――――――。
――――。
――。
艤装の手入れもして、お風呂にも入って、就寝準備も済ませて。今日も短い一日が終わって、さて、あとはゆっくり身体を休めて明日に備えるだけ。消灯時間にも余裕はあるし、何もかも完璧だ。
と、いうところで。
「吹雪ちゃん」
「……」
まただ。
“また”、呼ばれた。
昨日も呼ばれた。おとといも呼ばれた。その前の日も、その前の前の日も、同じように同じタイミングで呼ばれた。
私の名前を呼ぶのが合図で、同室の白雪ちゃんは、いつしかある行為をするようになった。
なにもかも完璧だったのに、これですべて狂わせられる。
「っ!」
日誌を書くふりをして(本当はもう書き終わってる)、振り向かないようにしていたのに。白雪ちゃんは私の顔を両手でつかんでむりやり振り向かせて、
「ん――」
キスをしてきた。
軽く、唇と唇が触れ合って、二秒ほど。
すぐに私を離して、白雪ちゃんは「おやすみなさい」と囁き、寝床に就いた。
「……!!?!?!!??!!!!?」
慣れない。
昨日も慣れていなかった。おとといも慣れていなかった。その前の日も、その前の前の日も。
そもそも、慣れる行為じゃない。
私は今日も、緊張の糸を張り詰めたまま夜を過ごさなくてはいけない。
ずるい。
誰のせいで寝不足になってると思ってるんだ、この。
なんてことは、伝えない。
ひとり心地よさそうに眠る白雪ちゃんに、そんなことを伝えてはならない。
伝えたって、誰も得しないのだから。
よって、私は今日も悶々としたまま、今日の夜を過ごす。
たぶん、明日も明後日も。その次の日も、次の次の日も。
――。
――――。
――――――。
――――――。
――――。
――。
「ふっぶきー!」
本日は晴天なり。廊下には柔らかな白い陽が射して、時間の流れをゆっくりに感じさせる。
私の今日の任務は「待機」。いつでも出撃できるように、準備を整えておくのが仕事。つまり、準備が整っているのなら、今みたいに……そう、今みたいに、鎮守府内を散歩したっていい(もっとも、これは先輩方から教えてもらった“いい訳”の一つでもある)。
「おーい、ふぶきー!!」
そろそろお腹が空いてきた。差し込む日から、後少しでお昼だと分かる。ここまで意識すると、お腹が空いていなくとも昼食が気になってくるものだ。私は今日の昼食に思いを馳せることにした。
「ふっ・ぶっ・きーっ!!!」
後ろから大声で呼んでくる声と廊下を走る足音を、できるだけ聞かないようにして、とにかく昼食の事を考える。
あ、せっかくだから、このまま食堂の方に行こう。
それがいい。食事の時間が近い時に食堂のそばを通ると、それこそ希望に満ちた空間に入ったような気分になる。あれは一つの至福なのではないだろうか。赤城さんや加賀さん、戦艦の先輩たちも幸せそうな顔をする。間違いない、うん。
「ふーっ!」
歩く速度を速める。楽しみだから。待ちきれないから。
「ぶーっ!!」
次の曲がり角を曲がって。共用スペースを通り。
「きーっ!!!」
右に曲がる。あとは直線。
だったはずなのに。
共用スペースに入ったところで、後ろから深雪ちゃんがぶつかってきた。
いや、彼女はぶつかりに来たわけじゃない。抱きつきに来たのだと思う。ただ、その、ちょっとだけ勢いが余っていた。
転びそうになるのを、なんとか踏ん張る。
「なんだよー、吹雪の癖に。こっちまでちょっと本気になって走っちゃったじゃんかよー」
「っとと……こら深雪ちゃん。廊下は走っちゃダメって教わったでしょ?」
「深雪さまの前に規則なんてあってないようなものだぜ!」
「えー……」
結果、彼女に後ろから抱きつかれるようにして、私は立ち止まった。
「ま、いいんだよ、細かいことは」
もう、深雪ちゃんはもっと落ち着きをもった方がいいよ。という言葉は防がれた。
物理的に。
深雪ちゃんは私の口を塞いできた。自分の口で。
驚かない。
驚けない。
これで“何度目”だ。
「――ぷはっ。うし。じゃなー!」
