真実回顧録   作:クルトン

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毎週投稿予定です。


第二話

晩飯を適当に食べて、聞き込みを始めた。

しかし、時間も時間だからかあまり街に人の姿は少なかった。

「……そうですか。ご協力有難うございました」

帰宅中のサラリーマンや主婦達に声を掛けてみるが、有力な情報を得られなかったので諦めて帰路に着こうとする。

そこで、警察署で聞き込みをしようと思い付いたので早速向かった。

 

「申し訳御座いませんが、捜査情報は開かせない決まりになっておりますので……」

受付の女性は僕に業務的に断りを入れて来た。

分かっていた事だが、捜査情報なんて一介の探偵に開かせられることはない。

もう少し融通を効かせてくれてもいいだろうと内心思いながらも、こんな所で騒ぎ立てるなど見っとも無い真似は出来ないので渋々帰ろうとする。

「おっ、そこに居るのは相川君じゃないか」

「ん、足立さんか。今上がりですか?」

「いやいやぁ、今日も残業だよ〜。君こそ警察署に何の用だい?」

帰ろうとした僕を呼び止めたのは神鳴沢署の刑事、足立徹。

僕が空き巣を捕まえた時に知り合った刑事だ。見て通り軽い男で、前に上司であろう人に怒られていた所を見ると優秀な刑事ではないのだろう。

だが、彼も刑事である以上は少なくとも情報は降りてきているだろう。だから、駄目元で彼にも聞いてみることにした。

「足立さん。今依頼で行方不明者を捜索しているんですが、加賀美瑠美という少女の捜索願って出されているか分かりませんか?」

「え、加賀美瑠美?いや、残念だけど知らないなぁ。調べてみたら分かるかもしれないけど……、捜査情報を一般人に教える訳にはいかないしねえ」

「そこをなんとかお願いします。警察が忙しいのは分かりますが、少女の発見の為に情報が少しでも欲しいんです」

普段なら引き下がるが、知らない仲ではない彼に無理を言ってみる。

何としても物にしたい依頼でもある為、ここは少しでも手掛かりとなる情報が欲しかった。

「う〜ん……。まあ、善良な市民の頼みだし無碍に断る訳にもいかないか。仕方ないなあ、相川君は」

足立は肩を竦めながらも僕の頼みを聞いてくれた。

そんなあっさりと捜査情報を明かして良いのかと思ったが、そうさせたのは他でもない僕であるので要らんことは言わないようにした。

 

「はい、じゃあまたね。あ!この事はくれぐれも内密にね!」

「ええ、分かっています。有難うございました」

足立から情報を貰って、警察署を跡にする。外は既に暗くなっており、街灯だけが道を照らす灯りとなっていた。

足立から貰った情報は僕の推理通りだった。

加賀美桜は娘の捜索願を出していない。

理由は分からないが、何か出せない理由でもあったのだろうか。娘の捜索願を出せない訳とは一体何なんだろう。どちらにしろ加賀美桜に対する謎が深まる。

考え事をしながら事務所へと歩いていると、ソレと目が合った。

ソレは街灯の灯り奥の暗闇に潜んでいた。

爛々と光る赤い二つの点は、最初車の尾灯の灯りかと錯覚させたが、ゆらゆらと蠢く様子から誤りだと気付かされた。

その妖しい光が照らし出したのは、恐ろしく痩けた犬のような顔だ。そいつは口元から飢えた涎を垂らし、鋭い牙を覗かせていた。体は醜く腐っていて、手足には獲物を狩る為であろう爪が生えていた。

まるでグールのような生き物は僕と目を合わせたまま、此方へと近付いてきたのだ。

「ッ!」

本能的に恐怖を感じた僕は一目散に逃げ出した。

 

