似て非なるもの   作:裏方さん

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今さらながら、

「明けましておめでとうございます」

更新遅くなってすみません。
今年もまたよろしくお願いいたします。

今話は生徒会選挙の演説の時に遡ってます。
八幡に認めないと言われた後、オリヒロは・・・

今回も2万字越えで、字数多くてすみません。
お時間お掛けすると思いますが、無理なさらず
よろしくお願いいたします。



オープンキャンパス編 -後悔と迷いとそして・・・-

”ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ”

 

・・・・・あ・・あれ・んっ・・わた・し・なん・か・揺れ・て・る?

ん?・か・りや・・ど・く・・・ん?

・・・な・んか・・すご・・く・・顔近・い・よ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

・・・んっ・と・なん・か・・刈宿・・・君・息・・・・荒い。

わた・し・なに・され・・て・・・るん・だ・ろ・・・う?

 

”ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ”

 

・・・・・まっ・・・いい・・・か。

 

『俺は絶対に認めない』

 

も・・・もう・・・どうでも・・・・・・いいや。

わた・し・・なん・て・・・ど・う・・なっ・て・・も・・・いいん・だ。

今・は・・とっ・て・も眠く・・・て・・・・・そ・れに・疲れ・・・た。

 

「ぐぅ~、ぐぅ~」

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

”ギシ、ギシ、ギシ”

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「着いた~」

 

つ、ついに来ちゃったカルフォルニア。

ひぇ~、右も左も外人さん、外人さんがいっぱい。

んと、どこに行こうかなぁ、デイズニーにユニバーサル、それにビバリーヒルズ。

えっとハリウッドにも行きたいし、えっと後は・・・・・どこでもいいや。

とにかくいろんなところ見て回りたい。

ん~、でも刈宿君どこにいるのかなぁ。

 

”キョロキョロ”

 

確か空港の到着ロビーで待っててくれるって言ったんだけど。

どこだどこだ?

 

”ドン!”

 

「あ、ご、ごめんなさい」

 

「〇✖△□、〇✖△□!」

 

「い、いや、あの、その・・・」

 

え、やばい、このちっちゃいおじさん、なんか言ってる。

これ、英語かなぁ。

なんかあんまりよく聞き取れない。

う~、あんだけ勉強したのに。

どうしょう、なんて言ってんのかなぁ、なんて言えばいいんだろう?

 

「え、えっと、アイアムサム!

 あ、違った、Iam sorry for buming。」

 

あ、それと満面の笑みで。

見よ、自称おじ様キラーのこの笑顔!

 

「Sorryね、ニコ♡」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!」

 

ひ、ひぇ~、な、なんか怒り出した。

はっ、わたしの笑顔が悪かったの?。

おかしいなぁ、お肉屋さんのおじちゃんにはバッチリなのに。

でもなんで、なんで謝ってるのに怒ってるの?

なんか変なこと言ったかなぁ?

あ、もしかして逆だった?

 

「Buming、えっと、Buming for ・・えっと~」

 

な、なんだったっけ? Bum・・・あ、Bumpingだった。

げ、めっちゃ怒ってるよ~

ど、どうしょう、か、刈宿君どこ?

刈宿く~ん。

 

”キョロキョロ”

 

「〇✖△□、〇✖△□!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!」

 

げ! な、なんで。

ふ、増えてるよ、ちっちゃいおじさん二人に増えてるって。

おじさんて双子だったの?

え、誰か呼んでる?

 

「〇✖△□、〇✖△□!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!!」

 

げ、また増えた!

い゛~、みんな同じ顔してるー!

は、あの人、服のポケットからなんか出そうとしてる。

もしかして、け、拳銃!

だ、だずげて、ごろざれるー!

だ、だれかー

 

”キョロキョロ”

 

あ、あのアホ毛! あの後ろ姿は、ひ、比企谷君。

比企谷君だ!

 

”ダー”

 

「ひ、比企谷君、た、助けて」

 

「僕はお前を助けない」

 

え? あ、あの~、比企谷君?

 

”クルッ”

 

あっ違う!

目が腐ってない。

似てると思ったけどなんかこの人違う。

よくみたらアホ毛以外は髪型も違うし。

で、でも日本人みたいだし、この際誰でもいいから。

 

「助けて。

 あのおじさんに、う、撃たれそうなの。

 お願い助けて下さい」

 

「お前が明日死ぬのなら僕の命は明日まででいい。

 お前が今日を生きてくれるのなら、僕もまた今日を生きていこう」

 

「・・・」

 

は、はぁー! な、何言ってるのこの人。

い、今にもわたし撃たれて死にそうなんだってのに。

わたしは今日も明日も行きたい!

 

「い、いや、あのね、」

 

「だけど、一緒に死ぬ相手を選べと言われたらお前を選ぶ」

 

「わたしはイヤー!」

 

も、もういい、だ、誰かだずげでー

 

”キョロキョロ”

 

「〇✖△□、〇✖△□!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!!!」

 

ぐぅえ! いつも間にか周りちっちゃいおじさんばっかり、それも

みんな同じ顔。

おじさんって、いったいいくつ子なの!

あ、いやー、みんな拳銃構えてる。

う、撃たないで、まだわだじ死にだぐない!

 

「Three, Two, One, Buming!」

 

”パン! パン! パン!”

 

「ギャー!!」

 

     ・

     ・

     ・

 

はっ!

え、あ、あれ?

わ、わたし生きてる、生きてるよね。

よ、よかった~、夢だったんだ。

はぁ~、もう死んだかと思った。

んっとでもさ、ここどこ?

見たことない部屋だし、わたしベッドで寝てる。

 

”ギシ、ギシ、ギシ”

 

へへ、夢だったんだベッドで寝るの。

なんか寝心地いいな~、この弾力がいい。

いつも寝ている布団って薄いから、硬くて時々身体痛かったんだ。

このベッドなら身体痛くならなくてすむ。

 

「えへへ」

 

”ギシ、ギシ、ギシ”

 

いやいやいや、そ、そんなことやってる場合じゃないって!

ここどこだよ?

えっと、なんかヒントになりそうなものない?

 

”キョロキョロ”

 

あっ! 肥満度ヒーロー、ファットさんのぬいぐるみ。

ふふふ、なんかあの目とか体型とかみるとなんかホッとすんだよね。

イレギュラーヘッド様に次いで好きなキャラ。

でもさ、ファットさんって誰かに似てるんだよね。

ん?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ファットさん。

ファットさん、ファットさん、ファッ・・・

 

『俺は肥満度ヒーロー、ファットさんに凝ってんでんがな』

 

・・・・・・・・・・う、うそ。

い、いやちょっとまて、ちょっと冷静になれわたし。

そ、そうだ深呼吸。

 

”スーハ―、スーハ―”

 

え、えっとさ。

アメリカに行ったってのが夢だったんだよね。

だって撃たれてないもん。

そ、その前の記憶、えっとな何があったっけ?

・・・・・刈宿君。

刈宿君の顔がすごく近くにあって、何かすごく息が荒くてさ。

そんで・・・・わたしゆっさゆっさって揺れてて。

・・・・・・・・・・・う、うそだよね、ははは、なに考えてんだわたし。

 

”ガバッ”

 

えっ! な、何でわたし下着姿なんだ?

・・・下着だけ、パンツとブラだけ。

・・・・・・・うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うっそー!

わたしもしかして刈宿君と。

だってここ刈宿君の部屋だし、わたしは下着姿。

そ、そ、そ、それになんか下腹部も変な感じだし。

刈宿君息遣い荒かったし。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたしやっちゃたんだ。

わたし刈宿君と、あ、あのさ・・やっちゃ・・・・・・・・うそ。

ど、どうしょう、どうしよう。

こんなの、こんなのって。

ご、ごめんなさい、ひ

 

”ガチャ”

 

「あ、起きてたの美佳」

 

「ま、ま、麻緒さん、ど、ど、ど、どうしょう、わ、わ、わたし刈宿と。

 あ、あのさ、刈宿君と、や、やっちゃった。

 ど、ど、どうしょ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ん!

 な、何で麻緒さんが刈宿君の家に?」

 

「なに言ってんの? ここわたしの家だけど」

 

「はぁ?

 ・・・え、えっと~でも、ほらファットさんのぬいぐるみ」

 

「え、あ、これ。

 本当は痩せてる時のがほしかったんだけどね。

 ほら、痩せてる時のファットさんの顔ってさ、なんとなく雰囲気が

 佳紀に似てない?」

 

「ん~、あっそっか確かにとうちゃんに似てるかも。

 いや、そんなことじゃなくて。

 なんでわたしが麻緒さん家に?」

 

「美佳、なにも憶えてないの?

 あんたは学校で貧血で倒れたの。

 もうびっくりしたんだから、学校から電話あった時は。

 それで慌てて学校に行ったら、あんた保健室のベッドで

 ”ぐぅあー、ぐぅあー”っていびきかいて寝てるし。

 もう、心配して損した。

 後でタクシー代を請求するからね」

 

「え?

 あ、あの~」

 

「美佳、あんた生理中のくせに寝不足だったんでしょ。

 今週はずっと朝ご飯の時にすごく眠たそうだったし、目の下にクマも

 出てたし。

 勉強も大事だけど、もっと身体を大事にしなさい」

 

「あ、う、うん。

 え、えっとちょっと待ってね麻緒さん。

 頭の中が生理・・・じゃなくて整理できなくて。

 えっと~」

 

な、なにがあったんだ?

麻緒さん、わたしが学校で倒れてたって言ったけど。

ん~と、確か屋上で比企谷君と・・・・・・・・

その後どうしたんだろう、なにも憶えてない。

なんか走ってたのは覚えてるんだけど・・・その後どうしたんだろう?

