色々とあったんですよ色々と、、、聞かないでくれるとありがたい。
仕事上の関係から執筆がどうしても深夜になってしまうので誤字脱字があると思いますが、見つけた場合は容赦なく指摘してください。
ついでに感想一言頂けると嬉しいです、次話の参考になりますからねw。
と言うわけで13話決着編をどうぞ
「逃がさない…!
F-14のキャノピーにしがみついたバルクホルンは、サイドアームとして携行していたルガーP08拳銃をキャノピーに突き立てた、銃口の先はもちろんアンタレスだ
「エイリアンかテメェはぁ!」
アンタレスはバルクホルンに狙わせる隙を与えまいと必死で機体をロールさせた。そんな機動を取られれば、流石のバルクホルンも照準などできるはずもなく、振り落とされまいと必死に機体にしがみついていた
「良い加減に離れろ!
頭に来たアンタレスは操縦桿を思いっきり前に押しこむ。F-14の機首がガクンと下がり、機体は逆宙返りを始めた。
「うわぁ!」
強い-Gがバルクホルンを襲い、キャノピーにしがみつく体がフワッと浮かび上がった。怯んだバルクホルンは思わず手の力が抜け一気に機体の後方へと飛ばされた。だが、直後にF-14の機体が小刻みに揺れ始めた。
「なんだ!?空気流乱れてやがる!」
揺れ方から空気流の乱れによるものだと判断したアンタレスは後ろを振り返る。
「あっ」
そこには、垂直安定板に引っかかった弾薬ポーチのベルトにしがみ付くバルクホルンの姿があった。猛烈な風圧に耐えながらなんとかしがみついている状態だ。
「離れやがれ!壊れるだろうが!」
逆宙返りを続けるアンタレス。しかし、今度は機体異常を知らせる警報が鳴り響いた。
確認すると、可変翼のヒンジ部分に過剰な負荷がかかっているというのだった。
これは大体の航空機に言える事だが、航空機は+G対する耐久性はあっても、−Gに対する耐久性は+G程は無く、下手に逆宙返りをすると空中分解を起こす。また、エアインテークへの空気流も乱れるこの機動は、ただでさえ機体周辺の空気流が不安定のF-14には危険な行為だった。
「とっとと、離れろ!」
尚もしがみ続けるバルクホルンを退けるためアンタレスは更に機体をロールさせた。そしてついに引っかかっていたベルトが切れた。
「うわぁああ!」
放り投げられたバルクホルンは、真っ逆さまに雲の中へと落ちて行った。
AWACS"カノープス"機内
「10分経過」
「ソード1が現在上昇中」
「アンタレス2、ハルトマン機を追尾」
「現在の気象状況、やや雲が出始めました」
各オペレーターがレーダー上に映る情報を読み上げる中、バーフォードはアンタレス機の情報を映す画面に注目していた。
「バルクホルン大尉が雲の中に入りました。バルクホルン大尉をロスト」
「レーダー確認せよ」
「ダメです。やはり大気中に、レーダーに干渉するものがあります」
レーダー画面にはアンタレス機を表すブリップが映っている。しかし先程まであったバルクホルンのブリップが消えていた。
「雲の中までは見えませんね」
画面を操作するグレアムも溜息をつきながら各スイッチ切り替えたりしている。が、やはり映らない。
「恐らく大気中のエーテルね」
ミーナがノイズの走るレーダーを見て言った。
「ガランド少将から聞いています。その物質によりウィッチの飛行が可能だと」
「簡単に言えばそうです。エーテルがユニットの推進器、プロペラに反応してウィッチの飛行を可能にしています。またそのプロペラは、本来実体はないのですが、エーテルとの反応により可視化されると言う副次効果もあります」
「うーん、よくわからないですね」
「俺も」
グレアムとマイケルは苦笑いしながら言う
「少しレーダー波の周波数を変えてみてくれ。気休め程度でも改善されるかも知れん」
「了解」
バーフォードは画面上に映るブリップをみて微笑んだ。ここまで苦戦するアンタレスを見るのはいつぶりだろうか。そんな事を思いながら、まるで我が子の成長を見る父親のように。
