似て非なるもの   作:裏方さん

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見に来ていただいて感謝感謝です。

す、すみません。
毎回毎回すみません。
またしても更新がこんなに遅く。
な、なんとか4月中に更新。

今回は、冬物語編の最終編、三人の願いの前編です。
あ、ネタバレ注意です。(今さらですが)
原作まだの人はご注意ください。

あ、あと、字、文字数約3万字・・・
す、すみません、お時間おかけします。


三人の願い編 前編 -二人の願いー

わたしは人魚姫のお話が大好き。

 

小学校のころ、ずっと図書館で読んでた。

他にも白雪姫やシンデレラ、眠り姫いろいろあったけど、

わたしは人魚姫のお話が大好きだった。

うううん、今でも大好き。

他の童話が大抵ハッピーエンドで終わるのに、人魚姫だけはとっても切なくて。

王子様に愛されるために、声を失い、足の激痛にも耐えた。

一度はお前と結婚するって言われたのに、結局裏切られて・・・・・・

それでも王子様の幸福を願って、人魚姫は誰にも気付かれず消えていく。

海の泡となって。

・・・・・・だからわたしは人魚姫が大好き。

 

 

 

 

ーーーー三学期の初日ーーーー

 

 

 

 

”ガタンゴトン、ガタンゴトン”

 

「クー、クー、スー、スー。

 へへ、お腹いっぱい、とうちゃんもう食べられないよ~」

 

”ビシ!”

 

「い゛だっ!」

 

え、な、なに、なにがおこったの?

うううう、なんかおでこがひどく痛い。

 

「いたたたたた」

 

「いい加減そろそろ起きろ。

 駅、乗り過ごすぞ」

 

へ? あ、比企谷君だ。

あれ、いつから隣に座って・・・

っていうことはこの痛みは、デコピン!

こ、この野郎、乙女のおでこになんてことすんだ!

 

「お前、電車の中で熟睡し過ぎだろ。

 全く女子なんだからもう少し 」

 

「う、おでこ痛い。

 ううううう、い、痛いよ~」

 

「え、そんなに痛かった?

 す、すまん大丈夫か?」

 

「ううううう、うわ~ん」

 

「すまん三ヶ木」

 

”ビシ!”

 

「い、いてぇ」

 

「へへへ、お返しだ」

 

ふふふ、目には目を、デコピンにはデコピンをだ。

乙女のおでこの恨み思い知れ。

あ、でもすごく赤くなってる。

ちょっとやりすぎたかなぁ。

 

「くそ、心配して損した。

 そんなことより、ほら降りるぞ。

 いてててて」

 

「あ、うん。

 ・・・ごめん」

 

     ・

 

「ふぁ~あ」

 

ね、眠たい。

今日から3学期かぁ。

でもさ、3学期ってセンター試験終わったらすぐ自由登校なんだ。

だから、こうやって比企谷君と登校できるのってあと何回あるんだろう。

・・・寂しいなぁ

 

”チリンチリン”

 

あ、来た来た。

比企谷君、学校終わったら塾行くから、自転車を駅に置いてんだよね。

へへ、それならここは定番の。

 

「おう、お待たせ」

 

「うんしょっと」

 

「お、おい!

 なに当たり前のように荷台に座ってんだ」

 

「だめ?」

 

「当たり前だ。

 いいか、自転車の二人乗りは禁止されているんだ。

 それに重たいし」

 

”べシ”

 

「ぐはぁー」

 

「うっさい、重たい言うな。

 最近、ほんと気にしてんだから・・・ちょ、ちょっと太ったの。

 もう! ほらさっさと行くよ」

 

「お、降りないのかよ」

 

「重たいって言った罰。

 ほら、学校に向けて出発シンコー! 茄子のおし 」

 

「や、やめろ、それ以上言うな!

 ・・・たく。

 ちゃんと掴まってろ」

 

「ほ~い」

 

”ぎゅ~”

 

「あ、い、いや、つ、掴まりすぎだから。

 もうちょっと離れてくれない?」

 

「やだ」

 

     ・

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「ね、もうすぐでセンター試験だね。

 調子どう?」

 

「ん、ああ、まぁ何とかなんじゃねえのか、多分。

 お前はセンター試験受けないんだよな」

 

「うん。

 一般入試一本で行くよ」

 

「そっか。

 まぁお前なら滑り止め考えなくても、東地大一本でいけるだろうからな。

 確か試験は28日だったな。

 あと20日ぐらいか。

 まぁなんだ、頑張れ」

 

「あ、うん、ありがと」

 

へへ、今とっても幸せ。

毎朝こんなんだったらいいのになぁ~

・・・でも学校終わったら比企谷君、いつも結衣ちゃんと一緒に帰ってんだ。

もしかして、やっぱりこうやって二人乗りして帰ってんかなぁ。

こうやって腰に手をまわしてさ。

・・・・不安・・・すごく。

だってわかってんだ。

わたしなんかより結衣ちゃんのほうが数倍、うううん数百倍も可愛い。

それに比企谷君にとって、とっても大切な人。

きっと・・・いつか・・・

わたしなんかがこうやっていられるのも今だけなのかもしれない。

もしかしたら、明日になったら比企谷君は・・・

やだ! 

そんなのやだよ。

 

”ぎゅ~”

 

「お、おい、なんだ、いきなりどうしたんた?」

 

「・・・・・う、うう」

 

「おわ! なんだ? 何でお前泣いてんだ?」

 

「な、なんでもない、何でもないもん馬鹿!」

 

「へ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ということで、わたしプロムをやりたいと思います」

 

「でもいろはちゃん、他の行事はどうするの?

 今年は卒業生を送る会とかしないの?」

 

「え、えっと~」

 

「それにさ一色、予算はどうするの?

 そんなの予定に入ってないから予算ないじゃん。

 どこから出すの?

 ね、煤ケ谷ちゃん、予備費とかそんな余裕あったっけ?」

 

「あ、あ、あの、今年度の、よ、予備費はあと少しだけ、の、残ってますけど。

 で、でも、今年もフリーペーパーとか、お料理教室やるんだったらちょっと。

 か、会長、プ、プロジェクター購入しちゃったし。

 ・・・・・・・ダメですって言ったのに」

 

「一色!」

 

「げっ。

 え、えっと~、フリーペーパーとお料理教室もやりたいんですけど~

 少し予算削っちゃいましょう。

 あ、そ、そうだ、卒業生を送る会!

 あれをプロムの中に組み込んじゃって、そうすればなんとかなるんじゃないかなぁ。

 うん、これで解決!

 他になにか無いですか?」

 

「「・・・」」

 

「・・・無いようでしたら 」

 

「俺反対。

 面倒くさい。

 ただでも学校裏サイトの監視で忙しいのに」

 

「えっと、それじゃ意見もないようですので」

 

「お、おい!

 無視すんなー」

 

「ちっ!」

 

「あ、あの~、は、はい」

 

「えっと~、煤ケ谷さんも反対?」

 

「あ、は、反対とかじゃなくて、プロムって何をするのかよくわからなくて」

 

「あ、実は小町もです」

 

「ね、一色さん、実をいうと俺もこの資料だけではあんまりよくわからないんだ。

 今日ここで決めてもちょっとあれだから、もう少し考える時間貰えないか?

 なにしろ初めてのことだし、いろいろ調べてみたいんだ」

 

「うん、わたしも柄沢君に賛成。

 そのほうがいいと思うよ、いろはちゃん」

 

「・・・仕方ないですね。

 それじゃ、今度の金曜日の役員会にもう一回やりますね。

 それまでによく考えておいてくださいね」

 

     ・

     ・

     ・

 

”かきかき、かきかき”

 

ふう、これでいいかなぁ。

へへ、今日のプリントは結構自信あるんだ。

今度こそは満点取れるかも。

 

「ゆきのん出来たよ、採点お願いします」

 

「ええ」

 

あ、そうだ。

来週末からのセンター試験終わったらすぐに自由登校になるけど、

ゆきのんはどうするのかなぁ?

やっぱり、ゆきのんも学校来ないのかなぁ。

そうなると、その後に会えるのは卒業式の前日かぁ。

寂しい。

 

「ね、ねぇゆきのん。

 ゆきのんは自由登校の時ってどうするの?」

 

”きゅ、きゅ”

 

「三ヶ木さん。

 東地大の受験って1月28日だったわね。

 それまでは学校に来るつもりよ」

 

「え、そ、それって」 

 

「ええ、当然あなたも来なさい。

 ・・・一緒に勉強しましょう」

 

「う、うん。

 ありがとゆきのん」

 

”ぱさ”

 

「はいプリント。

 まだまだ勉強必要ね。

 はぁ~、教え方が悪かったのかしら」

 

「げっ、60点」

 

「ほら、さっさとノート開きなさい。

 今日はみっちりやるわ。

 覚悟しなさい」

 

「は、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~、や、やっと解放された。

もう、頭の中何も入らないよ~

・・・でもさ、ほんとありがとゆきのん。

わたし、受験頑張るからね。

よし! 明日こそ満点取るんだ、絶対。

ん? あれ? 生徒会室まだ照明が点いてる。

まだ誰かいるのかなぁ。

 

”トントン”

 

「は~い」

 

あ、この声は舞ちゃんだ。

舞ちゃんまだ残っているんだ。

何やってんだろ?

 

”ガラガラ”

 

「舞ちゃんご苦労様」

 

「・・・・ふん!」

 

え?

ど、どうしたの? いきなり”ふん”って。

なんか舞ちゃんちょ~機嫌悪い。

な、なにがあったんだ。

 

「あ、あの~舞ちゃん何かあったの?」

 

「ジミ子先輩が悪いんです!」

 

えー! わ、わたし?

わたし何したの?

 

「え、えっと~」

 

「何でこんなにマジに議事録書いてるんですか。

 おかげで議事録まとめるの大変なんですよ!

 いっつも比較されるんですから!

 こんなのホワイトボードのコピーで十分じゃないですか!」

 

「え、あ、い、いやだって、後から見た時に・・・」

 

「もう!」

 

”カチャカチャ”

 

なんかごめんなさい。

あ、でも結構ちゃんとまとめてる。

なんだかんだ言っても頑張ってるじゃん舞ちゃん。

へへ

 

”なでなで”

 

「は、はぁー!

 なんですか、何でいきなり頭を」

 

「今、紅茶淹れるね」

 

「あ、わたしが 」

 

「いいから、議事録やっちゃって。

 それに・・・・・・」

 

「それに?」

 

「な、なんでもない」

 

だって、舞ちゃんの紅茶、メッチャ苦かったんだもん。

やっぱここはわたしが淹れるよ。

 

     ・

 

「ルンルンルン♬」

 

よし、出来た。

どれどれお味はどうかなぁ。

 

”ゴク”

 

ふふふ、我ながら上出来、上出来。

さてっと、議事録できたかなぁ。

 

”カチャ”

 

「はい、紅茶お待たせ」

 

「あ、頂きます」

 

”ゴク”

 

「お、美味しい。

 え、なんで?

