学園クオリディア   作:バリャス

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とりあえず1話投稿です。1話は簡単な説明回です。
内容変更した時は随時前書きでお伝えします。
作品あらすじに注意書きしといたんで読んどいてください。
修正点↓
・天川⇨天河に修正しました。


呼び出し

千葉県とある住宅街の一軒家。

 

俺こと千種霞は制服に身を包み、今朝配達されてきた新聞を広げながらコーヒー(超甘い)を啜っていた。

 

「はぁ〜ぁ」

 

あくびをしながら今の時刻を確認する。時計は19時00分を指していた、そろそろ明日葉を起こさないとな。

 

明日葉というのは俺の妹の名前で、現在この家で一緒に住んでいる。父の行方は知れず、母はなぜか海外に飛び出している。

 

母の方に関してはたまに帰ってくるのだが、なぜ海外に行っているのかは聞いても誤魔化してくるためよくわからん。

 

俺は新聞を畳み、朝ごはん用に食パンを焼こうと立ち上がる。

 

「そう言えば食パンまだあったっけ?」

 

我が家のパン置き場を確認すると、ギリギリ今日の朝飯分は残っていた。

 

「今日の帰りに買って帰らないとな」

 

俺は食パンをトースターに入れ、出来上がるのを待つ。

 

待っている間、明日葉用のホットココアを作るためカップを食器棚から取り出そうとした時、リビングの扉が大きな音を立てて力強く開けられた。

 

「ちょっとお兄ぃ、今日は朝練があるって言っといたっしょ!」

 

妹の明日葉はリビングに入ってくるなり特徴的な赤いロングヘアーを揺らしながら俺に八つ当たりをしてくる。

 

「明日葉ちゃんの部活って水曜日は朝練ないんじゃなかった?」

 

俺は一応明日葉に確認を入れる。

 

まあこれはココアを飲んでる時間もなさそうかな?と思い食器棚からカップを出すのをやめた。

 

俺は今朝事前に作っておいたお弁当を包んだ袋を二つ(自分と明日葉用)手に持ち、リビングの机に置きながらカレンダーを確認する。

 

曜日は間違いなく水曜日。

 

明日葉は陸上部に所属しておりほぼ毎日朝練があるわけなんだが、水曜日だけは朝練がない曜日だ。

 

「いやだからもう直ぐ大会だし水曜日も朝練あんの」

 

「そうなの?でもお兄ちゃん初耳だと思うんだけどなぁ」

 

トースターが「チンっ」と音を鳴らしたため、俺は焼けた食パンをトースターに取りに行く。

 

「あっ、ていうか時間ないし今日は朝ごはんいいや!」

 

明日葉はそう言うとお弁当箱を「二つ」鞄に突っ込み、開けっ放しになっていた扉から飛び出していった。

 

「片方はお兄ちゃんのだったんだけどな…」

 

俺は食パンを手に持ちながらぼそりとつぶやく。ただもうこの場には当の本人がいないため、俺の言葉を無意味に空へ消えていった。

 

 

 

突然だが俺はクオリデ学園という高校に通っている。もちろん妹も同じ高校だ。ちなみに俺は三年生で妹の明日葉は一年生。

 

そんなわけで俺はいま学園に向かうために通学路を歩いている。

 

クオリデ学園はかなり規模が大きい学園で、文化祭とか大勢の人でかなり賑わう、まあいろいろ問題も起きるんだが。

 

部活などにもかなり力を入れていて、スポーツ推薦も多く取り扱っている。明日葉もスポーツ推薦入学した一人だ。俺?俺は残念ながらスポーツは得意な方ではないため一般入学している。

 

「あっ、かすみんだ」

 

よく聞き慣れた声が急に聞こえてくる。 俺のことをその名で呼ぶのは一人しかいない。

 

俺は足を止めず声のした方に顔だけ向けた。俺の視線の先にはよく見知った人物が二人歩いている。

 

「おっはよう!」

 

挨拶をしながら二人は俺の方へ歩いてきたため、俺は「ああ」と小さく返事をする。

 

少し背が小さい銀髪ツインテール、そして無駄に明るい我らの学園の生徒会長様、クオリデ学園三年生の天河舞姫と、

 

「お前はもっとシャキっとできないのか?仮にもうちの学園の生徒だろう」

 

「いや、シャキっとしてる俺なんて俺じゃないまであるし」

 

そして黒髪ポニーテールで天川大好きっ子、同じくクオリデ学園三年生、生徒会副会長の凛堂ほたるだった。

 

「相変わらずだなお前は、姫の面目だけは潰すなよ」

 

凛堂は見た目真面目そうだが、1に天河、2に天河のストーカー紛いの女だ。天河に近づく男は凛堂に切り捨てられるとか噂が立つレベルである。本当に切り捨ててないよね?

