似て非なるもの   作:裏方さん

76 / 79
や、やってしまった。
・・・・・・ほんとにすみません。
気が付いたらもう7月。
更新、どんどん遅くなりごめんなさい。
八幡の誕生日もうすぐだっていうのに、なんとかしないと。

今話から春物語編です。
二人に春は訪れるのか、それとも。
そして八幡が選んだ答えは。

ではよろしくお願いします。


第8章 春物語
春雷


「よかった。

 じゃあ、プロムできるんだ」

 

「ああ。

 さっき平塚先生から連絡があった。

 やっと学校から正式な許可が下りたってたな」

 

そう、あの応接室での会談の後に行われた、雪ノ下の母親と雪ノ下、一色の話し合い。

そこで二人のプロムへの想い、提起された問題に対する対応策、新しいプロムの方向性に

ついて説明を受けた雪ノ下の母親は、少しだけ考えた後に納得して帰っていったらしい。

雪ノ下曰く、考えられないくらいあっさりと。

そして保護者会との話し合いの後、今日学校から正式にプロムを許可するとの

連絡を受けた。

そして俺はそのことを知らせるために由比ヶ浜に電話を。

本当は、本当に真っ先に知らせたかったのは・・・・・・あいつだったのに。

 

「本当にご苦労さま。

 でもよくゆきのんのお母さんを説得できたね。

 さすがヒッキー」

 

「いや違うんだ由比ヶ浜。

 あの人を説得できたのは雪ノ下達の頑張りによるものだ。

 俺は、俺達はその手助けをしただけにすぎない」

 

「そっか。

 うん、そうだね。

 ゆきのんもいろはちゃんも・・・ヒッキーもよく頑張った。

 偉い!」

 

「お前もな」

 

「でへへへ」

 

実際そうなんだ。

雪ノ下の母親、あの人を説得して味方にできたのは、雪ノ下と一色の頑張りが

あったからなんだ。

俺達のダミープロム計画なんて、あの人にはとっくに看破されていた。

とてもどちらかを選べなんて状況にもっていけるものではなかった。

公式サイト、アップ前の確認とかほとんどできていなかったから、

改めて観てみると結構突っ込みどころだらけで。

・・・・・・・だが、それならあの人が雪ノ下の話を聞くと言ってくれたのは

なぜなんだ?

交通事故で怪我をさせてしまったの俺への負い目からなのか。

それとも・・・・・・はっ! やっぱり俺のあのステップがよかったからなのか!

結構、俺の道化ぶりを気に入ってくれたとか。

・・・・・・違うな。

初めからあの人のなかでは結論があったような気がする。

プロムを認めること、雪ノ下達の話・・・想いをちゃん聞くって結論が。

だとしたら、なぜだ、なぜあの人はそういう結論に至ったんだ?

なにか腑に落ちない、釈然としない。

今度の件、俺は大事なことを見落としているんじゃないか?

なんだ、俺は何を・・・・・・

 

「ヒッキー?」

 

「ん、あ、す、すまない。

 ちょっとな」

 

「あのさ」

 

「ん?」

 

「・・・・・・」

 

「どうした、急に黙り込んで?」

 

「・・・・・・」

 

「由比ヶ浜?」

 

「あ、あのさ!

 明日デートしょ!!」

 

「はぁ?

 デートだと」

 

「ヒッキー約束したじゃん」

 

「うっ、そ、そうだが」

 

「・・・じゃあさ、明日9時に千葉駅集合でいい?」

 

「・・・・・・あ、ああ、わかった」

 

「本当?

 えへへ、ありがとう」

 

「い、いや、約束だからな。

 で、どこにいくんだ?

 サイゼか?」

 

「サイゼでデートなんてありえないし!

 あ、あのね、あとから連絡する。

 じゃあ、明日ね」

 

「ああ」

 

・・・・・・デートっか。

そういえばあいつ、温泉行きたがってたよな。

へへ、嬉しそうに嬉野嬉野って。

・・・・・・でも、もう終わったんだよな。

もう少しあいつのことを思っていてやれてれば・・・もっとうまく。

はぁ~、だめだ、だめだ。

・・・・・・女々しいな俺、いつまでも。

飯!、飯でも食ってくるか。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、電話?

 

「もしもし」

 

「あ、先輩、今どこにいるんですか~」

 

「あん、今から飯食いに駅前のサイゼに行くところだ」

 

「了解です」

 

「え?」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「お、おいあの娘」

 

「ん、お、おう」

 

”スタスタスタ”

 

「ち、ちょっと、これ大胆だったかなぁ。

 なんかさっきからジロジロ見られてる気がするし。

 ちょっと恥ずかしいかも。

 でも、あたしはもう待つのはやめた。

 だから、昨日これを、この水着を選んだんだ。

 あたしはヒッキーのことが好き。

 これは誰にも譲れない想い。

 だから・・・・・・・・・踏み出すんだ、今日」

 

     ・

 

あち~。

外はまだまだ寒いっていうのに、このドームの中は本当に夏のようだ。

都内でも屈指の大きさを誇る室内プール。

それを有するこのテーマパークは、一年中いつでも泳げることを謳い文句としている

だけあって、常にドーム内の室温を30℃に保っているらしい。

昨日、ググって調べたから。

しかし、

 

『ヒッキー約束したじゃん』

 

・・・約束か。

早応大に合格したら願い事をなんでも一つだけ聞くという約束。

了承したつもりはなかったんだが。

由比ヶ浜が勝手に言ってただけのはずなのに、いつの間にか既成の事実になっていた。

・・・まぁ確かに、明確に拒否したわけでないから仕方ないのか。

だ、だって~、由比ヶ浜が早応大に合格するなんて100%、いや10,000%、

絶対にありえないと思っていたんだもん。

くそ、あいつ本当何か持ってるんじゃないのか?

はぁ~、プロムの件も落ち着いて、今日こそはゆっくりと貯めに貯めこんだ

プリキラーの録画を観ようと思っていたんだがなぁ~

 

「キャ、キャ」

 

それにしても、うっさい。

右も左も水着のカップルばっかりだ。

くそ、他に行くとこないのか。

ふ、ふん!

この世の春を謳歌しているようにみえる彼ら。

だが、俺は知っている、知ってるぞ!

彼らは不安なのだ。

春になったら新しい出会いっていうのがあって。

彼らのうち、きっと何組かは別れることになる。

その不安を紛らわそうと無理に騒いでいるのだ。

だったら、今この時間を謳歌するがいい、このリア充どもめ!