 

「あ、あの~麻緒さん。

 わたし学校で倒れてたんだよね?」

 

「そう。

 えっとあの色黒の結構カッコいい男の子、確か刈宿君だったっけ?

 彼が倒れてるの見つけてくれて、美佳を保健室まで運んでくれたのよ。

 それにわたしが迎えに行くまで、ベッドの横にずっと付き添っていてくれて。

 ぐぅあー、ぐぅあーって、いびきをかいているあなたの横で。

 とっても心配そうにね」

 

げ、刈宿君の前でいびきかいてたんだわたし。

ひゃ~、はずかしい。

ヨダレは大丈夫だったかなぁ。

 

「その後もタクシーに一緒に乗って来てくれて。

 この部屋まで美佳を運んでくれたのも刈宿君だったんだから。 

 しかもお姫様抱っこで」

 

「お、お、お、お、お姫様抱っこー」

 

げ、なんかすごく恥ずかしい。

その間もずっと寝てたってわたし、どんだけ眠たかったんだ。

確かに、土曜日からずっとあんまり寝れなかったんだけど。

それにしてもお姫様抱っこって。

あ! それで顔近かったんだ。

 

「はぁ~うらやましい。

 お姫様抱っこ」

 

「・・・・・」

 

「お姫様だ 」

 

「も、もういいから、やめて~」

 

「ふふふ、大分顔色も戻ったみたいだし、もう大丈夫なようね。

 今度、刈宿君にはちゃんとお礼言っておきなさいよ」

 

「ふぁい」

 

「それと今日は一日ゆっくり休んでなさい。

 学校には連絡しておいたから。

 あ、それに明日は祭日だから泊っていきなさいね。

 佳紀には言っておくから」

 

「あ、う、うん」

 

「で、お昼ご飯食べれそう?」

 

「え、お昼ご飯って?

 あ、あの今何時?」

 

「12時過ぎたところよ。

 本当に昨日からよく寝れたもんね。

 お昼ご飯できたら呼んであげるから、それまで休んでなさい」

 

「う、うん、ありがと麻緒さん」

 

”ガチャ”

 

そ、そっか。

わたしやってなかったんだ。

よ、よかった。

だって初めては・・・・・・・

 

”ぽっ”

 

はっ、な、な、なに想像してんだ。

そ、そ、そ、そうだ、スマホ。

みんなに連絡しなくちゃ。

えっと~

 

”カシャ、カシャ”

 

げ、メールいっぱい。

どれどれ。

 

”カシャ、カシャ”

 

ふむふむ。

そっか、昨日の生徒会選挙はジャリっ娘が当選したんだ。

舞ちゃん大丈夫かなぁ、あんだけ頑張ってたのに。

う~ん、しかし恐るべしはジャリっ娘。

まさかあの差を逆転するとは。

あ、そうだジャリっ娘に電話するんだった。

えっと今日は新役員の顔合わせがあるはずだから、それまでに話して

おかないと。

・・・それから清川くんにも電話だね。

 

     ・

     ・

     ・

 

パコ~ン、パコ~ン

 

『・・もっとやさしくしてよ、わたしのこと、わたしのこと抱きしめてよ馬鹿!!

 比企谷君なんて・・・・・・ほんとに、ほんとにもう嫌いだから!』

 

「はぁ~、やっぱり俺は間違っていたのか。

 いや、これでよかったはずだ、これが正解なんだ。

 ・・・だけど」

 

”ズキン!”

 

「ぐ、いてぇ」

 

「やっぱりここにいたんだ」

 

「ん? あ、川崎」

 

”ぼこ

 

「ぐはぁ、な、なんで」

 

「あ、ごめん、間違えた。

 だ、だっていつもあんたはあたしの名前を・・・

 あ、あんたが悪い」

 

「横暴だ!

 くそ、で、何か用か?」

 

「あんたさ、昨日あの後に三ヶ木に会った?」

 

「・・・ああ」

 

「そっか、やっぱりね」

 

「なんだやっぱりって?」

 

「で、あんた三ヶ木に何を言ったのさ。

 三ヶ木、昨日あの後、結局戻ってこなくて今日も学校休んでんだよ」

 

「・・・・・・な、なにも、なにも言ってない」

 

「あんたにはそのつもりはなくても、勘違いするようなことなんか言ったん

 じゃない?

 ・・・・去年の、ぶ、文化祭の時のように」

 

「文化祭?

 俺何か言ったか?」

 

『愛してるぜ川崎!』

 

「本当にあんたは!」

 

”ぼこ”

 

「ぐはぁ、い、いてぇ、なんだいきなり」

 

「・・・これでチャラにしてあげる」

 

「チャラ、チャラって何のことだ」

 

「な、なんでもいい!

 それよりさ、あんた三ヶ木の家知ってるんだろ。

 このプリント持って行ってくれない?」

 

「い、い、いや、そ、それはお前が」

 

「何で断るのさ。

 やっぱりあんた何かあったんだね。

 いいからあんたが持って行ってあげな。

 頼んだよ」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おい、川越!」

 

”タッタッタッ”

 

「え!」

 

”ぼこ!”

 

「ぐはぁー」

 

「まったくあんたは!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁー!

 お、俺が庶務だって!

 何でそうなるんだ、生徒会なんてそんな面倒なことは絶対に嫌だ」

 

「まぁいいけど。

 だったらパソコンの件は無しね」

 

「な、何でそうなるんだ。

 お前ちゃんとパソコンを返すって約束を」

 

「え? わたしそんな約束してないよ」

 

「な、ちょ、ちょと待て、今ボイスレコーダーを」

 

”カチャ”

 

『・・・代わりに、没収したパソコンを清川君が使えるようにします。』

 

「はっ! お前、また騙したな!」

 

「え~、騙してないよ。

 残念だね~、庶務になればパソコンが自由に使えるんだけどな~

 あ、生徒会室の中での話だけど。

 それにさ、会長と話す機会も増えるんだけどなぁ~

 あ、それどころじゃなくて、庶務と会長は一心同体って言われる関係だから、

 もしかして、ぐふふふふ」

 

「・・・い、い、一心同体だと。

 それに、ぐふふふふって。

 し、仕方ねぇ、そんなに庶務やってくれって頼むのなら、やってやってもいいよ。

 あ、あくまでもパソコン、パソコンのためだからな」

 

「はいはい。

 えっと会長にはもう話してあるからさ、さっそく今日の放課後に生徒会室に

 行ってね。

 今日、新役員の顔合わせするって言ってたから。

 じゃあね。

 ・・・・・・あのさ、ほんとにありがと。

 助かった」

 

「・・・あのな、総会の時は暴力振るってすまなかった」

 

「ほんとだよ、めっちゃ痛かったんだからね」

 

「ご、ごめん」

 

「えへへ、でもね、清川君の気持ちはちょっとはわかるから。

 わたし全然気にしていないよ」

 

「あ、ありがとう」

 

「それよりさ、これから会長のことお願いね」

 

「あ、ああ」

 

「じゃあ」

 

「じゃあ」

 

”プー、プー”

 

ふぅ~、これでよしっと。

まぁ、ストーカー君は野放しにするより目の届く範囲で監視するほうがいいもんね。

もうすぐ、わたし達いなくなっちゃうし。

 

”ぐぅ~”

 

は、腹減った~

お昼ご飯まだかなぁ~

 

「美佳~、お昼ご飯できたよ。

 自分でこっち来れる?」

 

「あ、う、うん、大丈夫」

 

うんしょっと。

 

”ふら”

 

はぁ、立ち上がるとまだ少しふらつく。

ふぅ~、お腹すいた。

お昼ご飯何かなぁ~

 

”ガチャ”

 

「へっ!」

 

はぁ~、すごい部屋。

ゆきのんのとこほどではないけど、広くて綺麗でいいなぁ~

あ、テレビでか!

ふぇ~、こんなんでアカ俺とか観れたらサイコーだろうなぁ。

 

「な、ねぇ麻緒さん、このテレビ100インチだよね、ね」

 

「うん、そうだよ、しかも4K」

 

「うわ~、いいなぁ~」

 

「いいよ~、女優さんのしわの一つ一つまではっきり見えるから。

 よし勝ったって!」

 

「・・・・・」

 

そこかー

麻緒さん勝ったって、女優さんのしわ見るために100インチ買ったかー

でも、一人でテレビ見て勝ち誇ってる麻緒さんの姿を想像したら、

なんか・・・・・う~、ふ、不憫だ。

 

「ん、どうした?

 ほらほらそんなとこで立ちすくんでないで、いい加減こっちに来て座んなさい」

 

「あ、うん」

 

”スタスタスタ”

 

うわぁ~美味しそう。

豚レバーとひじきとほうれん草のスープだ。

 

「い、いっただきま~す」

 

”パクパクパク”

 

う、うま~

このレバー臭みもなくて、ほんでしっとりしてて。

くそ、麻緒さんって性格大雑把なくせに料理うっまいんだよな~

わたし頑張って作っても敵わないんだもん。

 

「ね、何で麻緒さんこんなに料理うまいの?」

 

「ふふん、伊達に長いこと海外で一人暮らししてないからね」

 

”もぐもぐ”

 

「海外で一人暮らしか~、なんか憧れる。

 ね、麻緒さんはアメリカでなにやってたの

 ほら、こんなすごいところにも住んでるし」

 

「ん、ああ、トレーダー。

 これでも結構腕利きのトレーダーだったんだからね」

 

”パクッ、もぐもぐ”

 

「ふ~ん、でもなんで日本に帰ってきたの?」

 

「美佳、食べるか喋るかのどっちかにしなさい。

 行儀の悪い。

 まぁ、そこそこ女一人が食っていける程度のお金はたまったからね。

 余生は日本でってね」

 

「余生って・・・

 でもすごいや、麻緒さん勝ち組だね」

 

「・・・勝ち組か

 まぁ、帰ってきたのはそれだけじゃないんだけどさ。

 ・・・・・・・・・ほら次の母の日でもう10年になるから。

 あの娘に今までずっと会いに来てあげられなかった、何もしてあげられ

 なかったからね。

 だから毎日会いに行ってあげたいの」

 

「えっと麻緒さん10年って、それに母の日って。

 もしかして麻緒さん、帰って来てから毎日かあちゃんのとこに?」

 

”こく”

 

「ふふふ、本当に馬鹿だね。

 そんなこと絶対にないってわかっているのに、どこかで美緒が見ていてくれる

 ような気がしてね。

 もし美緒に会えたら・・・生きているときに言えなかったこと伝えられるかなぁて」

 

「ま、麻緒さん?」

 

「あ、ほ、ほら、ちゃんと食べちゃいな。

 お代わりもあるんだからね。

 いっぱい作ったんだから」

 

「う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ””

 

「はぁ、参ったな。

 この角曲がったら三ヶ木のアパートだよな。

 でもなんて言って会えばいいんだ

 

『比企谷君なんて・・・・・・ほんとに、ほんとにもう嫌いだから!