逃げ出した直後、あの生物の吠えるような声が聞こえた。

あの生物が僕を狩ろうと追ってきているのだと直感して、僕は訳も分からず闇の中を疾走した。

気がつくとそこは森の中だった。

追手を凌ごうと適当な茂みの中に隠れた。

久し振りに全力で走ったせいで激しい動悸を起こしたが、奴に気付かれまいと無理矢理抑えつけた。

頭をフル回転させ、近くに武器になりそうな物はないか探すと、丁度いい木の棒を見つけたので貰っておいた。

こんな棒切れが奴に効くかどうかなど分からなかったが何かないと恐怖でどうにかなりそうだった。

今の僕は一人で、頼りない棒切れしかない。あのような恐ろしい化物を前に、非力な僕がどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。

じっと息を潜めていると、近くからガサガサと音がした。

奴が来る。震えを抑えながら音の場所を見ると、そこから現れたのは黒い少女だった。

 

真っ暗な森の奥から現れたのは黒いワンピースを纏った金髪の少女だった。

僕の隠れている茂みからは、月光によって照らされた木々の間に突然少女が現れたように見え、何処か幻想的に思えた。

その少女は何をするでもなく、そこに現れてただ月を眺めていた。

思わず見惚れていた僕は我に返って、少女に警告しようと茂みから出ようするが、それを邪魔するように少女の来た方向からまた音がした。

次にそこから現れたのは、あの恐ろしいグールだった。

改めて見て恐怖が蘇り体が硬直する。

あの少女を守らないといけないと思うが、体は言う事を聞いてはくれなかった。

グールは少女を見つけると新しい獲物との邂逅に喜びを隠す事なく飛びついて行った。しかし、その瞬間、目の前に闇が現れた。

その闇は球体の霧のようで少女とグールを覆い隠した。

その恐ろしい怪物を前にか弱い少女の行く末を僕から隠すように思えた。

そんな風に傍観していると、闇の中からグールの悲鳴が聞こえた。

悲鳴という表現が正しいのかは分からないが僕にはそれが動物の痛々しい鳴き声のように感じられた。

グールの悲鳴が何度か聞こえ、聞こえる度に小さくなっていく声が遂には聞こえなくなると闇が霧散した。

闇が晴れたその場所には身体中に痛々しい傷痕を残した血塗れのグールとそのグールの腕に食らいついている少女の姿だった。

そんな悍ましい光景に僕は思わず小さく悲鳴を上げてしまう。

その声に反応した少女は僕に気付いて振り返った。

「……あなた、だあれ?」

動転していた僕はその質問にすぐに答えられず固まってしまう。

少女は続け様に質問を投げかけて来た。

「……あなたは食べられる人類?」

ゾッとするような質問をしてくる少女は酷く落ち着いていた。

血で汚れた口元は獲物を狩った狩猟者の証で、幼い少女には似つかわしくなかった。

僕は声が出せる事を確認して、努めて冷静に少女に答える。

「あ……。た、食べられるかどうかは分からないが、僕は食べられたくないな」

「ふーん。でも、食べてみなきゃ分からないわよね?私食わず嫌いはしないのよ」

「それは結構な事だが、食べられる僕として溜まったもんじゃないな。そこの、今食べてた分では足らないのかい?」

「足りないことはないけど、いっぱい食べないと成長出来ないじゃない」

当然のように答えているが少女が食していたのは先程まで僕を狩ろうと追ってきていたグールの死体だ。この奇妙な少女はこんなものを食らって生きているのかと、普通じゃない少女に僕は恐怖と興味が湧いた。

「僕は食べられたくない、しかし君は食べたい。どちらも解決するのは難しい。だから……」

「だから?」

「僕と一緒に来てくれないか?」

「あなたに着いていけばお腹いっぱいになるの?」

「それよりマシなものは出すと保証するよ」

「うーん……、分かったわ。じゃあ連れてって」

少女からイエスの回答を貰って安心する。

グールや少女に闇、謎が多い現状、目の前の身の危険を回避するにはこれしか思い浮かばなかった。

早速少女を連れて、グールの死体を残した森を去った。

 




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