春になれば・・・・・・・・・春になればか。

そういえば来週はもう卒業式なんだ。

卒業してしまえば、学校という俺たちをまとめるくくりが無くなって。

それに俺は早応大に通うために春休みになったら東京に。

千葉の大学に通うあいつとは・・・もう二度と会えなくなるんじゃないのか。

仮にどこかで偶然見かけたとしても、俺は声をかけられるのだろうか。

くそ、だったらどうしたらいい? どうしたい俺。

卒業までもう時間がない。

 

「ワイワイ、ガヤガヤ」

 

ん、なんだ?

なんかまた一段と騒がしく・・・・

 

「おお!」

 

「すげ、あの娘スタイルめっちゃいい」

 

「め、目の保養だ」

 

「いや、顔もめっちゃ可愛いって」

 

”タッタツタッ”

 

「はぁはぁはぁ、ヒッキー、お待たせ」

 

”ぷるん、ぷるん”

 

お、おおー、メロンが、二つのメロンが。

い、今にもその小っちゃな白い生地から零れ落ちそうなくらい揺れて。

は、いやそんなことより。

 

「由比ヶ浜、馬鹿、お前走るな!」

 

「へ?

 あ、う、うん。

 ごめんプールだもんね、走ったら危ないね」

 

「あ、ああ、そ、そうだ、走ったら危ないぞ。

 いろいろと」

 

た、確かにプールで走るのは、床が濡れているから危ないのは事実なのだが。

由比ヶ浜の場合、ちょっと危ないの意味が違うんだ。

 

「ん、いろいろと?」

 

え、本当に気が付いてないのか?

由比ヶ浜、君が走るとだな、その、む、胸のメロンが”ぷるん、ぷるん”って。

それを他のゲスな男どもが放っておくはずがないんだ。

いい加減、自覚しなさい。

 

”バシッ”

 

「なに見てるのさ、最低!」

 

「い、いて。

 あ、いや、待って~、ご、誤解だ」

 

ほ、ほらみろ。

あそこの男子、あれ君の犠牲者だからね。

はぁ~、春を待たずに一組のカップルが・・・ご愁傷様。

 

「ヒッキー?」

 

「ん? あ、いや何でもない」

 

しかし、本当、目のやり場がないんだよ。

他のところを見ようと思っても、万乳引力で自然とその胸に目が。

しかもその水着、小っちゃ過ぎない?。

たしかにメロンとか、大事なところは三角形の生地で覆ってはいるが、

側面はそれ、ほとんど紐だろう。

そんな細い紐で強度とか大丈夫なの?

由比ヶ浜のそれって重たそうだし。

 

「え、えっとさ、ヒッキー。

 あのさ、ど、どうかな?

 き、昨日、新しい水着買ったんだ」

 

「お、お、おう。

 あ、あの、な、なんだ、い、いいんじゃないのか、そ、そのいろいろと。

 その白い色も似合ってると思うし」

 

「あ、ありがとう。

 えへへ、なんかうれしい」

 

「じゃ、い、いくか

 取り合えず、荷物、あっちに置いて」

 

「うん」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おお!」

 

「なんであの娘があんなやつと」

 

「もったいねぇ~」

 

くそ、すれ違う男どもめ、好きかって言いやがって。

そんなことはわかっているんだ。

俺の隣を歩いている由比ヶ浜はトップカースト。

カースト底辺で蠢いている俺となんかでは釣り合いなんて取れない。

由比ヶ浜は可愛くて、優しくて、スタイル良くて。

 

”ちら”

 

「ん?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

う、横からだと本当にそのスタイルがはっきりと。

げ、や、やば!

 

「ゆ、由比ヶ浜。

 もうそこら辺でいいんじゃないか、荷物置くの」

 

「え? あ、うん。

 でもヒッキー大丈夫?

 お腹でも痛い?

 なんかいつも以上に猫背だけど」

 

「あ、い、いや、なんでもない。

 大丈夫だ気にするな。

 ほ、ほら荷物置くぞ」

 

「う、うん」

 

だ、だって~、八幡の八幡が。

やばい、やばい、やばい。

・・・・・・・・・どうしょう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぁ~、んっと今何時?

 あ、もうこんな時間だ。

 起きないと、今日こそは起きないと。

 うんしょっと」

 

”ふら”

 

「あ、だ、だめ。

 やっぱ、なんか体に力が入らない」

 

”どさっ”

 

「か、体がすごく重い。

 どうしちゃったんだろ、やっぱ起き上がれない。

 はぁ~

 えっと、鏡、鏡は?

 あ、あそこにあった」

 

”ズリ、ズリ”

 

「ふぅ~、さてっと。

 げっ、なにこの顔!

 瞼めっちゃ腫れてるし。

 それに目の下のクマ、めっちゃすごい。

 はは、この顔じゃどこにも行けないや。

 ・・・ほんと、わたしどうしちゃったんだろ。

 なんにもやる気が起きない。

 ・・・みんな今日もプロムの準備してるだろうなぁ。

 わたしも行って手伝いたんけど、でも身体がいうこと聞かないんだ。

 ずっと石になったみたいですごく重たくて、それになにをするにしてもおっくうで。

 こうやって鏡見てるだけでもすごく疲れる。

 はぁ、こんな時は甘いものでも食べて」

 

”がさがさ”

 

「げ、もうない。

 あ、そうだ、昨日、箱買いしたチロロ全部食べちゃったんだ。

 ・・・・・・・・もう、いいや。

 今は何も考えたくない。

 今日もこのまま、ずっと・・・・・・・おやすみ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「やっぱりドームの中は暑いね」

 

「そうだな、なんでも一年中30℃になるように設定しているそうだ」

 

「へぇ~。

 ヒッキー物知り」

 

「あ、あったりまえだ。

 これぐらい常識だ」

 

「ね、早くプールに入ろ」

 

「いや、ちょっと待って。

 もう少しだけ・・・」

 

「本当にお腹大丈夫?」

 

「お腹は何ともないから。

 本当に何ともないから」

 

「ふ~ん。

 じゃあ、ちょっと準備運動してるね。

 一、二、一、二」

 

”ぷるん、ぷるん”

 

や、やめて~

目の前で準備運動やめて~

やっと落ち着いてきたのに。

ま、またプールに入る時間遅くなるから。

もう八幡の八幡のバカー

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

「ん、なに? 電話?

 う~、めんどくさい。

 だ、誰だよ?

 あ、ジャリっ娘から」

 

”ブ~、ブ~”

 

「でも、今は出たくない。

 誰とも話したくないんだ。

 だから、ごめん」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ~、なんとか鎮まった。

もう、八幡の八幡は元気なんだから~

・・・って、こんなことしてる場合じゃなかった。

ん、由比ヶ浜、向こう向いてなにしてるんだ?

