現代に現れる幻想   作:白鳥ダイヤ

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テーマは情熱


氷の招待状

お盆の日、僕はお父さんとお母さんに連れられて、おじいちゃん達が住んでいる田舎に向かっている。たくさん見えていたビルも、今は田んぼや畑に変わっている。

僕はこの時期が嫌いだ。

別におじいちゃん達が嫌いって訳では無い、会えるのは楽しみにしてる。だけど、それだけしか楽しみがないのだ。森と山しか無く、1人で遊ぶには結構辛い。

僕はゲームしてる方が好きだけど、おじいちゃんの家では出来なくて、毎回退屈な思いをしている。

 

 

ーー

 

 

似たような景色が続く中、ようやく目的地に着いた。

ずっと座っていたせいか、お尻が痛い……。

大きくノビをして、身体をほぐしながら家の中に入る。久しぶりのおじいちゃんの家は多少の変化はあったけど、大きな違いは無く、着いて早々に退屈になってしまった。退屈なのはもうこりごりなので外に向かう事にする。

そうと決まれば直ぐに準備をしよう!

準備と言っても持って行くものはタオルだけだけど……。おじいちゃんとおばあちゃんに軽く挨拶をして外に出る。両親は暗くならない内に帰ってくるよう言って見送ってくれた。外に出てもやる事は無いけど、家の中にいるよりはマシだと思ったからだ。だけど、外に出てすぐに後悔する。

 

「……暑い」

 

余りの暑さに思わず愚痴る。

家の中でゴロゴロしていた方が良かったかもしれない……。

だけど今更家に帰るのは、なんか恥ずかしくて嫌だ。とりあえず今はここより涼しい場所に向かう。

ーー日の光が遮られる森なんてどうだろうか?

それに森の中には小さめの湖がある、軽く水遊びするのもいいと思う。首に掛けてあるタオルで汗を拭い、早足で森に向かう。

 

 

 

森の中は比較的涼しく、木々から見える葉洩れ日と虫達の鳴き声は、都会では見られない幻想的な風景を写していた。

しばらくこの景色に圧倒されていたけど、段々と暑さを感じて来て、湖に向かう。森の道は軽く整備されていて、迷う心配なく湖まで進める。

景色を見ながら奥に進んでいると、ふと、冷んやりとした空気が頬を撫でていった。

 

(湖からの風かな?でも凄く冷たいな……)

 

水辺を通った風にしても、とても冷たい。気になって冷えた空気の方へ進む。湖に近付くにつれ、温度もどんどん下がっていく。さっきまでは暑かったのに、今は少し寒い。もう少しで目的の場所に、不思議な何かがある場所に着く。

 

 

 

森を抜けると、小さな湖が目の前に広がる。おそらくここに何かがあるはずだ、そう思い辺りを見渡す。

そして、湖の側に座り込んでいる少女を見つける。

水色の髪に青いリボン、青と白のワンピース、そして背中側にある羽のような6本の氷。

先ほどの風景とは比べ物にならない程、幻想的な光景がここにあった。

つまらなさそうに座り込んでいる少女は僕を見つけると、バッと空を飛んで僕に近づいて来た。

 

「お前!ここはチルノ様の縄張りだぞ!何の用だ!」

 

少女、チルノは僕を見下ろしながら言う。何で空を飛んでいるのか疑問に思ったけど、チルノの質問に答える事にする。

 

「あ、暑かったから、ここに涼みに来たんだ」

 

「そうか!なら許そう!」

 

チルノはそう言って僕の側に降りる。

突然、冷気がブワッと僕の全身を包み、思わずぶるっと震える。チルノは一瞬悲しそうな表情になるが、直ぐに笑顔で話しかけてくる。

 

「どうしてか今日は誰も来なくて暇だったんだ、お前、あたいと遊べ!」

 

お前と言われてムッとする。

 

「お前じゃない、僕は◯×だ」

 

「悪かった◯×、あたいはチルノ!それじゃあ遊ぶぞ!」

 

チルノは奥を指差しながら飛んで行く。チルノの飛ぶスピードが速くて、とてもじゃないが追いつけない。

 

「チルノ!待って!僕は空を飛べないよ!」

 

置いていかれないように走りながらチルノに向かって叫ぶ。

 

「◯×は空を飛べない人間なのか」

 

「普通は飛べないよ…」

 

「あたいの知ってる人間は空を飛べるぞ」

 

「普通の人間は飛べないよ!」

 

チルノの近くに行き、膝に手をついて乱れた呼吸を整える。僕が飛べない事を知ると、飛ぶのをやめてくれた。

 

「あたいの知ってる人間に紅白の巫女がいるんだけど、めちゃくちゃ強くてめちゃくちゃ怖いんだ」

 

「巫女?」

 

「そう!何とかの巫女って言うんだけど忘れちゃった、でもサイキョーのあたいならラクショーね!」

 

えっへんと、胸を張るチルノ。

おそらく見栄を張っているんだろうけど、わざわざ突っ込む必要は無いので流す事にする。

 