 二度と話しかけないで!』

 

「はぁ~、どうする。

 そうだ! 由比ヶ浜、由比ヶ浜に持っていってもらうか」

 

”キキキッ”

 

「おわっ、自転車!

 あぶねぇ」

 

「あ、す、すみません、大丈夫でした?

 ちょっと考え事してしまって。

 驚かせてすみま・・・比企谷!」

 

「か、刈宿か」

 

「お前何してるんだ」

 

「別になんでもない」

 

「何でもないって、この先は美佳さんのアパートだよな。

 お前美佳さんの家に」

 

「川崎に頼まれてな、学校のプリント持っていくだけだ」

 

「・・・」

 

「・・・刈宿」

 

「あん、なんだ」

 

「お前、なんで三ヶ木のそばにいてやらなかった」

 

「な、なんでって」

 

「日曜日、そこの公園でお前三ヶ木と一緒にいたよな」

 

「・・・」

 

「あれって、三ヶ木がネットで叩かれてるの知って会いに来たんだよな」

 

「・・・そうだ」

 

「なら、何でずっと近くにいてやらなかった。

 あいつが無理してるのわからなかったのか?

 公園であいつから大丈夫だとか言われて安心してたのか?」

 

「い、いや」

 

「これがあいつの自作自演って気がつかなかったのか?」

 

「・・・・・あ、あんたは気が付いていたのかよ」

 

「ああ。

 あの書き込み読み直していて気がついた」

 

「・・・・・な、なら、なんであんたが一緒にいてやらなかったんだ?」

 

「俺は・・・・・」

 

”バサッ”

 

「刈宿、このプリントはお前が持って行ってやってくれ」

 

「え?」

 

「頼んだ」

 

”スタスタ”

 

「お、おい比企谷、ちょっと待て」

 

”ぐぃ”

 

「なんだ?」

 

「俺は、美佳さんをアメリカへ連れて行く」

 

「・・・」

 

「俺は1月からアメリカに留学する。

 それで美佳さんには卒業したらアメリカに来てもらうつもりだ」

 

「・・・・・そっか」

 

「美、美佳さんとはもう話している。

 今度の冬休みに一度一緒にアメリカに行くつもりだ。

 だから、もうこれ以上美佳さんに会わないでくれ」

 

「俺は・・・・・

 俺はさっきも言っただろ、頼まれたプリント持ってきただけだ。

 ただそれだけだ。

 じゃあな」

 

”スタスタスタ”

 

「比企谷! 俺は美佳さんを泣かせない、絶対にだ」

 

「・・・関係ない」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ちゃぽ~ん”

 

ふぅ~、やっぱりお風呂って心が休まる。

ずっとこのまま浸かっていたいなぁ~

でもおっきいお風呂。

なんかテレビで見た有名なホテルのお風呂みたい。

ほら、ちゃんと足が伸ばせる。

うちのお風呂とは大違いだ。

 

『俺は、俺は絶対に認めてやらない』

 

な、なによ!

あの場合、短期間で解決しようと思ったら他に方法ないじゃん。

何とかしようと思ったんだよ、でも書き込みやめさせられなかった。

だからじゃんか。

あの方法しかなかったんだ。

わかってくれてるって思ってたのに。

・・・・・・・・・・・・・あの馬鹿!

 

”バシャバシャ”

 

ふぅ~。

 

”ガラ”

 

「美佳何やってんの?

 お風呂の中では暴れない」

 

”スタスタ”

 

「え? あ、い、いや別に・・・・・って!

 な、何で入ってくるの!

 

「いいじゃない、久しぶりに一緒にお風呂入ろ」

 

「い、いや、一緒に入った憶えないし!」

 

「この薄情者。

 赤ちゃんの頃、お風呂に入れてあげたの忘れたの!」

 

「忘れたわい!

 い、いやその前にそんなときの記憶なんてないから」

 

「え~、仕方ないな」

 

”バシャ、バシャ”

 

げ、マジ一緒に入る気なの?

はぁ~もう!

・・・・・でも麻緒さんいいスタイルしてるなぁ~。

まぁ、スキー合宿のときに見た結衣ちゃんのほどでもないけど。

それでもわたしのより大きい、それに張りもありそうだし。

それにお尻も全然垂れてないし、なんかプルンって感じで。

これでほんとに40過ぎ?

 

「なにじろじろ見てんの。

 どう、いい身体でしょ」

 

「・・・べ、別に」

 

「そう?

 ほらほら、こんなポーズはどう?

 あ、こっちが色っぽいかなぁ」

 

「わ、わかった、わかったから。

 そんなポージングしてないでいいから。

 もう、風邪ひくから入るなら早く入って」

 

「そう?

 それじゃ、ほらもうちょっとそっち行って」

 

う~、いくら大きいお風呂といっても二人で入るには狭い。

大丈夫かなぁ。

うんしょっと

 

「はい、麻緒さ 」

 

”ザバ~ン”

 

「あー!

 もう、そんなに勢いよく入らないで。

 ほら、お、お湯いっぱい溢れちゃったじゃん」

 

”ピタ”

 

「ひゃっ、く、くっつくな―」

 

”ぷにゅ~”

 

ほら、そんなにくっつくとなにかが背中で潰れてるから。

その弾力のあるものが。

ぐっ、せ、せまい。

 

”ぎゅ~”

 

「うひゃ~、な、なんで抱き着くの!」

 

「本当に大きくなったね美佳」

 

”なでなで”

 

「だんだん美緒に似てきたよ」

 

「え、ほ、ほんと!

 でへへへ」

 

「冗談だけど。

 美佳は100%、いや120%佳紀似だから」

 

「お、おい!」

 

くそ、やっぱりそうか~

いや、わかってた、わかってたんだよ~

とほほほ、とうちゃんのバカ。

 

「ふふ」

 

もう!

・・・・・で、でもさ麻緒さんてほんとスタイル良いし、顔もかあちゃんほどでは

ないけど綺麗だし。

男の人放っておかないと思うけど、麻緒さんは何で結婚しないのかなぁ~

 

「ね、ねぇ、麻緒さん。

 麻緒さんって結婚しないの」

 

「・・・・・」

 

「あ、ごめんなさい。

 もしかして結婚したことがあったりして」

 

「うううん。

 なかなかいい男がいなくてね。

 わたし、これでも面食いだから」

 

「そ、そっか。

 それで行き遅れて40過ぎ」

 

「み~か~

 そんなこと言うと~」

 

”もみもみ”

 

「いや~、や、やめろ!

 ど、どこ触ってんだ、この変態」

 

「ふふふふふ。

 ・・・それで、なんかあった?」

 

「え?」

 

「だって最近アメリカアメリカっていうから」

 

「あ、うん・・・・・・あのね・・・

 うううん、なんでもない。

 ちょっとだけ憧れただけ」

 

「そう?

 もしね、なにかあったら言いなさい。

 これでもわたしのほうが人生経験豊富なんだからね」

 

「う、うん」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

『か、勝手すぎるよ

 酷いよ、そんなの酷いよ。』

 

「・・・」

 

『比企谷君だったら認めてくれて、そ、そんでやさしくわたしのことを・・・』

 

「・・・くそ」

 

『もっとやさしくしてよ、わたしのこと、わたしのこと抱きしめてよ馬鹿!!』

 

「え~い! だめだ、だめだ、だめだ。

 眠れない。

 眠ろうとすると三ヶ木の顔が浮かんで・・・・

 俺は間違っていたのか。

 違うやり方、あったんだろうか?

