コルベールの渾身の魔法を受けても平然と存在するウルキオラに背筋が震える。
火属性の魔法に対する絶対的な耐性があるのか、それとも火属性による魔法を無効化する魔法でもあるのかは分からないが、自分では目の前の存在に勝てないと思い知らされる。
ウルキオラが自分を見る目、そこからは全く感情を読むことが出来ない。まるで心のないゴーレム相手の戦いを連想するほど無機質な目だ。
おそらく今まで知られていないどこか辺境の、もしかしたらロバ・アル・カリイエの亜人を呼び出してしまったのかと推測する。
さらに問題なのは男の腰にある物だ。
(・・・あの細身の剣らしき物がおそらく本来の武器なのだろうな。威嚇や観賞用の剣という可能性もないではないが、限りなく低いだろうな)
ウルキオラにとって威嚇の必要性などないだろうし、剣には華美な装飾も施されてはいない。
この国の常識として剣より魔法の方が強い。よって魔法衛士隊のような者たちは別だが、剣を持つ者は魔法の使えない平民や傭兵などがほとんどだ。よって剣を持つ人間は、貴族にとっては何の脅威にもならない存在に見られ、侮蔑や嘲笑を浴びせる者さえいる。
しかし、ウルキオラを相手にすれば、そんな常識は通じない。
さっきから、あの剣を抜かしてはならない。あの剣を抜かせば自分は終わってしまう。と、コルベールの本能が叫んでいる。
(・・・これは命がけになるな)
時間を稼ぐだけでも、オスマンが来るころには死んでしまうかもしれないとさえ思う。
「・・・来ないのか? それならこちらから行かせてもらうぞ」
そう言うと、ウルキオラは再び指先をコルベールに向ける。
コルベールが自分の命を諦めかけたその瞬間。
「待ちなさい」
その声はコルベールには救いの声に聞こえた。
トリステイン魔法学院校長オールド・オスマン。
ウルキオラもその接近には気づいてはいた。
援軍が来る前にコルベールを仕留めてしまおうかとも考えていたが、ウルキオラにとって予想外なことに一人しか援軍がこなかったので、行動の方針を改めて考えていた。
「・・・何だ貴様は?」
ウルキオラは目の前の老人に尋ねる、というよりは命令した。
「わしはこのトリステイン魔法学院校長のオールド・オスマンじゃ。君はいったい何者かね?」
トリステイン魔法学院。先ほども出た言葉。どうやら目の前の男がこの場所のトップらしいという事は理解した。
「・・・ウルキオラ・シファーだ」
「フム。ウルキオラ君か、よかったら事情を説明してくれんかね?」
大まかな事情はキュルケが説明してくれたが、本人に確認をとって事情を把握しようとする。
コルベールの方はオスマンが来た安堵から今にも倒れてしまいそうだった。
「一緒に学院長室に来て話を聞かせてもらえんかね?」
ウルキオラは少しの間考える。
得体の知れない連中の本拠地にわざわざ行ってやる必要があるか?話なら今この場で行えばいい。自分たちの敷地内に呼び出すという事は罠の可能性もある。
しかし、今のウルキオラには情報がほとんどない。危険なリスクを伴うが、ここは譲歩してやるべきかもしれない。
ウルキオラは学院長室に行くことを承諾した。無論、全く警戒は解かなかった。妙な行動を起こせば容赦はしない。
「わしの生徒が迷惑をかけたようじゃの」
学院長室にいるには椅子に座るオスマンと、その後ろにいるコルベールと秘書のロングビル。その三人と対面する椅子に座るウルキオラの四人だ。
ウルキオラは円滑に話を進めるため、相手に合わせて椅子に座っている。あらかじめ
もちろん椅子に座った程度で隙ができるウルキオラではない。
「・・・・それで、何故俺を呼び出した?」
「そう言われてもの。使い魔の召喚は相性によって決まると言われておるが、何が呼ばれるかは召喚者も召喚してみるまでは分からんのじゃ」
つまりウルキオラが呼ばれたのは単なる偶然という事か、もしかしたらウルキオラがこうして生きているのはルイズのおかげかもしれないが、相手が勝手にやったことであるし、感謝するウルキオラでもない。
「それで、君は内の生徒たちに一体何をしたのかね?」
オスマンの目が鋭くウルキオラを見る。
「別に、ただ食事をしただけだ」
何でもないことの様にウルキオラは答えた。
実際、ウルキオラにとっては何でもないことだ。
「・・・・食事?」
あまりに予想外の答えにオスマンは困惑する。
ウルキオラは自分の存在について、自分なりに説明した。
自分は異世界から来たこと。虚、破面、十刃、そして藍染や死神について。
「フム・・・・つまり、君は十刃という魔法衛士隊の隊長の様なもので、藍染様という王の元で死神という存在相手に戦っていたというのかね?」
「ああ。魔法衛士隊とやらが何か知らんが、そんなところだ」
下手に隠して怪しまれるより自分から話した方がいいと考え、ウルキオラの主観だが異世界から来たことや自分の正体についてあっさり話した。
ちなみにオスマンは確認の際、藍染を様付けしている。トリステインでも自国の王を呼び捨てにしたら怒るだろう。オスマンは得体の知れない相手に対しても配慮できる思考は持っている。
「なるほど。疑うわけではないが、君の正体を証明できる手段はないかね?」
ウルキオラは嘘を言っていない様に感じるが、あまりにこの世界の常識では信じられないので確認したかった。
「・・・・そうだな。手っ取り早く、実際に見せてやろう」
ウルキオラはそう言うと、右手で自分の右目を抉り出す。
突然何をし出すのかと、見ていたオスマン、コルベール、ロングビルの三人はギョッとする。
ウルキオラは目玉を取り出すと、三人の目の前で目玉を握り潰す。
それを見た者たちは嫌悪感に震えたが、次の瞬間に驚きに変わる。
突然部屋が消えたような錯覚を感じた。
流れ出る映像。それはグリムジョーに勝利した黒崎一護がウルキオラの元にやってくる所からだった。
そして驚きは恐怖に変わる。
黒と白。二人の刃が交差する。
一瞬にも永遠にも感じる時間が流れる。
やがて二人は異形へと変化する。
それは今まで見たどんな戦いよりも凄まじい。
一対一の戦いとは思えない。
それは戦闘と言うよりも戦争。
自分たちの常識を微塵に破壊していく。
そしてウルキオラの消滅で映像は終わる。
これを見た三人は心の底から恐怖する。
目の前の化け物は絶対敵にまわしてはいけない。
コルベールは気が遠くなる。
自分はなんてものと戦っていたんだ。
生きているのは奇跡に思える。
「なるほど。君の存在はよく分かった。さて、話は変わるが、よかったら君はミス・ヴァリエールの使い魔になってくれんかね?」
「「オールド・オスマン!!!」」
コルベールとロングビルの叫びが重なった。
何を言い出してるんだこいつは!?とうとうボケたか!!?