 

「ふぅー、ふぅー」

 

「由比ヶ浜、なにやってんだ?

 ん、何か膨らませてるのか?」

 

「あ、うん。

 あのね、浮輪持ってきたんだけど、空気入れ忘れちゃって。

 でもなかなか膨らまなくて」

 

「お、そ、そっか。

 ご苦労さん」

 

「うん。

 せ~の、ふぅ-」

 

お、俺は手伝わないぞ。

いや、だって手伝うってことは・・・・・・か、間接・・・

それチョ~やばいから。

それに、そんな大事なものを忘れたことを反省させるためにも、ここは心を鬼にして。

だ、だから君のためなんだからね!

 

「ふぅー、ふぅー

 はぁ~駄目だ。

 やっぱり浮輪、全然膨らまない。

 仕方ないや、諦めよう。

 折角買ったんだけど仕方ない、仕方ないなぁ~」

 

”チラ”

 

う、かわいい~

だ、だからその上目遣いやめて。

いや、本当、君それ反則だから。

く、くそー

 

「ほら貸してみろ。

 膨らませてやる」

 

「本当!

 ヒッキー、ありがとう。

 それじゃ」

 

”ふきふき、ふきふき”

 

あ、や、やっぱり一応、拭くのね。

しかも、スゲ念入り。

いやそこまで拭かなくても。

 

「はい、ヒッキーお願いね、にこ♡」

 

「お、おう。

 はぁ~、ふぅー」

 

”ぷく”

 

「あ、膨らんだ、すご~い」

 

いや、ただ浮輪膨らませてるだけだから。

誰でもできるから、そんなに喜ばないで。

・・・・・だ、だが、これ、この栓のところって、

さっきまで由比ヶ浜が咥えてたところなんだよな。

・・・その口で

いくらさっき拭いたからって、やっぱりあの・・・・

 

「ヒッキー、大丈夫?

 やっぱり疲れた?」

 

「あ、い、嫌なんでもない。

 大丈夫だ任せておけ」

 

危ない危ない。

変な妄想してるとまた八幡が・・・

さ、さっさと浮輪を膨らませないと。

 

”ふぅー、ふぅー”

 

「あ、ヒッキー膨らんできたよ。

 すごく大きくなってきた」

 

・・・・・・ふ、膨らまさないと。

 

”ふぅー、ふぅー”

 

「へへ、ヒッキーやっぱり男子だね

 膨らんだ膨らんだ。

 すご~い、大きい」

 

き、君、なに言ってるの?

馬鹿なの? やっぱり馬鹿なの?

はっ、もしかしてわかってて言ってないよね?

いや、こいつのことだ、きっとなにも考えて・・・・・・

く、くそー!

無視だ無視!

 

”ふぅー、ふー

 

よ、よし、これぐらいでいいだろう。

 

「由比ヶ浜、空気・・・・・・・・・

 えっ!

 ね、そ、その手に持ってるの何?」

 

「え、あ、イルカのやつとパイナップルのフロートとそれから 」

 

「お、おいちょっと待て!

 それ全部膨らませるつもりか!」

 

「だめ?」

 

「死ぬわ!

 この浮輪だけにしとけ!」

 

「う~、折角遊ぼうと思っていっぱい買ってきたのに」

 

まったく。

って、それにしてもなんかこの浮輪めっちゃ大きくないか?

確かに由比ヶ浜の胸の大きさを考えればこのくらいあったほうが。

いや、それにしても、でかい、でかいすぎる。

 

「な、なぁ、由比ヶ浜、これ、この浮輪でかくないか?」

 

「あ、だってこれぐらい大きかったら二人で入れそうじゃん」

 

「は? はぁ!

 ば、ばっか、二人で浮輪になんて、そんなのは入れるわけないだろう」

 

「え~、駄目かなぁ?

 入れそうだけど」

 

「う、う、う、だ、駄目」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

「んー、しつこい。

 わたしは今日はずっと一人でいたいんだ。

 あの頃のように。

 やっぱりわたしにはそのほうが・・・きっとわたしなんてそのほうが」

 

”ブ~、ブ~、ブ~”

 

「し、しつこい!

 出ないった言ったら出ないの!」

 

”ブ~、ブ~、ブ~、ブ~”

 

「も、もう!」

 

”カシャカシャ”

 

「はい、もしもし!

 三ヶ木だよ!」

 

「あ、美佳先輩、大変大変大変なんですよ~」

 

「え、大変?

 会長、どうしたの、なにがあったの?

 もしかして、またプロムが」

 

「兎に角大変なんです!

 いいですから、大至急千葉駅前まで来てください。

 いいですか大至急ですからね!」

 

”プー、プー”

 

「あ、あの会長?

 あ、あれ?

 げ、ジャリっ娘! 言いたいことだけ言って切りやがった!

 知らん、わたしは行かない!

 今日は一人がいいの!」

 

『大変なんですよ~』

 

「でも、どうしたんだろう。

 すごく慌てて。

 なんだろう、大変なことって。

 ・・・・・・も、もう!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキー」

 

”バシャ、バシャ”

 

「お、おい、やめろ由比ヶ浜」

 

「え~い♡」

 

”バシャー”

 

「こ、こ、この~」

 

”バシャ”

 

「きゃ。

 やったなぁ~、え~い」

 

”バシャ”

 

「うわぁ~」

 

な、なんだこれは、すげぇ楽しい。

これがリア充、リア充なのか。

あいつらいつもこんなことを。

 

『このぼっちもどき!』

 

はっ!

 

”キョロキョロ”

 

「どうしたのヒッキー?」

 

「あ、い、いや何でもない」

 

気のせい・・・か。

そうだよな、ここにいるはずないよな。

でも、あいついま頃なにしてんだろう。

今日も学校行ってるのか。

プロム、もうすぐだもんな。

頑張ってんだろうな、あいつ。

 

「ね、ヒッキー、あれ、あのスライダー行こう」

 

「え?

 あ、いや、でもお前、あれ大丈夫なのか?」

 

「え、でも、そんなに怖くないと思うけど」

 

「いや、その・・・そ、そうか」

 

違うんだ由比ヶ浜。

確かにあのスライダーはそれほど大きくないし、お前が言う通りそんなに怖くはない。

俺は別のほうが心配で。

だってその紐、本当に強度大丈夫?