 もっとあいつを傷つけなくてすむやり方が。

 くそ!」

 

”カシャカシャ”

 

「我だ!」

 

「いや、お前本当はえって。

 今何時だと思ってんだ、2時だぞ2時。

 真夜中の2時」

 

「けふん。

 そのような時間に電話してくる輩にとやかく言われる筋合いはないと思うのだが」

 

「・・・すまん」

 

「まぁよかろう。

 で、どうしたのだ八幡」

 

「何でもない。

 まぁなんだ、ちょっとな。

 ・・・お前のくだらない戯言が聞きたくなってな」

 

「・・・何かあったのか八幡」

 

「・・・・・・・」

 

「ふむ。

 まあよかろう。

 それなら二人の未来について朝まで語ろうではないか。

 ぷふっ♡」

 

「切るぞ」

 

「じょ、冗談だ八幡、切らないで~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぁ~あ、もう夜が明けてきたな。

 付き合わせてすまなかったな材木座」

 

「・・・」

 

「材木座?」

 

「・・・・ぐぅ」

 

「お、おい!」

 

「ん? は、お、おう、そうだな八幡」

 

「お前いま寝てたろ」

 

「な、なにを言う。

 わ、わ、我は眠ってなんていないぞ」

 

「まぁいい。

 ・・・・・・・付き合ってくれてありがとうな、材木座」

 

「なに、気にするな」

 

「じゃ、そろそろ切るわ」

 

「おう。

 こんなことでいいのなら、いつでも相手してやろう八幡」

 

「じゃあな材木座」

 

「ああ、またな・・・・・し、親友」

 

”プー、プー”

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「ヒッキー」

 

”タッタッタッ”

 

「はぁはぁ、ヒッキーごめんね遅れちゃった」

 

「あ、いや、いい。

 俺も今来たところだ」

 

「へ?」

 

「ん、どうした?」

 

「あ、い、いや別に。

 なんかヒッキー変わったな~って。

 あ、いい意味でだよ」

 

「ん、そ、そっか?」

 

「うん。

 あ、じゃ行こっか」

 

「ああ」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「それじゃとうちゃん行ってくるね」

 

「美佳、本当に身体はもう大丈夫なのか?」

 

「うん、大丈夫だよ。

 心配かけてばっかりでごめんね。

 ちゃんと大学見てくる」

 

「ああ。

 気をつけてな」

 

「うん、行ってきま~す」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでね、出掛けにママにつかまっちゃってさ。

 ヒッキーと早応大行くって言ったら、ママも一緒に行くって聞かないから。

 もう、大変だったんだよ」

 

「別にいいんじゃねえの、一緒に来ても」

 

「え、い、いいの?

 ママも一緒で」

 

「まぁ、娘が進学しようとしている大学、親なら気になるもんじゃねぇのか?」

 

「あ、そ、そうだけど。

 ・・・・・・・・じゃ、じゃあさ、ママがヒッキーに会いたがってるから、

 またうち来てくれないかなぁって?」

 

「断る! 断じて断る!

 断ると言ったら絶対断る」

 

「そ、そっか、だよね。

 あははは、じょ、冗談だよ冗談、へへ」

 

「悪趣味な冗談だ」

 

「ごめん」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・ま、まぁまたサブレの様子なら見にってもいい」

 

「う、うん♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ヒュ~”

 

ひゃ~、やっぱちょっと寒くなってきた。

もうほんと冬だね。

早く春にならないかなぁ~。

あ、そうだ、えっと~ゆきのんにもらった資料はっと。

確かこのリュックに入れたはずだけど。

 

”ガサガサ”

 

あった、あった。

ん、まずは洋和女子からだね。

あ、やば!

電車の時間ないよ、急がないと。

 

”タッタッタッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

「もうお腹いっぱい、えへへへ」

 

「お、おい由比ヶ浜、起きろ。

 次の駅で電車降りるぞ」

 

「え? あ、ご、ごめん、あたし寝てた?」

 

「ああ、ぐっすりな。

 ほらヨダレ拭け」

 

「え、う、うそ・・・・」

 

「ああ、嘘だ」

 

「ヒ、ヒッキー!

 もう馬鹿~」

 

”ポカポカ”

 

「や、やめろ由比ヶ浜」

 

「もうヒッキーの馬鹿!」

 

”ベシ!”

 

「ぐはぁ」

 

『比企谷君の馬鹿』

 

「み、」

 

「ヒッキー?」

 

「あ、いや、み、み、みっともないからやめろ」

 

「あ、う、うん」

 

”プシュ~”

 

「ほら降りるぞ」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

『お前のやり方じゃ、本当の大事な人は救えない』

 

・・・ふぅ~、今日はもう考えないでおこう。

ちゃんと大学の方針とか施設、それに雰囲気とか見てこないといけない。

よし! 気を引き締めて。

 

”プシュ~”

 

あ、やば、電車停まったけど、ここどこの駅だっけ。

ちょっと考えごとしてたから。

んっと京成八幡・・・・・京成・・八幡・・・・・・八幡。

ち、ちがうって、やわた、やわた駅だから!

 

     ・

     ・

     ・

 

「わぁ~、人、人、人、人でいっぱいだ。

 ヒッキー、すごい人だね」

 

「あ、ああ」

 

「ね、なんかみんな同じ紙袋持ってない?

 何かあるのかなぁ」

 

「ああ、ちょっとな」

 

”だき”

 

「お、おい、何でいきなり腕を組むんだ」

 

「あ、あのさ、人が多くて、は、はぐれそうだから。

 だ、だめかなぁ」

 

”ちら”

 

「ぐ、し、仕方ない。

 ほら行くぞ」

 

「うん♡」

 

「・・・お前その上目遣い反則だからな」

 

「ん?」

 

「な、何でもない」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、ヒッキー、文化祭だ、文化祭やってるよ」

 

「ああ。

 昨日から明日まで早応祭をやってるんだ」

 

「へぇ~」

 

「本当ならオープンキャンパスにでも参加するのがいいんだが、

 早応大のはもう終わってるからな。

 まぁ学校の雰囲気を知るのならこういうのもありだな。

 それに構内も見て回れる」

 

「うん。

 あ、ヒッキーあれ、あれ」

 

「ん?」

 

「ほら」

 

”ぐぃ”

 

「お、おい、由比ヶ浜、どこに行くんだ?

 そんなに引っ張るな」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

ううう、も、もしだよ。

洋和女子に通うことになるんなら、この電車乗るからさ、

毎日あの駅を通るんだよね。

う~

 

「次は国府台、国府台」

 

あ、つ、着いた。

この駅で降りるんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”パクパク”

 

「う~ん、美味しい」

 

「いきなりどこに行くのかと思ったらカステラ焼きって。

 由比ヶ浜、今日はだな 」

 

「うん?

 あ、はい、あ~ん」

 

「い、いや」

 

「はい」

 

”ジー”

 

「い、いやわかった、わかったからそんなに見つめるな」

 

”パク”

 

「美味しい?」

 

「ま、まぁ美味いな・・・いろんな意味で。

 おい、それよりも構内とか見に行くぞ」

 

”スタスタ”

 

「あ、ちょっと待ってヒッキー。

 あれも美味しそう。

 買ってくるね」

 

”ダー”

 

「お、おい」

 

     ・

     ・

     ・

 

つ、着いた、やっと学校着いた。

へ~、でか、たか、ひろ!

やっぱ高校とは全然違う。

え、えっと受付、受付どこだったけ。

 

”キョロキョロ”

 

ひぇ~わからん、どこ、ね、どこ?

 

”テッテッテッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”もぐもぐ”

 

「お、おい」

 

「ん? ヒッキーもケバブ食べる?

 はい」

 

「い、いやいらんから

 それに、そこお前の食べかけのところだし」

 

「はい!」

 

「う・・・・」

 

”パク”

 

「へへ、ど、どう?」

 

「・・・美味いです」

 

「よし!

 ほらヒッキー次いくよ」

 

”ぐぃ”

 

「次、何食べるんだ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「以上、演劇部の紹介でした。

 みなさん、入学したら是非入部してくださいね。

 まってま~す」

 

「はい、それではみなさん、次はキャンパスの中を案内しますので、

 わたし達についてきて下さいね。

 構内は結構広いので、離れないようについてきて下さい」

 

「「はい」」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「へぇ~、いろんなサークルとか同好会があるんだね。

 ね、ヒッキーは入学したら同好会とか入るの?」

 

「そんな暇はない。

 俺はこの大学生活で俺を養ってくれそうな女子を探さないといけないんだ。

 サークルや同好会なんぞに時間をかけている暇はない」

 

「そうなんだ」

 

「そうだ。

 ほら先に行くぞ」

 

”スタスタ”

 

「・・・・・あ、あたしじゃ駄目かなぁ」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「あ、うううん、何でもない」

 

「そっか」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、ちょっと待ってよヒッキー」

 

”タッタッタッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

うわ~景色良い!

あ、スカイツリーが見える。

え、ちょ、ちょっとまって、あれって富士山?

うそ~

へ~、こんなところで毎日ご飯食べられたら気持ちいいだろうな~

げ、カレーライス280円、それに海老カツ丼350円だと。

 

”ぐぅ~”

 

お、お腹すいた。

今日はここでお昼食べて帰ろうかなぁ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、ヒッキー、ほらアニメ愛好会の出し物の教室あるよ。

 ちょっと入ってみない?」

 

「ん、ああ」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・お、おう! 

 な、なんだと、プ、プリキラ―のイベントもあるのか」

 

「へへ、ヒッキー必至だ。

 あ、ほらフィギュアとかもあるよ。

 この赤ちゃんのフィギュア可愛いね」

 

「それはハグたんちゃんというんだ。

 む、これ自作か、ここ間違ってるじゃねえか!」

 

「え?」

 

「ハグたんちゃんの涎掛けのハートは縁がないんだ。

 ほら見ろ、これ黒い縁がある。

 まったく、こんな初心者でもわかるようなミスをしてるようでは、

 プリキラ―愛好家の風上にも置けん!」

 

「ヒ、ヒッキー声大きい。

 ほ、ほらあの人睨んでるよ。

 あ、こっち来た」

 

「おい、き、貴様、よ、よくも恥かかせてくれたな!」

 

「は? なに言ってんだ間違っているものは間違ている」

 

「ぐ、き、貴様、勝負だ、勝負しろ!」

 

「勝負だと?」

 

「おう。 

 少しばかりの知識をひけらかしやがって。

 俺とどっちが本当にプリキラ―愛に溢れているかクイズで勝負だ」

 

「断る。

 そんな面倒くさいことやってられん」

 

「よ、よし、じゃあ俺に勝ったらだな 」

 

”ガサガサ”

 

「こ、この大阪限定版、プリキラ―浪速バージョンフィギュアをくれてやる」

 

「な、なに本当か?

