転生したら滝本ひふみの彼氏になった件について 作:飛び方を忘れてるカラス
キャラデザ班の女性社員の辞職。
これは八神の心に大きな傷をつけたらしく、その日を境に彼女の様子は打って変わった。
必要最低限以外は人と話さなくなった。もともと彼女はあまり人と話すのが苦手な人物であったが、今回は今までの比ではなかった。親友であるはずの遠山ともあまり話せてないらしく、遠山が声をかけても「大丈夫」や「…うん」などしか反応しないとのこと。
八神はそんな状態だったが、ゲーム製作への影響はあまりなかった。フェアリーズストーリー2は難なくマスターアップ完了。無事に販売可能の段階までいった。
…が。
八神のその状態にはキャラデザ班や彼女の関係者にも暗い影を落としているらしく、完成したというのに、誰も心の底から喜んでいるようには俺は思えなかった。
「……くそ」
夜。
ひふみと共に退勤し、一緒に帰宅中の時だ。
俺は八神の状態を考えてひとり歯を噛みしめる。
俺がもっと気をつかっていれば解決できた案件だ。あいつがその内何かをしてしまうのは危惧できていた。それができていた上でこの結果になってしまった。
俺が、俺が、俺が…!
「自分ばかり責めるのは、よくないと思う…」
ひふみが手を繋ぎ、俺と目を合わせて言う。
「私も、コウちゃんのことちゃんと見れてなかった。…多分、りんちゃんも、同じこと思ってる。自分ばかり責めるのは、良くない。戒くん以外にもいたんだから、心配してた人」
「……そう、だったよな。悪い、一人で勝手に思い悩んじまって」
「うん、わかったなら良し」
そうだ。普段からいつも一緒にいて、八神の親友である遠山の方が辛いに決まってる。
何を俺は一人で勝手に悩んでいるんだ。
俺より辛いやつは、もっといただろうに。
「ありがとな、ひふみ。目ぇ覚めたわ。さ、帰ろうぜ」
「うん」
そして俺達は共に家に帰った。
だがそれでも、俺は八神のことが心配でたまらなかった。それはひふみも同じ気持ちだったらしく、駅で別れるまでずっと俺の手を握っていた。
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後日。
今日はフェアリーズストーリー2の打ち上げ。
いつも通りの顔ぶれと、外注や出資会社の方々。ひっくるめて言うと、このゲームに1mmでも関係してる人達が、酒やら食い物やらを持ってワイワイしているのだ。
「うわっ、前回とは大違い」
「前回は資金が殆ど割り当てられてなかったし、誰もヒットするとは思ってなかったからねー」
俺の呟きに、ワイングラスを持った葉月さんが答える。
一応、前作でもやらなかったわけではなかったのだが、あれは本当の意味で製作スタッフのみでの打ち上げだったのだ。初めての会社での打ち上げがああだったこともあり、こうして人がたくさんいるのは新鮮なのだ。
「まあこういう場には慣れないだろうけど、いつも通りで大丈夫だよ。…それに」
「それに?」
「……声優さんも来ているんだ、もしかしたらサインと記念撮影ができるかもよ?」
「えぇっ…!」
俺の背後でチビチビ酒を飲んでいたひふみが驚きの声を上げる。
…そういえば、ひふみが好きな声優さんも何人かはこのゲームに出演してたっけな。
「今はまだお互いの名刺交換だったりで忙しくしてるから、遠慮しといた方がいいけど…私達の壇上挨拶が終わったら、まあ試してみるのもアリなのでは、と私は思うよ」
「…はい、情報ありがとうございます!」
ハッハッハッ、と笑いながら去っていく葉月さんの背中を見届けながら、ひふみは頭を下げた。
そして数分後。
『それでは、壇上挨拶を始めますので、呼ばれた方は前にお越しください。葉月しずく様…」
おーおー、呼ばれてる呼ばれてる。
普段はああいう人だから、こういう場ではどんな事を言うのか気になるな。
葉月さんが壇に上がり、マイクを持つ。
『あーあー、マイクテスマイクテス』
いやさっき司会の方がそのマイクで喋っていたでしょうが。
『えー、それでは皆さん、本日はお忙しい中、このフェアリーズストーリー2の完成打ち上げ会にご参加いただき、ありがとうございます。前作が我々スタッフ達も予想外だったヒットだったこともあり、このような場に慣れないスタッフもいました』
名前こそ伏せているが、それは完全に俺だろう。やっぱり変わらずに、サラッと人のことを弄る人だ。
