トリステイン魔法学院。その学院を囲うように建つ城壁のすぐそばでは、この学院の一年生たちが進級試験をかねたサモン・サーヴァントと呼ばれる使い魔召喚の儀式を執り行っている。
生徒たちは自分たちの召喚した使い魔と交流を試みてみたり、お互いに自慢しあっていた。
そのなか、また新たに使い魔が召喚され、ついに最後の一人となった。
「では次はミス・ヴァリエール」
教員のコルベールに呼ばれた少女は、一目で緊張していると分かるほど手足に余分な力を加えながらもその一歩を踏み出した。
彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
周囲で談笑していた生徒達は呼ばれた名前を聞くと面白そうな目をさせながら少女へと視線を集中させた。
その中の一人がルイズに向かって声をかける。
「おい、ゼロのルイズ! 魔法も使えないのにどうやって召喚するんだ!」
それを聞いて周囲から笑い声が上がる。コルベールが注意したものの小さな笑い声は人ごみに紛れながらも決して途切れることなく続いてた。
ルイズはその声の主を鋭く睨み付けたものの、その視線を正面へと向け直し杖を取り出してゆっくりと振り上げた。
そして呪文を滑らかに紡いだ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」
唱え終わると同時に杖を振り下ろす。
直後に巻き起こる爆発。
思わず目をつぶったルイズが恐る恐る目を開くが、そこには何も無かった。
召喚は失敗した。
周囲の生徒達もそれを理解し始めると先ほどより大きな声でルイズを馬鹿にし始める。
「ルイズ! 召喚もまともにできないのかよ!」
「しかたないさ。だってゼロのルイズだもの。」
「どうせ成功なんてしないんだから。早く終わらせてよ。」
口々に少女を馬鹿にする生徒たちに囲まれる中で、その場に立ち尽くしていたルイズは再び杖を握る手に力をこめて、振り上げた。
もう一度杖を振り上げ呪文を唱える。再び爆発が起こる。だが何も現れない。
ルイズはひたすら呪文を唱え続けた。
周囲の嘲笑は既にコルベールでは止められないほど強くなり、それ以外の静観している生徒達の中からは哀れみと同情、その裏に隠れた優越感の視線が投げられる。
ルイズは貴族だ。しかも名門公爵家の息女だった。そしてこの世界では魔法が使えるメイジこそが貴族だった。貴族の証は魔法であり、魔法は支配者の力だ。
だがルイズは一度たりとも呪文を成功させたことは無かった。
何度やっても成果は爆発という結果で返ってくる。
「はあ・・・・はあ・・・・何で出て来てくれないのよ・・・」
召喚の疲労で、肩で息をしながらそう呟く。
「ははっ!ゼロのルイズは使い魔も呼べないみたいだな!」
「無駄なんだからもう止めろよな~!」
同級生達は、ルイズに向かって罵声を浴びせる。
「ま、まだよ!次こそは!」
それでもルイズは諦めない。
そこへ、教師であるコルベールが声をかけた。
「ミス・ヴァリエール、今日はもう止めておきたまえ」
「な!?何でですか!?私はまだ出来ます!!」
コルベールの言葉に必死で反論するルイズ。
「君は気付いていないようだが、君は召喚呪文の連続で思った以上に疲労している。これ以上続けると、身体を壊してしまう。今日はここまでにして、後日、召喚を行ないましょう」
コルベールの言葉に、ルイズは俯く。
だが、ルイズは顔を上げると、
「な、ならせめて、もう一度召喚させてください!それで召喚できなければ今日は止めます!」
ルイズはラストチャンスを願った。
コルベールはルイズの真剣な眼差しを見た。
「・・・・わかりました。もう一度召喚を許します。ただし、それで召喚できなければ・・・・」
「はい!ありがとうございます!」
ルイズは礼を言うと、再び杖を構えた。
(どうせこれが最後のチャンス!だったら!!)
ルイズは自分が思ったとおりに言葉を紡ぐ。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、応えなさい!!」
そして、杖を振り下ろす。
――ドゴォォォォン
今までより派手な爆発を起こした。
周りの生徒は、「また失敗か」などと呟いていたが、爆煙が晴れてくると、煙の中に何かがいるのが分かった。
(やったわ!成功よ!一体何が・・・・って、え?)
煙が完全に晴れると、そこにいたのは一人の黒髪の青年であった。
ウルキオラは驚いていた。
(・・・・なぜ生きている?)
ウルキオラは完全虚化した黒崎一護によって再生不可能なほどのダメージを負っていたはずだ。それなのに、今のウルキオラの体は元通りに再生されていた。
(・・・・どういう事だ?)
自分の状態を確認したウルキオラは、困惑した。
それに・・・
(ここはどこだ?)
辺りの霊質から、ここが虚圏および現世でもない事が分かる。
そして周りには、黒のマントをつけて杖を持った少年少女たちが、たくさんいて、ウルキオラを物珍しそうに見ていた。
(こいつら、明らかに俺の姿を認識している・・・死神? いや、こいつらの体は霊体ではなく生身、霊力の素養をもった人間か?)
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出して如何するの?」
そう誰かが言った。
すると、周りで笑いが巻き起こる。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
ルイズが怒鳴る。
「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」
「流石はゼロのルイズだ!」
誰かがそう言うと、周りの笑いが爆笑と化す。
ルイズはコルベールに駆け寄った。
「ミスタ・コルベール! もう一度召喚させてください!」
そう希望する。だが、
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
即、却下された。
「どうしてですか!?」
「春の使い魔召喚は、神聖な儀式だからだ。好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかない」
「でも!平民を使い魔にするなんて、聞いたことがありません!」
ルイズがそう言うと、再び周りが笑いだす。
「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない。彼は・・・」
コルベールはウルキオラを指差す。
「ただの平民かもしれないが、呼び出された以上、君の使い魔にならなければならない。過去、人を使い魔にした話は聞いた事はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールより優先する。彼には、君の使い魔になってもらわなくてはな」
「そんな・・・」
ルイズはガックリと肩を落した。
「さて、では儀式を続けなさい」
「えー、彼と?」
「そうだ。早くしないと次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚に、一体どれだけの時間をかけたの思っているんだね?何十回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」
ルイズはウルキオラの顔を見つめると、一度、溜息をつく。
「感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから!」
そう言うと、ルイズは真剣な顔で杖を振り上げ呪文を唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」
そうコントラクト・サーヴァントの呪文を紡ぐと、ウルキオラに唇を近づけていくが・・・・
「・・・・ゴミが俺に触れるな」
次の瞬間、ルイズは吹き飛ばされた。