俺が武偵高に編入して3日目。つまり、あの神崎との決闘騒ぎがあった翌日。 今日も今日とて寝坊をした俺は4限目の授業だけを受けると、直ぐさま自クラスを飛び出し、屋上へと 避難していた。 屋上からの転落を防ぐために設置されているフェンス越しに、校舎を覗いてみると───────居た。居 やがったよ、うじゃうじゃと。
俺と同じクラスだけではない、見知らぬ顔ぶれもいるが…………。クラスで見たような奴もちらほらと いる。皆何かを探すようにキョロキョロしては、携帯で連絡を取り合って走り回る。 あいつらが探してるのは───────まぁ、十中八九俺だろう。理由は様々だろうが、探し人は間違い ない。予想はしていたが、まさかここまでとは。 それもこれも、あのミジンコ女神崎.H.アリアのせいだ。
(やっぱ決闘なんて受けんじゃなかった…………)
一般高から、武偵高に転校してきた一般人が、かの有名な強襲科の孤高の天才美少女を呆気なく打ち 破った。こんな大ニュースに食い付かない武偵高の生徒たちじゃないだろう。 そんなのは予測していたさ。
しかし、奴等の食い付きは俺の予想を大きく上回る勢いだった。一体俺に何を聞こうとしているのか までは解りかねるが、めんどくさい事になりそうなのだけは誰だって判りきっている。 それに、いまこうして屋上で隠れている間にも、俺を探す勢力はどんどんと増えていっているだろう。 興味本意のミーハー組。神崎を熱狂的に指示する、アリアファンクラブの亡者。そして、この期に乗 じて俺を抹殺せんとする非モテの会とやらの一部男子。
ミーハー組はまだ何とかなる。アイツらはただ、今話題になっている俺に興味がある程度なので、 ちょちょいと撒いちまえばそれで諦めるんだ。
そこで問題なのは、アリアファンクラブと非モテの会だ。 神崎みたいな幼児体型に魅入られてしまい、犯罪者予備軍にまで成り下がった実にくだらん変態集 団。「yesロリ、noぺド」が信条らしく、遠くから見守るストーカー行為を‘活動’と称すアリアファン クラブ。 そいつらは、俺にたいして3つ気に入らないところがあるらしい。
ご丁寧に、机の引き出しに溢れる 如く、赤い血文字で綴られた手紙が入っていた。
それによると────────
< ひとぉつ!! 貴様がアリアちゃんに勝つなど、あり得ないことだぁッ!!卑怯な手を使った貴様を 我々は許す気など毛頭なぁい!!
ふたぁッつ!! アリアちゃんを辱しめた事、許すべからぁず!!
みぃっつ!! アリアちゃんに触れるなど言語道断!!
我々アリアファンクラブの総力をもって、貴様を討つ事をここに宣言するッッ!!!! >
こんな内容の宣誓書がぎゅうぎゅうに詰め込まれていたのだ。俺は今、一種のいじめを受けているん じゃないかとも思うが、とりあえず置いておくとして。
次に、非モテの会とやら。こいつらに至っては、俺抹殺に至る動機が理解できない。
というより、非モテの会なんぞ恥さらし共が存在していること事態理解できない。
俺にとっては、宇宙人なんかよりよっぽど存在を疑う未知の存在だ。
チラッとフェンス越しに見た校舎のなか、頭にハチマキを巻いたひょっとこのお面で走り回る非モテ の会会員。ちょっとこえーわ。アイツら。てか、一番アイツらが多くねぇか……?
「ッ!?」
そんな末恐ろしい可能性が頭を過ったとき。屋上のドア付近に人の気配を感じた俺は急いでドアの 裏に隠れる。
ここなら、もしアリアファンクラブや非モテの会所属の敵が来た場合暗殺も可能だ。声も出す間も無 く、あの世に送れる。実際は俺の“能力”なら隠れなくてもよかったのだが……。
何だかここで使うのは もったいない気がした。
ガチャっとノブが回される音。
キィ……と軋みながらゆっくりと開くドア。
何故だかこの時間がスローモーションに感じられてしまって、焦れったく感じる。
コツコツ……足音からして、男。 ドアが空いた隙間から覗く後頭部は……お面をつけていないぞ。
となると可能性は3つ。アリアファンクラブの会員か、ミーハー組の連中。それとも全く関係ない生 徒。一体どれだ……?
後頭部は、右、左、右、と振られもう一度最後に左を確認して、何故か脱力。 そして遂に屋上へと足を踏み入れた。
「誰だ?」
突然後ろから、俺に声をかけられた男子生徒は勢いよくこっちを振り向く。 コイツ、どっかで見たこと……。
「ア、アレ?お前、巳釧、だよな……?どうしてこんなとこに?」
「質問を質問で返すな。お前は誰で、何の用でここに来た?」
こいつが誰だろうと本当はどうでもいい。大切なのは、敵か、そうじゃないか、だ。
「あぁ。俺は‘遠山キンジ’。下が騒がしいから、ここまで避難してきた。……ちなみに俺は、お前のクラ スメートだ」
クラスメート、の部分で引っ掛かりを覚える。どうやら敵では無さそうだが……こんな奴いたか?
「丁度良かった。巳釧に礼を言いたかったんだ。こないだの始業式の日はありがとう。あの後……まぁ いろいろ有ったんだが、助けてくれたのは感謝してる」
──────────いや、いた。確かにいたぞ。神崎のとなりにうっすらと。そしてコイツは“取り立て”の 対象だ。
「まぁまぁ良いってことよ。コレからじっくりと見積もり出すつもりだかんさ」
「……?見積もり……?」
よくわからないといった感じの遠山。まぁ分からなくてもいい。いまはまだ、な。
キンコンカーンと、丁度いいタイミングで昼休み終了のチャイム。さすがに、授業中にまで追いかけら れることはないだろう。これで、とりあえず今日は安心だ。
「あっそうだ。遠山」
チャイムが鳴ったので屋上から出ようとしていた遠山が、振り向く。
「“コレからよろしくな”」
気がつけば俺は、この先“大変後悔する事となる”一言を放っていた。