『しかし、こうしてこのような大きな打ち上げができたのも、そのスタッフ達が精魂込めて作ったことで完成した作品だからこそであります。まずは、この本作を製作したスタッフ達に拍手をお願いします』
パチパチ、と周りの人から拍手を貰う。
『そして、この度本作に出資してくださった関係者の方々にも感謝を。本作は、もしかしたら会うことがなかった人達が力を合わせたからこそ完成したのです。この出会いの場を記憶に焼き付けるように、今日は楽しんでいってください。それでは、乾杯!』
葉月さんの言葉と共に「乾杯!」という声が響く。こうしてまたガヤガヤが始まったのである。
…というか、案外いいこと言うじゃん、この人も。
『さあ次はビンゴ大会です。カードが欲しい方は前にお越しください』
「ビンゴ大会か。面白そうだから参加しよっかなー」
「あ、じゃあ私も参加する…」
「なら私もしようかしら」
ひふみに続いて遠山が言う。
「わかった、なら俺が人数分取ってくるよ」
よろしく、と遠山の言葉を聞いてステージ前へと向かう。
…そういえば、八神の姿を見かけないな。
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『次の番号は…36番!ビンゴになった方いますかー?』
「あ、当たった」
当たったのでとりあえず手を振る。
『それでは当たった方はステージ上に』
人混みを掻き分けながらもなんとかステージ前に着く。
壇上に上がり、何が当たったのだろうとワクワクしながら待っていると
「それでは、当選品は…M4A1です!」
「…はい?」
ナンダッテ?ツーカナニソレ?
「こちらの当選品の差出人は阿波根うみこさんです!」
「おめでとうございます」
司会が名を呼ぶと、女性が壇上に上がってきた。
…ん?確かこの人…
「葉月さんの…」
「はい、阿波根うみこと言います。うみこと呼んでください」
いきなり名前呼びか!
「え、いやでも阿波根さん…」
「うみこ、と呼んでください」
「……はい」
怖すぎて思わず「はい」って言っちゃったよ。
…にしても
「なんなんだ、えむふぉー…」
「M4A1です!M4カービンのバリエーションの一つであり、発射セレクターがセミフルオートになったのが特徴で、その扱いやすさから…」
なんかWikipediaみたいな説明し始めた…。
「えーと、とりあえずすごい銃だってことはわかった。それじゃ、ありが…」
とう、と言い終わる前に阿波根…うみこに肩を掴まれ、やや怖い顔で迫られた。
「見た所、あなたは重い物を持ってもそれなりに俊敏に動けそうです。どうですか、私と一緒にサバゲーでも…」
「いや、サバゲーって…」
「サバゲーでなくとも、FPSでなら…」
「あー…FPSぐらいなら…」
FPSなら何本かゲーム持ってるし。
というかそんな顔で迫られたらマジで断ろうにも断れないって。
「ありがとうございます!それではまた後日に…」
「あのー、非常に入りにくいのですが、ビンゴの続きしてもよろしいですか…?」
ナイスだ司会さん!
アンタいなかったら俺はこの謎の亜空間に閉じ込められていたところだ!
「…すいません、つい熱くなってしまって…ではまた後日に」
「ああ、じゃあまた…」
ガシッとM4A1を渡される。
エアガンって意外と重いもんなんだな…。
そこから元のひふみと遠山がいるところに戻って来た。無論、M4A1を持ってだ。
「ふー…意外と重い…」
「災難だったわね…」
まったくだよ。おまけに何か葉月さんとは違う変態臭を漂わせた知り合いできちゃったし…。
そこで俺は、さっきから気になっていた事を遠山に聞いた。
「なあ、八神はどこに?」
「コウちゃん?多分外で休んでると思うけど…ほら、コウちゃんってこういう場が苦手だから」
あー…、ちょっと不安だな。
「ちょっと探してくるわ」
「あ、なら私も…」
『62番!ビンゴの方は前にー!』
遠山の声を遮る司会の声。
遠山はカードを見ると、あはは…と笑って俺達にカードを見せる。
「当たっちゃった…」
「あー…当たったんなら行ってこいよ。もしかしたら、俺とは違ってちゃんとしたの貰えるかもしれないし」
「…うん、そうするわ。コウちゃんのことよろしくね」
「おう」
さてと、じゃあ会場外に向かうか。
「ひふみー…」
と、ひふみを呼ぶが返ってくる言葉がない。
すると、メールが来た事を意味するバイブが鳴り、携帯を開く。
書かれていた一文は
″サイン貰いに行ってくる″
「……」
…うん、行ってこい。