 わたしと同じようにやってたと思うんだけど。

 あ、葉っぱ、葉っぱが違うんですね。

 この葉っぱ、どこに隠してるんですか」

 

「・・・葉っぱって。

 何も隠してなんかないよ。

 ここにあったので淹れたの」

 

「うそ。

 ううう、何でこんなに違うんだ。

 わたしの紅茶、みんな不味い不味いって」

 

「心だよ心。

 わたしも最初の時はうまく淹れられなくてさ、

 いろいろゆきのんに教えてもらった。

 だけどさ、やっぱり最後は気持ち、心だと思うんだ。

 みんなに美味しいの飲んでもらいたいって思いを込めてるから。

 ・・・なんちゃってね。

 あ、そうだった確かここに」

 

”ゴソゴソ”

 

「はい、これあげる。

 この前さ、会長から言われたからコツとか書いておいたんだ。

 今度さ、紅茶淹れる時にこれ参考にしてみて」

 

「ありがとうございます。

 ・・・心か。

 ジミ子先輩、あ、あのですね、少し相談したいことが」

 

「うん?

 あ、でもそろそろジミ子はやめってほしいなぁ~」

 

「じつは今日の役員会でですけど、ジミ子先輩」

 

「・・・」

 

     ・

 

「え、プロム?

 プロムってあのなんか高そうなドレスとか着て踊るやつ?

 よく海外ドラマでやってる」

 

「そうなんですよ。

 一色がどうしてもやりたいって言いだして」

 

「へぇ~

 あ、でもじゃあさ、今年は卒業生を送る会はやらないの?」

 

「プロムの中に組み込むそうですよ」

 

「へ~そうなんだ、卒業生を送る会はやらないんだ。

 代わりにプロムっか」

 

「あ、でもまだ生徒会でやるかどうか検討してるところで、

 まだ決まってないんですよ。

 今度の役員会までに各自考えてみるってことで。

 参考までにジミ子先輩はプロムどう思いますか?」

 

「わたし?

 わたしは・・・・・・・ 」

 

「やってみたいですか?

 みたいですよね。

 ほら、綺麗なドレス着て備品先輩とイチャイチャって」

 

「イチャイチャ・・・・・

 えへ、えへ、えへへへへ」

 

”ジー”

 

「ジミ子先輩ヨダレが」

 

「はっ、ご、ごほん!」

 

「やっぱりプロム賛成ですか」

 

「・・・・・・あのさ、わたしはできれば遠慮したいかなぁ」

 

「え?」

 

「さっきの話だと、やっぱあんな高そうなドレスで着飾ってって感じだよね。

 レンタルだとしても一式だと結構するんじゃない?

 ・・・もしさ、大学受かったらすごくお金かかるんだよね。

 入学料とか授業料とか、あと施設費になんか同窓会入会金とかも。

 大学入ってからも実習費とかいろいろ大変なんだ。

 もちろんバイトはするつもりだけどさ。

 それに、すぐに成人式もあるし。

 わたしは普段着でいいんだけど、とうちゃん振袖着せたがってるんだよ。

 なんかこの前もネットでいろいろ調べてて。

 前撮りがなんだとか・・・よく撮れてったら、お、お見合い写真にするとか。

 ま、まぁ、そんな風にこれからのこと考えるとさ、お金節約しなくちゃ。

 だから、わたしはあんまりとうちゃんに負担かけたくない」

 

「ジミ・・・三ヶ木先輩」

 

「あとね、プロムって男子が女子を誘うんだよね。

 でもそれってさ、きっと誘われない女子もいるんだよ」

 

「あ、ま、まぁそれは仕方ないかも」

 

「仕方ない・・・か。

 ね、多分ドレスってさ、親が準備してくれると思うんだ。

 娘のためにって。

 でもさ、結局誰からも誘われなくてプロムが終わるまで、

 ずっとみんなが踊っているのを体育館の隅っこで見てないといけないんだ。

 別になにか悪いことしたわけじゃないのに小っちゃくなって、みんなが楽しそうに

 踊っているのを見ていなくちゃいけない。

 そんで、時々、にこやかに送り出してくれた親の顔が想い浮かぶんだ。

 そんでね、ふと思うんだ。

 もし『楽しかった?』って、親に聞かれたらなんて答えたらいいんだろうって」

 

「・・・」

 

「うれしい卒業式のはずなのに。

 ・・・みんながリア充じゃないんだよ。

 きっと嫌な思いする人もいると思う。

 あ、でもこれってわたしの勝手な思い込み・・・・・・絶対偏見!

 三年生の中にはそういうのやってほしいって思う人もきっといると思う。

 だからね、わたし的にはできたら自由参加にしてもらうとありがたい」

 

「・・・自由参加。

 あ、で、でも三ヶ木先輩は比企谷先輩が」

 

「そんなのわからないよ。

 彼には大切に思う人、他にもいるから」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「ね、ヒッキー」

 

「あん、なんだ?」

 

「あのさ、もうあと少しだけだよね、学校来るの」

 

「ああ、そうだな。

 センター試験が終わって、次の日に学校行ったら翌日から自由登校だ。

 あとは卒業式の前日ぐらいに、予行と卒業生を送る会があるぐらいだからな。

 あ、但しもし留年しなければだがな、お前が」

 

「あたしー!

 だ、大丈夫だし、多分」

 

「冗談だ」

 

「ひど!

 でね、それでさ、そうなるとゆきのんともう会えないじゃん」

 

「いや、普通に会えばいいんじゃないの、家とかで」

 

「奉仕部としてって意味だし。

 ・・・そんなのちょっと寂しいなぁって。

 それでね、来週の火曜日って塾ないじゃん。

 だからさ、火曜日は部室で勉強しない?」

 

「三人でか?」

 

「違うし、四人でだし」

 

「・・・・・」

 

「最近さ、なんかあたし美佳っちに避けられている感じするんだ。

 ほらこの前も部室に入らないで帰っちゃったし」

 

「あれは、多分俺達に気を使ってだろう。

 由比ヶ浜を避けているわけじゃない」

 

「でも女子会も最近やってないし。

 それに初詣の時も誘ったのに。

 ・・・結局、誰か他の人と行ったみたいだし」

 

”チラ”

 

「・・・」

 

「ね、ヒッキー、あたし美佳っち好きだよ。

 あたしは大事な友達と思ってる」

 

「・・・・・・ゆ、由比ヶ浜、あのな 」

 

「ね、いいでしょヒッキー。

 いいよね、ね!」

 

「・・・あ、ああ」

 

「えへへ、やったー

 なんかちょ~楽しみ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「へぇ~、スマホの画面でも結構綺麗に映るんだね、いろはちゃん」

 

「でしょ、だからこれは購入して正解。

 これからどんどん活用して、ちゃんと元取りたいと思いま~す。

 それで~、プロムのことは大体わかったと思うんですけど、

 何か質問ある人いますか?」

 

「「・・・・・・・」」

 

「わたし的にも、なんかこう毎年いつも同じようなのじゃなくて、

 今年はわたし達のやり方で送り出してあげたいんですよ。

 だから、プロムやりましょう」

 

「あ、あのさ一色」

 

「何、蒔田?」

 

「これってさ、やっぱり強制参加になるのかなぁ」

 

「え?」

 

「あ、いや、卒業生を送る会の代わりってことになるからそうなるのかなぁって」

 

「まぁ、一応卒業生全員が対象のつもりだけど」

 

「でも!

 あ、あのさ、こういうのあんまり好きんじゃない人もいる・・・と思うんだ。

 わたし達らしいやり方で祝ってあげたいってのはわかるけどさ、

 肝心の三年生の人達の気持ちはどうかなぁって、ちゃんと喜んでくれると思う?」

 

「そ、そんなの喜んでくれるに決まってるじゃないですか」

 

「本当? 本当にそう思う?

 なかには、今までの卒業生を送る会のほうがいいって人もいるんじゃない?

 それにさ、プロムって本来自由参加のもんじゃない。

 男子が女子誘ってさ。

 ね、だからさ、卒業式の後で自由に参加してもらうってのどう?」

 

「えっと、だけど自由参加にして、あんまり参加者が少なくてもあれだし。

 やっぱり全員参加で行きたいと思います。

 ・・・自由参加にしたら、あの人達、絶対参加しないと思うし」

 

「え、あの人って?」

 

「あ、いえ、なんでもないです。

 とにかく、プロムは卒業生全員を対象にします」

 

「それなら、わたしは反対」

 

「はぁ!」

 

「なに!」

 

「む~」

 

「ふん」

 

「ま、まぁ蒔田さん。

 それなら、そういう人も楽しめるような企画も考えてみればいいんじゃないかなぁ。

 ほらビンゴとかさ。

 具体的なものはこれからなんだし。

 あと、ある程度の内容とか決まったら、HPで公開して意見聞いてみてもいいん

 じゃないか?

 強制にするか自由にするかは、そこで判断してみたらどうだろう?」

 

「ね、そうしよう蒔田さん」

 

「う、うん。

 柄沢君と藤沢さんが言うんなら」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ゾク”

 

へ、な、なに?

なんか急に悪寒が。

だ、誰かに見られてるような。

 

”キョロキョロ”

 

なんだろう、どっからか視線感じんだけど。

気、気の所為かなぁ。

それとも、お、オバ・・・・・・ケじゃないよね。

さ、さっさと奉仕部にいこ。

はっ!

 

”ピタ”

 

あの教室の扉の隙間!

誰か見てる、目、目がずっとこっち見てる。

も、戻ろかなぁ、う、うん戻ろ!

こ、怖い!

 

”くる”

 

お、落ち着いて。

う、うん、わたしは何も見てない、だ、大丈夫きっと気の所為。

ゆ、ゆっくり歩き出して。

 

”ガラガラ”

 

え、今の扉の開く音?

 

”ピタピタピタ”

 

ど、どうしょう、ち、近づいてきた!

で、でも、怖くて足が動かないよ。

 

”ぐぃ”

 

「ひゃー!」

 

「三ヶ木」

 

「え、あ、広川先生?

 な、なんだ、びっくりさせないでよ。

 なんで扉から覗いてたの?」

 

「三ヶ木、お前が来るのずっと待ってたんだ」

 俺はお前の素直な気持ちが知りたい。」

 

「え? えっと~」

 

「お前に選んでほしいんだ、どっちが好きかって。

 俺信じてるんだ。

 お前なら絶対俺を選んでくれるって」

 

え、えっと~わたしをずっと待ってた?

どっちが好き?

俺を選んでくれる?

 

「万一、お前が俺を選んでくれなくても、俺は後悔なんかしないから。

 だから頼む、お前の素直な気持ちを聞かせてくれ」

 

も、もしかして広川先生がわたしのことを・・・好き?

これって禁断の恋!

は、そ、そっか、わたしもうすぐ卒業だから。

卒業したら先生と生徒じゃなくなって。

 

”ジー”

 

ど、どうしょう、広川先生に真剣に見つめられてる。

た、確かに広川先生はわたしの憧れの人だけど。

で、でもそれは好きとかじゃなくて、わたしのヒーローってことだし。

はっ! でも平塚先生はどうするんだ。

も、もしもよ、わたしが広川先生と付き合ったら・・・

 

『き、貴様ー、撲滅のラストブリット!』

 

”ゾ~”

 

し、死ぬ、間違いなく死ぬ。

 

「先生!

 ご、ごめんなさい。

 わたし先生とは付き合えない。

 そ、そりゃ、先生はずっとわたしの憧れの人だけど。

 で、でも、そ、それはほんと憧れで、好きと愛してるじゃなくて。

 そ、それにわたしまだ死にたくない!」

 

「付き合う?

