その先を見るために/雨はいつか止む   作:ただの提督

1 / 1
始めの一歩/最初の夢

某月某日、人類は襲撃された。

海からの襲撃、もちろん人類は対抗した。銃重火器を使い、戦車などの兵器を使い、そして核までもを使用した。

 

しかし、効果は全くと言っていいほどなかった。そして人類は逃走を始めた。海からくる敵を『深海棲艦(しんかいせいかん)』と名付け、襲われる可能性の低い内陸部へと避難した。

深海棲艦は予想通り陸へと上がることはできなかった、だが攻撃ができないわけじゃなかった。陸上への砲撃、深海棲艦を見たものによると、戦争で使われた兵器の一つ『艦艇』の主砲に似たものを装備していたらしい。つまり海上から一定の距離までは砲撃がとどく、安心して暮らせる内陸部の範囲も少なくなった。

攻撃手段もなく逃げる手段もなくなった。さらにいたるところで争いが勃発、人類に完全な絶望が訪れた。

 

が、人類が見放されたわけではなかった。

 

突如現れた複数の新たな生命体。見た目は完全に女性であり、拳銃を改造したような武器を持っていた。彼女らは皆『ジューヌ・エコール』と名乗った。

 

その後も暫く彼女たちに防衛を任せ、その一方で政府は優秀な研究者たちに彼女たちを徹底的に調べさせた。その結果『人類には不可能』という残念なことが分かった。

が、それで終わっただけではない。彼女らは『妖精さん』と呼ばれる、これまた別の生命体たちから作られたことが判明。妖精さんたちは深海棲艦に有効打を与えられる武器を精製できることが判明した。試しに拳銃を作ってもらったがそこにいた全員が持ち上げられないほどの重量であり、人が持てる武器では無い事がわかって、政府は落胆した。しかし、次に妖精さんが起こした行動は『その武器が持てる生命体を作り出す』と言う事であった。そしておよそ一時間ほどが経ち、妖精さんと共に一人の女性が政府の目の前に現れた。彼女もジューヌ・エコールのように武装をした状態であり、戦闘の準備をしていたのだが。

 

妖精さんたちは、ジューヌ・エコール達を含む彼女らを『艦娘(かんむす)』と呼称していた。政府は艦娘をすぐに

『特別戦闘員』として認め、海へと駆り出させた。

 

 

何度も戦果を挙げる彼女らに政府はもしやとの期待を抱き、敵の本拠地と思われる場所に進ませた。もちろん結果は完敗、十何人と出撃したうち戻ってきたのはたった一人。しかもすぐに治療させなければいけないほどの重症だった。政府は彼女らを過大評価しすぎていたことに今更気が付いたのであった。

政府はいち早く医療チームを呼ぶように指示した。しかし、妖精さんは慌てることなく運び、彼女らが帰ってきたときに使わせる風呂の中へと運んだ。

数時間後、敗因を考える政府たちの前にたった一人だけ生き残った彼女が現れた、無傷の状態(・・・・・)で。

 

その後政府は妖精さんたちに艦娘の事を全て教えてもらうことにした。それから彼女らを指揮する人を養育するための施設を作ることにした。

 

 

それからたくさんの妖精さんたちが現れ、政府は各地に『鎮守府(ちんじゅふ)』を設置しそこに行って艦娘たちを指揮する『提督』を要請する『士官教育施設』を創立。さながら世界大戦の時のような状態になった。しかし、世界が同じ目標に向かっている。

 

そして現在、俺はその施設を卒業。鎮守府へと派遣され、提督への一歩を踏み出した。

 

 

 

 

Φ   Φ   Φ   Φ   Φ

 

 

 

「とはなったものの、やっぱり甘くはないよなあ」

 

目の前には鎮守府――――

 

 

――――とは呼べないボロボロの施設がぽつんと佇んでいた。

自分の養育施設での成績は最悪だった。それこそ下から数えたほうが早いぐらいには。そんな成績で良い場所が与えられるはずがない。

 

