転生したら滝本ひふみの彼氏になった件について 作:飛び方を忘れてるカラス
あのファーストコンタクト(と言えるか怪しいが)から数ヶ月。俺の偏った主観だが、滝本さんとの仲は良好といったところだ。
最初は屋上で、2人以外誰もいない環境でやっと話せる程度だったが、今では教室内でも普通に話せるまでになった。
教室といえばクラスメートで溢れかえっている空間だ。そしてその空間にいる人間の殆どが、思春期という感情が生じ、その感情に支配されて動いている。
要するに、
そのことを気にしてか、最近、滝本さんは口数を減らしてしまった。
俺はあまりそういう噂というのは気にしない方なのだが、やはり唯一と言ってもいい、親しくしていた人の口数が減ってしまったというのは悲しいものだ。
なんとか前の関係に戻せる方法はないかと考えながら、次の授業の準備をする。
すると前の席の男子…名前は大橋と言っただろうか、が俺に話しかけてきた。
「おう立花。おまえもちょっと参加しろよ」
普段は話しかけてこない奴からの誘いに少し動揺しながらも、クラスメート関係は大事だと自分に言い聞かし、参加することにした。
来てみると、そこは使われていない教室だった。そこにはクラスの男子が全員ではないが集まっていた。そこにあった机の上には紙があった。
紙にはクラスの女子の名前が書かれており、その下に「正」の字が書かれていたり、「一」だったり…
なんとなく予想はついていたが、一応聞いてみることにした。
「なんだよコレ」
「あ、見てわかんねーのか?どの女子がいいかのアンケートだよ」
…やっぱりか。なぜ思春期の男というのは、こういうのを気にしたりするのだろうか。一度思春期を迎えている俺からすると、哀れで仕方がない。
「で、おまえは誰なんだ?まさか噂の…た・き・も・と?」
内容よりも言い方に腹が立ったので、とりあえずチョップをする。
「いたっ!…いやでも実際、結構噂なんだぜ。あの氷の女王、滝本ひふみを口説いた男!…ってな」
「氷の女王、ね…」
氷の女王。そう、滝本さんはクラスメート。いや、同学年の男子達からそう呼ばれている。というのも、滝本さんは普段、あまり表情を崩さないポーカーフェイサーなのだ。だが、これだけでは氷の女王とは呼べないだろう。ポーカーフェイスの女子なんて同学年から探し出せば何人かいるはずだし。
…そう俺は思っていた。だが最近、なぜ滝本さんが氷の女王と呼ばれているのか、やっとわかったのだ。
それはある日のこと、一人の男子が滝本さんに勇気を出して告白したらしい。だがその結果は惨敗だった。ここまで聞けばまだどこにでもある話だろう。だが、その惨敗の内容がかなりのものだったのだ。普通、相手からの告白には何らかの返事をするのが普通だろう。
だが滝本さんは他の女子とは違ったのだ。彼女はその告白に対し
「……………」
…ずっと黙っていたのだ。しかもあの無表情で。
ちなみにそのことを話してくれた滝本さんによると、突然の告白で心が追いつかなく、フリーズ状態だったらしいのだ。
だが相手はその塩に醤油をかけたかのような対応で完全に心が砕けた。以後、彼女は男子達の間で氷の女王と呼ばれるようになったのだ。
「まあ噂は噂だ。もしかしたらお前、別に本命がいるかもしれないしな」
「……参加拒否は?」
「ねえよ。噂立ちまくりのお前に拒否権なんか与えっかよバカが」
「…はぁ」
心底くだらないと思いながらも、考えることにした。
…
……
しばらく考えたが、思い浮かばない。なので…
「消去法で滝本さん」
「おっマジで!噂はマジもんだったのかよ」
「うっせー。消去法だって言ったろ」
事実、俺は滝本さん以外の女子とはそれほど親交はもっていない。
そう考えれば、この答えになるのは必然だ。
「さ、やることはやったぞ。んじゃ帰るからな」
「待て待て」
足早に帰ろうとすると、大橋が俺を呼び止めた。
「んだよ、授業始まっちまうだろ」
