ベル君が月山さんみたいになるのは間違えてるだろ。 作:くるしみまし
次こそは少しでも早く・・・・
ダンジョン4階層
「ハアッ!」
「ギョェ!?」
ベルはシルと別れた後、ダンジョンの中でひたすらナイフを振っていた
ベルはシルに食事の約束してしまっているので普段よりも多めに稼がなくてはいけないため、今日は約半日もの間ダンジョンに潜っていた
「ふぅ・・そろそろポーチがいっぱいだな・・・今日はこのくらいで帰ろうかな」
冒険者の主な収入源はモンスターがドロップする魔石やアイテムを換金することである
ベルの持っているポーチでは長時間ダンジョンに潜っているには収納スペースが足りず何度も地上の換金場とダンジョンを行ったり来たりしていた
「うーん・・サポーター雇おうかな?」
サポーターとは冒険者が倒したモンスターのアイテムなどを回収、運搬の専門職のことである
サポータの有無でダンジョン探索の効率はグンと上がるのだが
「無理か・・・・」
ベルはそう呟くと帰るためにとぼとぼ歩き出した
ベルたちのファミリアには致命的な問題があった
毎日の主食がジャガ丸くんで団員数1、神は共働きという極小貧弱貧乏ファミリアのベルたちにはサポーターを雇うほどの金などなく諦めるしかなかった
ベルは何事もなく換金を終え街中に出る
街中はダンジョンに行く前とは違い、多くの人でごった返している
互いの健闘を褒めあうヒューマンの冒険者たち、可愛らしいドレスで客寄せをするキャットピープル、激しく何かを言い合うエルフとドワーフ、朝の静けさが嘘のように騒がしい街並みに少し気押されながらも目的地を目指して歩き出す
10分ほどで目的地に到着する
『豊穣の女主人』
シルさんが働いている酒場だ
「・・・よし」
あまり酒場という場所に慣れていないので少し覚悟を決めるように頬を引き締め、扉を開ける
「「「「いらっしゃいませ!!」」」」
「おっふ・・・・」
扉を開けた瞬間店員の少女たちが一斉に挨拶をしてくる
一瞬思考が止まりかけたがなんとか持ちこたえ、店内に歩を進める
丁度カウンター席が空いていたのでそこに座らせてもらう、すると
ドンッと目の前に並々とエールの入ったジョッキを置かれる
「え?」
視線を上げるとそこには大柄なドワーフの女性がいた
格好や雰囲気、そして店の名前からするに、恐らくこの人がこの店のオーナーだろう
「あんた見ない顔だね! とりあえず飲みな!」
「でも・・僕頼んでな・・・飲みます」
断ろうと思ったらすごい睨まれたので素直に従う
(ああ・・どうせこれもただではないんだろうな・・・)
しっかりお金はとられるんだろうな、と思いながら飲み進めていると先ほどのドワーフの女主人が目の前にメニューを置いてくる
「好きなもの頼みな」
メニューに目を通すと、どれも少々高めである
「それじゃあ・・・この唐揚げをお願いします」
比較的安めの唐揚げを頼むと、女店主は厨房へ消えていった
ふう・・・と一息つき、程なくすると
「隣いいですか?」
「あ、はい。どう・・・シルさん」
声をかけられ振り向くと笑顔のシルが立っていた
シルは片手に唐揚げの盛られた皿を持っていて、とても香ばしい香りがする
「どうですか私たちのお店?」
「あはは・・・なんかずっと圧倒されっぱなしで」
シルは手に持っていた皿をベルの目の前に置き隣の席に着く
「わあ・・・!」
目の前に置かれた唐揚げはたった一品だが素晴らしい存在感がある
黄金色の衣の中には、ジューシーかつ肉厚な肉が包まれているのが分かり、漂う香りは脳を痺れさせるほどの香ばしい香りをしている。
「美味しそう!」
「もちろんです! うちは料理の美味しさとお酒の美味しさならオラリオ位置ですよ!」
箸を取りおもむろに唐揚げを一つ口の中に放り込む
「むうっ・・・・!」
噛んだ瞬間、衣がサクッと音を立て、衣に閉じ込められていた肉汁が口の中で一気に弾ける。 肉本来の旨味と数種の香辛料とハーブが互いに引き立て合うように絶妙な味付けもされており
「肉のジューシーな旨味とスパイシーな辛味が生み出すハーモニー! デェリシァス!!」
と何故か叫びたい衝動に駆られたが理性で抑え込み、夢中で唐揚げを食べる
シルは何も言わずニコニコとこちらを見ている
結局唐揚げを食べ終わった後、足らずにパスタを注文する
それからしばらくシルと他愛もない話をしていたら
カラン
と店のドアから冒険者と思われる団体が入ってくる
おそらくダンジョン帰りのファミリアだろうと思い何気なく目線を向けたら箸が止まる
(うわあ・・・・)
ベルが箸を止めた理由は冒険者の姿や雰囲気にあった
