沢市にある探偵事務所だ。

所長である僕こと相川真実は、1ヶ月程度閑古鳥が鳴き続けている事務所で呻いていた。半ば勢いで探偵事務所を開いて早3年。チラシを配ったりホームページを開いたりして宣伝し続けてきたおかげでついこの間までは仕事に困らなかったのだが、遂に仕事が来なくなった。

僕が行っていた仕事と言えば浮気調査に猫探し、たまに空き巣を捕まえたりしたものだが、元々こういうのは口コミで広がっていくものだ。たとえ僕に難事件を紐解く灰色の脳細胞があろうとも、それを披露する機会がなければ宝の持ち腐れである。

別に僕は事件を求めいる訳ではない。事件なんてものは起こらないに越した事はない。それこそ殺人事件なんてものを求めるだなんて間違いである。そりゃ殺人事件を解決したなんて事になったら僕は有名になれるだろうが、そんなのを求めるのは一般的な人生を歩んできた者から言わせれば背徳的だ。

だから問題は依頼の有無ではなく、金だ。

元々事務所を開いた時点で殆ど貯金はなく、依頼の報酬もそれを達成する上の道具やら生活費やら事務所の改装費で大して残っていない。終いには昨日、夏の必需品であるエアコンが寿命を迎えてしまったことである。

食費だけなら僕の贅肉を削ぎ落とせば何とかなるかもしれないが、この蒸せ返るような猛暑の中をエアコン無しで過ごすというのはオアシスのない砂漠に放り出されるようなものだ。

だからこうして汗を垂れ流しながら悩んでいるのだった。

「暑い……、とりあえずコンビニで涼んで来よう」

そう思い、事務所を出ようとするとノックの音が響いた。

先程まで閑散としていたせいで反応が遅れてしまう。

少し慌てて身だしなみを整える。最近は暇だったせいで掃除ぐらいしかやることなかったおかげで事務所は片付いていた。

適当に準備を終え、来客に中に入るよう促す。

中に入って来たのは、意外でも何でもない人物だった。

「やあ、元気そうで何よりだよ」

「ああ、これが元気そうに見えるなら君は医者を辞めた方がいい」

「生きているなら元気だよ。1ヶ月ぶりくらいかな、仕事の方はどうだい?」

「1ヶ月前から閑古鳥が住み着いたよ」

「それは、大丈夫なのかい?ていうかここ暑いね。節電中?」

「残念ながらうちのエアコンは辞職した」

「それはまあご愁傷様で」

彼女は宇佐美蓮(うさみれん)。僕の友人だ。

僕が通っていた大学で知り合い、馬が合って今まで関係が続いている。僕は心理学部で、彼女は医学部である。

蓮は僕が大学を卒業した後、大学院に進んで、順調に医者の道を進んでいる。

彼女はよくこの事務所に僕の様子を見に来たり、依頼の手伝いをしてくれる助手のような存在だ。しかし、20代の女性が色事に現を抜かさず目標に向かって努力しているのは感心するが、少し女としてのこれからに心配してたりする。決して僕も人の事は言えないが、男と違って女が未婚のまま終わるのはどうなのかと心配になる。

整った顔立ちをしているから言い寄ってくる輩もいるだろう。彼女の口から聞かないから恋人はいないとは思うが、実際の所どうなんだろう。

 

とりあえず、蓮が来たことでまだ事務所に留まることにした。

冷たい麦茶を二つ淹れて、来客用のソファに座る。

「ここ1ヶ月顔を見なかったけど、何かあったのか?」

「単に仕事が忙しかっただけだよ。ようやく落ち着いたから会いに来たんだ」

「そうか。まあ順調そうで何よりだよ」

「それより仕事がないって大丈夫なのかい?ここで来るかどうかも分からない依頼人を待つより何か行動を起こした方が良いんじゃないのかな」

そう心配してくれる蓮。

彼女が僕にお節介を焼くのはいつもの事だが、夏休みに宿題もせずにゲームをしている学生に説教する母親のように言われると少し癪に触る。

「今すぐにでも依頼人はやって来るさ。ホームページの更新ぐらいはやってるし急いても事は好転しないよ。それにここで待っていたおかげで君と会う事も出来たしね」

「うっ……、ま、まあ確かに……」

そう言い返されると、蓮は少し顔を赤くして納得した。

彼女はこうやって素直に好意を伝えられるのに弱い。してやったりと内心思いながら、僕も言うのが恥ずかしかったので麦茶を啜って顔の熱を冷ました。

 