とはいえこれは酷すぎないか?誰に聞いても入るのを躊躇うぐらいひどい有り様だ。

まあ先に入って中の整備をすることにした。一応艦娘がこの後に来る予定なので少しでも見映えを良くしておきたい。せっかく来てくれるのに、逃げられては駄目だろうからな。

持参した雑巾を濡らし、執務室予定の部屋にある窓を拭く。ほこりがついて外が見えなくなっていた窓はそれだけて随分と綺麗になる。その代わり雑巾は真っ黒になる。

 

(どれだけ放置すればここまで汚れが溜まるんだよ……)

 

先行きに不安を感じながら窓を丁寧に拭く。それが終われば窓を開け、箒やはたきを使って天井、また雑巾を取り出して壁、最後に床と順番に綺麗にしていく。そして最後、外に放置してあったダンボール箱を持ってきて、机の代わりにすれば完了。およそ三時間かかって一部屋目の掃除が完了した。

俺は綺麗になった床に寝転び、大きく息を吐く。

 

「たった一部屋掃除するだけでここまで時間がかかるのか……これはなれてない証拠か。これから頑張らないとなあ」

 

そう呟きながら天井をぼうっと眺める。と、途端に強い眠気を感じ、逆らう事が出来ずに俺の瞼は静かに降りて行った。

 

 

 

Φ   Φ   Φ   Φ   Φ

 

気が付けば一片の光もない真っ暗な場所に俺は立っていた。

肌で冷たさを感じながら、これが夢なんだと感覚的に察する。小さい頃は見ていたが最近は全く見なくなっている、そんなことをふと思い出し、少しだけ笑いがこぼれてしまう。

 

 

「なんだか幸せそうだね、よかったら聞かせてくれるかな?」

 

「ん?……誰だ?」

 

後ろから聞こえるかわいらしい声、そして今更ひんやりとした冷たさを背中で感じていた。誰かは言葉を続ける。

 

「僕は僕だよ、名前はまだない。でもいつかは分かると思うんだ」

 

「なんだ、猫みたいな自己紹介だな」

 

『吾輩は猫である。名前はまだない』。猫って名前があるじゃねえかと突っ込んだ子供のことを思い出し、また笑いがこぼれる。するとまた言葉が返ってくる。

 

「また笑ってる。で、どうかな。聞かせてもらっても?」

 

「いいけど面白い話じゃないぞ?」

 

「素の君の話が聞きたいんだ。僕はいつもここにいるときは一人だったからね。そういう小さなことでも今は興味があるんだ」

 

いつもここで一人か。もし夢の世界じゃなかったらそれは辛い事なんだろうな……

よし、それじゃあ話すか。と思ったが、口が動かない。後頭部に少しやわらかい感じの暖かさと全身に重さを感じ始める。

さて、これじゃあお別れも言えない。どうしようかと困っていると、彼女の方から助け舟を出してくれた。

 

「ん、もうお別れの時間かな。それじゃあまた逢えたらいいね―――」

 

言葉は次第に小さくなっていく。だがはっきりと聞こえた、『また逢えたらいいね』という言葉に心の中で返事を返す。

 

(ああ、また会おう)

 

その時は楽しい話をたくさんしよう。

 

 

 

Φ   Φ   Φ   Φ   Φ

 

 

目を開け、窓の外を見ると赤い色の光を感じる、どうやらすっかり日が暮れたようだ。

さっきのことは本当の出来事なのか、それともただの夢なのかはわからない。ただはっきりと覚えているのは背中に感じた冷たさ。普通の冷たさではなく、そこにあるはずの何かが無い様な不気味な冷たさだった。

 

(まあ考えてても仕方がないか。とりあえず整備の続きを……)

 

そう思い腕を上げようとすると途中で何かやわらかいものに当たる。と同時に誰かの声。

 

