転生したら滝本ひふみの彼氏になった件について 作:飛び方を忘れてるカラス
突然ですが、この物語の本編はこの話を含めてあと2話で終了です。唐突ですが、ご了承ください。
「ありがとうございました」
店員からの声を適当に聞き流し、外を出る。
「うわ、寒っ…」
時期はもう冬。だが今日は一段と冷える。
鼻が垂れそうになる。
「さっさと帰るか…」
手に持った小ぶりな紙袋をリュックサックに入れ、道端に駐車させたバイクの元へと歩いて行った。
–––––––––––––––––––––––––––––––––
「最近、立花の調子が悪い?」
「うん…」
突然のひふみんからの相談に、私は驚きながらも対応する。
「調子が悪いって…何かあったの?」
「調子が悪いというより、なんだか変というか…」
「変って…」
変とはまた漠然な。
そういうことは、本人に聞くべきじゃないのか。きっかり恋人同士なんだし…同棲もしてるんだし…。
「そんなの…聞けばいいんじゃないの。ひふみんなら、いつでも聞けるでしょ?」
ちょっとした皮肉を込めて言ってみた。多分普段から皮肉を言っている人からすれば、そうはならないのだろうけど。
「聞いてはみたんだけど…その、はぐらかして…」
「はぐらかす」
口で反復し、考えてみる。
基本的にひふみんのことに対しては馬鹿としか言えないぐらい素直な立花が、はぐらかす?
「なんか…怪しいというか…うん、確かに変だわ」
怪しいという言葉よりも、変という言葉の方がしっくりとくる。
「それで、私なんかに聞いてどうするの?」
「コウちゃんなら、何かわかるかなって……仕事とかで上手くいってない、とか…」
「上手くいってない…」
とりあえず、ここ最近の立花行動について思い出してみる。
…これといって失敗はしてないと思う。というかこっちが腹立つぐらい上手くいってる気もする。
「いや、そんな事はないと思うけど」
「本当?」
「私が嘘をつく必要なんてある?腹がたつぐらい上手くいってるよ」
「じゃあ、何が…」
「うーん…私はわかんないけどさ、やっぱりひふみんが本人に聞いてこそ意味があると思うんだよね」
「私が…直接…」
「聞くときは面と向かって。ひふみんはメールで済ませようとするから、そういう所を気をつけた方がいいよ」
「直接…直接…うん、わかった。ありがとう…コウちゃん」
「うん、上手くいくといいね」
ひふみんは自信を持ったような顔つきで私のデスクから離れていった。
しかし…なんでこう、自分の首を絞めているんだろう、私。
「バカな女なのかな…私って」
「コウちゃんコウちゃん」
「ん、どうしたのりん」
りんが書類を持って私を呼ぶ。
「そろそろ会議が始まるから、一緒に…」
「ああ、もうそんな時間か。OK、今行くよ」
「え、う、うん。……何かあったの?」
「……」
りんが何かを察したこのような顔つきで聞く。
…別に話すべきことでもないし、あまりりんに迷惑をかけたくもないし。
「…なんでもないよ。今日の夜ご飯どうしようって考えてただけ」
「…そう、ならいいんだけど。何かあったら、私に言ってよね」
「うん、わかってるよ」
そう言って、私とりんは会議室へと向かった。
会議が始まっても、私は先ほどのひふみんの言葉が頭に突き刺さっていた。
–––––––––変。
変、か…。
立花のやつは、何を隠しているんだろうか。
向かいの席に座っている立花を見る。
別に何かを隠しているような感じもしない。様子もいつも通りだ。
「…がみ」
ひふみんの言う通り、なにかあったのかな。だとしたら、なんでひふみんとか周りに相談…
「やーがーみー?」
「コウちゃんコウちゃん!」
「え、ああはい?」
りんに肘で小突かれて意識を取り戻す。
あれ、私何して…。
「大丈夫か八神。また寝不足か?」
「あ、あー…いえ、問題、ありません…」
「気をつけたまえよ。寝不足は美容の敵でもあって、社会人の敵でもある。適度にとっておいた方がいいぞ」
「はい、申し訳ありません」
葉月さんから厳しい言葉をもらう。
私が会議で意識を逸らすとは…自分で言うのもなんだが、かなり珍しいことだ。
あーもう!