 はぁ、なに言ってんだ三ヶ木?

 ほら、いいからちょっとこい」

 

”ぐぃ”

 

「え? あ、あの~」

 

    ・

 

「・・・・・・」

 

「さぁ、この苺のショートケーキ、お前どっちが好きか選んでみてくれ」

 

「・・・えっと~、苺のショート」

 

「おお。

 これ自信作なんだ。

 さ、食べてみろ。

 それでお前の素直な気持ちを俺に教えてくれ」

 

「・・・・・・・・・先生」

 

「ん?

 遠慮しないでいいぞ。

 ほら食え、それでどっちが好きか言ってみろ」

 

「し、知るかそんなもん!

 帰る!

 これでもわたしゃ忙しいんだ」

 

「・・・そ、そっか~

 お前俺に憧れてたのか~

 へ~、ずっと俺に憧れていた」

 

”ニタニタ”

 

「は、な、なにそのいやらしい目」

 

「どうしょうかなぁ~、静ちゃ、平塚先生に言っちゃおうかなぁ~

 あ、そうだ稲村にラインしょっと。

 三ヶ木、俺にず~と憧れてたんだって~

 そういえばさっき愛してるとか言ってたような 」

 

「わー!

 わかった!

 食べればいいんでしょ食べれば。

 何も変なもん入ってないんでしょうね。

 もう、最近ちょっとやばいっていうのに。

 どれどれ」

 

”パク、パク”

 

「ん~」

 

「どうだ、どっちが美味しい?

 右か、左か?」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

”パクパク、パクパク”

 

ん~、どっちも美味しい。

これ選ぶの難しいよ。

生クリームもしつこくなくて、スポンジもふわふわで卵の味もしっかりしてて。

この苺も美味しい。

 

”パクパク”

 

う~ん。

あ、でもこうやって食べ比べると、右のほうがクリームと苺の酸味が絶妙な感じで。

それに生クリームの口溶けもいいような。

でもこれってほんとに食べ比べないとわからないよ。

どっちもほんとに美味しいから。

 

「ど、どっちだ?」

 

「あ、う、うん。

 でも、あくまでもわたしの個人的な感覚だからね。

 どっちもほんとに美味しいから。

 えっと、わたし的には右の方が美味しい」

 

「げ!

 や、やっぱりそうか」

 

”ガク”

 

へ、な、なに?

なんか広川先生、すごく落ち込んでる。

ひ、左が正解だったの?

そういえば俺のこと選んでくれるとか言ってた。

 

「せ、先生?」

 

「あ、す、すまない。

 お前が選んだのは駅前のケーキ屋さんのだ。

 左のが俺の作ったやつ」

 

「え、あ、ま、間違えた!

 こっちの先生のケーキのほうが美味しかった」

 

「無理しなくていい。

 実は俺もそう思っていたんだ。

 でも、一応な他の人の意見も聞いてみたいと思ってな。

 だが、これではっきりした。

 お前が言うんだから間違いない。

 やっぱり俺はまだまだ師匠には敵わないか~」

 

「え?

 駅前のケーキ屋さんが広川先生の師匠?」

 

「あ、ああ。

 大学の時、あそこでアルバイトさせてもらってたんだ。

 そっか~、まだまだか~

 すまんかったな三ヶ木。

 そうだ、俺のケーキでよかったら。まだ作ったのいっぱいあるから

 持っていってくれ」

 

「ほんと!

 やった、じゃあ・・・・・・・あ、二個もらっても」

 

「ああ、持っていけ」

 

「うん。

 あ、でもほんとにじっくり比較しないとわからないぐらいで、

 だからそんなに 」

 

「ああ、わかってる。

 ありがとうな三ヶ木」

 

「うん、じゃ行くね」

 

「おう、またな」

 

     ・

     ・

     ・

 

「いよいよ週末はセンター試験ね。

 比企谷君、由比ヶ浜さん、あ、あの頑張って」

 

「ああ」

 

「うん、ありがとうゆきのん。

 でもさ、センター試験の前にこうやってみんなで勉強会できてさ、

 なんかうれしい。

 あと、美佳っち早く来るといいね」

 

「そうね。

 いつもならとっくに来てるのに。

 あ、由比ヶ浜さん紅茶のお替わりどうかしら?」

 

「うん、ありがとうゆきのん」

 

「あなたは?」

 

「あー、俺も貰うわ」

 

「ね、ゆきのん」

 

「なにかしら?」

 

「受験、終わってからも、うううん、卒業してからも会えるよね」

 

「え、ええ。

 当たり前じゃない。

 そ、その、わ、わたしたちは・・・・・・友達なんだから」

 

「ゆきのん!」

 

”だき”

 

「ゆ、由比ヶ浜さん。

 あ、あの~、紅茶がこぼれて」

 

「あ、ご、ごめん。

 ・・・えへへ」

 

「うふふふ」

 

「あ、ヒッキーもだよ」

 

「そうよ」

 

「あ、ああ、わかった」

 

「よかった」

 

「なにかお茶請けだしましょうね」

 

”トントン”

 

「どうぞ」

 

”ガラ”

 

「あ、いろはちゃん」

 

「失礼しまーす。

 ああよかった。

 小町ちゃんの言う通り、今日は先輩も結衣先輩もここにいたんですね。

 それはそうと、えっと~」

 

”キョロキョロ”

 

「んー」

 

「どうかしたのかしら一色さん」

 

「あのー、ここってパソコンってありましたよねー?」

 

「あるけど・・・・・・」

 

「それってDVD観れます?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

や、やばー、すごく遅くなっちゃった。

またゆきのんに怒られちゃうよ。

『三ヶ木さん!、あなたは自覚が足りないわ!』

なんちゃって。

ん、今のめっちゃ似てた!

・・・へへ、馬鹿やってないで急がないと。

東地大の入試まであと2週間。

気を引き締めて頑張るんだ。

だって折角ゆきのんに教えてもらってんだもん。

 

     ・

 

”スタスタ、スタ”

 

えっと~ゆきのん怒ってるかなぁ。

ちょっと遅くなったけど、まずは一緒にケーキ食べよっと。

ゆきのんの紅茶飲みながら。

さてノックを。

 

”ガヤガヤ”

 

ん、会長の声? あ、比企谷君と結衣ちゃんも来てるんだ。

えっと~、どうしょうケーキ2個しかないし。

広川先生にあと3個貰ってこようかなぁ。

まだいっぱい残ってたみたいだし。

 

「ちょっと待て。

 お前、本気でプロムやる気なの?」

 

え、プロム?

あ、舞ちゃんが言ってたやつだ。

あれほんとにやることになったんだ。

はぁ~、何とか自由参加にしてほしいなぁ~

でも、会長なんでここに?

奉仕部にプロムの依頼にきたの?

でも比企谷君も結衣ちゃんも受験生だし。

 

「ええ、わかってますよ。

 先輩達にも受験終わってからでも手伝ってもらえないかなぁ~って

 思ったんですけど。

 いいです。

 わたし達生徒会だけでやります」

 

会長。

生徒会だけでって、なんでそんなにムキなってるんだ?

なんでそうまでしてプロムやりたいんだろう?

 

「・・・・・・それは、何のために、誰のためにやるの?」

 

「もちろん、わたしのためですー

 だってこのままいつもの決り決まった送別会やって、

 それで終わったら、『はい、さようなら』ってなんかめっちゃつまらない

 じゃないですか~

 ここはわたし的にドバーってこれでもかってぐらいのことやって。

 それで、それで・・・・・・・・・・・・自分の心に区切りつけたいんです。

 ちゃんと心置きなく、先輩達を送り出したいんです。

 ・・・こんなんじゃ・・・駄目・・・ですか?」

 

「そう、答えてくれてありがとう。

 ではやりましょう」

 

「へ?

 あ、あの~、雪ノ下先輩?」

 

「まぁ、上の判断でそう決まったんならしょうがねえな。

 俺達は受験終わってからになるがそれでいいなら」

 

「うん、だね」

 

”ガタ”

 

「雪ノ下先輩、結衣先輩!」

 

”ガバ!”

 

「あ、暑苦しい」

 

「へへ、いいじゃん」

 

「お二人とも、ありがとうございます」

 

「あ、あの~、三人で抱き合ってるのはいいんだけど」

 

「え、先輩も混ぜてほしいんですか?

 それマジキモいんですけど」

 

「エロ谷君あなたって人は」

 

「ヒッキーそれはちょっと」

 

「い、いや、ち、違う。

 そ、そんなこと言ってないぞ。

 お、俺はだな、俺もプロムを 」

 

「冗談ですよ。

 よろしくです、先輩」

 

「お、おう」

 

・・・自分の心の区切りか。

そっか、ふぅ~。

はぁ~、やれやれ仕方ないかぁ。

どっか安く借りられるところないかなぁ、ドレス。

全部ひっくるめて1000円ぐらいで。

無いよね。

・・・・・・めぐねぇ、なんかそれなりの服を持ってないかなぁ。

 

「比企谷君、由比ヶ浜さん・・・・・・あの、ちょっといいかしら」

 

え?

 

    ・

 

一人で責任もってやり遂げるって、ゆきのん何でそんなこと?

あ、そっか。

比企谷君達、受験だから負担かけさせたくなくて。

・・・・・・違う。

だってさっき、比企谷君受験終わってからって言ってたもん。

じゃ、なんでそんなことを?

 

「ゆきのんは・・・・・・自分の力でやってみたいんだよね」

 

・・・自分の力でやってみたいっか。

そんなこと思ってたんだ。

わたし、全く気が付かなかった。

あんだけずっと放課後一緒にいたのに。

は、比企谷君、比企谷君も知ってたの?

 

「・・・・・・いや。

 いいんじゃないのそれで。

 知らんけど」

 

「適当なことばっかり」

 

知ってたんだ、やっぱり。

それになにこのやり取り。

まるで・・・・・・恋人同士みたいじゃん。

 

”ぐっ”

 

な、なんだろうこの胸の痛み。

すごく痛い。

やっぱり敵わない。

理解しあっているんだお互いのこと。

比企谷君にとって多分、この関係は、この三人の関係はとっても大切なもの。

きっと、わたしなんかよりも。

 

”スク”

 

帰ろ。

今のここには・・・わたしのいるべき場所は・・・無いよ。

 

「それじゃ、明日から生徒会室に来ていただいてもいいですか?」

 

「ええ、よろしくね。

 あ、でもごめんなさい。

 放課後は少し待ってほしいの。

 三ヶ木さんの受験が終わるまで待ってくれないかしら。

 わたしは三ヶ木さんに東地大受かってもらいたい。

 彼女はわたしにとって、とっても大切な友人なの。

 申し訳ないけど、それまでは放課後以外の時間で手伝わせてもらうつもり。

 それでもいいかしら?」

 

「はい、それで十分です。

 いえ、わたしの方こそそれでお願いします。

 わたしにとっても美佳先輩は大事な人ですから」

 

・・・ゆきのん、会長。

ありがと。

はぁー、馬鹿だわたし。

なにやってんだろ。

一人でうじうじって。

よし!