「ふにゅう~。涼風ちゃん、あんまりいたずらしないでぇ~……」

 

見上げるとそこには青く長い髪が特徴的な少女の顔があった。頭の後ろにはおそらく膝、つまり膝枕の体勢だ。自分が起きているときはこの少女はいなかったから、自分が寝てしまってから来たのだろう。

起こしてしまわないようにそっと抜け出し、今度は逆に彼女を持ち上げる。俗に言うお姫様抱っこの状態になってはいるが、他に誰もいないはず。持ってきた荷物の中から布団を引っ張り出し、そこに彼女を寝かせてあげた。今もスヤスヤと穏やかな寝息をたてている。

 

「ぐっすりおやすみ」

 

そう一言かけ、ついでに頭を軽く撫でてから部屋の外に出る。彼女が誰かは知らないが、今は休ませてあげるべきだろう、膝枕してくれたお返しだと思えば安いものだろう。次は食堂でも整備しよう、そう思っていたのだが……

 

「わっ、みつかってしまったのです」

「にげるがかちなのだ」

「しかしまわりこまれてしまった」

 

小さな小人たち、いわゆる妖精さんがそこにいた。

ふむ、と言う事はさっきの出来事も見られたのだろうか。質問してみる。

 

「さっきの、見てたか?」

 

「いえ、みてないのであります」

「おひめさまだっこだとかあたまをなでなでだとかみてないのだ」

「われわれはさいしょからいなかった、いいね」

 

「よし、バッチリ見てたんだな」

 

少し痛い目を見てもらおうか。

 

 

 

 

Φ   Φ   Φ   Φ   Φ

 

 

 

「うう、ひどいのです」

「われわれはただみていただけなのだ」

「ゆるしてください、なんでもしますから」

 

「はぁ、あまりするなよ。自分はかまわんが相手が嫌な場合があるからな」

 

とりあえず三人……三匹?の妖精には鉄槌を下した。気が晴れたかどうかは知らないが、こういう常識は踏まえていてほしいと思う。

 

「そういえばここにいる妖精はお前らだけか?」

 

「はい、そうなのです」

「ここのようせいは、かずがすくないうえ、はたらくばしょがほうちされつづけていたのだ」

「はたらきたくないでござる」

 

そういえばと言われてから思い出した。普段の使用率は高いため、きれいであるはずの執務室でさえあんな状況なのだ。妖精たちが使うあの設備もひどいありさまだろう。

ならそちらを優先すべきだろう、それから他のところの掃除も手伝ってもらって環境を整えよう。

 

「そうか、じゃあ次の次に整備するのは工廠にするか。お前らも暇だろう、妖精は寝ないものもいると聞く」

 

「それはまっかなうそなのです」

「われわれもやすむのだ」

「やめろー、しにたくないー」

 

うん、よくわからない。妖精の思考は人間と似ているが、どこかが違うらしい。

 

「だが今日は別のところをしようと思う。食堂、腹が減っては戦が出来ぬというだろう?」

 

「われらにおまかせするのです!」

「いっしゅんでおわらせるのだ!」

「やってやんよ!」

 

そして四人が拳を上に突き上げた。見た目はアレだったが、少しは賑やかな環境ではあるようだ。少しずつより良い場所に変えていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばここにきたかんむすさんとははなしたのです」

 

「ん?……ああ、寝ているようだから寝かせてきた。起きた時に名前を聞く事にするよ」




補足

『ジューヌ・エコール』
1860年代にあった、フランスの戦略の名前。
最初の駆逐艦は「ハヴォック」であるが、大量に発生した敵を駆逐するのには一艦では足りないと思ったので、戦略として評価され、大量の名無し艦を生み出したこの戦略の名前をとることにした。なので彼女ら単体に名前はなく、団体でジューヌ・エコールである。




ここまでご覧いただきありがとうございます。

次回までゆっくりとお待ちくださいませ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。