「そういえば君に聞いて欲しい話があったんだ」

落ち着いた蓮が微妙な沈黙を破った。

もう少し弄ってやろうかと思ったが傷を負うのは僕もなので黙って話を聞くことに決めた。

「何の話だ?」

「実は先週、アメリカのアーカムにあるミスカトニック大学から一人の教授が来たんだ」

「アメリカからどうして日本の大学に?」

「何やら隣町の美術館で出展される作品を見に来たらしい。その人は

パトリック・ハーンというんだが、考古学で色々と有名らしい。私は考古学は門外漢だから詳しくは知らないけどね」

「ふうん。それで僕に何を聞かせたいんだ?」

聞き覚えのない名前の連続に、つい話を急かす。

「ああ、これは教授がゲストとして講義に出席した時の話なんだが、教授が話し始めてすぐに彼は倒れたんだ。その後教授は病院へ運ばれていった」

「?」

「まあ聞いてよ。教授は病院に運ばれてすぐに意識を回復したんだけど、目覚めてからは自分の事をあまり覚えていなかったようでね。身体にも精神にも特に異常はなかったらしい。しかし、教授はすぐに病院を出ようとしたりと、何かを探しているらしいんだ」

黙って聞いていても何を言いたいのか分からず疑問符を浮かべている僕を無視して蓮は話を続けた。

「私は妙に気になって教授が言っていた、美術館のことを調べてみたんだ。そしたら賢者の石という作品が明日、出展されるらしい。私はこの賢者の石が教授がおかしくなった原因だと思っているんだよ」

賢者の石というよくゲームやアニメなんかで出てくるアイテムの名前を聞いたと思えば、僕の友人は訳の分からない憶測を言い始めた。

「何の話かと思えば、君の趣味の話か」

「冷たい反応だね。男の子なら賢者の石なんて心躍る名前じゃないかい?」

「僕に童心に返る趣味はないし、そういうのはもう卒業したよ」

「名探偵に憧れている癖によく言うよ」

痛いところを突いてくる彼女に僕はそれ以上言い返すことは出来なかった。

蓮には都市伝説だとか未解決事件だとかにオカルトめいた妄想を繰り広げる癖がある。大学の頃から知っていたが、事あるごとに僕はそんな妄想を聞かされていた。彼女は中々行動的で、廃墟や心霊スポットに連れ出されることもしばしばあった。

「私が賢者の石に原因があると考えたのはきちんとした理由があって……」

彼女の言葉を遮ったのは部屋に響いたノックの音だった。

本日二度目の来客の訪問に、僕は蓮の話を後回しにして玄関へと向かった。

 

来客は40代後半くらいの女性だった。

それなりに高価そうな服装をしていたが、女性の雰囲気から主婦ではないだろうなと感じた。

女性を中に案内して、来客用のソファへと座らせる。蓮の気遣いでコップは既に片付けられていて、先程まで談笑していたとは思わなれないだろう。

「では、改めまして。私は相川真実と申します。相川探偵事務所の所長です」

「これはご丁寧に有難う。私は加賀美桜と申します。そちらの方は?」

加賀美桜と名乗った女性は新しく淹れた麦茶を二つ持ってきた蓮の事を聞いてきた。

「私は助手の宇佐美と申します」

来客用のティーカップを机に置いてから蓮は冷静に返答した。

今まで何度か助手役をしてもらっていたから慣れた様子だ。優秀な彼女がこのまま助手をしてくれれば事務所はきっと繁盛するだろうなと思った。

「早速ですが今回はどういった用件で?」

「ええ、実は1週間前から私の娘が行方不明でして、貴方達に探して頂きたいんです」

「人探しですか。娘さんの名前や年齢などを教えて頂いても構いませんか?」

「はい。娘は瑠美と言います。年齢は今年で14で、学校には通っていません」

「え?それは病を患っているといったような理由でしょうか?」

「いえ、学校に通わせる必要がないので。勉強は家でやらせています」

それは過保護過ぎるだろうと思ったが他人の家庭事情に口を出すのは気を悪くされそうだったので止めておいた。

それから話を続けたが、大した情報を得られなかった。後は娘の写真を受け取り、契約書にサインしてもらったり報酬の相談をしてから加賀美は事務所を跡にした。

 

「さて、久し振りの依頼だ。僕はこっちを優先させてもらうが、君はどうする?」

「話の続きと言いたい所だったけど、仕事の邪魔をする訳にはいかないね。手伝いたい所だけど、私も仕事があるから、残念だけど今回は遠慮させて貰おうかな」

「いや、構わないよ。君にはいつも助けて貰ってるからね。依頼が終わったら話の続きを聞かせてくれ」

「うん。じゃあまた連絡するね」

蓮はそう言って事務所を出て行く。

久し振りの依頼だが助手なしでも達成してみせれば彼女を安心させられるだろうか。

時間を見ればもう17時だった。晩飯がてら聞き込みでもしてみようかな。

書類を整理してから、外出の準備をする。

1ヶ月振りの依頼に色々と思考を巡らせる。少女は一体何処へ行ったのか、少女は自ら失踪したのか、もしくは何者かに誘拐されたのか。

事件に直面するとそれしか考えられなくなる。考え事を止めることなく足早に事務所を出る。しかし……

「……加賀美桜か、娘のことをあまり心配しているようには見えなかったが、何か理由があるのかもしれないな」




小説書くのって難しいなぁ……。
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