ゆきのん、ごめんね今日はゆきのん塾やめておくね。

三人の時間、ゆっくり楽しんで。

わたしは・・・

あとでメール入れとくね。

 

”スタスタスタ”

 

あ、会長もいたんだっけ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「ん?

 なんだ三ヶ木、まだ残っていたのか?」

 

「あ、平塚先生。

 ちょうどよかった。

 この問題わからないです、教えて頂けませんか?」

 

「ん? なんだ勉強していたのか?

 どれ、どの問題だね」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”きゅきゅ”

 

ど、どうかな。

昨日あれからめっちゃ勉強して、いつも以上に勉強して。

ちょっと自信があるんだ。

今日こそは満点取りたい、うううん絶対に取らないといけない。

じゃないと。

 

「三ヶ木さん」

 

「え、あ、はい」

 

「連絡はラインでなく、ちゃんと電話しなさい」

 

「あ、は、はい」

 

「でも、プリントはよく頑張ったわね。

 満点よ」

 

「ほ、ほんとー

 や、やった」

 

”ぎゅ”

 

「暑苦しい。

 み、三ヶ木さんあなたまで。

 や、やめてくれるかしら」

 

「えへへ、今日だけもう少し」

 

「三ヶ木さん、どうしたの?」

 

「ゆきのん、今まで勉強見てくれてほんとにありがと。

 あのね、もうわたしは大丈夫。

 絶対、東地大合格して見せるよ。

 だから、明日からはわたし自分で勉強するね」

 

「え、あ、あの」

 

「だからさ、ゆきのん。

 ゆきのんはプロム頑張って」

 

「あ、あなた、もしかして昨日の話を聞いてたの?」

 

「あ、う、うん」

 

「だから盗み聞きはよしなさいってあれほど」

 

「だって、入り辛かったんだもん。

 ・・・それとね、わたしも受験終わったら手伝わせてもらってもいい?

 絶対手伝いたいの」

 

「三ヶ木さん」

 

「うん、ゆきのんが一人でやってみたいって言うのわかっているから。

 だから、わたしは邪魔しない。

 作り物とかみんなへの差し入れとかそういうの手伝いたい。

 だめ・・・かな」

 

「・・・ええ、わかったわ。

 お願いして、いいかしら」

 

「ほんと! やったー」

 

「でもあなたはその前に受験頑張りなさい

 くれぐれも油断しないように」

 

「うん。

 ゆきのん、ほんとにありがと。

 あのね、大好きだよ」

 

「み、三ヶ木さん。

 あ、あの、そ、その・・・あ、あなたとここで過ごした時間。

 わたし嫌いではなかったわ。

 いえ、嫌いというより、す 」

 

「ゆきの~ん♡」

 

”ぎゅ~”

 

「ぐ、ぐるじい」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「三ヶ木、お前本当に当たり前のように荷台に乗ってくるよな」

 

「え、いいじゃん。

 ルンルン、らくちんらくちん♬

 あ、明日からセンター試験、いよいよだね」

 

「ん、ああ。

 まぁ俺の本番は来月。

 それよりお前はあと10日だろ、そっちのほうこそ大丈夫か?」

 

「あ、う、うん、多分」

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「それでさ、来週の火曜日から自由通学でしょう。

 比企谷君はどうするの?」

 

「塾と家の往復ってとこだな。

 お前は?」

 

「家で頑張るつもり。

 インフルエンザとか怖いから、あんまり人混みには行きたくないし。

 そっか~、塾と家じゃしばらく会えないね。

 ・・・・・・

 ひ、比企谷君は寂しくない?」

 

「お、俺は寂しくなんてないぞ厳密に。

 電話とかメールとかいつでも 」

 

”バシ!”

 

「い、いて。

 後頭部叩くな」

 

「ここは例え思ってなくても寂しいっていうの、もう!

 ・・・・・・・わたし、すごく寂しいのに」

 

「三ヶ木、お前合格祈願のお守り持っているよな」

 

「あ、う、うん。

 ほら」

 

”キキキー”

 

「どらかしてみろ」

 

”ひょい”

 

「え?」

 

「これは俺が預かってる。

 代わりにお前に俺のお守り預けておく。

 ま、まぁなんだ、お守り見る度にお互いの合格願わないか?

 嫌ならいいが」

 

「う、うん、預かる!

 へへ、うれしい。

 比企谷君のお守り、お守り♬」

 

「・・・ほら、行くぞ」

 

「うん」

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「ルンルン、ルンルン♬」

 

「・・・・・・

 ま、まぁ、なんだ。

 受験終わったら、どこか旅行に行かないか?

 よ、よかったらでいいけど」

 

「えっ、ほ、ほんと!」

 

”ぎゅ~”

 

「うん、行く!

 絶対行こ!」

 

「わ、わかったからそんなにくっつくんじゃない。

 は、離れろ!」

 

「いいじゃん、サービスサービス♡」

 

「よ、よくない。

 う、運転しにくいだろうが。

 離れろ」

 

「やだよ」

 

”ぎゅ、ぎゅー”

 

「・・・・・・」

 

「あっ!」

 

「ん、どうした?」

 

「旅行ってさ・・・・・・お、温泉だよね!

 どこ? 嬉野温泉とか?

 そ、それって、お、お泊りだよね」

 

「お、お泊り!」

 

”ガシャーン”

 

「「い、いたー」」

 

「ば、ばっか、な、なに言ってんだお前。

 日帰り、日帰りだ。

 ほら鋸山とかあんだろ。

 それになんなんだ嬉野温泉って。

 それ佐賀だろ、行けるわけないだろうが」

 

「ちっ!」

 

「いやお前、”ちっ”って。

 ・・・・・・ま、まぁ、お泊りなら行けるかもな」

 

「え?」

 

「い、いや何でもない。

 ほら、さっさと乗れ。

 学校遅れるぞ」

 

「う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

えっと~平塚先生、職員室にいるかなぁ。

国語、ちょっとわからないとこあんだよね。

 

”ガラガラ”

 

「あ、美佳先輩」

 

「か、会長、それにゆきのん。

 どうしたの二人そろって?」

 

「美佳先輩♡

 聞いてください。

 えっと~プロムなんですけど・・・なんと学校の内諾頂けたんですよ。

 これで大々的に広報することができます♬

 美佳先輩もプロム、楽しみにしてくださいね」

 

「え、あ、うん。

 受験終わったらお手伝いに行くね、差し入れ持って」

 

「ええ、待ってるわ」

 

「本当ですか!

 是非お願いしますね」

 

「うん。

 頑張ってね、ゆきのん、会長」

 

「はい。

 じゃ、生徒会のみんな待ってるので行きましょう。

 雪乃・・・・・・下先輩」

 

「ええ。

 三ヶ木さん、帰りにわたしのところ寄ってくれるかしら」

 

「ん?」

 

「国語と英語、あなたの弱点をまとめてみたの。

 よかったら勉強の参考にしてくれるかしら」

 

「ほ、ほんと!

 あ、ありがと」

 

「それじゃあね三ヶ木さん」

 

「うん、また後で」

 

「雪乃先輩か。

 確か会長、今そう呼ぼうとしていたよね。

 へへ、頑張ってるんだねゆきのん、会長。

 でもちょっと二人に嫉妬。

 わたしも受験頑張ろ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ぐひ、ぐふふふふ

駄目だって、そんなとこさわっちゃ~

比企谷君の馬鹿~

 

”ガタ!”

 

「み、美佳!

 あんたまだ寝てたの!

 今日受験の日でしょ。

 今何時だと思ってるの!」

 

「ふにゃ、ふぁぁああ~

 な、なんだ夢だったのか

 何時って・・・・・・・げ、げぇ!

 うわー!」

 

「ほらさっさと準備しなさい」

 

「う、うん」

 

     ・

 

「美佳、準備できた?

 忘れ物ない? 受験票は?」

 

「う、うん、大丈夫」

 

「ほら行くよ。

 送って行ってあげる」

 

「あ、朝ご飯は?」

 

「そんな時間ないでしょう。

 ほら、おにぎりつくったから」

 

「あ、ありがと」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブロロローン、ドドドド”

 

「いや~、やっぱり怖い!

 ほ、ほら隣走ってる車近い、近いし!」

 

「うっさい。

 ほら今のうちにおにぎり食べちゃいな」

 

「うううう、こわいよ~」

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、あ、比企谷君からメール。

なんだ、こんな時に。

 

”カシャカシャ”

 

『今日受験だよな。

 まさかお前のことだ寝坊とかしてないだろうけど・・・

 まぁ、落ち着いて頑張れ。

 健闘を祈る』

 

げ、な、何で知ってんの。

もしかして麻緒さんチクった?

 

”ちら”

 

「ん、なに?」

 

「あ、い、いや何でも。

 あははは、お、美味しいなぁ、このおにぎり」

 

”パク”

 

ってことないよね。

ふぅ。

あ、そうだ返信返信。

 

『寝坊なんてするわけないじゃん。

 今、東地大に向かってるよ。

 受験終わったらゆっくり会おうね。

 受験明けの旅行、とっても楽しみ。

 じゃ、頑張ってくるね』

 

ん~、よしこれでいいかなぁ。

あ、そ、そうだ。

・・・・・・えへ、えへへへへ

 

”カシャカシャ”

 

『旅行、お泊りだよね。

 ・・・・・・わたしの全てを、あ・げ・る♡』

 

きゃ~、馬鹿なこと書いちゃった。

それに旅行、お泊りって決まってないのに。

へへ、削除、削除っと。

 

”ガタン”

 

「ひゃ」

 

「あ、ごめんごめん。

 大丈夫だった美佳?

 ちょっと道路が悪いみたい」

 

「・・・・・・」

 

・・・・・・・・う、うそ。

あわわわわわわわ、そ、送信しちゃった。

だ、だって急にガタンって。

お、終わった、すべて終わった。

 

「ま、麻緒さん!」

 

「ん、なに?」

 

「・・・あ、い、いやいいです、何でもないです」

 

ど、ど、ど、どうしょう。

いゃ-!