 

「あれ?水曜日なのに明日葉ちゃんは一緒じゃないんだ?」

 

天河が不思議そうに聞いてきた。天河の言う通り水曜日はいつも明日葉と登校している。というより陸上部の朝練がなければいつも一緒に登校してるけど。

 

「もう直ぐ試合らしくてな」

 

それだけ聞くと天河は察したようで、うんうんと頷く。

 

「そっか、もうそんな時期だったね。それにしても一年生なのに明日葉ちゃんはすごいね」

 

「そうだな、俺なんかと違って明日葉はすごい。そして可愛い」

 

控えめに言って天使ですね。明日葉ちゃんまじ天使。俺が一人納得していると、なぜか若干引いている様子の凛堂が口を開ける。

 

「貴様は昔から変わらないな。そのシスコンっぷりも」

 

いや、お前の天河に対する執着と比べたらマシだ。マシだよね?

 

俺は言い返そうと口を開けようとしたが、それより先に凛堂のほうが言葉を発する。

 

「あと自分自信の評価の低さもな」

 

それを聞いて俺はバツが悪そうに咳払いをする。そんなこと言うのお前らぐらいなんだよ。

 

「むしろお前らが過大評価しすぎなんだっつーの、俺は底辺層の住民だ」

 

人の悪いところばっかに目がいって、そして勝手に距離を置く。俺みたいなやつはろくな人生を歩めないだろう。そんなことを考えていると天河が俺の肩を叩いてきた。

 

「そんなことないよ、かすみんは優しいじゃない、もっと胸を張りなよ」

 

「それにクオリデ学園のAランククラス所属の風紀委員長がそんな情けないこと言っちゃいけないよ!」

 

そう言うと、天河は屈託のない笑顔で笑いかけてくる。

 

俺は無意識に笑顔の天河から顔を背けた。

 

いや仕方なくない?人から褒められるのに慣れてないんだもの。

 

「はあ、あんまりおちょくんなよ。一応風紀委員長様なんだけど」

 

「私は生徒会長様だから風紀委員長をおちょくっても許されるのである」

 

天河は腰に手を当て、「わーっはっは」と笑った。俺はその姿を横目に少し歩く速度を上げ、二人から逃げるように進む。

 

「じゃあ逃げるが勝ちだな」

 

二人は追いかけてくるわけでもなく「じゃあ後でねー」と天河の声だけが届いた。

 

 

 

風紀委員長。そう、それが俺の学園でのポジションだ。

 

先ほども言ったが、うちの学園は大きく、スポーツ推薦やらなんやらでいろいろなやつがいる。

 

なので風紀を乱すやつもいるわけだ。ちなみに生徒会長の天川も結構問題事起こすし要注意人物だったりする。

 

なんで生徒の模範になるべき生徒会長が問題を起こすんですかねぇ。

 

頭を抱えながら歩いていると、目の前に大きな門が見えてきた。

 

門にはこれでもかと言うような大きな字でクオリデ学園と書かれている。なんとも自己主張の激しい学園だ。

 

まあこの学園の理事長を考えると当然の結果なのだろうが。

 

「なんだ貴様ら」

 

俺がこの学園の行く末について不安を抱えている最中、俺の耳にえらく挑発的な発言が飛び込んでくる。

 

声がした方に視線を向けると、そこにはこれまたよく知った二人が学園の生徒達に囲まれていた。

 

おだやかじゃねぇなぁ、朝っぱらからこんな人目がつくところでなにやってんだ。

 

俺は生徒たちのネクタイを見る。

 

囲んでいる方は全員青のC、囲まれている二人は黄のAと黄のE。

 

ネクタイの色を見る感じ、二人を囲んでいる生徒は三年生と見受けられる。

 

うちの学園は一年生は赤、二年生は黄、三年生は青とネクタイの色が区別されている。さらにネクタイにはアルファベットが刺繍されているのだが、アルファベットの意味は後で説明することにしよう。

 

「なんだ貴様らじゃねぇよ、ぶつかってきたのはお前の方だろうが」

 

「Aランクだからって二年生が調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

どうやら俺の知り合いの方が彼らの一人にぶつかったようだ。

 

まああいつぶつかったくらいで謝ったりしないしな。

 

「ここは人通りが多い通路なんだからぶつかる事くらいあるだろう」

 

未だ高圧的な態度をとる二年生に、三年生達は明らかな苛立ちを見せる。その周囲は一触即発な雰囲気を醸し出していた。

 

「ちょっ、ちょっといっちゃん!あのっ、ごめんなさい!」

 

