この世界は糞だ。
俺はそんな事を毎日思いながら暮らしていた。
決められて時間に起き、決められて時間に学校、会社に向い、決められて時間に帰る。
こんな事を何十年も続けていたらおかしくなる。
幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、社会
大人になってもやる事は変わらない。
1部の人間だけがこんな糞みたいな人生の中で充実できる、そう思っていた。
「貴方は食べてもいい人類?」
俺の下に1人?の少女が現れた。
ーー
会社帰り、俺はいつものサービス残業をしていた。上司、先輩たちは皆新人に仕事を押し付けてのうのうと定時に帰っていく。
そしてその新人が成功すると「俺が育てた!」「いいや、俺のおかげだ!」と騒ぎ出す。
俺はそんな道を通れず、28歳独身という最悪の人生を辿っていた。同期は皆やめるか出世し、挙げ句の果てには新人にも馬鹿にされ、毎日死にたいと思っていた。
俺はこの会社の役に立てているのか?
俺がいなくても会社は別に構わないのでは?
俺の居場所はこの会社には無いのではないか?
毎日こんな事を思いながら仕事をしている。
そして今回も上司に仕事を押し付けられ、22時頃に仕事が終わり、今帰っている途中だ。別に今日が金曜日だ、というわけでは無い。しかし、いつもの事だと割り切って仕事をしているのだ。
俺は自炊は出来るが、この時間だとめんどくさいからコンビニ弁当でいつも済ませている。
身体には悪いが手軽に済ませてしまえるのが魅力だ。
いつもと変わらないはずの帰り道、しかし今日だけは少し違った。
俺はよく気分で帰り道を変えている。今回も少し遠回りだが大きな公園を通る道を選んだ。
どうしてこの道を選んだのかはわからない。クサい言い方をすると、運命だったのではないかと思う。
このルートを通る時は必ず公園の中を通る。単純にその方が近いからだ。色々な遊具を見ながらこの公園を去るのだが、今回は違った。
1人の少女がブランコで遊んでいる。
ーー俺は困惑した。
どうしてこんな時間に子供が公園で遊んでいるのか?
そして、その少女は今の日本には馴染みの無い服装と髪の色をしている。
親が染めたのか?
そんなどうでもいい事を想像して、やめた。
俺には関係の無い事だ、さっさと帰って風呂入って寝る。
俺の人生はそんなものだ、俺はこの世界の歯車、いやネジでしかない。
世界を動かす役割なんて俺には出来ない、相応しくない。ただただ日々を繋ぎ止める事しか出来ない。
俺はまた歩みを始めようとすると、その少女が目の前に移動していた。
変なおっさんに見られて不思議に思ったのだろう、その少女は笑顔で俺を見つめている。
さすがにここまでされたら無視するわけにはいかない。
「子供の遊ぶ時間じゃないぞ、さっさとお家に帰りな」
長く話すのもめんどくさかったので、ひと言言って立ち去ろうとする。
「お腹すいたわ」
俺の顔を見つめながら言った。
多分コンビニで買った弁当の匂いに気付いたのだろう。
だがこれをあげると明日の仕事に支障をきたす事になってしまうので、あげる事は出来ない。
「そうか、ならお母さんにご飯作って貰う為に帰ったらどうだ?」
「母は居ないわ、ついでに父もいない」
それだけ聞いて俺はすぐにこの少女に同情してしまった。俺はなんて甘い人間なんだろうと思いながらも、既に心は決まっていた。
「そっか、じゃあこの中のものを1つだけお前にあげよう」
正直弁当だけは勘弁してほしいが、男に2言は無い。
「なんでもいいの?」
「ああ、好きなものを言ってみろ」
「それじゃあ……、貴方を頂戴」
「……は?」
俺は聞き違いかと思い、もう1度聞こうとする。
「貴方は食べてもいい人類?」
少女が醸し出す異様な雰囲気に気圧されてしまう。
ーー間違いない、この子は俺を望みだ。
「食べてもいい人類なのかしら?」
少女の眼を見ると、この世の物とは思えないほど恐ろしい眼をしていた。
瞬間、俺はこの少女に食べられるのだと悟った。
だけど、俺は酷く冷静になれた。
そして俺は結論を出す。
「……そうだな、食べてもいいぞ」