 

     ・

     ・

     ・

 

う、うううう

テ、テスト、あんまり出来なかった。

だって、あのメールが、メールが・・・・・・

あのメールのことが頭の中にこびりついて。

うわ~ん、きっと比企谷君めっちゃひいてる。

どうしょう、で、電話しようかな。

で、でも、は、恥ずかしいし。

はぁ~

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「こんちは!」

 

「あ、ジミ子先輩!」

 

”パタパタパタ”

 

「こんちです、ジミ子先輩」

 

「舞ちゃん、もうその名前で呼ぶのやめて。

 ほら、あの会計の娘、変な顔してるし」

 

「気にしない気にしない。

 で、今日はどうしたんですか~」

 

「ん、あ、あのね、受験も終わったから、ちょっと差し入れでもって思ってね。

 はい、これどうぞ」

 

「あ、クッキーじゃないですか」

 

「うん、いっぱい作ってきたからみんなで食べて」

 

「ありがとうございます。

 みんなー、差し入れもらったよ」

 

「「ありがとうございま~す」」

 

”スタスタスタ”

 

「三ヶ木先輩、お久しぶりです

 差し入れありがとうございます」

 

「うん書記ちゃ、ち、違った、今は副会長ちゃんだった」

 

「はい、そうですよ」

 

「美味しいです美佳さん」

 

「ありがと小町ちゃん」

 

「あ、そうだ、今紅茶でも淹れるね」

 

「ジミ子先輩、わたしが淹れます」

 

「あ、わ、わたし久しぶりに三ヶ木先輩の紅茶飲みたいなぁ~」

 

「あ、小町も美佳さんの紅茶飲んでみたいです」

 

「・・・・・・い、いや、わたしが」

 

「気付け、蒔田」

 

「う、うっさい清川」

 

「あはは、じゃあ舞ちゃん、一緒に淹れよう」

 

「うー」

 

”スタスタスタ”

 

「ね、舞ちゃん、今何作ってるの?」

 

「あ、今度、プロムの動画撮ってホームページにアップするんですよ。

 ほらプロムってどんなのかイメージ沸かない人って結構いると思うからって。

 それで会場の飾りつけとか作ってるんです」

 

「そうなんだ」

 

「あ、あのジミ子先輩、先輩はやっぱりプロムは 」

 

「あ、あのね」

 

ほんとはやっぱプロムって抵抗あんだけどさ。

会長のプロムへの想い聞いちゃったからね。

はぁ~、気が重いけどしかたない。

会場の隅っこでおとなしくしていよっと。

 

「ほら、ゆきのんとか生徒会のみんな頑張ってるから、

 ちょ、ちょっとだけ参加してもいいかなぁって思うようになってね。

 そんで、なんか家にいても落ち着かないから、

 わたしもプロム手伝わせてもらうね」

 

「ジミ子先輩!

 大歓迎です、よろしくお願いしますね。

 先輩、楽しいプロムにしましょう」

 

「う、うん。

 あ、ほらお湯沸いたよ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「や、やだ、見たくない」

 

”ぐぃ”

 

「いたたたた、痛い。

 ま、麻緒さんそんなに耳引っ張らないで」

 

「え~い、往生際の悪い。

 ほらさっさと受験番号入力する」

 

「だ、だって、試験、あんまりできなかったんだもん」

 

あんなメール送っちゃったあとだから、全然試験に集中できなくて。

それにあれ以来、比企谷君から連絡ないし。

絶対ビッチって思われてる。

き、嫌われたかも。 

う~、でも恥ずかしいから、わたしから連絡できないし。

 

「今さらしょうがないでしょう。

 だめだったら諦めて、来年頑張ればいいじゃない」

 

「それって、ろ、浪人。

 ううう、浪人はヤダ」

 

「だから滑り止め受けときなさいって言ったのに」

 

「だって、東地大に行きたかったんだもん」

 

「はぁ~、ほら受験番号は何番?」

 

「・・・・・・」

 

「受験番号!」

 

「上から826386」

 

”ポカ”

 

「誰がスリーサイズ言えっていったの!」

 

「ち、違う、ぐ、偶然だし」

 

「まったく、えっと8、2、6、3、8、6っと」

 

”カチャカチャカチャ”

 

「あとは美佳の誕生日っと、0、3、2、0」

 

”カチャカチャカチャ”

 

「よしっと

 ・・・・・・・・・・・・美佳」

 

いや、見たくない、聞きたくない。

だ、だってぜったいに落ちてるもん。

とうちゃんになんて謝ろう。

あ、ゆきのんにも!

あんだけ一生懸命勉強教えてくれたのに。

 

”ぷにゅ~”

 

「ふぁい? 麻緒ひゃん、なんねぇほっぺにょ?」

 

”ぎゅ~”

 

「い゛ー、いっだぁー!」

 

「よし、夢じゃないね。

 おめでとう美佳、ほら合格だって」

 

「は、ほんとー!

 えっとどれどれ。

 『おめでとうございます』・・・・・・・おめでとうございますだ!

 麻緒さん、おめでとうございますだって、よ、よ、よがっだー」

 

「よかったね美佳」

 

「う、うん、ううう、よがった、よがったよー」

 

     ・

     ・

     ・

 

比企谷君、塾終わるのまだかなぁ

へへ、合格したの知らせたくて、つい塾まで来ちゃった。

・・・それにメールの件もあんから。

ちゃんと直接説明しないと。

早く終わらないかなぁ。

そろそろ時間だと思うけど。

 

”ガヤガヤ”

 

あ、終わったみたい。

え、いっぱい入口から出てきた。

えっと、どこだ?

目の腐ったの、腐ったのっと。

あ、出てきた!

へへ、相変わらず猫背なんだよなぁ~

 

”トボトボトボ"

 

「ぶつぶつぶつ・・・」

 

「ひ、ひきが 」

 

「ヒッキー」

 

”パシッ”

 

「姿勢悪いよ。

 ほら、しゃんとしないと駄目だぞ~

 なんちゃって」

 

「いってえ。

 ゆ、由比ヶ浜、いきなり背中を叩くな!

 憶えていた単語、全部忘れたじゃねえか。

 まったく」  

 

「え? あはは、ご、ごめん。

 ね、ヒッキー、あのね今日もサイゼでさ 」

 

「ああ、わかってる」

 

「えへへ、やった。

 あっ、美佳っち!

 やっはろー」

 

「あ、あの・・・やっはろー、結衣ちゃん、比企谷君」

 

「おう、どうした」

 

「あ、ごめん。

 あの、ちょ、ちょっと知らせたいことがあって来ちゃったんだけど。

 邪魔してごめん」

 

え、な、何で謝るの?

で、でもなんか邪魔しちゃいけないって思って。

なんかいい雰囲気だったし。

二人の距離なんか近くなってる気がする。

自由登校になってからもずっと塾で会ってるからかなぁ。

なんかやだな。

早く受験終わればいいのに。

 

「・・・あ、ヒッキー、あたしあそこの喫茶店に行ってるね。

 美佳っち、またね」

 

「あ、うん」

 

”スタスタスタ”

 

「で、どうだったんだ東地大。

 今日発表だったんだろ」

 

「あ、う、うん。

 あ、あのね・・・・・・・・・へへへ、見事合格だぜこの野郎!」

 

「お、おう。

 そっか、やったな、おめでとさん」

 

「ありがと。

 次は比企谷君の番だね」

 

「ああ、そうだな」

 

「・・・あとね、メ、メールの件だけど」

 

「・・・・・」

 

「・・・ごめん、変なの送った。

 あ、あの~忘れてくれるとありがたくて。

 冗談で打っててさ、それで消そうと思ったら

 ちょっと手元が狂って送信・・・しちゃった」

 

「お、おうそうなのか。

 い、いや、まぁなんだ・・・・・・温泉もいいかもな。

 と、泊りがけで」

 

「えっ!

 あ、う、うん、温泉いいよね。

 ・・・泊りがけで」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・あ、結衣ちゃん待ってるんだよね」

 

「ん、ああ、今からサイゼで勉強会なんだ」

 

「そっか。

 ・・・うん、頑張ってね」

 

「あれだったら、お前も来ないか?」

 

「あ、わたしは・・・いいよ。

 えっとね、今から学校行ってくる。

 平塚先生とゆきのんに合格したの報告してくるから」

 

「そっか」

 

「うん、じゃまたね」

 

「おう、またな」

 

”スタスタスタ”

 

比企谷君行っちゃった。

そ、そっか、今から結衣ちゃんとサイゼっか。

で、でも勉強、勉強しに行くんだから。

大丈夫、大丈夫だ・・・・・・きっと。

そ、それに、受験終わったら二人で旅行に行くんだし。

・・・・・・お、お泊りで。

そしたら、わたし比企谷君と・・・・・・

は、な、なに考えてんだわたし。

さ、さぁ、が、学校行こ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

”ガラガラ”

 

「ゆきのん!」

 

「三ヶ木さん、ドアを開ける時は 」

 

”だき!”

 

「え? み、三ヶ木さん」

 

「ゆきのん、ゆきのん、ゆきのん。

 受かった、受験受かったよー」

 

「そう、よかったわね三ヶ木さん」

 

「うんうんうん」

 

”なでなで”

 

「よく頑張ったわ三ヶ木さん。

 おめでとう」

 

「ありがと、ゆきのん。

 ゆきのんのおかげだよ、ほんとにほんとにありがと」

 

「違うわ・・・自分の力よ、あなたは自分の力で勝ち取ったの」

 

「・・・ゆきのん。

 あのね、プロムこれからいっぱいお手伝いするね。

 作り物とか任せて、あと差し入れも」

 

「ええ、お願いするわ」

 

「うん。

 ・・・・・・あのね、今度はゆきのんの番だね」

 

「え?

 ええ、そう、わたしの番」

 

「頑張ってね、ゆきのん」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「はい、OKで~す。

 今からチェックしますので、少し休憩しててください。

 清川、わたしにも画像見せて」

 

ふぇ~、やっぱりゆきのんメッチャかっこよかったー

ダンス踊ってるのすごく様になってて、つい見惚れちゃった。

文化祭のお姫様もよかったけど、今日の男装してるゆきのんもすごくす・て・き。

さっきさ、会長と二人で腕組んで出てきた時なんか、ほんと息をのんじゃった。

う~、どうしてくれんの、もう惚れてまうやろ!

で、でもあの時の会長の顔・・・ぷっ! ぷっぷっぷっ

な、なんかすごいどや顔だったし。

はぁ~すごく面白かった。

 

”キョロキョロ”

 

でもさ、ほんと会場のセット、動画の撮影までに間に合ってよかったよ。

昨日までさ、生徒会のみんな毎日遅くまで頑張ってたもんね。

ほんとよかった。

あの清川君まで文句言いながら頑張ってたもんね。

って、そういえば清川君どこだっけ?

たしか動画のチェックしてるはず、んっと~、あっ、いたいた!

 

”テッテッテッ”

 

「撮影、ご苦労様清川君」

 

「ん? あ、お前か」

 

「会長でなくて残念でした」

 

「うっさい」

 

「どう、うまく撮れてそう?」

 

「まあな」

 

「どれどれ?」

 

へ~うまく撮れてる。

やっぱ被写体がいいからね、ほんと会長可愛い。

あの橙色のドレスよく似合ってる。

でも・・・

 

「ね、ちょっと会長のアップ多すぎない?」

 

「そ、そんなことない、気のせいだ!」

 

「ま、いいけどね」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「ん?

 ね、ね、あの柄沢君の周りにいる女子ってあの時の」

 

「ああ。

 何でもエキストラの女子が足りないって、柄沢と一色が連れてきた」

 

「清川君、選挙の時のことって会長には言ってないの?」

 

「・・・ま、まぁ、別に一色に嫌な思いさせなくてもいいだろう。

 世の中、知らなくて済むなら、それでいいことなんていっぱいあるからな」

 

「ふ~ん。

 ね、清川君って結構優しいんだね」

 

「べ、別にそんなんじゃない。

 め、面倒くさいだけだ」

 

「ふ~ん、面倒くさいねぇ~

 そっか。

 よし、そんな面倒くさがり屋の優しい子に、お姉さんがご褒美をあげよう。

 ね、なに飲む? 奢ってあげる」

 

「それじゃ・・・マッ缶」

 

「へ?」

 

「い、いやマッ缶を」

 

「へぇ~、清川君もマッ缶飲むんだ。

 了解、ちょっと待っててね」

 

「な、なぁ」

 

「ん?」

 

「あ、あの、合格おめでとう・・・・・・ございます」

 

”ぺこ”

 

「げ、今さら!