 

「ほら行こ」

 

「お、おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

「んっと~」

 

”キョロキョロ”

 

「ジャリっ娘どこだ? 確か千葉駅前って言ってたはずなんだけど」

 

”ガシッ”

 

「へ?」

 

「ジミ子先輩確保!」

 

「はい?」

 

”ガシッ”

 

「三ヶ木先輩確保です」

 

「あ、あの~、舞ちゃん、藤沢ちゃん?」

 

「ほら行きますよジミ子先輩」

 

「え? あ、あのどこへ?」

 

「いいですからほらほら」

 

”ズルズルズル”

 

「あ、あの~、引きずらないで。

 ちゃ、ちゃんと歩くから。

 だから引きずるのやめて~

 ト、トラウマがあるんだって。

 いや~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「な、なぁやっぱりやめないか?」

 

「ははぁ~、ヒッキーくんもしかして怖いのかなぁ~

 へ~き、へ~き。

 ほら行くよ。

 それー」

 

”シャー”

 

「お、おい、ちょ、ちょっと待てって。

 え~い」

 

”シャー”

 

おわー、結構スピード出てるじゃねえか。

あいつ、これマズイぞ!

このままプールに飛び込んだら!

はっ、なんだ、プールあんなに男どもが。

ち、いつの間に、くそ!

 

”ザブ~ン”

 

「お、おい、由比ヶ浜、だ、だいじょ・・・・・・うぶみたいだな」

 

「え? あ、うん、面白かったね」

 

はぁ~

え、なに、何か俺ガッカリしていない?

ま、な、何事もなく良かった。

それなりの強度はあるようだな、あの紐。

紐なのに・・・・・紐なのに。

やっぱりガッカリしてんのか俺!

 

「ヒッキー、もう一回行こ」

 

「は、い、いやもうやめとけ」

 

「え~、もう一回だけ行こ。

 ねっ、ねっ」

 

「わ、わかった」

 

「へへ、やったー

 ほら」

 

”にぎ”

 

「あ、いやお前、手引っ張るな」

 

「えへへ、いいじゃん」

     ・

     ・

     ・

 

「あ、来た来た。

 美佳先輩、遅いですよ~」

 

「いろはちゃん、三ヶ木先輩連行しました!」

 

”ビシ!”

 

「藤沢ちゃん、蒔田、任務ご苦労」

 

”ビシ!”

 

「え、な、なにその敬礼、流行ってるの?

 ま、まぁ、可愛いからいいけど。

 で、会長、大変ってなにがあったの?」

 

「えっとですね~

 はい美佳先輩、回れ右!」

 

「え、はい」

 

”クル”

 

「あ、あの会長?」

 

”さっ”

 

「ひゃ、な、なに? なんで目隠し」

 

「さ、行きますよ」

 

「いや、行くってどこに?

 何も見えないから、これ怖い」

 

「ジミ子先輩、こっちですよ。

 わたしが連れて行ってあげます。

 はいお手」

 

「わん。

 って、お、おい」

 

「はいはい。

 ほら、こっちですよ」

 

”ゴン”

 

「い、いったー!」

 

「あ、そこ看板ありますから

 頭下げてください」

 

「い、いや、それは、当たる前に言って!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ちょっと待て、由比ヶ浜!

 今度は俺が先に滑る」

 

「え?

 あ、うん」

 

そうなんだ。

さっきは大丈夫だったが、あの細い紐がそう強度があるとは思えない。

だから俺が先に滑って、下で見ていてやらないと。

後から滑ると見逃すことも・・・・

は、な、なにを言ってるんだ。

違う!違うから。

お、俺はポロリを期待して先に滑るんじゃないからな。

万が一の時は俺の手で隠して・・・・・・えっと~隠しきれるだろうか?

ま、まぁいい。

 

「じゃ、じゃあ先滑るからな由比ヶ浜」

 

「うん。

 いってらっしゃい」

 

「あ、お、おう、行ってきます」

 

”シャー”

 

うぉ~、や、やっぱりこれ速くない?

んで、このままのこの勢いでプールにって。

 

”ザブ~ン”

 

ふぇ~、やっぱり結構やばいぞ。

とてもあの紐じゃ。

はっ! ゆ、由比ヶ浜は?

 

「ヒッキー危な~い」

 

「え? う、うそ、もう来たの」

 

”ザブ~ン”

 

「ぐはぁ」

 

「きゃっ」

 

”ぶくぶく”

 

ぐぇ、み、水飲んだ。

やばい、はやく水の上に、い、息が。

 

”むにゅ~”

 

な、なに?

顔が何か柔らかいものに挟まって。

それが邪魔で上にあがれない。

げ、や、やばい、い、息が。

この柔らかいもの何とかしないと。

 

”むにゅむにゅ”

 

や、やわらけぇ~

なんなんだこれ?

ん、えっと白い布? これってどこかで・・・・・・

はっ! う、そ。

 

”ザバッ”

 

「ぷはー」

 

「・・・・・・ヒッキ~、あ、あの~大丈夫だった?

 ごめん、ちょっと滑るの早すぎた。

 あと、そ、その、あのね・・・」

 

”モジモジ”

 

「・・・・・・い、いや、こ、こっちこそ、なんかその~

 す、すまん!」

 

”ツー”

 

「あ、ヒッキー鼻血」

 

「え? あっ」

 

      ・

      ・

      ・

 

「はい、もう目隠し取ってもいいですよ美佳先輩」

 

「え、あ、う、うん」

 

”ぱさ”

 

「え?

 か、会長ここって」

 

「はい。

 えっと~、今日はプロムで着るドレス選ぶんですよ。

 ほら美佳先輩もちゃんと選んでくださいね」

 

「あ、いや、あの、でもわたしは 」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スー、スー”

 

ん、ここどこだ?

えっと~

 

”キョロキョロ”

 

どこかでみたような風景。

これって学校の・・・教室だよな。

ん、三ヶ木?

お、お~い三ヶ木何してるんだ?

 

『・・・・・・さ!』

 

ん? なんだよく聞こえない。

 

『・・・・・てくるの』

 

み、三ヶ木?

 

『いつもいつもずっと待ってたんだ』

 

”ダー”

 

「お、おい、み、三ヶ木!

 待ってくれ、行かないでくれ」

 

はっ

ここは・・・・・・そっか夢だったのか。

俺いつの間にか眠ってたのか。

ん、なんだ、目の前に白い山が二つ。

それに、なんか頭が柔らかくて温かいもの上に。

えっと~

 

”さわさわ”

 

「ひゃっ!

 あ、ヒッキー、目覚めた?」

 

はっ! ゆ、由比ヶ浜。

白い山の間から由比ヶ浜の顔が。

ってことは、こ、ここ、太ももの上?