 それ大阪、しかも数量限定販売だったため、俺が唯一手に入れていない

 フィギュア。

 い、いいんだな、それネットにも出てないんだぞ」

 

「俺が貴様に負けるわけがない。

 そのかわりお前はそうだな・・・・・よし、これを着てもらう」

 

「はぁ! そ、それはキラエールのコス!」

 

「ぐははは、どうする?

 それとも怖気ついて俺に謝るか?

 まぁ、俺の靴舐めれば許してやる」

 

「よ、よしやってやる」

 

「ヒ、ヒッキー」

 

”ザワザワ”

 

「な、あれ今日のステージイベントの時に会長が着るやつだろ。

 UNOの勝負に負けて」

 

「ああ。

 やっぱり嫌だったんだろうな」

 

「あれは恥ずかしいって」

 

「おい会員A、なにごちゃごちゃ言ってんだ。

 君がクイズを出したまえ」

 

「え、俺会員Aかよ、一応副会長なんだけど。

 いい加減名前覚えろよ。

 まぁいいけど。

 じゃあクイズは全部で10問な、1問10点。

 準備はいいか問題出すぞ。

 一問め。

 この秋の劇場版”HUGHUGプリキラ― 8時だよ全員集合”に出演した

 歴代プリキラ―の人数は?」

 

「はい!」

 

「はい、君」

 

「あ、俺比企谷っす。

 答えは55人」

 

「せ、正解」

 

「「おおー」」

 

「やるな貴様」

 

「初心者問題だろ」

 

「ぐ、つ、次だ次、会員えっとC君」

 

「いやさっき、会員Aって言ったろ。

 じゃ次、

 HUGHUGプリキラ―のキラエールの口癖はフ 」

 

「はい!」

 

「はい会長」

 

「フレーフレー〇〇だ!」

 

「ぶ~」

 

「な、なに!」

 

「会長、最後まで問題聞いて下さい。

 お手つきですから一回休みですよ。

 問題続けますね、フレーフレー〇〇ですが、自己陶酔を突っ込まれて落胆した

 ときの口癖は?」

 

「はい!

 めちょっくっす」

 

「はい、比企谷君正解」

 

「「おおー」」

 

「ぐっ、くそー」

 

「会長~」

 

     ・

     ・

     ・

 

へぇ~、いろいろ学校のこと張り出してある。

ふぇ、保母さん就職率100%なんだ。

それに幼稚園とかにも実習いってんだね、その時の写真貼ってある。

あ、この幼稚園って。

へへ、園長先生写ってる。

また太った?

あ、これけーちゃん、けーちゃんと大ちゃんだ。

みんな元気そうだなぁ~

ここに洋和女子に入ったら、またみんなに会えるかなぁ~

・・・・・いやけーちゃん達は卒園してるから。

へへ、でも懐かしい。

 

     ・

     ・

     ・

 

「会長、もう諦めたら?

 これまで9問全部負けてますよ」

 

「お、おい、会員F君。

 君の出す問題が悪いんだ」

 

「Fって・・・・・もう突っ込むの疲れた」

 

「よし、最後の問題は俺が出す。

 俺の出した問題に応えられたらお前の勝ちだ」

 

「いや、俺9問答えてるから俺の勝ちだろ」

 

「馬鹿め、最後の問題はお約束の100万点だ」

 

「おい、確か一問10点って」

 

「な、な、なんのことだ、あれは副会長が間違ったんだ」

 

「副会長って、俺のこと知ってんじゃねえか会長」

 

「う、うるさい!

 問題言うぞ!

 そ、そ、そうだな、えっと・・・・・よ、よし。

 この浪速バージョンのプリキラー、キラホィップのパンツの色は!」

 

「な、なに!

 ス、スカートの下だと、ふ、普通はスパッツとかペチパンじゃないのか?

 そのフィギュアは、パ、パンツなのか。

 ・・・・・・・・し、白だ!」

 

「白でいいんだな」

 

「ああ、パンツは白しかない、絶対に白だ!」

 

「ぶ~、メッキが剥がれたな。

 見てみろ、このパンツを!」

 

”チラ”

 

「げ、黄色と黒色の縞模様のパンツだと!

 パンツは白じゃないとダメだろうが!」

 

「ぬはははは、馬鹿者め。

 大阪だぞ浪速だぞ、パンツは黄色と黒に決まっているではないか。

 はっははは、俺の勝ちだ。

 約束通り、お前ステージのイベントでこれを着ろ」

 

「こ、これを着るのか、いや、それでステージに出るのか?」

 

「ヒ、ヒッキ~」

 

「やった、やった。

 決りだからな! 今日のステージイベントには声優の坂引さんが来るんだ。

 よかった~」

 

「げ、マジか、あのひっきーさんが来るのか」

 

「え、ヒッキー。

 ヒッキーはヒッキーじゃないの?」

 

「違うんだ由比ヶ浜!

 ひっきーさんはひっきーさんなんだ。

 あのキラエールの声優をされているひっきーさんなんだー!」

 

「会長~、そろそろステージのほうに行かないと。

 準備とかあるでしょ」

 

「ああそうだな、ルンルン♬

 おい、お前ほらさっさと着替えろ」

 

「こ、この教室で着替えるのか?

 ステージの近くじゃないのか?」

 

「ここだここ、ほらほら」

 

「ぐ~。

 やばいやばい、こんなの着てステージまで行くのか。

 それよりこれ着てひっきーさんに会うのか。

 さ、最悪だー

 う、ううううううう」

 

「ヒ、ヒッキー。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・ヒッキー、それあたしが着る!」

 

「え?」

 

「あたしがそれ着るから。

 ね、それでもいいでしょ、会長さん?」

 

「え、き、君がこれ着てくれるの?」

 

「お、おい、あの娘が着てくれるんだってよ」

 

「「おお!」」

 

”ざわざわ”

 

「も、も、問題なんてない、ぜ、ぜひお願いします」

 

「ほらヒッキー、それ貸して」

 

「由比ヶ浜」

 

「・・・だ、大丈夫だから。

 あ、あ、あ、あたしね、一度こういうの着たかったんだ。

 だから大丈夫だよ、ね。

 それより着替えるから教室から出ててくれる?」

 

「・・・・・・・す、すまない。

 おい、会員の奴ら外に出してくれ」

 

「あ、ああ。

 ほらお前ら教室から出ろ」

 

”ゾロゾロ”

 

     ・

     ・

     ・

 

みんな楽しそうだなぁ~

わたしもここに入れたらこんな風に。

・・・さてっと。

あ、あれ?

誰もいない!

 

”キョロキョロ”

 

げ、やばい、置いてかれた~

ど、どこ、みんなどこ?

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラ”

 

「ね、ねぇヒッキー」

 

”チョイチョイ”

 

「ん? どうした」

 

「あ、あのさ、ちょっと手伝って・・・くれない?」

 

「な、中に入るのか」

 

「うん。

 恥ずかしいから早く中に入って」

 

「ああ」

 

”ガラ、ピシャン”

 

「お、おおー

 す、すげぇ可愛い」

 

「えっと、そ、そうかなぁ。

 でへへへ」

 

「で、えっと、な、何をすればいいんだ?」

 

「あ、背中のホックがとめられなくて。

 ヒッキー、ホックしてくれる?」

 

「お、おう」

 

「あ、ちょっと待ってね

 今、髪上げるから」

 

”ふわぁ”

 

「う、うなじが 」

 

”ツー”

 

「ん? ヒッキー鼻血出てる!」

 

「す、すまん。

 い、今ホックするから」

 

”カチ”

 

「ありがとうヒッキー。

 えっと、あのね、ど、どうかなぁ」

 

”クルッ”

 

「おお、すげぇ~可愛い」

 

「本当! でへへへ、ありがとうヒッキー」

 

”コンコン”

 

「すみません、そろそろいいですか~」

 

「大丈夫か、由比ヶ浜?」

 

「うん、ヒッキーがね、手握っててくれたら大丈夫かなぁ~。

 なんちゃって」

 

「・・・・・」

 

”にぎ”

 

「ヒ、ヒッキー」

 

「すまない」

 

「うん♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テッテッテッ”

 

うえ~ん、どこにもいないよ。

やば、完全にまよっちゃった。

ここどこだよ、構内広すぎるよ~

あれ、体育館に出た。

もう、会議室ってどこ~

 

”ぎゅるるる”

 

は、腹減ったー

 

     ・

     ・

     ・

 

”ザワザワ、ザワザワ”

 

「うわ~お客さんいっぱい」

 

「すげぇ。

 これ早応大の学生だけじゃないな」

 

「あの~そろそろよろしいでしょうか?」

 

「あ、はい」

 

「えっと、司会の横に立っているだけでいいですからね」

 

「はい」

 

「じゃ始めますね」

 

「ヒ、ヒッキ~」

 

「由比ヶ浜、大丈夫か」

 

”ブルブル”

 

「・・・・・あたし」

 

「由比ヶ浜!

 やっぱり俺がやる、俺が着るからそのコス脱いで来てくれ」

 

「ヒッキー・・・・・・・あ、あのね、ちょっと抱きしめて。

 ちょっとだけでいいから」

 

「・・・・・」

 

”ぎゅ”

 

「ヒッキー♡」

 

「由比ヶ浜、すまない」

 

「・・・・・ふぅ、落ち着いた。

 でもずっとこうしていた 」

 

「あ、あの~お取込みのところすみません。

 そろそろ、ステージのほうにいいですか?

 司会者もうステージに出てるから」

 

「あ、す、すみません。

 じゃ、行ってくるねヒッキー。

 頑張るからちゃんと見ててね」

 

「ああ、頑張れ由比ヶ浜」

 

「お待たせしました。

 行けます」

 

”カチ”

 

「こちら副会長、音声聞こえてる?