「気になってたんだけど、チルノって何なの?その背中にあるのは何?」

 

「あたいか?あたいは氷の妖精、コレは羽根」

 

そう言ってチルノは羽根をぴょこぴょこ動かす。

氷の妖精か、だからこんなに冷えるのか……。

真夏なのに寒さを感じるのは、チルノがいるからだと納得する。そして、何処にも繋がっていないのに動く羽根に触ろうとする。

 

「触っちゃダメ!!」

 

僕に触らせないように素早く後ろに飛び退くチルノ。

チルノの過剰な反応にびっくりする。

 

「もしかして嫌だった?だったらゴメンね」

 

「嫌じゃ無いけど…、触ったら◯×、怪我しちゃう」

 

申し訳なさそうにしてるチルノを見て、僕の軽率な行動に後悔する。何とか話題を変えようと辺りを見渡す。

 

「あ、あれ見て!カエルだよ!」

 

ぴょんぴょん跳ねてるカエルを見つける。

 

「カエル!?何処何処!?」

 

さっきとは打って変わって、キラキラした表情を見せるチルノに、ドキッとする。

 

「ほら!あそこあそこ!」

 

「よ〜し!氷の妖精の力、見せてあげる!」

 

チルノはカエルに手を向ける。

何をするのか見ていると、チルノの手から青白い光が出て来る。

狙いを付けて発射された光は、一直線にカエルに向かって行き、カエルに直撃する。

当たった瞬間、強く発光して、カチコチに凍ったカエルが現れた。

 

「す、すごい!これチルノがやったの!?」

 

「そうだよ!凄いだろ!」

 

大きく胸を張っているチルノ。

チルノの言っているサイキョーは、案外嘘じゃないのかもしれないと素直に思う。

 

「チルノはどんな物でも凍らせる事が出来るの?」

 

「全てじゃないけどね、大抵の物ならラクショーよ!」

 

「じゃあアレ!アレとかは!?」

 

「任せなさい!」

 

それからは、僕がリクエストした物をチルノが凍らせると言った遊びをしていた。飽きもせず、アレを凍らせて、コレを凍らせてと言った。チルノもめんどくさがらずに、僕がリクエストした物全てを凍らせてくれた。

 

 

 

夕陽が射し始めた頃に、僕の身体に異変が起きる。身体を動かすのがダルくなって来て、視界が霞み始めた。最初は疲れただけかと思ったけど、違う事に気付いた。

 

ーー身体がとても冷える。

 

どうやらチルノの側に長く居過ぎたようだ。きっと何度も僕みたいな事があったんだろう。だからチルノは人の体調や怪我に敏感なのだ。

 

「……◯×、もしかして具合悪い?」

 

チルノに心配掛けない為に、なるべく普通にしていたけど、どうやらバレたみたいだ。

 

「そんな事ないよ…」

 

「嘘つかないで!こんなに辛そうな顔してる!」

 

今僕がどんな表情をしているのか分からないけど、きっとチルノの方が僕より何倍も苦しそうな顔をしてる。

 

「ごめん、あたいが近くにいたから……」

 

「そんな事無い!」

 

思わず叫ぶ、チルノは驚いた顔をしている。

 

「僕の体調が悪くなったのは、僕の所為だ!チルノは関係無いよ!」

 

「でも……」

 

モジモジしてるチルノに何か言い返そうとしたけど、叫んで頭に血が上り、その場に倒れそうになる。

 

「危ない!?」

 

チルノは僕を支えようと手を伸ばすけど、途中で止まる。

また僕の身体を気遣ったみたいだけど、その好意が腹立たしい。

だから僕は、宙を漂っているその手を捕まえる。

僕自身、何処にこんな力があるのか分からない程強く握る。

チルノの手はとても冷たくて、思わず顔が歪む。

 

「ダメ!怪我しちゃう!」

 

チルノは優しく離そうとするけど、意地でも離さないように、更に力を込める。

 

「大丈夫、だよ」

 

「え?」

 

「チルノは、優しいから、きっと、大丈夫」

 

根拠のない自信、だけど確信してる。

たった半日しか一緒にいなかったけど、チルノの強さを、優しさを。

 

「だって、チルノは、サイキョー、だから」

 

そして、チルノの手から暖かさを感じた。

僕の幻覚かもしれないけど、確かに感じた。

 

「ほら、こんなにあったかいよ…」

 

チルノの手を僕の頬に持っていく。やっぱり幻覚なんかじゃない。チルノの手は暖かかった。

 

「チルノちゃん!?」

 

不意に空から声が聞こえる。ハッと、チルノは声のした方に振り向く。僕はとうとう限界が来てしまい、その場に崩れ落ちる。

 

「大ちゃん!◯×が!」

 

どうやらチルノの友達らしい。大ちゃんは側に座り込み、僕の事を見ている。

 

「大丈夫、任せて」

 

「お願い!」

 

僕の胸に手を伸ばして、手から火を出す。

その火は全然熱くなくて、とても心地よく、僕の冷えた身体を、心を溶かしていく。

チルノはじっとしていられないのか、その場をウロウロしていて、少し面白い。

 