「クソっ、奴はどこに行った…」
「こっちからは見えません」
先程雲の中に消えたバルクホルンを探すが、辺りを見回しても見えるのは雲のみだった。アンタレスに多少の焦りが出始める。しかし直後
「ッ!? 3時下方より銃撃!」
アンタレスは咄嗟に機体を反転させ、銃撃された方を見る。
雲の中から数発の弾丸が放たれ、やがて銃撃が止んだ。
「奴め、隠れんぼのつもりか?」
「一旦離れてますか?」
「いいや、音のする方を狙って撃って来てるだけだ。西部劇じゃあるまいし、拳銃弾なんかに当たってたまるかよ」
すると、下方の雲よりバルクホルンが出てきた。アンタレスもそれに気づく。
「出てきたな、奴めすごい形相してるな」
バルクホルンは鬼のような形相でアンタレスを睨みつけながら、真っ直ぐ彼らの方へ近づいていた。
「旋回して、後ろをとりましょう!バルクホルン大尉のFW190は水平面の旋回性が他の機体よりも劣っています」
サーニャが指示を出すがアンタレスはその指示を一蹴した
「ダメだ。いくらフォッケちゃんの旋回性が劣っていると言ってもそれはこの時代の機体と比べればの話だ。こっちはクリーン重量19トンの化け物だぞ?、旋回戦になればこっちが不利に決まってる」
「ならどうします? 」
アンタレスは数秒の間考えた後言った
「よし、ヘッドオンで賭けに出てやる。上手くいけばだが」
アンタレスはスロットルと操縦桿を引き上げインメルマンターン、機首を追ってくるバルクホルンへと向けた。
「やる気か?」
バルクホルンもその光景を見て自身のストライカーユニットの出力を最大まで上げた。握りしめたP08の照星は遥か彼方から突っ込んでくるF-14を捉えていた。
双方の距離は約二千、バルクホルンのP08の射程では到底届くはずのない距離だ。本来ならアンタレスはミサイルで狙える位置にいるが、操縦桿の兵装選択スイッチはGUNのままだ。HAD中央に見えるバルクホルンを注視しながら彼の額に汗が滲み出る
「落ち着け、俺は当たらない。落ち着け、落ち着け」
アンタレスは自己暗示をかけながら、徐々にスロットルを押し込む。
<<Warning !Warning!>>
距離が千メートルを切った瞬間、ニアミスを知らせる警報音と音声がコックピットに響き渡った。それと同時に、複数の銃弾が機体をかすめて後方へと流れていったのが見えた
「今だ!」
アンタレスは操縦桿をやや引きながら左に倒し、バレルロール機動を取った。
音速に迫る速度域での機動により、独特な風切り音が機体を包み込み、機体の一部では空気流が音速を超えた事によるフラッターと衝撃波が発生した。
「くそっ!当たれぇ!」
バルクホルンが放った銃弾は一発もかする事なくF-14の後方へと流れて言った。その光景を見たバルクホルンは、まるで自分の弾がF-14を避けているかの様にさえ見えた。そして、アンタレスと彼女が互いをすれ違ったその時
「うわっ!!」
突如バルクホルンが姿勢を崩した。アンタレスの乗るF-14はその機体形状ゆえ、機体周辺の気流は荒れまくっている。普通の航空機なら少し揺れる程度だが生身のウィッチにとっては脅威と言えるだろう。案の定、バルクホルンはアンタレスのウェイクタービュランスに捕まり、錐揉み状態となって失速、落下した
「くそっ!立て直さなければ!」
バルクホルンは手足を使って何とか姿勢を直そうとしが、失速状態から立て直すのは容易では無い。そして
「人ってのはな、感情的になると我を忘れて冷静な判断が出来なくなる生き物なんだ。お前ほどのヤツなら高速飛翔体の真後ろがどんな状態かくらいは分かるはずだ」
気づけば、落下するバルクホルンの後を追う形で機首をこちらに向けるF-14の姿があった。バルクホルンは咄嗟にP08の引き金を引くが、銃口から弾が出ることはなかった。弾切れだ、バルクホルンはその時点で錐揉み状態から回復し、後は引き起こしを行うだけだったが、時すでに遅かった。