「……」
深雪ちゃんは、そのままどこかへ行ってしまった。私は共用スペースに取り残される。
ところで。
大事なことを確認していなかった。
ここは共用スペース。誰でも自由に使うことのできる設備がいくつか置かれている、というちょっと広い部屋だ。入口は四か所あり、通路に使う者もいる。
誰でも使える設備、というのは、暇つぶしの娯楽であったり、マッサージチェアであったり、卓球台であったり。温泉にある遊戯場をイメージするといいかもしれない。私も話でしか知らないけれど。
ここは、戦闘で疲れた体を癒す場所なのだ。
そして、当然と言えば当然なのだけれど、待機指示を与えられたのは私だけではない。
私と深雪ちゃんを含め、合計十二の艦娘が、今日は待機している。
つまり、なにが言いたいかというと。
「はわわ……やっぱり、その、そういう関係だったのですね……」
「ま、まぁ? そういうのは自由よ? でも、場所くらいは考えましょう? ね? 慢心してはダメよ?」
「大胆ね。気分が高揚した時は自室で頼みます」
「テートクもこれくらい大胆だといいんデスけど……」
ひそひそ、ひそひそ。ざわざわ、ざわざわ。
私と深雪ちゃんを除いた十の艦娘が、ここで「待機」していた。
……。
見ら、れた……? あれを? 見られた……!?
「きゃーっ!!!!!!!!!!!」
私はものすごい勢いで、あの場から離れるのだった。
――。
――――。
――――――。
――――――。
――――。
――。
押し倒された。
「ふふふ」
不気味に笑われている。
前後の脈絡なんてお構いなしに、叢雲ちゃんが微笑んでくる。
ソファーに座る叢雲ちゃんを見つけ、司令官の些細な言伝を伝えに近付いたのが間違いだった……のかもしれない。もう、どれが間違いで、どれが正しいのか分からない。
「吹雪ってホントにかわいい……」
そんな恍惚とした表情で言われても……その、困る。あ、一応、困る感情は区別がついた。ちょっとだけ、ほっとする。
「食べちゃいたい」
「お断りさせていただいても?」
「本気で言ってるわけないでしょ。真に受けないで」
「いや今食べちゃいたいって」
「あぁ……」
ダメだ。これはダメなやつだ。何を口にしても叢雲ちゃんには届かない気がする。
「もう我慢できないわ」
「えっ、ちょ――」
不穏な言葉を残して、叢雲ちゃんの顔が私に近付いて来る。
今は夕暮れ時な上に、この部屋は電気を付けていなかった。
夕日が鮮明に、私の頭の中に残っているのに、ここは一気に夜になったような雰囲気だった。
叢雲ちゃんのきめ細やかで綺麗な髪が、私の頬を滑る。くすぐったい。彼女の吐息が私の吐息と混ざる。小さな空気の渦は、唇をなぞった。くすぐったい。またお互いの息がお互いの唇をなぞる。くすぐったい。
息をのんで、私は目を瞑った。決して怖いわけではないけれど、目蓋に力が入る。
覚悟を決めてすぐ、私の唇は彼女の唇と触れた。
……長い。息苦しくなって、けれど、離れてくれないから我慢しなきゃいけないわけで。
ようやく叢雲ちゃんが離れる。苦しかった分、吸い込んだ酸素を心地よく思えた。
私はどんな表情をしているのだろう。それは確実に、叢雲ちゃんしか知らない情報だ。おそらく、彼女はそれを開示するつもりはないだろう。私も聞くつもりはない。
……唐突に、恥ずかしくなってきた。
私は彼女の拘束から滑り落ちるようにして抜け出し、部屋を後にした。
もう、司令官の些細な言伝など、どうでもよくなっていた。
――。
――――。
――――――。
――――――。
――――。
――。
「初雪ちゃーん。出撃だよー」
返事は無い。初雪ちゃんは深雪ちゃんと同じ部屋だから、ここで間違いないんだろうけど、返事は無い。
今日は初雪ちゃんの出撃の日だ。けれど、集合時刻が近付いても、彼女の気配すらなく。今はちょっとした騒ぎが起きている状態だった。
「初雪ちゃん? いないの?」
そっと扉を押してみる。鍵はかかっていない。