 キラエール、ステージ入ります。

 君、ごめんね頑張ってね」

 

「あ、はい副会長さん」

 

「ゴー!」

 

”タッタッタッ”

 

「皆さ~ん、やっはろ―」

 

「「うぉーかわいい!」」

 

「だ、誰だあの娘、あんな娘うちの大学にいたか?」

 

「エールちゃん、こっち向いて~」

 

「あ、あの、え、えっと、やっはろーさんで~す」

 

”ペコ”

 

「「やっはろ―」」

 

「「うおー」」

 

「おお、みんながやっはろーって返してる。

 な、なんだこの熱気。

 お、おい、ヘタなアイドル以上の盛り上がりじゃねえか。

 ・・・まぁ、由比ヶ浜あいつ可愛いからな。

 もし入学できたらミス早応大確実だよな」

 

”スタスタ”

 

「ねぇ、なにこの盛り上がり。

 わたし、すごく出にくいんだけど」

 

「あ、す、すみません坂引さん。

 そろそろ出番お願いします」

 

”カチ”

 

「こちら副会長。

 司会聞こえてるか、坂引さん入ります」

 

「さぁ、それでは本日のゲスト、キラエールの声優でおなじみの坂引理絵さんです」

 

「みなさ~ん、こんにちはー」

 

「やっはろーちゃん、こっち向いて~」

 

「へっ?

 あ、あの~こんにちわ?」

 

「せ~の、やっはろ―」

 

「おい、誰かあの娘知らないのかよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

「ね、司会の人。

 あ、あのさ、誰もこっち見てくれないんだけど。

 あたし帰ってもいい?」

 

「す、すみません」

 

「もう!

 ね、ちょっとそこのコス着てるあなた」

 

「あ、はい」

 

「あなた、ちょっといい。

 えっと右手上げて、左手は腰、それで左足は曲げて右足の膝に」

 

「あ、はい。

 えっとこれでいいですか?」

 

「かがやく未来を抱きしめて!

 みんなを応援! 元気のプリキラ、キラエール!」

 

「「おお!」」

 

「しまった、写メ取れなかった。」

 

「「もう一回、もう一回、もう一回」」

 

「ほらあなた、もう一回行くわよ。

 せ~の」

 

「あ、はい」

 

”サッサッ”

 

「かがやく未来を抱きしめて!

 みんなを応援! 元気のプリキラ、キラエール!」

 

”カシャ、カシャ”

 

「お、おおー

 は、なに写メ撮ってんだ俺。

 ・・・・・・・動画にしておけばよかった」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラ”

 

「ヒ、ヒッキー、あのね背中のホック外してもらっていい?」

 

「ん? あ、お、おう」

 

”ガラ、ピシャン”

 

「いや~、しっかしお前すごい人気だったなぁ。

 ゲストの坂引さん、全然目立ってなかったぞ」

 

「・・・今、髪上げるね」

 

”ふわぁ”

 

「お、おう、そうだった、ホックだったな。

 今外すからそのまま髪上げていてくれ」

 

”カチ”

 

「じゃ、教室の外にいるから」

 

”だき”

 

「お、おい由比ヶ浜」

 

「ヒッキー、恥ずかしかったよ~」

 

「ゆ、由比ヶ浜。

 ・・・・・すまなかった」

 

”なでなで”

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぎゅるるる~”

 

お、お腹すいた、も、もう限界だ。

広すぎるよ大学って。

結局構内の隅から隅まで歩き回っちゃった。

はぁ~、先生方とあんまりお話しできなかったよ。

ぐすん、学食にも行けなかった。

 

”トボトボトボ”

 

まぁ、とにかくこの喫茶店でケーキ食べよ。

えっと何食べようかなぁ~

 

”プシュ~”

 

「いらっしゃいませ。

 お好きな席にどうぞ」

 

     ・

 

「お待たせしました」

 

うわ~、モンブランちゃん美味しそ~

たっぷりクリームがのってて。

へへ、ではいただきま~す。

 

”パク”

 

「う~美味しい!」

 

”プシュ~”

 

「ぶふぉー!」

 

”スタスタ”

 

「ほらほら約束だよヒッキー。

 ちゃんとケーキとコーヒー奢ってね」

 

「お、おう。

 それぐらいは当然の権利だ」

 

えっ、ひ、比企谷君と結衣ちゃん。

な、な、な、何でここに?

それも二人で。

や、やば、み、見つからないようにしないと。

 

「お好きな席にどうぞ」

 

こ、こっち来んな来んな来んな来んな。

来ないで~

 

「あ、ヒッキーあっちの席空いてるよ」

 

「おう」

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~、あっち行った。

でも何で二人で?

・・・・・デート、デートしてたのかなぁ。

 

”チラ”

 

なんか楽しそうに話している。

なんかいい雰囲気だ。

やっぱりわたしなんかより結衣ちゃんのほうが・・・

でもさ、なんで、何でそんなに嬉しそうなのさ!

 

”グニャ”

 

げ、や、やばい、フォークが曲がっちゃった。

ど、どうしよう。

直るかなぁ、うんしょうんしょ。

はぁ~、こんなんじゃやっぱりだめだわたしって。

 

     ・

     ・

     ・

 

「すまん、ちょっとトイレ行ってくる」

 

「うん」

 

”スタスタ”

 

あ、比企谷君、どっかいった。

トイレかなぁ。

 

”スクッ”

 

あ、結衣ちゃんもトイレ?

トイレまで一緒か~、どこまで仲いいんだ。

 

”スタスタスタ”

 

げ、違う。

結衣ちゃんこ、こっちの方に来た!

なんでなんでなんで?

やばい隠れないと。

なんかないか、なんかない?

なにもないー!

しゃ~ない、このテーブルの下にでも。

 

”どさ”

 

「さっきから何やってるの美佳っち」

 

え? あ、ゆ、結衣ちゃん横に座って・・・

き、気付かれていたのか!

 

「あ、い、いや、あの~

 えへへ」

 

「・・・・・」

 

「・・・・はっははは。

 き、今日はデートかなぁ~なんちゃって」

 

「・・・あのね、あたし隠してるのやだから言うね。

 あたし、今日ヒッキーと二人で早応大に行ってきた。

 一度見ておきたかったんだ」

 

「あ、う、うん。

 わたしも今日、洋和女子のオープンキャンパスに行ってきた」

 

「・・・・・あたし、絶対にヒッキーと同じ大学行ってみせる。

 みんな無理って、先生も難しいっていうけど絶対に行く」

 

「結衣ちゃん」

 

「あたしはヒッキーのことが大好き。

 好きで好きで、どうしょうもないくらい大好き。

 だから絶対合格してみせるんだ」

 

「・・・わ、わたし」

 

「あたしは、ゆきのんにも・・・・・美佳っちにも絶対に負けない。

 だって、あたしのほうが先に、あたしが一番最初にヒッキーと出会ったん

 だからね!

 だから絶対に負けない」

 

「・・・・・」

 

「じゃあね」

 

”スタスタスタ”

 

ゆ、結衣ちゃん。

そ、そんなの、そんなの・・・・・・・

 

     ・

 

「すまない、由比ヶ浜待たせた。

 じゃあ帰るか」

 

「うん、ヒッキー」

 

”だき”

 

「お、おい由比ヶ浜、なんでまた腕を」

 

「いいじゃん、ヒッキー」

 

「い、いや、そ、その」

 

「ほら、行こ」

 

「お、おう」

 

”スタスタスタ”

 

ゆ、結衣ちゃん。

わたしだって、わたしだってほんとは・・・

 

「ありがとうございました」

 

”プシュ~”

 

「うわ~寒い」

 

”ガバッ”

 

「え、ジャンバー?」

 

「まぁなんだ、外は寒いからな」

 

「あ、でもヒッキーが」

 

「ふふん、これぐらいの寒さなんて普段から世の中の冷たい人の目にさらされている

 俺にとってはなんでもない」

 

「ヒッキー♡」

 

「くしゅん!」

 

「ヒッキー、大丈夫?」

 

”ギュ”

 

「お、おい」

 

「じゃあさ、ヒッキーはあたしが温めてあげる」

 

「あ、い、いや由比ヶ浜」

 

「ね!」

 

「い、いや、あんまりくっつくと歩き難いんだが」

 

「いいじゃん、ヒッキー♡」

 

「・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

「ありがとうございました。」

 

”プシュ~”

 

あっ!

・・・・・ゆ、結衣ちゃん・・・・・比企谷君。

 

”ヘナヘナヘナ”

 

そんなの、そんなのわたしだって大好きだもん。

好きで好きでどうしょうもないぐらい好きだもん。

自分でもどうしょうもないくらいに好きだもん。

だから、あの時結衣ちゃんに意地悪して、約束してるの知ってて意地悪して。

それにとうちゃんや麻緒さん、刈宿君・・・比企谷君にも迷惑かけて。

わたし、そんなんじゃいけないって、これじゃ駄目だって思ったから。

ちゃんと自分の心の整理をしないといけないって思ったから、わざと比企谷君と

距離をおいてたのに。

 

『二度と話しかけないで』

 

あんなこと、あんなこと言わなければよかった。

う、うううう。

こんなんだったら、こんなんだったらやっぱりわたしは・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブロロロン、キキキー”

 

「ふぅ~、やっぱりバイクは寒いわね。

 買うの車にしておけばよかった。

 ん、あれ?」

 

”スタスタスタ”

 

「なにしてんの美佳?」

 

「ま、麻緒さん

 あ、あのね、あのね

 ううううう、うぐ、うぐ、ひっく」

 

「・・・こんなとこじゃ寒いでしょ。

 ほら、いいから部屋に行くよ」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぁ~、美味しいこのスープ。

 へへ、少しお腹空いてたんだ」

 

「そう。

 どう少しは温まった?。

 もうすぐでご飯できるから食べていきなさい。

 佳紀にもこっち来てご飯食べなって連絡しておいたから」

 

「あ、うん」

 

「で、どうしたの美佳」

 

「・・・・・・・・・あ、あのさ、麻緒さんはなぜアメリカに行ったの?