 

「お、おい、な、何で俺、お前に膝枕されてんだ!」

 

「え? あ、だってほら床の上だと、タオルあってもちょっと硬いかなぁって思って。

 だから膝の上に・・・

 ヒッキーよく寝てたし」

 

いや、それ余計に鼻血が出そうなんだが。

・・・そっか、俺鼻血が出たから横になってて、それでいつの間にか。

 

「そ、そうか、ま、まぁなんだ、すまん。

 な、なぁ、俺、何か寝言言ってたか?」

 

「あ、う、うううん、何も言ってないよ、うん、何も言ってない。

 あのさ、よく寝てた」

 

「そうか。

 すまなかった」

 

「鼻血止まったみたいだね」

 

「ああ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うわ~藤沢さん綺麗」

 

「蒔田さんこそ、すっごく似合ってますよ」

 

「ね、藤沢さんはもうプロム誘われたの?」

 

「あ、う、うん。

 昨日ね」

 

「いいなぁ~」

 

「蒔田さんはまだ?」

 

「そう。

 なんかさ、引っ越しの準備で忙しいって、なかなか会えないくて」

 

「大丈夫だよ。

 稲村先輩、きっと誘ってくれるよ」

 

「そう思う?

 えへへ、よしじゃ頑張ってドレス選ぼうっと。

 ん~、どれにしようかなぁ」

 

「「わいわい」」

 

「ふぅ~、・・・・・・プロムか」

 

「いいの見つかりました? 美佳先輩」

 

「え、あ、か、会長。

 あ、あの、わたしは」

 

「あ、こっちのほうが似合うんじゃないですか」

 

「か、会長、わたしプロムは」

 

「別れてください」

 

「へ?

 か、会長?」

 

「昨日、先輩から聞きました」

 

「・・・・・・」

 

「別れるって、お二人はいつの間にそんな関係になってたんですか?

 あ、それは今度ねっちょり聞かせてもらうとして。

 そのことより、別れるってなんでそんなことになったんですか?」

 

「・・・・・・」

 

「先輩もそのことは何も言ってくれないし。

 でも多分、美佳先輩のことだからまた何か馬鹿なことをして・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「えっと最近の美佳先輩は・・・・・・

 それで先輩と関係してること・・・・・・

 はっ、もしかしてプロム!」

 

「・・・・・・」

 

「そうなんですね美佳先輩!

 プロムでまた何かしたんですね!」

 

「・・・・・・」

 

「な、なにをしたんですか!」

 

「・・・・・・・」

 

「黙ってちゃわからないじゃないですか」

 

「・・・・・・」

 

「もう!

 ・・・・・・はぁ~、うまくいかないなぁ~

 なんで、なんでこううまくいかないんだろう」

 

「・・・会長」

 

「折角、先輩と美佳先輩に、高校最高の想い出をプレゼントしようと思ったのに」

 

「え、会長、もしかしてプロムやりたかった理由って」

 

「がんばろって思ったんだけどなぁ。

 お世話になってきた先輩や・・・・・・大好きな美佳先輩のためにって。

 でも、結局思ってたのと逆の結果になって」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・はぁ~、うまくいかない」

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

「本当にそう思っているんですか?」

 

「・・・・・・うん」

 

「・・・・・・本当に?」

 

「・・・・・・はい」

 

「だったら。

 ちゃんとドレス選んでください」

 

「え?」

 

「美佳先輩が何かしたって、わたしが気付くくらいですよ。

 先輩なら、美佳先輩がプロムで何をしたのかまで絶対気が付くはずです。

 あの人、そういうの結構鋭いですから。

 そうしたら、必ず美佳先輩のところに来ますよ。

 プロムに誘うために。

 その時、美佳先輩はどうするんですか?」

 

「わ・・・わたし・・・」

 

「美佳先輩、わたしにダンス見せてください。

 先輩との最高のダンスを。

 わたし、わたしがあきらめつくように。

 じゃないと、わたしも卒業できないじゃないですか」

 

「会長」

 

「困るんですよね~

 卒業できないと、わたし早応大目指さないといけなくなるんですよ。

 正直なとこ、結構厳しいんです早応大。

 わたし結衣先輩みたいに何か持ってるわけじゃないですし。

 だから、だからです!」

 

「会長、会長、わたしには資格が」

 

”だき”

 

「そんなの駄目ですよ。

 なにがあったのかわたしにはわかりません、話してくれないから。

 でも絶対絶対、美佳先輩後悔しちゃいます。

 そんなのわたし許しません」

 

「・・・で、でも」

 

「それに美佳先輩のことだから今度もまた自分を犠牲にしたんでしょ。

 お願いです、もっと自分を大事にしてください。

 じゃないとわたし心配で心配で・・・どうしょうもないじゃないですか」

 

「・・・会長」

 

「わたしを安心させてください。

 それでちゃんと卒業させてください、美佳先輩からも」

 

「・・・・・・う、うん」

 

”ガバッ”

 

「だったら・・・ほらさっさとドレス選びますよ。

 あ、このドレスなんかどうですか?」

 

「え、で、でもそれ結構派手すぎ。

 なんかキラキラ光ってて」

 

「美佳先輩はこれぐらいじゃないとダメなんです。

 だって、顔が地味なんだから、ドレスまで地味だったら、

 きっとどこにいるかわからないじゃないですか」

 

「う~、なんか納得するような、腹が立つような。

 あ、でもわたしあんまり予算が。

 レンタルだとしてもやっぱり結構するんじゃ」

 

「美佳先輩、蒔田の紅茶、めっちゃまずいんですよ、相変わらず」

 

「え?

 あの、なにを?」

 

「ね、藤沢ちゃん!

 蒔田の紅茶、飲めたもんじゃないよね、ね!」

 

「え?

 あ、そうそう。

 そうなんですよ三ヶ木先輩。

 とっても苦くて苦くて、まるでお薬飲んでるみたいです」

 

「へ、な、なに?

 いきなりなんでそんなこと?

 い、一色!」

 

「だって不味いじゃない蒔田!

 マ・ズ・イ・の、ねっ!」

 

「あっ、そ、そうだった。

 ジミ子先輩・・・不味いです、めっちゃ不味いですわたしの紅茶!」

 

「・・・・・・」

 

「美佳先輩、だからまだ引き続ぎ、終わってませんから。

 で・す・か・ら、美佳先輩は準生徒会役員なのです。

 当然、役員なのでプロム手伝ってもらいます。

 と、いうことでドレスのレンタル代は必要経費ってことで」

 

「え、えっと、それって?」

 

「つまりタダ、無料ですよ」

 

「え、タダ?」

 

「だって、ほら司会が制服着てやってたんじゃ、プロム盛り上がらないじゃ

 ないですか~

 それと同じで、当日の役員の女子は全員ドレスなんです。

 つまりこのレンタル代は衣装代ということで、必要経費で処理しま~す」

 

「で、でもそれで予算が赤字になったら」

 

「そこはちゃんと学校に補填してもらう手はずになってますからご心配なく。

 なので、美佳先輩も気にしないでドレス選んでください」

 

「・・・・・・会長」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぎゅるるる”

 

今何時だ?

