転生したら滝本ひふみの彼氏になった件について 作:飛び方を忘れてるカラス
涼風青葉の困惑
舞い散る桜吹雪。
ポカポカとした暖かい空気に包まれながら、私は道を歩く。
いつもと違う道、いつもと違う服、そして、いつもと違う心。
私は心も体も入れ替え、一歩一歩を踏みしめる。
私の名前は涼風青葉。
数ヶ月前までは高校生であったが、今日、この瞬間からは–––立派な社会人である。
通勤先の会社の名前は「イーグルジャンプ」。つまるところ、ゲーム製作会社だ。
私が小学生の頃に発売されたゲーム「フェアリーズストーリー」で一躍有名になった会社である。
なぜ私がそんなイーグルジャンプに入社をしたのかと言うと、先ほどのフェアリーズストーリーをプレイし、その世界観、ストーリー、システム、そして何よりキャラクターデザインに魅了されたからだ。
以来、その当時のキャクターデザインを担当していた八神コウという人物を目標に、学生で出来る範囲で修行のようなものを積んできた。
そして高校三年生。美術大学の現役合格を蹴って(ちょっと後悔してる)、イーグルジャンプへの就職を決意したのだ。
携帯電話に表示されたマップを見ながら、遂に会社に着く。
目の前に現れたのは、小さくも大きくもない、普通の大きさのビル。だがここが今日から私が働く職場となるのだ。そう思うと居ても立っても居られなくなる。
いったい、どんな仕事をするのだろう。どんな先輩がいるのだろう。そして、どんなゲームを作れるのだろう。
鼓動が早くなるのを感じる。
–––と、ここで思う。
本当に入っていいのか?というか、そもそも本当にここであっているのか?
そう考えると、なんだか不安になってきた。
ああ、怖い、すっごい怖くなってきた。
そうして私が会社の入り口前であたふたしていたのが悪かったのか、
「こら!」
と、怒声が飛んできた。
「あぅ、す、すいません!」
思わず声を上げて謝り、声のした方向を向く。
そこにいたのは–––
––––––––––––––––––––––––––––––––
ジリリリリ!
ジリリリリリリ––––!
けたましく目覚まし時計が俺に起きろと言う。
ああ、わかった。わかったから。もうそんな声出さないでくれ。
声を鳴り止ませるべく、時計から少し盛り上がっているボタンをガンッ!と力強く叩き、まだ起きなくてもいいじゃないか、と甘い誘惑をかける俺の体に鞭を叩き、なんとか体を起こす。
軽い朝食をパパッと作って食べる。
その他色々とやるべきことを済ませる。色々と書類の入ったリュックを取り、ハンガーにかかっている黒ジャケットを取り、テーブルの上に置かれているヘルメットを持つ。
最後に玄関に引っかかっているキーを取って扉を開ける。
車庫に向かい、戸を開ける。
中にあったのは中型–––250ccのオートバイだった。
車種はKAWASAKIのESTRELLA。サドルシートの色は栗色で、その他のカラーは総て黒。
数年かけてやっと手にしたオートバイの免許。そして貯めるに貯めた貯金を使い、ついに手に入れたオートバイ。
鍵穴にキーを挿し、エンジンをかける。
獣の鳴き声のように音が鳴り、その振動で体が震える。
これだ、これだ–––。
ヘルメットを被り、サドルに跨る。
そして俺が向かう先、針路を会社をにし、前進したのであった。
さすがはオートバイ。会社への通勤時間が更新された。いちいち駅で停まる電車とは違う。
バイクを会社専用の車庫に停め、ヘルメットを外し、ジャケットのファスナーも開ける。
「〜〜」
朝からバイクを使ってでの出勤に機嫌が良くなった俺は、GREEN DAYのAmerican idiotを口ずさむ。
そうして歩き、会社の入り口前に着くと、なんか女の子がウロウロしてた。
なんか制服みたいの着てるし、学生か?見たところ中学生ぐらいだが…。
…少しからかってみるか。
俺は学生に気づかれないように静かに近づき、そして息を吸って…
「こら!」
と大きな声を出してみた。
「はぅ、ご、ごめんなさい!」
体をビクリと震わせ、振り向いて頭を下げる。よく見れば目尻には少し涙が溢れていた。
…あー、やりすぎたか…。
「はははっ、冗談冗談。ここは会社だから、中学生が来るにはまだ早いぞ〜」
先ほどとは打って変わって、爽やかに振る舞おうと努める。
手を振りながら入り口に向かう…
–––と、
「私、学生じゃありません!」
俺の裾を引っ張りながら声を上げる少女。
…いやいや何の冗談だ。こんな子、うちの会社にはいなかったぞ。もしかして新手のドッキリかなんかか?