その雰囲気を察したのか、もう一人の女子生徒が頭をさげる。

 

いま頭を下げている女子生徒は宇多良カナリアという少女で、いつも笑顔をモットーとしている少し頭のネジがぶっ飛んでいるやつだ。

 

まあ頭はあれだが親しみやすいやつなので交友関係は広い。

 

そして宇多良にいっちゃんと呼ばれている男子生徒は朱雀壱弥。高圧的な態度が多いやつで、問題事をよく起こす。

 

朱雀本人に悪気はなく、これがまじでタチが悪い。

 

「いやあんたに謝ってもらいたいんじゃないんだよ」

 

二年生の可愛い女の子に頭を下げられ一瞬たじろいでいたが、三年生の方も引っ込みがつかなくなっているようだ。

 

俺は「はぁ」とため息をつきながら、彼らの元へ足を進める。

 

霞「あんまり朝から騒いでんなよ。さっさと教室に行け」

 

俺は彼らに近づき軽く注意をする。これでも風紀委員長様だからね!

 

「あっ霞さん、おはようございます!」

 

宇多良はいつもの笑顔で挨拶をしてくる。こんな時でも笑顔は忘れないんだな。逆に怖いわ。

 

俺が引いていると二人に突っかかっている男子生徒の一人が俺に声をかけてくる。

 

「あんたたしか風紀委員だったよな?あんたからも言ってやってくれよ。こいつ人様に思いっきりぶつかっておいて謝りもしないんだぜ」

 

三年生の男は風紀委員である俺にチクるように語りかけてくる。

 

そのスタンスはあまり気に入らないが、朱雀が謝るのが一番おだやかに事態が収まるのも事実か。

 

俺が朱雀の方を見ると朱雀は顔を背ける。

 

「ふん、謝る必要を感じなかったから謝ってないだけだ。なにか問題があるのか?」

 

はぁ、こいつは…。

 

確かに実際問題ぶつかったくらいでギャアギャア騒ぐ方もおかしいと思うが、ぶつかっておいてこう高圧的な態度をとるのもなぁ。

 

「うるせ、いいから一言謝っときゃいいんだよ」

 

俺は朱雀の頭を掴んで無理やり頭を下げさせようとすると、すぐさま後ろに体を引いて俺の手から逃れる。

 

「やめろ!なぜ俺が謝らなければならない!」

 

だめだこいつ。

 

俺がどうしたものかと考えていると、救世主がごとく俺たちに声をかけてくるやつが現れた。

 

「お前たちこんなところで固まってなにをしている?邪魔だから早くすすめ」

 

その声の主を確認すると、いままで動かなかった男子生徒達はその人物言う通りに「は、はい!」っと去っていく。

 

「ナイスタイミング、助かったわ」

 

俺はその女子生徒に礼を言う。その女子生徒は困ったような顔をしてこちらを見た。

 

困った顔をしていてもなお彼女にはオーラがある。

 

「助けたつもりはまったくないんだけど…」

 

助けるつもりもないのに人を助けちゃうなんてさすがです!風紀委員長とかやってみないっすか?

 

俺たちの元に声をかけてきた女子生徒の名前は夏目めぐ。カリスマ性で言えば生徒会長である天川の次くらいの能力は持っている。

 

彼女も風紀委員の一員で、俺よりも風紀委員長やってるんだよなぁ。ほんとなんで俺の方が風紀委員長なんだ。

 

実際彼女の方を風紀委員長と思っている人は少なくない。

 

単純に俺があまり目立たないため勘違いしている生徒もいるのだが、夏目のカリスマ性や行動から、リアルの風紀委員長である俺よりも夏目を風紀委員長と扱っている生徒が多いのだ。

 

カナリアが夏目に頭を下げてる光景を見ながら俺はまたため息をひとつついた。

 

はあ、朝からなんか疲れたな。

 

俺はようやく自分の教室へ向かって歩き始めたのだった。

 

 

 

そのあと昇降口まで歩いてきた俺は、靴を脱ぎ自分の下駄箱を開ける。俺は下駄箱の中を確認した後眼を細めた。

 

下駄箱の中には学校用の上履きが入っていた。むしろ入ってなかったらおかしいんだけどね。しかし問題は俺の上履き以外に見知らぬ手紙が入っていたことである。

 

俺は手紙を手に取り、差出人が書いてないか調べる。手紙の封筒には何もなし。中に書いてあるのだろうか。

 

それにしても俺に手紙とはどんな内容なんだ、不幸の手紙とかか?

 

いやいや、高校生にもなってそんなネタ今更やらんだろう。となると、風紀委員長の俺になにか頼みたいことがあって、直接は言いづらいから手紙でよこしたとかか?