やっぱり気になる!会議が終わったら立花に直接聞こう!
そう意気込み、それ以降からは会議に意識を集中させた。
会議終了後。
「立花、ちょっといい?」
「ん?八神か。なんか用か?」
「いや、まあちょっとね」
そう言って、会議室に二人だけになった。
こうして二人だけになると、何を話していいのかわからなくなる。こういう時に対応できるスキルも身につけておく必要があるな…。
「おい八神、お前…」
「なによ?」
「やっぱり寝てないだろ。しっかり寝ろよ」
顔を一気に近づけられる。
ち、近い!いや、実際はそれなりに離れているのだけど!私的には近い!
「う、うるさいなぁ!そ、それよりも!」
やや強引に立花を引っぺがし、本題を聞く。
「……なんか最近、あんた変だよ。何かあったの?」
あえてひふみんからの伝言とは言わなかった。ひふみんについてを言ってしまえば、彼女が立花に直接聞く意味がなくなってしまう。
「……」
立花は黙り込む。
黙り込んでいるのがムカついたので、ずっと目を合わせることにした。
すると立花は、観念したかのように息を吐く。
「……はーっ。お前にはバレるのか」
「え、バレる?」
「ああ、お前になら話してもいいか。お互い長い付き合いだしな」
長い付き合いって…それはひふみんの方が長いはずでしょ。
何を言っているんだ、この男は……。
と思っていると、立花はいそいそと携帯を取り出し、私に見せた。
画面に映された物を見た瞬間、私の世界は凍りついた。
「見てわからんか。指輪だよ指輪」
「ゆび、わ…?」
「ああ。もう付き合い始めて長いからな。お互いに踏みとどまりあっていたけど、最後に動き出すなら、せめて男である俺からと思って」
それはつまり、世間一般でいうところのプロポーズ。
「ひふみにはサプライズということにして、他にも言わないようにとしておいたんだが……お前には別に言ってもいいか。信頼できるし」
–––––––信頼できるし。
その言葉に、私は上手く喜ぶことが出来なかった。
「……」
「八神…?どうかしたのか?」
私は、彼からの心配にも、言葉にも……ただ、ただ
「おめでとう!なんだよ、そんな事ならもっと早く言ってくれればよかったのに!」
笑顔で返すことしかできなかった。
ああ、違うんだ。これは嘘の顔だ。仮面なんだ。
心は…私自身は、泣いている。部屋の角で、体操座りをしてすすり泣いているんだ。
「……そう、か。ありがとうな。やっぱりお前に打ち解けといて正解だったよ。葉月さんも良い相談相手なんだが、いちいちムカついてなー…」
気づいてくれ。
私は泣いている。笑顔だけど、泣いているんだ。
でも気づかないで。
私は、友人の…想い人の、幸せを掴ませてあげたい。そのために、私の涙は不要。
笑顔で送り届けて、背中を押すのが、私の役目。
「どうせサプライズでやるんだから、幸せも倍にしてよ!」
「おう、任せとけ!」
「おーい、立花やーい」
会議室の外から、倉橋くんが呼びかける。
「ここの処理どうすればいいんだよ」
「お、わかった、今行く」
携帯をポケットにしまい、向かう最中、立花は振り返って私に聞いた。
「八神…お前の方が、何かあったのか?」
「……っ…」
その問いが、痛かった。棘のようだった。
彼は私の想いには気づいてない。いや、気づかせてはいけない。
「なんでも…なんでもないよ!ほら、さっさと行ってこい!」
「あ、ああ…。なんかあったら、相談しろよ」
「わかってるって」
そう言って、立花は会議室から出て行った。
今、会議室にいるのは私ひとり。
一度、息を吸って吐く。
涙を流すべき所なのだろうけど、涙は流れない。
ただただ、胸の中が痛いだけだった。
壁に立てかけられた、時計の針の音よりも、胸のチクチクした痛みの音の方が、一人だけの会議室にはよく響いた。
ここからはどシリアス(になるのかな)
一時間程度で仕上げたので、誤字脱字がひどいと思いますが、その辺は優しくご指摘の方をお願いします。