とある一族の落ちこぼれ   作:勿忘草

125 / 133
あっさりとした形の決着にしました。
次回はジレンの戦いを描いていこうと思います。
正直バーダックとガタバル以外にも、ヒットとジレンなんて相手が気の毒なカードです。


『抑えられず、堪えきれず』

「私が初めて見る世界……」

 

銀色に輝く髪。

オーラが神のそれを凌駕している。

あの強さに自分はなれるだろうか?

そう思った次の瞬間、否定する。

 

「あの子に勝っていなければ……」

 

自分があの状態になっていた。

つまり、自分があの子に勝っていった歴史が生んだ奇跡。

だったらその思いのたけ、全てをぶつける眼差しに向かうだけ。

 

「はっ!!」

 

拳を振るがその前に掴まれる。

さらにそれを引き寄せて膝を叩き込まれる。

受けると体が浮き上がる。

先ほどに比べて重さが段違いだ。

その一撃だけで並の相手ならばうち倒せる。

 

「……」

 

無言でこちらを抱え上げる。

そしてボディスラムで叩きつける。

しかし、そう簡単に許しはしない。

 

「ぬっ!!」

 

武舞台に手をついて着地。

相手の方を向く。

だが相手はすでに視界から消えている。

真後ろから肘を背中に叩き込まれた。

 

「うあっ……」

 

動きも変わっている。

こちらの死角への侵入。

それがあまりにも滑らかでまるで目で追いきれない軌道を描く。

 

「くっ!!」

 

手刀の一撃を逸らされる。

そしてそのまま投げられる。

カウンター合戦になるのだから不用意な攻撃は厳禁。

分かってはいたけれど仕掛けてしまった。

 

「うっ……」

 

腹部への一撃。

内臓を揺さぶられるような衝撃。

そしてその追撃の蹴りを喰らう。

体の中心部で爆発したようなそんな重い一撃だった。

 

武舞台から飛び出てしまう。

息を整えるけれど、手にじわりと汗をかいている。

この状況、どうしたものかしら……

 

.

.

 

「ああも一方的になるだなんて……」

 

僕は驚いていた。

破壊神様たちも全員が立ってみている。

ベジータさんも目を皿のようにしてじっくりと見ていた。

 

「あれが極められたものか……俺様でもおいそれとはいかん次元だな」

 

今の心を持ったまま、強く己を通すプライドではないもの。

不純物ととらえて一度心から取り払い、ただ一つ己の思いを芯にする。

それが今の自分にはとても難しい事のように思えた。

それらすべてを抱えたうえで、その次元に至れないか?

奴は抱え込んであの次元に居たり、今覚醒を果たした。

おおよそ『兆』ともいえる部分までは今のままでも至れる。

もしくは別の道。

それはブルーを極める事、そして奴が見せる超サイヤ人4への分岐。

今の力で原点回帰をすれば神の力にさらに大猿の時の力が備わるのではないだろうか?

 

「まあ、今はよく観察するか…」

 

そう言って思案をやめて、再び武舞台に視線を移した。

僕もあの状態になれるのか、少しの疑問を抱きながらこの戦いの決着を見届ける。

 

「だが、ピオーネにはあの特殊な力があるはずだ……」

 

天津飯さんがそう言うと、クリリンさんやヤムチャさんも驚いている。

不用意にその力を使っても再逆転を許すのではないかと。

だがそんな疑問はビルス様が断ち切ってくださった。

 

「できはしない事だ」

 

どうやら今のピオーネさんの特殊な力でも『身勝手の極意』は学習できない。

強さがその次元に至ってもできない。

それだけではなくもう一つの理由。

 

「少なくとも奴を創造した破壊神の強さを超えているからな」

 

ついに底を見せたピオーネさんの強さ。

と言っても破壊神の次元まで上げて行けたなんて、あの人もやはり規格外の存在だ。

ビルス様の説明としては、そいつも僕より若干上か同等。

それは裏を返せば僕より強くなってしまったということだ。

そう伝えてくださったけれども、それはガタバルさんが神を凌駕したことの証明。

凄い事をやってのけているのだ。

 

「そんな事が……」

 

そしてガタバルさんの方を見て笑みを浮かべていく。

自分が手塩にかけて育てた弟子ともいえる存在が今の自分を凌駕する事実に、喜びを隠しきれてはいない。

 

「全くなんて奴だ……」

 

普段から使えたら最高の獲物になったのに。

残念以外の言葉が見つからないよ。

そう言ってため息をついていた。

 

.

.

 

「はあはあっ……」

 

息が切れていく。

攻撃は全て紙一重でかわされる。

さらに大振りだったら強烈なカウンター。

 

攻撃が当たらないことがこれほど、心にのしかかるとは。

瞬間移動でも範囲外に出られない。

それを先読みして回り込まれる。

 

「シャッ!!」

 

フェイントを交えてもまるで効果なし。

真実が見えているというように腕を掴まれて蹴り上げられる。

上空に舞い上がってしまったという事はあの技が出てくる。

 

「……」

 

灼熱の鳥が迫りくる。

その嘴の中に手を突っ込み、渾身の力で引き裂く。

手が焼けるがこの一撃をかき消す。

 

「ここで決めて見せる……」

 

 

技の後のこの隙を逃してはいけない。

私も最大の技をお見舞いする。

これが通用しなければ……

 

「『エレクトリック・パレード』!!」

 

雷撃が包み込む。

バチバチと音を立てて、雷が焦がそうと襲い掛かる。

けたたましい音を立てていく。

この技は通用したのかと一瞬考える。

しかし次の瞬間……

 