 

考えても仕方ない。答えは手元にあるのだから手紙を開ければいいだけだ。俺は手紙の封を開け、中に入っていた紙を広げる。

 

「なにやってんだ霞?」

 

俺は突然声をかけられ、「うおっ!」とへんな声を上げてしまった。

 

「なんだ夏目か、びっくりした」

 

手紙に意識を集中していたせいか、夏目が近づいてきていることにきづかなかった。夏目は俺が手に持っている手紙を見ると、手紙を覗きこむように顔を俺に近づけてきた。

 

「ちょっ、近いから」

 

俺が逃げるように体を反らすと、夏目は逃さないように俺の肩を掴む。

 

「なになに『放課後屋上に一人できてください。待ってますから』」

 

手紙の内容はかなり簡潔で目的だけを伝えてきていた。名前は…、記載なし。

 

俺は内容を確認すると手紙を鞄に突っ込んだ。

 

「どうやら風紀委員に対する依頼みたいだな」

 

しかし俺を名指しで指定してくるのはなんの意味があるのだろうか?いまいち差出人の意図が掴めない。俺が考え込んでいると、夏目は眼を丸くして俺の顔を見つめてくる。

 

なんですか?緊張するのでやめてください。

 

「お前本気で言ってんの?」

 

なぜか夏目にアホを見るような目で見られる。お前にそんな目で見られるなんて少しショックだよ。

 

「本気も何もそれ以外になんか考えられるのか?」

 

他の可能性としては風紀委員に恨み持ったやつによる呼び出して集団リンチとかか?

 

なくはない。行くのやめようかなぁ。

 

「いやほら、これってラブレターとかいうやつじゃないのか?」

 

ラブレター?いやいやそれこそ一番ありえないだろう。っていうか屋上に来いしか書かれていないのにラブレターに認定するなんて、意外に夏目は乙女なんだな。

 

俺は時間を確認し、少し急ぐように教室へ向かう。夏目も俺に合わせて歩き始めた。夏目は俺と同じ学校の同じクラスなので当然といっちゃ当然なんだが。

 

「仮にラブレターだとしたら名前を書いてないのはおかしいだろ」

 

「うーんそうなのか?」

 

まあ確かにこの手紙は呼び出しの手紙としか現段階では分からないのも事実ではあるが。

 

「だいたい俺なんかにラブレターなんて誰が出すんだよ」

 

俺はぶっきらぼうな態度で夏目に質問する。

 

自分で言うのもなんだが、俺は世間一般で言うシスコンに分別されている。妹を大切に思うことの何がおかしいのか俺には分からないが、どうやらあまり良いようには捉えられていないらしい。

 

そしてそのことは周知の事実だ。別に俺は周りからなんて思われようが興味はないが、そんなやつに誰がラブレターなんて出すというのか。

 

俺が夏目の方をチラリと見ると、夏目は慌てて答える。

 

「た、確かに霞は変なやつだけど、霞のこと慕っているやつは結構いるぞ」

 

変なやつって、まあ自覚はあるけど身近なやつに言われると少し傷つきます。

 

「そうか、変なやつである俺を慕うなんて変なやつもいたもんだな」

 

夏目と他愛ない話をしていると目の前に三年生のAランククラスが目に映る。

 

先ほど天河との会話でもAランクという単語がでてきたが、うちの学園のクラスは全部で6つ(AからFまで)あり、ランク付けによりクラスが分けられている。

 

上位ランク「A B C D E F」下位ランク

 

となっており、俺とめぐはAランクだ。ちなみに風紀委員長及び生徒会長はAランクから選抜される。

 

つまり生徒会長の天河もAランククラスだ。

 

ランク付けは別に学力だけではなく実績重視であり、部活の試合や大会で結果を多く残すと学力が最下位レベルでもAランクの可能性はある。

 

天河はまさにその筆頭だ。あいつの学力はかなり微妙だが、部活の大会で全国上位の成績を残しており、練習試合等でもかなりの数の実績を重ねAランククラスに所属している。

 

今ではカリスマ性を認められ生徒会長を務めるまでに至っているのだから大したもんだ。

 

俺はAランククラスの扉を開け中に入っていく。未だ教室の扉の前にいる夏目の方を確認するとなぜか目があう。夏目は俺から目をそらすようにして顔を背ける。

 

「あたしも…なんだけどな」

 

小さい声でつぶやかれた彼女の声は、クラスの騒々しい声で掻き消された。

 

 

教室で後ろから二番目であり、一番窓側にある机と椅子に俺は腰を落とす。時計の針を見ると8時27分を指していた。

 

ギリギリだったな。

 

