とある一族の落ちこぼれ   作:勿忘草

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第5宇宙と第8宇宙の戦いです。
2話ほど行こうと思いましたが1話にまとめました。
次回は原作の破壊神トッポを出す予定です。
そう言えば、今週のジレンが饒舌でしたね。


『女王の言葉』

ふわりと軽い足取りで武舞台に上がるイエラ。

その姿は第9宇宙の女王で野性味あふれるモギとは違った女王の姿。

相手はその所作に小さなため息をついていた。

見とれているような系統の溜息だった。

 

「貴方、速く来なさい……」

 

見とれている視線をものともせず言葉を発するイエラ。

すると相手は言う事を聞いているかのように歩み寄る。

まるで催眠術にかかっているように目は宙をさまよっている。

 

「催眠術ではない……」

 

全員が効いているわけでもない。

おおよそ心を無防備に晒してしまったが故。

俺達は無防備に晒してはいない。

しかしそれでも途轍もない体の緩みがあった。

 

「あの秘密は何かを知らない限り相手は勝てない」

 

そう言っている間に戦いが始まる。

メタルマン特有の体の丈夫さをそのままに。

速度と精神の強靭さ。

それに対するは華奢な女性戦士。

戦いは図らずもカウンター型と攻撃型の様相を見せ始めていた。

 

.

.

 

「フッ!!」

 

拳を突き出すが軽やかなステップで避けられる。

そしてそのステップで付いた勢いのまま回転蹴り。

攻防一体の動作でこちらにペースを握らせない。

 

「ヌン!!」

 

蹴りを防いで懐に潜り込む。

しかし低く沈み込んでいたのか。

胸が付くほど、地を這うように体を伏せていた。

そして腕力で跳ね上がってくる。

 

「グオッ!!」

 

顎に頭突きをモロに喰らう。

たたらを踏んで後退するこちらに追撃の飛び蹴りが来る。

防ぐ術はなく、そのまま顔面にめり込んでいく。

 

「グフゥ!!」

 

こちらの攻撃を回避してからの反撃が異様に速い。

一撃を当てようとすればその先の攻防で二撃喰らう。

しかも回避されたうえでの話。

差し引きしても相手に得がある。

 

「今の攻撃を受けてもまだ戦えますか?」

 

そう言って俺を見下ろすイエラという女。

一体誰に向かって言っている。

俺は挫けぬ男だ。

お前がその細腕で、俺の顔を何度打ち据えても俺は立ち上がる。

 

「当然やれるさ」

 

そう言って構える。

しかし次の瞬間、イエラがあの言葉を紡ぐ。

その言葉を聞くまいと耳を塞ぐ事もできない。

何故ならば無防備な所を曝け出すからだ。

 

「『来なさい』」

 

その言葉を聞くと足を進めて間合いを詰めようとする。

心で念じて抗うが、その間に相手の間合いに既に入り込んでいる。

厳密に言うと両者接近のため詰めて、詰められているということなのだが。

 

「くっ!!」

 

ガードを固めていく。

想像以上の勢いがある攻撃。

カウンターに頼らずとも強い。

そして次の神託にも似た言葉が耳を打った。

 

「『解きなさい』」

 

ガードが下がっていく。

力が入らない。

意志を強く持って舌を噛む。

しかしそれでも力が入らない。

摩訶不思議な状態が続いていた。

 

.

.

 

「最初に聞こえた時の感覚……あれが『安らぎ』ならば種が割れた」

 

言葉にそう言った力が宿っている事がある。

それを第7宇宙では言霊と呼ぶ。

だが、もう一つ安らぎを与えるのであれば、ある一つの言葉がある。

 

「『Fぶんの1ゆらぎ』ね……」

 

ピオーネがそう言ってきたので俺は頷く。

ヒーリング・ミュージックの効能としての総称。

蛍の光や小川のせせらぎの音に現れるもの。

人の声にもその力がある場合が存在する。

それを途轍もなく強力にしたもの。

 