「感情的になった時点でお前の負けは決まっていたんだ」
アンタレスがバルクホルンに照準を合わせてから1秒、2秒が過ぎ、ついに撃墜判定が下る3秒が過ぎようとしていた。『スプラッシュ』、そうアンタレスが言おうとした次の瞬間
《どけどけぇぇい!新撰組のお通りじゃあ!》
「うぉっ!」
突如、過激なロックンロールをバックに響かせながら、暴走族の雄叫びの様な声が無線に流れてきた。同時に二つの物体がバルクホルンとアンタレスの間を通過し、その衝撃により一瞬アンタレスの照準が外れた。その隙をバルクホルンは見逃さず、体を引き起こしアンタレスの射界から抜け出した
「あの野郎!」
アンタレスは、先程自身の目の前を突っ切った二つ物体の方向を見た。ソード隊の菅野と、それに追われる宮藤だった。
「うわぁあああ!」
宮藤は自身のストライカーユニットの出力を最大まで上げて逃げていた。
菅野らのソード隊は、開幕直後にシャーリーを難なく撃墜したのだが、アンタレスら同様に二手に分かれていたため、宮藤を追っていたソード2が彼女の。正確には彼女の装着した零式艦上戦闘脚のお家芸である左捻り込みの餌食なっていたのだ。
菅野はソード2の仇を取るべく、宮藤を追い回していた。
「助けてくださぁあーい!」
「逃げるな犬耳が!ソード2の仇だ!その首置いてけこのアマァ!」
宮藤を追う菅野。しかし、直後に菅野の乗るF-2の鼻先を数発の銃弾が通過した
「なにっ!?」
流石に驚いた菅野、宮藤はその好きに急降下で逃げて行った。銃弾の飛んできた方を見ると。そこにはアンタレスのF-14がいた
「何のつもりだ蠍!」
「テメェこそ!お前のせいで獲物逃したじゃねぇか!」
「はぁ!?、知るか!!俺は今まさにお前のせいで獲物逃したんだよ!」
演習中にも関わらず、二人は言い争いを始めた。
AWACS"カノープス"機内
「なんなんだアレは」
坂本は呆れた顔で画面を見ていた
AWACSの中央指揮ブロック、そこに設置された各機のコックピットカメラ映像が流れる画面には、互いにジェスチャーを交えながら罵倒し合うアンタレスと菅野の映像が流れていた。通信では文章に出来ない様な罵り言葉が流れている。その様子を、ウィッチ達やAWACSのクルーは見ていた
「おいおい、アンタレス1とソード1が言い争いを始めたぞ〜」
モニターを操作するマイケル・アリーナが、苦笑いをしながら言う
「その内レンチやらレバーを投げ始めるんじゃない?」
「ちょうど赤と青ですもんね」
ハザワとグレアムも言う
「全く…」
バーフォードは溜息を吐きながら呟いた
一方、その頃
「もう!なんで当たんないんだよ〜!」
ユニットの魔導エンジンをフル出力で回し、アンタレス2の操る、Su-35sを必死で追いかけるハルトマン。しかしユーリィことアンタレスに勝るとも劣らないアンタレス2相手にハルトマンは苦戦を強いられていた。
「偏差射撃しても意味ないし!ムカつく〜〜!」
ハルトマンや他のウィッチが今まで相手してきたネウロイの速度は精々600km/hから700km/h。しかし、アンタレス2のSu-35sは、800km/hから900km/hの速度域で、Su-27シリーズ特有の俊敏な運動性能をもって動き回っている。
偏差をしようとしても直ぐに射程距離外に離脱してしまう。そもそも機体の何メートル先を狙えばいいのか分からない。適切な偏差をしても当たる前に躱されてしまう。近づいては引き、引いては近づいての繰り返しに、ハルトマンはイラついていた。
「あぁー!面倒くさい!」
遂に頭に来たのか彼女の持つMG42を所構わず乱射しだした。だが
「あれ?」
弾切れだった。毎分1200発近くを誇るMG42を、いつものサドル型ドラムマガジンではなく、地上用の50発ドラムマガジンでためらいなく乱射したのだから無理もない。