暫くすると、治療が終わったのか、火を出すのをやめる。

 

「ふぅ、もう大丈夫だよ」

 

「良かった〜…」

 

「あたい、もうダメかと…」

 

目の端に溜まった涙を拭うチルノ。

また僕は軽率な行動をしたのかと自己嫌悪に陥っていると、

 

「多分私が来なくてもこの子は助かったと思うよ?」

 

「そーなの?」

 

「うん、私が来た時にはこの子の冷えた心は溶け始めてた、きっとチルノちゃんが溶かしてたんだよ」

 

あの時感じた暖かさは幻覚じゃなかったんだと、一安心する。

 

「やっぱり、チルノはスゴイね」

 

「……トーゼンでしょ!?なんたってあたいはサイキョーだからね!」

 

にひひと、今日1番の笑顔を見せる。

僕の心臓も、今日1番の高鳴りを見せた。

 

ーーあぁ、そうか、僕はチルノの事が好きになったんだ。

 

鼓動が早くなる。

心臓が強く脈を打つ、チルノに聞こえてないか不安になる。

 

「顔が赤いぞ?まだ辛いのか?」

 

心配そうにチルノが顔を覗き込む、カァ〜っと更に顔が赤くなるのを感じる。

 

「ち、違うよ!///夏だから!///暑いからだよ!///」

 

「フフッ♪」

 

多分大ちゃんと呼ばれた子にはバレたみたいで、更に恥ずかしくなる。

チルノは分かっていないみたいで不思議そうな顔をしてる。大ちゃんは笑顔で見守っていたけど、突然ハッとする。

 

「チルノちゃん!急ごう!帰れなくなっちゃう!」

 

「え、帰れなくなる?」

 

「そう!此処は幻想郷じゃないんだよ!」

 

「えええぇぇ〜!!」

 

どうやらチルノ達は急がないとヤバいらしい。とても寂しいけど、しょうがない。

 

「また、また会えるよね?」

 

泣きそうになったけど、下唇を噛んで我慢する。

 

「うん!あたいがホショーしてあげる!」

 

「じゃあ、指切りしよう」

 

チルノに小指を差し出す。

 

「…指切り」

 

「そう、指切り」

 

チルノは遠慮ガチに小指を絡める。

その指は最初の冷たさは無く、とても暖かく、そして赤かった。

 

「それじゃあ、行くよ〜」

 

「「ゆーびきーりげーんまーん!嘘つーいたーらはーりせーんぼーんのーーます!ゆびきった!!」」

 

終わりと同時に、僕たちは勢い良く手を離し、お互い笑い合う。

 

「それじゃあ、待たね!」

 

笑顔で手を振る、目から涙が流れて来たけど、チルノの姿を目に焼き付けるため無視する。

 

「バイバーイ!」

 

チルノは元気よく手を振り返す。大ちゃんはペコリと頭を下げ、空を飛ぶ。チルノも、後を追うように素早く飛ぶ。夕陽が目に刺さるが、チルノ達が見えなくなるまで手を振り続ける。

 

 

チルノ達が見えなくなり、僕も帰ろうとすると、遠くから僕を呼ぶ声が聞こえる。もう直ぐ夜になるのに、帰って来ないから探しに来たみたいだ。

走って声のする方に向かおうとするが、足に力が入らなくて、転んでしまう。お父さんとお母さんが駆け寄る音を聞きながら、僕は意識を失う。

 

 

ーー

 

 

眼が覚めると、僕はおじいちゃんの家に戻っていた。思った通り、帰りの遅い僕を心配して探しに来たらしい。

ひどい熱で、朝までずっと眠っていたらしいけど、不思議と身体の調子はいい。食欲もいつもより増していて、何回もご飯のおかわりを貰った。

 

 

もう1度湖に行ってみたいと言うと、凄く反対された。病人だから安静にしてなさいと叱られたけど、しつこく頼み込み、一緒に来てもらうことでなんとか許可を貰った。

 

 

2度目の湖、だけど初めて来たような変な感じがした。

昨日来た時とは明らかに違う。同じ場所なのに雰囲気が全然違う。今日は不思議な感じがしない、きっとチルノがいないからだろう。

僕はチルノが、手を振りながら僕を待っていてくれてる姿を期待してたんだろう。笑いながら手を振るチルノを想像すると、自然と笑顔になり、涙が溢れそうになる。

 

 

諦めて帰ろうとすると、冷たい空気が頬を撫でる。

 

ーーチルノがいるかもしれない!

 

そう思い、急いで周りを見渡すけど、チルノの姿は見えない。だけど冷たい空気は、僕の頬を掴んで離さない。

何処かに何かある、確信を持って辺りを探すと、氷の結晶が岩の上にポツンと置いてあった。

真夏なのに溶けない不思議な結晶は、きっとチルノが残したものだろうと思い、手に取る。

氷の結晶は冷たくて、同時に暖かさもあった。




実は最後氷漬けのカエルにしようと思ってた
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