聞くだけで安らぎを与えて力が入らなくなる。

そしてそのリラックス状態から従いたくなる女王としてのカリスマ性を持った言葉がかけられる。

その結果、イエラの言う事を聞くようにふらふらと動いてしまう。

さながら誘蛾灯に群がろうとする蛾のように。

蜜が溢れる花に吸い付く蜂のように。

 

「百戦錬磨であろう相手の精神でさえ抵抗が難しいとは……」

 

実力差が関係するのかもしれない。

そうだとしたらあまり差がない事も原因の一つ。

ジレンや俺ならばまだ抵抗可能なのかもしれない。

 

「これじゃあイエラの勝ちは決まったも同然……」

 

場外の20カウントは抵抗なりして難しいだろう。

しかしそれならば無理にこだわらず気絶させればいい。

その為に相手を無抵抗で殴って蹴り続ければ問題はない。

 

「こんなどうしようもない能力の持ち主だったとは……」

 

声の質によるとてつもない力。

そんなものを持ち合わせているが故の女王。

カリスマと安らぎ。

民にとってはこれ以上ない象徴。

 

「申し訳ないがアレキサはここで落ちる」

 

勝てるような要素が見えない。

精神的な抵抗に割けば体の対応が遅れる。

防御に引き続き専念してもあの言葉にやられる。

 

「八方塞がり……」

 

そう言って俺は次の試合のカードを思い浮かべていた。

願わくば早く自分の出番が来ることを。

強者の気に当てられて心が高ぶってくる。

 

「この程度か……」

 

去っていく間に落胆したジレンの言葉が聞こえる。

そこには僅かに苛立ちさえ感じさせる。

自分の出番はなく、本気を出せるほどの相手が出てこないという不安。

 

「次の試合も見る価値があればいいけどな」

 

俺よりも速く戻っていった。

俺もまた、ストレッチをするために控室へと戻る。

去っていく途中で歓声もあったが聞く耳持たず入っていった。

 

.

.

 

「くぅ!!」

 

ガードを下げさせられる。

強制力が凄まじい。

どうしてもこの言葉には無力な己を見せられる。

 

「こうなれば……」

 

ガードが下がるのならば皮膚を硬化させる。

そうすれば問題なくこの攻撃を凌げる。

息を吸い込み、硬度を引き上げる。

 

「その手は無駄な真似です」

 

その囁きとともに俺の首に足を巻きつかせる。

そして絞めあげてきた。

頸動脈を的確に絞められていく。

 

「硬度を上げて絞めつけられても大丈夫なようですが……」

 

声を遮る手段はもうありませんよ。

そう言ってこっちに攻撃を仕掛けてきた。

首を絞めた状態から投げられる。

 

「む……」

 

ぎしりと音を立てて絞めつけが強くなる。

そして言葉が紡がれる。

外そうと両手を使えば無防備に受ける。

耳をふさいで防いでいく。

 

「まさか貴方……」

 

自分にばかり使うと思って?

そう言うと首の宝石の肌が砕けそうになる。

先ほどまでとは違うその力強さ。

 

「安らぎによるリラックスで一時的に緩めた後にインパクトによる圧力強化」

 

緩んで戻った所にさらに力を上乗せされたのか。

耳を塞いだことで対応が僅かに遅れてしまう。

千載一遇の機会が逃れてしまった。

その逸した機会は俺にとっての打開の扉に対するノック。

そして二回目のノックはない。

 

「このまま私の足の中で眠りなさい」

 

そう言って徐々に砕けそうだった宝石の肌が普段に戻っていく。

こうなればもはや賭けるしかあるまい。

どうとでもするがいい。

最後に笑うのはこの俺だ。

 

.

.