「やっば!」
慌ててポーチから新しいマガジンを取り出そうとするハルトマンだが
《スプラッシュ》
「え?」
ハルトマンの被るヘッドセットに、"ピーピー"という電子音が鳴り響く。それは黒い悪魔の敗北を示していた。
AWACS"カノープス"機内
《節足動物が調子こいて空飛んでんじゃねぇ!砂漠で這いつくばってろ害虫野郎!》
《節足動物には空飛ぶ奴だって居るんだよダメ犬が!それを言うなら犬はアメリカンスキーのご機嫌取りでもしてろ!》
相変わらずアンタレスと菅野は言い争いを続けていた。カノープス内のオペレーター達のヘッドセットや、管制席に備えられて居るスピーカーからはその音声が流れていた。
「かれこれ十分以上もこれだよ」
「アンタレス…」
苦笑いをしながらモニターを見るアリーナと呆れた顔で頭を抱えるグレアム。すると
「あ、サーニャちゃんが無線を切った」
羽沢が、飛行している全員のシステム情報を映し出すモニターを見て言った。モニターの"A1-2 Litvyak"の表示の下にある無線機情報が全てOFF表示になっていた。
「そりゃそうだろ」
「女の子には聞くに耐えない言葉ズラズラ言ってますから」
とアリーナとグレアム
「ねーねーリーネ、"ふぁっきん"てどういう意味?」
「ルッキーニちゃんにはまだ早いです」
そんなやりとりの後、リネットはルッキーニの耳を手で塞いだ。
それを見ていたバーフォードは、無線機のマイクを掴みスイッチを入れた。
「訓練止め!アンタレス隊及びソード隊燃料限界。ウィッチ側の勝利」
《はぁっ!?》》
突然の敗北通知に二人は驚くとともに、バーフォードへの抗議を始めた。
《おいおい!まだ燃料は十分にある!》
《燃料切れ判定があるなんて聞いてない!》
「往復燃料も計算したか馬鹿共め、ただでさえ大喰らいのF-14で激しい加減速したんだ、本来ならとっくに燃料は底をついている。菅野一尉の方も然り」
《なんで俺まで!?》
「連帯責任だ。作戦行動中の無許可の私語、無許可の音楽プレーヤーの持ち込み及び無線の私的使用そして無断放送。不適切な発言と口喧嘩の罰だ。アンタレスと菅野一尉は帰ったら格納庫の掃除だ、わかったな?」
《ふざけるな!!》》
「おい、今すぐ島の対空部隊に撃墜許可を出してもいいのだぞ」
二人の抗議はバーフォードのその一言で止まった。明らかに先程までと声のトーンが違っている。ブチギレている時の声だと二人が理解するのに時間はかからなかった。
「返事は?」
《……イエス、ルテナント・カーネル》》
こうして、模擬空戦はウィッチーズの二機撃墜判定対戦闘機隊の連帯燃料切れ墜落判定というなんだかとても地味な結果により幕を閉じた。AWACS機内にいたウィッチ達は皆口を揃えてこう言った、『くだらない…』と。
もちろん、この演習の事は結果が結果なだけに全ての記録が抹消される事となった。
夕方、ミッドウェー島第三格納庫。
「私の負けだ」
「あ?」
箒を持って格納庫の掃除をするアンタレスにバルクホルンが頭を下げてきた。
「あの状況、もし実戦だったら貴様はいつでも撃つことはできた。いくら邪魔が入ったとはいえ本来なら負けていたのはこっちだ」
悔しそうな表情を浮かべるバルクホルン。しかし
「馬鹿馬鹿しい」
「え?」
「んなことまだ引きずってんのか?軍人なら過去を振り向くな」
キョトンとするバルクホルン、アンタレスは話を続けた。
「俺は単に、こっちの事情も知らないでとやかく言われて、挙げ句の果てに人殺し呼ばわりされたのが頭にきただけだ。しか〜し、もうソレは過去のこと。お前がそれ以上言わない限り俺からも言うつもりも無いし、喧嘩しようとも思わない」
予想外の発言にバルクホルンは黙ったままただ立ち尽くしていた。
「まぁ、俺も少し言いすぎた部分もあったな。すまん」
アンタレスはそういうとバルクホルンに頭を下げた。