隠しカメラはないかとあたり周辺を見回していると、
「あら、何をしているのかしら」
穏やかな女性の声が耳に入る。
その声の方を向くと、同僚の遠山りんがいた。
すると俺と少女を見た遠山は、訝しげな様子で目を細めこう言ったのだ。
「…もしかして、誘拐か何か?」
「するか、こんな朝っぱらから!つーか俺はロリコンじゃねぇ!」
「なっ…ロリ!?」
何を驚いているんだ。身長150満ちているかわからないぐらい小さいんだ。自覚してなかったのかおまえ。
「私、今日からここで働かせてもらう、新入社員の涼風青葉です!」
「…新入」
「社員?」
俺、遠山の順に首を傾げる。俺は全く心当たりがないが、遠山は何かわかったのか、手をポンと叩き「あー」と口にする。
「新入社員の涼風青葉さん…ね。聞いてるわ、新しくキャラデザ班に配属されるっていう…」
「やっとわかってくれたー!」
「こんな子供が…?」
にわかに信じがたい。世の中にはいるんだな、こういうロリ体型の会社員もいるんだな、と関心していると、遠山がそのロリ–––涼風ちゃんを社内へ案内し始めていた。
「私の名前は遠山りんよ。で、あちらが…」
「立花戒。よろしくな」
「立花戒…立花戒…あ、もしかしてフェアリーズストーリー2発売大型特集が組まれた雑誌ですインタビューに載ってた人ですか!?」
雑誌でインタビュー?雑誌でインタビュー…雑誌でインタビュー…あ
「もしかしてディレクター特集のこと?」
「はい、そうです!」
「あー…あれね。あれはあん時の俺の上司が「欲しいゲームあっから、インタビューよろ」って言って急遽任されたんだよ…」
「あれは…ね」
「え、えぇ…」
……なんか変な空気になっちゃった。
「と、とりあえず行こうぜ」
「え、ええ、そうね」
下手に変な話をするものではないなうん。
「ここがオフィスよ。私はAD…アートディレクターだから、青葉ちゃんの直属の上司となります」
「はっ、そうだったんですか」
「ちなみに俺は今年から背景班リーダーだ。まあデスク自体が近くなると思うから、よろしく」
今年から背景班のリーダーなのだ。というのも、あの先輩は「欲しいゲームがあるから」という理由のみでインタビューを蹴る色々とアレな人だが、仕事はできる人なのだ。着々と出世コースを歩んでおり、今年からかなりの上役を任されるとのことなのだ。
てな訳で、俺は今日からあの倉橋の野郎の上司となるのだ。
「…にしても、静かですね」
オフィスを見回しながら涼風ちゃんが呟く。
「みんな時間ギリギリに来るからね、このくらいの時間はまだ殆どいないのよ」
「まったく、時間に余裕を持てってんだ」
「あら?私が知る限り、一応あなたも時間ギリギリ組の一人なのだけど?」
「ナンノコトカワカラナイナー」
大丈夫だ、今日からバイク通勤なのだ。多分前よりは早くなる筈だ。だからそんなジト目で見ないでくれ。
「…まったく。青葉ちゃんの席はあそこよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
テトテトと自分の席へ向かう涼風ちゃん。
「コーヒー作るけどいるかしら?」
「おー、頂くわ」
あー…そういえば朝何も飲んでなかったな。バイクでの出勤が楽しみすぎて固形物しか胃に入れてなかった。
–––と、
「おパンツ〜!?」
謎の叫び声を上げる涼風ちゃんの声が聞こえた。
…何してんだあの子は。
「どうした、何か宝箱でも見つけたのか〜?」
だとしたら気をつけよう。もしかしたらミミックかもしれないから。
涼風ちゃんのデスクに辿り着くと、そこには顔を赤くし、震えながら顔を手で覆っている涼風ちゃんと、床にだらしなく寝転がっている、下着を丸出しにした女性がいた。
あー…こいつ居残ってたのか。
「おい起きろ。朝だぞグッドモーニングだぞ」
「あと五分…」
「遅刻処分でいいか?」
「……う〜ん…」
呻き声を漏らしながらも何とか起き上がるのは八神コウ。多分、この会社で一番私生活がだらしないやつだ。
「何を賑やかにしてるの…」
と、ここでトレイにマグカップ四つを乗せた遠山が現れた。
あ、これはまずいかも。
「ちょ、コウちゃん!またそんなはしたない格好で寝てたの!?っていうか立花くん後ろ向いて!」
「言われなくても後ろ向いたよ」
とりあえず早くそいつに服を着せろ。そして顔赤くして硬直してる涼風ちゃんに事情を説明してあげろ。
ガヤガヤあったが、何とか平常を取り戻す。
「えーと、この人は八神コウちゃん。キャラデザ班のリーダー…あなたの上司よ」
「よろしく、えーっと…青葉?でいいんだよね」
まだ眠気が取れてないのだろう、目をこすりながら挨拶をする。
と、何故か涼風ちゃんが震えていた。
「どした?」
「八神コウ…もしかして、あの八神コウさんですか!?」
「…あのも何も、どの八神コウだっていうのさ」
「わ、私、フェアリーズストーリー無印からのファンなんです!」
声を震わせながら、涼風ちゃんは八神のファンだと宣言した。
そこで俺は何となく、本当に何となくだが、涼風ちゃんがこの会社に入社した理由がわかった。
この子、ずっと八神のことを追っかけてたのか。
そこで入社し、憧れの八神コウ様の直属の部下になるのとができた。素晴らしい、素晴らしい努力の物語ではないか涼風ちゃん。
––––だからこそ、俺は思うんだ。
涼風ちゃん、君の中での八神コウのイメージ像は、多分暫くもしない内に崩れる(もしかしたら既に崩れかけているのかもしれないが)。
なぜなら、そこにいる女は完璧超人の八神コウなんかではない。この会社で最も私生活がズボラで、遠山りんがいなければ碌な料理も食べず、作らない、ダメ人間なのだから。
そう強く思いながらも、口には出せない。
なぜかって?
–––八神のローキックが怖いからだよ。
コウちゃんの下着も見慣れてしまうこの主人公。遭遇回数は7年間で50回を超えています。すごい羨ましいダビテとシビラの予言の如くに砕け散れ主人公。