「んん~っ・・・・うん?」
朝になってようやくルイズは目が覚めた。
周りを見ると、見慣れた自室ではなく医務室のベットに寝ていたことに気付いた。
ルイズは自分の記憶を手繰り、自分の使い魔のことを思い出す。
「あ、あんのバカ使い魔あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
自分が何をされたか、おぼろげながら覚えている。
使い魔の分際でご主人様に暴力をふるい、挙句の果てに契約を拒否してきた。
そこから先は頭に靄がかかったようにあいまいだ。
ベットから息を荒げて立ち上がるが、周りを見渡しても使い魔は見当たらない。
「ご主人様ほっぽりだしてどこ行ったのよアイツ!!」
ストレス解消の相手が見つからず、ルイズの怒りはどんどん上がっていく。
さっきまで気絶していたとは思えないほど元気なようだ。
「ふっ、ふふふふ・・・・どうやら躾が必要なようね」
怪しげな笑みを浮かべ、保健室を飛び出していく。
使い魔へのお仕置き内容を考えながら。
走り回ったルイズは、一向にウルキオラを見つけられない。
疲れたルイズは自分の部屋に戻ることにした。
やり場のない怒りも時間と共に散っていき、ふらふらとした足取りで部屋のドアを開く。
「あっ」
部屋の中を見ると、今まで自分がさんざん探し回っていた使い魔がベットに腰かけて、自分の本を読んでいる。
ルイズの怒りは再び蘇ってきた。
「アンタねえ!私がさんざん探し回ったっていうのに何で私の部屋でくつろいでるのよ!!使い魔の自覚あるの!?それに、その本もベットも私の物よ!ご主人様の許可なく勝手に触らないで!!」
ルイズは顔を怒りで真っ赤にして怒鳴り散らす
「・・・うるさいな」
煩わしそうにルイズを見もせずに呟く。
ウルキオラはルイズの言葉など聞くつもりはない。
「耳障りだ。黙っていろ」
冷たく言い放つウルキオラに、ルイズは額に青筋を浮かべる。
「あんた!ご主人様に向かってなんて態度とってるのよ!自分の立場分かってんの!?私はヴァリエール公爵家の人間なのよ!アンタごとき平民が逆らっていい人間じゃないの!分かる!?」
ウルキオラはルイズを無視して本を読んでいる。
「あーもうっ!黙ってないでなんか喋りなさいよっ!」
「喚くな、やかましい。話し相手が欲しいならその辺の虫とでも戯れていろ。貴様の使い魔にもちょうどいいだろう」
ルイズの頭の中でブチッ!と何かが切れた気がした。
ここまでの侮蔑を受けた事はいまだかって無かった。
貴族の威厳が通じないと気づいたルイズは魔法で痛めつけようとする。
魔法を行使しようと、杖を振り上げたその瞬間。
「ぐべっ!!」
淑女らしからぬ声があがる。
呪文を唱えようとしたルイズは、ウルキオラの振るった腕に吹き飛ばされ、顔面から壁にぶちこまれた。
ウルキオラは静かになったルイズを無視して本を読む。
いや、読んでいるというのは正確ではない。ウルキオラにはこの世界の文字を読むことが出来ない。本を見ながら考え事をしているだけだ。
(・・・言葉が通じるのに文字が読めないとはどういうことだ?)
言葉が同じなのに字が違っている?
得体の知れない不自然さを感じる。
調べることはまだまだありそうだ。
ルイズが鼻血を垂らしながらギャーギャー騒いでいる。
生身の人間があれだけの衝撃を受けたのに鼻血ですんでいるのはおかしくないか?
そういえば、いくら弱くなっているとはいえ、『魂吸』を受けて一日でこれだけ元気なのもおかしい。
(本当に調べることは多そうだな)
「ああ!もういい、とりあえず朝食に行きましょう。騒いだらお腹がすいたわ」
勝手に騒いで自己完結する。
「それじゃあ、食堂に行くから早く着替えさせて」
「自分でやれ」
当然のごとく命令するルイズに、考えるまでもなく即答する。
「はぁ!?使い魔の分際で主に逆らうつもり!!そもそも使い魔は主の面倒を見るのが当然でしょ!口答えするなら朝食は抜きよ!早く着替えさせなさい!」
ウルキオラはルイズの言葉を聞き流した。
ルイズは懲りずに杖を振り上げ、ウルキオラの腕がルイズを床に沈めた。
(・・・・もういい加減殺すか?)
