秘密   作:ふらみか

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第2話

#_Escha_Malier_

 

 

 きっかけなんて些細でいい、とはいうものの、果たして何がきっかけで自分は起きてしまったのだろうか。私、エスカ・メーリエは、それが不思議でならない。

 自分自身でも、寝言を言っていたような気はしているのだけれど、睡眠中の行動を当事者が分かる術はない。まぁ、私がどれだけ考えても、頭の中ではロジーさんが口にした言葉が反射するだけなのだけれど。

(どうしよう……聞いちゃった。あんまりにも唐突だから、声も出なかった……)

 私は毛布の端をギュッと掴み、隠れるように身を潜める。

(夫婦としてよろしく……って言った? 私の事愛してる、って言った? なんでだろ……どうして、どうして急に、今? もしかして、ここで二人で泊ってた時は、私が寝た後、いつも言ってたのかなぁ? 私が気が付かなかっただけで。そうだったら嬉しいけど……で、でも、ロジーさんだし、私みたいなちんちくりんなんて相手にしないよね……。私はロジーさんのこと、す、好き、だけど……)

 自分で考えて自分で落ち込みそうになるところを、どうにかして踏み止まる。まだ希望はあるはず。

(……やっぱり、ロジーさんは大人っぽい方がいいのかな)

 少女と呼べる歳でもなくなったというのに、見た目はあまり変わっていなくて悩んでいることは、私だけの秘密だ。

(でもでも、絶対言ったよね、ロジーさん。私を愛してるって。ちゃんと言ってた……よね? 聞き間違いじゃないよね?)

 周りの音すら聞こえなくなる程ぐるぐると考えを巡らせていると、ロジーさんの声が、再び、私の耳に響き渡った。

 落ち着く、安心する、温かくしてくれる、寄りかかりたくなる、そんな魅力的な声音が。

(……ロジーさん、どんな顔して言ってるんだろ)

 私が声のする方へ静かに視線を向けると、ロジーさんの表情等は上手く確認できないものの、彼が身体を起こしていることだけは分かった。つまり、寝言、では、ない。

 私はロジーさんの声に耳を傾ける。さっきから、自分の心臓の音がうるさい。せっかくの彼の声が掻き消されそうだった。むしろ、ここまでうるさいと、ロジーさんに聞こえてしまうのではと心配さえしてしまう。

(わわ、待っててくれ、だって。ええっと……こういう時って、なんて言えばいいんだろう。待ってます、かな? それとも待てません、とか? えへへ……あ、でも、待ってる方が大人っぽい気が――あれ? ロジーさん、今、おやすみって言った……? ええー、こんなのお預けじゃないですかぁ、ロジーさぁん)

 夜のアトリエに紛れるように、私はゆっくりと体を起こす。眠気の霧は、すっかりと晴れていた。

(本当に寝ちゃったのかな?)

 ロジーさんの方へ顔を向ける。彼はもう毛布に包まっていた。気になっていた表情も、毛布で隠れていて確認できない。

(もー、ロジーさんってば。別に言ってくれたっていいのに。っていうか、言って欲しいのになぁ……。私、どれだけ待ってると思ってるんですか?)

 この際、自分から言い出せないことは棚に上げる。

(でも大丈夫ですからね、ロジーさん。私、いつまでも待ってます。例え、万が一、また離ればなれになっても、信じて待ってますから。……また離ればなれはヤだなぁ。このままずっと、二人で居られたらいいのに)

 愛しいロジーさんの寝姿へ、私は熱のこもった視線を送った。ロジーさんがそれに気付くことはなさそうで、安心する様な、がっかりするような……。

(ずっと一緒、ってなると、や、やっぱり……結婚、とかかな? かなかな? ……ロジーさんと、結婚……えへへ……ひゃっ!?)

 想像して、にやける頬に手をやり、私はその熱に驚いた。

(……暗くてよかった……きっと私の顔、リンゴみたいに真っ赤だ……)

 熱に触れた自分の手を見詰める。その手自体が、だんだんと、熱を帯びてきているように……いや、ように、ではない。身体の芯から熱が膨らんできているのを、私は感じた。自覚した途端、恥ずかしさで火が出そうになる。次第に、さっきまでのぽかぽかとした温かい熱が、恥ずかしさによる急激な体温の上昇によって、支配されていった。

(わ、わわっ……!!)

 まだ、体温が上がっていく。

(と、とにかく、今はもう遅いから寝よ! その方がいいよね、うん! 全然眠くないけど、目を閉じているだけでも休まるはずだし!)

 私は再びソファーに寝転がり、毛布で顔まで隠した。

 ……そういえば。

(私、いつ、毛布なんて掛けたんだろ……)

 と、思い返してすぐ、私は理解して、また熱を上げた。これも、ロジーさんが掛けてくれたんだ。

(ううう……)

 私は必死に目を瞑り、とにかく落ち着くことに集中した。

 と、ロジーさんの寝息が聞えてきた。

 それを聞くと、ロジーさんが側にいるように感じられる。身体はぽかぽかしていくけれど、それは心地よい熱のこもり方だった。

(ロジーさんが言ったこと、私だけの秘密にしちゃおっと。どうせロジーさんに聞いてもはぐらかされるだけだろうし)

 もちろん私には、誰かに言う、なんて考えは最初から無い。

(えへへ……えへへへへ……)

 ロジーさんの言葉を反芻していると、私はいつしか、深い深い眠りの谷へと落ちて行った。

 釜の煮える音が消えたのは、私が谷へ落ちる間際、つまり、外がぼんやり明るくなってからだった。

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