「なんてこと…」

 

まるでそれを逆に呑み込みきったかのように体から雷を漂わせていた。

喰らってはいたけれど全てを奪われてしまってはもう成す術はない。

ああ……

 

「私の負けなのね」

 

最後のお願いとも言うべき一撃。

それすらも通用しないのならば納得する。

初めて芽生える想い。

 

「もっと強くなりたい」

 

今までは自分の内側にある枷が外れて強くなっていた感覚。

努力も当然あったうえでの話。

でも、そこに目標となるものがなかった。

あの子を超えることを目標にして次の一歩を踏み出そう。

 

「……」

 

無言のラッシュ。

しかしこの技を私は知っている。

一撃一撃に魂を込める技。

腹部に一撃。

顔面に一撃。

回避しているのに、吸い込まれるように攻撃を当てられる。

不完全な『身勝手の極意』では完成形には叶わない。

それを端的に表している。

 

「悔しいってこんな気持ちだったのね」

 

腹部に気弾の一撃を喰らって場外に吹き飛ばされる。

最早戦闘するための体力もない。

完全に削られた。

倒れていた方がよかった。

しかしこの足で武舞台まで戻らないといけない。

解除した後にあの言葉を言ってあげないと……

 

「……」

 

構えずにただ私の接近を許す。

きっと私の状態を見て追撃の必要はないとなっているのね

 

「強くなったわ……」

 

そう言って頭に手を置く。

その言葉がトリガーのように『身勝手の極意』が解ける。

私を見て引き締めるような顔に変わる。

ただ、必死にこらえている。

 

「よくここまで……本当に貴方は強くなった」

 

祝福するように抱きしめる。

そして私は緩やかに倒れ込んでいった。

 

.

.

 

俺は『身勝手の極意』が解けた時、今まで最も聞きたかった言葉が聞こえた。

ようやくそれを言わせられたのだと深い感動に包まれる。

こみ上げるものを必死に止めていた。

 

「うっうう……」

 

どんな時もそうしないと決めていた。

戦いの途中で雄たけびや感情の爆発があっても。

戦いの後でそう言った真似はしないようにと思ってきた。

相手の心に深い傷を与えてしまう。

慮る心から決めていた。

 

そんな俺を優しく抱き留める腕。

温もりが。

そして再び聞こえる賞賛の声が。

それが染み渡った時、もはや堪えきれなかった。

 

「おぉぉぉ……」

 

嗚咽が漏れる。

そしてダムが決壊した。

決して……そう、決して……

 

「うおおああああ……!!」

 

泣かないと決めていた。

でも止められなかった。

人目をはばかる事をしないでただひたすら武舞台の真ん中で泣いていた。

 

.

.

 

「あんなにも泣くような事なのか」

 

キテラがそんな事を言う。

やかましい、全王様に消してもらうぞ。

そう思った瞬間、シャンパがキテラを諫める。

お前、なんだかんだであいつに若干甘くないか?

ま、感動系の話とかそう言うのにもともと弱い節あったけど。

 

「あいつはビルスとの対抗戦で見てきたが、涙など微塵も見せはしないような男だ」

 

まあ、僕もあいつが泣いたところなんて今回と未来から帰ってきた時ぐらいか?

あの時は血涙とも言うべき状態だったが。

あいつにとってはきっと僕に勝つことより、憧れた男に勝つことより、ジレンに勝つことよりも。

 

「喜ばしい事だろう」

 

だから泣いたのだ。

およそ数年単位ではない、数十年の単位で叶った願い。

己が手でつかみ取ったもの。

今はその余韻に浸らせてやろう。

 

「余は見ていて美しいと思う」

 

へレスもその姿に嫌悪感を抱かない。

むしろ手を叩き賞賛している。

そしてジーンもにやりと笑っていた。

 

「あの時からよくぞここまで……」

 

残念ではあるがと言っていた。

おまえも伸びしろを感じていたからな。

ただ、今まで通りに頑張っていたからこそ、この奇跡があった。

 

「第7宇宙の切り札……噂に違わない」

 

リキールも顎に手を当てて考え込んでいる。

お前の宇宙代表でもかなうかどうか危ういだろう。

声でどうこうできるタマじゃないぞ。

 

「あの腕力を常に発揮されればメタルマンの皮膚など紙細工に等しいだろうな」

 

絶望的な表情を浮かべるアラク。

限定的にしか使えないというのをあいつらは知らない。

せいぜい驚いて慄くがいい。

 

「ルタを呼んで正解であったか」

 

イワンも己の判断に間違いはなかったと合点がいく。

生半可な相手を用意せずに警戒心むき出しで居てくれるのは、自分の発掘力を褒められている感じがして気分がいい。

 

「僕がやったことと言えば少し触れたぐらいだがな」

 

しかも予言魚の言葉に従う形で。

その後に出会ってから、奴は常に僕の願いを聞いたり界王神の所に行って話を聞いて危機に備えている。

どこまでも優秀だった。

ただ、サイヤ人のくせに凶暴性がない事が少し不安というより気がかりでもある。

 

「今はしかしそれはどうでもいい」

 

次の試合のため、あいつが立ち上がり愛しいものに肩を貸して去っていく。

全員が拍手でその姿を見送る。

ちなみにキテラの処分は不問となり、あいつにしては珍しく大きく安堵の息を吐いていた。




短くなりましたが決着回です。
ついに数十年にわたる悲願達成。
しかし満身創痍で次の試合とかいう、実質第7宇宙がギリギリになりました。
キテラ様の邪魔がめっちゃ効いてます。

指摘などありましたらお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。