ベル君が月山さんみたいになるのは間違えてるだろ。 作:くるしみまし
『豊穣の女主人』の玄関前
そこには沢山の見物客が集まっていた
多くの見物客は豊穣の女主人の客だ
その客たちが通行人たちに「面白いものが見れる」と言った
面白いこと、それは
レベル5の冒険者にレベル1の冒険者が喧嘩を売ったという、あまりにも無謀な挑戦を使用としている少年の勇気を見ようとこの人だかりはできていた
その中心には2人の男、ベートとベルだ
「おお! ガキンチョ勇気あるじゃねぇか!」
「あらかわいい顔してるじゃない! あんまりいじめないでねぇ!」
「弱いものいじめか? いいぞもっとやれ」
いたるところから野次馬の声が飛ぶ
「覚悟はいいだろうな、ルーキー!」
ベートは凄まじい形相でベルを睨みつける
「五月蝿いぞ・・・雑種!」
ベルはレベル5を前に全く動じることなく睨み返す
二人とも今にも相手に襲いかかりそうな雰囲気である
「ああ・・・なぜこんなことに」
その様子をシルはベルのことを心配そうに見守る
まるで止められなかった自分を悔いるような声音でどうしてこうなってしまったのかと嘆く
「まあ成り行きや、あきらめぇシルちゃん」
シルの隣でカラカラと少女が笑う
「止めてくるって言ったのになんでこうなっちゃったんですか・・・」
シルは少女の事を憎々しそうに睨みつける
「いや、わいは止めたんやで。あの2人が聞かんかっただけや」
「それでも・・・」
ベートのレベルは5、レベル1のベルと戦おうものなら一瞬でベルはひき肉になるだろう
しかしシルには止められなかった、ベルの顔を見て止めることは自分にはできないと思ってしまったからである
(ああ・・・・せめて、せめて無事に帰ってきてください)
シルはただベルの無事を祈ることしかできなかった
ちなみになぜこんなことになっているかというと、時はベルがベートに水をかけた直後に遡る
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「お前・・・・今なにやったか分かってんのか!」
ベルに水をかけられ水浸しのベートはベルの胸ぐらを掴みあげ怒号を上げる
「あぁ・・・・!」
シルはハラハラした様子で見守っている
「・・・・キャンキャン喚く犬の頭を冷やしてやろうとしただけだが?」
しかしベルは動じた様子もなく、むしろ挑発するように告げる
ベートの眉間のシワがさらに深くなり、こちらを見る視線はそれだけで人を殺せそうだ
「テメェ・・・どうやら本気で死にたいみたいだなぁ・・・・お望み殺してやるよ!」
「まあ待てや、ベート」
ベートが手を振り上げると同時に後方から少女の声がかかる
振り向くとそこには可憐な少女が立っていた
その少女はただ立っているだけだが、明らかに普通の人間とは違う存在感がある。 思わずこうべを垂れたくなるようなこの感覚、おそらくこの少女は
「神・ロキと見て間違いないでしょうか?」
「おお! 分かるなら話早いわ、うちのモンが迷惑かけたみたいやな、すまんかった」
少女はひと懐っこい笑顔でケラケラ笑った後、一言謝罪を述べ
「・・・・チッ」
自分の主神が謝罪したのを申し訳なく思ったのかベートはバツが悪そうに手を離す
「いえいえ、あなたは何も悪くはないです・・・ただ」
ベルはチラッとベートの方を蔑むような目を向け
「飼い犬が1人で騒いでいただけみたいですからね」
ベートからブチッと音がなる
「・・・・表に出ろ、ルーキーが!」
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そんなわけで、いまベートとベルは睨み合っている
睨み合うこと数十秒、場には緊張感が高まっていく。ベートはベルに向けゆっくり拳を向け、指を一本を立てる
「・・・・・1本だ」
ベートは静かに呟き、観客がざわめく
「てめぇをぶっ潰すのには指一本で十分・・・それも一撃で終わらせてやる」
オオォォォォォ
観客が歓声をあげベートは得意げな顔を作る
それに対しベルは表情を崩さず
「高レベルの冒険者がレベル1の冒険者に攻撃を加えること自体情けないことだと思うけどね」
と言ってのける
観客はさらに大きな歓声をあげる
「テメェ・・・」
ベートがベルに向けて歩き出そうとした瞬間
ドンッ
ベルは倒れそうなほどの前傾姿勢でベートに向けて駆けだす
不意をつかれたベートが驚愕の表情を浮かべ、遅れて歓声が上がる
ベルは腰に手を伸ばしポーションの入った瓶を取り出しベートの目の前に放る
そして
パアンッ
瓶を思いっきり殴りつけポーションと瓶の破片をまるで散弾銃のようにベートに飛ばす
「うおッ!?」
ベートが思わず顔を手で庇ったところでベルは更に横に飛びベートの背後に回り込む
ベートはまだなにが起きたか分かっていないように見える、ベルはジャンプしベートの頭に狙いを定め足を振り上げ
「クラえっ!!」
足を振り下ろす
しかし
「やってくれたなぁ」
ベートはベルのかかと落としを背を向けた状態で指一本で受け止める
(バカなっ!!?)