もうお昼とっくに過ぎてんじゃねえか。

道理で腹すくはずだ。

 

「なぁ、由比ヶ浜、そろそろ飯にしないか?

 売店で何か買ってくるけど、何かリクエストあるか?」

 

「あ、あのさ。

 ・・・・・・お弁当作ってきたんだ。

 よかったら」

 

「・・・・・・・」

 

「はぁ!! なんでそんな嫌な顔するし!」

 

「い、いや、その」

 

「この前ちゃんと食べれたじゃん」

 

え、あ、そ、そうだ。

体育祭の時の弁当、割とまともだったよな。

・・・あのおにぎりを除いて。

 

「よ、よし分かった。

 覚悟決めた。

 毒でもゲテモノでも何でも持ってこい」

 

「ひど!

 朝早く起きて作ったのに。

 ちゃんと作れてると思うんだけどなぁ~」

 

”がさがさ”

 

「はいどうぞ」

 

「お、おう」

 

ん? 普通だ。

見た目はちゃんとしてる。

おにぎりにチキンナゲット、焼き鮭、スパゲッティ、卵焼き。

だが、こいつの場合、問題は見えないところに。

確か体育祭の時は・・・

はっ!

 

「由比ヶ浜、おにぎりの具はなんだ!

 チョコとか入れてないだろうな」

 

「え、えっと~、梅干しとタラコ・・・・・とチョコ」

 

「お約束か!

 チョコはやめろっていっただろチョコは!」

 

「だって、甘いものも欲しくなるかなぁ~って思って」

 

「チョコ以外のおにぎりよこせ」

 

「はい」

 

「よし。

 いっただきま~す」

 

”パク”

 

お、美味い。

塩加減もちょうどいいし、体育祭の時の硬いのと違って、

食べた時にちゃんと口の中でほぐれて。

 

「美味いぞ由比ヶ浜」

 

「本当?

 えへへ、よかった。

 じゃ、あたしもいただきま~す」

 

”パク”

 

「ん~、やっぱり美味しいこのチョコにぎり」

 

・・・・・・・・ま、マジか。

 

      ・

      ・

      ・

 

やっぱりまだ日が暮れるのが早い。

もうすぐ3月も中旬だというのにもう暗くなってる。

ドームの外で待っているとやっぱり寒い。

春はまだまだだと感じる。

それでも時は歩むことをやめず、少しづつ春に近づいているのだろう。

そしてまた一日、俺達は卒業に近づいて・・・

卒業か、本当にいろいろあった。

入学早々の交通事故に始まって、わけのわからん部活に入れられて。

そこで雪ノ下や由比ヶ浜と出会って、文化祭、修学旅行、クリスマス・・・

俺が雪ノ下や由比ヶ浜と築いてきたもの、俺が守りたかったもの、求めたもの。

俺は彼女達に何を求めてきたのだろう。

そして今、彼女が願っているものは。

それはきっと・・・・・・違うものなんだ。

だとしたら俺は責任を取らなければならない。

ちゃんと話さなければならない。

それが俺の責任・・・けじめだ。

そして俺はもう一度・・・・・・始めたい。

 

『・・・それが大事なものだと、けして無くしちゃいけないものだと気付いたのなら、

 また始めればいいじゃないですか。

 今度は間違わないように』

 

・・・・・・一色、お前の言う通りだ。

 

 

 

 

ーーーー話は昨日の電話の後、サイゼでーーーー

 

 

 

 

「せんぱ~い、お待たせいたしました」

 

「ああ、スゲ~待った」

 

「な、なんですか!

 そこは今来たところだとか、君を待ってる時間も楽しいとか言うところ

 じゃないですか!」

 

「いや、楽しくないから。

 それに待ってる間のコーヒーの飲み過ぎでお腹タプタプだから。

 店員さんの視線もきついし」

 

「む~、ま、そんなことはどうでもいいです。

 ほら、席、もっとそっち詰めてください」

 

「え、な、なんで隣に座ろうとするんだ。

 向かい側座ればいいだろう」

 

「はぁ?

 なに言ってんですか?

 いいですからそっちにもっと詰めてください」

 

”ぐぃぐぃ”

 

「お、おい、無理やり座ろうとするな」

 

いや、だから、お、お尻で押すんじゃない。

・・・・いや、すげ身体密着してるんだが。

一色のお尻の感触とその温もりがその・・・

 

”ジー”

 

は! なに君のその目。

やば、俺にやけてなかったよな。

 

「わ、わかったから、今こっち詰めるからちょっと待て。

 くそ、まったく」

 

「ふふん」

 

え、な、なに、その勝ち誇った表情。

く、くそ、だ、だってあれだけお尻で押されたら。

それに

 

”ちら”

 

こいつのこのお尻のどこにそんな力が?

いやそれなりの大きさで・・・・・

く、くそ!何考えてんだ俺。

 

「あ、すみません、ドリンクバーお願いしま~す。

 それと~、あ、ティラミスもお願いします」

 

「はい、畏まりました。

 少々お待ちください」

 

「先輩、ご馳走様です」

 

「お、おう・・・・・・・ちょっと待て。

 奢るなんて言ってないぞ、何で俺がお前に奢ってやらないと 」

 

「はぁ?

 先輩、今このかわいい女子のお尻の感触楽しんでたじゃないですか~

 それにこんな間近で思いっ切り凝視してたし。

 タダでそんなの楽しめると思ってるんですか?

 甘いですよ、先輩」

 

「・・・・・・」

 

「ですから、ご馳走様です、先輩♡」

 

「ちっ!

 で、なんのようだ」

 

「あ、そうそう。

 先輩、プロム誰を誘うか決めました?」

 

「い、いや俺は」

 

「わたし~、先輩にいろいろとお世話になったじゃないですか~

 なので、先輩がどうしてもって言うのなら誘われてあげてもいいですよ」

 

「いやいらん」

 

「即答!」

 

「一色、俺はプロム、誰も誘うつもりはない」

 

「え、な、何でですか!