「い、いや…私が……すまない」
流石に予想外すぎたのか、バルクホルンは動揺した。そしてまた頭を下げた
「ま、これでお互い様だ。これからは仲良くしようや」
そう言うとアンタレスは右手を差し出した、バルクホルンも右手を差し出し、二人で固い握手を交わす
「あぁ、ありがとう少佐」
「少佐はやめろ、階級で呼ばれるのは好きじゃないんだ。アンタレスでいい」
「そうか?。なら、私はトゥルーデと呼んでくれ、そう呼ばれてる」
「そうか、よろしくなトゥルークライムデーちゃん」
「誰が「真の犯罪日」だ!トゥルーデだ!。トゥ・ルー・デ!」
「HAHAHA!冗談だよ、冗談!。よろしくなトゥルーデ」
「全く…よろしく頼む!」
アンタレスの冗談に呆れつつも、再び握手を交わす二人。そんな二人をアンタレス隊のキースとアキラ、オペレーター達が見ていた
「とりあえず、ゴタゴタは解決したみたいですね」
「いい事じゃないか」
「えぇ」
「なんか友情芽生えたみたいだし」
「草生える」
「生やすな」
第三格納庫の隣、スクランブル待機室
演習を終えたウィッチ達は、ここでの待機するよう指示されていた。飲み物を飲んで談笑する宮藤とリーネ、待機室にいた島の整備兵を取っ捕まえ質問攻めにするシャーリーとルッキーニ、窓の外に見える機体をみて難しい話をする坂本とミーナ。初めて見るテレビモニターに興味津々のペリーヌと使いかたを得意げに教えるエイラ。
そんな中、ハルトマンはソファに寝っ転がり、本棚に置いてあった本を読んでいた。本の題名は『エーリッヒ・ハルトマン、世界最多撃墜王の生涯』だ。
なんとなくページをパラパラ捲り、読み流している様だった。
「ハァ……つまんないの」
ハルトマンがそう呟いた直後、待機室の格納庫へ通じる扉が開いた。そこに居たのはアンタレス2ことアレクセイだった。
彼は待機室に入るやいなや、ハルトマンに話しかける。
「おい」
「なに?」
ハルトマンは本に目を向けたまま返事をする
「ムカつくだろ」
「バカにしに来たの?」
「俺そんなことしない」
「じゃあ何?私達あまり男と喋るなってミーナに言われてるんだけど」
待機室内の空気が変わる。
「腕は良かった。もし仮に俺がレシプロ機に乗ってたら負けていただろう」
「何が言いたいの?」
「自分らより高速域の敵を相手するなら、1v1は絶対にするな、ロッテを組む意味がない。今回の演習は、結果はともかく勝敗はほぼ会敵直後に決まっていたといっても過言ではない」
アレクセイは今日の戦闘についての説教を始めた
「もしお前らが2v2で挑んで来ていたら俺らもかなり苦戦していただろうが、あの時こっちの誘いに乗ってくれたおかげでそれは避けれた。まぁ、奴は1v1でも苦戦していたが。それだけ彼女の腕があったとしておこう」
「言っとくけど、私はトゥルーデより強いよ。撃墜数だって私の方が多いし」
「スコアだけで威張るな!」
「っ!?」
アレクセイの表情がこわばる。ハルトマンも流石にビクッとなり、アレクセイの方を見る。
「はっきり言う、俺だって強い。場合によっては隊で一番強いかもしれん。数えてるわけじゃないが、下手すりゃ単独撃墜数はあのバカより上だ。だがな、現にアンタレス隊の隊長は俺でなく奴だ。お前のところでも、バルクホルンがお前より立場が上だだろ。その意味を理解しろ」
「それは、トゥルーデが私よりも階級が上だから」
「戦場で階級なんぞ関係ない、実力の世界だ。あのバカも、そのガキも実力で今の立場を勝ち取った。ならお前はどうだ?、スコアが高くても実力はあるか?彼女以上の器か?」
ハルトマンはうつむき、黙ってしまった
「黙ってると言うことはお前も理解しているんだろう。お前は彼女以上の器では無い。無論俺も奴ほどの器では無いって事だ。自分の腕を信じるのはいいが過信は絶対にするな。どこの世界にも、戦場でやってはいけないことが二つある、過信と慢心だ。実戦じゃなくて良かったな」