ほぼ全ての冒険者たちの装備はベルが装備している粗末な物と違い、どの装備も素晴らしい性能を秘めているのが分かる
冒険者たちは恐らくオラリオの中でもトップレベルのファミリアに属していることが、冒険者になって1カ月足らずのベルにも理解できた
「ロキファミリアですね」
シルがその団体を見て呟く
「ロキファミリア! あの人達が!」
ロキファミリアといったらオラリオの中でも最大最強の派閥の一つじゃないか!どうりであれだけの存在感があるわけだ
「ロキファミリアさん達はウチの常連さん達なんですよ。主神のロキさんがママの作った料理とお酒をとても気に入ってくれてよく来てくれるんです」
なるほど・・そんな理由が
「へ〜そんな理由・・・・が・・・」
思わず言葉を失う
冒険者達に圧倒されたわけではなく、列の一番後ろから入ってきたたった1人の少女を見た瞬間、まるで石化の呪いにでもかかったかのように動けなくなる
「ロキファミリアは最近更に勢力を伸ばしていますし、最近だったらやっぱりあの・・・」
人形のような繊細な顔達、絹のように滑らかで黄金に光る髪を持っているあの人は
「剣姫・・アイズ・ヴァレンシュタイン・・・」
彼女の名前をうわ言のように呟く
「あら、知っていたんですね。 まあ彼女は有名人ですしね」
シルはベルに話しかけるが、ベルにその声は届かなかった
あの人が目の前にいる
あの人と同じ店にいる
あの人と同じ空気を吸う
ただそれだけのことがベルには感動的で官能的な事に思えた
またもや体の奥底に熱が灯り始め、少しでも彼女に近づこうと腰を浮かそうとした時
「おいアイズ! この前話したトマト野郎の話をしてくれよ!」
アイズの近くに座ったウェアウルフの青年が声を上げる
動きが止まる
一気に体の熱が逃げていくような感覚を覚える
「なんだ何かあったのか?」
「ああ! 聞いてくれよ、この前取り逃がしたミノタウロスの最後の一体を狩ってる時によ、そのミノタウロスから1人いかにもルーキーて奴が逃げ回ってたんだよ!」
間違いなく・・・僕のことだ
「そいつがまたドンくさくてよ!結局ミノタウロスの前ですっ転んだ挙句、虫みたいに逃げ回って壁まで追い詰められてやがったんだよ!」
「ハハッ! 情けねぇ!」
「こらお前達やめないか!」
エルフの女性が周りの目を気にしながら騒いでいる青年達を注意するが静かになる様子はない
「そこをアイズが助けたんだけどよ、アイズにビビりあがって固まってんでやんの! しかも返り血と涙でみっともねぇ面晒してよ!」
違う、アイズさんを恐れて固まったんじゃない。見とれていたんだ
「あんな雑魚はさっさと冒険者を辞めちまえばいいのによ!」
今度は体の中に火の灯るような熱ではなく、グツグツと煮え滾るマグマのような熱がたまる
「あの冒険者はレベル1、レベル2のミノタウロスに逃げ出すのも仕方がないというものだ」
「いいや違うね。冒険者だったら逃げ惑わず華々しく散ってみせるもんだ!」
「ベートだって冒険者なりたての頃は大したことなかったじゃん」
「ウッせぇぞティオナ! 俺をあんな腰抜けと一緒にすんじゃねぇ!」
ティオナと呼ばれたアマゾネスの女の子に対しウェアウルフの青年が吠える
「第一俺はアイツを冒険者、いや男として認めねぇ」
マグマは更に煮え滾る
「ベート! 酔っているのか、いい加減にしておけ!」
「ベートうるさーい」
「ベートサイテー」
エルフの女性も声を荒げ、アマゾネスの少女2人がそれに便乗する
ベートは今度はアイズの方を向く
「アイズお前はどうなんだ! 俺とあのトマト野郎のどっちの方が男として優れていると思う!?」
ベートは突拍子もない質問をする
腹の中のマグマを煮えたぎらせながら耳を立てる
「・・・・少なくともベートでないことは確かです」
「あはは、ベート振られてやんの!」
「振られてねぇ! だいたいあのトマト野郎の方が良いともいってねぇだろ!」
「えー、あの子結構可愛かったけどな」
ウェアウルフの青年はアマゾネスの少女2人にギャアギャア騒ぎ立てている
それに対しベルは静かにグツグツと火を煮えたぎらせる
「だいたいなぁ!」
ウェアウルフの青年は更に声を荒げる
「自分より弱くて、軟弱で脆弱、気持ちだけのやつなんてお前の隣に立つ資格はねえ。それに他ならないお前がそれを認めねぇ!」
「雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインには釣りあわねぇ!」
バシャァ
次の瞬間、ベートの顔に水がかかる
かけたのは・・・・・僕
店内が呆然とする中、自分の意思とは関係なく一言
「表へ出ろ・・・・雑種が!!」
最後の言葉ギルガメッシュみたい