そんな言葉が顔に出ている。
「断る。俺はゴミに仕えるつもりなどない」
「フム。やはりのう・・・」
コルベールとロングビルはあからさまにほっとしている。
「しかし使い魔がいないと彼女は留年になってしまうのじゃよ」
「俺の知ったことではないな」
心の底からどうでもいいように答えるウルキオラ。
「ほっほ、そこでじゃ。わしらが君を元の世界に戻す手段を探す間に彼女のそばにいてくれんかね?召喚した使い魔を送り返すことなど今まで前例がないことじゃからの、どうしても時間がかかるんじゃ。契約するかどうかは君に任せる。言わば仮契約期間と言う事で大目に見てはくれんかね?その間君はこの学校で暮らしてもらってかまわんよ?」
勝手に話しを進められている気がするが、ウルキオラにとっても悪い話ではない。一旦どこかに落ち着いた方が情報収集もはかどる。それにここは魔法学院。ウルキオラから見れば家畜場に等しい。魔力と霊力は別物だろうが、魔力と霊力は比例している可能性もある。
それに学校なら図書室もあるだろう。
必要な情報は自分で探る。
「いいだろう。その話を受けよう」
「おお!感謝するウルキオラ君。それと、ここにいる者たちはほとんどが貴族じゃ。危害を加えないでもらいたいんじゃが・・・・」
「それは相手次第だな」
ウルキオラは人を苦しめて喜ぶという趣味は無い。
わざわざ自分から人を殺すことは基本的にしない。
道を歩いていて少し離れたところにいる蟻を、わざわざ踏み潰しに行くようなことはしないだろう。
進路上にいても気が向けば歩幅を変えて助けることもあるだろう。
だが、踏み潰す必要があったり、歩幅を変えるのが面倒な時、踏み潰すことに哀れみや戸惑いを感じることがないだけだ。
「・・・・最悪、国が総力を挙げて殲滅にやってくるぞい?」
「できるのか?それが」
「・・・・」
ウルキオラの言葉にオスマンは黙り込んでしまう。
その反応を見てウルキオラは確信した。
この世界には強い存在はあまりいない。
援軍がオスマンしか来なかった時から予想はついていた。
未知の相手に危険な賭けであったが、予想は当たっていたと確信する。
ひとまず話は終わり、ウルキオラはロングビルに案内されて部屋から退室する。
「一体何を考えてるのですかオールド・オスマン!!」
コルベールがオスマンに詰め寄る。
「この国を滅ぼす!!・・・いえ、周辺国家まとめて滅ぼせる存在を学校に置いておくなど!!」
「彼によると人間の魂が主食の様じゃからのう、下手すれば国どころか人間という種の存続すら危ういかもしれんのう」
オスマンがさらにとんでもないことを言い出す。
「のんきなこと言ってる場合ですか!どうにか対処しないと!!」
「対処?できるかの?」
その言葉にコルベールは冷静を取り戻す。
確かに下手なちょっかいを出す方が危険だろう。
「国には知らせん方がいいのう。知られて軍事利用しようとする馬鹿共が現れたらそれこそ惨劇になるぞい」
コルベールはその光景を想像し戦慄する。
「しかし、彼は人間の食物は食べないのでしょう?私たちが食べられてしまうのでは?」
「別に食べるのは人間である必要はないらしいからの、最近近くの森に出没するようになったオーク鬼を退治させたらどうじゃ?オーク鬼も駆除できていいじゃろ?腹さえ満たせばわしらに危害を加える危険性も低くなる」
オスマンの言葉に、コルベールは尊敬の念を覚えた。
餌を与えておけば大人しくなるかもしれない。問題の先送りな気もするが精神が安定してきた。
「とてつもなく危険な使い魔など、過去に何度か例はある。規模は違うがようは主さえしっかりしていれば何も問題はないのじゃ」
「もし、契約がうまくいかず、主がだめだったら?」
「・・・・・」
部屋に沈黙が流れる。
「世界の命運は彼女次第なのかもしれんのう」
こうしてルイズは知らぬ間に人類の危機を押し付けられた。