「んー。まあこれは俺からの個人的な質問だ。…お前、本当に滝本のこと何とも思ってないのか?」
先ほどまでの軽いノリとは打って変わって、真剣な雰囲気で聞いてきた。
…どういうことだ。俺は滝本さんに対して特別な感情というのは抱いてはいない。確かに美人だしプロポーションもいいが、とくにそういうやましい感情というのはもってない。
「持ってねーよ。質問は終わりか?なら帰るぞ」
「…ああ、いいよ。呼び止めて悪かったな」
…まったく。
俺はすぐに教室に戻ることにした
が、大橋は俺が教室を出ようすると、俺にギリギリ聞こえるかの声で呟く。
「…まったく。お前って案外気づいてねえんだな、自分のことに」
…
……
………
…………
午前の授業は終わり、昼休みだ。滝本さんの姿は…もうない。いつもの様に屋上にいるのだろうか。
滝本さんとの関係を直せるかと色々考えていたが、悩んでいても仕方がないので、とりあえず屋上に向かうことにした。
まあその時その時でどうにかなるだろう。
などと能天気に考えていると、ある言葉を思い出した。
″ーーお前、本当に滝本のこと何とも思ってないのか?″
何とも思ってない…さっきはそう言ったが、考え直してみると、俺は滝本さんを初めて見た時に惹かれていた。これは事実だ。
だが、それだけで何か特別な感情を抱くほど、俺はミーハーな男ではない。
だが、あいつの様な普段、ノリが軽い奴に言われるということは、俺は無意識のに彼女をそういう目で見ているということなのだろうか。
などと考えていると、屋上の扉の前に着いてしまった。
…行くしかないか。
意を決して扉を開けると、そこにはいつもの様にパンを食べている滝本さんがいた。
その姿に少し安堵し、リラックスして近づくことができた。
「よっ、隣座るよ」
そう言って隣に座ると、滝本さんは
「あ…どうぞ」
と少し顔を赤く染めながら返してくれた。
…うん、あれだな。完璧にあの噂を意識してるな。現に少し距離空いてるし。
「えーっと、あの噂のことなんだけど…あんまり気にしなくていいよ。ただよく話し合うっていうことだけに過剰反応してる奴らが作ったホラ話だから」
「うん…そのことは別に気にしてない」
気にしてない?なら何故そんな距離を空けたり、口数が少し減ったのだろうか。
「…立花くんの方は大丈夫なの?その…好きな人とかいたりしたら、そういうのって邪魔…になるじゃない?」
「別に大丈夫だよ。第一俺、好きな人いない…かもしれないし」
最後のは、いないということが確定しきれていないから言葉を濁した。
…
「…そう、なんだ」
滝本さんの声のトーンが何故か暗くなる。
この空気はマズイ。質問するなりなんなりして、空気を少しでも明るくせねば。
「…滝本さんは、好きな人とかいるの?」
何を聞いているんだ俺は。あのバカに言われたこと引きずりすぎだろ!
などと自己嫌悪をしていると、返事が返ってきた。
「…いるよ、一応…」
顔を赤くして、小声で言った。
その瞬間、俺はやっと気づいた。
大橋に言われたことは間違いではなかったのかもしれない、と。
顔も声も、何もかもを知らない奴に、俺は変な感情を向けてしまった。
ああ、そうか。これが″嫉妬″ってやつか。
ああ、そうか。俺、滝本さんのこと、好きなのかもしれないな。
「…大丈夫?顔赤いけど…熱?」
顔を赤くして俯いた俺に、彼女は顔を覗き込んでくる。それに俺は慌てて顔を逸らした。
「だ、大丈夫…!そ、それより飯食おうぜ!」
「……?」
滝本さんが不思議そうな顔をしてる。ああ、そうだろな。突然態度を変える男なんて変以外の何物でもない。変な奴って思われてんだろうな。
その日、俺は滝本さんと目を合わせることが出来なかった。
まるで前までの滝本さんの様に。
相変わらずの急展開でございました。自分で始めといてなんですが、さっさと学生編終わらせて本編に入りたいです(笑)