「初雪ちゃ……ん?」
いた。たぶん、この、ベッドの上にある掛け布団の塊の中だ。
「もー。何してるの、初雪ちゃん」
「吹雪……?」
「初雪ちゃん、今日は出撃でしょ? ほら起きて!」
「やだ……!」
「何言ってるの! おーきーなーさーいー!」
むりやり布団を剥いでやろうと思ったけれど、内側でがっちり掴んでいるのか、なかなか剥げない。
「むむむ……出撃は司令官の命令なんでしょ? ほーらー。命令違反になるからー」
「……きが……てくれる、なら……」
「え、何?」
何か聞こえる。私はちょっと静かにして、聞き耳を立てた。
「吹雪が、ちゅーしてくれるなら、行く……」
「何言ってるのこの子……。ほらわがまま言わないの!」
どんなに無理やり剥ごうとしても、彼女の力の方が強いらしく、布団は剥げそうにない。
なんとしてでも出て来ないつもりか。
うう……こうなったら、仕方無い。
「……ちゅーしたら、出てくるのね?」
「……うん」
私も司令官に怒られたくないし、初雪ちゃんが司令官に怒られるのも見たくないし。
本当に、ほんっとうに、仕方無い。
ちょっとこう、ちゅっ、ってするだけだから、うん。大丈夫、大丈夫……。
初雪ちゃんは布団の塊から顔だけを出して、私を見ている。
「い、いくよ……?」
「ん」
私と初雪ちゃんの顔が近付く。
一〇センチ。七センチ。
初雪ちゃんは目を瞑った。私も目を瞑る。
あとたぶん、ほんの少しで、くっついてしまう。初雪ちゃんと、き、きす、しちゃ――。
「吹雪、おそい。んっ」
初雪ちゃんが私の方に近付いてきた。というのは、結果から考えられることだ。
突然、唇と唇が触れたのだ。
「……ん。元気出た。ありがと……」
「…………え、あ、うん……なら、いい、の、かな?」
……は、恥ずかしいっ!
お礼を言われたのも恥ずかしい。なんかキスした後に初雪ちゃんが自分の唇を軽く触ってるのも恥ずかしい。ここにいるのも恥ずかしい。全部全部恥ずかしい!
なんでだろう、もうキスには慣れてきたと思ってたのだけれど……いや、慣れちゃったらダメ、絶対。
「じゃ、行ってきます……!」
「えっ?! あ、うん! 行ってらっしゃい! 気を付けてね!」
「ん、頑張る……!」
初雪ちゃんは私の気持ちを知ってか知らずか。いつの間にか身支度を整えていて、さっさと行ってしまった。あれだけ嫌がってたのに。
……今日は私、夜に遠征あるだけだし。もう部屋に戻って休んでよ……なんか疲れちゃった。
――。
――――。
――――――。
薄々だけれど、私は、自分の日常がおかしくなっていることに気付いてきている。
自分ではどうにもできない気がするので、ここはひとつ、誰かに助言してもらうのがいいと判断した。
「ね? どう思う?」
「ごめんなさい、吹雪ちゃん。良く分かんない……」
私はここ最近の身の回りのことを、磯波ちゃんに相談していた。
白雪ちゃんとのおやすみのキス。深雪ちゃんとの会う度にするキス(公衆の面前で)。叢雲ちゃんとの危ないキス。初雪ちゃんとのおねだりキス(結局向こうからしてくるので、おねだりの意味なし)。
思い返すと……酷い。
なんだこれは。これがここ三週間、いや、一ヶ月くらい続いている。
ちなみに、一度だけ抗議したことがある。
白雪ちゃんに「どうしてキスをするの」と聞いたのだ。すると彼女は「吹雪ちゃん、私のこと、嫌いになったんですか……?」と涙を浮かべ始める始末。なので、前言を撤回し、結局その場もキスをして、事なきを得たのだ。
「吹雪ちゃんは、キスされるの、嫌なの?」
「もうなんだかマヒしてきちゃったけど、やっぱりこういうことは、その……大切な人とか、好きな人とするべきよ」
「じゃあ、吹雪ちゃんのことが大切だとか、好きだって思ってたら、いいの?」
「いやそれは……とりあえず、理由が知りたいかなぁ」
そう、そこが謎だから、私もこんなに悩んでいるのだ。
どうしてキスをしてくるのか。
そこさえわかれば、何かが変わるかもしれない。何も変わらないかもしれないけれど。