 

「さて……聞き分けが良いのは助かります」

 

徐々に素肌へと戻っていく。

そして力を抜いている。

このまま絞め落としてしまえば勝ち。

 

「声だけが全てじゃないのよ」

 

少なくても初めの時にはカウンターを使っていた。

ラッシュも放っていたのは実力。

あくまで必中の一撃に仕立て上げる魔法。

それが私の声『芳香の囀り(パフューム・サラウンド)

 

「貴方が絞め落とされてから、最後の仕上げをしてあげましょう」

 

勝者の言葉を受けるまでは油断は致しません。。

絞め落とされた後でも追撃は止める気はさらさらないという事です。

今、現在も全く力を緩める気はありません。

蛇のように絡みつかせてそのまま外しませんから。

 

「……」

 

数十秒も経った時。

相手の反応は無くなっていて技を解く。

後ろを向いて大神官様に呼び掛けようとした次の瞬間……

 

「ウェエアアッ!!」

 

アレキサが攻撃を仕掛けてきた。

どうやら気絶した後に、本能のままに戦ってこっちの声を封じようと考えたわけですわね。

しかし、それには大きな誤算があります。

それは……

 

「『傅きなさい』」

 

突っ込んできていたアレキサが前のめりとなりこけそうな形となる。

しかし態勢を整えて私の前に座る。

片膝を立てて、まるで騎士がお姫様の手を取るように。

 

「この状態の方が遥かに声が聞かせられるわよ」

 

理性があって抗えたのに。

それを失ってしまったからこそ、全ての言葉が無条件で効いてしまう。

それこそ『自分から死を選べ』といった悍ましい言葉でも。

 

「こんな状態で戦っても面白くはありません、まるで人形遊びですので」

 

そのままその頭に向かって踏みつけるように武舞台へ叩きつける。

鼻骨や他の骨が砕ける音が聞こえる。

きっとその拍子に血も流れたかしら?

 

「獣を従わせるなんて……」

 

児戯にも等しい事。

きっと本能だけならば聞いていないから効かないと思ったのでしょう。

浅はかな判断だというほかない。

もっと抵抗してくれた方がこちらとしても、貴方を見る事が出来たのに。

 

「……」

 

完全に動きが止まったアレキサ。

それを見た大神官様が私を勝者として勝ち名乗りをあげる。

その瞬間、向こうから射抜くような視線が来ていた。

睨み殺すようなほどの強烈なもの。

 

「貴方との戦いはこちらも楽しみですわ」

 

指で銃の形を作り、引き金を引く。

その仕草を見ていたのでしょう。

バーダック選手が笑みを浮かべていた。

 

.

.

 

「それでは第3試合のカードの発表をいたします」

 

そう言って大神官様が表を見せる。

そして灯ってまず一人目の選手の名前が浮かび上がる。

その名前は……

 

「まずは一人目は第11宇宙代表:トッポさん」

 

トッポが呼ばれる。

あいつも並々ならぬ決意で臨むつもりだな。

俺も今呼ばれないだろうか。

速く戦いたいんだけどな。

 

「そして二人目は……」

 

灯り始める。

そしてその浮かび上がる名前。

それは一瞬でこちらにトッポの不運を伝えるには十分だった。

 

「第1宇宙代表:ルタさん」

 

のそりと動く。

そしてそのままトッポの方を向いて握手をしようとする。

しかしトッポは……

 

「そんな紳士的な心なんぞ捨てろ!!」

 

弾いて応じなかった。

そのまま手のひらを見つめるルタ。

そしてその次の瞬間……

 

「ふふふ……」

 

体を凍り付かせるような重圧。

恐怖心が煽られていく。

余計に自分の立場をトッポは悪くしてしまった。

 

「ただ、トッポの奴……」

 

雰囲気が変わっている。

昨日までは正義を謳っていた男。

しかしあの戦いで心変わりをしたのだろう。

振る舞いから180度変わっている。

 

「良い方向に流れればいいがな」

 

武舞台へ先に入っていたトッポの背中を見ながら俺は呟くのだった。




イエラの奴が特殊能力みたいですが、そこは実力とかその相手の集中力などで、効きにくくなります。
耳を防げば回避可能とありますが、もっと単純にイエラ以上の大声でかき消すとかあります。
次回は超サイヤ人3並みのピッコロさんの腕を無造作に千切ったルタと破壊神候補トッポの対決です。

何かご指摘有りましたらお願いします。

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