 なんでなんで?」

 

「ん、なんか前も聞いてきたね。

 なに、美佳アメリカ行きたいの?」

 

「あ、あのさ、か、刈宿君がさ、3学期からテニス留学でアメリカに行くんだ。

 そ、それでね・・・・・・・それでわたしに一緒に来ないかって」

 

「へぇ~、あの子が」

 

「あ、ちゃんと卒業してからだよ」

 

「ふ~ん、それで美佳はアメリカ行きたいんだ」

 

「あのさ、いろいろあったんだ。

 わたしね・・・・・なんかやり直したい。

 全て無しにして初めからやり直したい。

 だから、だからアメリカ・・・・・行ってもいいかなぁ~って」

 

「そう」

 

「だからさ、麻緒さんは何でアメリカに行ったの?

 わたし聞いておきたい。

 やっぱり自立したいとか、自分の力を試してみたいとか?」

 

「・・・・・」

 

「ま、麻緒さん?」

 

「そんな恰好のいい理由じゃないよ。

 ・・・・・・・・・・・・はぁ~」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・あのね、わたしには本当に本当に大好きな人がいたの」

 

「え?」

 

「もうだいぶ昔の話よ。

 でもね、その人が選んだのはわたしじゃなかった。

 彼が選んだのは・・・・・・・わたしとは別の娘。

 わたしがとってもよく知っている娘」

 

「ま、麻緒さん」

 

「わたしね、生まれて初めて本気で人を・・・その娘を憎んだ。

 憎んで憎んで憎んで。

 なんであんたなの!って。

 それまでね、とっても仲がよかったのに。

 いっつもどこに行くのも一緒で。

 本当に大事に思ってた娘なのに。

 それなのにわたし願ったの、”あんたなんていなくなれ”って」

 

「・・・・・」

 

「でもね、願いはかなわなかった。

 彼はその娘と結婚して、二人の間には愛の結晶が生まれた。

 その赤ちゃんが本当に本当に可愛くてね。

 わたしに笑ってくれるんだよ、こんな汚いわたしなんかに。

 抱っこなんかしてあげると”きゃきゃ”って、本当に満面の愛おしい笑顔で。

 わたしはその天使のような笑顔を見てどうしょうもなく自分が嫌になった。

 自分の汚さが本当に嫌になった。

 でもどうしょうもなくて、どうしていいのかわからなくて。

 それであの娘に、あの娘に当たっちゃったの。

 頭ではわかっているのに。

 でも、でも・・・・・どうしようもなくて。

 それでつい言っちゃったの。

 

 『わたしのほうが先に彼と出会ったのに。

  わたしの幸せを横取りしたくせに、そんな幸せそうな顔見せないでよ!』

 

 ・・・・本当にわたしは最低だ。

 だから、だからね、わたしは日本を逃げ出した」

 

「・・・・・」

 

「ね、かっこ悪いでしょ。

 これがわたしがアメリカに行った理由。

 勝ち組なんかじゃないよ、本当の負け組、それも情けないほどの負け組」

 

「ま、麻緒さん」

 

「でもね、だめだったの。

 アメリカに行けば、うううん、少しでも遠くに行けばやり直せる。

 全てを忘れて初めからちゃんとやり直せるって思ったのに。

 やり直して、それでいつかあの娘にちゃんと謝りたいって思ってたのに。

 それなのに、それなのに!

 ・・・ちゃんと謝る前にあの娘は天国に行っちゃった。

 わたしが、わたしがあんなお願いしちゃったからなの。

 もう二度と謝れない、謝れないんだよ!

 うううううう」

 

「・・・・・」

 

「うっうっ、み、美佳。

 わたしはすごく後悔しているアメリカに行ったこと。

 もう二度とあの娘に会えない・・・・・もう謝れないんだ。

 大好きなとっても大事な娘だったのに、もう仲直りできないんだ。

 ね、美佳、あなたはアメリカに行って後悔しない?

 今までのこと全て忘れるってそんなことできるの?」

 

「わたし、わたしは」

 

「美佳、アメリカ行ってもいい。

 でもね、後悔だけはしないでね。

 絶対にわたしみたいにならないでね。

 逃げ出したいだけならやめなさい。

 本当に全てを捨てる勇気があるのなら、もう二度と日本には戻らないという覚悟が

 あるのなら行きなさい。

 わたしは応援してあげる」

 

「ま、麻緒さん。

 ・・・・・麻緒さんはもしかして今でもその人のこと好き?」

 

「大好き。

 わたしはやっぱり彼のことが大好き。

 この気持ちは・・・・・・・・・今も変わらない。

 距離も時間もなにもこの気持ちを変えることはできなかった。

 おかしいね、もう40過ぎてんだっていうのに。

 ・・・・・・・・でも、やっぱり駄目なの。

 わたしは、今までもこれからもずっと彼のことが大好き。

 本当馬鹿だね」

 

「麻緒さん」

 

「へへ、おかしいでしょ。

 いいよ笑っても」

 

”だき”

 

「全然、全然おかしくなんかないよ。

 おかしくなんかない!

 うううううう、うわ~ん、おかしくないよ~、うわ~ん」

 

「ば、ばか。

 なんで美佳が泣くの。

 ば、ばか、ううううううううう」

 

「うわ~ん、ううう、うぐっ、うぐっ、ぐすん。

 ・・・・・・で、でも麻緒さん、なんか焦げ臭い」

 

「ぐす。

 え? あ゛ー、ハンバーグ焦げてる!」

 

「うううう、ぐす。

 めっちゃ苦そう。

 ・・・そ、それとうちゃんの分ね」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「お~い美佳、今日もオープンキャンパス行くんじゃなかったか」

 

「え! あ、う、うん」

 

ふぁ~、眠い。

えっと今何時?

げ、もうこんな時間!

・・・・・昨日、あれからとうちゃんも来てみんなでご飯食べて。

麻緒さん大丈夫かなぁ。

なんか、あのあとずっと変だった。

顔、なんか赤かったし風邪でも引いたのかなぁ。

あ、そんな場合じゃない。

急がないと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

やばいやばいやばい。

この時間だと厩戸大に着いた頃にはオープンキャンパス終わっちゃう。

どうしよう。

はぁ~、仕方ない厩戸大は外から雰囲気見よう。

それより昼からは東地大学か。

あんまり奨学金とかでないんだよなぁ~、授業料も高いし交通の便も悪いし。

でも、折角ゆきのんが選んでくれたから行くだけ行ってみよう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

東地大、やっぱり駅から遠いよ。

早めに移動してきたから間に合うと思うけどさ。

はぁ~足イタ~。

 

”ブッブー”

 

げ、外車!

な、なによ、こんな狭い道なのに。

そんなバカでかい車で入ってくんなってんだ。

・・・あれ? でもこの黒塗りの車どこかで。

 

”キキキ―、バタン”

 

「三ヶ木さんじゃないかい?」

 

「あ、お、おばぁちゃん」

 

「どこに行くんだい?

 よかったら送っていくよ」

 

「あ、は、はい。

 お、お願いしてもいいですか」

 

「お乗りなさい」

 

「はい」

 

へへ、やっぱりあの文化祭にいつも来てくれるおばぁちゃんだ。

この角刈りグラサンの運転手さんにも見覚えがある。

 

”ギロ”

 

ひぇ~、相変わらず怖い。

 

「あ、あの~、すみません失礼します。

 うわ~、車の中めっちゃ広い。

 それになんかいい匂い」

 

広川先生の車とは大違いだ。

あれはどうみても軽トラだもんね。

めっちゃ狭かったし、お尻痛かったし。

それに比べるとこの車は。

 

「で、どこに行こうとしていたんだい?」

 

「あ、あの~東地大学に」

 

「あら、東地大に?

 でもどうしたの、東地大に何か用事?」

 

「あ、あの、オープンキャンパスで」

 

「三ヶ木さんは東地大学に来る気なのかい?」

 

「えっとね、一応滑り止めです。

 うんとね、わたし頭悪いから友達が最悪のことも考えなさいって」

 

「そう。

 最悪の場合ね」

 

「・・・でも、正直いま迷ってます。

 わたしは保母さんになりたいっていうのが夢だったはずなのに。

 なんかほんとにそれでいいのかなぁって。

 ちょっといろいろあって。

 ・・・あ、あのアメリカに行かないかって誘われてて、

 それもいいかなって思ったり。

 でも保母さんになる夢あきらめてもいいのかっていう自分でもいて。

 はぁ~、どうしたんだろ。

 ついこの前までは、絶対に保母さんになるって決めてたのに」

 

「そう。

 ・・・・・・・・黒岩、行き先変更よ。

 東地公民館に行って頂戴」

 

「はい」

 

「え? あ、あの、わたしは東地大学に」

 

「いいから」

 

「あ、でもオープンキャンパスにいかないと・・・・・・・・・」

 

”ギロ”

 

ひ~、黒岩さん目が光ったような、めっちゃ怖いよ~

それに、ちゃんと前向いて~

 

     ・

     ・

     ・

 

”キキキ―”

 

「はい着いたわ。

 さ、ついていらっしゃい」

 

「・・・・・ふぁい」

 

あ~あ、どうしょう、もう間に合わないよ。

でも黒岩さん怖いし。

 

”スタスタスタ”

 

「今日はここで福祉のイベントがあってね。

 東地大学の子達も参加してるのよ。

 いいから見ていきなさい」

 

「え、でも、あの~わたし、オープン 」

 

”ギロ”

 

・・・・・も、もういいや。

だ、だって黒岩さん絶対に怖いんだもん。

さからったらわたし何されるか。

は! もしかしておばぁちゃん達ってあっち系の人?