「ありゃ?遅かったね、かすみんがこんな時間に登校なんて珍しい」

 

俺の目の前の席に座っている銀髪ツインテールがこちらに気づいたようだ。確かになんでこんなに遅くなったんだろうなぁ。

 

「また朝から揉め事でもあったの?」

 

まあそれもあるが。俺はちらっと鞄の方に視線を移す。

 

「いろいろな」

 

俺は先ほどの手紙を取り出し、もう一度内容を確かめる。ちゃんと確認してもやはり差出人は書いていない。

 

ラブレター…ねぇ。

 

「なにそれ?」

 

尋ねてくる天河の顔を見る。まあ天河ではないな、こいつは手紙なんて書かねぇだろうし。

 

俺は手紙を自分の机の上に置く。

 

「ああ、なんか朝下駄箱に入っててな」

 

天河は机の上に置いてある手紙を覗く。

 

「かすみんなんか約束してたの?」

 

「いや全く記憶にない」

 

「ふーん」と天河は不思議そうに顔を傾げいたが、急に何か思いついたように声を上げる。

 

「もしかしてそれラブレターとか」

 

なに?お前もなの?っていうかお前ラブレター知ってたのか。俺が失礼なことを考えていると、チャイムが学園内に響き渡った。

 

「もうそんな時間かぁ」

 

そう言い、天河は姿勢を前に正す。チャイムが鳴り終わるギリギリ手前で俺たちの担任の先生が教室の扉を開け入ってきた。

 

「ふぅー、なんとか間に合ったな」

 

息を切らしながら入ってきたボサボサの髪のおっさん。俺たちAランククラスの担任である朝凪求得が教壇に立った。

 

「あー、じゃあ出欠をとる。っとその前に挨拶だな」

 

朝凪先生が一人の女子生徒の顔を見る。

 

「起立!」

 

彼女の言葉に従い、俺を含めた生徒たちは立ち上がり、次の彼女の言葉を待つ。

 

彼女の名前は依藤麻里香。このクラスの委員長を務めている。天河をライバル意識しているのかチャンスがあれば突っかかっている。

 

「礼!」

 

「「おはようございます!」」

 

「着席!」

 

俺たちが座ると朝凪先生が出欠を取り始める。俺はぼーっとしていると前の方から視線を感じた。

 

「...」

 

どうやら視線の正体は委員長の依藤だったらしい。俺と目が合うと佐藤はすぐに顔を前へ戻した。

 

なんだ?

 

「千種霞!」

 

いつの間にか俺の番まで来ていたのか、先生が俺の名前を呼んだ。

 

「あ、はい」

 

「なんだ霞ぼーっとして、好きなやつでもできたか?」

 

俺が少し遅れて返事をしたせいか先生がニヤニヤしながらへんな勘ぐりを入れてくる。

 

「違います」

 

俺が否定の言葉を入れても、先生はニヤニヤしたまま話を進める。

 

「そういうのに興味ないと思っていたが、なんだかんだ霞も高校生だな」

 

「いや違うっていってるんですけど?」

 

「まあまあ、青春を楽しむことはいいことだ」

 

聞く耳持たないとはこのことだな。俺は諦め窓の外を眺める。

 

「先生、そろそろ進めないと時間なくなりますよ」

 

俺が先に進めるよう促すと、先生は「おっとそうだな」と言いながら次の人の名前を呼ぶ。

 

やっと解放された安堵からか自然とため息がでる。

 

青春…ねぇ。

 

俺はぼーっとしながら手元にある手紙に視線を落とした。

 

もしこれが夏目や天河の言う通りラブレターだとしたら、いったい誰からなのだろうか?

 

まあ天河と夏目は少なくとも違うだろう。手紙を見ての反応もそうだが、あの二人がラブレターなんて似合わなさすぎる。

 

「ちょっといいかな?」

 

いつの間にか近づいてきていた依藤に声をかけられ少しびっくりしたが、「なんだ?」と平然を装って返事をする。

 

依藤は指で廊下の外を指した。ここでは話せないことということか。

 

依藤が歩いて行ったため、俺はその後をついていく。廊下に出ても依藤は足を止めることなく、廊下の端まで歩いて行きそこで足を止める。

 

「なんだ?一限目の準備もあるし手短に頼む」

 

「つれないなぁ、こんな可愛い子と話せるチャンスなのに」

 

そう言いながら依藤は制服のポケットからUSBを取り出す。

 

「例の件についての情報が入ったの」

 

俺はその言葉を聞くとさっきまでの気怠げな態度を改める。

 

「さすがだな。そのUSBに情報が入っているということでいいんだな」

 

俺は食い入るように彼女に迫る。端から見たらやばい状態な気がするがそれぐらい俺は必死になってしまっていた。

 