「……は?」
少女もこの答えは予想外の様だ。
「出来るなら痛みなくやってくれ」
俺は生きている利点を探そうとしたら、何もなかった。
俺が生きてきた人生で、死んだら悲しむ人間を考えたら、両親以外思いつかなかった。28年生きてきて親友と呼べる者はいない、さらに友人と呼べるような者も思いつかなかった。これから生きてても何も変わらないだろう。だったら今が死ぬチャンスなのではないかと思い、少女に告げる。
「俺は生きている意味が分からないんだ、生きていていい事が何1つ思いつかなかった、だから君に喰われた方が役に立つかなって思ったんだ」
「そう、それじゃあ……」
俺はギュッと目を瞑った。
これでこんな糞みたいな生活とおさらば出来る。何故かこれまでに感じた事の無い達成感みたいなもを感じた。
何一つ役に立てなかった俺が、少女の役に立とうとしている、俺はそれだけで十分だった。
「やめさせてもらうわ、そっちの大きいやつ頂戴」
「……え?」
「早くしなさいよ、冷めちゃうじゃない」
「え?、あ、うん」
ーーショックが隠せなかった
やっと死ねる、意味のある終わりを迎えられると思ったのに……
「ど、どうして俺にしなかったの?」
「だってつまらないんだもの」
「つまらない?」
「必死に生きようとしている人間はとても美味しいのよ、貴方は自ら死を選んだ、そんな人間美味しいわけないじゃない」
「貴方が美味しい人間になるまで待っててあげるわ、それじゃあね、『美味しくない人間』」
そう言って彼女は闇に消えた。
1番持って行ってほしくない弁当を持っていかれて……
だけど今はそんな事はどうでもよかった。あの少女にまで俺は必要とされていなかった、俺はそれが悲しくて仕方が無かった。
ーー
あれから数年が経った。
俺はあの少女の言った『美味しい人間』になるのを目標にした。同期や上司には今更頑張ったって出世できないだろうと笑われたが、俺の目標はそんな小さな物じゃない。
彼女の言った『美味しい人間』は今この世に何人いるのだろうか?
多分日本中探しても良くて数百人、悪くて数人だろう。
昔の俺は金を持っている奴が『美味しい人間』だと思っていたが、恐らく違うだろう。金を持っていなくても『美味しい人間』になる事は出来る、俺はそう思っている。
今日も俺はサービス残業をして、コンビニで弁当を買った。俺は確信めいたものを抱いてあの公園に向う。恐らく俺は『美味しい人間』になれていると思う。
あの公園にあの時の少女は居た。前と同じようにブランコに乗って遊んでいた。俺は自ら少女に近づきこう尋ねた。
「俺は食べられてもいい人間か?」
「・・・そうね、今の貴方はとっても美味しそうよ」
2人で顔を見合わせて笑った。
「それじゃあ、貴方は食べてもいい人類?」
「そうだなぁ、今は食べて欲しくないかな?」
「フフッ、そうでしょうね」
少女が微笑む、つられて俺も笑う。
「君の名前はなんて言うんだい?」
「私の名前はルーミア、貴方は?」
「俺の名前は○○、よかったら俺と一緒に弁当食べないか?、前と同じやつだけど」
「新しいやつが良かったわ、まぁ気にしないけど」
俺は少女に社会の不満をぶつけた。
少女はイヤな顔せず、ただ俺の話しに合わせてコロコロ表情を変化させる。その反応が嬉しくて更に舌が乗る。
だけど、楽しい時間も終わりが来る。
夜明け前に少女は突然立ち上がり、
「そろそろ帰らなくちゃ、さようなら、おにいさん」
「え?ちょっと……」
俺の返事を待たずに、闇の中に消えていった。
突然の事で驚いたが、少女はいつも突然だなぁと、納得する。
夜が明けたら仕事があると言う憂鬱感よりも、心がスッキリしていて、晴ればれした気持ちだ。
俺は心の中で少女に礼を告げて家に帰った。
ーー
それから少女、ルーミアは2度と俺の目の前に現れなかった。ルーミアはきっと、人間の心の闇が具現化した存在なんだと思う。
俺の心の闇が少なくなった事で俺の前に現れなくなった。
そう考えると、俺は目標にしていた『美味しい人間』になれたのかなれなかったのか分からなくなり、少し淋しくなった。