「んー……(吹雪ちゃん見てるとキスしたくなるから、なんて言えないよね……)。ごめん、私にはわからないかな……」
「だよねー。……あ、じゃあさ、磯波ちゃんは、皆から何か聞かされたりしてない? 例えば、白雪ちゃんから悩み事を相談された、とか」
磯波ちゃんは、静かに首を横に振る。
私は溜め息をつきながら、炬燵につっぷした。天板が冷たい。
「なんでキスしてくるんだろ……やっぱり、キスする人の気持ちはキスする人にしかわからない、とかなのかな……」
「いっそ、吹雪ちゃんも、実際にキスしてみれば……」
「え?」
「……な、なんてね?」
「…………」
「冗談だよ、冗談!」
「……そっか。そうだよね、うん。その人たちの気持ちを理解するには、その人と同じ行動をするのが一番だよね」
「ええっ!?」
「でも私、そういう相手居ないんだよね」
「……し」
磯波ちゃんが、そっぽを向いて何かを呟いた。聞こえない。
「何かいい案でもあるの?」
「……わ、私、が、そ、その……あああ相手に、なな、なる、よ……?」
「……」
「お、おかしいよね! 忘れて忘れて!」
んー。確かに。したいって思える相手が居ないなら、「してもいい」くらいまで敷居を下げざるを得ないわけだけども。
「いいの?」
「ふぇ? い、いい、って、えっと、ええっ?!」
「ふふ、自分で言って自分で混乱しないでよ」
ああ、まぁ、磯波ちゃんなら、いいかな? 見てて可愛らしいし、損はしなさそう。……こういう考えは失礼か。
よし、そうと決まれば、キスしてみよう。……私からキス。私からキス……私から、きす……。
「ホントに、して、いいの?」
「私は吹雪ちゃんのこと、好きだから……いいよ」
「じゃ、じゃあ、する、ね?」
「うん……」
磯波ちゃんのそばまで行き、座り直す。磯波ちゃんの肩を軽く掴む。一度だけぴくりと動いたけれど、あとは大丈夫……じゃなさそう。磯波ちゃんが小刻みに震えているのは、嫌だからか、緊張だからか。さっき、了承を得たから、たぶん緊張だろう。そんなに強張らなくてもいいのに。私まで緊張してきちゃう。
「い、いくよ……?」
「う、うん」
既に磯波ちゃんは目を瞑っていた。私は少しずつ顔を近付けて行く。彼女の名前は「磯波」だけれど、吹雪型姉妹艦にふさわしい程、肌は白い。たぶん、触ったらすべすべすると思う。
あまりじろじろ見るのも失礼な気がしたので、目を瞑る。もうさっさと済ましてしまおう。
ドキドキと、鼓動が相手に聞こえそうなくらいに激しくなって、そして。
「――」
「――」
私は磯波ちゃんと、キスをした。
……。
…………。
………………。
唇を離す。
目蓋を上げると、見たことのない磯波ちゃんがそこに居た。
表現しにくい。こんな顔、初めて見た。
ちょっと、やらしい、気がする。
「……吹雪、ちゃん」
「磯波ちゃん……」
「もう一回――」
して欲しい、みたいな事を言いたかったんだと思う。
だが、その言葉は遮られた。
「ふっぶきーっ! ここにいたのかーっ!! 探したぜちっくしょーっ!!!」
襖を思いっきり開けて、深雪ちゃんが入ってきたからだ。
本日も快晴なり。ただいま私、吹雪は、吹雪型の姉妹艦の皆に囲まれていた。
怒っているのかと最初は思ったが、どうも違うようだ。
「吹雪。あたし達は、ある一つの決めごとをした。でも、それだけじゃあダメだと思って、主役である吹雪の意見を聞こうと思ったんだ」
と、深雪ちゃん。
いや、うん、私は主役だけど。主役だけど! 正直、今は主役じゃなくてもいい。嫌な予感がする。
「これからは、日付や回数も決めて、吹雪ちゃんにキスすることにしたんです」
と、白雪ちゃん。
待って。キスする前提なの? なんで? ねぇなんで? といったことは、まだ言わない。皆の言葉はまだ続いている。
「まぁ、あなたはみんなのものだし、当然よね。回数が減るのは不服だけど」
と、叢雲ちゃん。
もの? 私はもの扱いなの?