 へへ、でも、ありがとさん」

 

”スタスタスタ”

 

「きゃ~、大胆!」

 

「え~、それ胸見えちゃうよ」

 

「インスタに乗せるんだから、ちゃんとキレイにとってね」

 

「ねぇねぇ、だったら二人もっとくっついたほうが良くない?」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「あ、あの娘達、大丈夫かなぁ。

 ちっと心配」

 

”スタスタスタ”

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ヒュ~”

 

ひゃ~、さ、寒い、めっちゃ寒い。

今年の冬の寒さは異常だよ。

でもこの寒いのに頑張ってるみんなに差し入れ。

へへ、今日はみんなにチョコ作ってきたんだ。

だってバレンタインだもん。

あ、ち、違うから。

比企谷君のついでじゃないから。

ちゃんとみんなのこと思って作ったからね。

・・・それと。

比企谷君にはこの後に家へ持っていくんだ。

今日は受験終わったら、家でため込んでた録画観るって言ってたから。

でも受験どうだったかなぁ~

合格、できるといいなぁ。

比企谷君、ちゃんと毎日お守りにお願いしてたからね。

 

"ドタドタドタ"

 

「ジ、ジミ子せんぱ~い」

 

「え? あ、舞ちゃん。

 だめだよ、生徒会役員が自ら校則やぶっちゃ。

 廊下は走っちゃダメ」

 

「大変、大変なんです」

 

「えっ、ど、どうしたの?」

 

「い、いま応接室に 」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

げ、あの応接室からでてきたのって、確かゆきのんのお母さん。

 

「舞ちゃん、怒鳴り込んできたってあの人?」

 

「あの~、恐らくそうかと。

 一色からは、結構お偉いさんが怒鳴り込んできたって聞いただけだから。

 その~、誰かまでは。

 あ、応接室入ります?」

 

「ん、ちょっと待って。

 様子を確認してから」

 

”ピタ”

 

「ジミ子先輩、盗み聞き?」

 

「シー」

 

ん~どれどれ。

中の様子はどうなってんだ?

 

「あの・・・・・・、保護者会の一人って言ってましたけど、会長かなんかですか?」

 

え、あ、あれ?

比企谷君の声

な、なんで?

確か受験終わって、いま頃家で録画観てるはずじゃ?

 

「何をやってんだね三ヶ木、蒔田」

 

「え、あっ」

 

「まったく、ほらそんなところで盗み聞きしていないで、君たちも中に入りたまえ」

 

「あ、は、はい」

 

”ガチャ”

 

「いや、参ったな」

 

「し、失礼します」

 

「します」

 

「あ、三ヶ木ちゃん、久しぶり。

 どう、受験落ちた?」

 

い、いきなり!

陽乃さんあんたなんてことを。

しかも満面の笑みで。

 

「・・・・・・あ、あの受かりました」

 

「ち、それは残念」

 

げ、マ、マジで残念がっている。

 

「ね、ねぇさん」

 

「え~、だって駄目だったら、一応もう一回うちに来ないって誘ってみようと

 思ってたのに。

 本当に残念」

 

「・・・・・・あ、ありがとございます」

 

はぁ~、一応ありがたいけど。

えっとそんなことより、陽乃さんとゆきのん、それと会長、柄沢君。

あ、藤沢ちゃんはいないんだ。

生徒会室に残っているんかな。

あとは比企谷君と・・・結衣ちゃんもいる。

もしかして受験終わってから、二人一緒に来たのかなぁ。

なんかなんかずっと一緒って、ちょっとムー!

 

「・・・・・・学校側の対応としては、どうなりそうなんですか?」

 

そ、そうだ、今はプロム。

どうなったんだろ?

めっちゃまずいことになってるのかなぁ。

ゆきのんのお母さん、なに言いに来たんだろう?

えっと、

 

「えっと柄沢君。

 ね、ど、どうしたの?

 なにがあったの?」

 

「あ、えっとですね 」

 

     ・

 

そっか、やっぱりあの娘達か。

確かにインスタが何とか言ってたもんな。

くそ~、やっぱあんとき釘刺しておけばよかった。

でもこうなったら、ゆきのんが言う通りなんとか保護者側の理解を得られるように

しないとプロムできない。

それと本番でも同じことが起きないような手を考えないと。

 

「待って。

 そこから先はわたし達の仕事よ。

 ・・・・・・わたしがやるべきことなの」

 

え?

あ、あれ? 柄沢くんの話聞いているうちになんか雰囲気が。

えっと~?

 

     ・

 

・・・・・・依存かぁ。

そっか、ゆきのんそんな風に思ってたんだ。

全然知らなかった。

それにしても、比企谷君も結衣ちゃんもほんとゆきのんのこと大事に

思ってるんだね。

やっぱりちょっとうらやましいや。

でもさ、今回ばかりは陽乃さんの言う通りだと思うよ。

あの時、奉仕部の部室でさ、ゆきのんは言ってたじゃん。

わたしには依存しているかどうかなんてわからないけど。

でもあの時さ、確かにゆきのんは自分の力でやり遂げたいって言ってた。

だから、今回だけは手を出しちゃいけないと思う。

それではゆきのんの想いを潰しちゃうことになる。

大事だと思うんなら、ちゃんと見届けてあげなきゃいけないんだ。

それはとても辛いことだけど、それがゆきのんの願いなんだもん。

・・・・・・多分、比企谷君はわかってる。

だってわたしごときでもわかることだもん。

きっと頭ではわかっているんだよね。

でも、それでも比企谷君は放っておかない。

今は”わかった”って言ったけど、比企谷君はきっと放っておかない。

だって、比企谷君にとって・・・・・・ゆきのんは・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ!

 

う~、比企谷君と話しょうと思ったのに。

でも陽乃さんにつかまってたけど大丈夫かなぁ。

なかなか二人で話できない。

ちゃんとチョコ渡せるかなぁ。

ん? 生徒会室なんかすごく静か?

みんないるはずなんだけど。

 

”ガラガラ”

 

「失礼しま~す・・・・へ?」

 

な、なにこの雰囲気。

生徒会のみんな下向いて黙りこんで座っててすごく暗い。

 

「あ、三ヶ木先輩。

 すみません、いま蒔田さんから応接室の話聞いてて」

 

「あ、うん。

 ね、藤沢ちゃん、会長達は?」

 

「あ、隣の教室で今後の対策相談してます」

 

「そ、そうなんだ」

 

そっか、舞ちゃん達から話聞いたからそれでこんな雰囲気に。

やばいな、ほら、あの娘、えっと確か会計の・・・・・鈴ちゃん。

鈴ちゃん泣いてるし。

 

「おい、柄沢。

 その保護者の何とかって、確かお前とこのかあちゃん保護者会の会長だよな」

 

「ああ」

 

「ちょっと清川」

 

「お前が何とかしろよ。

 かあちゃんにやめさせろよ」

 

「やめなって清川」

 

「なんだよ蒔田。

 みんなそう思ってんだろ

 こいつのかあちゃんが 」

 

「清川!」

 

「いや、いいんだ蒔田さん、清川の言う通りだ。

 俺が母さんに話してみるよ。

 でも、多分・・・」

 

「清川!」

 

「な、なんだよ」

 

ふぇ~、まずいまずい。

なんかみんなの雰囲気がすごく悪い。

えっと、ど、どうしよう。

でもこんな時って。

あ、そ、そうだ!

 

”ガサガサ”

 

「はい、藤沢ちゃん」

 

「え、これ」

 

「今日はバレンタインじゃん。

 だからチョコあげる」

 

「あ、は、はい、ありがとうございます」

 

「はい、えっと柄沢君」

 

「あ、すみません」

 

「はい、舞ちゃんも」

 

「あ、ありがとうです」

 

「はい鈴ちゃん。

 ほらもう泣かない」

 

「う、うう、あ、ありがとう、ご、ございます」

 

「はい、小町ちゃん」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ほら清川君。

 へへ、人生初めてのチョコでしょ」

 

「ば、馬鹿にすんな。

 2、2個めだ」

 

「え、うそ!」

 

「うそじゃない、中学の時に1回だけもらったんだ」

 

「へぇ~、やるじゃん」

 

「あ、あの~ジミ子先輩、こんな時にチョコなんて」

 

「こんな時だからだよ舞ちゃん」

 

「え?」

 

「こんな時だから、わたし達は今まで通りがいいんじゃないかなぁ。

 だってさ、会長とゆきの・・・雪ノ下さんはまだ諦めていないんでしょ?

 だったらさ、保護者会への対応は二人に任せて、わたし達はわたし達のできる

 ことをするだけ。

 それがさ、まだ諦めずに頑張っている二人に対するわたし達からのエールに

 なるんじゃない?

 わたしはそう思うんだけど、違うかなぁ藤沢ちゃん?

 それとも藤沢ちゃんはもう諦めた?」

 

「・・・ふぅ~

 三ヶ木先輩、わたしもまだ諦めてませんよ。

 だっていろはちゃんが頑張ってるんだもの。

 わたしも諦めない。

 みんな、みんなはどう?

 わたしは、わたし達のできること頑張りたい」

 

「あ、ああ、そうだな藤沢さん」

 

「仕方ないな。

 ここで諦めたって言ったら、後から一色に何言われるかわからない」

 

「やりましょう、小町頑張ります」

 

「わ、わ、わたしも、や、やります」

 

「柄沢君、蒔田さん、比企谷さん、煤ケ谷さん」

 

”ガタ”

 

「清川君?」

 

「藤沢、時間ねえんだろ。

 俺、体育館倉庫の鍵貰ってくる」

 

「え、あ、はいお願いします。

 それじゃ、みんな体育館行きましょう」

 

「「はい」」

 

     ・

     ・

     ・

 

へへ、みんなの手伝いしてたら、帰るのめっちゃ遅くなっちゃった。

よかった、みんな頑張ってくれて。

生徒会のほうはまぁ大丈夫かな。

あとは保護者会か。

ゆきのん達大丈夫かなぁ。

でも、わたし達はわたし達のできること頑張るだけだ。

あ、それより、えっと比企谷君はもう家に帰ってるよね。

へへ、チョコ渡さないと。

あ、でも、もうこんな時間だから先に電話しておかないと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ピンポ~ン”

 

「お、おう、遅かったな三ヶ木」

 

”ガチャ”

 

「え、あ、あれ?」

 

「や、やっはろーヒッキー」

 

「お、おう。

 ど、どうしたんだこんな時間に」

 

「美佳っちじゃなくてごめん」

 

「あ、い、いや、さっき三ヶ木から電話あったんでな。

 で、どうしたんだ、何の用だ?」

 

「ヒッキー、はいこれ」

 

「ん、これって」

 

「うん、チョコ。

 へへ、あのね結構うまく作れたんだ。

 本当はね、受験の帰りに渡そうと思ってたんだけど、

 いろはちゃんから電話かかってきちゃったし、そのあと大変だったし」

 

「・・・そ、そだな」

 

「それに・・・やっぱり今日渡したかったから」

 

「あ、す、すまん。

 なんか悪いな、サンキュ」

 

「・・・・・・ね、ヒッキー。

 去年のバレンタインのこと憶えてる?」

 

「え、あ、ああ」

 

「じゃ、いい。

 それじゃ帰るね、バイバイ」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・由比ヶ浜。

 そうだな、あれからもう1年経ったんだな。

 返事、ちゃんとしないと」

 

「お兄ちゃん、ただいまー

 どうしたの玄関先で。

 えっと~今の結衣さん?」

 

「おう小町お帰り。

 すまん、ちょっと出てくるわ」

 

「え?」

 

「由比ヶ浜!」

 

”ダー”

 

     ・

     ・

     ・

 

「ピンポ~ン」

 

「は~い」

 

”ガチャ”

 

「あ、美佳さん。

 先ほどはチョコありがとうございます」

 

”ペコ”

 

「あ、いえ、どういたしまして。

 それより夜分ごめんね、比企谷君いるかなぁ?」

 

「あ、え、えっと~兄は・・・・・・」

 

「ん?」

 

「あの、ちょ、ちょっと今出かけてて」

 

「え? あ、そうなんだ」

 

あれ、おかしいな?