 誰も誘わないって。

 そんなこと許されると思ってるんですか」

 

「いや、そんなの俺だけじゃないだろう。

 葉山だって誰も誘わないだろう、きっと」

 

「葉山先輩と先輩は違います」

 

「同じだろ。

 誰も誘わないってことに違いはないだろう」

 

「違いますよ。

 葉山先輩が誰も誘わないのは、たとえそれが上辺だけの関係でも

 失いたくないという信念から来るものです。

 先輩は違うんじゃないですか」

 

「・・・・・・」

 

「先輩はあの時、本物を欲していたんじゃないんですか。

 先輩のはただ逃げているだけじゃないんですか」

 

「・・・・・・」

 

「先輩達が築いてた本物って、そんなに脆くて簡単に崩れてしまうもの

 なんですか?」

 

「・・・・・・」

 

”ぐぃ”

 

「ぐぉ、お、おい、襟引っ張るな」

 

ぐ、ぐるしい。

それに顔近い、すげー近い。

え、なに? そ、そんなにじっと見つめないで。

 

「責任取ってください」

 

「え?」

 

「結衣先輩、雪乃先輩・・・・・・・そして美佳先輩に」

 

「・・・・・・も、もう遅いんだ。

 終わったんだ」

 

「えっ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なんですかそれ!

 別れてくださいって、なんなんですか」

 

「・・・・・・」

 

「お二人はいつの間にそんな関係に?

 いえ、それはこんど美佳先輩を問い詰めるネタとして。

 そんなことより、なんで別れようってことになったんですか?」

 

「・・・・・・」

 

「先輩!」

 

「一色、もう終わったことなんだ。

 俺は、俺は誰もプロムに誘わない、誘わないんだ!」

 

「はぁ~、まったく、この唐変木は。

 先輩、ほらちゃんとこっち向いて」

 

”ぐぃ”

 

「い、いたたたた。

 く、首が 」

 

「いいですか先輩。

 終わったものなら、うううん、終わってしまったものだとしても、

 それが大事なものだと、けして無くしちゃいけないものだと気付いたのなら、

 また始めればいいじゃないですか。

 今度は間違わないように」

 

「い、一色」

 

「まったく、そんなことでウジウジしているなんて、わたしの先輩らしくないです。

 わたしの先輩は、そんな物わかりのいい人じゃないはずです。

 わたしの・・・・・・す、好きな先輩は、もっと捻くれてて、姑息で・・・

 足掻いて、藻掻いて、悪あがきして。

 それで捻くれた答えを導き出して。

 本当にすごくあきらめの悪い人のはずです」

 

「・・・・・・」

 

「先輩、今しかないんですよ。

 卒業したらもう。

 ・・・・・・あとから後悔しても遅いんですよ」

 

「・・・一色」

 

「いいですね、ちゃんとお話 」

 

「なぁ、お前本当に一色か?」

 

「はぁ?

 いきなり何を」

 

「あの何かある度にいつも俺に頼ってきた、すげ~頼りない一色は

 どこに行ったんだ?」

 

「な、なんですか!

 なんでそんなことを」

 

「・・・お前、成長したな。

 もうどこからみても立派な生徒会会長様だ」

 

「・・・まったく。

 誰のせいだと思うでんすか。

 誰かさんがわたしを会長になんてしたからですよ。

 だから誰かさんもしっかりして下さい」

 

「ああ、そうだな。

 すまん、一色」

 

 

 

 

ーーーー そして今 ーーーー

 

 

 

 

また始めればいいっか。

一色の言う通りだ。

俺は、そんなに物わかりのいい人間じゃない。

だとしたら俺は・・・もう少し足掻いて藻掻いてみたい。

だから

 

”スタスタ”

 

「ヒッキーごめんね、お待たせ」

 

「お、おう。

 いや、今来たところだ」

 

「へ?」

 

「あ、い、いや何でもない」

 

「う、うん。

 じゃ行こっか」

 

”スタスタスタ”

 

俺は始めたい、もう一度。

今度は絶対に間違わない。

だから、

 

「な、なあ由比ヶ浜。

 ちょっと話が 」

 

「あ、そ、そっだヒッキー。

 あのね、あたしもう一ヵ所だけ、絶対に行ってみたいとこあるんだ。

 少し遅くなるかもだけどいいかなぁ?」

 

「ん、あ、ああ」

 

「ありがとう、ヒッキー」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃ美佳先輩、また明日です。

 お手伝いよろしくです」

 

「う、うん」

 

「ジミ子先輩、プロム楽しみましょうね」

 

「あ、うん」

 

「おやすみなさいです、三ヶ木先輩」

 

「おやすみ、藤沢ちゃん。

 みんなも気をつけてね」

 

「「は~い」」

 

”スタスタスタ”

 

「プ・ロ・ム・・・・・か。

 比企谷君がほんとに誘ってくれたら、わたし、どうしょう。

 わたしは比企谷君の大事な思いを邪魔した、裏切った。

 そしてすごく酷いことをいった、比企谷君だけじゃない、結衣ちゃんにも。

 こんなわたしが誘われてもいいの?

 でも、でもわたしは・・・・・・」

 

”スタスタスタ、スタスタ、スタ”

 

「・・・・・謝ろう、ちゃんと謝ろう。

 明日、比企谷君と・・・・・・結衣ちゃんに。

 ちゃんと全部話して謝ろう。

 許してもらえるまで何度でも。

 だってわたしは、わたしは、・・・・ずっと比企谷君のそばにいたい」

 

”ぐるるるるる”

 

「へへ、覚悟決めたらなんかお腹すいてきちゃった。

 そういえば朝から何も食べてなかった。

 なんか買って帰ろう。

 あ、そうだ晩ご飯の材料も。

 えっと~、どこかスーパーに寄ってっと。

 ここのところさ、ずっと麻緒さんに甘えてきたから。

 まずはそこからちゃんとしないといけない。

 うん、頑張ろう!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うわぁ~、すごく綺麗」

 

「ああ、イルミネーションの光、すげぇ~綺麗だ」

 

赤、青、緑、一面に広がるLEDの光の海。

そうここは千葉県ドイツ村。

千葉県一の人気のイルミネーションのスポットと呼ばれるだけあって、

本当に綺麗だ。

あ、千葉県だからね、千葉県ドイツ村!

