3月某日────
「春うらら」とは、よく言ったものだ。空が晴れ、柔らかくのどかにさした日。今日なんかにぴったりなんじゃないか?なんて何気なく考えつつ、俺“巳釧隆一”は歩を進める。
木々の隙間から僅かに覗く木漏れ日や、舗装の一つもされていない自然の絨毯………もとい、ただの獣道。
こんな面倒くさい道本来なら通りたくはないんだが、致し方ない理由というのも人にはある。
そもそもこの先に隠れ家を作ってしまった俺が悪いし、何よりお金様のためだ。
お金様のためなら喜んで歩いてやろうぞ。
そうしてなんとか、自分に言い訳をして若干上がった(というより上げた)モチベーションと、未だに大半を占めるやる気の無さを胸に抱え、歩く事数十分。
まるで、童話の中にでてくるような小さな山小屋が見えてきた。
「やっと着いた……」
ってか相変わらず小さいなー。雰囲気的にはヘンゼルとグレーテルでも住んでそうなんだが、残念。住んでんのはアイツだけなんだよな。
と、何が残念なのかイマイチ自分でも分からないまま山小屋の前へ。
そして近づくだけで、音もなく開く戸になんの感慨もなく足を運ぶ。
しかし、どうしてだろう。この半年間毎日やってきたはずの日課なのにどうしても慣れない。
お金を得れる、という喜びからなのか。はたまた次のイベントに対する期待なのか……。
(……まぁ、後者は俺に限ってないだろうな)
「扉を潜ると、イベント開始です。もう後戻りはできません。それでもよろしいですか?…………なんてな」
───吐いた言葉は風で靡く葉の音にかき消されていく。
何時もなら言わないそのセリフを唐突に呟いたこの瞬間、俺の人生は既に大きく変わり始めていたのかもしれない────
扉を潜った先、部屋の真ん中に置かれている小さな木の机上に豪華な便箋。
何気なく見回した部屋の隅には、一本の止まり木と此方を見つめる一羽の白鳩。
そう。この時。何故かは知らないが、何故か。今回は凄く面倒くさくなりそうな気がして。俺の脳裏にもう一度選択肢が流れ始めたんだ。
『この便箋を開くと、もう後戻りはできません。イベントを開始しますか?』
結局この先、選択肢で選ぶべきはNOだった、と何度も何度も何度でも後悔する事となる俺。
どちらにせよ面倒くさくなるとしても、選択肢はNOを選ぶべきはずだった。───というより、本当ならこの便箋が机上に置かれている事自体なかったはずなんだが……。
兎にも角にも。
こうして、イベント【緋弾のアリアとゲームの主人公?】はスタートを切った。
爽やかに吹く、春の風に流されながら─────