ちゃんと待っててくれるって言ったはずなのに。

ん~、何のようなんだろう?

 

「あの~美佳さん、よろしかったら中に入って待ってて下さい。

 兄ももうすぐ帰ってくると思いますので。

 何か温かいもの淹れます」

 

「あ、うん。

 でもどうしょう、もうこんな時間だし」

 

「それにもうすぐ父と母も帰ってきますので、是非とも中に。

 さあ、是非是非」

 

「い゛っ! きょ、今日は帰るね、もう遅いから。

 またお母様に怒られるのやだし、怖いもん。

 ごめん小町ちゃん、これ比企谷君に渡してもらってもいい?」

 

「え、お、おお!

 これはガトーショコラですか!

 フルーツいっぱいのってて、小町達にくれたしょぼいのとは天と地の差が」

 

「え、あ、あははは。

 しょぼくてごめん。」

 

「いえいえ、小町的にはそのほうがチョ~ポイント高いですよ。

 しかしそれにしても、あの兄に対してチョコを持ってきてくれる人がお二人も」

 

「え、二人?」

 

「あ、い、いえ、あの・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・え、えっと~、あの~、み、美佳さん」

 

「あ、そうだった。

 確か結衣ちゃんもチョコ渡すって言ってた。

 そっか結衣ちゃん来たんだ。

 いや~先越されたなぁ~」

 

「え、あ、知ってたんですか美佳さん。

 ハラハラしたじゃないですか、もう人が悪いです」

 

やっぱりか。

ごめんね小町ちゃん、かまかけた。

結衣ちゃんとそんな話してないんだ。

ゆきのんや会長は、まだ学校にいたから多分そうだと思った。

・・・そっか結衣ちゃんもチョコ渡しに来たんだ。

だとしたら、いま比企谷君がいないのって・・・・・・

 

「あ、あの~、美佳さん?」

 

「あ、うううん、何でもない。

 あのさ、じゃあごめんねお願い。」

 

「あ、はい。

 確かに兄に渡しますね」

 

「それじゃ、おやすみなさい」

 

”ペコ”

 

「あ、はい、おやすみなさいです」

 

「・・・・・・小町ちゃん、ごめんね」

 

「え?

 あ、いえいえ、チョコを渡すのぐらいお安い御用ですよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキー、ここでいいよ。

 駅まで送ってくれてありがとう」

 

「ああ」

 

「じゃ、またね

 お互い合格してるといいね」

 

「・・・・・な、なぁ由比ヶ浜。

 お、俺、俺は、 」

 

「ヒッキー!」

 

「ん?

 

「あのねヒッキー、あたしがさ、もし早応大合格したらさ・・・・・・

 デートしよう♡」

 

「は、はぁ?」

 

「約束。

 ちゃんと約束したじゃん。

 あたしが早応大合格したら、お願い絶対に一つ聞いてもらうって」

 

「あ、そ、そうだったかな」

 

「ひど。

 ちゃんと約束したんだからね!」

 

「なぁ、デ、デートって、二人でか?」

 

「当たり前だし」

 

「い、いや、しかし去年は三人で」

 

「あれは特別。

 ヒッキー、あたしちゃんとデートしたいんだ。

 ・・・一度でいいから」

 

「由比ヶ浜」

 

「駄目・・・かな」

 

「・・・・・・わかった」

 

「ありがとう、ヒッキー。

 それじゃまた連絡するね。

 バイバイ」

 

「ああ、またな」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ふぁ~、いいお風呂だった。

やっぱ嬉野温泉サイコー、だってお肌つやつや。

いや~若返った、十歳は若返ったよ~

って、わたしゃ小学生か。

へへ、でもさ、入浴剤でこの効果だから本物の温泉に入れたら、

もっとお肌がつやつやに。

あ~ん、嬉野温泉行きたいなぁ~

 

”ガラ”

 

「とうちゃん、お風呂あがったよ~」

 

「おお、今入る」

 

あ~でもほんとなんかすごっくリラックスできた。

うん、気持ちが落ち着いたよ。

わたしが出来ることってさ、比企谷君を信じることしかない。

大丈夫、きっと大丈夫。

さて、それより髪乾かして寝ようっと。

う~ん、明日は何の差し入れ持っていこうかなぁ~

 

”ブ~、ブ~”

 

へ、電話? こんな時間に誰だ?

 

”カシャ”

 

あっ、比企谷君。

 

「あ、あの、もしもし?」

 

「あ、すまない。

 もしかしてもう寝てたか?」

 

「うううん。

 今ちょうどお風呂あがったとこだよ。

 あのさ~、今わたしどんな格好してると思う?」

 

「はぁ? お、お前何を」

 

「あのね、スッポンポンだよスッポンポン。

 見たい?

 写メでも送ろうか?」

 

「ば、ばっか!

 服着ろ、なんか着ろ、早く着ろ!

 か、風邪ひくだろうが!」

 

「へへへ、ごめんごめん、嘘だよ。

 今から髪乾かして寝るとこ。

 で、どうしたの?」

 

「・・・・・・

 あ、あのな、チョコありがとうな。

 それと、すまなかった。

 わざわざ持って来てくれたのに家にいなくて。

 ちょっと急用ができてな」

 

「・・・急用っか」

 

「え?」

 

「あ、うううん何でもない。

 大丈夫だよ。

 わたしの方こそ遅い時間に家に行ってごめんね」

 

「生徒会、行ってたのか?」

 

「うん。

 みんな頑張ってるから。

 だから少しお手伝いと差し入れをね。

 ・・・わたしもゆきのんのこと大事に思っている、友達だもん。

 だから少しでもわたしのできることで応援したいんだ」

 

「すまない、助かる」

 

「・・・・・」

 

「どうした?」

 

「うううん、何でもない。

 わたしは自分のやりたいことをやっているだけだから」

 

「そっか。

 ・・・な、なぁ」

 

「うん?」

 

「早応大の合格発表、よかったら一緒に確認してくれないか?」

 

「え?」

 

「お前に一緒に確認してもらいたいんだ」

 

「わたしで・・・いいの?

 う、うん、わかった。

 じゃ、じゃあさ、発表の日に比企谷君の家に行くね」

 

「お、おう、待ってる」

 

「うん♡」

 

へへ、やっぱり信じてよかった。

どんな服着ていこうかなぁ。

やっぱ比企谷君の好きなミニスカートにしょうかなぁ~

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ピタっと。

よしこれでOKだ。

 

「舞ちゃん、こっちの飾り付け終わったよ。

 そっちはどう?」

 

「あ、こっちも終わりました」

 

「了解。

 お~い男子、看板出来上がったから運んでくれる?」

 

「あ、はい。

 おい清川行くぞ」

 

「うっせ。

 柄沢、お前が指図するな」

 

「はいはい、ケンカしない。

 じゃあ、体育館倉庫までお願いね」

 

「はい。

 清川そっちいいか?

 せ~の」

 

「だから指図すんなって。

 よいしょっと」

 

「いいか? いくぞ」

 

「だからお前。

 い、いや、ちょっと待て。

 歩くの早いって、お、おい!

 ちょ、ちょっと待って~」

 

うん、あの様子なら大丈夫だね。

清川君も柄沢君もほんとはいい子だからね。

ひゃ~思いっ切りお姉さん目線。

さてっと。

 

「舞ちゃん、ちょっと休憩しょっか」

 

「は~い」

 

うんしょっと。

うん、プロムの準備も着々と進んでる。

あとはゆきのんと会長次第だなぁ。

も、もしさ、プロムが駄目になっても、わたしはちゃんと最後まで

見届けたい。

それがゆきのんの願いだから。

それにさ、これまで取り組んできたこと決して無駄だとは思わない。

だって何かをやろうとしたんだもん。

変わろうとしたんだもん。

これで終わりじゃない。

まだこれからもきっとチャンスはいっぱいある。

大事なのはやろうって、変わろうって思う気持ちを持ち続けることだと思う。

だから、わたしはちゃんと最後まで見届けるね。

でも・・・・・・成功してほしいなぁ~プロム。

 

「はぁ~」

 

「ん、どうしたんですか?」

 

「え、ああ。

 え、えっと~、あ、ほんともう少しで卒業なんだなぁ~って思って」

 

「そうですね、あと一ヵ月もなくて」

 

「この体育館でもさ、ほんといろんなことがあったね」

 

「うううううう」

 

「え、どうしたの舞ちゃん?」

 

「だ、だって、この体育館ではあんまりいい思い出がなくて。

 全部、ジミ子先輩が悪いんですからね全部!」

 

「え~、いや、確かに生徒会選挙の件は反論できないけど、

 でも文化祭のことは自爆ってことで」

 

「あれもジミ子先輩が悪いんです」

 

「・・・・・・

 ね、それより稲村君一人暮らしするって、もう住むとことか決まったの?」

 

「それが決まってるみたいなんですけど、教えてくれないんですよ。

 いろいろ手を尽くしてるんですけど。

 そうだ! ジミ子先輩、聞いてみてくれます?

 ジミ子先輩になら話すかも」

 

”ジ―”

 

「ほんとに聞いていいの?」

 

「あ、やっぱダメ!

 だって焼きぼっくりに火がついたら嫌だし。

 今の話は無し、自分で聞き出して見せます。

 絶対聞きだしてやるんだから」

 

「へへ、舞ちゃん頑張れ。

 ・・・でもさ舞ちゃん、聞きだしてどうするの?」

 

「決まってるじゃないですか。

 押しかけるんです」

 

「舞ちゃん積極的」

 

「なに言ってるんですか。

 本当に好きな人にならこんなの当たり前ですよ。

 だってチャンスじゃないですか。

 それよりジミ子先輩のほうこそ、備品先輩とどこまでいったんですか?

 もうがっちりやっちゃいました?」

 

「は、はぁ!

 ば、ばっか、なんてことを。

 ・・・・・・・・ま、まだだけど」

 

「えー!

 もうあの体育祭からどれだけ経ってると思うんですか。

 も、もしかしてキスも」

 

「・・・まだ」

 

「なっ!