決して東京ドイツ村じゃないから。

くそ、ディステニーにしろ、何で千葉にあるのに東京なんだ。

千葉でいいじゃねえか千葉で。

 

「本当に幻想的で綺麗だね。

 あたしちょっとやばいかも」

 

「・・・・・・お、おう」

 

「あのね、あたしここ初めてなんだ。

 でね、前から一度ここに来たかったの」

 

「へ~、意外だな。

 トップカーストのお前らのことだ。

 もうここには来たことあると思ってた」

 

「・・・だってさ、こういうところってさ、好きな人と二人で来たいじゃん」

 

”ちら”

 

「・・・・・・」

 

「こんなところでさ、もし告られたらあたし絶対にOKしちゃうな。

 うん100%OKしちゃう。

 ・・・だからさ 」

 

”ちら、ちら””

 

「ゆ、由比ヶ浜、あ、あのな、お、俺は 」

 

「・・・・・へへ、冗談、冗談だよヒッキー。

 何言ってんだろあたし」

 

「・・・・・・」

 

「でも・・・本当に綺麗だなぁ~

 いつまでも・・・・・・このまま・・・」

 

そう言ってイルミネーションを見つめる彼女。

その表情はすごく悲しげで。

まるで俺が言おうとしたこと、全てわかっているように。

そんな顔見せられたら、俺はもうそれ以上何も言えない。

彼女は今を、この残り少なくなったデートの時間を、一分一秒でも

大事に大切にしたいのだろう。

できればこのまま、ずっとこのまま時間が止まればと願いながら。

・・・だが俺は心のどこかでこの時間を終わらせることを願っている。

俺は由比ヶ浜の気持ちに応えることはできない。

俺が彼女に思っている気持ち、これは彼女が俺に思っていてくれる気持ちとは

きっと違うものだから。

だけど彼女の儚なく、悲しげな横顔に俺は何も言えない、できない。

俺のこの気持ちが偽物だとしても、今少しだけはこの時間を大切にしたい。

 

     ・

     ・

     ・

 

「わ、わかった。

 醤油と味噌だな。

 通りの反対側にスーパーあるから買って帰る。

 じゃあな」

 

「えっと、今の小町ちゃん?」

 

「ああ」

 

「いろいろ連れまわしてごめんねヒッキー」

 

「いや、結構楽しかった。

 じゃあな由比ヶ浜。

 あ、そうだ、なぁ一度雪ノ下達の手伝いに」

 

「ヒッキー!

 あ、あのね」

 

「ん?」

 

「・・・・・・」

 

「どうした?」

 

「あ、あのね、プ、プレゼントあ、あるんだ。

 受け取ってもらっていい?」

 

「プレゼント?」

 

「うん。

 ほら目瞑って」

 

「ん? ああ」

 

”ちゅ”

 

え、は、な、ゆ、ゆいが・・・はま。

こ、これって。

お、俺の唇と由比ヶ浜の唇が。

由比ヶ浜の唇、やわらかくて、甘くて、それだけじゃない、なんかこううまく言えないが、

心がすごく安らぐなにかが。

これがキスというものなのか。

すごく気持ちがいい。

このままずっとこうしていたい・・・・・・・・・・・だ、駄目だ!

これは、駄目、駄目なんだ。

 

”プシュ~”

 

「このスーパー結構品揃えいいや。

 思わず野菜とかお肉とかいっぱい買っちゃった。

 それに!

 なんたって新発売のチロロチョコ、完熟梅味があるとは。

 へへへ、思わず箱買い・・・しちゃ・・・・・た。

 えっ!」

 

”どさっ”

 

「う、うそ。

 ・・・・・・・・・・・やだ!

 も、もうやだ」

 

”ダ―”

 

み、み、三ヶ木!

な、なんでこ、ここにお前が。

はっ、い、いや違う、こ、これは違うんだ!

 

”ガバッ”

 

「ゆ、由比ヶ浜!

 な、なんで 」

 

「だって!

 ・・・あ、あ、あたし、あたしはヒッキーのことが」

 

「・・・・・・

 なぁ、聞いてくれ由比ヶ浜。

 俺は 」

 

”ブ~、ブ~”

 

「・・・・・・」

 

「あたしは」

 

”ブ~、ブ~、ブ~”

 

「電話・・・だ」

 

「あ、う、うん。

 ごめん、ちょっと」

 

「ああ」

 

”スタスタ”

 

「もしもし

 あ、ママ、どうしたの?」

 

な、なんで三ヶ木がこんなとこに。

い、いや、そんなことより早く三ヶ木を追い駆けないと。

追い駆けて、ちゃんと、ちゃんと話しないと。

だが、その前に俺は由比ヶ浜に責任を取らないといけない。

由比ヶ浜をここまで追い込んでしまったのは俺のせいだ。

だから

 

「う、うそ!」

 

”ヘナヘナヘナ”

 

「由比ヶ浜、え、ど、どうしたんだ」

 

「サ、サブレが、サブレが死んじゃった」

 

「はぁ!」

 

「ヒッキー! サブレが死んじゃった。

 今朝、あんなに元気だったのに。

 あたしに抱き着いて来たのに。

 サブレが、サブレが!」

 

「ゆ、由比ヶ浜、しっかりしろ」

 

「やだ、やだ、やだ、そんなのやだ!」

 

”だき”

 

「由比ヶ浜」

 

「ヒ、ヒッキー、サブレが、サブレが」

 

「しっかりしろ由比ヶ浜。

 大丈夫だ、大丈夫だから。

 落ち着け落ち着くんだ」

 

”なでなで”

 

「ヒッキー、ヒッキー、ヒッキー、う、う、うぇ、うぇ~ん、う、う・・・」

 

「由比ヶ浜。

 大丈夫、俺が一緒にいてやるから。

 大丈夫だから。

 さぁ、立つんだ。

 サブレに、サブレに会いに行こう。

 一緒にサブレにお別れを言いに行こう」

 

「ヒッキー」

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

”どか”

 

「おわ、いってぇなぁ、気をつけろ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・はぁ」

 

「おい、聞いてんのか

 お前、人にぶつかっておいてなにも無しか」

 

「・・・・・・」

 

「な、なんだその目は!」

 

”ボカッ、ボゴッ”

 

「このくそ女!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・サブレ」

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

寝ちゃったのか

相当ショックだったんだろうな。

頬に涙の痕が残ってる。

三ヶ木、すまん。

俺には今の由比ヶ浜を一人で帰らせることはできない。

この俺にしがみついて眠っている由比ヶ浜を放っておけない。

・・・・・すまない。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「美佳!

 今何時だと思ってるの!

 佳紀はまだだからさっさと 」 

 

”どさ”

 

「み、美佳?

 きゃっ!

 ど、どうしたのその顔!」




今回も最後までありがとうございます。

最近書きたいことが書けなくて、更新がどんどん遅くなって申し訳ないです。

とうとう八幡のファーストキスが・・・ガハマちゃんと・・・
それを目撃したオリヒロは・・・・・

次話、卒業編です。
オリヒロはこのまま・・・・・・

原作のプロムがどうなるかわからないけど、なんとか次話7月中更新頑張ります。
また読んでいただいたらありがたいです。

ではでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。