千載一遇のチャンスだからな。
こうして俺は一人で八神を探しに行くのであった。
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八神を見つけるのにはそう時間はかからなかった。
会場から出て、すぐそこの休憩所の椅子にかけて、グラスを持ってボーッとしてた。
「何してんだ」
「…立花か、って、何それ?」
「M4A1だ」
はあ?といった反応をする。
まあそんな反応だわな。突然ライフルを担いだ男に声かけられてはそんな反応だろうな。
「…で、何してんだ?」
「…別に、私ああいう場が苦手でさ、空気入れ変えようとここで休んでるわけ」
「…本当にそれだけが理由か?」
俺は先ほどから思っていた事を抽象的に八神に聞いた。
「本当にそれだけだってば。ほら、早く戻らないと彼女さんが拗ねるよ」
「あいつは今サインと記念撮影してるだろうよ。多分しばらく戻ってこない」
「…そっか」
それからずっと八神は黙ってしまう。まったく、これはストレートに聞くしかないかもな。
「もしかして、
「……ッ」
あの子。それは一週間ほど前に辞職してしまった女性社員。その子は八神の元で仕事に励んでいたのだが、八神の厳しすぎる仕事についていけず、辞めてしまった。
「…違う、ってば…!」
「…図星か。そんなに気にするな」
「気にするなって…そんなこと、そんなこと…出来るわけないじゃない!」
ガタッ、と椅子から立ち上がって俺を睨みつける。
「私が潰しちゃったのよ!私が、あの子の人生をメチャクチャにしちゃったのかもしれないのよ!?そんな簡単に気にするななんて…!」
ああ、そうかもな。確かにおまえは彼女の人生をメチャクチャにしちまったかもな。だけどな…
「…けどな、その怒気を俺や、ひふみ、そして遠山にぶつけてんじゃねぇ!」
俺にしては珍しく声を上げてしまった。
その声に少し臆したのか、八神が目尻に涙を溜めながらも何かを言おうと口を開ける。
「…そんなこと言われたって…そんな、そんな…」
「そこで止まってるな、歩き出せ。あの子も歩いているんだ。あの子を潰したおまえが、悲劇のヒロイン面して止まってるんじゃねぇ。あの子に対して失礼だ」
「……ッ……うッ…」
少しずつ涙を零しながらも、やり場のない怒りをぶつけようと俺の胸を弱く叩く。
「…俺の知ってる八神コウは、ズットそこで止まっているような人間じゃない。おまえなら、まだ成長できるはずだ」
「うっ…うわぁぁぁぁぁッ…うわぁぁぁん」
普段のクールな八神の面影を見せず、俺の胸に顔を埋め、声を上げて泣く八神に、俺は頭を撫でることぐらいしかできなかった。
それから数分ほどが経った。
「…落ち着いたか」
「…うん」
やっと泣き止んだ八神は顔を赤くしながらも頷く。
「あんなに泣いたの、久しぶりだ」
「俺も、あんなに大声あげて泣く大人を見たのは初めてだ」
「なっ…からかうなぁ!」
あの泣き声を録音して、それで暫く弄るというのもありだったかもな。
などとくだらない事を考えていると
「…ありがと。おかげでなんとか持ち直した」
そっぽを向きながらも、八神は俺に礼を述べた。
「…さて、そんじゃ行くか。ひふみと遠山が待ってるぜ」
「…うん!」
八神はこれまで見たことのない笑顔を浮かべて立ち上がる。
ああ、そうだ。
その笑顔を俺とひふみ、遠山は待っていたんだよ。
「…この涙の跡、どうやって誤魔化そう…」
「おまえが酒に酔って、その泣き上戸に俺が付き合ってやった、という理由はどうだ」
「私はそれなりに酒に強いっつうの!」
八神からローキックを喰らった。
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私の前を行く、彼の姿を見て顔が赤くなるのがわかった。
「そこで止まってるな」
この言葉が無ければ私は立ち直れなかっただろう。
別に、これで私や問題は解決したわけではない。これからも、あんな酷い出来事が起こらないように、私は努めなくてはいけない。
…しかし。
彼の背中を見て、やっぱりなぁと思う。
私は
「どうした、顔赤くして」
「ううん、お酒のせい」
「やっぱり弱いんじゃん!」
「うっさい!」
軽口を叩く彼にもう一発、渾身のローキックを喰らわした。
これでオリジナルは終了!
次回からいよいよ原作に入る予定です!(遅い)
感想欄ではドロドロ待った無し、と言われてますが、ドロドロを書く気はありません!