 

「三ヶ木さん」

 

「は、はい、今行きます。

 ついていきますどこまでも」

 

”スタスタスタ”

 

怖いよ~

後ろから黒岩さんついてくる。

もしかしてこのままわたし誘拐されて。

ど、どうしょう。

でもうちお金ないし。

は、わたしどっかに売られちゃうんじゃ。

 

「あ、三ヶ木さん?」

 

「え?

 あー、朋先輩。

 ひゃーお久ぶりです!」

 

「本当に三ヶ木さんだ。

 総武高の制服が見えたから誰かなって思ったんだ。

 お久しぶり。

 今日はどうしたの?

 あ、もしかしてイベントに来てくれたの?」

 

「あ、そ、その・・・」

 

どうしょう、黒岩さんずっとこっち睨んでるし、脅されてなんて言ったら。

え、えっと~

 

「あ、朋先輩って東地大だったんですね」

 

「うん。

 あ、そうだ、会場案内するわ」

 

「あ、え、えっと~」

 

ラッキー!

これで逃げられる。

あ、でも朋先輩まで誘拐されたら。

 

”ちら”

 

「いいからいってらっしゃい」

 

「あ、はい、おばぁちゃん」

 

”スタタタタ”

 

た、助かった。

後は何とか逃げ出さないと。

どこから逃げようか。

 

「ん~」

 

「どうしたんですか朋先輩?」

 

「うん、あのおばぁちゃんどっかで見たような?

 誰だったっけ?」

 

「あ、総武高の文化祭に 」

 

     ・

 

”スタスタ”

 

「へぇ~、いろんな福祉のイベントに参加してるんですか?」

 

「そうだよ。

 東地大っていろんな福祉の施設と提携しててね、体験授業とかさせて

 もらってるの。

 わたしね、サークルで耳とか話すのとかが不自由な子達との交流してるんだ。

 今日はねその活動の一環で、ここのイベントで一緒にコーラスに参加するの」

 

「コーラス?」

 

「うん」

 

「乙舳さ~ん」

 

「あ、はい先輩。

 ごめん、ちょっと行ってくるね」

 

「はい、ちょっとここら辺を見ています」

 

”スタスタ”

 

へ~、結構賑やかだ。

人もいっぱいいるし、いろんな模擬店でてる。

えっと~なんか食べよっかなぁ~

 

”タッタッタッタッ、ドン!”

 

「ひゃ~」

 

え、えっとなんだ、何かぶつかってきた?

あ、女の子?

へへ、かわいいなぁ~、幼稚園ぐらいかなぁ。

 

「ぐす」

 

え、なに? なにか泣き出しそ・・・・・

げぇ、ス、スカートに、制服のスカートにチョコが!

あ、この子チョコバナナ

そ、それが付いたんだ。

 

「う、う、う、うううううう」

 

や、やば、この子泣き出しそう。

ど、ど、ど、どうしょう。

 

「あ、あの、だ、だ、大丈夫だから。

 このスカートなんて安いから、安物だから。

 それにね洗濯すれば何ともないから。

 だからね、ね」

 

「うっ、うっ、う゛ば~ん、う゛ば~ん」

 

ぎゃー泣き出した!

やばい、やばい、やばい、ど、どうしょう。

え、えっと、えい!

 

”だき”

 

「ね、大丈夫だから。

 こんなの何ともないから」

 

”なでなで”

 

「う、う、う」

 

よ、よかった泣き止んだ。

あ、でも。

 

”キョロキョロ”

 

あった!

 

「ね、おいで」

 

”にぎ”

 

ひゃ~小っちゃくて、かわいいお手々。

ふふふ、やわらか~い。

あ、そんなこと言ってる場合じゃない。

 

”テッテッテッ”

 

「おじちゃん、チョコバナナちょ~だい」

 

「あいよ、1本100円だよ」

 

「やす!

 はい100円」

 

「まいどあり~」

 

え~とこの子、名前なんて言うんだろ?

でへへへ、なんかかわいいなぁ~

指くわえてチョコバナナみてる。

ま、名前なんていいや。

 

「はい、これあげるね」

 

「?」

 

「あ、だから、ほらさっき持ってたの落としちゃって食べれなくなったから。

 これ代わりにあげる」

 

「??」

 

「あ、いや、これね 」

 

「三ヶ木さん、もうすこしゆっくり話してみて」

 

「え? あ、はい。

 こ・れ・ど・う・ぞ」

 

”にこ”

 

あ、笑った。

笑った顔もめっちゃ可愛い。

 

”サッ、サッ、サッ”

 

「へ? えっと~」

 

”サッ、サッ、サッ”

 

「ん、えっと~」

 

「ありがとうって言ってるのよ」

 

「あ、そうなんだ。

 ど・う・い・た・し・ま・し・て」

 

”ぺこぺこ”

 

「うん、バイバイ」

 

”タッタッタッ”

 

「ふぅ~」

 

「ご苦労様。」

 

「あ、朋先輩」

 

「あの子、しょうこちゃんって言ってね、耳も話すのもちょっと不自由なの」

 

「そうなんだ。

 あ、でも朋先輩、手話できるんですね。

 すご~いです」

 

「わたしなんてまだまだだよ。

 もっともっと練習してうまくならなくちゃ」

 

「へぇ~」

 

「あのね、わたしは卒業したらあの子達の先生になりたいの。

 東地大ではそのために必要なことが学べる。

 わたし、なんとなくこの大学選んじゃったけど、いまはこの大学を選んで

 本当によかったと思う」

 

「すごい、すごいです朋先輩」

 

「うううん、全然すごくないよ。

 すごいのはあの子達。

 あの子達の中には、生まれつき音のない世界に生きてる子もいるの。

 でもみんなとっても元気。

 いっつも笑顔見せてくれてね、わたしいつも元気貰ってんだ。

 だから、わたしはもっともっと勉強していろんな経験して、

 あの子達と一緒に歩んでいける先生になりたい」

 

「朋先輩!

 朋先輩ならなれます、絶対!」

 

「そ、そっかなぁ~」

 

「乙舳さん、コーラス始まるわよ」

 

「あ、先輩今行きます。

 三ヶ木さん、今からコーラスなの。

 あ、しょうこちゃんも出るのよ。

 見に来ない?」

 

「あ、はい。

 でもコーラスって?」

 

     ・

     ・

     ・

 

あ、朋先輩出てきた、朋先輩ピアノやるんだ。

えっと、子供達と一緒にいるのは東地大の生徒さんかなぁ。

えっと~、あ、いたいたしょうこちゃんだ。

えへへ、手振ってる。

 

「頑張って~」

 

”ポロロン、ポロロン♬”

 

あ、えっとこれっておかあさんの歌?

でもコーラスって・・

 

”バッ、パッ、サッ”

 

あ、手話だ、手話でコーラスしてるんだ。

へぇ~みんな小っちゃいのに上手だなぁ。

朋先輩も楽しそう。

 

『わたしは卒業したらあの子達の先生になりたいの』

 

『わたしはもっともっと勉強していろんな経験して、あの子達と一緒に歩んで

 いける先生になりたい。』

 

”ポロ、ポロ、ポロポロポロ”

 

あれ、わたし泣いてる。

なんで、なんで、何で泣いてるんだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・なにやってんだ、わたし。

わたしは、わたしは・・・なにがしたいの。

 

     ・

     ・

     ・

 

”キキキー”

 

「おばぁちゃん、駅までありがとうございました」

 

「すまなかったね、オープンキャンパスに行けなくて」

 

「うううん、とっても勉強になりました。

 おばぁちゃん、あのね、わたしちゃんと考えてみる。

 遅いかもしれないけどちゃんと考えてみる。

 わたしはどうしたいのか、なにがしたいのかって。

 ちゃんと考えて答えを出してみる」

 

「そうかい。

 三ヶ木さん、それは大事なことだよ。

 焦らないで、ゆっくりじっくり考えて答えを出しなさい。

 大丈夫、遅いことなんてない」

 

「うん、じゃあ行くね。

 あ、黒岩さんも送ってくれてありがと、にこ♡」

 

「あ、い、いえ、仕事ですから」

 

「それではです」

 

”ペコ”

 

「ええ、また会えるといいわね、三ヶ木さん」

 

「うん、待たね」

 

”タッタッタッ”

 

「よろしかったのですか理事長」

 

「え?」

 

「あの娘さんは、確か狩也坊ちゃんが言われていた娘では?」

 

「いいんだよ。

 お昼にあの娘が言ってたこと聞いてたろ。

 あの娘が今のままの気持ちでアメリカに行っても必ず後悔する。

 それは狩也にとっても、あの娘にとっても不幸なこと。

 今はね、ちゃんと考えることが大事なんだよ。

 そうさね、ちゃんと考えて答えを出してそれがアメリカに行くことなら、

 それが一番いいんだけどね」

 

「そうなるでしょうか?」

 

「こればかりはわからない。

 さ、黒岩帰るよ」

 

「はい。

 でもまたお会いしたいですね」

 

「おや珍しいね、お前がそんなこというの」

 

「すみません、出過ぎました」

 

”ブロロン”

 




最後までありがとうございます。

この正月休み、原作1巻から読みなおしてたら、まだ11巻。
い、いまから13巻まで寝ずに読み切ります。

えっと、次回は嵐を呼ぶクリスマス編。(き、季節感全くなくすみません)
さてオリヒロの決意は。
八幡の決断は・・・・・

また見に来ていただけたらありがたいです。
ではではです。

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