そう言うと、アレクセイは"邪魔したな"と言い、再び格納庫の方へと戻ろうとした。その時
「ねぇ…君って名前なんだっけ?」
ハルトマンがアレクセイに聞く、アレクセイは振り向き答えた
「アレクセイ」
「アレクセイ、次は絶対殺す!」
「チビに"殺す"と言われてもなぁ」
「負けないって意味だよ?」
「なら俺も。次"も"殺す」
互いに顔を見てニヤリと微笑んだ。
再び第三格納庫内
「バルクホルン大尉」
F-14を見ていたバルクホルンにバーフォードが話しかける
「何でしょう中佐?」
「昨日の彼の言葉、覚えてるかね?」
「たしか『銃は女が握るもんじゃない、女は黙って家事して…』だったような」
バルクホルンが答えると、バーフォードはさらに続ける
「『銃は男に任せて、女性は家庭を築き守るべきだ』」
「え…?」
バーフォードの言葉にバルクホルンは少しびっくりした様子だ
「奴はそう言いたかったんだろう」
「まさか…」
「奴は、口は乱暴だが根は優しい男だ」
すると
「さっさと手ェ動かせ犬コロ!」
「うるせぇ害虫が!元はと言えばテメェのせいで俺までこうしてる羽目になったんだろうが!」
罰掃除をしていた菅野とアンタレスがまたも小競り合いを始めた
「テメェが目の前に出なきゃ良かったんだよ!文句があるなら国に帰りやがれ!」
「先祖が上手いことやってればここがその国になってたんだ、よっ!」
「何しやがるイエローモンキー!」
「痛ぇなこの毒虫!」
「やるかコラァ!」
「上等だワレェ!!」
双方の拳が交差しようとした瞬間、バーフォードの投げたレンチとクランプが2人の頭を直撃し、小競り合いは終わりを迎えた。
「しかし、あの操縦の腕前は見事だった。正直こいつを操っているのはネウロイなんじゃないかと思ったくらいだ
バルクホルンはF-14のノーズを撫でながらコックピットを見上げて言った、元の灰色ロービジ塗装の上に所々若干赤みがかった灰色のデジタル迷彩が施された機体は、昼間の轟音を轟かせていたのが嘘のように静かに格納庫内に鎮座していた。すると…
「Hey German, that part is painted freshly(おいドイツ人、そこペンキ塗りたてだぞ)」
近くで作業をしていた整備クルーがバルクホルンに言った。その言葉を聞いたバルクホルンは『え?』という表情をしながら機体に触れた左手を見た。赤みがかった灰色、明らかにF-14の塗料が彼女の掌を染めていた
「ぎゃははははっ!だっせぇ〜!はははh、ッブハァ!
バルクホルンの様子を見ていたアンタレスは大声で笑った。が、直後彼女はアンタレスの後頭部を掴み彼の顔を勢いよく塗料塗りたて部分に押し付けた
「ははははは!!『ブハァ』だってよ!雑魚ぉお〜o…っグギァ!」
それを見た菅野がこれでもかという様に笑ったが、今度はアンタレスの放ったレンチが顔面を直撃し笑い声はとまった。無論その後再び2人の小競り合いが再び始まり、またもバーフォードによって止められたことは言うまでも無い。
ミッドウェー島沖 南300km上空 夜明け前
…MS社所属P-3C哨戒機…
「間もなく交代の時間です」
P-3のコックピットやや後ろ中央に座るフライトエンジニアが、腕時計を見てパイロットに伝えた
「この世界に来て今日で一週間ちょいか、色々ある過ぎた一週間だった」
「あり過ぎたと言っても、俺たちはただ旧式の貨物船やらバラ積み船の写真撮ってただけでしょう?」
『はははは』
哨戒機のクルー達は、機内無線で冗談や雑談しながら、残り少ない任務時間を過ごしていた。
「11時の方向、日の出を確認」
「綺麗だなぁ.....ん?」
航法通信員が、機長席後ろにある涙滴型の観測窓から外を見ていると、オレンジ色に染まった海洋にポツンと出っ張る黒い物体を発見した。
「洋上に不明物発見!十時の方向!」
「漂流物か?漁船なんてオチじゃないだろうな?