元々、ウルキオラは自分が認めた者以外の命などどうでもいい。
自分を召喚したというルイズに関しては、調べたいことがあったので手加減していたが、この女に調べるだけの価値があるのか疑問に思ってしまう。
(一応この女は重要な手がかりだが、行動に支障が出そうなら殺すか)
しぶとく立ち上がったルイズは、怒っているのか泣いているのかよく分からない顔して着替えはじめる。
部屋から出た二人は食堂に向かうことになった。
本来破面に食事は必要ないが、霊力を消耗している場合は食事や睡眠によって、ある程度霊力を貯めることが出来る。
分かりやすい例が十刃の一人であるヤミー・リヤルゴだ。彼は普段は10の数字を持つ十刃だが、食べて寝て霊力を貯めることで巨大化し、刀剣解放(レスレクシオン)することで第0十刃となることが出来る。
よって今のウルキオラにとっても食事は重要だ。魂吸も今の状態でどこまで吸えるか分からない以上出来る限り霊力を貯めたほうがいいだろう。
二人が部屋から出たとき、一つのドアから一人の女生徒が出てきた。
「あら、ルイズおはよう」
背が高く褐色肌の少女だった。
身長、スタイルや肌の色まで、性別以外がルイズと対極な少女だ。
「・・・・おはようキュルケ」
ルイズは疲れきったように答える。
「あらあら、よっぽど疲れてるみたいね。昨夜はお楽しみだったのかしら」
キュルケが微笑しルイズをからかうが、ルイズは無反応だ。リストラされた直後のサラリーマンのような気配を漂わせている。
「・・・・本当に疲れてるみたいね」
ルイズの雰囲気から何かを察したのかそれ以上は突っ込まない。
そしてキュルケは視線をルイズからウルキオラに移す。
「・・・あなたがルイズの使い魔よね?」
「違う」
キュルケの質問にウルキオラは即答した。
「ちょっと!アンタは私の使い魔でしょうが!!」
その答えが気に入らなかったのか、げんなりしていたルイズがウルキオラに食って掛かる。
本当にタフな奴だと、ウルキオラは半ば呆れも感心する。
「使い魔の契約をしてないの?」
「当たり前だ。何故俺がこんなゴミの使い魔にならなくてはならない」
ウルキオラは心外だと顔を不快気に歪めて冷たく吐き捨てる。
返答を期待しての言葉ではなかったが、キュルケは答える。
「何故って、召喚された者が召喚した人間に従うのは当たり前でしょう?」
キュルケは何を言ってるの?という顔をしている。
実際この世界の常識で考えれば当たり前のことなのだろう。
召喚された者は召喚者に従うのが当然だ。
しかしウルキオラにしてみればそんなことは知ったことではない。
こんな惰弱でうるさいゴミに仕える理由などない。
ウルキオラを使い魔にしたければ愛染クラスの力を示さなければならない。
ウルキオラは興味が消えたようにキュルケから視線を外す。
ウルキオラは普段のキュルケであれば即座に手を付けるほどの美形である。
しかし、使い魔召喚の儀式でキュルケはウルキオラの危険の一旦を知っている。
それでもキュルケの『微熱』はウルキオラに反応してしまうのだが、キュルケもさすがにそこまで命知らずではない。
(さすがに危ない橋を渡りたくはないわね)
下手に手を出せば自分の命が危ないことは何となく分かる。
「じゃあルイズ。また後でね」
キュルケはウルキオラに愛想笑いをし、その場を立ち去って行った。
ルイズとウルキオラの二人は、アルヴィーズ食堂にたどり着いた。 食堂の中はとても広くて豪華、というより成金趣味だった。
「どう、凄いでしょ?トリステイン魔法学院は貴族の為の学院なのよ。『貴族は魔法を持ってその精神となす』をモットーに貴族たるべき教育を受けるのよ」
ルイズが自慢げに話すが、ウルキオラが抱いた感想は無駄に派手、の一言だった。
テーブルの上には肉料理を中心とした随分朝から重そうな料理が並んでいた。
「ああ、言っとくけど、あんたはソレよ」
ルイズはテーブルの下にある一枚の皿を指差した。小さな肉のかけらの浮いたスープだ。すみっこには硬そうなパンが二切れある。
「あんたは床よ。本来平民が来ていい場所じゃないんだから味わって食べなさい」
ウルキオラはルイズの言葉を無視して近くの椅子に座り、テーブルの料理を食べ始める。
ルイズは何か言いたそうにしているが、言っても無駄と悟り、黙って椅子に座った。
(何でこんな奴が私の使い魔なのよ!もっとドラゴンとか私にふさわしいのにしなさいよ!)
やり場のない怒りを抱えたルイズは、朝食の祈りで生まれて初めて始祖ブリミルを呪った。
食事で霊力が回復するかは作者の独自解釈です。
実際の所どうなんでしょうね。ヤミーが食べて寝て怒りで力貯めてたからあながち間違ってないと思うけど。