「ふふっ、さっきまでとはすごい変わりようね」

 

依藤は俺を手で押し返して話を続ける。

 

「ええその通りよ。ただし渡すには交換条件があるわ」

 

彼女はUSBを持っている手を後ろに隠し、依藤の顔がニヤリと笑った。先ほど教室で見た時と同じ顔だ。

 

「交換条件って、日頃お前の行いを裏で尻拭いしてるの誰だと思ってるんだよ」

 

依藤は「あらそうなの?知らなかったわ」ととぼけてみせる。彼女がとぼけると本当に知らなかったように見えるからやばい。

 

演技力だけなら依藤は校内一だろう。天川に突っかかってないでその道に行けばいいのに。

 

いや、今はそんなことはどうでもいい。どうやら彼女はその交換条件を飲まないと渡す気がないらしい。

 

冷静になれ、こういうときこそ焦ってはいけない。俺としては何としても欲しい情報だ。

 

「何が希望なんだ?」

 

俺が聞くと、彼女はUSBを持っていない方の手で俺を指してきた。

 

「千種くん、私の物になりなさい」

 

彼女の要望に俺は頭を抱えた。まあ何が目的なのかは分からないでもない。風紀委員長という役職・権力を彼女は欲しいのだろう。

 

「それはいくらなんでも無理だ」

 

「あら?今なら今朝の手紙の差出人も教えてあげるのに」

 

唐突に出された話題に俺は内心動揺する。

 

「気にしてたでしょ?千種くんの珍しい一面が見れて面白かったわ」

 

彼女はニヤニヤしながらこちらを見てくる。俺は悔しさ半分恥ずかしさ半分の気持ちを一回咳払いをして調子を戻す。

 

俺が再度彼女に声をかけようとしたところで、一限目の始業のチャイムが鳴った。

 

ちっ、時間切れか。

 

俺が焦った表情をしていると、依藤がUSBを俺に差し出してくる。

 

「ふふっ、はいこれ」

 

俺は何か裏があるんじゃないかと警戒しながら彼女からUSBを受け取る。

 

「期待させてるかもしれないけど、残念ながらそれほど大した情報ではないの」

 

「だから今回は貸しでいいわ。あなたとは友好的な関係でいたいし」

 

そう言って依藤は俺の横を通り過ぎで教室の方へ歩いていく。

 

俺も教室へ戻ろうと歩き出すと、突然依藤が小走りでこちらに戻ってきて声をかけてきた。

 

「あ、私の要望に応えなかった千種くんには手紙の差出人はおしえてあげないよ」

 

「いやいや興味ないから」

 

俺は依藤から逃げるように歩く速度をあげる。

 

ああ、後ろでニヤニヤしてる依藤の顔が目に浮かぶ…。

 

 

売店のおばさん「あら霞ちゃんがここに来るなんて珍しいわねぇ」

 

「ご無沙汰です」

 

俺はおばさんの言葉にメロンパンと牛乳を渡しながら応える。

 

あの後普通に午前の授業を受け、昼休憩の時間になったのだが、朝いろいろありすぎて忘れてたけど俺の昼飯は明日葉が持っていってる事実に気づき今に至る。

 

まあたまにはいいだろ。俺はおばさんにメロンパンと牛乳代の220円を渡す。

 

「はいまいど」

 

買ったものを袋に入れてもらい、教室へと向かうため廊下を歩いていると、後ろから「あれ?お兄じゃん」と明日葉の声が聞こえた。

 

振り返ると明日葉とその友達であろう女子生徒が二人でこちらに歩いてくる。

 

明日葉の手を見ると俺の弁当袋が握られていた。おそらく校庭で友達とお昼を取っていたのだろう。

 

「「こんにちは〜」」

 

明日葉と一緒にいた女子生徒達が俺に挨拶をしてくる。俺はその返しとして軽く会釈をした。

 

「売店でなんか買ったの?」

 

ずいっと俺に近づいてきた明日葉は俺の手に持っている袋をひったくり中身を確認する。

 

「昼飯用にメロンパンと牛乳をね」

 

「おお!ちょうどお腹すいてたんだよねぇ」

 

そう言い明日葉はメロンパンの袋を開け、そのまま口に運ぶ。

 

あの、さっきまでお兄ちゃんのお弁当食べてたんじゃないの?成長期って恐ろしい!

 

「ちょっと明日葉ちゃん?廊下でパンを食べちゃだめでしょ」

 

「じゃなくてそれお兄ちゃんのお昼ご飯なんだけど」

 

俺が返すように催促すると明日葉は食べるのをやめ、何言ってるの?と言わんばかりの顔をする。

 

「お兄のものは私のものでしょ?」

 

なにそのジャイヤニズム?

