#_L&E_
いつしか夜は明け、アトリエに鳥のさえずりが届けられる。
「いたたた……。んー……っ!」
エスカが起床した。彼女は伸びをして、身体の各部を起こし始める。ソファーで眠るのはいいが、起きる頃には全身が痛くなるほど凝り固まってしまうのは考えものだった。
いっそ、ベッドでも置いてしまおうかと、二人の錬金術士は計画したこともあるが、そんなスペースがアトリエにあるわけもなく、断念せざるを得なかったのだった。
「お、おはよう、エスカ」
「おはようございます、ロジーさん!」
エスカより早く起きていたロジーは、さっそく錬成に取り掛かっていた。炉の口が開けられ、オレンジと白の熱源が彼の横顔を照らしている。
そんなロジーを見て、エスカは昨晩のことを思い出し、頬に朱を差した。幸い、ロジーはエスカの方を見ていないため、そのことに気付かれる心配はない。それでもエスカは、すぐロジーに背を向けた。
「ろ、ロジーさん! 私、顔洗ってきますね!」
「ああ」
ロジーの返事を待たずに、彼女は足早にアトリエを出る。
エスカが出て行ってから十分な間を置き、ロジーは息を吐いた。
「はぁ……。バレて無い、よな」
次の作業工程に伴い、ロジーは錬成中の武器を台座に固定し、炉の口を閉じる。
しかし、それでも彼の顔は紅潮したままだった。炉から漏れる明かりに関係なく、彼は紅潮していたのである。
「エスカが戻ってくるまでに、元に戻ればいいけど……」
自分でも分かるほどの彼の頬の熱の原因は、ズバリ、エスカだった。
エスカが起床したその瞬間、ロジーの脳裏に、昨晩自分が口にした言葉が浮かんでいたのだ。
どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。さすがに自分でもおかしいと思える。相手が寝ているからって、なんでも言っていいものじゃない。エスカの気持ちもあるというのに。自分勝手で、醜い言葉だった。ロジーはしっかりと自虐し、心を落ち着かせ、作業を再開させた。
「エスカにはこんな姿、見せられないな。しっかりしないと」
ロジーがようやく元に戻ったころ、エスカはアトリエの前で深呼吸をしていた。
「すぅー……はぁー……」
昨晩起きたことは、心の奥底にしまい込んだ。赤くなった顔も、もう元通り。後は、いつも通りにすれば……本当は、もっともっと進展させたいけれど。焦っても仕方ない。ロジーさんを信じればいい話だし。そう考えて、エスカは気持ちを切り替える。
「……よし!」
アトリエの扉が開かれた。
それぞれがそれぞれの秘密を持って、日常が再開される。
二人の錬金術士は知る由もないが、二人の秘密が秘密でなくなるまで、実はあともう少し。……なのだが、それはまた、別の話で。