 全く何やってんですか!」

 

「いやなにをって。

 だって、いろいろあって。

 それに比企谷君、理性の化物だもん」

 

「はぁ~

 ジミ子先輩、いえ、三ヶ木先輩。

 そんなんじゃ、比企谷先輩、誰かに取られちゃいますよ。

 あの人のこと好きな人、他にもいるんですから。

 それでもいいんですか!」

 

「い、いや」

 

「いいですか、受け身ばっかりじゃ駄目ですよ。

 いざっていうときは、女子のほうから積極的に行かないと。

 なんなら押し倒すぐらい。

 わかりました?

 返事は?」

 

「は、はい。」

 

「ぶっちゃけ、やっちゃえば女子の勝ちですから。

 なんかあった時は、わたし初めてだったのにって泣けば男子は逆らえませんから」

 

「はい・・・・・・お、おい!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ほらほら、男らしく受験番号入力する。

 結果がわからないと、先に進めないでしょ。

 次に進むために、ちゃんと結果確認しよ」

 

「いや、お前、さっきから横でなにブツブツ言ってんの。

 今ちゃんと入力してんだろ」

 

「あ、い、いや~、へへへ」

 

「まったく、ほらいいか?」

 

「う、うん」

 

「じゃ、誕生日は0・8・0・8っと」

 

”カチャ、カチャ”

 

「・・・・・・ふぅ~。

 ん、お前何目瞑ってんだ」

 

「だ、だって怖くて」

 

「ほら見てみろ」

 

「え?

 あ、あ゛ー

 ご、合格、合格だ!

 比企谷君合格だよ、おめでと、すごい」

 

”だき”

 

「お、おわ!

 お前急に抱き着くな」

 

”どさ”

 

「いたたた」

 

「ご、ごめん」

 

「お、おう」

 

ど、どうしょう。

思わず比企谷君に抱きついたら、なんか覆い被さちゃって。

こ、これってわたしが押し倒したみたい。

いや事実、押し倒しちゃったんだけど。

 

『三ヶ木先輩、そんなんじゃ比企谷先輩、誰かに取られちゃいますよ』

 

や、やだ。

そんなのやだ。

 

『いいですか受け身ばっかりじゃ駄目ですよ。

 いざっていうときは、女子のほうから積極的に行かないと』

 

う、うん。

今日、もしかしたらって思ってたから、ちゃんと準備してきた。

下着も比企谷君が好きなあの赤いスケスケのパンツ履いてきたし。

だ、だから・・・

 

「な、なぁ三ヶ木」

 

「え、あ、は、はい」

 

「あのな・・・・・・ちょっと重 」

 

”ビシ!”

 

「ぐはぁ、いてぇ」

 

「シャラップ!

 いいか、それ以上言ってみろ、絶対殺す」

 

「は、はい」

 

くそ、最近気にしてんだって言ってんだろ!

い、一応、50Kg台維持してんだから。

ギ、ギリだけど。

は、そ、そんなことより。

 

「あ、あのさ、比企谷君。

 ・・・合格おめでと」

 

「あ、ああ、ありがとさん

 でもいつまで覆い被さって 」

 

「あのね、あの時の返事まだちゃんとしてなかったね」

 

”ピタ”

 

「お、おい三ヶ木、そ、そんなにくっつくと、あの、それに 」

 

”ドクドクドク”

 

比企谷君の胸から心臓の音が聞こえてくる。

すごく早い。

うれしいなぁ、ちゃんとわたしなんかでドキドキしてくれるんだ。

このままずっと胸に顔を埋めていたい。

・・・ずっとこうやって抱き合っていたい。

で、でも、その前にちゃんと返事しないと。

こんなわたしでもよかったら、よろしくお願いしますって。

そして・・・・・・その後・・・比企谷君が望むなら、わたし・・・

 

「比企谷君、わたしも比企谷君とつき 」

 

”ブ~、ブ~”

 

「あっ」

 

「え?」

 

”ブ~、ブ~”

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

あ、結衣ちゃんからか。

比企谷君、すごく気にしてる。

目、わたしの方じゃない、ずっとスマホの方ばっかり見てる。

ふぅ~。

 

「うんしょっと。

 いいよ、電話」

 

「あ、す、すまない」

 

”カシャカシャ”

 

「もしもし、どうした?」

 

「あ、ヒッキー、あのね」

 

「なんだ、早応大駄目だったのか?

 まぁ、なんだ元々ダメもとだったんだ、受かればラッキーって感じで。

 だから、そうガッカリ 」

 

「違うし!

 ちゃんと受かったし。

 そんなことより、あのね、なんかプロム、やばいみたいなの。

 学校側がプロムを中止にするって判断したって」

 

「はぁ?

 ど、どういうことだ」

 

「あたしもラインで見ただけだからよくわからないんだけど。

 あ、ゆきのんに聞いてみる?」

 

「い、いやいい。

 こういうのは上と話したほうが早いしな。

 ちょっと平塚先生に電話するわ」

 

「う、うん。

 なにかわかったら、教えて」

 

「ああ」

 

”カシャカシャ”

 

「比企谷君?」

 

「あ、すまん。

 なんかプロムがやばいらしいんだ。

 ちょっと待ってくれ」

 

「う、うん」

 

「おう、比企谷か」

 

比企谷君、真剣だね。

ちょっと待ってくれっか。

はぁ~、ちゃんと返事しようと思たったのに。

そっか、そだよね。

・・・ゆきのん・・・・・・大事だよね。

比企谷君、さっきからほんと真剣に電話してる。

こっちからは背中しか見えないけど、漏れてくる言葉一つ一つでよくわかる。

そんなにプロム守りたいんだ。

・・・・・・違う・・・守りたいものってきっと違うんだよね。

それはプロムじゃなくて・・・

 

”カシャ”

 

「すまない、三ヶ木。

 あ、あのな 」

 

「・・・・・・」

 

「あ、あの、あのな」

 

いいよ、言わなくてもわかるよ。

・・・・・・比企谷君、行っちゃうんだ。

わたしの返事なんかよりもっと大事なもの・・・なんだもんね。

・・・そっか。

 

”スク”

 

「み、三ヶ木」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おい、どこに 」

 

”ガチャ”

 

「今日、帰る」

 

「み、三ヶ木待ってくれ。

 あ、あのな 」

 

「来ないで!

 ・・・・・・いいから来ないで。

 大丈夫だよ、うん、大丈夫、大丈夫、わたしは大丈夫。

 わ、わかっているから。

 でもさ、今はダメ。

 きっと我慢できなくて嫌なこと言っちゃう。

 だから、ごめん。

 今日は帰るね。

 あ、送らなくてもここでいいから」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・・すまん」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ブー、ブー、ブー、ブー”

 

え、あ、目覚まし。

もう朝になっちゃったんだ。

はぁ~、わたしってほんと駄目だ。

何でこんなことで朝まで落ち込まないといけないんだ。

馬鹿なことばっかり考えて。

そんなわかってたことじゃん。

それにさ、もしあそこでわたしのこと気にして何もしない彼だったら、

きっとわたしは好きになっていなかったと思う。

ああいう彼だからわたしは好きになった。

はぁー、このばかもの。

 

”ゴツン”

 

う~、いてててて。

よし! 電話して謝ろう。

昨日嫌な思いさせちゃってごめんって。

そんでプロムどうだったか聞いて。

えっとスマホ、スマホっと。

 

”ブ~、ブ~”

 

えっ、あ、電話。

だ、誰からだ?

あ! ひ、比企谷君。

へへ、なんというタイミング。

やっぱりわたし達って合うんだ。

 

「もしもし、三ヶ木だよ♡」

 

「お、おう。

 あ、あのな、今から時間ないか?

 ちょっと話があるんだ。

 出てこれないか?」

 

「うんいいよ。

 どこ、どこに行けばいいの?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テクテクテク”

 

へへ、今日こそちゃんと返事しようっと。

あ、でもその前にきっとプロムの相談だよね。

かなり深刻なのかなぁ。

継続協議って言ってたのに。

昨日電話での比企谷君の言葉聞いてるとなんか中止とか言ってたけど。

あ、ここだここ、駅前のサイゼ。

ほんとサイゼ好きだよね。

まぁ、わたしも好きだけど。

えっと、どこにいるのかなぁ。

あ、いた!

 

「美佳っち! やっはろー」

 

え? あ、あれ結衣ちゃん。

い、いや、人の多いところでその挨拶やめて。

ほらあのお客さん変な顔して見てる。

は、そ、そんなことよりなんで結衣ちゃんが?

あ、戸塚君、それに沙希ちゃんもいる。

・・・・・義輝君なにしてんだ? 何をぶつぶつと?

 

「あ、美佳っち、こっちこっち」

 

「三ヶ木こっちだ」

 

「あ、う、うん」

 

「まずは、いきなり呼び出してすまん。

 来てくれてありがとう、感謝」

 

     ・

     ・

     ・

 

結衣ちゃん、さっきから比企谷君にくっつきすぎだし。

それにあっちの席でずっと二人だけで何か話してる。

・・・はぁ~、二人だけじゃなかったんだ。

わたしだけに相談してほしかったなぁ~

わたしに最初に。

はぁ~、なんかなんか・・・・・・

は、駄目駄目、こんなこと思ってたらまた前の時みたいになっちゃう。

やめやめ。

んで、えっと~アンチプロムとかゆきのん達と対立とかいってたね。

~あ、アンチプロムは義輝君が言ってたんだ。

え、えっと結局何をしたいんだ?

昨日、学校で何を話してきたんだろう?

きっと比企谷君のことだから何か企んでいると思うけど。

 

”ちら”

 

も、もう!

まだ結衣ちゃんと二人だけで話してるし。

あ、な、なんか結衣ちゃんに手を合わせて頭下げて。

な、なに、なんなのさ、ムー!

 

”スタスタスタ”

 

「えーここで残念なお知らせがあります」

 

     ・

     ・

     ・

 

そっか、プロム、学校から自粛しろって言われたんだ。

え、でもそれで新しいプロムの計画?

でも、プロムをやること自体を問題視されてるんじゃ?

それに、そんなことしたら。

 

「八幡はどうしたいの?」

 

「正直、プロム自体は割とどうでもいい」

 

プロムはどうでもいい、ゆきのんを助けたいっか。

でもね比企谷君、保護者側はプロムをやること自体を反対しているんだよ。

違う案を出したって、それだけじゃ覆らない。

・・・それにさ、もっと大事なこと間違っている。

それじゃゆきのんの願い、叶えられないじゃん。

あの時、奉仕部の部室で、ゆきのんは、ゆきのんは言ったよ。

自分の力でやり遂げたいって、ちゃんと見届けてほしいって。

だからわたしはこのやり方に賛成できない。

ゆきのんのためにも・・・・・・きっと比企谷君のためにも。

だから、ごめんわたしは・・・

 

「待て! 然して希望せよ!」

 

「お、おう。

 ・・・三ヶ木、お前はどうだ?」

 

「美佳っち?」

 

「うん、わたしも協力するね。

 一緒に頑張ろう」

 

ごめん、比企谷君。




最後までありがとうございます。
大変お時間お取しました。
(こんな駄作にすみません)

いつも夜中書いているんですが、最近すごく眠たくて。
なかなか更新できなくてごめんなさい。
以前は2時、3時なんて当たり前だったのに。
なんとかGWで挽回しないと・・・

えっと今回は奉仕部二人の願い。
次話は冬物語最終話、オリヒロの願い編です。

また見に来ていただけるとありがたいです。
ではでは。

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