 

俺は呆れた顔をしながら明日葉が持っている俺の弁当袋を指差す。

 

「それお兄ちゃんのお弁当だよね?メロンパンまで食べられるとお兄ちゃんお腹空いちゃって力がでなくなっちゃうから」

 

明日葉は手をポンっと叩き、俺の弁当袋を返してくる。俺は渡されるがままに受けとった。

 

「じゃあ返すね」

 

軽いんですけど!?明らかにもう全部食べちゃったあとなんですけど!?

 

俺が納得いかない顔で明日葉を見ていると、明日葉も折れたのかメロンパンを差し出してくる。

 

俺が安堵の息をつくと同時に明日葉はメロンパンを無理やり口に突っ込んできた。

 

「ほら早くたべて」

 

俺は明日葉に言われ、突っ込まれたままメロンパンを一口かじる。

 

一口かじったのを見ると明日葉はメロンパンを自分の口に運んだ。

 

「おにぃもうお腹一杯だよね?残すのは勿体無いから優しい私が食べてあげる」

 

そう言って美味しそうにメロンパンにかじりつく明日葉の顔を見せられ、俺はメロンパンを諦めるしかなかった。

 

「はぁ〜まあいいか、せめて廊下で食べるのはやめてね?みっともないから」

 

俺は未だメロンパンを食べ続ける明日葉の頭をポンポンと叩いてから、仕方なくその場を去った。

 

「さすが噂のシスコンお兄さん…」

 

その様子を見ていた明日葉の友達がボソッと漏らした声が俺の耳まで届く。

 

あのちょっと?いつの間に一年生にまで噂されるレベルになったの?

 

ん?俺はふと自分の手に何もないことに気付く。そう言えば牛乳も取り返すの忘れてたわ…。

 

後ろを振り返るがそこに明日葉たちの姿はすでになく、「まあいいか」と俺はまた売店へ向かうのだった。

 

 

売店のところまで戻ってきた俺は商品が置いてある棚を確認する。売店の商品はほとんど売り切れていたが、まだサンドイッチ一つだけ残っていた。

 

「ギリギリセーフか」

 

俺がサンドイッチを手に取ると同時に、誰かとの手が俺の手に触れる。いつの間に近くに来ていたんだ?全然気づかなかったぞ。やはり腹がへっては戦はできぬ。

 

「あっ、すみません!」

 

相手の女子生徒が頭を下げる。別に謝らんでも…。どうやら彼女もこのサンドイッチが目当てだったみたいだ。っていうかこいつ。

 

「誰かと思ったら蓮華か」

 

自分の名前を呼ばれて「ん?」っと頭を下げていた女子生徒は顔を上げる。

 

「あっ、なんだ霞君かぁ」

 

「えへへ」と笑う蓮華はなぜか笑顔だ。どこぞの金髪娘を彷彿とさせるな。

 

蓮華は俺たちと同じく3年生である。クラスはDランククラス。彼女はいわゆる女子に嫌われる系の女子であり、そのことでいろいろ苦労している。

 

「飯まだなのか?」

 

時間的にはもう結構いい時間だ。俺は基本昼休憩に入ると少し仮眠を取ってから動き出すため昼飯の時間は少し遅い。

 

「ああ、うん」

 

彼女は一瞬目線を逸らしたが、すぐに何事もなかったかのように「あはは」と笑う。また何かあったのだろうか?

 

「ほれ」

 

俺はサンドイッチを彼女に渡す。俺も腹はへっているが、なんというか心苦しいです。

 

「え?でも霞君もまだなんでしょ?」

 

俺はメロンパン食ったしなぁ。まあ一口なんですけど…。

 

「いいから気にすんな、腹減った時用に予備として買っとこうと思っただけだ」

 

それを聞くと蓮華はサンドイッチを大事そうに抱える。それまだ買ってないからね?ちゃんとレジに持っていってね?

 

「やっぱり霞君は優しいね」

 

いやいや誰でもそうするだろう。詳しい事情はわからないが。

 

蓮華が売店のおばさんのところにサンドイッチを持っていったのを見届けると、俺は教室へ歩き始めた。

 

しかし売店から少し歩いたところで蓮華に呼び止められ足を止めると、こちらに彼女が走ってくる。

 

「おい、危ないから廊下は走るな」

 

俺が注意すると、蓮華は少し笑いながら。

 

「なんか霞くん風紀委員みたいだね!」

 

風紀委員なんだよなぁ…。俺は呆れながら彼女を見ていると、蓮華は俺の制服の裾をつまんでくる。

 

「サンドイッチ一緒に食べようよ」

 