「私は……吹雪とちゅうできれば、いい……!」
はい、こちら初雪ちゃん。
何でこの子はいつもより元気そうなのだろう。
向こうのターンは終了したようだから、これからは私のターン!
「ちょっと待ってみんな! そもそも、どうして私にキスするの? それを教えて!」
もういっそ、これだけ聞ければいい気がしてきた。これは、マヒ、なんだろうか。
「なんでって、ねぇ?」
「嫌、ですか?」
「嫌だとしても、私はキスするだけだけど」
「私は、嫌、じゃない……むしろ、いい……」
最後の方は質問に答えてないじゃないですかー、やだー。
「えー……理由ないの? 私、理由もなしに、ファーストキス奪われてたの?」
悲しい。この気持ち is 悲しい。
「お、女の子同士だから、大丈夫だよ」
磯波ちゃんにフォローされてしまった。私、皆のお姉さんなんだけどなぁ。これじゃあ姉のメンツ丸つぶれだ。
「理由って言えるかどうか分からないけど、あなたを見てるとキスしたくなるのよ」
……へ?
「あー分かる。すっごく分かる! 深雪スペシャルしたくなるもんなー!」
は?
「今も、キスしたくてしょうがないんですよ?」
えーっと?
「うん……うん……!」
うん?
皆、そんな理由で、キスしてきたの? 好きだから、とかじゃなくって? 真剣に考えてあげないとな、とか思ってた私の気持ちはいずこへ? ???
「つまり……皆は、キスしたくて、キスしてたの?」
「「「「うん」」」」
「……」
ダメよ。そういうのは、やっぱり大切にしないと。
って言う気も起きなくなった。むしろ、多分この子たちのことだから「無下にしてるわけじゃない」とかいいそうだ。余計に性質が悪い気がする。
「……はぁ、もう分かった。いいよ、うん。キスするの、許してあげる。でも、その、なんていうか、こっちの身にもなってね?」
「だから、そのことを聴きに来たんだよ。さすがに毎日~とか、何回も~とかしてたら、吹雪も疲れるだろうって思ってさ」
「一週間に何回休みたいか言いなさい。私達も我慢するから」
あくまで主導権は向こうなのね……。もう、それでいいか、うん。私も嫌じゃなくなってきたし。
えーっと……白雪ちゃん、深雪ちゃん、叢雲ちゃん、初雪ちゃんの四人だから……。
「じゃあ、金土日は休ませて欲し――」
「ま、待って!」
「――磯波ちゃん? どうしたの?」
「え、あ……わ、私も順番に、入れて欲しいなって……」
そう来たか。予想はしてたけど。ということは、白雪ちゃん、深雪ちゃん、叢雲ちゃん、初雪ちゃん、磯波ちゃんの五人になるのかな?
「じゃあ、休みは土日。それでいい? 誰がどの日っていうのは、そっちで決めちゃって。もう私は疲れたから部屋で休むわ……」
「じゃあ、おやすみのキスを……」
「待って?」
ああ、もう……ああもう!
白雪ちゃん、もっと大人しい子だと思ってたんだけどなぁ。深雪ちゃんはもっと、こういうことに興味がなさそうな気がしてた。叢雲ちゃんは、司令官狙いかと思ってたし、初雪ちゃんは……こんなに積極的な初雪ちゃん、初めてよ、私。磯波ちゃんもね。
皆、そんなに私にキスしたいの? そんなに私って、キスしたくなる顔なの?
……はぁ。
自分自身、嫌だって思わなくなってるのには気付いてたんだけど、ここまでだとは思わなかった。
どうやら私は、キスの沼にはまり始めてるようだ。
つら……くもないし、嫌でもない。
愛されてるって分かるから、そう思える。もっと違う愛され方が良かった気もするけど、贅沢は言わない。なんたって私は主人公だから!
……いつかは、喜んでする日が来るのだろう。
その時は絶対に幸せなキスがいい。
こういう、ローテーションを組むようなキスじゃなくて。
……叶うといいな。