機長もその方向をみると、四角形の塔の様な物が洋上に浮かんでいるのが見えた。長年哨戒機勤務をしている機長には、それが何かすぐにわかった
「ありゃ潜水艦のセイルだ」
「ハワイですか?」
副操縦士も物体を見て言う
「USSハワイがミッドウェーから出航したとの連絡は入っていない。写真撮影用意、リストを確認。対潜水艦対処行動プログラム開始」
機長の指示と共に、先程までののんびりした空気は一変し、機内は張り詰めた空気に変わった。先程の広報通信員が観測窓から望遠カメラで撮影を開始する
「米領海内ではないですが大丈夫ですか?
副操縦士が地図を見ながら機長に告げる
「島まで約300km、排他的経済水域内だ。警告くらいなら問題はない」
そう言うと、機長は無線のチャンネルをミッドウェーコントロールに合わせた。
「リバイアサン52からミッドウェーコントロールへ、沖合で潜水艦のセイルと思しきものを確認した。現在対潜水艦対処行動を実行中。該艦の現在位置は方位…」
「潜水艦針路変更!南の方向へ向かっています!」
位置を送ろうとした途端、潜水艦は進路を変えて遁走するかの様に南へ進路を取った。
「ブリタニアでもミッドウェーでもないとすると、一体どこへ…?」
機長は双眼鏡を手にし、該艦のセイルを見た。明らかに1940年代の潜水艦ではないのはすぐにわかった。セイルの形状に、機長と副操縦士は見覚えがあった。
「リバイアサン52からミッドウェーコントロールへ、該艦はロシアのキロ級に酷似、該艦はこの時代の物にあらず。現在南に遁走中」
《ミッドウェーコントロール了解。リバイアサン52へ、現在位置を報告せよ》
「現在位置はミッドウェー島から南の沖合約162海里、座標はサウス…
《ビィィィ!ビィィィ!ビィィィ!》
機長が座標を言いかけた途端、コックピット左に設置された緊急を表す赤色灯が、アラームと共に点滅しだした。それはMAWS(ミサイル警報装置)のアラーム、つまり自機がミサイルにロックオンされた事を表していた
「ミサイル警報!ロックされました!」
「対空ミサイルかッ!?」
航法通信員は「まさかっ!?」と言いたげな表情で窓の外を見る。ロシアの潜水艦は原潜も含めて、自衛用の対空ミサイルを搭載するのがソビエト・ロシア潜水艦の特色の一つだったのだ
「回避機動!シートベルトを!無理な奴はどこでも良いから掴まれ!チャフ・フレア放出!」
機長がチャフ・フレア ディスペンサーの作動装置に手を伸ばす。機体の上下から花火の様に燃えるフレアが次々と放出され、光のカーテンを作り出す。しかし
「間に合いません!」
機長がコックピットの窓から外を見ると、道路標識の支柱程の大きさのミサイルが、炎と煙を吐きながら向かって来るのが確認できた。と、同時にあれほど小さなミサイルがハッキリと見えるということは、すなわち到底回避できる距離ではない事を意味していた
「衝撃に備っ…!」
大西洋に、不穏な空気が流れ始めた
演習も終わりを迎えたアンタレスらとウィッチ達。そんな中、事は重大な方向へと動いていく。
陰謀か、謀略か…アンタレスとウィッチ達を待ち受けるものとは……
次回『我が名は天駆ける蠍アンタレス』
第14話_不穏な空気_
お楽しみに!