さすが蓮華さんあざとい!俺の返事を聞く前に彼女は俺を食事スペースの机まで引っ張っていく。

 

席に着くと、俺はおもむろに財布を取り出し、サンドイッチの代金を蓮華に渡す。

 

「そんないいよぉ」

 

彼女は返そうとしてくるが、「必要以上の借りは作らない主義なんだよ」っと俺は返金を拒否する。

 

蓮華は諦めたのか「もう…」とお金を財布の中にしまった。

 

その後、俺は蓮華から渡されたサンドイッチを食べながら、彼女の他愛ない話に付き合う。

 

食べながらと言っても、サンドイッチは各一枚しかないのですぐに食べ終わってしまったのだが。

 

「霞君は最近どう?」

 

「どうも何も、別に普通だな」

 

俺は先ほど自動販売機で買ったコーヒーを口に運ぶ。蓮華は「霞君は相変わらずだね」と笑いかけてくる。

 

「蓮華の方こそどうなんだ?まだ続いてんのか?」

 

続いてる。というのは彼女に対する嫌がらせについてである。蓮華は男に好かれやすい性格をしているが、その分女に嫌われる系の性格をしている。

 

蓮華の顔を見ると、気まずそうな表情をしている。こんなところでする話でもなかったな。

 

「悪い、変なこと聞いて」

 

「い、いや別に霞君が謝ることないよぉ」

 

蓮華は顔の前で両手を左右に振る。その勢いで右手に持っていたサンドイッチが手からすり抜け、勢いよく空を飛んでいった。

 

そのサンドイッチは道歩いていた女子生徒にぶつかり地面に落ちる。なんというミラクル。

 

「サンドイッチ?誰だこんな舐めたことするやつは?」

 

サンドイッチをぶつけられた女子生徒は声を上げ、地面に落ちていたサンドイッチを踏みつける。

 

俺は「はわわ」とおどおどしながら謝りに行こうと立ち上がる蓮華の腕を掴む。

 

「お前が行くとややこしくなるからじっとしてろ」

 

俺は蓮華の腕を離すと、女子生徒の方へ歩いていく。女子生徒の方も俺が近づいてくるのに気付いたのか俺の方を睨みつけてくる。

 

俺が立ち止まると、女子生徒も体の体制をまっすぐ俺の方に向ける。

 

「お前か…、一体の下のこれはなんのつもりだ?」

 

女子生徒はサンドイッチをふみにじりながら質問をしてくる。

 

「別にお前を目掛けて飛ばしたんじゃねぇんだ、ちょっとした事故みたいなもんでな、悪かった」

 

「信じられるか、それに謝ればなんでも許してもらえるわけじゃねぇんだよ」

 

どうやら女子生徒の方は納得がいってないらしい。悪いのは10割こっちだし言い返すこともできん。

 

「じゃあどうすれば許してくれるんだ?」

 

俺が聞くと女子生徒は腕を鳴らしながらニヤリと笑う。まじこえーよ。

 

「そうだな、じゃあ一発本気で殴らせろ」

 

サンドイッチぶつけられただけでキレすぎじゃない?まあ一発でよかったと考えるべきか?

 

「それで気がすむんならさっさと殴れ」

 

俺はポッケに手を突っ込んだ体制のまま次の女子生徒の行動を待つ。

 

「いい度胸じゃねえか、避けんじゃねぇぞ」

 

女子生徒が構えると同時に蓮華が立ち上がるのが目に映る。

 

じっとしてろって言っといたのによ。

 

しかしもうすでに時は遅し、女子生徒の拳は俺の眼の前まで来ていた。

 

俺は正面からそれを受ける。っはずだったのだが、女子生徒の拳は俺の顔の眼の前で寸止めされていた。

 

「全くうごかねぇなんて、たいした度胸だな」

 

彼女は拳を引っ込め、嬉しそうな目をしながら口元を笑わせる。

 

「お前のその度胸に免じて今回は見逃してやる」

 

なんかよくわからんが殴られんで済んだらしい。

 

「そりゃたすか…」

 

俺がそこまで言いかけたところで、「だめぇー」と叫びながら思いっきり蓮華がぶつかってきた。

 

な、なぜ俺に?

 

俺は受け身も取れずそのままぶっ倒れる。

 

「霞君が痛い目に会うくらいなら私!」

 

「おい、そいつ気失ってね?」

 

俺は女子生徒の拳ではなく蓮華のタックルによって気を失ったのだった。

 




なんか女しか出てきませんね。次の次あたりは男たちを絡ませたいです。
こんな感じで進めていきます。ついてこれる方だけついてこい精神でいきますのでよろしくお願いします。

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