今度はベルが驚愕の表情を浮かべる
ベートは勝ち誇った顔でゆっくり振り向く
「おかげで俺の服がビショビショじゃねぇか・・・責任とってもらおうか!」
ベートはこちらをまるで勝利を確信したような表情で睨みつける
ベルは身の危険を感じすぐさまベートから距離を取るためバックジャンプする、しかし
「いや、逃がさねぇよ」
「なっ!?」
ベートはまるで瞬間移動のような速度でベルに近寄り、ベルの額近くに拳を置く
指はデコピンのように親指で人差し指を止めることもなく、第二関節のあたりで曲げているだけだ
それでもベルは銃を突きつけられたような恐怖を覚えとっさにガードしようとする
しかしベートはそれよりも早く指を動かす
・・・ベルはまるで世界がスローになったような感覚に陥る
そのおかげで頭に上っていた血がだんだん下がっていき、周りに目を配る
観客達はほぼ止まり、シルは両手を胸の前にあわせ何か祈っているように見える。その隣のロキは先ほどとは違う真剣な表情でこちらを見ていて・・・アイズは・・・不安そうな顔をしている
僕のことを案じてくれているのかは分からないが、不安そうな顔をしているアイズも美しい・・・だけど
(アイズさんにあんな顔してほしくなかったなぁ・・・)
冷静になった頭でそんなことを考える
そんな中、唯一動くものがあった
ベートの指だ
指はゆっくりと確実にベルの額に近づきあと数ミリで当たるというところでこんな声が聞こえる
「吹っ飛びな」
ドゴオァッ
瞬間、世界が加速する
額をまるで大男に思いっきり硬い何かでぶん殴られたかのような、かつてない衝撃を受ける
最初に目に入ったのは空だった
星々は一瞬で過ぎ去りまるで流れ星のようだ
次は床、見えたかと思った瞬間体に凄まじい衝撃が走る
バンッと音を立てて叩きつけられた僕の体はもう一度跳ねる
身体中が千切れるのではないかと思うほど痛むがそれでも自分ではどうしようもなく体は数度跳ね、ゴロゴロと転がり・・・止まる
ベルは・・・・動かない
「・・・・終わりやな」
ウヲオオオオオオオオ!!!
ロキの一声を合図のように凄まじい歓声があがる
「見たか今の!? 指一本で吹っ飛んだぞ!」
「ウハァ! やっぱベートすげえ!」
「てかあいつ動かないぞ。死んだんじゃないか!?」
観客は興奮を抑えることもなく感情をあらわにする
「いや・・・」
シルは目の前で先程まで親しげに話していた少年が目の前で吹き飛ばされたのを見て固まる
「ベルさんッ!」
シルはすぐに悲鳴に近い声をあげ、ベルに近づく
少年の体を持ち上げると細身のシルでも持ち上がるほど軽く、頼りなかった
「ベルさんッ! 大丈夫ですか!?目を開けてください!!」
少女が悲痛な声を上げる
「チッ・・・身の程を理解しないからだ」
ベルに背を向け歩き出す
「おい、どこに行くんだ!」
エルフの女性がベートに声をかける
「俺はもう帰る。 あとはお前らだけで飲め」
そう言って片腕をあげ興を削がれたという雰囲気でベートはまた歩き出した
観客達はなお騒ぎ続ける
だが一歩、また一歩と歩くうちにベートは異変に気付く
先程までうるさいほど騒いでいた客達が静まり返っている
振り返ってみれば先程ベートに話しかけたエルフの女性も含め、観客全員が驚愕の表情である一点を見ていた
「・・・・・ッ!?」
その視線を追ったベートも固まる
視線の先には・・・・一人の少年がいた
少年は額から激しく流血し身体中に痣が見える、目はうつろで生気がない
しかし
それでも
少年は立っていた
(ありえへん!!?)
ロキの心の中は穏やかではなかった
ロキはファミリア歴はそこそこ長い方であるが断定できる
今見ている光景はオラリア史上初の出来事である
オラリオの中では冒険者同士の喧騒は絶えない、勿論レベル差があるのに喧嘩する者達もいる
しかし誰が予想しただろうか
デコピンとはいえレベル5の攻撃をレベル1の冒険者が喰らい
そして・・・立つと
レベル5の冒険者とレベル1では大人と子供・・・いや、人と蟻ほどの力の差がある
(蟻んこが人のデコピンを受けて生きとると思うかい普通・・・・)
ロキは少年の姿を見て興奮を抑えられずニヤリと笑う
(・・あれ・・・僕どうなってるんだろう)
ベルはうっすらと意識を取り戻す
しかし耳鳴りがひどく、視界がはっきりしないため現状が把握できない
かろうじて見えてきた視界は目に血が入り赤く染まっている
身体中の感覚はダメージにより麻痺しているのか痛みは無く、むしろ軽く感じる
(ハハハ・・・よく生きているな・・・僕)
きっと周りから見たらゾンビみたいな見た目なんだろうとか思ってみる
《大丈夫かい?》
頭の中で何度も聞いた声が聞こえる
この声は・・・僕だ
《すまないね、だいぶ傷ついているけど動けるかい?》
(この傷君のおかげでついたんだけど無茶言うね・・・)
《そら言うさ。だって僕はまだあいつに傷一つ付けられていないからね》
(・・・無理だよ。 だってあの人はアイズさんと同じくらい強いんだよ・・・僕なんかじゃ・・・)
《悔しくないのかい?》
(!・・・・悔しい)
あれだけ言われて喧嘩までふっかけたのにこのままじゃあ・・・
《じゃあ何をしたい?》
「せめて・・・1撃・・・」
拳を構える
《・・・僕もあのすかした犬っころの顔面を殴りつけたいと思ってたところだ、だから》
(《いっしょに行こう》)
ドンッ
ベルは再びベートに向かって走り出した
あとこの前、加点式・透明でランキングに乗りました。
頑張ります